トップページ > 家ゲーRPG > 2011年06月04日 > CeDoJpLp0

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名無しさん@お腹いっぱい。
End of the Game −覇王層・以下略− 1
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テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
249 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/06/04(土) 09:07:57.41 ID:CeDoJpLp0
本日19:00より投下したいと思います。
容量は45kb前後。お手隙の方がおられましたら、支援を願います。
テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
253 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/06/04(土) 19:01:21.67 ID:CeDoJpLp0
それでは投下します。タイトルが名前欄に収まらないため、名前欄では省略します。
テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
255 :End of the Game −覇王層・以下略− 1[sage]:2011/06/04(土) 19:02:54.68 ID:CeDoJpLp0
クレス=アルベインが後ろに向かって走っている。
どんな人間だって後ろを向くことも走ることも出来るのだから、特段驚くべきことでもない。
それが“あの”クレス=アルベインであるというだけで、その普遍は特別へと昇華される。

腐食し、黒虫の餌となった女の死体をぐちゃぐちゃと刻み潰した“あの”クレスが、後ろに移動している。
その一刀で島の中で数々の剣士たちを屠ってきた“あの”クレスが、敵との距離を明けている。
年端もいかない少女を人質に取る卑怯者を、指だけ狙って切断できる“あの”クレスが息を荒げて走っている。
十体の機械兵士を前にしても怯むことなく、見事に勝ち切る“あの”クレスがたった一匹のモンスターに。
倫理と引き換えに人間の臨界に達した自分五人を文字通り瞬殺せしめた“あの”クレスが心千路に乱れて。
剣と鋼の軍列相手に下がることなく叩き殺しきった“あの”クレスが壊乱するように。

この舞台における最強の称号『優勝者』を担った“あの”クレスが―――――――――――退いてしまっている。
その異質さを今更語る必要は、恐らく、無い。
だが同時にその理由を弁明する必要も、無い。

「EGYAEEGYAKOOVA”AァIGAAAAAッッッ!!!!!!!」

バックステップの着地、膝が衝撃を吸収するよりも先に更に跳躍して後方へと飛び退くクレスの鼻先を
伸ばされた爛れた爪先が掠めると、人間を沸騰しながら発酵させたような腐臭が鼻腔を抉る。
(動きを止めないとどうにもならない。兎に角、動きを―――――――)
そう判断ながら着地したクレスの眼の前でロングソード、スレイヤーソード、ムラマサが地面に突き刺さる。
いずれも先ほど襲ってきた自分達の得物であり、地面に落ちていたり壁に突き刺さっていた刃だ。
バックステップと同時に、逆手に下げた魔剣で後方に放たれたクレスの魔神剣。
その中にクレスが手首を介して僅かに混ぜた“捻り”が、号令の如く各方に散っていた剣を浮かせて飛ばし、自身の眼前に結集させる。

「ごめん! 少しだけ我慢してくれッ!」

魔神剣を手足の如く用いるその技量を感嘆する暇などなく、クレスは魔剣を構える。
並走するだけでは何の解決にもならない以上、先ずは動きを止めなければ話にならない。
その為に、クレスは魔剣を3つの剣へと走らせる。クレスの技量を以てすれば狙った場所に飛刃を差し込むことなど造作も無いだろう。

(動きを止める! そのために、足を―――――――――――――――)

今、彼女に“何を我慢させようとした”!?

テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
256 :End of the Game −覇王層・以下略− 2[sage]:2011/06/04(土) 19:03:40.33 ID:CeDoJpLp0
「う、ああ”っ!」
魔剣が振り抜かれると同時に3つの刃が飛翔し、膝裏や爪先、腿に纏わりつくようにバケモノの足周りに突き刺さる。
器用に人体構造の隙間を縫う様にして極まった刃は、さながら箱の無い剣刺しマジックだ。
関節を縫う様にして通されたその刃は敵を全く傷付けることなく、しかし一歩でも動けばその脚を血に塗れさせるだろう。
それは正に剣の標識。“動くな”という強固な意思の具現だった。

<随分と小器用なものでございます……寸分の狂いなく巡らされた剣の柵……
 いやはや、ここまで堂々とインチキ剣法を出されては最早呆れを通り越して難癖つける気も失せると言うもの……
 通しましょう……その剣の柵……“動けば怪我をする”という魔王の命令……しかと受け取りました……>

動きを止めたバケモノを確認して、ぼんやりとした闇の中でクレスはどっと疲れを吐き出す様に荒く呼吸をする。
それは見事な技のキレとは打って変わって、歪み、惑い切った仕草だった。
狂い無き精密拘束。だが、一番最初に思いつき、実行しようとしたのはそれとは似て非なることだった。
それはもっと素直で、もっと効果的なこと。何ら迷う必要のない最善。
だが、クレスはそれが出来なかった。真っ先に思いついて―――否、真っ先に思いついたが故に、思いついたこと自体を恥じた。
(何で、そんなことを考える? まだ敵かどうかも分かってないのに。
 分かっているのか。アレは、バケモノなんかじゃない。アレは、あの子は―――――)

<ええ、構いません……だって……それは逆に言えば……“怪我をすれば動いていい”ということ……>

「GA,AZA……ZAN……ZA,GAAAAA……」
正気と狂気の狭間で揺れるクレスの僅かな逡巡が、貴重な時間を奪い去る。
ぶち、ぶしゅぅ、と暗がりの中でハッキリと見えなくとも容赦なく聞こえる出血の音がクレスの耳を満たす。
眼の前のバケモノが、魔王の勅令を無視してその脚を刃に押しあてていた。
「なッ……! やめろ、やめるんだ!!」
剣で示しても伝わらないのに、クレスの言葉など耳に入るはずもなく、バケモノは前へ、前へと手を伸ばす様に足を出そうと柵へ押しつける。
肉を千切り、血を垂らしながら柵の向こうへと進もうとする。
痛みを対価に、血液を通行手形と示す様に、剣の柵はじわじわと大地から抜け始める。
破れない扉など無い。超えられない壁など無い。本当の意思の前に、魔王“如き”の命令など意味を成さない。
「くそっ、何が、どうなって……」
バケモノが股から腿へと血を滴らせ、標識ごと前に進もうとする。
自分が立てた剣の刃がそれを傷付ける光景を前に腹の内から湧き上がる疼きを押し殺して、クレスは再び足に力を溜める。

<そんなものは精々『お願い』でしかない……本当の意味での『命令』には成り得ない……
 本当の『命令』というのは――――――『こういうコト』を言うのです……ッ! さぁ…………判決をッ!!>

あと何秒もなく拘束は破られるだろう。それまでに、何としても距離を取らねばならない。
あの化け物の彼女の一ツ眼から見えぬ場所まで、そして自分の二ツ眼に入らぬ場所まで。
クレスの一足が、怯えたその身体を遥か遠く遠く――――――
 
<再審―――Uターン禁止【ヘキサゾーン】。“BOSS戦より逃げることは禁じられています”>

テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
257 :End of the Game −覇王層・以下略− 3[sage]:2011/06/04(土) 19:04:25.82 ID:CeDoJpLp0
―――――――逃げるなよ。
バックステップを取ろうとしたクレスはその背中に、ぐいと力を感じた。
鉄の棒よりも硬く、そして熱いものが焼きゴテのように押しつけられている。
だが、クレスにはそれを振り払うことが出来ない。押しきることも、振り払うことも、斬り捨てることも出来なかった。
まるで自分の背中から生えてきた自分の腕が、逃げるな、逃げるなとそのマントを摘まんでくるかのように、撤退する意思を剥奪してしまう。
心臓から皮膚に向けて音が響く。その心の内より放たれる絶対なる言葉の前には、肉体という下僕は傅くしかない。

