- とある科学の超電磁砲/魔術の禁書目録で百合萌え 8
496 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2011/01/21(金) 23:19:04 ID:r6XJNsV7 - ss投下します。
前回の投下ではさるさんくらってえらい目にあったので今度はゆっくり投下していきます。 カプは、さてくろ・ういさて・みこくろです
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497 :friends and lovers[sage]:2011/01/21(金) 23:21:55 ID:r6XJNsV7 -
1 秋の日。 外の肌寒さとは対照的に、ファミレスの店内は暖房が良く効いておりとても快適だ。 周囲に騒がしい客がいるわけでもなければ、タバコを吸っている客がいるわけでもない。 なのに、佐天涙子は妙な居心地の悪さを感じていた。 今彼女の目の前で紅茶をスプーンでまぜているのは白井黒子だ。現在、このボックス席には、佐天と白井の二人しかいない。 最初はいつもの4人で集まる予定だったのだけれど、初春はこの寒さに風邪を引いてしまい、美琴はレポートの提出を忘れていたとかで、柄でもなく補習だそうだ。 白井は華麗な仕草で髪を払い、目を瞑って静かに紅茶をすする。自分と同じものを飲んでいるのはずなのに、彼女が飲むとファミレスの紅茶が上等な本格紅茶に変わったような印象を受けるのは何故だろう、と佐天は白井を見つめながらしばらく考える。 「どうかなさいました?」 「い、いやいやなんでもないです」 佐天の不審な視線に白井は疑問を呈した。佐天は慌てて目を逸らし、自分の紅茶をすする。砂糖を入れるのを忘れた。苦い。 テーブルに備え付けられたポットを引き寄せ、その中から二つの角砂糖を掴んでカップに放り込み、かき混ぜる。そうこうしていると、白井はまた黙って紅茶をすすり始めた。 この沈黙には耐えられない。とりあえずこの気まずい空気を何とかしなければ。と、佐天は頭の中から話題をひねり出す。 「今日は風紀委員の仕事は休みなんですね」 「ええ、今日のために昨日のうちに初春と事務仕事を大急ぎで終わらせましたから。それなのに全く、初春ときたら。それにお姉さまだって。補習するから今すぐ学校に来いとか突然言い出す教師も教師ですけど」 白井はしばらく愚痴っていたがしばらくすると落ち着いたのか、申し訳ありませんでしたと言って再び紅茶のカップに手を掛けた。 佐天は心の中でため息をつく。 初春も美琴もどうして急にドタキャンなんてするのだろう。 佐天は心の中で今いない二人を恨む せめてどちらか一人でもいてくれたら大分落ち着くものを。 誤解しないでほしいのは、佐天は決して白井が嫌いなわけでも苦手なわけでもない。 ただ、普段積極的に話すのは美琴と初春なので、こうやって白井と二人きりになるとどう関わっていいかわからなくなるのだ。 「初春の具合はどうなんですの?ここに来るとき寄ったんでしょう」 白井はカップを置き、佐天に問いかけた。 「たいしたことはないみたいですよ。季節の変わり目だからちょっと風邪をひいたとかだけみたいで」 ならいいのですけど。 そう言ってまた紅茶を飲み始めた。 ……会話が続かない。 こういう空気苦手なんだって!佐天は頭をガシガシかきむしり、ため息をつきながらもこう提案した。 「折角来たことですし、二人しかいないですけどどっか行きます?」 「そうしましょうか。ここにずっといても仕方がないですし」 その返答を聞き、佐天はすぐに脳内で今日訪れるべき娯楽施設を検索する。 気まずいと思っていたが、今日はもしかすると白井との距離を縮めるチャンスかもしれない。佐天は熱い紅茶を一気に飲み干した。
