- 第三次スパロボキャラバトルロワイアル3
446 :それも名無しだ[sage]:2010/01/25(月) 00:22:44 ID:0fgLlHko - 投下&代理投下乙!
プルツーかっけぇ! デュラクシールをZZの子分と考えたアポロの思考が実にやつらしいw レイは戦うかと思ってたので良い意味でびっくり! 家族というキーワードでプルツーとくっつけるとは……なるほどその手が。
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450 : ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:09:06 ID:0fgLlHko - ではシン、ヴィレッタ、タスク、レーベン、イスペイル、ガトー、甲洋投下します。
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452 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:09:54 ID:0fgLlHko - 「――ッ! ここは……」
エリアD-1、灯台下でバンダナを巻いた青年が目を覚ます。 タスク・シングウジ。彼曰く端正な顔だちには未だ疲労の色が見える。 それもその筈、彼は苦しい戦闘の末今まで意識を失っていたのだから。 だが、タスクは様々な戦いを潜り抜けた歴戦のパイロットだ。 覚醒したばかりの意識を辿り、自分の置かれた現状を冷静に確認しようとする。 「目を覚ましたようね、タスク」 「姐さん!?」 そんな時、タスクに細身の女性が声を掛ける。 ヴィレッタ・バディム。タスクの上官に位置する人間だ。 タスクは思い出す。そう、彼はヴィレッタに保護されていた。 運良く出会えたのが信頼できる上司であったことはラッキー以外のなにものでもない。 己の幸運さを噛みしめながらタスクは先ず思ったことを疑問にする。 「あのー……ちなみにオレ、どのくらいぶっ倒れてました?」 「そうね……一時間半程といったところかしら」 「マ、マジっスか!?」 タスクは支給された時計を慌てて見やる。 時間は午前九時を過ぎていた。 気絶した正確な時間はわからないがヴィレッタが言うなら一時間半ぐらい経ったのだろう。 一時間半もあれば危険な奴が襲ってきてもおかしくはない。 先程のバカみたいに腕が伸びる奴が追撃しに来た可能性もある。 しかし、今の自分は五体満足。 支給されたビックデュオも気絶する前となんら変わりはない。 ただ単に運が良かったのだろうか。 それもあるかもしれないが先ず考えられる理由は目の前にある。 「すみません、ヴィレッタ姐さん! 俺、とんだお荷物だったみたいで」 「いいのよ、タスク。気にすることではないわ。それに色々と考えることも出来たのだから……」 恐らくはヴィレッタが警戒に当たってくれていたのだろう。 ビックデュオの傍に聳えるはヴィレッタに支給された機体、ガルムレイド・ブレイズ。 ターミナス・エンジンを積んだそれはジョーカーの機体として選ばれただけのことはあり、強力な機体だ。 そこにヴィレッタの技量も加われば並の相手なら難なく迎撃出来たことだろう。 謙遜するヴィレッタへタスクは頭を下げながらますます感謝の念を覚えていた。
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454 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:10:47 ID:0fgLlHko - 「さぁ、気がついたのであれば機体のチェックでもしなさい。いつまでもここにいられないわ」
「了解!」 ヴィレッタの指示にタスクは素直に従う。 SRXチーム程の交流はないがヴィレッタと不仲ではない。 常に冷静沈着。実にクールビューティという言葉が似合う女性であるとタスクは常々思っている。 たとえばこれ見よがしに強調されたあの双房などあまりに刺激が強すぎる。 健全な青少年たる自分をうっかり危ない道へ誘ってしまう程だ。 (ん……あれ。待てよ、何か忘れてねぇかな……) そんな時、不意にタスクは思考に耽る。 気絶するまではいい。 面目ない結果に終わったが全て思い出せる。 問題はその後。戦闘終了と気絶の間に何かがあったような気がする。 それも些細なことではなくて一世一代のとっておきの出来事が。 超大穴に賭けたチップがビッグボーナスに成り替わろうとする瞬間を見届けるような瞬間が。 言いようのない興奮が、確かに目の前にあった筈なのに―― (考えろ!考えろタスク・シングウジ……! お前はやれば出来るやつだ。 何かあった筈なんだ! 幻想じゃねぇ……幻想だっていう奴が居るなら俺がぶっ飛ばす! 俺の純真な心をくすぐってくれる何かが、あったんだ!!) 今まで生きてきた中で、きっとここまで考えたことはなかっただろう。 己の脳細胞に軽く謝りながらタスクは無我夢中に考える。 無意識に俯き、視線はただどこまでも広がる その形相はあまりにも必死で、周囲から見れば何があったのかと思われるに違いない。
