- おい、おまいら!みんなで小説を作るぞP11
114 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M []:2014/08/19(火) 07:30:05.44 ID:VFZ4ROpB - 敦子は、静かに献血を呼びかけた。そうしながら心の中でほっとしている自分に気がついた。
無論、自分も鰻原も処罰は免れまい。特に鰻原は殺人罪を免れることはない。 しかし、無抵抗の子供を大量虐殺するという最低の罪を犯さないですんだ。せめてそれだけは救いだ。 人間の中にはどうせ死刑になるなら何をしても一緒だと考える者もいるが、いやいや違うぞと考える者もいる。その差はどこから来るのかは分からない。 ADの酒井田は進行を確認した。そうしながら、範子の無残な死体にちらっと目をやる。俺なら「この男を撃て」と言う……だけど彼女はあくまで説得で解決しようとした。 インテル入ってるなんて馬鹿にしたことが悔やまれる。彼女にはどんなコンピューターにもない素晴らしいものがあった。土壇場でも凶悪な犯人を説得するやさしさと勇気。 そう、佐藤はきっと範子のそう言う面をクラスでただ一人見抜いていた。安全を図れとはそういう意味もあっての事だったのであろう。 成績ではなく、範子の素晴らしさはやさしい心とずば抜けた勇気にあった。だから彼女はバスに乗ると言ったのだし、佐藤はあえて「交換」と言ったのだ。 インテルとか言われてるからだ。その上であんな風に「実際には「交換」できる人間なんかいない」発言で大事に思っていることを伝えたのだ。 佐藤にはなんて説明するんだ。小林は犬ころのごとく射殺されたと言うか。 また、酒井田は寧美を思った。やるせなさがこみ上げてくる。 彼は「わたしの夢はおかあさんになることです」と言う少女を虫けらのように射殺する宗教がのさばる世の中が来ることは、彼女のためにも絶対に阻止すると誓った。
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115 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M []:2014/08/19(火) 07:30:46.89 ID:VFZ4ROpB - アナウンサーの婦人警官は、萌未が担当した。おばちゃんの婦警は、高田が心配したように登場することはなかった。
「あやつは鼻の下を伸ばしていることであろうよ」 「それぐらいは仕方ないでしょう」とトナカイは言った。 実際には萌未はアイドルとしての才能があることを立証した。クリスマスは近い、と萌未は言った。みんながんばって。 犬田や小川の説得もあった。どこまで通用するかは未知数の説得だ。 だが、酒井田はこれが通じると信じていた。同じ人間同士、信じることが出来なくては未来を共に生きるなど到底不可能、この後永遠に殺しあうしかない。 そしてその説得の基本形を、レッツシンキングナウと馬鹿にされていた範子が命をもって示したのだ。 放送をするために「私の夢はおかあさんになることです」と言って射殺された寧美のためにも、成功させねばならなかった。
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116 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M []:2014/08/19(火) 07:32:12.06 ID:VFZ4ROpB - 萌未はもう一回登場して、簡単に状況を紹介した。
もう生華学会側が押さえている拠点はわずかだった。今現在も日本中で学会は蜂起しようとしていると言う情報は入ってきているとも言った。 「しかし、今、東京で勝敗が決したのです。これ以上の戦いは無用な流血を生むだけです」と萌未は言う。 その時だった。倉田がスタジオに来た。次が出番だと待機している太田のところに駆け寄る。 「アメリカ大使が!」 「なんだと!」 「ファッキンジャップの元総理大臣を出せ、アメリカは正統とは認めないとか言ってます。生華学会とではなくアメリカと戦争しろだとか言って! もちろん英語で……」 「後だ、今は……」 ガーンと扉を開けてスミスが入ってきた。 「!”#$%&」 かなり酔っている。悪鬼の形相だった。 「わわっ」 太田はやむなくスミスをスタジオ外に押し戻した。
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117 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M []:2014/08/19(火) 20:42:42.14 ID:VFZ4ROpB - 酒井田はこのやり取りを見ながら冷や汗が背中を伝うのを感じていた。
そのときの彼は、このピンチに、この放送の「次回予告」みたいなCMのようなことを言って時間を稼ごうと姑息な手を考えてメモに必死で手書きしていた。 その内容はこうだった。 「次回予告 ちゃららーん 太田貞子と国会図書館の売店 伊能忠敬の大日本全図が奪われた。 これが「悪い外国」の手に渡り、巧妙に書き換えられれば日本中の地図はその効力を失い、日本は領土をも奪われてしまう。 貞子パンチは鉄をも砕く。 走れ大阪府警の装甲パトカー! 謎の国会図書館の売店は今回も全てを売っている。 次回、太田貞子と国会図書館の売店に乞うご期待」
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118 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M []:2014/08/19(火) 21:36:57.54 ID:VFZ4ROpB - 彼は本気でそれを「歌う」つもりだった。それで時間稼ぎしようと姑息に思っていたのだった。
ただ、彼にとっては正当な動機があった。 目の前で「おかあさんになること」が夢だった寧美が射殺され、範子がその射殺犯を説得しようとして射殺されるのを目の当たりにしたと言う事情があったからだ。 彼にとっては放送が失敗する事はたとえ自分自身が死んでも許されないことだった。 この危機を救ったのは睦美だった。まるでそれが予定だったかのように、さっと演台に立ち一礼して桜花の歌を歌い始めた。 「桜花の歌」は高校の授業で習う歌だが、校歌ではなかった。校歌は固い、おまえら戦前から持って来たのかというような歌があり入学式と卒業式以外では誰も歌わない暗黙の了解があった。 卒業生の集会でさえ校歌を歌う事はタブーであった。それぐらいひどかった。 その代わり、「桜花の歌」はいつも歌われた。特攻隊を暗示する若者の青春と恋と桜の花をかけた歌で平和を寿ぐ歌詞であった。 今は冬だが、平和の歌で桜花高校生が歌う歌はこれしかない。他にもいろいろ反戦の歌は上げられる事は上げられるが、しかし戦争反対をもろに叫ぶような歌はこの局面にはふさわしくない。 〜桜の花咲くころ、あなたはいない。うつくしい、散って行く桜花の花に…… 時間は稼げたが、しかし…… すっと酒井田の横に貞子が来た。 「私がやります」決然たる、鉄のような言葉だった。 「は?」 「演説は、やります」 「は……貞子様、原稿は?」 「ありません。時間は一分」 「そ、それは……閉めるのは婦人警官がします」 「よろしい」
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