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ファンクラブ会員番号774
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69 :ファンクラブ会員番号774[sage]:2017/02/05(日) 00:04:34.63 ID:/BwAiLDL
 そのころ、東京中の町という町、家という家では、ふたり以上の人が顔をあわせさえすれば、
まるでお天気のあいさつでもするように、怪人「二十面相」のうわさをしていました。
「二十面相」というのは、毎日毎日、新聞記事をにぎわしている、ふしぎな盗賊とうぞくのあだ名です。
その賊は二十のまったくちがった顔を持っているといわれていました。つまり、変装へんそうがとびきりじょうずなのです。
 どんなに明るい場所で、どんなに近よってながめても、少しも変装とはわからない、まるでちがった人に見えるのだそうです。
老人にも若者にも、富豪ふごうにも乞食こじきにも、学者にも無頼漢ぶらいかんにも、いや、女にさえも、まったくその人になりきってしまうことができるといいます。
 では、その賊のほんとうの年はいくつで、どんな顔をしているのかというと、それは、だれひとり見たことがありません。
二十種もの顔を持っているけれど、そのうちの、どれがほんとうの顔なのだか、だれも知らない。いや、賊自身でも、ほんとうの顔をわすれてしまっているのかもしれません。それほど、たえずちがった顔、ちがった姿で、人の前にあらわれるのです。
 そういう変装の天才みたいな賊だものですから、警察でもこまってしまいました。いったい、どの顔を目あてに捜索したらいいのか、まるで見当がつかないからです。
 ただ、せめてものしあわせは、この盗賊は、宝石だとか、美術品だとか、美しくてめずらしくて、ひじょうに高価な品物をぬすむばかりで、現金にはあまり興味を持たないようですし、
それに、人を傷つけたり殺したりする、ざんこくなふるまいは、一度もしたことがありません。血がきらいなのです。
 しかし、いくら血がきらいだからといって、悪いことをするやつのことですから、自分の身があぶないとなれば、それをのがれるためには、何をするかわかったものではありません。
東京中の人が「二十面相」のうわさばかりしているというのも、じつは、こわくてしかたがないからです。
 ことに、日本にいくつという貴重な品物を持っている富豪などは、ふるえあがってこわがっていました。
今までのようすで見ますと、いくら警察へたのんでも、ふせぎようのない、おそろしい賊なのですから。
 この「二十面相」には、一つのみょうなくせがありました。何かこれという貴重な品物をねらいますと、かならず前もって、いついく日にはそれをちょうだいに参上するという、予告状を送ることです。
賊ながらも、不公平なたたかいはしたくないと心がけているのかもしれません。
それともまた、いくら用心しても、ちゃんと取ってみせるぞ、おれの腕まえは、こんなものだと、ほこりたいのかもしれません。
いずれにしても、大胆不敵だいたんふてき、傍若無人ぼうじゃくぶじんの怪盗かいとうといわねばなりません。
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70 :ファンクラブ会員番号774[sage]:2017/02/05(日) 00:05:20.68 ID:/BwAiLDL
 そのころ、東京中の町という町、家という家では、ふたり以上の人が顔をあわせさえすれば、
まるでお天気のあいさつでもするように、怪人「二十面相」のうわさをしていました。
「二十面相」というのは、毎日毎日、新聞記事をにぎわしている、ふしぎな盗賊とうぞくのあだ名です。
その賊は二十のまったくちがった顔を持っているといわれていました。つまり、変装へんそうがとびきりじょうずなのです。
 どんなに明るい場所で、どんなに近よってながめても、少しも変装とはわからない、まるでちがった人に見えるのだそうです。
老人にも若者にも、富豪ふごうにも乞食こじきにも、学者にも無頼漢ぶらいかんにも、いや、女にさえも、まったくその人になりきってしまうことができるといいます。
 では、その賊のほんとうの年はいくつで、どんな顔をしているのかというと、それは、だれひとり見たことがありません。
二十種もの顔を持っているけれど、そのうちの、どれがほんとうの顔なのだか、だれも知らない。いや、賊自身でも、ほんとうの顔をわすれてしまっているのかもしれません。それほど、たえずちがった顔、ちがった姿で、人の前にあらわれるのです。
 そういう変装の天才みたいな賊だものですから、警察でもこまってしまいました。いったい、どの顔を目あてに捜索したらいいのか、まるで見当がつかないからです。
 ただ、せめてものしあわせは、この盗賊は、宝石だとか、美術品だとか、美しくてめずらしくて、ひじょうに高価な品物をぬすむばかりで、現金にはあまり興味を持たないようですし、
それに、人を傷つけたり殺したりする、ざんこくなふるまいは、一度もしたことがありません。血がきらいなのです。
 しかし、いくら血がきらいだからといって、悪いことをするやつのことですから、自分の身があぶないとなれば、それをのがれるためには、何をするかわかったものではありません。
東京中の人が「二十面相」のうわさばかりしているというのも、じつは、こわくてしかたがないからです。
 ことに、日本にいくつという貴重な品物を持っている富豪などは、ふるえあがってこわがっていました。
今までのようすで見ますと、いくら警察へたのんでも、ふせぎようのない、おそろしい賊なのですから。
 この「二十面相」には、一つのみょうなくせがありました。何かこれという貴重な品物をねらいますと、かならず前もって、いついく日にはそれをちょうだいに参上するという、予告状を送ることです。
賊ながらも、不公平なたたかいはしたくないと心がけているのかもしれません。