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456 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:11:32 ID:0fgLlHko - 「タスク?」
だからこそヴィレッタは声を掛ける。 あくまでも部下を気遣う上官として、それ以上でも以下でもなく。 声を掛けられたタスクは思わず顔を上げた。 そこに広がったのは――まさに夢の光景。 水着ともボンテージとも取れる黒のスーツ。 細い両肩はあらげもなく露出しているだけでなく、おへそ周りも真っ白な肌が見えている。 さらにはすらっと伸びる四肢がヴィレッタのプロモーションをこれでもかと強調している。 間違いない。自分が求めた希望は目の間にあった。 理性よりも先ず本能が先走り、タスクは口走る。 もちろん、全開の笑みでヴィレッタへ。 「姐さん! なんですかそのコスチュームは!? サイコーっスよ! 全ての男共を代表させて言わせてもらうっス!! ところでそれって姐さんの趣味ですか!? こんな趣味してるならもっと早くいってもらえれば――」 グボ。 鈍い音がタスクの腹部から響く。 「……バカを言うな。恥ずかしいのよ、これは」 ほのかに顔を赤らめたヴィレッタが拳を握っていた。 ◇ ◇ ◇
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460 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:12:15 ID:0fgLlHko - 「女!女アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「くっ、しつこい! なんなのだお前は!?」 エリアD-7の上空で二つの起動兵器が飛行している。 同行しているわけではなく、片方がもう片方を追いかけているのは明らかだ。 追っている方はアルテア星の守護神、ゴライオン。 追われている方はスーパー・マシンナリー・ヒューマノイド、ヴァルシオーネR。 両機はかれこれ一時間程は周囲を彷徨っていた。 「うろちょろ逃げ回らずにさっと死ね! 女ッ!!」 ゴライオンからもう何度目かわからないレーザーマグナムが撃たれる。 戦闘行動が長引いた原因は一つ。 ゴライオンを操縦するレーベン・ゲネラールが持つ女性に対する歪んだ憎悪のせいだ。 ヴァルシオーネRの外見はどう見ても女の子でしかない。 だが、機械と生身の人間という違いはレーベンにとって些細なことだったようだ。 たとえ起動兵器であろうとも、レーベンは目の前の女を破壊するためにゴライオンの猛攻を止めようとはしない。 「お、おっと! こいつめ……!」 一方、ヴァルシオーネRはバーニアを駆使しながら器用に銃弾を避ける。 ヴァルシオンとは違い、機動性に重点を置かれているためいまだ被弾はない。 寧ろこれまでの戦闘の損傷があるゴライオンの方が状況的に不利だろう。 しかし、ヴァルシオーネRのパイロットであるイスペイルはただ困惑していた。 装備されたハイパービームキャノンでゴライオンを牽制しながら思考を回す。 (我々の情報が漏れているとでもいうのか……! くそ、シャドウミラーめ! 殺し合いをしろと言ったくせに、公平なルールさえも満足に用意出来んのか!) ジョーカーとしてイスペイルが他者に行ったことはこれといってない。 したがって警戒はまだ仕方ないとしても、危険人物として断定はされない筈だ。 そう、今のように有無を言わさず執拗に狙われることなど考えにくい。 故にイスペイルはレーベンには自分にとって何か不利な情報が伝わったのではないかと推測した。 イスペイルは他者と接触していないため、当然情報源はシャドウミラーとなる。 開始早々から7人のジョーカーといった仕込みを用することから不信感はある。 他に疑う材料がない分、シャドウミラーならやりかねないと考えてしまう。 やはりシャドウミラーもイディクスの幹部である自分を警戒していたのだろうか。
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461 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:12:56 ID:0fgLlHko - (いや、ヤツはさっきから女としか言っていない。狙いは私ではなくこのヴァルシオーネR……!)