言われてしまった以上は“従わざるを得ないのだ”―――――――――その理由が分からなくても。
何があろうとも、眼前のソレが何であろうとも。

「……ィ……ちゃ、ん……!」

足を血に塗らせながら歩むバケモノが、例え、例え。

――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――

「どういう……ことですか……」
喉の震えを懸命に抑えながら、グリューネは辛うじてそう言った。
「どういうこと? グリューネ様がそれを仰いますかな……? 貴女は見事バトルロワイアルを終わらせました……
 バトルロワイアルの終わりに伴い……“本来のルール”も適応させて頂きました……物語<Tales>のお約束、究極の様式美をね……!」
参加者同士の闘いならばいつ何処で逃げても問題ない。所詮は見世物、狗共がやいのやいのと噛み合うのを王が楽しむための娯楽だ。
だが、その狗が鎖を引き千切り王に牙を向けんとする今、王様が狗のルールで戦う道理は無い。
「第一…………“こんなの”面白くないですもの…………」
刻み煙草を火皿に詰めながらサイグローグは淡白に言った。
排便を急ぐも使用中のトイレの前で「今トイレに入ってるの誰なの!?」と問われた時のように、
特に勿体ぶる理由もなく、吸って吐くその煙のようにあっさりと理由を告げる。
「『突如眼の前に現れたバケモノは親友の妹だった! 襲い来る幼女を斬ることが出来るのかッ!?
  嗚呼、運命の坩堝に翻弄される哀れな剣士はその剣を如何に振うのかッ!? 後篇へ続くッ!!』
 ―――――という感じで大枚はたいてマッチメイクを整えたというのに……そこで主演がドタキャンなんて有り得ないでしょう……?
 観客は“この後”を待っているのですよ……少しは“流れ”を読んでくださいませ、グリューネ様……」
そう言ってブヒャぁと大きく白煙を吐きだしたサイグローグの軽薄で淫蕩な笑みをグリューネは見ていなかった。
眼を伏せて、押し固めた両の拳をテーブルに押しつけている。震える下唇は、上唇にて啄ばまれていた。
道化師の表情を見て更なる怒りを逆立てず、テーブルを介して今ある怒りを減じるには成程効果的だった。
だが、道化から眼を逸らせばそこに在るのは虚空にあって尚存在を示し続ける盤面だ。
そこにあるは無数の破片の中に立つは二つの駒。
1つは女神の操る魔剣。立ち塞がる全てを切り裂く、何物にも阻むことのできない最強の鬼札。
かたや道化が繰り出した駒は――――ハッキリ言って最弱だ。
力でも、能力でも、知性でも。ありとあらゆる性能で劣り、いくら手を施した所で最強を上回ることのできない『歩』以下の駄駒。
性能だけで言えば機械人形や、鏡写しの狂剣の方がまだ勝ち目があるだろう。
「何故……」
だが、グリューネはその駒にある感情を禁じえなかった。
「これが出てくるのです……これを―――――出せるのですか…………これは……この者は……」
機械人形や、鏡写しの自身等とは根本的に意味合いが異なる駒。
強くはなく、便利でもない、役立たずの駒。だが、たった一点に於いそれは他全ての存在を凌駕している。

「―――――――――既に死んだはずでないですかッ!!」

それは生ける者達の舞台より降りた―――――――――“存在してはいけない駒”なのだ。

テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
258 :End of the Game −覇王層・以下略− 4[sage]:2011/06/04(土) 19:05:16.72 ID:CeDoJpLp0
「だから……何だと仰るのですかな……?」
「惚けるな道化! これまで貴様の佞言に付き合ってきましたが、こればかりは見過ごせません。
 死者を墓場より持ち出すなど正気ですか!? 一体何を考えているのです!?」
「落ち着いてくださいませ……先ほども申し上げたではありませんか……グリューネ様が用意せしめし魔剣……
 私、その切れ味に大変感銘を受けました……その切味はさながら……主神オーディンがグーングニルを人間にレンタルしている時に携えし剣の如し……
 ですから私は見たいのですよ……その剣で斬れないものがあるのか……だから……『こんにゃく』をご用意させていただきました……」
グリューネは顰めた眉の間の皮膚を摘まんで頭痛を堪える。
存在できない駒の召喚。その明白な禁忌でさえ、サイグローグにとっては『こんにゃく』を持ちだした程度なのだ。
暗がりの中で背後から人肌に温めたこんにゃくが当たったら驚くだろう。その程度の手品で―――――“死者を蘇らせたのか”。
「そのようなことを聞いているのではない! この戦いにて死者を眠りから覚ますことなど許されない! 
 苦痛の中で果てた魂魄を面白半分で蘇らせるなど、あってはならない! 我が浄化にて、眠らせます!!」
虚空さえ裂けそうな女神の叫びと共に、一本のブリリアントランスが『親友の妹』に向かって投躑される。
通った先が清浄されていく程に、その槍にはグリューネの神の力が込められていた。
これほどの力であるならば、邪法によって現れた死駒などたちどころに在るべき場所へ還されるだろう。
そう、死者は常世に、生者は現世に。そうでなくては世界は立ちいかない。
それが世の、神が見守りし世界の絶対なのだ。死者が蘇るという矛盾は、あってはならない。
「それがカミサマの審判ですか……残念ながら二つ間違えてますよグリューネ様……」
だが、道化はその絶対を嘲笑う。光の槍を前に、一切挙動を変えず煙を燻らせ、
神に見守られた楽園を、永久に続くと思われていた平穏を――――なかったことにした。
「“本当に全員が死者を蘇らせてはいけないと思ってるンですカ”ァァァァッッ!?―――――――――――――――判ッッッ決ゥゥウッッ!!」
サイグローグは裂けんばかりの大口で天を仰ぎ叫ぶ。闇しかない虚空に天と地はない。
だが、それでもサイグローグは確かに上を仰いだ。自分が見上げた場所が天なのだと、自分が見下す場所が地なのだと。
迷い無き確信を以て世界に問う。この一手、有りや無しや。

『結審、基本的王権の尊重・第一項【アスティルベ】。“王が世界の死者をこの盤に招く権利を保障します”』
 
天がそれに応ずるように黒き虚空の中に七つの光が走る。
銃弾よりも早く鋭い光弾が寸分の狂いなくグリューネの槍に向かって衝突する。
「ッ!! そ、それは……」
『初手に於いて盤上にありしは55の駒。その内、21の駒。その意味するところ、分かりますね』
出力だけで言えば、グリューネの槍の方が強かった。だが、七つの光は決して消えることなく槍を穿ち続ける。
『少なくとも、それらは盤の外で1度決定的な滅びを迎えています。そして、この盤の上に集められた』
グリューネの光は、確かに強く温かかった。慈愛に満ち、アンデットを有るべき世界に還す力を持っていただろう。
だがそれだけだった。温かいだけでは、強いだけでは――――彼女の光は破れない。
『そして、王は既に初手にて宣言しています。絶望側代行、主文の読み上げを』
「……読みあげまショウ……『景気のいい話もある。もちろん、このゲームの勝者はもといた世界に帰還出来る。
 それだけではない。その際に願い事を一つ、叶えてやろう。 願い事の数を増やしたりすることは出来ないし、
 無論私の命をくれてやることは出来ん。だが、それ以外の願いなら、どんなことでも叶えてやれる』……」
それは、冷たい光だった。熱を持たず、均一に平等に地面を照らす、人工の光だった。
心の無い光の飛礫が、明るい槍を打ち壊す。死者を眠らせてあげて、辱めないでと謳う祈りを踏み躙る。

