- 歴代FE主人公が兄弟だったら 39章
391 :助けて!名無しさん![sage]:2011/12/19(月) 22:12:02.54 ID:MKIskQDA - この小説を読む前に>>19の注意書きを参照ください。
>>233-239の続きにあたります。
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392 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 ヘクトルの章 拳[sage]:2011/12/19(月) 22:14:33.79 ID:MKIskQDA - そこにあるものは干からびて果てた屍であった。
皮はかさかさに乾ききってヒビ割れており肉は削げて骨と皮の様相だ。 この者がつい半刻前まで生きて動いていたと言われても誰も信じはしないだろう。 「順調…じゃな?」 屍のそばに立つ黒衣の老人が声を発する。 老人と差し向かいにたつ黒髪の女が無機質な瞳を向けた。 「はい…ネルガル様」 女は青白い幽鬼の如き鬼火を周囲に宿し、その身は妖気に満ち満ちていた。 その姿を満足気に見つめた老人は顎鬚をさすりながら小さく頷く。 「立てい。しもべよ」 信じがたい事ではある。本来ありえるべき事ではない。 だが老人も女もさも当たり前の事が起きたとしか受け取らなかった。 干からびて痩せ細った屍が起き上がったのだ。 その皮は生きている時のような張りを取り戻し痩せ細った体はたちまち逞しい筋肉に覆われていく。 その男の生前そのままの姿が二人の眼前で蘇ろうとしているのだ。 だが…本来生気に満たされていた瞳はどこか虚ろだ。 およそ生命感という物が感じられない… 死者の再生劇を見て取った老人は己の力に満足気に頷くと蘇った男にもったいぶって問いかけた。 「お主の名は?」 男はすぐには答えない。 まだうまく体が動かせないのだろうか。 だが…ややあって低い唸るような声を絞り出した… 「……オズイン……」 「では問おう…お主はかつて誰に仕えておった?」 オズインと名乗った男は淡々と答えていく。 「オスティア…オスティアの大名…ウーゼル様…」 「これが最後の問いじゃ…今の主は誰じゃな?」 大男は一瞬苦悶に満たされた表情を浮かべ…だがそれは一瞬の事であった… 搾り出された答えは老人の望むものであった。 「我が主はネルガル様……」 老いた妖術師の乾いたような笑い声が響き渡った………
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393 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 ヘクトルの章 拳[sage]:2011/12/19(月) 22:14:54.94 ID:MKIskQDA - 炎正十三年五月十三日はオスティアの城下にとって血煙に満たされた日と記録される事になるであろう。
この日……オスティア近郊を締める大親分のブレンダンは妻のソーニャを伴って芝居見物に出かけていた。 不夜城とも言うべき花街は芸者や客引きが声を張り上げており浮世の憂さを忘れんと若商人や武家など羽振りのよい者が闊歩している。 その中を堂々たる体躯を進める髭の大男と妖艶なる黒髪の女が歩んでいくのを路地裏から見送る男がいた。 マシューである。 彼が属する牙一家の大親分が取り巻きを連れて歌舞伎座に入っていくのを見送るとマシューは音一つなくその場を後にしたのである。 オスティアの裏路地を抜けたマシューは花街を抜けてとある下町の倉の門を潜った。 ここはライナスが仕切る賭場用の建物の一つである。 薄暗いそこには数人の男たちの姿があった。 牙一家の若頭ロイド…その弟ライナス…そしてマシューが兄貴分と慕う巨漢ヘクトル。 