しかし、イスペイルは直ぐに自らの考えを翻す。 ゴライオンの攻撃からは形容しがたい憎しみが感じられる。 それになによりも敵はイスペイルという存在よりもヴァルシオーネRに固執している。 女と口汚く罵るのが何よりの理由だ。 この殺し合いに呼ばれる前にこっぴどくやられたのだろうか。 事実は定かではないがどちらにしろ迷惑極まりない。 それもこれも全てはふざけた外見をしたこの機体を支給されたせい――。 イスペイルの頭の中で何かが閃く。 (待て! ヤツの狙いがヴァルシオーネなのは疑いようはない。 だが、もしヤツの本当の狙いが私の考えている通りなら……やってみる価値はあるか!) ハイパービームキャノンの連射を構わず突進してきたゴライオンを避けながらイスペイルは一つの推測を出す。 科学者の悪意が集まったことで形成されたイスペイルには彼の部下とは違い確かな知性がある。 それこそ知的生命体である人間以上に考え、自我を以て行動することが可能だ。 たえば自身を創造した君主への謀反を企てる程に。 故にイスペイルは今までのレーベンの行動から考え一つの行動に出る。 「そこのライオンロボのパイロット! 少しだけでいいから私の話を聞け!」 ヴァルシオーネRには似つかわしい威厳に満ちた声が周囲に反響する。 イスペイルはヴァルシオーネのオープンチャンネルで呼びかけた。 それは勿論反転し、再び襲いかかろうとしたゴライオンに向かって。 ゴライオンを操縦するレーベンの表情が僅かに険しくなる。 「なんだ!?」 レーベンにヴァルシオーネを逃がすつもりはない。 エーデル准将以外の女に、しかもここまでコケにされ、ただで済ますわけにはいかない。 しかし、イスペイルの言葉で動きを止められたことが彼にほんの少しの冷静さを戻させた。 計器を見ればかなりのエネルギーを喰っている。 ここはがむしゃらに攻めるだけでなく、イスペイルの話を聞く振りでもし、隙を窺ってもいいかもしれない。 密かに算段を練り始めたレーベンは操縦レバーを握る手に込めた力を僅かに緩ませる。 そんな時、レーベンは思わず自分の耳を疑った。
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464 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:13:38 ID:0fgLlHko - 「キサマの趣向に口出しするつもりはない……だから私はキサマを特別に可哀想なヤツだとは思わん!
地球人とは色々なヤツが居ると私も知っているからな」 地球侵略以外にイスペイルは個人的に人間の研究を行っている。 その内容はより絞れば人間の心についてであり、人間の感情も範疇に入っている。 元々が科学者だったためかその探究心は強い。 だからこそイスペイルは目星をつけていた。 狂的な程にヴァルシオーネRをつけ狙うレーベンの行為にもなんらかの意味があるのではないか。 死ねとは言うもののこれはもしやアレではないだろうか。 地球の、何かの文献を読み漁っていた時に見つけた資料に書かれた言葉が蘇る。 ゴライオンの動きが丁度止まったこともあり、イスペイルは最後まで言い切ることを決める。 この時点で自分が何か可笑しなことを言っていることに気づく筈もなく、彼はつづけた。 「だから提案だ。お前と私の機体を交換しようではないか! お前が欲しいのはこの機体なのだろう。この機体で寂しさを紛らわすつもりかもしれんが……まあ、いいではないか。 私もこの機体では色々と不便なのでな。悪い話ではあるまい?」 知識を詰め込む者は時折自らの得た知識が全てと思いがちになる。 科学者であるイスペイルにとってそれは尚更のことだろう。 『愛を超越すれば、それは憎しみとなる』――何故だかここになってイスペイルが思い出した言葉だ。 当時は眉唾ものだと思っていたが、なるほど実際に目の前にすればある程度納得は出来る。 そもそもレーベンとはまともに意思疎通も出来そうになく、彼を深く考えるのは頭が痛くなってくる。 だからこそイスペイルは己の知識にレーベンを当て嵌めることにした。 女を愛するが故に歪んだ憎しみを持ってしまった悲しい人間。 それがイスペイルのレーベンに下した評価だ。 (そう、悪い話ではない。なにせどちらかといえば私の方が損をしている条件だ……! ヤツの機体の方が損傷は大きい。しかし、もうこの機体は……嫌だ。やはり私には合っていない……!)
