トップページ > レズ・百合萌え > 2011年03月05日 > mXN5RLYQ

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名無しさん@秘密の花園
Sound Horizonで百合 第二の地平線

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Sound Horizonで百合 第二の地平線
120 :1/9[sage]:2011/03/05(土) 23:06:45.57 ID:mXN5RLYQ
>>108の続き。王子と雪白姫のお話。9レス分くらい。
復讐パートは諸々替え歌しつつ適当に。


「なるほど。それで君は消されてしまったわけだね。
残念ながら私にはページの外側に干渉するほどの力はない。
だがページの内側にいる君の代わりのあの男にならば可能だ。
さぁ、復讐劇を始めようか」


……気がつくと僕は森の奥に佇んでいた。傾いた太陽が木々を真っ赤に染め上げる。
まるで血染めの夕焼け。しかしその深紅もやがて漆黒へと変わるだろう。
「お待ちください、殿下」
ハッとして振り返るとそこには僕と同じ格好をした王子様がいた。
今の呼びかけは僕に向けられたものではなく、彼に向けられたもののようだ。
「先ほどもここを通りませんでしたか?」
「これ以上動き回っては帰れなくなります」
「だが歩みを止めるわけにはいかない。――僕の理想の花嫁は何処に居るのだろう」
ぽうっと目の前に白い男の人が現れて指揮棒を振るう。
陽が落ちた宵闇の森に響くのは憾みの唄。

森の奥迷い込んだ 可哀想な王子様 花嫁探しを 急ぐ気持ちは 痛いほど解るさ
嗚呼 家来らを操り 小さなおうちへと導き 真雪のように 美しい姫の元へと誘った
「〜全ての女性を愛でても尚 見つからな〜い!」
「あっ。殿下、あちらからいい匂いがしますよ」
「行ってみましょう!」

宵闇の迫る陰が 進む道を呑み込んでゆく
迷い込んだ見知らぬ森の 小さな可愛いおうち

「見て、王子殿下。ほら、あそこに家があります!」
「でも、お前。それは、怖い魔女の家かもしれない……けど」
「けど?」

彼の耳元で僕はこう囁いた。
「小さな可愛いおうちでキミの理想の花嫁が迎えを待っているよ……」
「!?」
「どうなされましたか」
「い、今誰かが僕の傍に……いや、何でもない。僕が住人に話をつけてこよう」

そう そのドアノブに 触れたら 回せばいい
もうすぐ始まるでしょう【王子と姫の物語】

小さなおうちの中では小人達が硝子の棺を囲んで嘆き悲しんでいた。
どうやら死者を悼んでいるらしい。
彼も物悲しい気分になり、死者の冥福を祈るためにそっと棺を覗き込んだ。

儘、鎖された硝子の中で、眠るように死んでる君は、
誰よりも、嗚呼、美しい。やっと、見つけたよ!

「小人達よ、その死体を私に譲ってはくれないか?」
「こいつ」
「どう」
「見ても」
「王」
「子」
「様」
「だし」
「「いいんじゃね?」」
ノリの良い愉快な小人達は疑うこともなく彼を王子様と認め、硝子の棺ごと姫君を譲った。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
121 :2/9[sage]:2011/03/05(土) 23:08:22.13 ID:mXN5RLYQ
宵闇の森を王子様と硝子の棺を担ぐ三人の家来が行く。
「お前達、くれぐれも慎重に運ぶのだぞ」
「はい殿下」
……けれどそうはさせない!

「心の準備はよろしいかな、お姫様?さぁ、復讐劇の始まりだ!」

嗚呼 僕が本当に望んでいることは復讐ではなく姫の幸せ
例え君が僕を忘れようとも
記憶から記述から抹消されてもいい
ただ君が目覚めてくれるなら……
僕の存在を今、彼に譲ろう!

もう一度。全身全霊の力を込めて、家来らを操り足下を縺れさせる。
遂に硝子の棺は落とされ、物語の幕は上がった!
「うわあーっ!」
「ぐーてんもるげんっ☆」
「あぁ〜」
「はじめまして王子様!起こしてくださってありがとう!」
「……はじめまして、お姫様」
「でもどうしてかしら?はじめて会った気がしないわ」

雪白姫はゼンマイ仕掛けのお人形のようにむっくりと上半身を起こした。
目覚めてしまった姫君に戸惑いうろたえる彼の背後に立って、僕はそっと彼を操る。
彼の意思などお構いなしに雪白姫に手を差し伸べた。
「――お手をどうぞ、雪白姫」
「ありがとう、王子」
彼の手を取って立ち上がった雪白姫は確かに僕の方を見たような気がした。
その後、彼の体を借り、彼らを森の外まで道案内して僕は役目を終えた。
これでおしまい。
意識がふわりと浮かびあがる。けれど怖くはなかった。
ただ得も言われぬ充実感が体中を満たした。
一つだけ心残りがあるとすれば、彼女の歩みを傍で見守れないこと……。