「『望むなら死者でさえ蘇らせてやろう。何なら、このゲームで死んだ者全てを蘇生させた後で、各人の故郷に送り返してやることも出来る。 』!!」

テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
261 :End of the Game −覇王層・以下略− 5[sage]:2011/06/04(土) 19:06:36.79 ID:CeDoJpLp0
そんな甘い祈りは届かない――――――――この世界は最初から、死者を冒涜した上にのみ成り立つ背徳の宴なのだから。
『もう一度問いましょう。他の駒ならば兎も角、王が仮に死者を蘇らせたとして、何をどう許せないというのです?』
その宴の主催に向かって、死者を蘇らせるなと喚くことのなんと愚かで空しいことなのだろう。
ただ、有言が実行されただけではないか。正直者を裁く法律は、この世界にはない。
粉々に砕かれた槍の輝きがキラキラと降り注ぐ中で、グリューネは食い縛る様に虚空を見上げた。
「可能性を……考えなかった訳ではありません」
その瞳の先には、漆黒よりも黒い虚空の中にあって、明星の如く放たれる光があった。
「聖獣王がわざわざ私を呼びに来たこと。そしてなにより、剣に残った片鱗とはいえあの精霊王が盤上に閉じ込められていることからして、
 “世界に残っていた精霊・神々が余さずこの世界に囚われているだろうこと”は考えられました。
 そして更に、戦いを進める内に、少しずつ六聖獣達も奪いながら、この世界はより悪辣に成長しているのだろうと」
精霊。大晶霊。滄我。世界の内にありて世界を見守る調停者達。
彼らは最初から盤上にあった。ある時はマナと呼ばれ、ある時はクレーメルと呼ばれ、そして爪術とも呼ばれた。
彼らは全にして個、個にして全の集合体だ。盤上を満たす力が複製であれ、本物であれ、その力の片鱗は始まりからして既に在った。
その事実が意味するのは―――――――“彼らが舞台装置としてこの世界に閉じ込められたことに他ならない”。

そして、その“始まり”より運よく逃れ、彼らを救わんと動く聖獣達もまた1人、また1人と希望という名の出口を見つけられず、彷徨い果てる。
この盤は人間の意思が錯綜する迷宮であると同時に、神々を閉じ込める監獄でもあるのだ。

「―――――ですが、真逆“貴女まで囚われていたというのですか”。貴女さえも、逃がさないというのですか」

だからこそ、彼女がここにいない理由もない。
『……ええ、その通りです。時の紡ぎ手よ。星は違えど私も世界の片鱗。彼らの世界がここに呼ばれた以上、私も此処に在る』
凛とした声だった。幼くもなく、しわがれてもなく、太くもなく細くもない、唯々力強い女性の声だった。
「ククククク……そろそろご紹介させて頂きましょうか……グリューネ様があんまりにも私の判定者兼任を卑怯卑怯とブーイングするので……
 判定者のアルバイトを呼ばせていただきました……これで私も心おきなくプレイヤー代理に専念できるというものでございます……」
広げた翼から羽根が散る。一切の穢れを持たぬその羽根の白は、黒き不義を退ける正義の象徴。
右手に持った杖が振り下される。その杖の先が導くは過つことのない、唯一絶対の真実。
「隅っこで埃を被っていた中古品ですが……こと“この領域”では中々強うございます……先の新米騎士“如き”と同じとは努々思わぬよう……」
翠の髪が虚空に棚引き、そのふくよかな胸部が揺れる様は彼女が実に女性的なる存在であることを示している。

かつて、世界を彷徨う彗星があった。
そしてその星の根に、1つの樹があった。精霊の加護を受け、その星を豊穣へと導く大樹だった。
だが枯れた。憎しみに縛られた愚かな男と、愛を知らず狂気に囚われた哀れな女と、何もしなかった惰弱な王のせいで枯れ果てた。

「2つ目の間違い……それは、この世界を裁くのは神ではありません……彼女が体現するもの……それ即ち“法”……」

だが、精霊は生き残った。僅かに残った希望のひとしずくの中に、辛うじて残った。
精霊は、枯れたことを嘆くことはしなかった。再び咲くことを望まなかった。
ただ、見定めた。自らの樹を枯らした者の罪の在処を、そして、その罪に足る罰を。

「緑系巨乳おねえさんと……グリューネ様とキャラ被りにも程がありますので……喰われないよう精々お気を付けください……ククク……」

テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
263 :End of the Game −覇王層・以下略− 6[sage]:2011/06/04(土) 19:08:03.53 ID:CeDoJpLp0
それは、数多の運命を導く女性なる者。
それは、アルカナ20の『審判<Judgement>』。
それは、“守る”騎士とは異なる“裁く”ことに特化した最強の判定者。

「ノルン……なぜ、貴方が……!!」
『答えるまでもありません。私が行うことなど、一つしかないでしょう?』

カーラーンの精霊、ノルン。其はもう一つの世界樹の守護者にして、罪と罰を見定める審理の女神。
彼女の顕現した以上――――――――――ここから先、ルールは“キビしく”なる。

『……来なさい、時の紡ぎ手グリューネ。貴方の紡ぐ物語、果たして是か非か――――――――私が裁きます』



――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――



けたたましい音を奏でて剣が折れ、割れ、引き抜かれる。
大根のように太い脚を、血の色のスカートで纏って人形は再び動き出す。
赤い靴を履いてスキップを。たかが肉が千切れた程度で、所詮骨にヒビが入ったくらいで、歩くことを止めることなんてできやしない。

<さあて、巡りの悪いグリューネ様も状況を理解できたところで……続きを始めましょうか……
 応手願いますよグリューネ様……この退路絶たれた死の舞台にて私の駒を如何に処するか……
 殺すのか、殺されるのか……さあ―――――『選択』をッ!!>

行け、行け、逝け。その手に硝煙を抱きしめて。
恋した少女よもう一度奈落の底の底まで、今度こそは、想い人とともに。

「DAZDAZDAZGAGAEEEEEUJYUぇGYAAAAAAAAAEEEぃあYYANNNNNNNッッンッッッ!!!!」

<クッ……言われずともッ!!>

吹き飛ぶ剣の中で、化物の想い人は苦悶と共に剣を握る。
紛うことなき自身の悔恨の化身。その剣で守ることのできなかった少女。
助けなければ、守らなければ。そう強く強く思う。
なのに、傷つけまいと振るった剣で血塗れになる彼女を見て、思ってしまった。そして恥じた。
あんなに痛そうに歩くなんて、それなら、いっそ―――――――

「――――――――アミィ、ちゃああああああああんッッッ!!!!!」

“両足の骨を刺し貫いて地面に縫いつけてしまえばよかった”と、思ってしまうなんて。

道化が化物を動かす。審判者がそれを見定める。
あまりにも理不尽な混沌と、酷薄な秩序の中で女神は歯を軋らせて剣を掴む。
問答、説明、理屈一切無用の退路封鎖。赤い靴を履いた化物は死ぬまで想い人を追って走り続ける。
もうただの詰将棋。いずれは追いつかれ、抱きしめられる。それまでに選ばなければならない。

選択は慎重に。既に難易度は混沌<Chaos>。一撃見逃せば、直ぐに戦闘不能になる。
もう、クリアできるという保証はされていないのだ。
テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
264 :End of the Game −覇王層・以下略− 7[sage]:2011/06/04(土) 19:08:36.50 ID:CeDoJpLp0





