- 歴代FE主人公が兄弟だったら 37章
343 :助けて!名無しさん![sage]:2011/09/11(日) 14:15:57.43 ID:lT0jQCz4 - この小説を読むまえに>>116の注意書きを参照ください。
>>179-184の続きにあたります。
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344 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 ミカヤの章 神風[sage]:2011/09/11(日) 14:16:30.60 ID:lT0jQCz4 - 山の静謐な空気が巫女の白い肌を包む。
鬱蒼と茂った木々は風にざわめき吹き抜ける空気は夏の気配だ。 巫女は木々の合間のやや開けた場所に鎮座する岩の上に座して只管に祈祷を続けていた。 霊峰マレハウトの霊気が巫女の周囲を取り巻き清浄な気が俗界で纏った気の穢れを削ぎ落としていく。 ミカヤが岩の上に座す事すでに一ヶ月。 僅かな眠りと軽い食事の他は常に祈り続け時折その身に森羅万象もろもろの神の霊を降ろす。 長らく続くこの暮らしに辟易としたユンヌは木の枝に座してその姿を見つめていた。 「ねーねーミカヤー飽きたー」 返事は無い。それほど深く深く精神を現世から引き離し神の世界と対話をしているのだ。 ミカヤに神託を下した龍神デギンハンザーの途切れそうなかすかな霊気を捉えてその意志を受け、 自らの霊力を高めているのだ。 「護国…鎮護………風……神……導きに……」 「みかやーまだあの禿頭なんも言ってこないのー? ったく…信仰が薄れたのを理由に怠けてるんじゃないの。こちとらはまだ現世で粘ってるってのに…」 すっかり退屈したユンヌは翼を広げると暇つぶしに山の散歩に出かけていった。 この山に入ってから出来た新しい知り合いの元へと向かったのだ。 最近では一日に一度その者の元を尋ねるのがユンヌの日課となっていた。 しばし風を切って空に舞い、木々も少なくなり岩肌が覗く山頂付近にその祠はあった。 岩肌を削って作られた小さな小さな祠だ。人一人入る事もできない程度の小ささで中には御神体が祭られている。 もっとも詣でる者もいなくなり朽ちるに任されている感はあるが。 ユンヌは祠の前に舞い降りると壊れかけた戸を嘴で突いた。 「こんちわー遊びに来てやったわよー」 御神体に宿っていた神の霊が眠りから覚めて周囲の空気をより冷たいものとした。 弱弱しい霊気だ。ユンヌのような神やミカヤほどの霊気を持った者でなければ存在も感知できず声を聞く事もできないだろう。 信仰の薄れた神々は現世での力も衰えるもの。ましてその神格はピンキリである。 デギンハンザーほどの龍神でもほとんど世に影響を及ぼせなくなっているのだから末端の力の弱い神々では尚更である。 その神はまだ神として祀られて百年も過ぎていない力の弱い神であった。 「ああ……今日も来てくれたか…そなたが顔を出してくれる事だけが我が無聊を慰める…」 彼の名はグローメル。生前はこのマレハウトを根城とした一端の武将であった。 飛竜を駆って山を飛び回った猛将であったが、 ある時山頂から転げ落ちてきた落石から麓の村を守るために自らの身で岩を受け止めて命を落とした。 その遺徳を称えて村人たちがこの地に祠を築きグローメルの霊を祀ったのだ。 死者の霊は多くの人が生前の徳を信仰して祭礼を行なうと八百万の神の一柱に加えられる事となる。 グローメルもそうした神の一柱であった。もっとも今は祀る者も絶えて久しいが…… 「いいって事よ。私も暇なんだもん。供え物とかお神酒とかあったらなおいいんだけど」 まったく歯に衣着せぬユンヌだが邪気が無いので微笑ましい。 「そんなものはここ十年近く無かったが…実はな。今朝方山頂に向かう旅の者が我が祠に参ってな。 饅頭を供えて行ってくれた。一つわけるゆえお主も食うがよかろう」 神への供え物は現世を離れ信仰そのものとして霊気を帯びる。 忘れかけていた生前の味覚のような物を思い出してグローメルは頬を綻ばせた。 ユンヌは曲がりなりにも実体を持って顕現しているため供え物でなくとも食う事はできるのだが。 「うまっ甘味うまっ!もう虫だの鳥のエサだのは飽きてたのよっうまっ! それにしても奇特な旅人がいたもんねえ。どんな物好きよ。こんな山奥までわざわざ来るなんて」 「修験者であったな。まだ若い男であった。恐らく修行にでも来たのであろう」 「へえ、ちょっと様子見に行ってみるかな。またねー」 言うが早いかユンヌは山頂目指して飛んで行った。 まったく落ち着きの無い神だとグローメルは呆れてその背中を見送ったものである。
