- 私達の仮想人格・野口文子「このPV素敵でしょう」
6 :禁断の名無しさん[]:2019/05/18(土) 10:58:42.53 ID:ce9Pg62K - 穢れた歯ブラシを手に文子は肩を小刻みに震わせる。ポエムを口にするにはあまりにも闇深いあの口にこれが咥えられたのか、それを自らの口で咥え込んだ恐ろしさに打ちひしがれていた。
寄せては返す波のように恐怖と嫌悪感が文子にまとわりついている最中、洗面台に隣接する浴室から怯えたような声が響く。 『お婆ちゃん、ごめんよ。全部僕のせいだ。』 引き戸の先には空の浴槽に膝を抱えた格好で孫の蛇之介(だのすけ)がいた。 娘・サエの私生児で文子の孫にあたる蛇之介もまた彼女の留守の間にこの家の住人となっていたようだ。サエに情夫が出来る度に孫とは同居と別居を繰り返していたがこの家で見るのは久しぶりであった。 またか、と文子は『ことの成り行き』を察した。サエが男に入れ込むごとに文子は蛇之介の母親を代行させられてきた。それ故に彼の奇異な行動にも意味を見出すことも容易だ。 幼少の頃、捨て犬を拾ってきた時もそうだった。高校生の時分にセガサターンとかいうゲーム機を欲しかった時もそうであった。『空の浴槽に入り込んで聞き入れてもられるまで出ようとしない』、それが蛇之介の『お決まりの』おねだりなのだ。 悪い子ではない。物腰も柔らかく、人様に手をあげることもない。男の子の割に芯の強さに欠けるようなきらいもあるがこんな時、彼は梃子でも動かない。その蛇之介のおねかだりが今回は"ぶるつり"なのか? 『ポエムの園!ポエムの園!ポエムの園!』 『お弁当を要求します!』 世の中の理不尽を詰め込んだような闇の口から発せられた言葉。それらが文子の前頭部にリフレインする。 『もう今夜は二階に行って休みなさい。』 そう一言だけ伝えて文子は床に就いた。
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- 私達の仮想人格・野口文子「このPV素敵でしょう」
7 :禁断の名無しさん[]:2019/05/18(土) 13:47:47.95 ID:ce9Pg62K - 何か言いたげな様子で蛇之介が食卓に腰掛けている。こういう時、決まって話を切り出すのは我が家では文子の役割となっていた。
文子は書物を(ゴミの山となり行政執行で撤去されるほどに)愛し、読み漁ってきた。故に、体現する機会こそ少ないが、世には一筋縄では語れぬ恋事情というものがあることは知っていた。齢80の割にはコトのありようの多様性には柔軟な文子であった。 ちなみに孫の蛇之介の名付け親は文子である。敬愛する龍之介先生にあやかってみたが、良人・善三の度重なる叱責や暴力に辟易としてきた彼女は龍から逆鱗を抜き取り、逆鱗のない龍は蛇であろうと理由づけして蛇之介としたのである。 またどんな苦難にも蛇のように粘り強く生きて欲しいとの願いも込めての命名でもあった。 『お前は"ぶるつり"を愛しているの?』 これは三島先生のお導きだろうか?そんな懐疑を抱きながらも試し半分に文子は問答を投げかけた。 『うん、多分、、、でもあの男酷いんだ、、、。』 蛇之介はもうすでに泣き始めている。 澱んだ空気を入れ替えるべく文子は台所の小窓を開けた。居間の方から五月の萌黄の香りを含んだ風がすり抜けていが行った。 『お茶でも飲むかね。』 流しの浄水器に手をやったその時、例の男がクネ入ってきた。 『話はそこまでだよ。』 そう言うより先に、酸味の強い風がダイニングの空気を一変させた。 文子は小窓を開けたことを後悔した。
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8 :禁断の名無しさん[]:2019/05/18(土) 15:28:37.28 ID:ce9Pg62K - 『僕の悪口を言っていたんでしょう?』
そう言いながら一歩また一歩と"ぶるつり"は詰め寄って来る。もちろん夥しい臭気をその身に纏いながら。 くっさ、、、思わずそう口にしようとしたが文子はこらえた。というよりも息を止めざるをえなかった。 『今あなた、僕のことを臭いって思っているでしょう?』 『!!!!』 『これは純然たるサベツですねえ!』 差別というか、純然たる感想なのだが。 妙にギラついた目、海獣を思わせる巨大な鼻、開く度に闇を覗かせ臭気を放つ口、やたらと出っ張った頬骨。 年の頃は50くらいだが、見慣れた孫・蛇之介の容貌とは比べ物にならないほどの醜悪な顔! クネクネと大きな尻を揺らしながら当たり前のように食卓に腰を下ろした男は孫との水入らずの会話を一刀両断した上に、思いもよらない質問を投げかけて来る。 『同性婚をどう思いますか?同居する同性のパートナーの家族が死んだ時に有給休暇が取れないのはサベツだと思いませんか?一緒に生活してるのに相続もできないんですよ?同性カップルに対するサベツです!日本は遅れてて生きづらい!』 何を言いたいのだ?文子には話の流れがりかきできない。ただ、突然現れて、死ぬだの相続だのと主張するこの男にひどく嫌悪感を抱いた文子は思わず叫んだ。 『無礼者!!!出ておいき!!!』 あうぅ、、、と一瞬怯んだかのように思われた"ぶるつり"であったが、当の文子とは目を合わせず、蛇之介を睨みつけこう言い放つ。 『僕を引き入れておきながら出て行けとは心外だ!僕は傷ついた!慰謝料を要求する!電車代と夕ご飯とお風呂代を早く!』 そう言われて蛇之介はおずおずと財布から千円札を取り出す。 『これじゃ足りない!!!!』 やめなさい、と孫の財布を閉じさせ、文子は一万円札を男に渡した。 ふん、ざまあみろ、僕の論理に敵うものか、などとブツブツ言いながら"ぶるつり"はクネ出て行った。 これで済むものなら、となけなしのお金を差し出した。未だ文子は一連の騒動をあの風変わりな訪問者の『一泊二日の』暴挙だと思っていた。
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- 【西日暮里】マラサイト17種【令和も生のみよ】
787 :禁断の名無しさん[]:2019/05/18(土) 19:03:15.82 ID:ce9Pg62K - 場所について書いてるじゃん
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- 自称】ぶるつりの逃亡生活◆106キモ子【エッセイスト
86 :禁断の名無しさん[]:2019/05/18(土) 22:09:12.59 ID:ce9Pg62K - >>85
姉さん私ごときの駄文を読んでくれてありがとう。 書き急いだり、予測変換間違えて誤植もあるけどw 序章が別の人のものだからちぐはぐな部分もあるけど、そのうちオリジナル作品として成り立つように書き足すわ〜。
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