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499 :friends and lovers[sage]:2011/01/21(金) 23:23:54 ID:r6XJNsV7 -
2 ファミレスを出て数分。 佐天の提案により外に遊びに行くことが決定し、白井は現在佐天の後を着いて第七学区の大通りを歩いている。 人ごみに揉まれつつ、白井は先ほどの佐天の提案に内心安堵していた。 佐天と二人きりという初めてのシチュエーションにどう対応していいかわからず、白井はなにも喋ることができなかったのだ。 自分はどうしてこうも彼女に対してのみ距離を感じてしまうのだろう。 白井はため息をついた。 風紀委員の仕事柄、白井は初対面の人でも屈託なく会話することが出来る。まして、佐天は初対面どころか何度も一緒に危機を乗り越えてきた大切な友人だ。それなのにどうしてこう関係がぎこちなくなるのだろう。 同じことを佐天も感じているはずだ。初春や春上にはタメ口で話すのに白井には敬語を使っていることからもそれは窺える。 何故か、互いに薄い壁を作ってしまっているのだ。 その壁は普段は見えないのだけれど、突然不意に出現する。今日なんかはそれがはっきりと現れているように感じる。 先ほどファミレスでは佐天が壁を砕こうと努力していた。白井も壁を壊したいという願望はあった。しかしどうも不器用なようで、余計に佐天に気まずい思いをさせてしまった。 これ以上こんな不甲斐ない態度をとってはいけない。自分からも壁を取り払おうと努力すべきだ。 まずは、佐天に積極的に話しかけてみよう。 「今日はどこに行くつもりですの?」 「んー、私はゲーセンに行こっかなと思ってるんですが。白井さんはどこか行きたいところあります?」 佐天は振り返った。 ゲーセンか。白井は過去の思い出を振り返る。そういえば、彼女と最初にあった日にもゲームセンターに行った気がする。 最近、そのゲームセンターには行っていない。 ローマ正教との戦いが始まってから風紀委員の仕事が忙しくなり、佐天や初春と一緒に出かけることも少なくなったからだ。美琴は一人でいくこともあるらしいが、白井はわざわざそこに一人で行こうとは思わない。 ゲーセンは友人と行くから楽しいのだ。 「わたくしもゲーセンでいいですわ。たまにはそういう騒がしいところもいいですわね」 白井がそういうと、佐天は安堵の表情を浮かべた。 「よかった。もしかしたら白井さんゲーセン嫌いかもってちょっと心配でしたから」 「どうしてそう思うんですの?わたくし何度も貴方達とゲーセンに行ってるはずですけど」 「だって……」 佐天は口ごもる。何か言いにくいことなのだろうか。 「白井さん、みんなで行ったときあんまりゲームしてないじゃないですか」 白井は驚いた。 さりげなく避けていたはずなのに、まさか気付かれていたとは。しかもよりによってゲームに熱中していてこちらのことなんかいつも忘れているものだと思っていた彼女に。 「どうしてなんです?やっぱりゲーセン嫌いなら他のところにでも」 「そ、そういうわけではないのですけど……わたくし、ゲームと呼ばれるものがあまり得意ではなくて。コンピュータ相手にイージーモードでやってみても歯が立たないんですの。ましてや貴方たち相手だなんて、勝負になりませんわ」 誰にも……美琴にすら言っていない事だった。白井がゲーセンに一人で行かないのにもこんな理由があったのだ。 「じゃあ今日一緒に練習しましょうよ。今度御坂さんたちと行ったときは一緒にできるように」 佐天は突然白井の腕を掴んで走り出した。 「ちょ、ちょっと!」 白井はよろけて思わず声をあげる。しかしその声も届いていないらしい。 まったく。相変わらず落ち着きのない人だ。呆れつつも、白井は彼女とともに走り出す。
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500 :friends and lovers[sage]:2011/01/21(金) 23:25:13 ID:r6XJNsV7 -