他にロイドに率いられた極道者達合わせて十三人。 「ただいま戻りやしたぜ…親分は花街の二丁目の歌舞伎座でさ」 「おう」 彼の報告に応じたロイドがドスの効いた声をだす。 気の弱い者ならそれだけで竦んでしまうような覇気と眼光だ。 「聞いたなてめぇら…狙いは帰り道…もっとも人気のねぇパドン橋に差し掛かったとこを狙うぞ。てめぇらのタマは俺が預かる」 極道者達は侠気に満たされた声で応じた。 その中でももっとも力強い声を発したのはヘクトルである。 この漢はこの七年間牙の一員として食い扶持を貰ってきた恩を返すために命も投げ打つ覚悟であった。 その意思を強烈に示すためにその大きな背中には仁義の二文字と共に獣の牙の刺青が掘り込まれている。 言うまでもなくこれは牙一家の事を示していた。 何があってもブレンダンを誑かし牙一家の美学を貶めたソーニャの命を取るつもりだ。
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394 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 ヘクトルの章 拳[sage]:2011/12/19(月) 22:15:17.65 ID:MKIskQDA - …男達が各々得物の支度を始める中でマシューは愛用の短刀を磨きあげると無言で腰を下ろしてるヘクトルに歩み寄った。
「ねぇ兄貴?」 「なんだ?」 並みの男の足ほどの太さがあるであろう豪腕を組んだまま座る兄貴分は不動の山のように感じられる。 「兄貴のステゴロへのこだわりはよぉくわかってやす! けど…今度の連中は手垂れ揃いだ…勝手な事と承知はしてやすけど得物を用意させてもらいやした。 俺ぁ兄貴に万一の事があっちゃあ耐えられねぇ…どうか使ってやっておくんなさい!」 そう言い切って弟分のこの男は部屋の片隅から一つの箱を持ってきた。 男たちが何事かと視線を向ける中…箱の中から姿を見せたのは一本の斧であった。 力感に満たされた巨大な斧だ。 重量感のあるそれはよほどの豪腕でなければ使いこなす事はできないだろう。 そう…ヘクトルのような豪腕でなければ… 「どうしたんだそいつは?」 ライナスがマシューに視線を向ける。 「へい…こいつぁこないだの賭場で負け分払えなかった商人から銭代わりに受け取ったもんでやす。 なんでもそいつの言う事にゃ二百年前に武神テュルバンの社から盗み出され…それ以来人手から人手に渡って流れて流れてそいつの手元に渡ったんだとか… 天雷の斧…アルマーズなんてすんげえ斧らしいですぜ!」 男達が感嘆の声をあげる。 神代の時代に豪傑として名を残し神の一柱として祀られた猛者の振るっていた斧。 それならばどれほどの力があろうか。それを信じさせるだけの神々しさがこの斧からは感じられた。 「貸しな…」 「へい」 ヘクトルはその大きな手で斧の柄を掴むと抱えあげる。 大の男が両手で抱えても持ち上がるかどうか怪しい斧を片手で軽がると… その姿に男達が感嘆するのも束の間――――――――― アルマーズの破片が宙を舞った… 信じがたい事ではあるがヘクトルは左手で抱えあげたアルマーズに右の拳を握り締めるとそれを渾身の力を込めて叩き付けたのだ。 それにしてもただの一撃で鋼鉄仕立て…それも英傑が得物としたほどの斧を粉みじんに打ち壊してしまうとは信じがたい膂力である。 「あ……兄貴!?」 「…俺ぁ見てのとおりガタイにゃあ恵まれてるしうまれついて腕っ節も強い… その俺が得物まで使ったんじゃあこれぁもう正々堂々のゴロじゃねぇ。俺のゴロは素手だ。 他にゃなんもいらねぇ」 ああ…そうだ…わかっていた事なんだ。 この漢はどんな相手と戦うにしても負い目を負いたくないんだ。 美学…己への自負心…長年付き合ってきてわかっていた事ではあるが… 自分の小さな心配などアルマーズと一緒に粉々にしてくれた。 そうだ、この男が負けるはずがない。 それがヘクトル兄貴というお方だ。 マシューはいっそすがすがしいまでの気持ちでこう言うのだ。 「うぉっすっ!」