――作者が騙る作為的な嘘で塗り固められた理想の王子様。
けれど一つだけ嘘で上塗り出来なかった部分がありました。
それは彼が死体を求めた理由。
彼が如何にして死体を愛し、求めるようになったのか。
記述が塗り潰された真っ黒なページ。
こうして彼は死体愛好家として後世まで名を馳せることとなるのでした。


「何故だ。彼女は何故復讐をしなかった?」
「彼女ハ復讐ヲ望ンデ等イナイワ。幾ラ憎クテモ、王子様ヲ消シテシマッタラ、
彼女ノ愛シイオ姫様ハ永遠ニ眠リ続ケルコトニナルモノ。
果タシテ彼女ハ、愛スル姫君ノ死ト引キ換エテマデ、本当ニ復讐ヲ望ムノカシラ?」
「……」
「彼女ハ、ドンナ姿ニナロウト、約束ヲ守リタカッタノヨ」
「そんなになってまで約束を守ってくれた……。どこかで聞いたような気がする」
「↑嗚呼 デモ ソレハ気ノセイヨ↑」
「なら風のせいか」
「ソレニ彼女ノ物語ハ、マダ終ワッテイナイワ。サァ、続キヲ唄ッテゴラン……」
Sound Horizonで百合 第二の地平線
122 :3/9[sage]:2011/03/05(土) 23:11:47.11 ID:mXN5RLYQ
――硝子の棺にしがみついて雪白姫が泣いている。
「えっく、えっく……。王子、起きてよぉ。起きてってばぁ!」
硝子の棺で眠るのは青い王子様。未だ目覚めることのない長い長い夢を見ている。
葬儀に参列するものは皆一様に口数も少なく、ただ式は静かに執り行われるばかり。
そして僕は硝子の棺の脇に立って、僕の葬儀を眺めていた。
……ん、僕が僕の葬儀を眺めている、だ、と……?
奇妙な違和感に気づいた僕は慌てて自らをアピールする。
(僕はここにいる!)
「うわぁ〜ん、おうじぃ〜」
「お気を強くお持ちくださいませ、姫。殿下も姫の泣き顔など見たくはないはずですよ」
「こういうときこそ、笑顔でお送りしないと……うぅ〜」
「ほらあなたも泣かないの」
叫んでも腕を振り回しても完全にシカトだった。どうも聞こえていないし、見えてもいないらしい。
この状態が一体何なのか、皆目見当もつかなかった。
これが壮大なドッキリ大作戦ならどれほど良いかと僕は神に祈った。でも救ってなどくれなかった。
僕はここにいて、僕は硝子の棺で眠るように死んでいる。
ここにいる僕は皆には見えておらず、硝子の棺で眠る僕は皆に見えている。
……僕は死んでしまって、今ここにいる僕は幽霊なのだろうか。
なんてことだ……。
このようなメルヒェンちっくなことがあって良いのか。否、良いわけがない。
だいたい幽霊話はホラーであり、メルヒェンではない。たぶん。
屍揮者のメルヒェン(君の味方らしい)は幽霊のようなものだが。

「しかし硝子の棺に殿下自身が横臥わることになるとは運命の皮肉ですね……」
「言葉の通りミイラ取りがミイラ」
「あれだけ死体を愛していらっしゃった殿下ですもん。きっとお喜びになっておられることでしょう」
いやいや死体を愛でるのと自分が死体になるのは違う。全然違う!
愛しい死体と共になるために死体になる覚悟はあっても、一人で死体になりたいとは思わない。
大事なことだから二度言うが死体を愛でるのと自分が死体になるのは違う。これ重要。
でも現実問題として僕は硝子の棺に横臥わっているわけで。
一体どこの誰がこのような世界を望んだというのか。《運命の女神》か。
悲しみに暮れて、再び硝子の棺を覗き込む。
自分で言うのも図々しいが、眠るように死んでいる僕も雪白姫の次ぐらいに美しいかもしれない。
そうか、僕が二人いれば自給自足が出来たのだな。
気づかなかった。気づいても実行に移せそうにないけども。

