- 歴代FE主人公が兄弟だったら 38章
170 :助けて!名無しさん![sage]:2011/10/14(金) 14:19:07.75 ID:gQiqxrF5 - この小説を読夢魔絵に>>47の注意書きを参照してください。
>>48-54の続きにあたります
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171 :助けて!名無しさん![sage]:2011/10/14(金) 14:20:31.48 ID:gQiqxrF5 - 変換ミスった…読夢魔絵ではなく読む前…なにやってるんだろ俺
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172 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 アルムの章 吼える居合い[sage]:2011/10/14(金) 14:20:58.81 ID:gQiqxrF5 - 「忌まわしや百姓ども。これでは鷹狩りにも出かけられんわ」
男は吐き捨てるように呟いた。 ソフィアの国を見下ろす高く築かれた天守閣。 そこから見下ろせるのはソフィアの城を取り巻く一揆勢の陣地である。 ラムの村を発火点として巻き起こった百姓一揆はミラ宗派の支援も受けており、 次々と村々で一揆が起こり今や国一揆と化した感すらある。 十年以上に渡る悪政への不満は飢饉をきっかけにこの地を覆い尽くしていた。 だが天守閣より陣地を見下ろすこの男。 旧主リマに成り代わりソフィアの大名となったドゼーにはいささかの焦りの色も無い。 兵の大半をリゲルとの国境に振り向けたがために一揆を押さえ込めず城を取り巻かれたとはいえこの状況は彼にとってまったく窮地ではなかった。 「兵法もろくに知らぬと見えるな無知な百姓ども。この城が落ちるわけがあるまいに」 そう、飢饉に喘ぐ一揆勢には兵糧が乏しく、それに対してソフィアの城には数年来蓄えたかなりの量の年貢米がある。 こちらは城壁を活かして守りに徹し相手の兵糧切れを待つだけでいいのだ。 だがドゼーはそれだけで満足はせずさらに手を打っていた。 「例の仕込みはどうじゃ?」 この場にはドゼー一人しかいない筈である。 だがどこからともなく女の声が響いてきた。 「準備は整ってございます。近いうちにマイセンめの首を献じるでありましょう」 「うむ、あの老いぼれめが何を血迷ったか…もうあの世にいく歳であろうに百姓どもを煽りおって。 奴が死ねばあとは烏合の衆よ。どれほどの事もできんわ」 くす…くす…くす…と風に乗って笑い声が響いてくる。 「ほほほ…私の子たちはこのような時にはよく役に立ってくれまする… 如何様にもお力になりましょう殿…」 「うむ…その暁にはさらに主らを重く用いようぞ。誠に忍びとは使い出のある者よ。 百姓どもが片付けば次はルドルフめだ。期待しておるぞ。だがあれは南国にその名を轟かせた猛者なり。 油断するでないぞ?」 流れてくる声はどこまでもどこまでも深く淀みきっていた。 「ほ…ほ…ほ…如何な豪傑といえども飯も食らえば女も抱く人間でございます。 で、あるなれば忍びの手を逃れる事かないませぬ…飯時…風呂…閨…いくらでも隙はございまする……」 ドゼーは顎鬚を撫でると小さく頷いた。 声はいつの間にか聞こえなくなっていた。
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173 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 アルムの章 吼える居合い[sage]:2011/10/14(金) 14:21:25.07 ID:gQiqxrF5 - 炎正十三年八月十日。
