- おい、おまいら!みんなで小説を作るぞ!!
936 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M []:2014/02/18(火) 17:05:08.70 ID:LcGm+ZkA - 「それにお前にだって悪い話じゃあるまいが」
「それは、隠さずに言いますが無職だったんでイライラはしてました」 「失業した理由は? こいつはどこへいっても聞かれるだろうから答える義務はあるぞ」 「はい、自衛隊を卒業し、免許を取得して就職したのはタクシー会社でした。天職だと思ってました。しかしある日たちの悪い客が来て喧嘩に… その時は口喧嘩で終わりましたが何を考えたのかその客は営業所から家へ向かう途中の俺を仲間数名と一緒に待ち伏せしていたんです」 「それで?」 「その時は必死でしたし、徒手訓練、つまり素手での格闘技も自衛隊時代から興味を持って取り組んでいましたから素人の仲間が何人かいようと敵うわけがない。 警察が来るころには奴さんは血反吐を吐いて地面でのたうち回っていました」 「ほうほう」 「でも、事件にはなりました。幸い、目撃者が多くいたので実刑とかにはなりませんでした。突然襲われたと言う事ですから…… ポリに引きずられて救急車に乗せられる時客は顔中口にしてわめいてましたが……しかし、会社的には客とトラブルになったと言う事で解雇になりました」 「ふむ……今度はそう言う事はしてもらっては困る」 「それはもう」
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937 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M []:2014/02/18(火) 17:26:28.94 ID:LcGm+ZkA - 翌日、パン工場に連れて行かれた涙田は目を見張った。
巨大な本社工場兼事務所は社員総数百名程度にしては大きかった。駐車場に並んでいる車の数も多い。 単車置場、自転車置場も充実していた。 大村は、社員総数百名とは言ってもパートなどの不正規雇用が多いのだとも言った。 社内は活気にあふれていた。 「会社は儲かっている」と大村。 「はい……」 「実はな…俺は行動隊に参加した事を後悔している」 「は?」 「俺の親父は頭がおかしい人で、共産党の人だった。その影響で俺は行動隊のエリートコースをたどり、チームを任されるようになった。 小幹部クラスだ。しかし、それは俺が思っていたような出世コースではなかった。そこへこの事件だ」 「は……」 「俺のどこにあんなチームリーダの力があったのか分らん。しかし俺たちは生き残った」 「それは、今考えても大村さんの指揮は百パーセント正解だったのでは? 特に最初の稜線に上る決断とか 夜間は移動しないと言う方針とかは、それがなければ全滅したかもしれませんよ」
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938 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M []:2014/02/18(火) 17:29:06.89 ID:LcGm+ZkA - 「うむ、話は変わるが……涙田、俺の長年の夢は運転手つきのベンツに乗る事だった。女房にもそう吹いていた」
「は、はい……」 「それに、マイクロバスで地下鉄の駅から社員を送迎したい。こいつも長年の懸案事項だ。そいつは可能か?」 「可能です 大型免許はありますんで、でもバス自体はどうするんですか?」 「バスはリースする」 「はい」 本社社屋二階の社員食堂は格別に豪華だった。 食を取り扱うと言う事からか、定食を頼むと飯も漬物もお茶も味噌汁類も(漬物もお茶も味噌汁も何種類か出た)食べ放題飲み放題だった。ただし、やっぱり飯を食べるには定食か、麺類に追加で頼む(百五十円だった)と ついてくる飯碗がいった。メラニンの奴だが、その代り、飯碗さえ持っていれば「サラダバー」とされている副食類も食べ放題だった。 圧巻は隅に置かれたテーブルの上に並んでいる調理パンや菓子パンだった。なんと、無料で取り放題だ。 一応、一人三個までと言う決まりと大量に取ってお金で売るのはNGと言う暗黙の了解はあった。しかし実質上取り放題だ。その代り、工場のラインでのつまみ食いは即懲戒解雇と言う鉄の掟があった。 それは物によっては試食が必要だがそれは万が一にも食中毒などになった場合、お客様の命にもかかわる事だから複数の社員が必ず立ち会う事とされていた。 勝手に取って食べる事はご法度だった。昔は食糧難だったからついついパンに手が出る工員もいたことだろう。 その事について聞いてみると、大村は、パンが食堂で取り放題、御飯がお代わり自由なのは戦後の食糧難の時代からの名残だが、それとつまみ食い厳禁と言う規律が対になっているため現在も続けていると言った。 そしてパンは美味しい。
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939 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M []:2014/02/18(火) 17:33:48.75 ID:LcGm+ZkA - ああそれで女子社員がみんなプックリしているのかなと涙田は思った。直接の担当となる配車係りの若い総務課員、角来美雪も見た目がまん丸だった。
お腹もぽんと膨らんでいる。美人だから許そうと涙田は思った。それに、挨拶や対応も丁寧だった。 社員食堂のテレビはNHK総合を流し、隅にはマッサージ椅子があった。もちろん無料だ。 何と驚いたことにこことは別に娯楽室があり卓球や将棋などを社員がしていた。こんな事は中小企業では考えられない。 しかもこの上、地下鉄の駅からのバス送迎! 「ああ、それはな……」と大村。 「はい……」 「社員を留め置くと言う事は中小企業にとっては最大の課題だからだ。万が一熟練した社員が抜けてしまったら? パンの職人だぞ? パンは工場の機械が勝手に作ってくれるんじゃなくて職人が作るものなんだ。大事という意味では熟練一歩手前の社員だってそうだ。 あー女子社員だってそうだ。もし仮に計測器を持って社歴十年の熟練OLと新人を比べたら?」 「は、はあ……」 「社には勤続五年、十年、十五年、二十年と五年刻みで特別ボーナスと特別休暇がある」 「え?」 五年の休暇ぐらいは貰えそうだと涙田は思った。
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940 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M []:2014/02/18(火) 17:37:02.75 ID:LcGm+ZkA - 「それはそうと、何だか角来と話が弾んでたみたいだな」
「え、え……」 「ああ、あいつも独身歴が長いなあ」 「え、そうなんですか? 」 「なんだ? 今日会ったばかりなのに気があるのか?」 「いえ、そんな事はありませんが……」 「声が小さいぞ! 涙田!」 「はい!」 「それはそうと、今日から、いや明日からパートナーになる人を紹介しよう」 その女性は三十代半ばでシングルマザーだと言う事だった。別府(べつふ)綾子と言う。彼女は伝票入力の係でパートであった。実は綾子の前の夫は大村の遠縁にあたり、交通事故で死んでしまったらしい。綾子は仕事の合間に大村の細かい面倒を見ていた。 お茶出しとか外出時のネクタイ直しとかだ。 伝票は、山のようにいつでも積み上がっている。 涙田はあんまり大村と綾子の関係を探らないようにしようと思った。伝票入力は難しくはなく途中でやめることができるから運転手の「副業」にはもってこいだった。
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