閑話休題。
雪白姫はこのようなときにも相変わらず毒舌な僕の家来達を無視して(正しい判断だ)
葬儀に参列していた七人の愉快な小人達に声をかけた。
「小人さん、お願い助けて」
「雪白姫の頼みなら何でも叶えてあげるんげん」
「みんなは私が腰紐で締め上げられて死んでしまったときも、櫛を突き刺されて死んでしまったときも、
知恵と勇気で切り抜けて私を助けてくれたわ。だからお願い、今度は私の王子を助けてほしいの」
小人達は顔を見合わせた。もっとも賢そうな一人が代表して頷く。安堵から雪白姫の表情が和らいだ。
「王子様はどうして死んでりっひ?」
「王子と私は同じ林檎をウサギさんにして一緒に食べたの。
私は何ともなかったのに、王子は突然苦しみだして倒れてしまったのよ……」
「みんな、どうするんべるく?」
うーん。と小人一同は各々腕組みや額を押さえて考え始める。やがて一人が閃いた。
「こういう場合は大抵王子様が接吻すればいーねん」
なるほど。王子様による真実の愛のキスでお姫様が目覚めるのは物語の掟である。
僕はその接吻される対象が自らであることを忘れて納得した。
「で、誰かこの中に王子様はいるんしゅたいん?」
「私は、世界で一番可愛い雪白姫ちゃん!」
「我々は殿下の忠実で優秀な家来です」
「んじゃ、この際お爺様でもいいんじゃね?」
「「「それだ!んんー」」」
(ちょ、やめてくれぇー!)
死んでるけど僕にだって選ぶ権利がある。いや死んでるなら選ぶ権利は無い、か?
とにかく僕はこれでもうら若き乙女の端くれなのだから良く知りもしない人にキスされるのは嫌だ!
Sound Horizonで百合 第二の地平線
123 :4/9[sage]:2011/03/05(土) 23:14:29.24 ID:mXN5RLYQ
どれほど必死に叫んでも暴れ回っても誰も気づいてなどくれなかった。
そうこうしているうちにもさもさ髭の小人達の顔が硝子の棺で眠る僕に迫ってくる。
(いーやー無理ぃー!!)
もうおしまいだと天を仰いだそのとき。僕と小人達の間に雪白姫が立ち塞がった!
「なぁにそれぇ?冗談は顔だけにしてくださらなぁーい?」
「……」
「ハッ!やだ、私ったらつい素を……ううん何でもないの」
「き、聞き間違いに決まっとるんげん」
「ちょっと無理があるっひ」
「それで、どうするんべるく?」
うーん。と今度はこの場にいる全員が各々腕組みや額を押さえて考え始める。やがて雪白姫が挙手した。
「はい、私がやってみるわ!」
「ですが姫は王子様ではありませんよ」
その通り。雪白姫は美しく可憐でまるで天使のような微笑みに真雪ような(中略)お姫様だ。
「呪いを解く魔法のキスは何も王子様だけの専売特許ではないわ。
悪い魔女にカエルや野獣に変えられた王子様を救ったのはお姫様の真実の愛のキスよ」
雪白姫の言うことは一理ある。そういったメルヒェンは至る所に転がっているもの。
というかお爺様方からキスされるより雪白姫にキスされる方が億万倍マシだ。
しかし彼女の提案を三人が真っ向から否定した。
「カエルの王子様はキスでなく壁に叩きつけられた衝撃で呪いが解けたと風の噂に聞きました」
「野獣の王子様はフランスのお方でしたよね。相手はお姫様でなく商人の娘という話ですし」
「だいたい殿下は王子様ではなく元お姫様のカテゴリーに属してますからね」
(元とはどういう意味だ。今だって女装すれば立派にお姫様になれる。どさくさ紛れに失礼なこと言うな!)
↑嗚呼、でも自分で女装と言ってる時点でたかが知れてるのよ↑
雪白姫は三人にめためたに言い負かされて唇を噛む。
「ぐぬぬ……じゃ、私も王子様になる!」
式場を飛び出した雪白姫を睨み、(参列)客は怒り、僕は平謝り(相手には聞こえないけど)