3 佐天は白井の手を引いてゲームセンターを目指す。 白井がゲーム苦手だなんて初めて知った。プライドが高い彼女のことだ。皆の前では言いづらかったのだろう。 佐天の目に、白井は何でもそつなくこなす超人のように映っていた。そんな彼女の意外な一面に驚きつつも、今日は頑張らないとという思いが増してくる。 ゲームが苦手だ、という彼女も、内心みんなと一緒に遊びたいと思っているはずだ。 今日一日あれば、彼女をそれなりのレベルにまで鍛えることが出来る。財布の中が心配ではあったが、友情はお金には代えられないと、佐天は無理やり自分を納得させる。 地下街に入ると、様々なゲームから発せられる騒音が聞こえてくる。そしてしばらく歩いて到着したのは、佐天が初めて美琴や白井と会ったときから何度も訪れているゲームセンター。 「何かやってみたいゲームとかあります?」 「うーん、そうですわね」 白井は唸りながらあたりを見回した。 「あ!あれならできるかもしれませんわ」 そう言って白井が指差したのは、某和太鼓型リズムゲーム。 「ああ、あれですね。やってみましょっか」 両替機で5000円ほど両替し、佐天と白井は筐体の前に並んだ。 「操作方法わかります?」 「お姉さまが遊ぶのを見ていたのでなんとか」 「じゃあさっそくやってみましょうか」 100円入れて、ゲームを開始する。難易度は普通でいいだろう。曲は白井が知っているのものを選択。 とりあえず、100円分は叩き終えた。 白井の総合成績を見る。全ゲームともにノルマはギリギリクリアしたので、そこそこの評価が下される。 「言うほど苦手ってわけじゃないみたいじゃないですか」 「まあ、このゲームは実際の楽器に近いですからね。操作も単純ですし」 佐天は自分の譜面を叩きながらも白井のプレイをずっと見ていたのだが、実際リズム感も叩き方も決して悪くない。ただあの音ゲー特有の楽譜に慣れてないのだろう。 彼女はゲームが下手なわけではない。経験が少ないのだ。 「もう一回やってみますか。私たちがいつもプレイしてるのは鬼譜面ですからね。そこまで叩けるようにならないと」 「鬼?どういう意味ですの?」 「難しいモードより難易度の高いプレイモードですよ」 「……先は長そうですわね」 そう言いつつも、白井はしっかりバチを握りしめていた。 驚いた。まさかたった数プレイで難しいモードが叩けるようになるなんて。 しばらく普通モードでプレイしたのだが、白井も大分叩けるようになってきたみたいなので難易度を上げてみたのだ。 またもやノルマギリギリだったが、彼女は無事譜面を叩ききった。 「白井さん!すごいじゃないですか」 「あ、ありがとうございます」 白井は少し照れた表情でうつむいた。 たかがゲームでも、自身の成長に彼女も達成感を感じているのだろう。 だが一つだけ、白井に聞いておきたいことが佐天にはあった。 「白井さん」 100円を入れる前に、彼女の方を向く。 「楽しいですか?ゲーム」 彼女のためと思っていても、彼女が楽しんでいなければ意味がない。お金もかかるし、もし自分の自己満足に付きあわせてしまっているとしたら申し訳なかった。 しかし、そんな心配は杞憂だったようで。 「楽しいですわ。とっても」 白井は顔を上げ、微笑んだ。
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501 :friends and lovers[sage]:2011/01/21(金) 23:27:27 ID:r6XJNsV7 -