ソフィア城を取り巻いた一揆勢の数は日に日に膨れ上がりすでに総勢二万を超えるほどであった。 こうまで容易に城を囲めたのはドゼーの兵の多くがリゲル軍への防戦のため北に振り向けられていたためでもあったが 事ここに至って一揆勢もまたソフィアの城を攻めあぐねていた。 リマの代より十年以上に渡って強化された城壁は極めて強固であり守る兵こそ少ないものの精鋭が配置されている。 大半が貧弱な鍬や鉈で武装したろくな訓練もされてない農民兵では簡単に攻め落とせるはずもない。 まして兵糧の不足からろくに物も食えてないのだ。 腹が減っては戦はできぬとは古代の大陸の兵法家マークの兵書にも記されている常識である。 「むぅ……」 一揆勢を率いるマイセン老人は本陣代わりとしている小屋の中で小さく声を漏らした。 その周りには各村の代表たちが集まりああでもないこうでもないと城攻めの方法を相談している。 「米はあとどれほどじゃ?」 「切り詰めておるが…あと十日もすればすっからかんじゃ…」 「仕方あるまいのう…こちらには女子供や年寄りも多い…この人数に食わせるのは容易ならんのう」 そう、一揆勢は戦える男手ばかりではない。 村にいては食えないためついてきた者たちや農民兵の家族も少なからず混じっており炊事や怪我人の看護をしている。 マイセンの付き添いをしているアルムは小さく溜息を漏らした。 百姓は人を食わせる仕事だ。そのために土を相手に働き命を育む。 それは確かに天候や自然に左右されるけれど充分な蓄えがあればこうはならなかったのだ。 まさしくあまりに重い年貢米のせいである。 アルムの懊悩を別にラムの村の名主各と言うべきグレイが血気に逸った声をあげた。 「飢え死にするのも戦で死ぬのも同じだ。だったら目に物見せてやるってんで俺たちは立ったんじゃねえか! ねえもんを嘆いてもどうにもならねえ。食えてるうちに攻めまくるしかねえだろ!」 それを制したのはマイセンである。 「逸るでない。逸るでない…それではドゼーの思うツボじゃ。ソフィアの城は難攻不落。 やたらに攻めては犠牲を増やすだけじゃ。兵糧が手に入らぬかワーレンに使いをやっておるゆえ焦るでない」 結局この時の会合では城を囲ったまま様子を見る事となった……
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174 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 アルムの章 吼える居合い[sage]:2011/10/14(金) 14:21:53.72 ID:gQiqxrF5 - 打ち合いの音が響く陣地の一角。
武芸の心得のある者が農民兵たちに稽古を付けている。 そんな一角にてアルムは太刀の稽古をしていた。 本来アルムの家は太刀を買えるほど裕福ではなかったが一揆を起こすにあたり財産を整理したグレイが村人たちに武具を買い与えていた。 「ふぅ……」 「どうしたアルム? 溜息なんてついてさ」 傍らで稽古をしていたクリフがアルムの溜息を聞きつける。 「ん…やっぱりさ…僕は太刀より鍬を持ってるほうが性にあってるよ…」 「…俺もだよ…」 ラムで決起して以来ソフィアの城を囲むまで幾度かの戦いがあったがアルムもクリフも人を切った事は無い。 アルムは剣術の筋は決して悪くなく稽古ではそれなりの事ができるのだがどうにも実戦ではだめなのだ。 土に鍬を打ち込むのと人間を斬るのとは違う。 「なぁアルム…知ってるか?」 「何を?」 クリフの言葉からしてアルムは他に答えようもなかったのだがクリフはアルムの鈍さを責めるかのような顔をした。 「グレイの奴。城攻めが終わったら嫁さん貰うつもりなんだぜ」 「え…ええっ? 初めて聞いたよそれ…相手は誰?」 「今は大変な時だから落ち着いたら皆に話すつもりらしいよ。あいつは単純だから隠せてないけど…なんだ本当に気がついてなかったのか… 隣村出のクレアって娘だよ。ロビンとさんざん取り合ってグレイが勝ったわけだけど」 「ろ…ロビンまで…全然知らなかった…」 ここまで来るとクリフは苦笑いをするしかない。 だが彼が本当に言いたかった事は、戦という非日常の中でも若者たちはどこかに日常を求めているという事だ。 色恋沙汰や婚姻…戦の終わりにあるはずの日常とそれに続く人生とを… 「俺もその娘の顔だけは知ってるけどさ。可愛い娘だよ。グレイの奴うまい事やりやがった」 「そっか…うん、でも目出度いよね。