――そして小一時間後。

空気読まず出戻った雪白姫は――。
「お待たせ、じゃっじゃーん!」
僕の服を着ていた。どうも僕の衣装部屋から一着拝借してきたようだ。
しかし丈が合っていないらしく捲り上げても袖はずるずる、ブーツも長靴状態だった。
「似合う?」
(……)
「よくお似合いですよ」
「ほんと?嬉しい!」
雪白姫はキラキラと星を飛ばしながら軽やかに一回転した。
(…………ハッ、雪白姫が天使すぎて呼吸を忘れてた。か、可愛すぎる……むぎゅーってしたい!)
可愛い子には可愛い格好をさせるものと相場が決まっているが、
敢えて可愛い子に男装をさせるのもなかなか良いものかもしれない。
興奮と感動に体が打ち震える。僕は今、僕自身の新たなる性癖の開花に立ち会っているのだと思う。
「あぁんっ!」
雪白姫が甲高い声をあげた。顔を真っ赤にしてお腹を押さえる。
僕も思わずお腹を押さえる。そんな声を聞いたらお腹の下の方がきゅんとしちゃうよ←腹痛じゃないよ。
「あーん、ズボン落ちるぅ」
「殿下のウエストは太ましかったのですね」
さり気なくまた失礼なことを言ったな。
雪白姫が細すぎるだけであって僕が太いわけでは無い!
だいたい縦にも横にも発育途中の少女と横にしか育たなくなって久しい大人の女を比べるな。
「とりあえず腰紐でウエスト絞りましょうね」
「今度、姫にぴったり合うようにサイズを調節しますね」
「うんっ!」
(かぼちゃパンツに白タイツな典型的王子様ファッションも作ってくれ頼む)
「ええもちろんですとも殿下。って相変わらず変態ですね」
「……え?」
「あれ?今、殿下の声が聞こえたような気がしたのですが」
「↑嗚呼 でもそれは気のせいよ↑」
(↑気のせいじゃないわ!↑)
Sound Horizonで百合 第二の地平線
124 :5/9[sage]:2011/03/05(土) 23:18:17.76 ID:mXN5RLYQ
もしかして彼女は霊感が強いのだろうか。僕の声が聞こえるのか?
何度も呼びかけてみたが二度目はなかった。
「キスしてみるね」
雪白姫が、いや雪白王子がしっかりとした足取りで硝子の棺に近づいてくる。
彼女の真剣なまなざしに射抜かれて、心臓が早鐘を打ち始める。僕は思わず目を閉じた。
「いただきまーすっ!」
だが雪白姫の柔らかな唇の感触はいつまで経ってもやってこなかった。
むむむっと、焦れて目を開けてみるとそれもそのはず。
雪白姫は硝子の棺に眠っている僕の方にキスをしていた。
ああそうかと漸く理解する。ここにいる僕は硝子の棺にいる僕から抜け出した魂だけの存在で、
今はもう彼女に触れることさえ儘ならないのだ。
しかし雪白姫のキスによって目覚めがやってくるのならば、僕はすぐに肉体に呼び戻されるはず。
その瞬間を今か今かと待ち侘びるが、なかなかやってこない。
雪白姫は何度も何度も角度を変え、時に優しく、時に激しく僕の唇を啄んでいる。
(何故目覚めない!?)
僕だけでなく、この場にいた全員に焦りの色が見え始めた。
やがて静かな式場に雪白姫のすすり泣く声が響き出す。
「どうしてなのよぉ。どうして起きてくれないの!?私のキスは真実の愛のキスではないの?」
雪白姫の大きな瞳から丸い玉のような涙が零れ落ち、ぽたぽたと棺に眠る僕の頬を濡らした。
けれど僕はそれでも目覚めることはなかった。
お姫様の真実の愛のキスも、清らかな乙女の流す涙も、どれも全く効果がなかった。
泣き崩れた雪白姫を囲んで三人や小人達がどうにか慰めようと声をかける。
僕はどうしてもその輪の中には入れなかった。
また声をかけたとしても、その声が彼女に聞こえるはずもなかった。