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345 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 ミカヤの章 神風[sage]:2011/09/11(日) 14:16:53.69 ID:lT0jQCz4 - マレハウトは山頂に近づくとほとんど木々も無い岩場ばかりになってくる。
火口付近は現在もある程度活動をしており噴煙が上っているのが見て取れた。 徐々に高度を落として行ったユンヌはそこに岩肌をよじ登る見慣れた巫女の姿を見出した。 慣れない山登りにすでに巫女服はあちこちが泥に汚れている。 「あれ、ミカヤ? ここんとこずーっと上の空で祈祷してたのにどうしたのよ?」 顔をあげた銀の髪の巫女は少々やつれてはいたがそれでもなお気丈に微笑んで見せた。 「デギンハンザー様からのお告げよ。求めし者は来たれり。これで…この国は救われるわ… 私の兄弟たちのいるこの国は…」 ユンヌを肩に止めるとミカヤはごつごつした岩肌を苦労してよじ登り噴煙立ち上る火口を見下ろした。 高熱のガスが噴出し硫黄の香りが立ち込める火口には容易に近寄れるものではない。 噴煙の奥にはかすかに赤い色すら見える。 火が噴出しているのだろうか? だが…その時である。 噴煙の奥深くに人影が揺らめいたかと思うと…突風が巻き起こり紅蓮の炎を掻き消し幾重もの噴煙を流し去っていく。 火口の中腹の岩場に立つのは一人の若者であった。 その者は山伏の身なりをしており、彼が印をきり術を唱えるたびに風は強くなり火口の中を支配していく。 「これは…なんて風の霊力…火の気がみるみる衰えていく…」 元来風の気は雷に強く火に弱いとされるが…それであってもなお術者の力が上をいっているのであろう。 思わず感嘆したミカヤをその若者は見上げると迷いの無い口調で名乗りをあげた。 その一語一語は確信に満ちていた。 「我が名はセティ。神託に導かれこの地に馳せ参じました。銀の巫女殿とお見受けします。相違ありませぬか?」 この日……デギンハンザーの神託はその実を結んだ……
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346 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 ミカヤの章 神風[sage]:2011/09/11(日) 14:17:15.71 ID:lT0jQCz4 - 炎正十三年八月七日。
サカの船団はトハ海岸の湾口に密集し陸のデインクリミア両軍と睨み合っていた。 あれから二度に渡って上陸を敢行し、デイン、クリミア軍に多大な損害を与えたものの 猛将アシュナードを中心に猛烈な抵抗を受けていまだに上陸地を占領できず船に戻らざるをえなくなっていたのだ。 慣れぬ船の生活にサカの戦士たちは疲れきっていた。 多くの者が酷い船酔いに苦しめられておりそれに加えて八月の猛暑である。 船内の衛生はあっという間に悪化し船団内に疫病が流行り始めたのだ。 敵が小型船で斬り込む隙間を無くすため、また揺れを減らすために船と船を鎖で連結して密集させていたのもよくなかった。 それが返って疫病を広める結果になってしまったのだ。 甲板の上でリンは今日も西を…大陸の方を見つめている。 あれから二度、モンケに無理を聞いて貰って上陸部隊に参加したが何分何万人もひしめく戦場である。 あの黒龍に乗った武将とも天馬に乗った武将とも一度も合間見える事ができなかった。 その悔しさ以上にリンの心を占めるものは草の波うつ大草原だった。 ここは海と砂浜しか見えない。どれだけ…どれだけ遠くに来たのだろうか… 「うっぐ……」 呻き声が聞こえる。リンの乗るロルカの旗船でも幾人かの者が疫病にかかり、 風通しのよい甲板に天幕を張って日差しを避けて横たわっていた。 聞き覚えのある声にリンは向きかえると横たわる若者のそばに膝を突いた。 「目が覚めたの?」 