- 【耳かき】☆癒しの小説売り2人目☆【警報】
626 :癒されたい名無しさん[sage]:2010/12/01(水) 23:45:47 ID:GnJoS4yr - 私は、先輩とはじめて、おしゃべりをしたんです……。
【土曜日】にだけ、オールナイトで昔の映画を上映するという、あの映画館。 私と先輩のほかに、お客さんはいませんでした。【土曜日】の上映がなければ、 私たちは今も他人だったはず……。でも、私は臆病(おくびょう)でした。 本心をうちあける勇気がなかったのです。先輩と顔見知りになっても、自分という人間に、 どうしても自信がもてず……。挙動不審になって、あとで落ちこんだり……。 宇宙の果てでは神のような存在でも、この町にいる私は、言いたいことも言えない、 引っ込み思案のちっぽけな人間なのです。 どうやったら先輩との距離がちかづくのでしょうか!? なやんでいたとき、ふと、書店で見かけたのが、占星術の本でした。 占星術……! そうか! 占星術だ! 夜空にひろがっている、星々の位置をうごかすことができるなら。 占星術の結果さえも、自由に、選択できるのではないか? 星をうごかして、先輩との距離をちかづけよう、という計画の、それがはじまりでした。 3 椅子(いす)に腰かけて、椎名は、ベッドタイム・ストーリーを語る。 いや、彼女に言わせると、これはおとぎ話ではなく、実際にあった出来事らしい。ほんとうだろうか? それはともかく、彼女の説明によれば、西洋占星術では、その人の生まれた時間における星の配置が、 一生の運勢を決めるのだという。 判断の決め手になるのは、十個の星と、十二の星座だ。 地球をのぞいた水星から冥王星までの惑星に、太陽と月をくわえた十個の星には、 それぞれに意味があるという。たとえば火星は「勇気や闘争心」、水星は「知性」、木星は「成功」。 それらが、どの星座の方向に位置しているのかが重要だ。 十二の星座にも、それぞれ意味がある。たとえば天秤(てんびん)座には「社交性や調和性」、 射手(いて)座には「自由や遠いものへのあこがれ」。僕の生まれた時間、恋愛観をつかさどる金星は、 「温厚さと所有欲」を示す牡牛(おうし)座の上にあったという。 つまり僕のもとめている恋愛は、「一緒にいて安心できる人と、おだやかにすごすこと」という傾向に なるらしい。たしかにそれは、自分がのぞんでいることで、椎名といっしょにいて感じることでもある。 しかし、彼女はしゅんとして、もうしわけなさそうに言った。 「先輩、ごめんなさい。その恋愛観は、私がつくりかえたものなんです。私が十二星座の位置をずらさな かったら、先輩はもっと、情熱的な恋愛を希望されていたはずです。 でも、それでは私の性格と相性がわるいとおもって……」 椎名のとった行動は、つまりこうだ。 意識の腕を太陽系の外にのばし、【時間の地平線】のむこうで、 人類が発生する以前の星座の位置をずらしたのである。 僕が母の胎内から出産されたとき、本来なら、金星の背後には牡羊(おひつじ)座があったという。 その場合、僕は情熱的な恋愛を求めるはずだった。真偽はどうであれ、彼女はそう信じている。 そこで彼女は、地球をぐるりとかこんでいる十二の星座を、全体的に三十度ずつ、ずらしたのだ。 おかげで、牡羊座の位置に は、となりあっていた牡牛座がずれこんできた。 金星の背景にあった星座がひとつずれて、僕の恋愛観はおだやかなものに変化したのだ、 と、椎名は言いはる。 おかげで僕たちは、したしくなったのだと……。 それにしても、占星術の結果が変わったからといって、そういうふうに、人格へ影響するものだろうか? 僕には疑問がある けれど、椎名は、怒られるのを覚悟した子どもみたいに、 指をいじりながらうつむいている。 僕の恋愛観を操作したと信じ、そのことに罪の意識を抱いているよ うだ。 僕はそれよりも、身勝手に十二星座をうごかしたことについて、彼女は反省文を書いたほうがいいとおもう。 神をもおそれぬ行為だ。ガリレオ・ガリレイ も泣くだろう。
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627 :癒されたい名無しさん[sage]:2010/12/01(水) 23:46:41 ID:GnJoS4yr - いや……、まてよ……。
どうもおかしい……。 太古の星座をいじったのなら、僕の恋愛観などという、些細(ささい)なことだけでなく、その他大勢の、重要な選択も同時に変化したはずだ。 たとえば、占星術をもとに戦争をはじめたり、政治の方針を変えたりした国も、大昔にはあったのではないか。歴史は変化したはずだ。 なのに、僕や彼女が、こうして生まれているのは、どうも都合がいい。 「私も気になってしらべてみました。大昔の、いくつかの歴史は変化して います。 しかし、近代にちかくなればなるほど、変化がすくないのです。星空を変えたことにより、 無数の変更点ができたとしても、それは些細なことで、歴史 という広大な川のながれは、 やがて、不変的な一本になっていくのかもしれません」 腑(ふ)に落ちることもある。彼女がこれまでに語ったベッドタイム・ストーリーに、 地球外生命体が登場しないことだ。宇宙の話が、すべて彼女の実体験だとするなら、つまり、 過去や未来まで見える彼女の目でも、地球外生命体が見つけられなかったというわけだ。 そのことに絶望しか感じない。 まっ暗闇の広大な宇宙には、僕たちのほかに、だれもいないなんて……。 「あ、そうだ……。先輩は、ご存じでしょうか。天王星の自転軸が、横倒しになっていることを……。太陽系のほかの惑星は、コマみたいに軸が立った状態で回転しています。 でも、天王星だけは、コマが横倒しなんです。ごろごろと転がるように、 太陽のまわりをめぐっているのです。実はこれも、私のせいなんです……」 そのときだ……。
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628 :癒されたい名無しさん[sage]:2010/12/01(水) 23:50:13 ID:GnJoS4yr - 扉がノックされて、彼女は、話を中断した……。
白衣を着た、顔見知りの看護師が、部屋に入ってくる。 僕の容体に、変化がないことや、鼻の下にとりつけられたチューブから、 問題なく酸素が送られていることを、看護師は手早くチェックした。 すこしだけ世間話をする。今日は、夜更かしをしている入院患者が、ずいぶん多いという。 流星群が原因だ。あと三十分もす れば、夜空に無数のかがやきが見えるだろう。 大部屋に入院している患者たちは、全員で窓際にすわっているのだろうか。 花火を眺めるみたいで、たのしそう だ。僕のいる部屋は、個室なので、しずかなものである。 看護師が出て行くと、ふたたび病室には、僕と、椎名アカリの二人だけがのこされる。 つけっぱなしのラジオから……、もの悲しい、ピアノの曲が、ながれていた……。 僕たちは、それに、耳をかたむける……。 「……………………………………………………先輩……………………………………」 …………………………………………………………ん? ………………………………。 「………………………………………………………………きれいな…………………………、 ……………………………………………………………………音楽ですね……………………」 …………………………………………………………………………うん……………………。 「………………………………………………………………………………先輩………………」 ……………………………………………………………………………………ん? ……。 「…………………………………………………………………………………………きっと、 ……………………………………………………………………………………大丈夫ですよ」 ………………………………………………………………………………………………ああ。 「……………………………先輩……………………………………」 ……………………………………………ん? …………………………………… 「……いえ……………………………………」 …………。
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