僕は硝子の棺に横臥わる僕自身を激しく揺さぶる。
(起きて!起きてくれないと雪白姫を悲しませることになる。僕はそれを望んでなどいない!)
けれど眠るように死んでる僕はぴくりとも動かない。
額同士を重ね合わせても魂の僕は元の場所に帰れなかった。
(どうして、どうしたら……そうだ。よく魂は口から出入りすると聞いたことがある)
口をこじ開ける。体は冷たいながらもまだ死後硬直は始まっていないようですんなりと開いた。
死体愛好家の僕としては死体は硬直してからの方がより素晴らしいと思っている。
少し残念だが、硬直していないということはまだ生き返る可能性もあるということだ。
気を取り直してぱっくり開いた口から中に入ろうとするがどうにもこうにも無理そうだった。
(おや、なんだろう……?)
喉の奥に白い何かが引っかかっている。もしやこれは林檎?
そうか、林檎が喉に詰まって死んだように眠っているのだ。
僕はまだ死んでなどいない。だからこそ憾みを唄う宵闇の森からここへ帰ってこれた。
林檎を摘まみ出そうと手を突っ込む。だが空気を掴むばかりで林檎に触れることが出来ない。
(あぁもう!)
苛立って金切り声をあげた途端に雪白姫ががたがたと震えだした。
「私にも王子の声が聞こえるわ。私に対して憾みを唄ってる。林檎を勧めたのは私ですもの。
でも私は貴女を殺そうとなんて思ってない。どうかわかってほしいの……」
違う。僕は復讐しに戻ってきたのではない。ただ君の元に帰りたかっただけだ。
僕はまだ生きている。だから宵闇の森から帰ってきた!
それを伝えたくて優しく雪白姫の名前を呼ぶ。けれど今の彼女には逆効果だった。
「嗚呼、王子の声が聞こえる。私を呪う声が、私に復讐しようとする唄が!」
「姫、どうか落ちついてください」
「はやいところ遺体を埋葬してしまいましょう。体がなければ復讐も出来ませんよ」
(!?)
「早速、棺を運び出しましょう!」
三人はいつになく素早い動きで硝子の棺を持ち上げた。
雪白姫もどうにか気を持ち直したらしく棺を運ぶ三人の後に続いた。
死の行進は死者の冥福を祈る小人達の前を通り過ぎ、同じく冥福を祈る城の人々の前も通り過ぎる。
そして城の敷地を抜けて、森の奥の墓場へと進んでゆく。
(あああああ〜、なんてことだ〜。僕はまだ死んでいない。林檎が引っ掛かっているだけだ!)
僕の嘆きは誰の耳にも届くことなく、ただ虚しく響くだけだった。
嗚呼どうしよう!このままでは白塗りをして可愛いお人形を抱いて気障っぽく
「童話はいつだって墓場から始まるものさ……」とか言わなきゃならなくなる!
それも面白そうではあるが、やはり嫌なものは嫌だ。その役目は他の誰かに譲るとしよう。
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125 :6/9[sage]:2011/03/05(土) 23:22:27.62 ID:mXN5RLYQ
硝子の棺が運ばれてゆく。同じ光景を僕は見たことがある。
それは先ほど憾みを唄っていたとき。
僕ではない僕の家来達が雪白姫の棺を運んでいた。
そしてもう一つ。僕が雪白姫を見つけたとき。
僕は僕の家来達に命じて雪白姫の棺を運ばせていた。
そのとき僕は家来達にこうも言った。「お前達、くれぐれも慎重に運ぶのだぞ」
雪白姫もそれと同じ台詞を彼女達に述べる。
「みんな、くれぐれも慎重に運ぶように」
「はい姫……ああっ!」
しかしどじでのろまな亀な彼女達が何事もなく棺を運び終えることなど不可能に近かった。
案の定、足を縺れさせてひっくり返りそうになる。

「心の準備はよろしいかな、お姫様?」
――え?
声の方を振り返ろうとした瞬間、突風が僕を襲った。
どんがらがっしゃんとしか言いようのない音と共に体に衝撃が走る。
その勢いで喉から林檎の欠片が飛び出した!
「ああっ!げほっ、げほっ」
「!?」
「う〜、お尻が割れる……ってあぁ生き返ってる!」
僕は自らの体に触れて自分が確かにここに存在することを確認する。
あれほど冷たかった体に体温が戻っており、火照るほどだった。
「……王子?」
雪白姫が目と口をまんまるにしてこちらを見ている。僕は彼女に伝えるべき言葉を知っていた。
「ぐーてんもるげんっ☆」
「え、あ。ああ……」
「オハヨ、雪白姫。心配かけてごめんね」
「嘘……」
「本当だよ」
「どうして?」
「嬉しくないの?」
「嬉しくないわけない!」
雪白姫は泣いているのか笑っているのか、顔をくしゃくしゃにして僕の胸に勢いよく飛びこんできた。
しっかりと抱き留めて、ふわふわした小さな体をぎゅっときつく抱き締める。
華奢な背中に流れ落ちる艶やかな長い黒髪を撫でてると甘い蜜の香りがした。
細い首筋に鼻先をうずめてそっと囁きかける。
「ね、笑って。嬉しいなら笑顔を見せてほしいな」
「ぐずっ。うん……」
雪白姫はゆっくりと身を引き剥がし、赤い唇を持ち上げて笑みを浮かべた。
涙を湛えながら微笑む雪白姫を僕はとても美しいと思った。
大きな瞳から零れ落ちてゆく涙を指先でぬぐってやる。