物も無いからあまり盛大にはできないかもだけど戦が終わったらみんなでお祝いをしなきゃな。 クリフは誰かそういう人はいないの?」 「畑も無い小作農じゃ嫁さん貰っても養えないよ…そういうアルムはどうなのさ?」 「いないいない。あんまり考えてる余裕も無いし身近に親しい娘もいないよ。 のんびり畑を耕して暮らせるようになったら考えてみるけどさ」 言葉に出してはこういった。 だが本心を言えば気になる相手がいないわけではないのだ。 幾度か会合で顔を合わせたあの赤い髪の娘… ミラ宗の僧兵の長セリカ…今まで二言三言やりとりをしただけだがどうにもあの娘の事は頭から離れない。 この感情が恋慕かと言われるとそれはアルムにはわからなかった。
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175 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 アルムの章 吼える居合い[sage]:2011/10/14(金) 14:22:23.01 ID:gQiqxrF5 - 稽古を終えて陣屋に連れ立って戻る途上、赤い夕日が大地を染め上げていく。
八月の蒸し暑い風を感じながら例年であれば畑に何を植えていただろう…そんな思いがアルムの心を占めていた。 その折である。アルムに声をかけてきたのは地味ではあるが可愛らしい顔立ちの娘であった。 「アルムさん、お稽古の帰りですか?」 「うん、ジャンヌはこれから炊事?」 この娘はラムの村で知り合ってから幾度か話をする機会があった娘であり、 割と気さくに声をかけてくるのでいつのまにか親しくなっていた。 傍らでクリフが瞳を瞬きしている。 「ええ、お米は少ないけれどなんとか美味しい物を作るから楽しみにしててくださいな」 「うん、ありがとう。やっぱりね米も野菜も美味しく料理してもらえると僕ら百姓も嬉しいよ」 「ふふふ、楽しみにしててくださいね?」 そこまでを言うと娘はちらりと人目を気にして…そして小さな声を出した。 「ね…少し話ししたい事があるんです…夜にでも…時間を取れますか?」 「え…えぇ? でも僕…今夜は爺ちゃんの不寝番の当番なんだ」 マイセンはいまや一揆軍の長である。 警護がつくのは当然の事だ。 少し落胆した表情をしたジャンヌではあるがすぐに気を取り直して顔をあげた。 「ん…わかりました。また…」 炊事場へ向かって歩み去るジャンヌの背を見送るとクリフは瞳を細める。 「親しい娘いるんじゃんかアルム…」 「えぇ? ジャンヌとは何回か話をしただけだって。別にそういうんじゃないけど…」 「あの娘の方は脈ありそうだけどなあ…」 もったいない…とつぶやくとクリフは自分の持ち場へと戻っていった…
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176 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 アルムの章 吼える居合い[sage]:2011/10/14(金) 14:22:49.45 ID:gQiqxrF5 - その夜の事……
月の無い暗い夜であった…… アルムは予定通りマイセンの眠る小屋の入り口で番をしていた。 すでに宵も深まり静寂と常闇が周囲を支配している。 「……ん…」 少し眠気を感じる。その時である。小さな足音を聞いたのは。 「誰?」 瞳を擦ると一応傍らの太刀を手にとった。 何かマイセンへの急な報告だろうか? 「アルムさん…私です」 「ジャンヌ? 何かあったの?」 だがそれは先ほども話をした知り合いの娘であった。 クリフが妙な事を言ってくれたためか改めて顔を合わせるのが何か照れくさい。 「やっぱり…どうしても聞いてほしい事があって…」 「明日じゃだめ? その…僕は爺ちゃんの警護をしなきゃ…」 その時である。なにか思いつめたような顔をした娘がアルムにしがみついたのは。 「じゃ、ジャンヌ!?」 「少し…ほんの少しの間だけでいいんです…お願い…」 潤んだ瞳で頬を紅に染めながら見上げられるとアルムはひどく胸の鼓動が早まるのを感じた。 