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395 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 ヘクトルの章 拳[sage]:2011/12/19(月) 22:15:55.33 ID:MKIskQDA - 夜も更けたパドン橋……オスティアの城下の西よりの川にかけられたこの橋はオスティアの西街道への玄関口と言える。
花町からの帰り道…この橋に差し掛かったのはブレンダンとソーニャ…それに取り巻きたちだ。 ソーニャは暗い橋の上を進みながら傍らのウルスラに言葉を投げた。 「そろそろねぇ……この役目も。長い時間をかけて仕込んだ甲斐があったわ」 ソーニャの唇から言葉が漏れるのも束の間……橋の向こう側から数人の男達が姿を見せた。 振り返ると来た道の橋のたもとにも人影がある。 どうやら挟まれたようだ。 「野暮ねぇ……どこの連中かしらね?」 男達の中から…白木の鞘を抱えた男が歩みだした。 「わかってんだろ。てめぇが今までやらかした事をよ。ツケ払ってもらうぜ…」 虎狼のような殺気を漲らせたその男は牙の若頭ロイドだ。 彼は隙の無い脚捌きで歩み寄っていく。 「わりいな親父…親父もこいつの好き勝手を許しすぎたぜ…牙の事は俺に任せて隠居してもらうぜ」 父は答えない。 巌のような顔でどこか虚ろな視線を向けていた。 「親父?」 「残念ねぇ……もう遅いのよ。ブレンダンはもう操り人形にすぎないわ…文字通りね…」 すでに骨抜きにされてるのは知っていた…だが…これはもはやそういう次元ではないようだ… ロイドはかっとした。憤りのままに引き抜かれた彼のドスはソーニャの首筋を狙い…… 甲高い金属音と火花を散らす短刀に遮られた。 いつの間にか橋の欄干の上に目つきの悪い少年が立ち彼の一太刀を阻んだのだ。 「ジャファルッ!」 すべてを見下したようなソーニャの哄笑が響き渡る。 「ばかねぇ…なんの手も打たずにこんな隙を晒すと思って? お前達ロイド派はここで死んでもらうわ。表も裏も…オスティアはネルガル様のものになるのよ!」 ロイドが見出したものは橋の両脇に陣取った極道者たちに襲い掛かる黒髪の者どもだった。 「な…なんだぁこいつら…双子…いや…三つ子…どころじゃねぇ…!?」 同じ顔をした者たちの薄気味悪さにライナスが声をあげる。 彼らは黒い髪と金の瞳を持っていた。それらがまるで判に押したように同じ顔で押し寄せてくるのだ。 太刀を槍を斧を持って…… 「なんだっていい!片っ端からかかってきやがれ!!!」 ヘクトルの豪腕が唸る。 硬く握り締められた彼の巨大な拳は突き出された槍を側面からへし折り、 続いて振るわれた剛拳が同じ顔をした者どもの顔面をたった一撃で破壊した。 歯や血が飛び散る。頭蓋が陥没して絶命したのが一目でわかった。 一人一人は決して強大ではない…だが同じ顔をした者ども…傀儡子どもは極道たちの五倍ほどもある人数を持って押し寄せている。 橋の中央ではロイドとジャファルが火花を散らし、右端ではヘクトルが…左端はライナスが子分達とともに押し寄せる傀儡子を防ぎとめている。 状況はヘクトルとライナスの実力を持ってどうにか均衡しているかに見えた… だが…… ソーニャが唇を吊り上げたのも束の間、闇夜を切り裂いて飛来した火弾がヘクトルを包んだのだ。 「あ、あにきぃ!?」 「心配すんじゃねぇっ!こんなもんちっとばっかし皮を焼かれただけだ!」 彼は体にまとわりついて我が身を焼く炎を腕をぶん回して振り払った。 そして火弾が飛んできた方向を見据える。 そこは橋の直ぐそばの蔵の屋根であった。 二人の妖術師が眼下を見据えている。 あれは…ソーニャの子分のウルスラと娘のニノだ…… この襲撃はソーニャの隙を狙ったつもりだったが逆に罠に絡め取られたのは自分達のようだ。 このままでは反撃の術も無く高所に陣取った敵から一方的に狙い撃ちにされる。 「くそったれ!」