「雪白姫が目覚めてくれて良かったと思うよ」
「突然どうしたのよ」
話の意図が見えないと雪白姫は眉を顰めて口を窄める。そんな表情も愛おしい。
「だってコロコロ変わる表情をどれも見ることが出来る。
硝子の棺に眠ったままでは君の笑顔も泣き顔も怒った顔も悲しむ顔も、何一つ見ることが出来なかった。
僕は君のどんな表情も見逃したくない。どの顔もみんな好き。
でもね、笑顔が一番好き。もう絶対悲しませたりしないと約束するよ」
「もぅ何を言うのよ……」
雪白姫は白い頬や首筋、耳たぶ、果ては頭皮まで真っ赤にしてはにかんだ。
また僕にぎゅーっと抱きついてそっと囁く。
彼女の囁きはあまりに小声だったので僕はその言葉を聞いたというより察した。
「私も貴女が目覚めてくれて嬉しいわ。これで私達、ずっとずぅっと一緒ね!」
「ああ、ずっと一緒にいようね」
ちっちゃな雪白姫の手と少し大きな僕の手。小指と小指を結んでゆびきりをする。
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126 :7/9[sage]:2011/03/05(土) 23:28:50.96 ID:mXN5RLYQ
目覚めを告げる真実の愛のキスはいらない。
僕らにはもっと確実に目覚めを告げてくれる優秀(?)なキューピッドがいるから。
くだんのキューピッドな三人は、僕と雪白姫の感動の再会に際して
空気を読んでおとなしく遠く離れた場所で待機していた。
どちらかといえば、空気を読んだというよりも僕らの仲の良さに当てられて
遠く離れた場所から冷やかしていたという方が正しいかもしれない。

僕が注目していることに気付いた三人はそそくさとこちらにやってきた。
吐き出された林檎を摘み上げて苦い顔をする。
「林檎が喉に詰まって仮死状態に陥っていたと?」
「さあ?」
当事者である僕にもよくわからなかった。それにしても彼女達は随分と反応が淡白である。
何も泣いて喜べとは言わないが、もう少し喜んでくれてもいいのに。
「お前達は僕が目覚めて嬉しくないのか?また面倒な奴が起きたとでも思っているのか」
「滅相もございません。嬉しいですよ。ですが林檎を喉に詰まらせるなんて恥ずかしくないんですか」
「食い意地張ってるからこういうことになるんですよ。めっ!」
「しっかりもぐもぐしてからごっくんしてくださいと普段から言ってますのに」
「気をつけます……」
三人は深いため息をついて、揃って額を押さえた。
これについては申し開きのしようがない。僕は身を縮ませて小さな雪白姫の影に隠れた。
「本当に小さな頃から何にも変わってないのですから……」
「そんなに王子のことを責めないであげて。林檎を剥いた私も悪いの」
「いいえ、姫は何も悪くありませんよ」
「悪いのは全て王子です」
「そうそう。よく噛まなかった僕が悪いのだから」
「そうかなぁ。あ!」
雪白姫はすっと立ち上がり、颯爽たる王子様然とした態度で僕に手を差し伸べた。
誰かに手を差し伸べることはあっても、誰かから手を差し伸べられることなど
数えても両手で足りるくらいしかなかった僕は思わず彼女を見つめた。
「お手をどうぞ、お姫様」
「ありがとう、雪白姫……いいや、僕の可愛い王子様」
僕が躊躇いがちに雪白姫の手を掴むとぎゅうっと握り返される。
そしてカブを引き抜くかの如く腕を引っ張られ、僕は立ち上がった。
雪白姫が「えっへん」と小さな胸を張る。
「どう?私は何着ても似合うでしょお?」
上目遣いを駆使した可愛い王子様は僕の心臓をいとも簡単に射抜いていった。
あぁん、可愛すぎて直視出来ない。こんなの犯罪だよ。狼さんに食べられちゃうよ。
「もう黙らないでよぉ」
「…………ハッ、ただでさえ天使の雪白姫が女神すぎて呼吸を忘れてた。
ところで雪白姫、今すぐ棺に入ってくれないかな、というか入れ!」
「きゃあんっ!ど、どーして閉じ込めようとするの!?」
力任せに硝子の棺の中に押し倒す。蓋を閉める寸前で雪白姫のか細い腕がそれを阻止した。
「さぁ僕と契約して、新鮮な死体になってよ!死体ごっこをしよう!」
「わけがわからないよ!ついさっき生き返って嬉しいって言ってくれたのにぃ?」
「死体のふりするだけでいいからぁ、ねっねっ?」
「やだ。気持ち悪いことするつもりでしょ」
「大丈夫。僕は女を貫く槍など持っておらぬ」
「持っていたら私の方から刺してるわ」
「えっまさか雪白姫ってふたなry」
ちょっ、それは女の子好きとして困る……。
ああでも僕は雪白姫を愛しているのだからこの際ふたなりでも男の娘でも……何でも構わない!
「生えてないわよ!刃傷沙汰にしてやるって意味!」
な、なんだ……そうだよね。こんな可愛い雪白姫に生えてるわけないよね。
それはそれで好きな人もいるかもしれないけど女の子ハァハァな僕の趣味とは違うし。
「まあいい。とにかく今すぐ死体ごっこをしよう!」
「ね、ねぇ死体ごっこってなあに?嫌よ、やめてお願い」
「ふふっすぐに終わるからね……うふふふふふふ」
「へんたーい!こっち来ないでぇー!いーやー無理ぃー!!」
嗚呼、何も知らない無垢でいたいけな雪白姫。
君は何もわかっていない。そういった悲鳴こそが血を滾らせるのだと!
Sound Horizonで百合 第二の地平線
127 :8/9[sage]:2011/03/05(土) 23:31:48.79 ID:mXN5RLYQ
棺の中の姫君に襲いかかろうとした瞬間、僕は羽交い絞めにされた。
「離して、僕を止めないでくれ」
「殿下、情けなくなるんでやめてくれません?」
「どうして私達、こんな人に仕えてるんだろう」
「オー人事、オー人事」
そんなに辞めたいなら辞めてもらって結構!と言いたいところだが、言わないでおく。
言ったら最後、彼女らはまるで使用済みティッシュのように僕を捨ててくれちゃうだろう。
義理堅く見えて案外あっさりしているのだ。
「何か失礼なこと考えませんでしたか、殿下」
「こんなにも尽くしてきた我々を殿下は薄情者だとおっしゃりたいのですね」
「転職しようかなー」