それともまた、いくら用心しても、ちゃんと取ってみせるぞ、おれの腕まえは、こんなものだと、ほこりたいのかもしれません。
いずれにしても、大胆不敵だいたんふてき、傍若無人ぼうじゃくぶじんの怪盗かいとうといわねばなりません。
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71 :ファンクラブ会員番号774[sage]:2017/02/05(日) 00:08:54.89 ID:/BwAiLDL
 佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送って了しまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、
とじ籠こもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。
 美しい閨秀けいしゅう作家としての彼女は、此この頃ごろでは、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。
彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。
 今朝けさとても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先まず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
 それは何いずれも、極きまり切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女の優しい心遣こころづかいから、どの様な手紙であろうとも、自分に宛あてられたものは、兎とも角かくも、一通りは読んで見ることにしていた。
 簡単なものから先にして、二通の封書と、一葉のはがきとを見て了うと、あとにはかさ高い原稿らしい一通が残った。
別段通知の手紙は貰もらっていないけれど、そうして、突然原稿を送って来る例は、これまでにしても、よくあることだった。
それは、多くの場合、長々しく退屈極る代物であったけれど、彼女は兎も角も、表題丈だけでも見て置こうと、封を切って、中の紙束を取出して見た。
 それは、思った通り、原稿用紙を綴とじたものであった。が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まっているのだった。
ハテナ、では、やっぱり手紙なのかしら、そう思って、何気なく二行三行と目を走らせて行く内に、
彼女は、そこから、何となく異常な、妙に気味悪いものを予感した。そして、持前もちまえの好奇心が、彼女をして、ぐんぐん、先を読ませて行くのであった。

 奥様、
 奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、此様このような無躾ぶしつけな御手紙を、差上げます罪を、幾重いくえにもお許し下さいませ。
 こんなことを申上げますと、奥様は、さぞかしびっくりなさる事で御座いましょうが、私は今、
あなたの前に、私の犯して来ました、世にも不思議な罪悪を、告白しようとしているのでございます。
 私は数ヶ月の間、全く人間界から姿を隠して、本当に、悪魔の様な生活を続けて参りました。勿論もちろん、広い世界に誰一人、私の所業を知るものはありません。
若もし、何事もなければ、私は、このまま永久に、人間界に立帰ることはなかったかも知れないのでございます。
 ところが、近頃になりまして、私の心にある不思議な変化が起りました。
そして、どうしても、この、私の因果な身の上を、懺悔ざんげしないではいられなくなりました。
ただ、かように申しましたばかりでは、色々御不審ごふしんに思召おぼしめす点もございましょうが、どうか、兎も角も、この手紙を終りまで御読み下さいませ。
そうすれば、何故なぜ、私がそんな気持になったのか。又何故、この告白を、殊更ことさら奥様に聞いて頂かねばならぬのか、それらのことが、悉ことごとく明白になるでございましょう。
 さて、何から書き初めたらいいのか、余りに人間離れのした、奇怪千万な事実なので、こうした、人間世界で使われる、手紙という様な方法では、妙に面おもはゆくて、筆の鈍るのを覚えます。で
でも、迷っていても仕方がございません。兎も角も、事の起りから、順を追って、書いて行くことに致しましょう。
 私は生れつき、世にも醜い容貌の持主でございます。
これをどうか、はっきりと、お覚えなすっていて下さいませ。そうでないと、若し、あなたが、この無躾な願いを容いれて、私にお逢あい下さいました場合、たださえ醜い私の顔が、長い月日の不健康な生活の為ために、二ふた目と見られぬ、
ひどい姿になっているのを、何の予備知識もなしに、あなたに見られるのは、私としては、堪たえ難がたいことでございます。
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72 :ファンクラブ会員番号774[sage]:2017/02/05(日) 00:09:34.75 ID:/BwAiLDL
 佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送って了しまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、
とじ籠こもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。
 美しい閨秀けいしゅう作家としての彼女は、此この頃ごろでは、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。
彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。
