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◆uBR/FPYc6Y
レズ声優出張所Part14

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レズ声優出張所Part14
169 : ◆uBR/FPYc6Y [sage]:2011/04/03(日) 03:24:25.64 ID:ojbNrOPB
流れを読まずに投下
サトリナ×新井さとみん、新井さん視点
>>154-163のつづき
レズ声優出張所Part14
170 : ◆uBR/FPYc6Y [sage]:2011/04/03(日) 03:24:47.42 ID:ojbNrOPB




ただ、あなたのたった一言で、世界が、変わる。




***


アフレコ終わりの休憩スペース。
大きな窓の前におかれた白いテーブルと何脚かの椅子が日の光に照らされてキラキラしてた。
この場所には帰り支度をしてる人、スタッフさんたちと雑談に興じてる人、お昼ご飯を食べてる人様々だった。
私もその中の一人で、白い椅子に腰掛けて帰り支度をしていた。

午前中のこのお仕事で今日はもう上がりだったから、ランチでも行こうかなぁ、なんてぼんやり思ってたら、すとん、と隣に人の気配。
何の気なしにそちらを向くと、ここ数日私の頭を悩ませて止まないりなっちの姿があって。
胸の奥がびくりとするのを自覚する。

「お疲れさまー」

けれど、にこにこ笑顔の優しい声音に、思わずにへらと笑ってしまう。
彼女の笑顔は非常に感染力が高い。こんな複雑な心境の私も、頬が緩まずにはいられないもの。

数日前の夜。
りなっちの家での二人きりの飲み会で、彼女の行動に驚いて不自然に逃げてしまってから、今日が初めての顔合わせだった。
彼女に不審に思われてないか心配だったけれど、特にそれについて言及されず、いつも通りに仕事も終えた。

それは、つまりやっぱり“あれ”は私の意識しすぎで。
あの夜の行動は彼女にとってただのスキンシップだったって事で。
それが判明して、胸を撫で下ろしたのだけれど、それと同時に、少しだけ残念に思ってしまったのも、また事実だった。

―――もしかしたら。
もしかしたら、彼女も同じ気持ちなんじゃないか、なんて考えてしまっていたから。
今までの彼女との付き合いから、その可能性は限りなく零に等しいって分かってるくせに。

手にしていたペットボトルをくるりと回す。
重力に従って、半分くらい入っていた中身もゆっくり波打った。

分かっていた事だから、今更傷ついたりはしてないけど。
むしろ、今までの関係に変な傷が付かなくてよかったくらいだ。
でも、少しくらい虚無感に苛まれてしまうのも許してほしい。

レズ声優出張所Part14
171 : ◆uBR/FPYc6Y [sage]:2011/04/03(日) 03:25:09.70 ID:ojbNrOPB

「お疲れさま」

視線を微妙に外して応えたら、「今日も大変だったね」と優しい声。

「さとみん、やっぱ何か“降りて”きてるよね」
「えぇー」
「こう、動きも声もお芝居もさ、全部がなりきってたよ」

少しだけ弾んだ声の彼女。
その楽しげな声が向けられているのが自分だというだけでも嬉しいのに、私のお芝居まで褒めてくれて。
胸の中に蟠ってた虚無感が薄らいでいくのを感じる。
彼女のきっと意識なんてしていないような言葉だけで、気持ちが上向くなんて、我ながら単純だ。
同時に、それくらいで浮かれてしまうくらい隣の彼女の事が好きなのだと、再確認してしまう。

「私好きだなぁ。さとみんのお芝居」
「……なによぅ、りなっち。そんなに褒めてもなーんにもでませんよー」

何だか妙に照れくさくてちゃかしたら、楽しげな笑い声が耳に届く。
きっと私の大好きなふにゃふにゃ笑顔で笑ってるんだろうな、と思いながら、照れた気持ちを紛らわそうと手元のペットボトルをぐりぐりと弄った。

「でもさ、本当だよ。初めて会った時から、ずっと思ってるもん」

続いた笑みを含んだ優しい声。
すごくすごく嬉しけど、その何倍もくすぐったくなって、益々ペットボトル弄りを止められなくなった。
なんとか「ありがと」と小さく呟く事に成功して、ペットボトルの中でゆらゆら波打つ緑茶に視線を落とす。

りなっちの含んだような笑い声を最後に、私たちの間に沈黙が横たわる。
短くない付き合いから、それほど苦でもなくて。それは多分りなっちも。
無理に話題を作ろうとは思わず、ぼんやりとペットボトルを見つめてた。
そうしてるうちに、何人かのスタッフや共演者が挨拶をして休憩スペースを去って行った。
それに、挨拶を返したりしながら、大きな窓から降り注ぐ太陽の光のぽかぽかがとても気持ちが良いな、なんて思う。

ふと気付くと休憩スペースには二人だけになっていて、だけど、落ち着く時間だった。
彼女の笑顔も声も姿も、心も、私は皆好きだけれど、何よりも、こんな風に一緒にいてとても落ち着く、その雰囲気が大好きだった。
彼女の穏やかな優しい波長が、マイペースな私にはとても心地良かったから。

するり、と横から衣擦れの音。
ペットボトルをくるり、と回す。若草色の液体が、太陽の光を反射してきらりとした。




「好きだよ」




まるで何でもない事のように、私の芝居を好きだと言ったような声音で、その言葉は私の鼓膜を刺激した。
あまりにもいつもと変わらない声だったから、一瞬、何を言われたのか分からなかった。

