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◆wGHPVDh6M.
エーケービー四八で百合SSPart2

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エーケービー四八で百合SSPart2
740 : ◆wGHPVDh6M. [sage]:2011/01/13(木) 21:36:46 ID:4pYIu6kD
連投になるのでどうしようか迷ったのですがスレの活性化に期待して投下します。
>>735>>737ありがとうございます!
エーケービー四八で百合SSPart2
741 : ◆wGHPVDh6M. [sage]:2011/01/13(木) 21:37:24 ID:4pYIu6kD
近くて遠くて、手を伸ばしたら届きそうなのに怖くて掴めない。
そんな関係も何年経っただろう。それでも何も変わらないのはきっと私が臆病だから。



タオルで髪を拭きながら部屋に入る。
寒ぅ、なんて独り言を呟いて、部屋にあるヒーターをつけて一呼吸。
そしてトコトコと一直線に足は窓へと向かう。
閉まっていたカーテンを開けて確認するのは向かいの部屋。
当たり前の様にカーテンが閉まっていて見えるのは部屋の明かりとなんだかちらちら変わる光。
テレビでも見てるんだろうか。
そんな事を思いながらそこから離れてベッドに腰をかけた。
ギシリ、と軋んだ音がやけに耳に残る。

二人はいわゆる幼馴染。いつでもどこへでも一緒に行った。
いっぱい笑ってたまに喧嘩したり泣いたりして、それでも大好きな友達で、親友。
元気で明るくて人懐っこくていつも笑顔が眩しくて。
面倒見が良くて楽しい事や面白い事には一番に首を突っ込んでは手を伸ばして誘ってくれた。
人見知りでうまく自分を表現できない私とは大違い。
いつも光って見えて羨ましくて憧れて。
いつの間にか友達と思えなくて恋愛感情を抱く事になるのだけど、
歳の離れてる二人は大人になるにつれ次第に距離ができて一緒にいる事も少なくなった。
たまに見る彼女の隣にはいつも一緒の綺麗な人がいる。
同じ年だと知った時初めて年の差を恨んだものだったけど。
エーケービー四八で百合SSPart2
742 : ◆wGHPVDh6M. [sage]:2011/01/13(木) 21:38:01 ID:4pYIu6kD
ちらりと向かいの部屋の様子を伺うけれどさっきと何の変化もない。
もしかしたらテレビつけっ放しで寝てるのかもしれないな。
よだれでもたらして幸せな夢でも見てるかもしれない。
昔はよく泊まりに行ってつけたまま寝ちゃだめだよー、なんて注意もしてたっけ。
テレビを消すと「今見てたのにー」ってムキになって無理やり起きて、でもまたすぐ寝る。
でもそんな時必ずしてる幸せそうな寝顔を想像したら顔が緩んだ。

もう一度窓の近くに行って小さな声で呼んでみようか。
今度は静かに窓を開けて。風が頬に当たり濡れた髪を冷やした。
気がついて欲しい気持ちと欲しくない気持ちを含んだ言葉。
久しぶりに呼んでみる。うまく呼べるか心配だったり。

「…ゆうこー」

部屋には変化がない。
やっぱり寝てるのか、もしくはテレビの音で聞こえないんだろう。
なんとなくほっとしたようなガッカリしたような。

「おーい、呼んだかーい?あっちゃーん」
「…え?」

目の前の窓はやっぱり閉まったままなのに、何故か聞こえる大好きな人の声。
窓から身を乗り出して辺りを見回すと「やっほー、なんか久しぶりぃ」なんて言いながらこちらに手を振っている。
優子は部屋じゃなくて家の前の道路でうろうろしてた。
ダウンジャケットを着てマフラーと耳あてと手にはカップを持って。
…一体何やってんだ?
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743 : ◆wGHPVDh6M. [sage]:2011/01/13(木) 21:38:27 ID:4pYIu6kD
「…何してんの?こんな夜遅くに。家の前でも危ないよ?」
「いやいや、あれが綺麗でねぇ」

そう言いながら見上げて上を指差す。
そのしぐさにつられて空を見るとそこには星が沢山見えた。

「おー…」
「凄いっしょ?雲もないしさ、さっきふと外を見たら発見しちゃってこれは見なきゃ!と思って
 出てきた次第です。でも寒いからココア持参なんでなんかちょっと格好つかないんだけども」