 今朝けさとても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先まず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
 それは何いずれも、極きまり切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女の優しい心遣こころづかいから、どの様な手紙であろうとも、自分に宛あてられたものは、兎とも角かくも、一通りは読んで見ることにしていた。
 簡単なものから先にして、二通の封書と、一葉のはがきとを見て了うと、あとにはかさ高い原稿らしい一通が残った。
別段通知の手紙は貰もらっていないけれど、そうして、突然原稿を送って来る例は、これまでにしても、よくあることだった。
それは、多くの場合、長々しく退屈極る代物であったけれど、彼女は兎も角も、表題丈だけでも見て置こうと、封を切って、中の紙束を取出して見た。
 それは、思った通り、原稿用紙を綴とじたものであった。が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まっているのだった。
ハテナ、では、やっぱり手紙なのかしら、そう思って、何気なく二行三行と目を走らせて行く内に、
彼女は、そこから、何となく異常な、妙に気味悪いものを予感した。そして、持前もちまえの好奇心が、彼女をして、ぐんぐん、先を読ませて行くのであった。

 奥様、
 奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、此様このような無躾ぶしつけな御手紙を、差上げます罪を、幾重いくえにもお許し下さいませ。
 こんなことを申上げますと、奥様は、さぞかしびっくりなさる事で御座いましょうが、私は今、
あなたの前に、私の犯して来ました、世にも不思議な罪悪を、告白しようとしているのでございます。
 私は数ヶ月の間、全く人間界から姿を隠して、本当に、悪魔の様な生活を続けて参りました。勿論もちろん、広い世界に誰一人、私の所業を知るものはありません。
若もし、何事もなければ、私は、このまま永久に、人間界に立帰ることはなかったかも知れないのでございます。
 ところが、近頃になりまして、私の心にある不思議な変化が起りました。
そして、どうしても、この、私の因果な身の上を、懺悔ざんげしないではいられなくなりました。
ただ、かように申しましたばかりでは、色々御不審ごふしんに思召おぼしめす点もございましょうが、どうか、兎も角も、この手紙を終りまで御読み下さいませ。
そうすれば、何故なぜ、私がそんな気持になったのか。又何故、この告白を、殊更ことさら奥様に聞いて頂かねばならぬのか、それらのことが、悉ことごとく明白になるでございましょう。
 さて、何から書き初めたらいいのか、余りに人間離れのした、奇怪千万な事実なので、こうした、人間世界で使われる、手紙という様な方法では、妙に面おもはゆくて、筆の鈍るのを覚えます。で
でも、迷っていても仕方がございません。兎も角も、事の起りから、順を追って、書いて行くことに致しましょう。
 私は生れつき、世にも醜い容貌の持主でございます。
これをどうか、はっきりと、お覚えなすっていて下さいませ。そうでないと、若し、あなたが、この無躾な願いを容いれて、私にお逢あい下さいました場合、たださえ醜い私の顔が、長い月日の不健康な生活の為ために、二ふた目と見られぬ、
ひどい姿になっているのを、何の予備知識もなしに、あなたに見られるのは、私としては、堪たえ難がたいことでございます。
WHY@DOLL Part8 [無断転載禁止]©2ch.net
73 :ファンクラブ会員番号774[sage]:2017/02/05(日) 00:10:17.70 ID:/BwAiLDL
 佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送って了しまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、
とじ籠こもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。
 美しい閨秀けいしゅう作家としての彼女は、此この頃ごろでは、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。
彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。
 今朝けさとても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先まず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
 それは何いずれも、極きまり切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女の優しい心遣こころづかいから、どの様な手紙であろうとも、自分に宛あてられたものは、兎とも角かくも、一通りは読んで見ることにしていた。
 簡単なものから先にして、二通の封書と、一葉のはがきとを見て了うと、あとにはかさ高い原稿らしい一通が残った。
別段通知の手紙は貰もらっていないけれど、そうして、突然原稿を送って来る例は、これまでにしても、よくあることだった。
それは、多くの場合、長々しく退屈極る代物であったけれど、彼女は兎も角も、表題丈だけでも見て置こうと、封を切って、中の紙束を取出して見た。
 それは、思った通り、原稿用紙を綴とじたものであった。が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まっているのだった。
ハテナ、では、やっぱり手紙なのかしら、そう思って、何気なく二行三行と目を走らせて行く内に、
彼女は、そこから、何となく異常な、妙に気味悪いものを予感した。そして、持前もちまえの好奇心が、彼女をして、ぐんぐん、先を読ませて行くのであった。