4 その後も、白井は佐天に振り回されつつゲームセンターで遊び続けた。 昼食をはさんで一日中遊び続けたためか、自分のゲームの腕も人と対戦できるレベルにはなっただろう、と白井は思う。特にあの最初にやった太鼓のゲーム。慣れてくると佐天に善戦することができたのだけれど、結局は年季の差を見せ付けられた。 「疲れましたね。まだ遊びますか?」 白井が脱落してからしばらく一人でゾンビと戦い続けていた佐天が言った。 彼女はコントローラーを置き、うーんと伸びをする。 「そうですわね……そろそろ行きましょうか。財布の中身も気になりますし」 実際白井の財布には女子中学生が持つには不相応な金額がまだ残っていたが、流石にこれ以上お金を浪費するのは一般的に考えてまずいということはわかる。 佐天とともにゲームセンターの出口に向かう。 一通り遊び終えたゲームの筐体を眺めながら歩くのは、今日一日の思い出が鮮明によみがえってとてもわくわくした。 そうやって感傷に浸りつつ歩いていた白井の目に止まったのは、箱の中にたくさんの人形が無造作に積み上げられている機械。 俗に言う、UFOキャッチャーだ。 白井はその中の人形の一つに目を引かれた。それは熊のぬいぐるみだった。 二頭身の体。だらんと垂れ下がった手。やる気のなさそうな丸い目。 なんというか、かわいい。普段美琴のファンシーな趣味を馬鹿にしている白井だが、この人形には何か不思議な魅力を感じた。 取ってみようかな…… その考えが一瞬頭をよぎり、すぐにそれを否定する。 美琴に子供趣味をやめるよう求めているのに、自分がこんなものを持って帰ったりなんかすれば美琴のことをとやかく言えなくなってしまう。 「どうしたんですか?」 白井の様子がおかしいのに気付いたのか、佐天に声を掛けられた。 「い、いえいえ何でもありませんわ」 無理やりぬいぐるみから視線を外して答える。しかしそんなごまかしは彼女には通じなかったようだ。佐天は先ほどの白井の視線を辿り、例のものを発見する。 「もしかして白井さん、あれが欲しいんですか」 ニヤニヤしながら佐天が言う。 「ち、違いますわ!もしお姉さまがここに居合わせたなら問答無用で取りに行くだろうなーと思っただけですの!」 「じゃあ挑戦してみます?御坂さんのお土産にでも」 「……そうしますの」 そうして出口に向かっていた二人は、歩く方向を変えて商品ゲームコーナーへ向かった。 今日は佐天に翻弄されっぱなしだ。 そう思いつつ、白井は100円玉を機会に投入する。 上下移動マークと左右移動マークが点滅する。流石の白井でもUFOキャッチャーの操作くらいはわかる。……やったことはないけれど。 まずは、目標の位置を確認。 空間移動という能力の特性上3次元上の位置把握は日常的に行っているので、かなり正確に測ることが出来る。 上ボタンを押す。 クレーンがゆっくりと奥へ進む。 じっと移動するクレーンを見つめる。 「……そこ!」 白井はボタンから手を離す。 次は左ボタンだ。 あと20cm……あと10cm…… 狙いを定めてボタンを押す手を離す。 クレーンはゆっくりと下に降りる。もう白井に出来ることはない。あとは天に任せるのみだ。隣を見ると、佐天も真剣な眼差しでクレーンを見つめている。 「あ!」 「どうしてですの!?」 クレーンはぬいぐるみを掴みはしたものの、持ち上げる最中に落っことし、ダクトの上で空のアームが虚しく開いた。 「バランスも位置もきちんと確かめましたのに……」 白井はがっくりと肩を落とす。 簡単そうに見えるが、そう上手くはいかないか。
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502 :friends and lovers[sage]:2011/01/21(金) 23:29:33 ID:r6XJNsV7 - 「ちょっと貸してください」