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467 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:14:30 ID:0fgLlHko - 右の人差し指をヴァルシオーネRはゴライオンに向ける。
その姿は勇ましく、まさしくヴァルキュリアと呼ぶに相応しい。 イスペイルの自信に満ちた言葉と態度が実に反映されているようだ。 対するゴライオンの動きは完全に止まり、沈黙を貫いている。 考え込んでいるのだろう。除々に余裕が出てきたイスペイルはじっと待ってやる。 その何気なく振りまく優しい気配りが、部下に慕われている密かなポイントなのだが彼は知らない。 やがてレーベンが返答する。 「……キサマ、名前はなんだ?」 「私か? 私はイスペイルだが……」 「そうか……なら――」 先程とはうって変って静かな様子を見せるレーベン。 しかし、イスペイルはなんだか妙な気がしてならない。 人間の言葉で言えば直感というやつだろうか。 何故だか不吉な、それかなり不吉な予感がする。 そしてその予感は――案の定現実のものになった。 「死ねええええええええええええええええええええ! イスペイルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!」 あまりにも的外れな言動をたらたらと流したイスペイルのヴァルシオーネRにゴライオンが迫る。 その勢いはここ一番。女に対する怒りを込めたものと見劣りしない。 侮蔑を、それもよりによって女絡みの侮蔑とは考えるだけでおぞましい。 やはりこいつはここで殺す。最早レーベンに一切の迷いはなく、ゴライオンの右腕が大きく振りかぶられる。 「なに!? 交渉すら出来んとは嘆かわしい!」 対するイスペイルはまだ自分の言ったことは間違ってはいないと思っていないらしい。 だが、そんなことをいつまでも言っていられない。 今まさに繰り出されようとしているゴライオンの右拳から避けようとする。
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471 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:15:32 ID:0fgLlHko - 「くっ、速い!?」
しかし、ゴライオンの速度はイスペイルの目測を遥かに超えていた。 レーベンの怒りの理由を知らないイスペイルにとって彼の変化は予測できない。 咄嗟にヴァルシオーネRの両腕を交差させる。 「ぐあああああああああ!!」 間髪いれずにヴァルシオーネRの華奢な躯体に衝撃が走る。 200万馬力は伊達ではない。たとえ防御しようともダメージを完全に殺し切れはしない。 両腕を損傷させながらヴァルシオーネRは海中へ落ちていく。 ブースター系統が壊れたわけではないためイスペイルは直ぐに姿勢制御に取り掛かる。 されどもその隙を逃すほどレーベンは甘い男ではない。 「地獄の底で後悔するがいい! キサマのようなクズはこれで終わりだッ!!」 いつの間にか十王剣を手に持ち、ゴライオンがヴァルシオーネRへ振りかぶらんとしている。 落下運動による重力の補助を受けていることもあり、ゴライオンの速度は速い。 一方、ヴァルシオーネRのイスペイルは姿勢制御だけで手いっぱいだ。 