第383話

  「End of the Game −覇王層・クッルルル〜〜緑樹の断罪者ノルン登場♪ サイグローグの卑劣な罠にクレスさん大ピンチです!?−」







テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
266 :End of the Game −覇王層・以下略− 8[sage]:2011/06/04(土) 19:09:32.63 ID:CeDoJpLp0
クレスは暗きに病むる横穴を全力で疾駆していた。ただし、直線にではない。
パラ バラ バララバッパバラ。
「――――くそっ」
反響する変拍子を刻む火薬の音が、自分を襲う金属の襲来をクレスに予報する。
クレスはバックステップしながら右手のエターナルソードを後方に下げて、
代わりに突き出した左手のガイアグリーヴァを盾のようにして前方に翳す。
エターナルソードではなく、防御面積の大きい斧を盾代わりにするのは当然だった。
弧を描かず、弓の張力を使わず火薬の爆力だけで直線に飛ぶ石弓―――『銃』の恐ろしさをクレスは、クレスの左手は理解していた。
単発式<オートマティック>と連射式<サブマシンガン>の違いはあれど、アレは間違いなくこの掌を貫いた力だと。
斬られれば痛む『斬撃』や喰らえば傷つく『術撃』とは根本から異なる力。
当たれば一発、問答無用で“持っていかれる”『銃撃』の力、一度味わえば忘れることなど無い。
無論、銃撃“ごとき”でどうにかできるほど今のクレスは甘くはない。
銃―――“無限の長さを持った槍”。しかも人間では対応し切れない速度を持った突撃。
故に刃先に囚われずに眼と銃口を見極め、その槍の軸さえ外しておけば正面から何発撃とうが喰らうことなど無い。
「アミィちゃん! 僕だ、分からないのか!?」
だが、それはあくまでも“自分を狙っている”“単発式”であったならばの話だ。
超人的な回避を魅せることなく、クレスは亀のように斧刃に自分を可能な限り覆って銃弾の雨を凌ぐ。
しかし実際に斧の楯に当たる弾丸は少なく、その一部はクレスの皮膚を切り、また大部分は洞窟の外壁に減り込んだ。
目が慣れてきたとはいえ未だ機械の油灯りしかない闇の中、銃口など見えるはずも無い。
ましてやそれが狙いをつけているとは到底思えぬ、散らかすような霰弾ではあのクレスといえども防御を選択せざるを得ない。
守護方陣や蒼破斬ならば確実に防げるだろうが、その“溜め”に一歩でも立ち止まればあの速度から逃げられない。
「しまッ!!」
クレスの背中にドン、と冷たい衝撃が伝わる。洞窟の壁がクレスの背面をがっしりと塞いでいた。
退けない理由が理解できるだけまだマシではあったが、実戦において最重要である位置取りを仕損じたことが、
クレスがどれだけの動揺を抱いていたかを雄弁に語っている。
「EGAEGAZUAAGYAAAAAA!!!!!」
「糞ッ!!」
クレスが止まった一拍の隙に、フィギュアは両手を広げてクレスに肉薄する。
まるで抱きしめる寸前のように大きく開かれた両腕は、クレスの左右から逃げ場を奪う。
迎撃は必至と、クレスは意を決したように魔剣を構えた。しかしその意は決してフィギュアを殺そうとするものではなかった。
「道が無いなら、斬り拓くまでだ!!」
自分に言い聞かせるようにしてクレスはフィギュアに背を向け、洞窟の壁に剣を撃ち込む。
壁に隙間を作って、やり過ごす。うまくいけば、そのまま掘り進んで彼女の手のとどかない場所まで下がって次の手を考える時間ができるはずだ。
この剣は決して彼女を斬るためにあるのではない。闇を切り裂いて、その向こうにいるはずのミクトランを斬る為の剣だ。
だからこそ、クレスは躊躇無く第三の道を選んだ。
追い詰められたからといって安易な選択に身を委ねること無く、真に自分が望む道を掴みとるために。

<ルール違反宣告。許可無き戦闘フィールドの改変・破壊は禁じられています【てっぺき】>

巌の如き、鈍い音がした。切り裂くための、人の首を何個も落せそうな威力が、まるまる波に変換されたような音だった。
100の敵を屠ったあの剛剣が壁に切れ目を入れただけで、まったく道を斬り拓けていなかった。
まるで、そんな道なんてありませんと、心底馬鹿にするためだけに立ちはだかる鉄の壁だった。

<これも駄目だと!?>
<で・す・か・ら……サウザンドブレイバーやらブルーアースやら何でもありの島の上と一緒にしないでくださいよ……
 “ここは破壊エフェクト作ってないンですかラ”……ほら、そういう無駄なことしてると……ブチ抜かれちゃいますよ……こんな風に……!!>

「A,AAAAEAAAAA!!!!!!!!!!」
「あっが…ああああああああ!!!!!!!!!!」

テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
268 :End of the Game −覇王層・以下略− 9[sage]:2011/06/04(土) 19:10:23.86 ID:CeDoJpLp0
振るわれた緑色の巨腕がマント越しに直撃し、完全に晒されていたクレスの背中に鈍痛が走り、塞がり掛けていた傷が開く。
ビシリと背中に走る音。しかもその勢いを逃がせぬまま壁に衝突し、地面にその顔を埋めた。
<クリーンヒット頂戴しました……更に追撃【インパクトハンマー】ッ!!>
<〜〜〜〜〜〜させませんっ!>
フィギュアは倒れ伏したクレスに向かって左手を振りかぶる。
頭蓋に向けて一気に振り下ろされる腕は、もはや拷問具にしか見えない。
だが、あわやというところでクレスの反応が間に合い、剣で拳を受け止める。
物理的なガードはできなかったが、衝撃の瞬間、クレスは集気法を背中に集中させることで軽減させたのだ。
「本当に……分からないのか……」
だが、物理的なダメージは軽減できても心の衝撃までは減じられない。
幾ら声を枯らせども、耳もない人形にその思いは伝わることはなく、こうして今窮地に立っている。
受け止めた剣の刃先に、醜く肥大化した少女の腕がめり込み、血を剣に伝わらせる。
言葉は伝わらず、触れ合えば血が伝うのみ。やはり、今更どうしようもないのか。
「あァァァァァ!!!!」
そう叫んだクレスの両腕を赤い闘気が包み、エクスフィギュアの豪腕を一瞬だけ強引に持ち上げる。
その一瞬の隙に、クレスは飛び退いて彼女との距離を開ける。
背中に走る激痛。しかし、それを堪えてクレスは遠間で剣を構え直した。
「IGE,ANGE、EZUGYAIGYAIGYAIGYAAAAAAAAA!!!!!」
その腕からするりと抜け出たクレスを惜しむように、フィギュアの慟哭【インセイン・セル】が洞窟に響き渡る。
黒い衝撃波を受けながら、クレスは堪えるように風の向こう側を見た。
彼女が何故生きているかなんて分からない。あのミクトランが用意した偽者か、それとも蘇生させたのか、それさえも分からない。
(でも、彼女は苦しんでる。あんな化物にさせられて、したくもないことを強いられて……苦しんでるんだ……)
だけど、目の前の少女を救うことが出来るとするならば、それはきっと自身にしか出来ないことなのだ。
「GYAAAAA!!!」
(その苦しみから解き放つ。ごめん、アミィ……俺は、僕は―――――)
再び突進を始めたエクスフィギュアを前に、クレスもまたフィギュアに向かって突進する。
殺すことしか出来ない自分。ならば、目の前の彼女を救う方法も、一つしかない。
魔剣が煌き、その刀身に腕を振りかぶった化物が映る。覚悟を決したクレスの一撃が哀れな娘を――――――“斬らなかった”。

「“僕”は、諦めない!!」

自分の中のありったけの“人間”を掻き集めたクレスが大きく身を屈めてその巨腕を回避する。鼻先が地面にかすれ、焼けるように痛む。
それほどまでに地面に近い状態で走ることで、クレスはエクスフィギュアの脇を通り抜けることに成功した。
「WGAA!!」
その手にクレスを掴めず、クレスが自分の背後に回ったことを理解したのか、フィギュアは踵を無理やり大地にあてつけて反転しようとする。
(ここだ!)
その一瞬を見逃すまいとクレスの目がガンと見開き、エターナルソードを投げて地面に突き立てる。
そして跳躍。突き刺した魔剣の柄に“着地”、三角飛びで勢いを殺すことなく反転する。
最初から反転するつもりだったクレスと、クレスが抜けたことに気づいてから反転したフィギュアではクレスの方が行動が早い。
クレスが剣を持たない右掌に力をこめたとき、まだフィギュアはつんのめったような状態だった。
(中がどうなってるかは分からないけど……人間の形で、両足で歩いてるってことは、骨はあるはず)
素体がどうであれ、あれだけの巨躯に鈍重さ。体重も増加しているはずだ。
(あれだけの重さがこれほどの速度で走って、それを急に反転させれば、必ず膝に負担がかかる)
これまでの動きを見る限り、彼女はクレスを追い続けていた。襲えと命令されているのか、化物としての本能か、その理由は分からない。
だが方向を変える為に、彼女は必ず脚を止める。そこにどれほど負荷がかかったとしても。
(膝の軟骨じゃ吸収しきれないほどの負担。そこに、もう一押しを加えれば――――――)

テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
275 :End of the Game −覇王層・以下略− 11[sage]:2011/06/04(土) 19:19:39.30 ID:CeDoJpLp0
「――――ゴメン!」
バッキン。
振り抜かれたクレスの掌打、というよりただの一押しがエクスフィギュアの右膝を真横に曲げ折る。
ただでさえ両腕が伸びてバランスが悪い体躯を片足で支えることなど出来るわけもなく、エクスフィギュアは自重に耐えかねて地面に倒れた。
「AGAEGYAEAEAIBANAEDE……」
腕をバタバタ動かすが、移動できない今クレスに届くことはない。
「DAZGYAADE……」
やがて諦めたのか、フィギュアは悔しそうにその握り拳を地面に置いた。
その様を、クレスは呼吸を整えながらずっと見ていた。どうか立ち上がるなと祈りながら。
次に立ち上がられてしまっては、もう本当に一つしか手段が思いつかなかったから。
深き大地の置くでもその願いが天に届いたのか、その刃を振り上げる必要はなかった。

「よか、った……今度は、守れた……」

クレスは心の底から安堵の表情を浮かべた。殺す以外の方法で、斬る以外の術で目の前のものを守れたことが何よりも嬉しかった。
それは自分がまだ堕ちきっていないことを信じるに十分な事実だった。
(でも、ここからどうすれば……)
しかし状況は依然として変化していない。アミィはいまだエクスフィギュアのままで、
これがエクスフィギュアというものであることもよく分かっていないクレスにはそれを元に戻す正道を知らなかった。
<これが、私の答えです。ご期待に添えなくて申し訳ありませんね。
 貴方が何をのたまおうが、ノルンが何を縛ろうが、私の道が揺らぐことはありません。
 心の傷を抉るその卑しい策を何度繰り返そうが、無駄なこと……大人しく王への道を譲りなさい>
(やっぱり、使うしかない)
呼吸を整えたクレスが息を一度ゴクリと飲んで、魔剣を拾い直した。
時間を操る魔の剣、エターナルソード。それによってアミィを化物に成る前の時間に逆巻く。
成功するかは分からない。だが、何も試さずに諦めることだけはしたくなかった。
何より失敗した後のことも、成功した後のことさえも考えたくなかった。
<――――――――成程、このアイテムなら……>
<? 負けが過ぎて声も出ませんか? 言いたいことがあるならはっきりといったらどうです?>
闇の向こうの彼女を見やる。のっぺらぼうの一つ目が、自分を見つめているのが分かった。
その長い手でも届かない距離を、懸命に伸ばして唸っている。
待たせてゴメン、とクレスは思った。でも、今度こそ君を―――――――
「時の剣よ、頼む。どうか、彼女を――――――――――」






<え? ああ……ごめんなさい、ツマラナイです>
「ちゃんと俺の手でブチ殺させてくださいな♪」






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277 :End of the Game −覇王層・以下略− 12[sage 解除なりました、このまま続けます]:2011/06/04(土) 19:20:38.32 ID:CeDoJpLp0
あの音を、僕は何度聞けばいいのだろうか。
振り下された剣が風を斬る。幾千幾万と自分のすぐ傍で鳴り響いた音をクレスは知っている。
グシャ、と骨と肉をまとめて圧し潰した音が混じった。耳よりも先に、目で聞いてしまった。
「ははは、はははは」
怪物が、クレスに伸ばした異形の掌から汁が塗れる。噴出孔には、栓をするかのように極太の剣が捩子こまれている。
僅かに残った灯にテラテラと輝く脂の色は、とても綺麗に虹色のスペクトルを映し出していた。
それだけで肉と骨で混じり合った脂の瑞々しさが分かった。分かってしまった。
「ひゃは、やっわら、柔っ、生い! 軟! やっば、ツルって切れる! いゃっは!!」
化物の上に「何か」が居た。腐りかけの果物に群がる蠅のように、化物の上でタカっていた。
だが、蟲は湧かない。なぜならばこれは作り立ての腐肉。
蝶よ花よと愛でられた初心な心から作り上げた、出来立てほやほやの臓物だ。
それを瞬間エクスフィギュア保存方式で密封。鮮度抜群、賞味期限をバッチリ守っています。
「GYA、アギャIGYATT、DDDDDDAZAAZJIJIJJJNUGAAA!!!!」
「ひゃはははははっ、足りない。もっと、もっと!!」
喘ぐ化物の上で、折れた右足も、起き上がろうとする右腕も、特に何もしてない左足も、グジャグヂャに壊されていく。
それから発せられる波を、クレスは掌で耳を塞ごうとした。だが、魔剣を持っていた右の耳を塞げなかった。
三半規管を通って音は脳でその姿を識る。鼻腔を通って粘膜に付着する臭素が思い出させる。

<なってない。実に“なってない”んですよ……>
「乾いて仕方ないんだよお腹が空いて仕様無いんだよ!!」

それは、どうしようもない破壊衝動。
ギラギった血の匂いに誘われて、音を立てて溢れだしたもの。
下腹部ごとその化物の胎盤を突きさせば湧き上がる肉片。
いくら返り血を浴びようと、いくら泣き叫ぶ声を聞こうと飢えて乾く砕けた杯。

<頑張ったら報われるとか、信じる者は救われるとか……もういいンですよ、そういう“場違い”なのは……>
「いいよ。凄く“具合が良いよ”!! アミィちゃんッ!!!
 こんなに柔らかかったんだねッ! 温かくって、二チャニチャしててぇ――ッ!!」

<え……コレ、ですか? いやだって、生き残ってたんで……もう一度起こしました……
 いやぁ“11本目”をこっそり混ぜておいて正解でしたよ、ホントウ……>
剣を落としてしまいたかった。有無を言わさず両の手を眼球へ運び、握り潰してしまいたかった。
その光景を見たくなかった。その画を身体の一片にも留めておきたくなかった。
それでも、剣だけは棄てられなかった。自然と、掻き毟る左の二の腕に血が滲む。
自分に唯一残ったものに懸命に縋り、クレスはその醜行を観劇する。

「殺すのって――――――――――最ッッッッ高!!!!!!!」

血に塗れた満面の笑みで、そいつは笑っていた。新世界の夜明けを視るように晴れやかに。
排された善を補う様に悦楽を貪り、歪んだ口元に白い歯が嗤う。
未来に歩くための足も、光を掴むための腕も、夢を育むための胎も失った化物の上で、
血に塗れながら、退廃した悦楽に善がって獣<オレ>が戯れている。


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279 :End of the Game −覇王層・以下略− 13[sage]:2011/06/04(土) 19:22:37.83 ID:CeDoJpLp0
眼前で突如開演したアルベインの凶行、その果てをクレスは唯々眺めていた。
血塗れになり、ボロボロの虫の息の半身。それが血肉を補う為に殺戮する。
びちゃびちゃと液状になるまで叩き尽された肉片が岩床の亀裂に染み入っている。
耳を塞げば目と鼻から、鼻を塞げば耳と目から、目を塞げば鼻と耳から伝わってくる。
「……A………I………」
四肢を失ったそれはフィギュアと、人形と呼ぶのもおこがましかった。
横たわった胸の下から、おかゆのように緑色の肉汁が零れているそれを人の形だと誰が認めるだろうか。
クレスが守ろうと、救おうとしたものは、どうしようもない程ヒトとして終わり切っていた。
肌寒い闇の洞中で、汗も出せないクレスの頬に水気が付く。
腐肉より沸き立つ、人肌よりも少し熱い蒸気がクレスに伝っていた。
じゃあ、アレは何なのだろうか。人形でも化物でもなくなってしまったアレは、なんなのだろう。
ほかほかと湯気を立てて鼻を擽る、闇の向こうのアレはなんなのだろう。

<やっぱり“こう”あるべきでしょう…………適度にグロットしておかないと……『洞窟』だけに……♪>
蛆を潰すような音と共に、眼前の自分が、汚れることも気にせず肉汁の中に足を突きいれる。
―――――アミィが作ったのかな?
赤いのは豆板醤で。熱せられた出汁の中で挽肉が湯掻かれている。

<何をバカなことを! 第一、何故同陣営で殺し合うのです! 有り得ないでしょう!!>
呆然とするクレスをみて、アルベインがああと得心したように笑った。そして、おたまに掬うようにして剣の腹に『料理』を乗せた。
―――――アイツ、料理が好きだったから。
サイコロ大にまで崩された豆腐はやけに固そうだ。

