- 刑法の勉強法■44
623 :元ヴェテ参上 ◆JEhW0nJ.FE []:2014/02/19(水) 20:56:32.70 ID:8nf46bbg - A法益関係的錯誤説
最近の有力な見解は(嚆矢として、山中敬一「被害者の同意における意思の欠缼」関西大学法学論集33巻3=4=5号(1983年)271頁以下、 佐伯仁志「被害者の錯誤について」神戸大学年報1号(1985年)51頁以下)、欺罔によって得られた同意は、それが「法益関係的錯誤」に基づく 場合だけ、無効であるとしています。この見解によれば、【事例15】では、自己の生命の侵害という点に錯誤がない以上、有効な同意はあったこと になり、殺人罪は成立しないことになります(せいぜい自殺関与罪) 【事例16】 金を払うからと騙して頭を殴ることの同意を得て、殴ったにもかかわらず、金を払わなかった。 この事例においては、身体に対する有形力の行使という暴行罪における法益侵害の点においては錯誤がなかった以上、金がもらえないからといって、暴行罪 が成立することにはなりません。せいぜい詐欺罪の成立が問題になるにとどまります。 では、次のような事例ではどうでしょうか。 【事例17】(緊急状態に関する錯誤) 自分の家が炎上しているときに、通行人に対して、爆発と火傷の危険があるにもかかわらず、中に妻が閉じ込められているのでドアを開けるのを手伝って ほしいと頼み、これに応じた通行人がそれによって火傷を負ったが、実際は中には子犬がいただけであった。 この事例については、山中教授は、「法益関係的錯誤」がないにもかかわらず、同意を無効とする見解を主張していました(山中・前出345頁) その根拠は「同意者が優越する法益に迫る侵害の窮迫する危険があると錯誤して自らの法益の放棄を決意したような場合には、その決意は価値的に自由になされた とは言い得ないのであり、同意は無効とすべきである」というものです。 (3)若干の検討 まず、判例や本質的錯誤説が採る、錯誤がなかったら同意がなされなかったであろうという場合には、その錯誤は無効であるという見解は妥当でないと思います。 法益関係的錯誤説が批判するように、当該の法益侵害について正しい認識を持ち、それに対して同意している場合には、侵害の対象となる法益の法益性は失われた と考えることができるからです。当該法益と無関係な事情についての欺罔・錯誤により同意を無効として処罰するのでは、問題となる犯罪が、当該法益と無関係な 欺罔を処罰するために転用されることになります。 【続く】
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