- 5千円前後までのお勧めアクティブスピーカー 23台目
183 :不明なデバイスさん[sage]:2019/11/15(金) 10:52:27.04 ID:16UEEGKc - >>2
>>3>>>4 >>100>>4 「若槻という実業家だが、――この中でも誰か知っていはしないか? 慶応か何か卒業してから、今じゃ自分の銀行へ出ている、年配も我々と同じくらいの男だ。色の白い 、優しい目をした、短い髭を生やしている、――そうさな、まあ一言にいえば、風流愛すべき好男子だろう。」 「若槻峯太郎、俳号は青蓋じゃないか?」 わたしは横合いから口を挟んだ。その若槻という実業家とは、 わたしもつい四五日前、一しょに芝居を見ていたからである。 「そうだ。青蓋句集というのを出している、――あの男が小えんの檀 。いや、二月ほど前までは檀那だったんだ。今じゃ全然手を切っているが、――」 「へええ、じゃあの若槻という人は、――」 「僕の中学時代の同窓なんだ。」 「これはいよいよ穏かじゃない。」 藤井はまた陽気な声を出した。 「君は我々が知らない間に、その中学時代の同窓なるものと、花を折り柳に攀じ、――」 「莫迦をいえ。僕があの女に会ったのは、大学病院へやって来た時に、若槻にもちょいと頼まれていたから、便宜を図ってやっただけなんだ。蓄膿症か何かの手術だったが、――」 和田は老酒をぐいとやってから、妙に考え深い目つきになった。 「しかしあの女は面白いやつだ。」 「惚れたかね?」 木村は静かにひやかした 「それはあるいは惚れたかも知れない。あるいはまたちっとも惚れなかったかも知れない。 が、そんな事よりも話したいのは、あの女と若槻との関係なんだ。―― 和田はこう前置きをしてから、いつにない雄弁を振い出した。 「僕は藤井の話した通り、この間偶然小えんに遇った。所が遇って話して見ると、 小えんはもう二月ほど前に、若槻と別れたというじゃないか? なぜ別れたと訊いて見ても 返事らしい返事は何もしない。ただ寂しそうに笑いながら もともとわたしはあの人のように、風流人じゃないんですというんだ。 「僕もその時は立入っても訊かず、夫なり別れてしまったんだが、つい昨日、 ――昨日は午過ぎは雨が降っていたろう。あの雨の最中に若槻から、飯を食いに来ないかという手紙なんだ。 ちょうど僕も暇だったし、早めに若槻の家へ行って見ると、先生は気の利いた六畳の書斎に、相不変悠々と読書をしている。
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184 :不明なデバイスさん[sage]:2019/11/15(金) 10:53:06.59 ID:16UEEGKc - >>2
>>3>>>4 >>100>>5 「若槻という実業家だが、――この中でも誰か知っていはしないか? 慶応か何か卒業してから、今じゃ自分の銀行へ出ている、年配も我々と同じくらいの男だ。色の白い 、優しい目をした、短い髭を生やしている、――そうさな、まあ一言にいえば、風流愛すべき好男子だろう。」 「若槻峯太郎、俳号は青蓋じゃないか?」 わたしは横合いから口を挟んだ。その若槻という実業家とは、 わたしもつい四五日前、一しょに芝居を見ていたからである。 「そうだ。青蓋句集というのを出している、――あの男が小えんの檀 。いや、二月ほど前までは檀那だったんだ。今じゃ全然手を切っているが、――」 「へええ、じゃあの若槻という人は、――」 「僕の中学時代の同窓なんだ。」 「これはいよいよ穏かじゃない。」 藤井はまた陽気な声を出した。 「君は我々が知らない間に、その中学時代の同窓なるものと、花を折り柳に攀じ、――」 「莫迦をいえ。僕があの女に会ったのは、大学病院へやって来た時に、若槻にもちょいと頼まれていたから、便宜を図ってやっただけなんだ。蓄膿症か何かの手術だったが、――」 和田は老酒をぐいとやってから、妙に考え深い目つきになった。 「しかしあの女は面白いやつだ。」 「惚れたかね?」 木村は静かにひやかした 「それはあるいは惚れたかも知れない。あるいはまたちっとも惚れなかったかも知れない。 が、そんな事よりも話したいのは、あの女と若槻との関係なんだ。―― 和田はこう前置きをしてから、いつにない雄弁を振い出した。 「僕は藤井の話した通り、この間偶然小えんに遇った。所が遇って話して見ると、 小えんはもう二月ほど前に、若槻と別れたというじゃないか? なぜ別れたと訊いて見ても 返事らしい返事は何もしない。ただ寂しそうに笑いながら もともとわたしはあの人のように、風流人じゃないんですというんだ。 「僕もその時は立入っても訊かず、夫なり別れてしまったんだが、つい昨日、 ――昨日は午過ぎは雨が降っていたろう。あの雨の最中に若槻から、飯を食いに来ないかという手紙なんだ。 ちょうど僕も暇だったし、早めに若槻の家へ行って見ると、先生は気の利いた六畳の書斎に、相不変悠々と読書をしている。
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185 :不明なデバイスさん[sage]:2019/11/15(金) 10:53:46.21 ID:16UEEGKc - >>2
>>3>>>4 >>100 「若槻という実業家だが、――この中でも誰か知っていはしないか? 慶応か何か卒業してから、今じゃ自分の銀行へ出ている、年配も我々と同じくらいの男だ。色の白い 、優しい目をした、短い髭を生やしている、――そうさな、まあ一言にいえば、風流愛すべき好男子だろう。」 「若槻峯太郎、俳号は青蓋じゃないか?」 わたしは横合いから口を挟んだ。その若槻という実業家とは、 わたしもつい四五日前、一しょに芝居を見ていたからである。 「そうだ。青蓋句集というのを出している、――あの男が小えんの檀那なんだ 。いや、二月ほど前までは檀那だったんだ。今じゃ全然手を切っているが、――」 「へええ、じゃあの若槻という人は、――」 「僕の中学時代の同窓なんだ。」 「これはいよいよ穏かじゃない。」 藤井はまた陽気な声を出した。 「君は我々が知らない間に、その中学時代の同窓なるものと、花を折り柳に攀じ、――」 「莫迦をいえ。僕があの女に会ったのは、大学病院へやって来た時に、若槻にもちょいと頼まれていたから、便宜を図ってやっただけなんだ。蓄膿症か何かの手術だったが、――」 和田は老酒をぐいとやってから、妙に考え深い目つきになった。 「しかしあの女は面白いやつだ。」 「惚れたかね?」 木村は静かにひやかした 「それはあるいは惚れたかも知れない。あるいはまたちっとも惚れなかったかも知れない。 が、そんな事よりも話したいのは、あの女と若槻との関係なんだ。―― 和田はこう前置きをしてから、いつにない雄弁を振い出した。 「僕は藤井の話した通り、この間偶然小えんに遇った。所が遇って話して見ると、 小えんはもう二月ほど前に、若槻と別れたというじゃないか? なぜ別れたと訊いて見ても 返事らしい返事は何もしない。ただ寂しそうに笑いながら もともとわたしはあの人のように、風流人じゃないんですというんだ。 「僕もその時は立入っても訊かず、夫なり別れてしまったんだが、つい昨日、 ――昨日は午過ぎは雨が降っていたろう。あの雨の最中に若槻から、飯を食いに来ないかという手紙なんだ。 ちょうど僕も暇だったし、早めに若槻の家へ行って見ると、先生は気の利いた六畳の書斎に、相不変悠々と読書をしている。
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