<判決――――控訴棄却。第二審に於いて既に『敵味方識別無効』は宣言済み。加害者が心神喪失状態のため、動機は不問。
 ルール上、対主催同士、マーダー同士が攻撃することに問題はありません。“主催戦力同士でも同じこと”です>
だって、そりゃあ君に先に食べて欲しいと思うじゃないか。彼女だってそう望んでるはずさ。だって、
―――――おいおい、ほどほどにしておけよ?
脂まみれのルウは、きっと胸やけを起こすだろうな。でも、
<そうそう……それに既に宣言されているではありませんか……どこかの頭の中までほんわかしておられる神様が、自信満々なお顔でねぇ……?>
そんなにだらしなく垂らされたら、俺が先に食べる訳にはいかないじゃないか。なあ、クレス。
(どれ、ちょっと味見を)
アミィちゃん“で” 出来たマーボーカレーは、食べたらきっと――――――

<〜〜〜〜〜〜〜サイグローグ! 貴様だけは、お前だけは絶対に許しませんッ!!>
「シ、にぃ、曝せェェェェェェェェェェええああがああああぇぁぇぇぇああがあああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

星を三枚にオロしてしまいかねないほどの絶叫が、洞窟に響いた。
喉よ潰れ裂けよとばかりの劈き、頬が裂けそうなほどの大口から涎を出すことも厭わず、クレスは魔剣を突き構えて突進する。
殺し損ねた奴が残っていたのだとか、自分が気付かなかった敵が潜んでいたのかだとか“心の底からどうでもよかった”。
その表情を真正面から見たならば魔界の王でさえ道を譲るだろう。それほどまでにその表情は人間を逸脱していた。
剣を掴んだ以上いずれ棄てると決めていた人間。
それでも掻き集めたりったけの人としての願いを無碍にされたクレスに迸ったのは、絶対的な殺意だけだった。
あの穢れた色を見たくなかった。だから視界が飛びそうなほどに速く走る。
あの腐臭に塗れた笑い声を聞きたくなかった。だから音も風も届かないほどに叫ぶ。
斬って抉って、消し飛ばす。今のクレスにあったのはその衝動だけだった。
あれを見続けては、あれを聞き続けていたら、僕はもう一度“取り返しがつかなくなる”。
だから、頼むから散って無くなってくれ。

<おおぅ……くわばらくわばら……ここは防御を『選択』させていただきますよ……>

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281 :End of the Game −覇王層・以下略− 14[sage]:2011/06/04(土) 19:23:24.50 ID:CeDoJpLp0
血塗れのアルベインが、極上の笑みと共に化物に唯一残った腕の無い上半身を頭蓋から掴んで持ちあげる。
自分で辱めた死体を盾にする。人間としても剣士としても堕ち切った自分を前にして、クレスは目を爛と輝かせた。
<今更そのような手に乗るとお思いですかっ!! 愚弄も時として無為と知りなさい!!>
最高だ。最高過ぎるほどの屑っぷり。素敵過ぎて、盾ごとブチ抜くのに一切の躊躇も必要ない。
クレスの神速の瞬突が神槍かくやの煌めきと共に放たれる。
未だ短いとはいえクレスの人生の中で一、二を争うほどの斬撃は、並みの瞬迅剣など比べ物にならない程に純粋で完璧だった。
それが斬撃九法に於いて最大の殺傷力を持つ「突き」であるなら、言わばこれはクレス=アルベインの最大殺傷力と言っていい。
化物の肉骨で出来た咄嗟の盾など、何千何枚重ねても徹し斬るだろう。
泡を吐き続けるその盾が何で出来ていたかなど、最早クレスにとってはどうでもよかった。
それはもう失われてしまったのだ。守れなかったのだ、救えなかったのだ。故に、もう顧みる必要は無いのだ。
その代わりに、奪った者を、救われるはずだった少女を穢した奴を、この剣にて処断する。
それだけが既に息絶えた彼女に報いる術なのだから。

<流石グリューネ様……私などとは『覚悟』が違いますねえ……でも、いいンですかァ……?>
「死っねええええええ!!!!!」

時の剣よ、今僕は憎悪に誓う。眼前の合財をここに斬り飛ばさせろ。







<“まだ、死んだか確認していない”ンですけどぉ……?>




「た、すけ……クレ、ス……さ………」




え?




ぶっちゃ







テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
282 :End of the Game −覇王層・以下略− 15[sage]:2011/06/04(土) 19:24:08.28 ID:CeDoJpLp0
役目を終えた突きから推力が失われ、魔剣の刃先が地面に突き刺さる。
吹き飛ぶ鮮血の中でクレスは、茫然とした。
エターナルソードを頭蓋に受けながらもゲラゲラと笑いながら砕けたアルベイン。
だが、その笑顔をクレスが見ることはできなかった。アルベインの笑顔とクレスの間には、1つの遮蔽物が残っていた。
アルベインを殺傷したその瞬間に聞いた、その狂嘲と風斬り音に掻き消えて聞こえるはずの無い声。
その意味を疑問とするより早く、視界が意味を理解する。
「え゛、あ゛……」
微かな、しかし確かに在る嗚咽とともに伸ばされた腕があった。
たった今死んだアルベインに犯され尽くして唯一残った上半身と、僅かに残った右腕がそこにはあった。
破損というには過酷すぎるほど滅茶苦茶に乱壊しても前に伸びる腕。喉の無いのっぺらぼうが壊れた音を出している。
何故、まだ生きているのだ。
四肢を『誰に?』もがれて、下半身を『俺に?』ミンチにされて、『僕の手で?』あれだけ血を失って。
生きていられるはずはない。鼓動もなく、生気も消し飛んでいた。あれはもう、唯の『モノ』だったのに。
湧き上がる疑問がクレスの咽喉を内側から圧迫する。それだけで首輪に頼らずとも頭蓋が爆発しそうだった。

「ぁ―――――うぇ―――――ぇ」

疑念に圧殺されるクレスの脳裏に、生けるものの声が響く。
少しずつ化物が溶けているのが分かった。緑色の腐肉が、栄養を失う如く固体から液体へと垂れ落ちていく。
垂れて剥げて、崩れ落ちた腐肉の中から小さな掌が現れる。小さな宝石がすっぽり収まりそうな窪みの空いた甲だった。
手がクレスに近づくたびに腐肉は落ちて、その奥から赤に染まった小さな胸が現れる。
顔を覆っていた肉が剥げると共に、全神経が引き裂かれるような痛みを憶える。
何故、何故、どうして。心臓を内側から引っ掻くように浮かぶ祈りのような疑問。
その小さな杯にどれだけ入っていたのだろうと思えるほどの血液が、化物“だったもの”に刺さった魔剣の根元から溢れている。
治療の術を持たぬ物が己が研鑽の無力を慰めるような反射で、クレスは魔剣を引き抜こうとして、
クレスは腐肉の落ちた血塗れの懐に何かが入っていることに気付いた。

「じン―――ばッ―――――だん――――で――――」

―――――あっ、そうだ忘れてた。アミィが、お前に渡したいものがあるってさ。

それはマトリショシカだった。フィギュアの中に入っていた人間の懐にあった、人の形だった。
血に濡れた重みか、残った衣類がずれて“それ”が彼女の懐からずるりと落ちる。

―――――あ、クレスさん、こんにちは。これ・・・つくったんです。

脳裏に浮かぶ彼女が、クレスに差し出す。
血の気を全て失った、真白い“これ”よりも、ずっと赤みがかった笑顔だった。
落ちた人形はバキンと真っ二つに砕けていた。既に役目を終えていた証だった。

―――――クレスの格好をした人形だ。ハハハ、よくできてるじゃないか。お前、毎晩遅くまでそれを縫っていたのか?