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396 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 ヘクトルの章 拳[sage]:2011/12/19(月) 22:16:24.06 ID:MKIskQDA - 「威勢がいい事…ああむさ苦しい。死んでしまいなさいな醜い男ども」
蔵の上で余裕と嘲弄の笑みを浮かべたウルスラは片手を掲げた。 彼女が言霊を唱えるとその言葉は力を持ち雷となって具現化する。 強烈な雷撃が数人の極道者を打ち据えたちまち焼け焦げた屍に変えてしまった。 「まずはお掃除からだね。あの程度の者ならネルガル様は必要としないよ。 使えそうなのは…やっぱり三人だけだよね」 緑色の髪を夜風に委ねながら幼い顔立ちに酷薄な笑みを浮かべたニノはウルスラと並んで詠唱を始める。 たちまちその掌から火炎が発し…火弾はマシューに襲い掛かる。 彼は細身を翻してかろうじて避ける事ができた。 だが眼前には傀儡子たちが槍や刀を持って襲い掛かる。 かろうじて凌いでいてもこれではいつまで持つか… 「あ、避けられちゃった」 「ドジねえ。体の中心線を狙うのよ…こんな風にね」 ウルスラがまったく同じ手順を踏んで火炎の術を放つ。 ニノに比べて強烈な火勢を誇るこの火炎は一人の極道を骨にいたるまで焼き尽くした… いつの間にか残っているのは四人だけだ…… ヘクトルの豪腕が唸り鎧を着込んだ傀儡子が兜ごと頭を叩き割られる。 彼の全体重を乗せた拳にはいかなる防御も紙に等しかった。 だがそのヘクトルをしても次々と押し寄せる傀儡子の全てを防ぎとおすには及ばない。 さらには時折妖術まで飛んでくるのだ。 ロイドはジャファルと完全に一進一退…だが次第に他の者達に取り巻かれようとしている。 「若頭!…決めてくれ!預けた命好きに使ってくれやぁ!」 「すまんっ!」 その言葉にロイドは決断した。 もはやソーニャを討つのは不可能だ。この上はもう引くしかないが…橋の両脇は押さえられてる。 「マシュー!」 「へい合点!」 彼は欄干を乗り越えると身軽に川に身を投げた。 水飛沫があがるのも束の間。 罠にかかった彼らだがそれでも事前に退路は備えてあったのだ。 橋の下に隠された小船でマシューが漕ぎ出すとロイドとライナスも橋から飛び降りた。 「あいつら…射て足を止めなさいっ!」 ソーニャが命令を下し傀儡子たちが次々と弓に矢をつがえる。 取り逃がすわけにはいかない。こいつらはネルガル様のよい手ごまになる。 一方漕ぎ出した小船の上からロイドは橋の上を見つめていた。 そう…預かった命は使わせてもらう…絶対に無駄にはしねぇ… だが…できる事なら帰ってこいヘクトル… ヘクトルは橋から飛び降りなかった。 ロイドたちに一斉に矢を射ようとした傀儡子の中に踊りこみ殴り倒し蹴り飛ばし叩き潰した。 彼が腕を振るうたび数人の人体が宙を舞った…… 「若頭よ……いい恩の返し時だ…義理は果たすぜ」 夜空に血しぶきが舞い殴り飛ばされた傀儡子が川に転落していく。 漢の猛威にさしものソーニャらも目を見張った…だが… 「相手は一人よ…取り囲み逃げ道を塞ぎなさい」 ロイド達が退く時間は充分に稼げた…だがヘクトルの退路はすでに失われていた…… 次回 侍エムブレム戦国伝 死闘編 〜 セリスの章 星 〜
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