佐天が横から手を伸ばし、100円を入れる。白井は機械の正面のポジションを譲った。 「今の白井さんのプレイのおかげで機会のクセが大体掴めました」 「わたくしは囮だったんですの!?」 「い、いえいえそんなことないですって」 言いながら佐天はボタンを押した。白井もクレーンの進む先を目で追う。 佐天が手を離したのは、先ほど白井が手を離した場所より若干手前だった。そして更にクレーンは左へ進む。 クレーンが止まった。そしてそのままゆっくりと景品に向かう。 アームがぬいぐるみの胴体を掴んだ。 駄目だ。さっきと同じ。持ち上げきれずに落下するに違いない。 そう思っていた白井は、目の前の光景に息を呑んだ。 「アームが……」 そう。アームが左脇の下と右肩に上手く引っかかっている。 アームが上がっても、ぬいぐるみは安定したままだ。 クレーンがダクトに戻ってくる。アームが開いた。ドサッ、と重いものが落ちる音がした。 佐天は取り出し口に手をいれ、景品を取り出す。 「やった!とれたぁ!」 彼女は満面の笑みを浮かべた。無事景品を獲得した喜びからか、ぬいぐるみを強く抱きしめている。 その可愛い熊のぬいぐるみに思わず見とれそうになり、慌てて目を逸らす。他人のものをうらやましがるなんてそんなはしたないこと出来ない。 「流石ですわね、佐天さん」 白井はぬいぐるみが欲しい気持ちを必死に抑え、笑顔を浮かべた。 「こーゆーのは慣れですね。ちなみに今の取り方はたすきがけっていうんですけど」 ああ、確かに斜めにアームを引っ掛ける様子がたすきに見えなくもない。 「どうぞ」 不意に佐天は軽い口調で言った。 へ? 白井は自分の耳を疑いながら声の聞こえたほうを向く。 「どうぞ。御坂さんにあげるんでしょ?」 佐天は抱いていたぬいぐるみを白井に差し出した。 「わたくしに、ですの?」 「ええ。先にその人形に目を付けたの白井さんですし」 「先ほどあんなに喜んでいらしたのに……」 「あれはゲームをクリアしたことに対する喜びみたいなものですよ。景品が欲しかったわけじゃありませんから。あ、その熊は確かに可愛いと思いますけど」 はい。 佐天は再びぬいぐるみを白井のほうへ押しやった。 それを、おそるおそる受け取る。 そのぬいぐるみは、とてもやわらかかった。 そして、ケースの中に入っていたときよりも数倍かわいくみえるのは何故だろう。 「あ、ありがとうございます。お姉さまもきっと喜ぶと思いますの」 そう言いつつも、白井はそのぬいぐるみを美琴に渡すつもりはなかった。 寮に持って帰ると彼女は喉から手が出るほど欲しがるだろうが、たとえ愛しのお姉さまのお願いでも絶対に譲るものか。 ――大事にしよう。 白井はその僅かに佐天のぬくもりが残っているぬいぐるみを、ぎゅっと抱きしめた。
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503 :friends and lovers[sage]:2011/01/21(金) 23:32:09 ID:r6XJNsV7 -
5 佐天はトイレに向かうためゲームセンターから出た。 白井にはすぐ戻るから待っておいてくれといってある。 白井さん……ふふふ。 先ほどのUFOキャッチャーのくだりを思い出し、思わずにやける。 自分がぬいぐるみを取ったときのあの羨ましそうな顔。必死に隠そうとしていたようだが、全部表情に表れていた。あんな顔をされれば譲らないわけにはいかなくなってしまう。 そして白井は最後まで自分がぬいぐるみを欲しがっていることを素直に認めなかった。普段美琴の趣味に口出ししている分、照れくさくていえなかったのだろう。 自分では気付かれていないと思っているのであろう、その様子がなんともおかしくて。 気持ちよく鼻歌を歌いながら地下街を歩く。これだけ規模の大きな建造物なのに、トイレが1フロアに2、3しか設置されていないのは何故だろう。 そのまましばらく歩き、ようやくトイレの標識が見えてくる。さっさと済ませて早く白井さんの所に戻りたい。 佐天が女子トイレに駆け込もうとしたその時。 不意に何者かに腕を掴まれた。 「……へ?」 状況を把握して振り返る前に、佐天は腕を引かれ背中をトイレ横の壁に叩きつけられる。 鈍い痛みに襲われ、思わず目を閉じた。 おそるおそる再び目を開く。その目に映ったのは、いかにも柄の悪そうな男共が5人。 