一度目は、トーティス村で死んだ。黒鎧の災に飲まれて訳もわからず死んだ。
二度目は、名も知らぬ島で死んだ。またも訳もわからず、気狂いに追い回されて死んだ。
そして三度。訳も何もなく彼女はそこに存在し、異形と化し、バラバラに解体された。
そこで三度死ぬはずだった。死ななければ救われない哀れなお人形だった。
だが……そこに、ほんの少しの奇跡があった。
彼女が三度冥府へと連れ去られるその瞬間、代わりの人形が先に連れ去られてくれたのだ。

<封じ手を開封……3つ目の支給品は…………反魂のマスコット【リバースドール】でございました……ました…!!>
「ご、わ――――――――――だ、っだん――――――」

テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
283 :End of the Game −覇王層・以下略− 16[sage]:2011/06/04(土) 19:24:55.57 ID:CeDoJpLp0
リバースドールは失った四肢をよみがえらせるものではない。死神が過ちに気づき次第、再びその袖を冥府へ曳かれただろう。
どの道死ぬしかなかった少女が、しかし確かに掴み取った奇跡。たった数秒だけとはいえ、三度目にして得られた彼女の新たなる運命。
死神が訪れるより先に、四度目の救い<Death>を彼女は手に入れる。他ならぬ愛しい愛しい人の手で。
<こ、こんな……こんなことまで……何処まで屁理屈を……ッ!!>
血の泡を吐きながら、唯一人間の形を残した上半身がガタゴトと歯を鳴らす。
唯一残った腕を伸ばしながら、彼女は人間へと還っていく。
生命そのものを蘇らせるボルトマンのレイズデッドならばともかく、一度変質した生命は二度と戻ることは無い。
だが……身体が元に戻るだけならば、手段は絶無ではない。
エクスフィギュアとは、体内のマナ―――つまり生命の暴走に対して肉体が適応しようとした異形だ。
そもそも“暴走するべき生命そのもの”が失われれば暴走の仕様が無く、肉体は定常状態へ沈静する。
異界の住人であるマウリッツのエクスフィギュアが死に瀕して本来の形に定着したように、ある会社の会長夫人が夫の拳に貫かれた時のように。
その魂が現世に還ることなく冥府へと送られるときもまた、その呪いは解ける。

「―――――て、―――……たぁ」
<……結審。死亡確認無き死者を禁ずる【キュア】。
 その駒の状態が如何なるものであれ、死亡確認宣言が未完である以上―――――その死はまだ確定していません>

べたべたに穢れた少女の手がクレスにゆっくりと近づく。
何かを言おうとしているのはクレスにも分かった。だが、分かってやることはできなかった。
今更理解し始めていた事実が体中を渦巻いて、聞いてやる余裕もなかった。
(なんで……諦めたんだ………………死んだって、思いこんで、決めつけて……)
指先の神経が戦慄く。アルベインごと“これ”を突き刺した時の、その感触を思い出して震えていた。
死後硬直した不味い肉とは比べ物にならない極上の――――――生きた娘を深く深く突き刺す感覚を。

震えるクレスの唇に触れる寸毫、その手がふわりと落下した。
彼女の腕を持ち上げていた最後の糸が切れて、重力へと沈んでいく。
その全てをクレスは見ていた。
止まった血の噴水を、
緩やかな筋肉の硬直を、
しな垂れる青い髪を、
何も拾わない耳朶を、
平衡していく熱量を、
息のない無音を、
二度と進まない電気信号を。
自分の全てを動かすこともできないまま、彼女が動かなくなるのを見続けた。


「何が……全部を斬るだ……俺は……また大切に……でき、な、カッ……た……」


陵辱された女の子。毎日夜鍋してこさえたお守りのお人形が守ってくれました。
騎士様は、そんな可哀想な可愛そうな女の子をちゃんと殺し直してあげました。
「―――――うぁ―――、――っ――――」
彼女が、大切に大切に抱きしめていた素敵なお人形。
渡したかった相手に――――――“ぶち壊されてしまいましたとさ”。
「――――――――――――あぅ」

下らないオチの為にでっちあげられた模造の悲劇。
これは、それだけの物語だった。


テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
286 :End of the Game −覇王層・以下略− 17[sage]:2011/06/04(土) 19:25:47.36 ID:CeDoJpLp0
ならば今響くこの拍手もまた作りモノだだろうか。
人の叫びではなかった。獣の咆哮ではなかった。およそ生物の発する音ではなかった。
<ク、クククク……クハハハハハ…………その顔ですよ……エッとイウ呆然……気付かなかったことに対する気恥ずかしさ……>
怒りではない。悲しみではない。喜びでも、快楽でもない。
言葉に出来る程度の感情では到底奏でられない旋律が、闇の中で連鎖している。
<死角から衝突した木槌にてチカチカ光る星の輝き…………道化とは“それ”を食して生きる者でございますれば…………!!>
音波よりも電磁波の方がまだ適当な表現だった。
目玉をぷっくりと浮かせながら頭を抱えたクレスから発せられていたのは、鼓膜よりも先に神経を焼き斬る、そんな波だった。
<グリューネ様のその驚愕と恥辱に塗れた生御尊顔をリアル拝謁出来ただけで……
 不肖このサイグローグ、道化冥利に尽くるというものでございます……クプククククゥッ……!!>
残響し拡散し増幅して自らの耳に帰還する声が、まるで自分の愚かさに腹を抱えた誰かの大爆笑のようで。
その嘲りの中で、クレスの額に巻かれた白が赤黒く滲んだ。
それは面積にしてみればほんの少しだったけど、堕ちると決めた時よりも、ずっとずっと汚らわしく思えた。
<こ、の……卑怯者が……ッ 自分が何をしたか分かっているのですか……!!>
<ヒキョウモノ……何故グリューネ様が私の母方の曽祖父の戒名をご存知なのでごさいましょうか……?
 それはさておき、どうにもお気に召されぬご様子……確かに……何分即興に頼った部分が多く決して出来のいい脚本ではありませんが……>
半欠けの死体の前で、クレスは泣いていただろうか。
血に塗れた両手で覆った顔面はグシャグシャで、涙を流していたとしても血にしか見えなかった。
<……ふぇンむ……“何も分かっていない”グリューネ様を強引にハメたと言われてしまえば確かに否定できません……
 微温湯につかっていたグリューネ様には聊か洗礼が熱うございましたか……>
凡そ肺の中の空気をすべて失っても慟哭は続いた。
血を吐き続けてでも、肺胞の底の底に湧き上がる泥流を全て体外へ追い出さんと唸り続けている。


<……もう一度、あげましょうカ?>
<え?>

クレスの嘆きを雑音が阻害する。背後で複数の肉が地面に蠢く音だった。
叫喚を止めたクレスが、握った左の魔剣を強く握る。
もう、自棄の一歩手前だった。振り向いた先に、新手がいようが殺し損ねが何匹居ようが、
こんがらがった心では、やることが一つしか思い浮かばなかった。

<――――――――――――“チャンス”を……>

皆殺す。この目の前で倒れ伏す幾人ものアミィ=バーク  ライ   ト   の           群ェ?


「やあ……」「うう……」「痛……」「えぐッ……」「ひっく……」「うぇえ……」
雑音は泣き声だった。蹲った何人もの少女が脅えたように嘔吐いている。
小さな灯しか無い洞窟の中でもはっきりとクレスにはハッキリと見ることができた。
その何れの少女もあちらこちらに擦り傷を作っていたのを。
誰も彼もが息絶え絶えに疲れきっていたのを。誰も彼もが艶を失った青い髪を大きな髪留めで二つに縛っていたのを。
闇の中でクレスを見つめて差し伸ばされた少女たちの体に、宝石が剥げ落ちたような穴があったのを。

「あ……」「A」「Ah」「GA」「AAAh」「GYA」「GYAGAGA……」
<な……な…………サイグローグ……お前は……!!>
<親友の妹を再構成【リファイン】……エクスフィアにて肉体を再拡張【エンハンス】……
 武器は……考えるのも面倒ですから無しにしますか……
 ……とりあえず、12体ほど再配置しましョウ……後は、減り次第逐次補充で……>

テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
288 :End of the Game −覇王層・以下略− 18[sage]:2011/06/04(土) 19:26:59.37 ID:CeDoJpLp0
泣き声は次第に鳴き声になっていった。
エクスフィアの外れた箇所を基点として葉脈の如き異常な幹腺が浮き上がり、ごぼごぼと肉と骨を溶かしていく。
彼女たちの奥で、肥大化した肉が立ち上がっているのが分かった。直近の6人の闇の向こうに、まだまだ存在するのが理解できる。
居るのだ。この奥に無数の化物が、何人ものアミィ=バークライトが。