辛うじてハイパービームキャノンを幾つか撃つに至るが、ゴライオンが止まる気配はない。 被弾しながらもなお接近し続けるゴライオンに、イスペイルは自らの危機を覚えた。 (まさか、こんな場所で……!) イスペイルには何故か十王剣の動きがゆっくりと見えた。 そして――突如として二本のビームキャノンが両機の間を駆けた。 「チッ! だれだ!?」 横方向から伸びたビームをゴライオンは寸前で避け、レーベンが吼える。 振り返った先に佇むものは一機の黒い小型機だ バックパックから伸びた二対の鋏が印象的だ。 才能を否定され、新たな世界の創造のために暗躍した兄弟の内、弟の機体。 その名はガンダム、ガンダムアシュタロンHC。 「アナベル・ガトー……見るに堪えん戦場だが、私は私の義を貫かせてもらう!」 そしてアシュタロンHCを駆るは、今は亡きジオンのエース。 ソロモンの悪夢、アナベル・ガトー少佐が戦場へ介入する。 ◇ ◇ ◇
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473 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:16:24 ID:0fgLlHko - ガンダムアシュタロンHCがビームキャノンを撃つ。
巨体ながらもゴライオンはビームを掻い潜り、腕を振るう。 されども機動性ならばアシュタロンHCに分がある。 ガトーの技術も重なりブースターを吹かせながら悠々と避けてみせる。 お返しにと言わんばかりにアシュタロン・HCが再びビームキャノンを発射。 二本とも直撃するが、既にゴライオンは身構えており、さしたる被害は見られない。 アシュタロンHCにはゴライオンの装甲を破壊する出力が。 対してゴライオンにはアシュタロンHCを捉えきる速度が足りなかった。 「チッ、このままでは消耗戦か……!」 アシュタロンHCのコクピットでガトーが苦虫を潰したような表情を浮かべる。 ガトーはイスペイルとレーベンの戦いを数分前から監視していた。 無理に仕留める必要もないが、目につく参加者を逃すつもりもなかった。 優勝するのであればどの道他の参加者を倒すしかない。 故に片方がやられ、消耗したところを狙ってもそれは構わないことだった、その筈だ。 しかし、明らかに一方的な戦局にガトーは介入の頃合いを速めてしまった。 (あの奇妙な機体、連邦のものかはわからん。 だが戦闘用ではないのは確かだ。戦う術も、意志すらも持たん人間を一方的に追撃するなど……やはり見てはいられんな。 私もまだまだということか) 自分の甘さをガトーは実感する。 わざわざ不要な困難を自身に強いることになった自分を悔やむ。 先程は出来た筈だった。たとえガンダムという因縁の敵であろうと、自分も無抵抗の人間を殺そうした。 しかし、今回は出来なかったどころか救助さえもしてまった。 自身の不審な行動に心当たりがないわけではない。 一年戦争時の技術を遥かに超えるガンダムならまだしも、あんなふざけた外見をした兵器など存在するわけがない。 所詮戦闘の機体ではなく後でどうとでも始末出来るとは思えるがそれは都合の良い言い訳だろう。 ならば何故、自分はこの戦場に介入したのだろうか。 だが、考えられる原因は他に何もないわけではなかった。 (フジワラシノブ……ふっ、私としたことがあんな若造に毒されるとは。 だが、ヤツは私が討った。いまさら後ろへ向ける背などもってはいない……!)