 奥様、
 奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、此様このような無躾ぶしつけな御手紙を、差上げます罪を、幾重いくえにもお許し下さいませ。
 こんなことを申上げますと、奥様は、さぞかしびっくりなさる事で御座いましょうが、私は今、
あなたの前に、私の犯して来ました、世にも不思議な罪悪を、告白しようとしているのでございます。
 私は数ヶ月の間、全く人間界から姿を隠して、本当に、悪魔の様な生活を続けて参りました。勿論もちろん、広い世界に誰一人、私の所業を知るものはありません。
若もし、何事もなければ、私は、このまま永久に、人間界に立帰ることはなかったかも知れないのでございます。
 ところが、近頃になりまして、私の心にある不思議な変化が起りました。
そして、どうしても、この、私の因果な身の上を、懺悔ざんげしないではいられなくなりました。
ただ、かように申しましたばかりでは、色々御不審ごふしんに思召おぼしめす点もございましょうが、どうか、兎も角も、この手紙を終りまで御読み下さいませ。
そうすれば、何故なぜ、私がそんな気持になったのか。又何故、この告白を、殊更ことさら奥様に聞いて頂かねばならぬのか、それらのことが、悉ことごとく明白になるでございましょう。
 さて、何から書き初めたらいいのか、余りに人間離れのした、奇怪千万な事実なので、こうした、人間世界で使われる、手紙という様な方法では、妙に面おもはゆくて、筆の鈍るのを覚えます。で
でも、迷っていても仕方がございません。兎も角も、事の起りから、順を追って、書いて行くことに致しましょう。
 私は生れつき、世にも醜い容貌の持主でございます。
これをどうか、はっきりと、お覚えなすっていて下さいませ。そうでないと、若し、あなたが、この無躾な願いを容いれて、私にお逢あい下さいました場合、たださえ醜い私の顔が、長い月日の不健康な生活の為ために、二ふた目と見られぬ、
ひどい姿になっているのを、何の予備知識もなしに、あなたに見られるのは、私としては、堪たえ難がたいことでございます。
WHY@DOLL Part8 [無断転載禁止]©2ch.net
74 :ファンクラブ会員番号774[sage]:2017/02/05(日) 00:11:32.89 ID:/BwAiLDL
 佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送って了しまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、
とじ籠こもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。
 美しい閨秀けいしゅう作家としての彼女は、此この頃ごろでは、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。
彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。
 今朝けさとても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先まず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
 それは何いずれも、極きまり切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女の優しい心遣こころづかいから、どの様な手紙であろうとも、自分に宛あてられたものは、兎とも角かくも、一通りは読んで見ることにしていた。
 簡単なものから先にして、二通の封書と、一葉のはがきとを見て了うと、あとにはかさ高い原稿らしい一通が残った。
別段通知の手紙は貰もらっていないけれど、そうして、突然原稿を送って来る例は、これまでにしても、よくあることだった。
それは、多くの場合、長々しく退屈極る代物であったけれど、彼女は兎も角も、表題丈だけでも見て置こうと、封を切って、中の紙束を取出して見た。
 それは、思った通り、原稿用紙を綴とじたものであった。が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まっているのだった。
ハテナ、では、やっぱり手紙なのかしら、そう思って、何気なく二行三行と目を走らせて行く内に、
彼女は、そこから、何となく異常な、妙に気味悪いものを予感した。そして、持前もちまえの好奇心が、彼女をして、ぐんぐん、先を読ませて行くのであった。

 奥様、
 奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、此様このような無躾ぶしつけな御手紙を、差上げます罪を、幾重いくえにもお許し下さいませ。
 こんなことを申上げますと、奥様は、さぞかしびっくりなさる事で御座いましょうが、私は今、
あなたの前に、私の犯して来ました、世にも不思議な罪悪を、告白しようとしているのでございます。
 私は数ヶ月の間、全く人間界から姿を隠して、本当に、悪魔の様な生活を続けて参りました。勿論もちろん、広い世界に誰一人、私の所業を知るものはありません。
若もし、何事もなければ、私は、このまま永久に、人間界に立帰ることはなかったかも知れないのでございます。
 ところが、近頃になりまして、私の心にある不思議な変化が起りました。
そして、どうしても、この、私の因果な身の上を、懺悔ざんげしないではいられなくなりました。
ただ、かように申しましたばかりでは、色々御不審ごふしんに思召おぼしめす点もございましょうが、どうか、兎も角も、この手紙を終りまで御読み下さいませ。
そうすれば、何故なぜ、私がそんな気持になったのか。又何故、この告白を、殊更ことさら奥様に聞いて頂かねばならぬのか、それらのことが、悉ことごとく明白になるでございましょう。