「ああ……」 真っ青な顔をした若者、ギィはもう戻すものも無くなったのかやつれた顔をしている。 「戦…は?」 「心配ないわ。ジュテもロルカもよく戦って敵を叩いている。 明日には四度目の上陸を図るわ。これで今度こそ陸にあがれるわよ。それまでの辛抱よ」 心の底の不安を押し隠して力強い声を出してみせた。 その言葉はギィだけではなく周りの病兵たちにも聞こえるようにはっきりと通る声であった。 族長たるもの、みなの前で不安な姿を見せてはならない。 それがわかったのかどうかリンにはわからなかったが… ギィは戦に望む時のような気丈な顔をして見せた。 「おう…勝ってサカの草原に帰るまで…くたばってたまるかってんだ」 その言葉に周りの者たちは遠い故郷を思った。 遠征に次ぐ遠征。長征の果ての長征。 もう何年も見ていない心に抱く草原を…… 「草原か……住んでた時はよ…ろくに物も食えない草しか無い土地だって思ったけど… 豊かなアカネイアを絶対に奪い取ってやるって思ったけど…よ」 「こんな海の上じゃ…ニケ様の声も聞こえない。ハノン様の息吹も感じない……」 望郷の念にかられる戦士たちをもう一度奮い立たせようとリンが言葉を選んでいると天幕にスーが顔を出した。 常に冷静沈着なリンの側近だがこの時は心なしか不安げな顔をしている。 「リン…雲行きが怪しくなってきたわ…」 その言葉を受けて船首からリンは空を見上げる。 確かに雲が厚くなってきたようだ。 雨が降るかも知れない。だが…… 「心配には及ばないわよ。三千隻もの船が鎖で連結してるんだから。多少の雨風でひっくり返ったりはしないわ。 それよりも明日の上陸戦の準備を進めておきなさい。今度こそ敵共の首を上げて陸に拠点を構築するのよ」 そう…こちらも疲れているが敵の消耗はそれ以上に大きい。 残っている兵は一万いるかいないかというところだろう。 次の上陸ではいかにあの黒龍の将が強かろうとかならず討ち取る自信があった。 奴が百人力ならこちらは千人。千人力なら一万人で討ちかかって首を叩き落してやる……
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347 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 ミカヤの章 神風[sage]:2011/09/11(日) 14:17:49.03 ID:lT0jQCz4 - トハの海岸線を望む小高い岬の上―――――
徐々に天は雲に覆われていき薄暗さが周囲を満たしていく。 この地の上にて若き山伏と巫女は湾内を圧する異国の船団を見つめていた。 「神州紋章の国を侵せし異人。なれど八百万の神の力を持ってすれば必ずや調伏できるでしょう」 若者は一歩を踏み出し一枚の護符を手にする。 風神フォルセティの加護が込められた護符からは強大な霊力が立ち上っている。 銀の巫女ミカヤは祈祷の果てに神の世界との強い通り道をその身に宿している。 その力を持ってこれより風神フォルセティをこの身に降ろしその力をセティに送り込むのだ。 さすればフォルセティの術はこの世で震える本来の力よりも何倍も何百倍もの力を振るえよう。 その力を持ってこの国を護れ。 それがデギンハンザーがミカヤに下した神託であった。 「いいのミカヤ?」 ユンヌが不安げな声を出す。 異国とはいえ十万からの人間をこの地に葬り去る事に躊躇いを覚えない人間はそうはいないだろう。 だがミカヤの言葉には葛藤はあったのかも知れないが少なくともそれを見て取る事はできなかった。 「どちらしか生き残れないのなら―― 弟妹のいるこの地を護る道をわたしは選ぶわ。 そこに迷いはない…」 印を切ったミカヤの口から言霊が発せられる。 天地にただよう霊気が強まり神域へと見えぬ道を作っていく。 「風神、東南の風をもたらせし恵みの神よ。かしこみかしこみ申す。請い願わくば我が身に下りてその加護をもたらせ給いし――― デギンハンザーの巫女ミカヤが求める――――風神よ風神よ……請い願わくば……」 朗々と響き渡る強い言霊にセティは感嘆した。 山伏として諸国を渡り歩いた彼ではあるがこれほどの霊気を秘めた巫女を彼は他に知らない。 匹敵しうるとすれば会った事も無い方だが現人神とされる帝くらいのものではあるまいか。 徐々に風の気が強くなっていくのが感じられる。 