スキルアウトだ。 無用心だった。 佐天は自らの行いを悔いる。 ちょっと考えれば予想できたことだった。 今が夕方であること。 ここは、若者が遊ぶために集まるゲームセンターが数多くある場所で、その中でも特にひとけのないところであること。 こいつらの目的は何なのだろう。 金か。それとも自分の体か。 「嬢ちゃん。痛い目見ないうちにさっさと金出せ」 真ん中にいるリーダー格っぽい男が言った。 ……ストレートな要求どうも。 佐天は内心で皮肉る。 しかしこいつらの要求が金ならば、スマートな解決策がある。 まずこいつらに大人しく金を渡す。 ダッシュで白井のところへ戻る。 白井に追いかけてもらい、財布を取り返す。 瞬時に佐天の脳内でその行動がシュミレーションされた。これなら痛い目に合う必要はないし、財布を失う可能性も少ない。 佐天はポケットから財布を取り出す。 スキルアウトの連中ががやがや騒いでいる。 リーダーらしき男は財布を受け取るため、佐天の肩に押し付けていた手を離した。 その瞬間。 佐天は男の手に思いっきり噛み付いた。 「い、痛ぇええええええええ!」 アステカの魔術師を苦しめた佐天の噛み付き攻撃は、スキルアウトの男に対しては十分すぎるほどの威力を持っていた。 リーダーの周りにいるスキルアウトたちが動き出す前に、佐天は逃走を開始する。
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504 :friends and lovers[sage]:2011/01/21(金) 23:35:15 ID:r6XJNsV7 - 何故自分は一番安全な行動を取らなかったのだろう。
佐天は自身に問いかけた。 スキルアウトに噛み付くなんて、馬鹿げている。逆上させて余計に痛い目に合うのがオチだ。 後ろから男達が叫びながら追いかけてくる。しかし助けに入るものは誰もいない。 自分が逃げているのは、白井が待っているゲームセンターとは逆の方向。 ああ、そうか。佐天は自分の行動の理由を理解する 自分は、白井に助けてもらうのが嫌だったんだ。 以前佐天は同じようにスキルアウトに襲われていて白井に助けてもらったことがある。 その時感じたのは、自分と白井とを隔てている、高く、厚い壁の存在。 今日ゲーセンで遊んでいたときは、その壁は完全に取り払われていたと思う。 今自分が白井に助けを求めれば、その壁が再び現れるかもしれない。 それが、佐天は怖くてたまらなかった。 でもそれにしたってさっきの行動は無茶しすぎだった。 先ほどよりも男らとの距離は縮まっている。そして全員が鬼の形相で佐天を汚く罵る言葉を吐き続けている。 まずい。追いつかれる。 タバコや酒でぼろぼろの体とはいえ、彼らは年上の男性だ。身体能力で佐天が及ぶはずもない。 肺が苦しいのは敢えて考えないようにしていたが、とうとう息が切れてきた。走るスピードががくんと落ちる。 それから数メートル逃走したところでコンクリートブロックに躓いた。荒いアスファルトの床がひざを削り、そこから血が滲む感触があった。 男らに取り囲まれる。 リーダーの男は佐天の胸倉を掴んだ。 「てめぇ……いい度胸してんじゃねーか。めっちゃ痛かったぞ」 とっさで気が付かなかったが、先ほど自分は相手の指を噛んだらしい。男の右手の指からはだらだら血が流れている。 男の息は荒く、目は血走っている。 舐めきっていた女子中学生から手痛い反撃を食らったのがよほど悔しかったのか、本気で怒りを感じているようだ。 まずい。本気でまずい。 リーダーの男は懐からナイフを取り出した。そして血を流している方の手でそれを掴む。 周りの男らは口笛を吹いたり、殺せと叫んだり囃し立てている。 ここには先ほどのトイレ脇と違って監視カメラが設置されている。それすら省みないほどの怒りなのか、ただの馬鹿なのか。 一瞬考えて、そんなのはどうでもいいことだと考えを放棄する。