にしし、と笑う優子。確かにその口からは白い息が見える。
まったく、子供みたい。よほど寒いのか喋りながらも足はばたばたと忙しく動いてるし。
ばかだなぁ。そんな姿がばかみたいに愛しいけど。

「ねぇ?あたしもそっち行ってもいい?」
「おー、もちろん。でも髪乾かしてきなー?風邪引くからさー」
「うん、待っててね」

そう言ってばたばたと大忙し。
わしゃわしゃと急いでタオルで髪を拭いて、ドライヤーで乾かして。
早く行かないと。早く会いたいよ。
少しだけ濡れてる髪はニット帽でなんとかして、
首にはマフラーを巻いてコートを着て静かに部屋を飛び出した。
こんな浮かれた気持ち久しぶりなんだもん、仕方ないよ。

家の扉を開けて道路へ出るとさっきまで居た優子の姿がそこにはなかった。
エーケービー四八で百合SSPart2
744 : ◆wGHPVDh6M. [sage]:2011/01/13(木) 21:39:01 ID:4pYIu6kD
「あれ…」

きょろきょろと辺りを見回すけどそこにはやっぱり誰も居なかった。
もしかして夢?なんて思うけど、こんな夢はさすがに残酷すぎるよ。
鼻の奥がつーんとしてきて目の前が潤んで滲んで見えた時にその声は聞こえた。

「あぁ!早すぎるよあっちゃん。もう〜そんなに会いたかったのかぁ?」

家から出てきた優子の右手にはさっき持ってたカップ。
左手にももう一つ。
それは優子の家にある私のカップだ。

前に優子の家に遊びに行った時、とても可愛いカップを見つけた。
可愛いな、いいなぁ、なんて言ってた私を見てちょっと困った様に笑ってた優子。
それに気がついて「別に欲しいって言ってないよ」と慌てて言うと、

「それ、あたしもお気に入りだからさ、あげられないからあっちゃん専用カップにしちゃおう。
 うちに来た時の、専用カップ。置き場所はうちだからね」

と言って満面の笑みを浮かべた。

…そんな事されたらますます好きになるのにズルイんだよ、ゆーこ。

優子の姿を見て泣きそうになってたのを慌てて隠した。
泣いてたなんて知ったら優子困るし。
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745 : ◆wGHPVDh6M. [sage]:2011/01/13(木) 21:39:27 ID:4pYIu6kD
「ゆうこが遅いんだよー。居なくなったと思って焦ったじゃん」
「ごめんごめん。ほら、これ。温かいの飲んでないとホント寒いからさ。はい」
「うん…、ありがと」

一口それを飲んだら甘くて、なんだかまた泣きそうになった。

「こんだけ星が出てたら流れ星の一つでも見えないかなーなんて思ったんだけど、だめだね。
 ここらへん住宅街だし明るいから見えないのかね」

優子がはぁー、なんてため息をついた。大きく出る白い息。
鼻が少し赤いし、いつから外に居たんだろう。

手を伸ばして優子の頬を触るとビックリするくらい冷たかった。
さっき私が持ってるココアを入れた時家の中に入ったはずなのに。
それと、久しぶりに優子に触った気がする。
くすぐったそうにする優子を見てまた胸が痛くなった。

「そういえば久しぶりね、あっちゃん。元気してた?」
「うん、多分まあまあ元気」
「それは元気なのかい」

くっくっ、と笑って私の顔を見る。
やばい。赤くなってないかな。暗いから見えないかな。
顔はそらしたくないからそのままでいるけど出来れば見られたくないよ。
隠すように私はまたカップに口をつけた。
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746 : ◆wGHPVDh6M. [sage]:2011/01/13(木) 21:40:08 ID:4pYIu6kD
「…ねぇ?」
「んん?」
「流れ星に何を願うつもりだったの?」

流れ星と言えばお願い事だろう。
私の問いに「んー」と小さく唸ってから優子は空を見上げた。

「あたしの友達に好きな人がいるんだってさ。でも絶対望みがないって落ち込んでたから何とかなんないかなって。
 でもよくよく考えたら違う人間の願いをあたしがしてもいいのかな?」
「……それって、この前一緒にいた人?あの、背の高い綺麗な…」