セティは風神を祭った神社の神職の末裔だが術には長けていても神降ろしの力は無かった。 だが…これならば… 風の気を取り巻いたミカヤから別の神霊の気が立ち上った。 目つきが…声が変わる。 擦れ擦れではあるがより高次の世界と現世が繋がり、偉大な神霊がこの地に降り立ったのだ。 「御子よ御子よ…風使いの末裔たる御子よ……かつてこの地を調伏せしアスタルテとの約定に従いて……」 神の言霊がミカヤの口を通してセティに流れ込んでいく。 彼の中の霊力はこれまでにないほどに高まっていた。 風神フォルセティは古に主神アスタルテと交わした約束に基づいて信仰の廃れた今の世であってもこの地を鎮護しようとしているのだ。 その為の力をセティにもたらしているのだ。 「掛けまくも畏き大神フォルセティ。高き尊き思し召しのままに世のため人のために盡さしめ給へと恐み恐みも白す……」 セティもまた畏怖の念を言霊に乗せて発すると彼の符は霊気を受けて光り輝いた。 風が勢いを増し雲を呼び寄せたちまちのうちにトハの湾内は波打ち始める。 風は嵐を呼び波は激しさを増し海鳴りは咆え狂い僅かの間に強い雨が降り始めた。 この地に満ち満ちた神霊の力がさらなる暴風を呼び集めてゆく……
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348 :侍エムブレム戦国伝 死闘編 ミカヤの章 神風[sage]:2011/09/11(日) 14:18:48.01 ID:lT0jQCz4 - 凄まじい暴風は何重もの鎖で連結された大船団をも揺るがし始めた。
寄せては返す強い波は船べりを越えて甲板まで流れ込み帆をへし折り兵を飲み込んでいく。 揺れ動く船と船が擦れあい船腹に穴が空き海水が流れ込んでいく。 サカ兵たちは甲板を逃げ惑い嵐の海に飲み込まれていく。 「な、なんだ! 帆をたため!持ちこたえて……」 ジュテの族長モンケが号令を下しかけたその瞬間であった。 凄まじい暴風に立っている事もままならぬ甲板上に雷が落ちたのだ。 それがジュテの旗船の甲板上に設置されたシューターに直撃し、 不運にもエレファント砲用に積まれていた砲弾に引火して大爆発を起こした。 ジュテの旗船から発した大火は暴風に煽られて連結されていた各船にたちまち燃え広がり数千の船が海の上で大火に包まれてゆく。 それはあたかも海の上に巨大な赤い壁が生じたかのような有様であった。 暴風に煽られ大火に包まれてサカ船団の各船は次々と転覆沈没していく。 この世の物とは思えないその光景を海岸の陣地からエリンシアは呆然と見つめていた。 「これは…なんと…」 足軽達から歓声が沸きあがった。 戦い疲れきりもはや大軍の攻撃を支えきれぬと思っていた矢先の事である。 まさにこれは天佑ではないか。 エリンシアの夫のジョフレも戦いに疲れた顔を上げて深々と頭を下げた。 「これはまさしく天の助け…まさに神風。いずれの神か存じませぬがこれでクリミアは救われまする。御礼申し上げる―――」 神に救われた者もいれば見放された者もいる。 ロルカの旗船は既に業火に包まれており戦士たちは小船に乗り移ろうとして風に煽られ次々と海に落ちて行く。 船にも穴があいたのだろう。凄まじい勢いで船が傾き甲板から人も荷物も何もかもか滑り落ちていく。 かろうじて柵に掴まっていたリンは鎧のしめ縄を断ち切って脱ぎ捨てると覚悟を決めた。 「武具を捨てて海へ飛び込めぇぇぇぇぇっ!!!」 自ら率先して部下に行動の範を示そうとリンは海へ飛びこむ。 重い物を捨ててそうするしか生き残る道はあるまい。 だが…父の形見たる宝刀メリクルソードだけは投げ捨てる事ができずにその腕に抱いて―――― 海に飛びこむその刹那。風の泣き声が何者かの声のように聞き取れた。 家を出て自らの足で立ち上がった者を世話する親はいるまい…これもそなたらが自ら求めた結果だ―――― だがその声に意識を向ける余裕は今のリンには無かった。 炎正十三年八月七日―――― 三千隻を超えたサカの巨大な船団は猛烈な嵐の前に跡形も無く全滅し 狼の血を引く戦士たちは海の藻屑と消え去った。 大陸を出て海原に乗り出した者たちにニケの加護は無かった―――― 次回 侍エムブレム戦国伝 死闘編 〜 リンの章 折れた牙 〜
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