自分が傷つけられようとしている事実に変わりはない。佐天にとって一番の問題はそれなのだ。 男は鞘を抜き、ナイフの刃の部分を露出させた。その刃が地下街の薄暗い光を反射し、ギラギラ光る。 佐天の恐怖は沸点を迎えた。 理性の働きが鈍くなり、とにかくこの空間から抜け出そうと必死にもがく。 リーダーの男は側に居た4人に佐天の動きを封じるように命じた。 突然伸びた数本の腕。佐天の体は壁に押し付けられ、一切の動きを封じられる。 男のナイフを持っていないほうの手が伸びる。男は佐天の手首を掴み、自分のほうへと引き寄せた。 まさか……まさか…… 「くッ!」 右手のうち、4本の指に鋭い痛みが走った。男が佐天の指にナイフの刃を押し付けたのだ。 「俺も痛かったんだからな?見ろよこの指」 男のナイフを持つ手からは相変わらずだらだら血が流れている。 男は、ナイフを握る手に力を加えようとした。 その時。 男の姿が、消えた。 普通ならば突然の怪奇現象に戸惑うところだろうが、佐天はそうならない。その現象はこれまでに何度も見てきた。そしてそれが何によるものなのかもはっきり知っていた。 「風紀委員ですの」 目に怒りをたぎらせた、白井黒子が立っていた。
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507 :friends and lovers[sage]:2011/01/21(金) 23:38:05 ID:r6XJNsV7 - 「あ……」
佐天はその場に崩れ落ちた。 それは助けられた安堵によるものではない。 恐れていたことが現実になろうとしている恐怖。 「無事ですの?」 白井が佐天の方を見る。 彼女は佐天の手につけられた切り傷を確認し、息を呑んだ。 そしてスキルアウトの男達の方をもう一度見る。 「念のため確認しておきますが――彼女のこの傷は貴方達がつけたのですね」 白井の声は非常に小さく、相手に届いたかすらわからない。 しかし、その小さい声に凝縮された溢れんばかりの怒りに押されたのか、男達は1歩後ずさる。 「……俺だよ」 空間移動で強引に地面にねじ伏せられていたリーダーの男が立ち上がる。 「文句あっかよおぉおおお!!」 男はナイフを高く掲げ、白井に向かって振り下ろす。 しかしその刃が白井を捕らえることはなかった。 「こちらとしては平和的解決が望ましかったのですけど」 ヒュン、という空気を裂く音とともに男の背後に白井が出現する。 「抵抗するなら実力行使もやむないでしょう。あくまで仕方なくなんですからね。仕方なく」 白井は振りかえろうとする男の頭を思いっきりぶん殴った。 スキルアウトと戦って……いや、これは最早戦いとは呼べないだろう。白井による一方的な攻撃だ。 その様を見て、佐天は7月の出来事を思い出す。 あの時、自分が手も足も出なかった相手を白井はいとも簡単にねじ伏せた。 特殊な能力を持っている1人に対しては少々手こずったようだが、結局佐天のような凡人が思いつきもしないようなビルを倒すというありえない方法でそれを撃破した。 大能力者の白井。 無能力者の佐天。 格の違いを残酷なまでに見せ付けられた。 自分と彼女では生きる世界が違う。自分と彼女の間には高い壁があって、2人は人間として完全に異なっている。その時はそう感じざるを得なかった。 その壁は薄くなったものの、ずっと2人の間に存在していたと思う。 そして今日。 白井と一緒に遊んでいる時、白井も佐天と同じ一人の人間なのだと感じた。 太鼓のゲームではしゃいでみたり、人形を欲しがってみたり。 あの時彼女は確かに自分と近くにいた。 壁は存在しなかった では、今は? 佐天は白井の戦いを見る。 白井はスキルアウトの一人の足を払い、転んだところを踏みつけた。 後ろからの攻撃に対し、振り返らずにそれを回避。カウンターを食らわせる。 ナイフの男は既に白井にぶちのめされて伸びていた。 確かに、彼女と自分とは違う。 佐天に力はないし、白井には力がある。 この光景にその事実ははっきりと映し出されていた。 でも。 それを見ても、佐天の心に壁が復活することはなかった。 佐天は自分の心がわからない。 あの時は彼女の戦いを見て、自分から高い壁を築いた。 なのに何故だろう。 同じものを見ているはずなのに、今は頼もしさしか感じない。