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478 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:17:46 ID:0fgLlHko - 先程の戦闘で戦ったパイロット、藤原忍。
カナードが居なければあまりにもあっけなく命を散らすことになっただろう。 藤原は一言で言えば熱い男だった。 腐った連邦の将校とは違い、頑なに真っすぐな意志はジオン軍人の魂にも通じていた。 彼のような若者がこれからのジオンを支えていけばいつか悲願成就の日が来るに違いない。 やはり迷いが生じてしまったのだろう。未熟な我が身を思わず恨む。 あの非戦闘用の機体に藤原のような男が乗っていたらと思わなかったわけではない。 結局は藤原の命を奪った自分が言うことではないだろうが、彼はこんな場所で死ぬべき男ではなかった。 だからこそ彼の未来を奪った自分はなんとしてでも生き残らなければならない。 だが、藤原の事よりもガトーがこの戦いに介入した強い理由は別のことだった。 女、女と狂ったように叫ぶパイロットからは理性の欠片すらも感じられない。 恐らくはこの殺し合いという状況で狂ってしまった愚かなパイロットだろう。 ならば苦しませるのは酷だ。他者に、藤原のような信念を持った人間にとっては邪魔でしかない。 どうせ全ての参加者を倒すであれば、自分が汚れ役を背負うのも些細なことだ。 一旦ゴライオンから距離を取った後、ガトーは操縦桿を倒す。 瞬く間にアシュタロンHCはMA形態へ変形する。 「ちっ、変形した!」 「ただのMSとでも思ったか!」 両方のギガンテイックシザースを開き、ビームキャノンを乱射しながらゴライオンへ迫る。 変形したアシュタロンHCにゴライオンはレーザーマグナムで応戦する。 ビーム砲とレーザーマグナムの応酬が行われる。 ゴライオンはその場に踏みとどまり射撃に専念する構えだ。 しかし、アシュタロン・HCは止まることなくゴライオンへ突っ込む。 レーザーマグナムがかすり、装甲を削っていくが逆にアシュタロンHCの速度は見る見るうちに上昇する。 レーベンがイスペイルを逃がすつもりがないのと同じく、ガトーにもレーベンを逃がす気はない。 遂にはレーザーマグナムの雨を突っ切り、追い抜きざまにギガンテイックシザースを振るった。 ゴライオンの胴を猛烈に殴りつけ、アシュタロンHCは離脱していく。 それは俗に言う一撃離脱の戦法。旋回し、再び戻ってきたアシュタロンHCをレーベンは憎らしげに見やる。 「許さんぞ、キサマああああああああああ!」 「キサマではない! アナベル・ガトーだ!」 「ならば俺はカイメラの若獅子、レーベン・ゲネラールだ! 覚えておけ!」 「笑止! そのような言葉、私が覚えるに値する腕を見せた後にでも言ってもらう!」 迫りくるアシュタロンHCを尻目にゴライオンは更に上昇を掛ける。 続けて右腕を突き出したかと思うとすぐさまその腕から灼熱が生まれた。 ファイヤートルネードによる高熱の渦がアシュタロン・HCへ襲い来る。 突撃を敢行していたアシュタロンHCは急速に減速するが、完全には減らしきれない。 眼前に広がるファイヤートルネードに敢え無く突っ込む形となる。
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480 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:18:28 ID:0fgLlHko - 「ぬぅおおおおおおおおおおおお!!」
ガトーの叫びがコクピット内で木霊する。 同時にアシュタロンHCはマシンキャノンの連射を開始。 牽制用に使われるマシンキャノンで狙いを絞るのは難しい。 だが、ガトーはマシンキャノンをあくまでも乱射するのではなく、ある一点を狙っている。 それは正面の少し上、丁度ゴライオンが居ると思われる地点。 マシンキャノンの一斉掃射によりその部分だけファイヤートルネードの層が薄くなる。 続けてビームキャノンをやはり二本とも発射、更に厚みが無くなった。 そして今度は急速に加速。やや軸を上に向けながらアシュタロンHCが全速で突撃。 身体に襲い来るGの衝撃に口元を歪ませながらも、ガトーはアシュタロンHCの操縦に全てを注ぐ。 やがてマシンキャノンとビームキャノンで薄くなったファイヤートルネードの突破に成功する。 纏わりつく火の粉を振り払うようにアシュタロンHCは再度変形。 右腕にビームサーベルを握りしめ、勢いは殺さずにそのままゴライオンへ斬りかかる。 