年頃の娘に抱きつかれた事などないアルムは戸惑い混乱し頷く事しかできなかった。 二人はマイセンの小屋を離れると少し離れたところの人気の無い倉庫の影に移動する。 ひどく落ち着かない。どうしたというんだ。 だがアルムの前を歩く娘は戸惑うアルムの様子を気にした風も無い。 「この辺りで…いいですね。アルムさん?」 「な…何…?」 振り返った娘は笑っていた。 どこか秋の風を感じさせる寂寥感に満たされた笑顔であった。 「ありがとう、あなたの事…ちょっと好きでしたよ?」 「え…?」 何が起こったのかわからなかった。 胸が痛い…そう…い…た…い…? ジャンヌが逆手に持っているのは…あれは懐刀? あれ…おかしいな…なんでジャンヌがあんなものをもって…それ…赤く濡れて… 「動いちゃ駄目じゃないですか…せめて一太刀で楽にしてあげたかったのに」 「………っっっ!?」 痛みが走った。ようやく自分の身に何が起きたのか理解できた。 斬られたのだ。懐から抜かれたあの懐刀で胸元を切り裂かれたのだ。 何故? どうして? だが膝を突きかけるアルムの疑問は言葉にならない。 「不思議そうですね…まだ私が敵だった事に思い至らない…いえ、考えもしない… そういうあなただから…いえ…これでさよならですよ…」 ジャンヌが懐刀を振りかぶった刹那。 アルムは跳ねるようにその場を逃げ出した。 思ったよりもその脚には力がある。 深手を与えたつもりだったが…思ったほどは傷は深くなかったようだ… 情…? 手元が狂った? 如何様にも理由は付けられるがそれが何故かはジャンヌにはよくわかっていた。 篭絡するつもりで少しずつ近寄って…惹かれていたのはどっちだったか… だが… 「どのみち…なら…せめて…逃がしはしません…」
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177 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 アルムの章 吼える居合い[sage]:2011/10/14(金) 14:23:13.90 ID:gQiqxrF5 - わけもわからないままアルムはマイセンの小屋に逃げ戻ってきた。
わからない。わからない。頭の中がぐちゃぐちゃになる。 だがさらに混乱は追い討ちされる。小屋にかけこんだアルムが見たものはマイセンを追い詰める奇怪な大男であった。 その者は般若の面を被り巨大なまさかりを手にマイセンを壁際に追い詰めている。 「ウキキ…ウキキ、俺の気配に気づいたのはさすが…けどもうだめ」 槍を手にとったマイセンは肩で息をしている。 往年はソフィア一の武士とされたこの老人もいまは七十を遥かに超え、しかも飢饉以来臥せりがちであったのだ。 すでに天寿は近く往年の力が出ない事はマイセン自身がもっともよくわかっている。 「ウキキ、止めだ。止めだ」 男がまさかりを振りかぶるのを見てアルムは大声で叫んだ。 「爺ちゃん!?」 「アルムか!」 般若面の下から舌打ちが聞こえる。 「せっかく時間をかけて仕込んだのに仕損じた。ドジな奴」 そう…ジャンヌは始めからマイセンのもっとも身近な護衛役を引き離しマイセン暗殺の機会を作るのが役目だったのだ。 そしてその当人はすでにこの場に追いついて来ていた。 「手間を掛けましたね。ローロー。人が来ないうちに終わらせましょう。あなたはマイセンを…私は…」 「ウキキわかってるわかってる…」 ローローがそれを言ったのも束の間。 ジャンヌに気を取られた一瞬の隙をついたマイセンの槍がローローの胸板を貫いた。 鮮血が飛び散り巨体が床に沈む。 だがジャンヌは動じた色も無い。 「娘…ぬしら忍びの者じゃな。ドゼーの手の者であろう?」 「ローローはその程度で終わりはしませんよ。忍びの忍びたる力を見る事になります」 消えたはずの気配が幾重にも増えてゆく。 長い人生を歩んだマイセンにもこれはない経験だ。 「ぬう!?」 煙幕か何かであろうか。煙が立ち込めローローの屍は消えて無くなっており… 変わりにそこにいたのは三人のローローであった。 「ウキキ俺は不死身不死身」 「ウキキ斬られれば斬られるほどに増えていく」 「ウキキあきらめろあきらめろ」 「め…面妖な…忍術か!」 