 さて、何から書き初めたらいいのか、余りに人間離れのした、奇怪千万な事実なので、こうした、人間世界で使われる、手紙という様な方法では、妙に面おもはゆくて、筆の鈍るのを覚えます。で
でも、迷っていても仕方がございません。兎も角も、事の起りから、順を追って、書いて行くことに致しましょう。
 私は生れつき、世にも醜い容貌の持主でございます。
これをどうか、はっきりと、お覚えなすっていて下さいませ。そうでないと、若し、あなたが、この無躾な願いを容いれて、私にお逢あい下さいました場合、たださえ醜い私の顔が、長い月日の不健康な生活の為ために、二ふた目と見られぬ、
ひどい姿になっているのを、何の予備知識もなしに、あなたに見られるのは、私としては、堪たえ難がたいことでございます。
WHY@DOLL Part8 [無断転載禁止]©2ch.net
75 :ファンクラブ会員番号774[sage]:2017/02/05(日) 00:13:13.77 ID:/BwAiLDL
 佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送って了しまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、
とじ籠こもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。
 美しい閨秀けいしゅう作家としての彼女は、此この頃ごろでは、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。
彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。
 今朝けさとても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先まず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
 それは何いずれも、極きまり切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女の優しい心遣こころづかいから、どの様な手紙であろうとも、自分に宛あてられたものは、兎とも角かくも、一通りは読んで見ることにしていた。
 簡単なものから先にして、二通の封書と、一葉のはがきとを見て了うと、あとにはかさ高い原稿らしい一通が残った。
別段通知の手紙は貰もらっていないけれど、そうして、突然原稿を送って来る例は、これまでにしても、よくあることだった。
それは、多くの場合、長々しく退屈極る代物であったけれど、彼女は兎も角も、表題丈だけでも見て置こうと、封を切って、中の紙束を取出して見た。
 それは、思った通り、原稿用紙を綴とじたものであった。が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まっているのだった。
ハテナ、では、やっぱり手紙なのかしら、そう思って、何気なく二行三行と目を走らせて行く内に、
彼女は、そこから、何となく異常な、妙に気味悪いものを予感した。そして、持前もちまえの好奇心が、彼女をして、ぐんぐん、先を読ませて行くのであった。

 奥様、
 奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、此様このような無躾ぶしつけな御手紙を、差上げます罪を、幾重いくえにもお許し下さいませ。
 こんなことを申上げますと、奥様は、さぞかしびっくりなさる事で御座いましょうが、私は今、
あなたの前に、私の犯して来ました、世にも不思議な罪悪を、告白しようとしているのでございます。
 私は数ヶ月の間、全く人間界から姿を隠して、本当に、悪魔の様な生活を続けて参りました。勿論もちろん、広い世界に誰一人、私の所業を知るものはありません。
若もし、何事もなければ、私は、このまま永久に、人間界に立帰ることはなかったかも知れないのでございます。
 ところが、近頃になりまして、私の心にある不思議な変化が起りました。
そして、どうしても、この、私の因果な身の上を、懺悔ざんげしないではいられなくなりました。
ただ、かように申しましたばかりでは、色々御不審ごふしんに思召おぼしめす点もございましょうが、どうか、兎も角も、この手紙を終りまで御読み下さいませ。
そうすれば、何故なぜ、私がそんな気持になったのか。又何故、この告白を、殊更ことさら奥様に聞いて頂かねばならぬのか、それらのことが、悉ことごとく明白になるでございましょう。
 さて、何から書き初めたらいいのか、余りに人間離れのした、奇怪千万な事実なので、こうした、人間世界で使われる、手紙という様な方法では、妙に面おもはゆくて、筆の鈍るのを覚えます。で
でも、迷っていても仕方がございません。兎も角も、事の起りから、順を追って、書いて行くことに致しましょう。
 私は生れつき、世にも醜い容貌の持主でございます。
これをどうか、はっきりと、お覚えなすっていて下さいませ。そうでないと、若し、あなたが、この無躾な願いを容いれて、私にお逢あい下さいました場合、たださえ醜い私の顔が、長い月日の不健康な生活の為ために、二ふた目と見られぬ、
ひどい姿になっているのを、何の予備知識もなしに、あなたに見られるのは、私としては、堪たえ難がたいことでございます。
WHY@DOLL Part8 [無断転載禁止]©2ch.net
76 :ファンクラブ会員番号774[sage]:2017/02/05(日) 00:13:52.06 ID:/BwAiLDL
 佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送って了しまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、
とじ籠こもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。