「もらった!」 頭部を護るように掲げられたゴライオンの左腕を袈裟に斬りつけた。 両断には至らなかったものの、火花を伴った裂傷はハッキリとわかる。 確かな手ごたえを感じたガトーだったが彼はすぐさま次の行動に移る。 追撃ではなくもう一度離脱に意識を。 バーニアを利用し、ゴライオンの頭上をアシュタロンHCが飛ぶ。 止めを焦ることはない――だが、そんな時言いようのない悪寒がガトーを襲う。 「なめるなあああああああああああああああああ!!」 「なに!? やってくれる!」 見れば下のゴライオンがこちらに腕を振り上げている。 反撃は予測できた。しかし、予想よりも圧倒的にタイミングが速い。 事実、近接戦闘を得意とするレーベンの反撃は鮮やかなものだった。 止むを得ずアシュタロンHCは反転し、背部でゴライオンの拳を受けることになる。 拳の衝撃によりアシュタロンHCは吹き飛び、不規則な軌道を描きながらゴライオンから離れるがやがて停止した。 すぐさまガトーはアシュタロンのコンディションチェックに取り掛かる。 充分とは言えないが距離があったのは確かだ。 ダメージは当然あるが通常飛行に問題はない。 やがてアシュタロンHCのカメラアイがゴライオンを見やる。 「レーベンと言ったか。キサマ、カイメラとはなんだ? 連邦の特殊部隊か?」 「連邦だと!? 我々カイメラは新連邦の特殊部隊だ」 「なるほど。やはり連邦の一派か……!」 ガトーが知る知識では新連邦という組織は存在しない。 しかし、名前から察するに連邦の流れは汲んでいるに違いない。 信じがたいがアシュタロンHCの存在は、既にガトーにいつぞやの未来にもガンダムはあると示している。 ならばガンダムをフラッグマシンとして擁する連邦も存在しているのだろう。 更に醜く膨れ上がった連邦の成れの果てでもいったところだ。 我々ジオンはやつらに掃討されてしまったのだろうか。 その事実に悔しさを覚えずにはいられないが、今は目の前の戦いに集中するしかない。 先程の動きを見ればこのレーベンと言う男は新兵ではなく、明らかに実戦経験を積んだ兵士なのだから。 もはや聞きたいことは終えたといわんばかりのガトーだったが、レーベンが再び口を開く。
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483 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:19:10 ID:0fgLlHko - 「だが、勘違いするな! 俺は新連邦などに属したつもりはない! 全てはエーデル准将のために、
いずれエーデル准将がお創りになる世界のために……俺はこの身を捧げるつもりだからだ!!」 ガトーにはエーデルという人間に心当たりはない。 したがってそのエーデルが一体どういう思想を持つ人間なのかもわからない。 だが、わかることはあった。 機体越しに伝わってくるはレーベンの強き意志。 一途なまでに強大なそれは信念というには最早生温い。 「見ろ! この俺の戦化粧を! これこそが俺の全て……エーデル准将への想い!! この想い、キサマらごときクズどもがいくら集まろうと決して消せはしない!!」 思わずガトーは息をのむ。 唐突に転送された画像には金髪の青年の姿があった。 おそらくはレーベン・ゲネラールの素顔なのだろう。 しかし、何よりもレーベンの顔に施された真っ赤な戦化粧がガトーの注意を惹く。 更に両目はまるで研ぎ澄まされた太刀のように光り、ありあまる闘志を感じられる。 まるで獅子だ。それも負い目ではなく、躍動感に溢れる獅子だ。 レーベンという人間をただの狂人だとは思っていたが、ここにきてガトーは己の考えが違っていたのだと考える。 だが、ガトーの戦意が消失することなど、有り得るはずもない。 確かにレーベンの気迫は凄まじいものだが、ガトーにも譲れないものがある。 「レーベン・ゲネラール、その意気やよし! だが、キサマに忠義を誓う君主が居るように私にも居るのだ! いや、君主だけではない、私は国家のために戦っている! 三年……三年待ったのだ。死んでいった同胞達に報いる日を迎えるまで、私は死ぬわけにいかん!!」 宇宙世紀0079年、後に一年戦争と呼ばれる戦争。 ガトーにとっては苦い負け戦であり、全てはあの時に止まってしまった。 ジオンの理想は、自らの命を預けるに相応しいと信じた理念が。 それがようやく成就しようとしている。 こんな殺し合いになど興味はない。 だが、ジオン再興の日を見届けるためにはこの場で生き残らなければならない。 そのためなら、たとえどんな信念や義を捧げる者であろうとも負けるつもりはない。 そう、たとえばこの獅子のように闘志を剥き出しにする若者を目の前にしても――何があろうとも、絶対に。 再度レーベンを倒すべき敵と認識し、ガトーは猛々しく叫ぶ。 「こい、カイメラの若獅子よ! キサマの信念、ジオンのアナベル・ガトーが討ち砕いてくれる!!」 「フン! いいだろう! 望むところ――――――――だ……?」 しかし、そんな時レーベンが素っ頓狂な声を上げる。