もういい。こんな奴ら放っておこう。僕は彼女達の腕を振り解いて、硝子の棺の前に跪いた。
先ほど落下した衝撃で棺には大きな罅が入ってしまっている。
「なんてことだ……」
いつか雪白姫と死体ごっこをして遊ぼうと用意していた硝子の棺がッ!
死体ごっことは説明すると長くなるので省くが、平たくいえば雪白たんちゅっちゅみたいな感じである。
本当はもっと素晴らしい遊びなのだが以下略。とにかく僕は虎視眈々と機会を窺っていた。
その間に僕は雪白姫と様々な言葉を交わし、思い出を共有し、仲を深めて、
自分自身や愛する人が生きていることの素晴らしさを学んだ。
僕の特殊な性癖は生きたまま花嫁でいてくれる雪白姫のおかげでだいぶ改善したのだった。
(以前は雪白姫が美しく死ぬ方法を割と本気で考えていた)
が、しかし!改善したといってもやっぱり好きなものは好きだからしょうがない。
でも実際に死んでしまったら悲しいので、雪白姫に死体のふりをしてもらおう!
死体の(ような)雪白姫を思う存分愛でることが出来て、生きた雪白姫ともキャッキャ出来る。
ぼかぁ〜幸せだなあ〜。……ここが楽園でなければ世界の九割は奈落に違いない!
「やだぁ、変態がいるんだけどぉ!?」
雪白姫は身の危険を感じたのか、超高速で硝子の棺から飛び起きて僕を嘲る。
都合のいい三人は雪白姫に調子を合わせた。
「変態でネクロフィリアでロリコンな殿下なんて放っといて帰りましょ」
「僕はロリコンじゃなぁーい!」
「じゃペドフィリアですね。というか変態とネクロフィリアはご否定なさらないのですね」
「すみません。今度からロリコンでなくてペドって言います」
「ええい、お前達いい加減にしろ。僕はペドではない!雪白姫はロリの範疇だ!!」