 美しい閨秀けいしゅう作家としての彼女は、此この頃ごろでは、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。
彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。
 今朝けさとても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先まず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
 それは何いずれも、極きまり切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女の優しい心遣こころづかいから、どの様な手紙であろうとも、自分に宛あてられたものは、兎とも角かくも、一通りは読んで見ることにしていた。
 簡単なものから先にして、二通の封書と、一葉のはがきとを見て了うと、あとにはかさ高い原稿らしい一通が残った。
別段通知の手紙は貰もらっていないけれど、そうして、突然原稿を送って来る例は、これまでにしても、よくあることだった。
それは、多くの場合、長々しく退屈極る代物であったけれど、彼女は兎も角も、表題丈だけでも見て置こうと、封を切って、中の紙束を取出して見た。
 それは、思った通り、原稿用紙を綴とじたものであった。が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まっているのだった。
ハテナ、では、やっぱり手紙なのかしら、そう思って、何気なく二行三行と目を走らせて行く内に、
彼女は、そこから、何となく異常な、妙に気味悪いものを予感した。そして、持前もちまえの好奇心が、彼女をして、ぐんぐん、先を読ませて行くのであった。

 奥様、
 奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、此様このような無躾ぶしつけな御手紙を、差上げます罪を、幾重いくえにもお許し下さいませ。
 こんなことを申上げますと、奥様は、さぞかしびっくりなさる事で御座いましょうが、私は今、
あなたの前に、私の犯して来ました、世にも不思議な罪悪を、告白しようとしているのでございます。
 私は数ヶ月の間、全く人間界から姿を隠して、本当に、悪魔の様な生活を続けて参りました。勿論もちろん、広い世界に誰一人、私の所業を知るものはありません。
若もし、何事もなければ、私は、このまま永久に、人間界に立帰ることはなかったかも知れないのでございます。
 ところが、近頃になりまして、私の心にある不思議な変化が起りました。
そして、どうしても、この、私の因果な身の上を、懺悔ざんげしないではいられなくなりました。
ただ、かように申しましたばかりでは、色々御不審ごふしんに思召おぼしめす点もございましょうが、どうか、兎も角も、この手紙を終りまで御読み下さいませ。
そうすれば、何故なぜ、私がそんな気持になったのか。又何故、この告白を、殊更ことさら奥様に聞いて頂かねばならぬのか、それらのことが、悉ことごとく明白になるでございましょう。
 さて、何から書き初めたらいいのか、余りに人間離れのした、奇怪千万な事実なので、こうした、人間世界で使われる、手紙という様な方法では、妙に面おもはゆくて、筆の鈍るのを覚えます。で
でも、迷っていても仕方がございません。兎も角も、事の起りから、順を追って、書いて行くことに致しましょう。
 私は生れつき、世にも醜い容貌の持主でございます。
これをどうか、はっきりと、お覚えなすっていて下さいませ。そうでないと、若し、あなたが、この無躾な願いを容いれて、私にお逢あい下さいました場合、たださえ醜い私の顔が、長い月日の不健康な生活の為ために、二ふた目と見られぬ、
ひどい姿になっているのを、何の予備知識もなしに、あなたに見られるのは、私としては、堪たえ難がたいことでございます。
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77 :ファンクラブ会員番号774[sage]:2017/02/05(日) 00:14:38.70 ID:/BwAiLDL
 佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送って了しまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、
とじ籠こもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。
 美しい閨秀けいしゅう作家としての彼女は、此この頃ごろでは、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。
彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。
 今朝けさとても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先まず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
 それは何いずれも、極きまり切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女の優しい心遣こころづかいから、どの様な手紙であろうとも、自分に宛あてられたものは、兎とも角かくも、一通りは読んで見ることにしていた。
 簡単なものから先にして、二通の封書と、一葉のはがきとを見て了うと、あとにはかさ高い原稿らしい一通が残った。
別段通知の手紙は貰もらっていないけれど、そうして、突然原稿を送って来る例は、これまでにしても、よくあることだった。
それは、多くの場合、長々しく退屈極る代物であったけれど、彼女は兎も角も、表題丈だけでも見て置こうと、封を切って、中の紙束を取出して見た。