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508 :friends and lovers[sage]:2011/01/21(金) 23:40:37 ID:r6XJNsV7 -
6 白井黒子は警備員の詰めどころにいた。 スキルアウトの屑共を警備員に引き渡す必要があったためだ。 ……ふぅ。 白井はため息をついた。 佐天の帰りが遅いので、ちょっと探しに行ってみればアレだ。 当の佐天は、現在警備員による手当てを受けている。ひざをすりむいたのと。指を切りつけられたのとでなんだか痛々しかったが、幸い2箇所とも大した傷ではなかったようだ。 「お姉さまの知り合いに常に不幸不幸言ってる野郎がいますが、あなたもかなり酷い巻き込まれ体質ですわね」 「いやあ、まあ無事だったんだからいいじゃないですか」 佐天はあの後、なぜか妙に嬉しそうににこにこしている。スキルアウトに襲われることが楽しいことのはずないのだが。 「どうしてそんなに嬉しそうなんですの?」 「いやあ、くよくよ気にしてたことがあったんですけど、それが一気に解決しちゃったみたいで」 「……よくわかりませんわ」 「でしょうね」 カツアゲされることがどうして悩み解決につながるのだろうか。白井は首をかしげた。 「終わりました」 佐天の手当てを行っていた警備員が言った。 「あ、ありがとうございます」 佐天は礼を言った。警備員はいいえ、といって白井の方を向く。 「あとはもうこちらにまかせて帰宅していいですよ。ご協力ありがとうございました」 こちらこそ、と白井は頭をさげる。 外へ出ると、もうほとんど太陽は沈みかけていた。 もうどうせ門限には間に合わないだろう。ならいっそもう何時に帰っても同じだ。 「佐天さん」 「どうしました?」 「この後まだお時間があるなら、ちょっとお茶しません?最近この近くにおいしい喫茶店を見つけまして」 「で、佐天さん。注文はお決まりですの?」 「ちょ、ちょっとまってください!メニューにかいてある言葉の意味がわからない!ダージリンとかアールグレイとかならかろうじて知ってますけど、茶葉の種類とかほとんど知りませんって」 「なら知っているのを頼めばいいじゃありませんの。そのほうがいつも飲んでいるのと味を比べるにはちょうどいいですわよ」 白井はテーブルに置かれている小さな鐘をならす。チーンと涼しげな音色が店内に響いた。やってきた店員に佐天はダージリンとチョコタルトを、白井はヌワラエリアと苺のミルフィーユを注文する。 「おしゃれな店ですね」 店員が去った後、佐天が呟いた。 「そうでしょう。誰にも教えたことないんですのよ、ここ」 その喫茶店は、風紀委員の仕事帰りに偶然見つけたものだった。 おしゃれな外装の雰囲気につられて入店してみると、思わぬ良店だった。 内装は常盤台中学ほどわざとらしくない程度に上品で、紅茶とお菓子の味もかなりのものだった。 その店の存在は白井だけの秘密だった。 初春と一緒に来たこともないし、美琴と一緒に来たこともない。 なのに、何故か自分は佐天にここを紹介したいと思った。 「よく来るんですか?」 「週に1度くらい。甘味のとりすぎはよくありませんからね」 「ははは。私も食べるとすぐ太っちゃう人なんでよくわかりますよ」 「好きなものを好きなだけ食べてもあの素敵プロポーションを維持できてしまうお姉さまが憎らしいですわ」 白井は笑いながら言った。
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