そこまで言ってしまったと後悔した。
なんで知ってるんだとか追求されかねないし。
でも優子はその事についてはあまり気にしていないようだった。

「あー、そうそう。こじぱ…小嶋陽菜って言うんだけどね。仲良くてさーってまぁあたしが絡んでるだけなんだけど。
 見てると構いたくなってさー、で、悩んでるし何とかしたいなーって。
 好きな相手って言うのもあたしの知ってる人だからどうにかも出来そうなんだけど、
 こればっかりは出て行っちゃいけない様な気がするんだけど何も出来ないってのが歯がゆくて」
「あはっ、ゆうこらしいね」

私が笑うと「そう?」って言いながらちょっと照れたしぐさをした。
それと少しだけ心のモヤモヤが晴れた。
そっか、好きな人とか恋人じゃなかったんだ。
それが知れただけで心の底から嬉しい、けどこれから先こんな事がまたあるかもしれない。
気になって不安で、たまに嫌な事考えたりして。
エーケービー四八で百合SSPart2
747 : ◆wGHPVDh6M. [sage]:2011/01/13(木) 21:40:36 ID:4pYIu6kD
隣の優子を見ると「ながれろー」なんて言いながら目をキラキラさせて空を見てて。

そうだね。
流れ星、私も見たいな。
そうしたらこの気持ちを伝える勇気を下さいって願うから。
恋人同士にして下さい、とは願わないよ。だって努力はしないといけないと思うし。
でも勇気を出すのも努力が必要なんだろうな。
二人の白い息が混ざって消えて、また白い息。

「うー、だめだね。寒いからそろそろ家に戻ろうか?もう遅いしね」
「あ…うん、そうだね」
「んじゃぁー枕持ってくから布団あっためといてね?」
「え?」

優子の言葉に目を丸くしていると優子が振り向いて「言ってる意味がわかんないかなー?」と言いながら
私の頭を撫でた。と言うよりニット帽のボンボンを掴んだ、と言う方が正しいけど。

「久しぶりにそっち泊まりに行くー」

一瞬どうしようか体は固まったけど、返事は一つしかなくて。
そんなのわかってた事だけど。

「…わかった。このカップ、大事に洗っといてね?割ったら怒るから」
「おおう、りょーかいだぜ」

手渡すカップ。
また後で、と家の中に入った優子。

さて、この後私はどうなるのかな。
緩む口元を押さえて家の扉を開けた。
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748 : ◆wGHPVDh6M. [sage]:2011/01/13(木) 21:41:02 ID:4pYIu6kD
◇◆◇

「なんで部屋から空見なかったの?部屋からなら空に少しだけ近いし、外よりも寒くないでしょ?」

布団の中で目の前にいるあっちゃんに質問される。
眠いのか半分うとうとしているみたいだけど。

そりゃ、部屋から見たかったよ、寒いし。
でもさカーテン開けて窓開けたらあっちゃんの部屋が見えてさ。
カーテンが開くかな?開かないかな?なんて期待してみてたんだけど
なんかそんな自分がちょっとだけ気持ち悪い人のように思えてきたんだもん。
最近あんまり話さなくなったからいざ会ってもどうしようか、とか思ってたし。
悶々としたから頭冷やそうかと思って外に出てみて見上げたら星がいっぱいで。
うわぁーうわぁー、あっちゃんに教えたいなー、なんて思ったけど何かやっぱり行きにくくて。
そしたら窓が開いてあたしの名前を呼ぶんだ。なんだソレ。かわいすぎるだろ!
平静を装ってみたけど、ちゃんと装えてたのか?
願い事は何?なんて聞かれてとっさにこじぱの事言ったけど、それも事実だけど本当に願いたいのは一つだよ。
幼馴染で一番近かったのに少し距離の出来た好きな子との距離が少しでも戻りますように、って。
もちろん、それは元通りじゃなくて一歩前に出た関係になりたいなって。
でも流れ星見えなかったし。
とりあえず元の位置まで戻って、それからは努力しかないでしょ?

ぐるぐる考えて質問の答えで出た答えは。

「…内緒」

あまりにも陳腐な言葉で自分に呆れたよ。
でもその言葉に返事はなくてあっちゃんは寝てた。
考えてた時間が長すぎたらしい。まぁあっちゃんらしいけど。

「いつか必ずいうから、…その時は嬉しい言葉が聞けると良いけどなあ」

その言葉もあっちゃんに聞こえる事無く静かな部屋に消えた。

END


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