三人のローローが襲い掛かる…激しい斬激と金属音が響き渡った。 「じいちゃん!?」 「アルムさん。あなたの相手は私ですよ」 「ジャンヌ…どうして…っ」 マイセンを助けに入ろうとしたアルムを阻んだのはジャンヌである。 「本当に優しいアルムさん。この期に及んでもまだ太刀を抜かないんですね。 けれど…この世の中でそれがどれだけ命取りでしょう…あなたは必ず殺されます」 ジャンヌの手首が唸る。 アルムの肩口に手裏剣が突き刺さった。 低い悲鳴が漏れ血が噴出す。 いや…これは痛みだけではない…目が霞んできた…まさか…まさか…? そう…先ほどの刃にも手裏剣にも毒が塗られていたのだ。 それが回りはじめてきたらしい。 「今…楽にしてあげます…」 懐刀が振り上げられたまさにその時であった。 轟音とともに小屋の壁が吹き飛んだのは。
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178 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 アルムの章 吼える居合い[sage]:2011/10/14(金) 14:23:35.82 ID:gQiqxrF5 - そこに立っていたのは赤い髪の娘であった。
「マイセン様っアルムっご無事で!?」 そう、ローローの攻撃をかろうじて持ちこたえていたマイセンの槍の金属音がこの陣屋に割合近いミラ宗僧兵の陣屋まで届いていたのだ。 跳ね起きたセリカは慌ててこの場に駆けつけてきたのだ。 ジャンヌが舌打ちを鳴らすと同時にローローの一人がセリカに向き直る。 「ウキキ…これ以上騒ぎを大きくできない。お前も死ね」 まさかりが振りかぶられる。だがセリカはまったく躊躇いも恐れもなく印を切ると附より炎を生み出した。 ローローの体が炎に焼け焦げて崩れ落ちていく。 「妖術使い…面倒な…っ!」 ジャンヌの手元から苦無が飛んだがそれをセリカは僧兵の小太刀で叩き落した。 元々ジャンヌは暗殺やだまし討ちには長けていても正面切って戦うのはそれほど得意ではない。 状況が振りになりつつある事を悟った彼女は残った二人のローローに目配せをするとすぐに煙幕を炊いた。 「待て!」 セリカの叫びが空しく響く。 ―――アルムさん…ここは引きます…けれどあなたを殺すのは私…… 霧が掻き消されるようにその姿は消えて無くなった… だがそれを探して追う余裕は無かった。 二人のローローがマイセンと戦っている。 「ぬう!」 槍がうなりまさかりが舞う。 セリカは目標を転じて雷を放ちそれを浴びたローローの動きが止まった刹那マイセンは槍を持ってその心臓を貫いた…だが… 「ウキキ…かかったかかった!」 息絶えようとするそのローローは死に際に槍の根元を両手で掴んだのだ。 これでは刺さった槍を引き抜く事ができない。 「ウキキ今だ今だ!」 その間に残る一人がまさかりを振りかぶる。 マイセンは槍で防ぐ事はできずセリカは詠唱したばかりで次の術を直ぐに唱える事ができない。 巨大な斧がマイセンの頭上に落ちかかった… ローローは任務の達成を確信する。 だがこの時ローローはもう一人の人物を忘れていた…いや、正確には考慮にいれる必要が無かったともいえる。 その者は毒で重症を追い動く気力も無いはずだったのだから…だが… ああ…爺ちゃん…爺ちゃんに…刃が迫ってる… どうしてだろう…僕が護衛から離れたから? 僕が隙を見せたから…僕が弱いから…? 人を斬るのは怖い…いやだ…けれど… 誰かが傷つく…抜かなきゃ…今…抜かなければ… 一瞬のうちにどれだけの心の動きがあっただろう。 その果てに訪れたのは毒で意識を失いかかる間…無意識に近い形で動く体だった。 居合い抜きはあらゆる剣術の中で最速を誇るといってもよい。 無言のうちに鞘走り加速した太刀はローローの首を跳ね飛ばした。 この時すでにアルムの意識は消え失せ闇に落ちていった。 次回 侍エムブレム戦国伝 死闘編 〜 セリカの章 国取り 〜
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