 それは、思った通り、原稿用紙を綴とじたものであった。が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まっているのだった。
ハテナ、では、やっぱり手紙なのかしら、そう思って、何気なく二行三行と目を走らせて行く内に、
彼女は、そこから、何となく異常な、妙に気味悪いものを予感した。そして、持前もちまえの好奇心が、彼女をして、ぐんぐん、先を読ませて行くのであった。

 奥様、
 奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、此様このような無躾ぶしつけな御手紙を、差上げます罪を、幾重いくえにもお許し下さいませ。
 こんなことを申上げますと、奥様は、さぞかしびっくりなさる事で御座いましょうが、私は今、
あなたの前に、私の犯して来ました、世にも不思議な罪悪を、告白しようとしているのでございます。
 私は数ヶ月の間、全く人間界から姿を隠して、本当に、悪魔の様な生活を続けて参りました。勿論もちろん、広い世界に誰一人、私の所業を知るものはありません。
若もし、何事もなければ、私は、このまま永久に、人間界に立帰ることはなかったかも知れないのでございます。
 ところが、近頃になりまして、私の心にある不思議な変化が起りました。
そして、どうしても、この、私の因果な身の上を、懺悔ざんげしないではいられなくなりました。
ただ、かように申しましたばかりでは、色々御不審ごふしんに思召おぼしめす点もございましょうが、どうか、兎も角も、この手紙を終りまで御読み下さいませ。
そうすれば、何故なぜ、私がそんな気持になったのか。又何故、この告白を、殊更ことさら奥様に聞いて頂かねばならぬのか、それらのことが、悉ことごとく明白になるでございましょう。
 さて、何から書き初めたらいいのか、余りに人間離れのした、奇怪千万な事実なので、こうした、人間世界で使われる、手紙という様な方法では、妙に面おもはゆくて、筆の鈍るのを覚えます。で
でも、迷っていても仕方がございません。兎も角も、事の起りから、順を追って、書いて行くことに致しましょう。
 私は生れつき、世にも醜い容貌の持主でございます。
これをどうか、はっきりと、お覚えなすっていて下さいませ。そうでないと、若し、あなたが、この無躾な願いを容いれて、私にお逢あい下さいました場合、たださえ醜い私の顔が、長い月日の不健康な生活の為ために、二ふた目と見られぬ、
ひどい姿になっているのを、何の予備知識もなしに、あなたに見られるのは、私としては、堪たえ難がたいことでございます。
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78 :ファンクラブ会員番号774[sage]:2017/02/05(日) 00:15:11.31 ID:/BwAiLDL
 佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送って了しまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、
とじ籠こもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。
 美しい閨秀けいしゅう作家としての彼女は、此この頃ごろでは、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。
彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。
 今朝けさとても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先まず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
 それは何いずれも、極きまり切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女の優しい心遣こころづかいから、どの様な手紙であろうとも、自分に宛あてられたものは、兎とも角かくも、一通りは読んで見ることにしていた。
 簡単なものから先にして、二通の封書と、一葉のはがきとを見て了うと、あとにはかさ高い原稿らしい一通が残った。
別段通知の手紙は貰もらっていないけれど、そうして、突然原稿を送って来る例は、これまでにしても、よくあることだった。
それは、多くの場合、長々しく退屈極る代物であったけれど、彼女は兎も角も、表題丈だけでも見て置こうと、封を切って、中の紙束を取出して見た。
 それは、思った通り、原稿用紙を綴とじたものであった。が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まっているのだった。
ハテナ、では、やっぱり手紙なのかしら、そう思って、何気なく二行三行と目を走らせて行く内に、
彼女は、そこから、何となく異常な、妙に気味悪いものを予感した。そして、持前もちまえの好奇心が、彼女をして、ぐんぐん、先を読ませて行くのであった。

 奥様、
 奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、此様このような無躾ぶしつけな御手紙を、差上げます罪を、幾重いくえにもお許し下さいませ。
 こんなことを申上げますと、奥様は、さぞかしびっくりなさる事で御座いましょうが、私は今、
あなたの前に、私の犯して来ました、世にも不思議な罪悪を、告白しようとしているのでございます。
 私は数ヶ月の間、全く人間界から姿を隠して、本当に、悪魔の様な生活を続けて参りました。勿論もちろん、広い世界に誰一人、私の所業を知るものはありません。
若もし、何事もなければ、私は、このまま永久に、人間界に立帰ることはなかったかも知れないのでございます。
 ところが、近頃になりまして、私の心にある不思議な変化が起りました。