<さ、どうぞグリューネ様……これだけ居れば……“一匹くらいは、助けられるでしょウ”……?>
「「「「「「「「「「「「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」

少女だったもの達の咆哮。そして、クレスめがけて振るわれる怪腕。
クレスは辛うじてアミィの上半身を抱え、二つの斧が落ちている場所へ飛び退く。
下がったことで視界が広くなって、クレスは目の前の地獄を過つことなく理解した。
12の化物全てが、クレスだけを見つめて意識を放っている。

(は、ははは……そうだよね…………当たり前じゃないか……)

唯一人間として残ったアミィの亡骸を胸に強く抱え、辛うじて斧二つを回収したクレスは無意識に笑顔を作っていた。
耐えられぬ心を守るようなその笑顔は、ともすれば泣いている様にも見える。

「「「「「「「「「「「「RAAAARAhAAAhAARAARAAAA!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
「ウああああああああァァァッァァあああAああAAああ゛あ゛ああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

きっと罰なんだろう。化物達に背を向けながらクレスは思った。
自分がここに至るまでに犯してきた罪。守ることのできなかった命。
その全てが、今自分の背中に襲い掛かろうとしている。お前を絶対許さないと、高らかに宣告している。

<……さあ、健気な少女を救うべく精々頑張って下さいませ……
 ……無理だと思えば、どうぞお進み下さい……中ボスは既に撃破されておりますので……>

クレスは走った。怪物を救うことも斬ることも選べず、ただ前に逃げた。それしか出来なかった。
自分が罪人であることなど、クレスはとっくに知っている。罰は与えられて当然だ。
クレスは心の中で懇願した。せめて、王を殺すまで待ってくれないか。その後ならば、いくらでも裁かれていいからと。
しかし、裁判官はどうやら罰を与えたくて仕方ないらしい。
ありとあらゆる拷問器具を用意して、クレスを断罪しようとしている。
もう、その手でアミィを殺してしまったことに“苦しむことさえ許さない”と。

<これも、これも通すというのですか……ノルン……!! それが貴女の云う法なのか……ッ!!>

罪で穢れた刃を王の喉元に突き立てて死ぬのが先か。
王にたどり着く前に穢れた罪を裁かれて、死に絶えるのが先か。

<……絶望側、合法です――――――――――――さあ、次の審理へと向かいなさい>

これは、哀れな死刑囚の公判記録。
死刑台に至るその末路は、審判の女神だけが知っている。




―――――――――――――――――――――――――――――Cless Win !  Go To Next Stage!!




テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
290 :End of the Game −覇王層・以下略− 19[sage]:2011/06/04(土) 19:27:45.90 ID:CeDoJpLp0
【クレス=アルベイン 生存確認】
状態:HP15% TP45% 第四放送を聞いていない 疲労 眼前の状況に重度困惑
   狂気抜刀<【善意及び判断能力の喪失】【薬物中毒】【戦闘狂】【殺人狂】の4要素が限定的に発露しました>
   背部大裂傷++ 全身装甲無し 全身に裂傷 背中に複数穴 目の前の現実に狂乱
所持品:エターナルソードver.A,C,4354 ガイアグリーヴァ オーガアクス メンタルバングル アミィ(?)の上半身
    サンダーマント 大いなる実り 漆黒の翼バッジ×2 コレットのバンダナ装備@血に汚れている
基本行動方針:剣を振るい、全部を終わらせる
第一行動方針:エクスフィギュアとは戦えない。前へ、前へ、とにかく逃げる!
第二行動方針:ミクトランを斬る。敵がいれば斬って、少しでもコレット達の敵を減らす。
現在位置:中央山岳地帯地下

*現在クレスの居た場所の付近に UZI SMG(30連マガジン4つ付き)空マガジン×1 リバースドール@効果失効済 が落ちています。

【Amy Barklight? 死亡確認】
【???<アルベイン?>×5,ナイチンゲール×2,ウィザード×3,ヘルマスター×3,バジリスクキング×2 死亡確認済】


【Notice】

新しいスキットが出現しました

Select:『ぎょくおん!』


テイルズ オブ バトルロワイアル Part18
292 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/06/04(土) 19:29:24.68 ID:CeDoJpLp0
以上で投下終了です。多大な支援、ありがとうございました。
スキット及び次回も準備を進めていますので、なるだけ早く投下できるようにしたいと思います。
テイルズオブバトルロワイアル2nd Part12
401 :黎明 10@代理[sage]:2011/06/04(土) 23:32:57.36 ID:CeDoJpLp0
【ミクトラン 生存確認】
状態:HP75% TP90% 血塗れ 頬に止血済み掠り 鼻骨骨折 不安定要素(=ヴェイグ、カイル)へ不安
   食料や生活難、寒さへの苛立ち 「無知の知」を自覚
所持品:レーザーブレード フランヴェルジュ イリア、ハスタ、ヴェイグのサック ??? ???
    デザートイーグル 銃弾×15 双眼鏡 サードニクス 金のフォーク
    ハスタの首輪 ソーディアン・イクティノス
基本行動方針:ピエロ含め皆殺し
第一行動方針:目の前のガキ(何者だ?)を殺す
第ニ行動方針:ティアが持つ情報を絞りとれるだけ絞りとる
第三行動方針:考察の確度をあげるため、更なる首輪を得て首輪について考察する。
第四行動方針:籠城しウッドロウ達を誘う
第五行動方針:サイグローグとの腹の探り合いを楽しむ
第六行動方針:魔力に拠る首輪爆発の事実を証明したい
現在位置:D3黎明の塔最上階

【ソーディアン・イクティノス】
状態:ウッドロウが心配 第一回放送しか聞いていない ベルセリオスの関与を疑っている
基本行動方針:D、D2世界の仲間を探しつつ、舞台を把握する
第一行動方針:考察に専念する。どうにかしてミクトランからベルセリオスの話やゲームの情報を聞く

【ティア・グランツ 生存確認】
状態:HP80% TP85% 心の内をミクトランに読まれた動揺 強い焦燥感 カイルへの小さな反発心と大きな罪悪感 右胸銃痕
所持品:アビスピンクのコスチューム(仮面は外してます) ティアの服(アビスピンクの上から重ね着) ロリポップ
基本行動方針:ルーク達と殺し合いに乗っていない人を探す
第一行動方針:ミトスと共にミクトランを倒す
第二行動方針:ルークに会いたい
第三行動方針:レムの塔へ出来るだけ早く向かいたい
第四行動方針:「それぞれの世界の理」と「会場の理」に対する疑問、違和感の原因に答えを出したい
現在位置:D3黎明の塔最上階

【ミトス・ユグドラシル@ユグドラシル 生存確認】
状態:HP95% TP90% やる気+ 小さな罪悪感 大樹が気になる 天使化 全身火傷
支給品:ジェットブーツ エリクシール スペクタクルズ×9 ロイドの仮面セット(残り3枚)
    フランヴェルジュ 大量のハロルドの考察メモ イオン・クラトス・プレセアの首輪
    デュランダル プレセアの頭部 エクスフィア@プレセア サック×2(ジューダス・スパーダ)
基本行動方針:死ぬ気は無い。舞台裏を解明する為に少し生きるが、生きる気もあまり無い
第行動方針:情報を引き出したらミクトランの首を回収し、ティアを確保する
第二行動方針(A):ルカにデュランダルを渡す
第二行動方針(B):カイル、もしくはディムロスを確保する(スタンを止める?)
第三行動方針:ティア探しにかこつけて、あの巨大なマナの正体を確かめる為、
       現場に行く。ティアは見かけたら回収
第四行動方針:ミクトランとバルバトス、役立ちそうな奴の頭部収集。スタンも最悪対象。
第五行動方針:24時間だけプレセアに協力する。仲間に会えたらどうするかはプレセアに委ねる。
       但し24時間以内に誰にも会えずプレセアがエクスフィアと同化したら破壊する
第六行動方針:ハロルドにいつか「ぎゃふん」と言わせる
現在地:D3黎明の塔最上階




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