…………文字通り、場の空気が凍りつく。
表情を無くした雪白姫の茫然自失とした視線が痛い。薄ら笑いをした三人のからかう視線が痛い。
「あーあ、言っちゃった」
「ついにご自分でロリコンだとお認めになりやがりましたね」
「ロリコンでもでかい顔して王族やってられるなんて我が国は平和だなー」
「なにそのロリコンには人権無いみたいな言い草」
「人権あったんですか?」
「無いんですか?」
だから今まで僕はロリコンだの変態だのと虐げられていたのか……。
しかし全てのロリコンが悪ではない。よって僕のロリコンは正しい!←などと意味不明な供述をしておりry
「好きになった人がたまたまちっちゃい女の子だっただけだ!ロリコンで何が悪い!」
「あ、開き直った」
「ロリなら誰でも良いわけではない。雪白姫でなければ駄目なんだ!
ま、恋もしたことのないウブなお前達に恋する乙女な僕の気持ちがわかるわけないけどなっ」
「……私達だって恋してますよ」
「えっいつの間に?僕に黙って抜け駆けとは許すまじ」
「所詮叶わぬ恋ですけどねー」
「でもいいんです。好きな人が幸せなら私も幸せです」
「可愛いことを言うのだな」
「え、あ。は、はい……!」
「ん、どうした?顔が赤いぞ」
「……殿下の馬鹿。意地悪。馬に蹴られて死ね!」
「はぁ?」
でも彼女達の言いたいことはわかる。好きな人が幸せならそれだけでもう幸せなのだ。
――例え君が僕を忘れようとも……アレ?何故だか僕に似た誰かが傍にいるような気がした。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
128 :9/9[sage]:2011/03/05(土) 23:35:54.39 ID:mXN5RLYQ
「それに加えて」
三人の僕に対する毒舌評論は続く。
「男装でボクっ娘だからなー。救いようがないですよね」
「お前達も男装してるだろうが!そういうのを同じ穴の狢というのだぞ!」
「我々は殿下に強要されてこんなことに」
おい、サラッと嘘をつくな。誰がいつどこで男装を強要した。
「更にそこに百合属正まで備わって変態ここに極まれりって感じですね〜」
「ちょっと待って」
凍りついていた雪白姫がハッと我に返る。
「ネクロフィリアは間違いなく変態だけど、百合属正は変態ではないと思うの。
好きになった人がたまたま女の子だったってだけで全面否定されたらかなわないわ。
あなた達の好きな子だって女の子でしょう?ま、絶対に渡さないけどね」
「いえ我々は姫から奪うつもりなど決して……」
「何を奪うつもりがないのかは知らないが、ネクロフィリアだって趣味を全面否定されたらかなわない。」
「なぁにこの変態。気持ち悪いのが移るから勝手に会話に入ってほしくないんですけどぉ?」
あっそんな蔑んだ目で見ないでっ!ビクンビクンしちゃう!おかしくなっちゃう!
こうして好きな女の子(かなり年下)に罵られるのもいいかも。
「ネクロフィリアでロリコンで男装ボクっ娘で百合属性のマゾな変態」
「世の中って奥深いですね(遠い目)」
「高度すぎてついていけません」
「ついていかなくていいのよ。寧ろ変態が死んでから出直して来るべきだわ」
「さすが姫、仰る通りです!」
「僕のときと対応が違うのだが」
「変態に仕えるより愛らしい姫君に仕える方が精神衛生上いいですから」
「きゃはっ!みんなよくわかってるぅ。可愛いは正義だよねっ☆」
「ですよねっ☆」
四人は仲良く手を繋ぎながら、さっさと城へ帰っていく。
そこはかとない疎外感を覚える……。
彼女達が仲良くしているのは見ていて微笑ましいけど、
なんだか好きな人と大事な友達を一遍に奪われた気分だ。

どうしてか気後れして彼女達のずっと後ろを歩いているとそこに僕が現れた。
正確に言うと僕と同じ顔をした男の人が現れた。彼は手に持った本をそっと僕に差し出す。
「くれるの?」
彼がこくりと頷いたのを確認して僕はその本に手を伸ばした。
指先が触れた瞬間、あたたかなひかりが世界を包み込む。
その輝きが収まったとき、一冊の本は二冊に分かれていた。
一冊はこれまでの――これからの僕の物語を書き綴ってゆく本。
そしてもう一冊はこれから始まる彼の物語を書き綴ってゆく本。
僕はふと彼を見つめて微笑み、彼も僕を見つめて微笑んだ。
「さよなら。君にも君だけの理想の花嫁が見つかるといいね」
僕らは背中合わせに別れる。
もう決して交わることのないそれぞれの地平線を目指して。

「おうじー、少し言い過ぎたわ。ごめんなさぁい。だからはやく帰ろうよー、置いてくよー」
「うん、今行くよ!」
僕の世界でただ一人のかけがえのないお姫様。
真っ白なページに二人の物語を書き綴ろう。誰も知らないおとぎ話の続きを――。




「私達モ、モウ行キマショ、メル」
「彼女達の復讐は?」
「アノ娘達ニハ必要ナイワ」
「作者が虚偽の物語を作り上げるように、姫君達は愛の物語を書き綴り続ける……か」
「メデタシメデタシ……ウフフッ!」

おしまい。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
129 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2011/03/05(土) 23:41:44.55 ID:mXN5RLYQ
雪白姫に男装させたり趣味に走りまくって正直すみませんでした。
可愛い子は何着ても似合うよね!
最初に書こうと思い立ったおっぱいの話は結局没になってしまったw
以下どうでもいい説明。




策略をめぐらす作者が王子ちゃんの物語を作為的な嘘で強引に書き換えた結果
たった一つの童話の世界を巡って男女の王子が覇権を争うことになった。
一時は劣勢だった王子ちゃんが生き返ったため、元の位置から物語が再開される。
今度は男の王子が消滅のピンチに陥り、メルヒェンさんの力を借りて復讐しようと乗り込んでくる。
しかし彼もまた「雪白姫が幸せならば」と身を引くことを決意。
王子ちゃんに物語を返そうと本を差し出す。
そこで一冊の本が二冊に分かれて、彼らの世界はそれぞれ独立した並行世界として存在するようになった。
要するにパラレルワールドだよーと説明したかったが力及ばずに断念。
長々と失礼しました。


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