そして、どうしても、この、私の因果な身の上を、懺悔ざんげしないではいられなくなりました。
ただ、かように申しましたばかりでは、色々御不審ごふしんに思召おぼしめす点もございましょうが、どうか、兎も角も、この手紙を終りまで御読み下さいませ。
そうすれば、何故なぜ、私がそんな気持になったのか。又何故、この告白を、殊更ことさら奥様に聞いて頂かねばならぬのか、それらのことが、悉ことごとく明白になるでございましょう。
 さて、何から書き初めたらいいのか、余りに人間離れのした、奇怪千万な事実なので、こうした、人間世界で使われる、手紙という様な方法では、妙に面おもはゆくて、筆の鈍るのを覚えます。で
でも、迷っていても仕方がございません。兎も角も、事の起りから、順を追って、書いて行くことに致しましょう。
 私は生れつき、世にも醜い容貌の持主でございます。
これをどうか、はっきりと、お覚えなすっていて下さいませ。そうでないと、若し、あなたが、この無躾な願いを容いれて、私にお逢あい下さいました場合、たださえ醜い私の顔が、長い月日の不健康な生活の為ために、二ふた目と見られぬ、
ひどい姿になっているのを、何の予備知識もなしに、あなたに見られるのは、私としては、堪たえ難がたいことでございます。
WHY@DOLL Part8 [無断転載禁止]©2ch.net
79 :ファンクラブ会員番号774[sage]:2017/02/05(日) 00:15:41.78 ID:/BwAiLDL
 佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送って了しまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、
とじ籠こもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。
 美しい閨秀けいしゅう作家としての彼女は、此この頃ごろでは、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。
彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。
 今朝けさとても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先まず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
 それは何いずれも、極きまり切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女の優しい心遣こころづかいから、どの様な手紙であろうとも、自分に宛あてられたものは、兎とも角かくも、一通りは読んで見ることにしていた。
 簡単なものから先にして、二通の封書と、一葉のはがきとを見て了うと、あとにはかさ高い原稿らしい一通が残った。
別段通知の手紙は貰もらっていないけれど、そうして、突然原稿を送って来る例は、これまでにしても、よくあることだった。
それは、多くの場合、長々しく退屈極る代物であったけれど、彼女は兎も角も、表題丈だけでも見て置こうと、封を切って、中の紙束を取出して見た。
 それは、思った通り、原稿用紙を綴とじたものであった。が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まっているのだった。
ハテナ、では、やっぱり手紙なのかしら、そう思って、何気なく二行三行と目を走らせて行く内に、
彼女は、そこから、何となく異常な、妙に気味悪いものを予感した。そして、持前もちまえの好奇心が、彼女をして、ぐんぐん、先を読ませて行くのであった。

 奥様、
 奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、此様このような無躾ぶしつけな御手紙を、差上げます罪を、幾重いくえにもお許し下さいませ。
 こんなことを申上げますと、奥様は、さぞかしびっくりなさる事で御座いましょうが、私は今、
あなたの前に、私の犯して来ました、世にも不思議な罪悪を、告白しようとしているのでございます。
 私は数ヶ月の間、全く人間界から姿を隠して、本当に、悪魔の様な生活を続けて参りました。勿論もちろん、広い世界に誰一人、私の所業を知るものはありません。
若もし、何事もなければ、私は、このまま永久に、人間界に立帰ることはなかったかも知れないのでございます。
 ところが、近頃になりまして、私の心にある不思議な変化が起りました。
そして、どうしても、この、私の因果な身の上を、懺悔ざんげしないではいられなくなりました。
ただ、かように申しましたばかりでは、色々御不審ごふしんに思召おぼしめす点もございましょうが、どうか、兎も角も、この手紙を終りまで御読み下さいませ。
そうすれば、何故なぜ、私がそんな気持になったのか。又何故、この告白を、殊更ことさら奥様に聞いて頂かねばならぬのか、それらのことが、悉ことごとく明白になるでございましょう。
 さて、何から書き初めたらいいのか、余りに人間離れのした、奇怪千万な事実なので、こうした、人間世界で使われる、手紙という様な方法では、妙に面おもはゆくて、筆の鈍るのを覚えます。で
でも、迷っていても仕方がございません。兎も角も、事の起りから、順を追って、書いて行くことに致しましょう。
 私は生れつき、世にも醜い容貌の持主でございます。
これをどうか、はっきりと、お覚えなすっていて下さいませ。そうでないと、若し、あなたが、この無躾な願いを容いれて、私にお逢あい下さいました場合、たださえ醜い私の顔が、長い月日の不健康な生活の為ために、二ふた目と見られぬ、
ひどい姿になっているのを、何の予備知識もなしに、あなたに見られるのは、私としては、堪たえ難がたいことでございます。


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