レズ声優出張所Part14
172 : ◆uBR/FPYc6Y [sage]:2011/04/03(日) 03:25:50.57 ID:ojbNrOPB

何度か頭の中で反芻して、ようやく私は、その意味を理解して。

彼女の方へ、振り向いた。

こっちを見ていたりなっちと視線が交差する。
彼女は、いつもの笑顔を引っ込めてて、すごくすごく、真剣な顔をしていて。
まるで、マイク前に立って画面を見つめる時のように、まっすぐに私へ向けられる瞳に、今の言葉が、嘘やからかいから来る物じゃないと察する。

どくり、どくり、と心臓が走り出す。

言葉が出ない。
だって、それは、今の言葉は。
私が、ずっと彼女に対して持っていた感情と―――。

目の前のりなっちは、薄い唇をきゅっと噛んでから、ゆっくりゆっくり、動かし始めた。

「いつ、言ってくれるかな、って思ってたんだけどさ」

瞼を一瞬伏せて、ゆるりと持ち上げる。
黒目がちな瞳が私を心ごと射抜いてく。



「多分、さとみんと同じ意味で、私はさとみんが好きだよ」



それは、欲しかった言葉で。
だけど、諦めていた言葉で。

ぎゅう、と胸の奥が締め付けられるような感覚にかられる。
痛いくらいなのに、なぜだかすごくすごく甘くて、泣きたいくらい幸せな感覚だった。

「ば、ばれてた…の」

何を言えばいいのか分からなくて、零れ出たのはそんな言葉。
怖いくらいに真剣だったりなっちの顔が、瞬間、ほろりと崩れた。

「てたの。あれだけされたら、さすがに気付くよ」
「ええっ」
「差し入れとかも私だけ別だしさ、私の好きな物ばっかだし。あと、ずっと…まあ、色々だよ!」

最後は強引に切り上げて、りなっちはふにゃりと笑った。
りなっちに言われた事にはすごく心当たりがある。言えないからせめて、なんて思ってやっていた事だった。……のだけれど。そんなにあからさまだったのか。
頭の中に「あんたは分かり易いから」と苦笑いする友人達の顔が浮かんだ。

不意に、腕をそっと掴まれる感覚。
腕を見やると、りなっちの指。白くて細いそれは、小刻みに震えてて。
視線を上げれば、俯いたりなっちの旋毛が見えた。

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173 : ◆uBR/FPYc6Y [sage]:2011/04/03(日) 03:26:21.10 ID:ojbNrOPB

「どうしよ。大丈夫だと思ったんだけどな」

「すごい緊張してたみたい」と、こてん、と私の肩に落ちてきた彼女の額。
笑おうとして失敗したような弱々しい声音。
迷子の子供みたいなそれに、胸の奥が切なく鳴いた。
あれだけ悩んでたくせに、あんなにも諦めていたくせに、私の体は考えるより先に動いてた。

震える小さな背中に、そっと手を回す。

「さとみん、全然言ってくれないんだもん」
「うん」

華奢な背中。
掌でそっと撫でると、彼女の震えがより直接伝わってくる。
掌も肩も全部熱い。彼女と触れている場所が、熱い。

「飲み会の時も帰っちゃうし」
「ごめん」

ぎゅ、と肩に押し付けられる力が強くなる。
縮まる距離に、彼女の心臓の音まで聞こえてきそう。

弱々しく吐かれる言葉。
じわりじわりと泣きたくなるくらい暖かいものが私の心を満たしてく。
私は、ここにきてやっと、彼女の“好き”の意味を理解し始めていた。

彼女が私に向けてくれている感情が、本当の本当に、私と、同じなんだと。
触れれば心が高鳴って、声を聞くと嬉しくなって。
彼女の笑顔が在るだけで、ただ幸せになる。

―――それと同じだと。

どうしよう。
嬉しくて、涙が出そうだ。


「ごめんじゃ、ないよぅ」


半分泣いてるみたいな声で、吐き出された言葉に、泣きそうになるのをぐっとこらえる。
私は、そっと周りを見渡して誰もいない事を確認すると、背中に置いているだけだった手を伸ばし、ぎゅっと彼女を抱き締めた。

背中と同じくらい華奢な肩。
こんな風に腕を回せる事にまた泣きそうになる。
これ以上ないくらいにぴったりくっついて、そっとふわふわの髪を撫でた。

伝えたい言葉は、たった、一つ。




「私も、りなっちが好き」




言いたくて言いたくて、だけど決して伝えられないと思っていた言葉。
こんな風に伝えられる日がくるなんて思ってなかった言葉。

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174 : ◆uBR/FPYc6Y [sage]:2011/04/03(日) 03:26:49.75 ID:ojbNrOPB

きゅんと鳴く心。
熱くなる目頭に何とか抗って、もっとぎゅっとくっついた。

「……言わせちゃってごめん、ね」
「ほんと、だよぅ」

隠しようもなく泣いているだろう声音に苦笑して、髪の毛をゆっくりゆっくり撫で付けた。
泣きそうなくらい幸せなこの気持ちが、少しでも彼女に伝わればいいな、と思いながら。





あなたの、たった一言が、私の世界を変えるの。

泣きたいくらい、しあわせに。






おわり

お目汚し失礼しましたー


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