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487 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:20:07 ID:0fgLlHko - 何事かと思いガトーはゴライオンを観察する。
見ればゴライオンはとある方向をじっと見ていた。 その先には一機の起動兵器、白い機体とピンク色の毛髪が嫌でも目を引く――。 それはこそこそとこの場から離れようとしているヴァルシオーネRの姿。 丁度海の上でバチャバチャと腕と足をかき、犬かきのような格好で。 イスペイルはヴァルシオーネRを泳がせて逃走を図っていた。 ◇ ◇ ◇
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488 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:20:48 ID:0fgLlHko - ゴライオンとガンダムアシュタロンHCが戦っている最中、ヴァルシオーネRは海中に沈んでいた。
アシュタロンHCの介入により十王剣の一撃を貰わなかったため致命傷はない。 だが、反転上昇は間に合わず、敢え無くヴァルシーネRは敢え無く海に墜落していたわけだ。 その理由は既に助かる筈もないタイミングだとイスペイルが半ば諦めていたことがあげられる。 というか、ぶっちゃけそれだけだった。 「くっ、やつらめ……ことごとく私を無視しおって……!」 結果的に助けられたがイスペイルにあまり良い気はしない。 なにせ両機とも自分に目もくれていないのだ。 これでは追撃を恐れて直ぐにでも上昇しようかと思った自分が悲しくなってくる。 しかし、ヴァルシオーネRが全く戦えないというわけではない。 いっそのことこのままあの戦いに乱入し、奴らに自分の力を見せてやろうかと思った。 ジョーカーとしてのノルマもいずれは果たさなければならないのだから。 だが、迂闊に飛び込んではうっかり流れ弾に直撃する可能性もある。 もう少し様子を見てもいいだろう。 怖いわけではないが、二機の注意を引かないようにイスペイルは除々にヴァルシオーネRを移動させていた。 バーニア類は使わずあくまでも四肢の駆動で、要するに海上を漂うといった形でだ。 「ふむふむ、向こうはアナベル・ガトーか……覚えておこう」 そんなこんなで色々と情報が入ってきた。 なにせ上空の二機は音声を外部にダダ漏れで戦闘を行っているのだ。 その音はイスペイルに嫌でも聞こえ、彼はアシュタロンHCのパイロットであるガトーの名を記憶する。 向こうはレーベンとは違い、自分の危機を救う形となったのだ。 一度くらいは見逃してやってもいいかもしれない。 下らない算段を練っている中でも依然として両機の戦闘は続いている。
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491 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:21:49 ID:0fgLlHko -
『こい、カイメラの若獅子よ! キサマの信念、ジオンのアナベル・ガトーが真っ向から討ち砕いてくれる!!』 ガトーの咆哮は当然イスペイルにも届いた。 勝負をつけるつもりかもしれない。 ならば周囲への被害は今まで以上のものになるだろう。 しかし、相打ちでなくとももう片方も損傷は残る筈だ。 漁夫の利を得るためにも、あまり離れすぎず、安全を確保できるように、 またそれでいてやはり二人の注意を引かないようにするにはやはり泳ぎだろう。 既にヴァルシオーネRを泳がせるに慣れたイスペイルは両機からさらに離れる。 外見とは裏腹にあまり華麗な泳ぎでないことにはこの際目を瞑って欲しい。 そんな時だ。強烈な視線をイスペイルが感じたのは。 『フン! いいだろう! 望むところ――――――――だ……?』 後ろを振り返りたい。 だけども振り返られない。 振り返ってしまえば絶対に後悔すると思ったから。 だからイスペイルは気を取り直して泳ぐのを続けた。 しかし、予想に反して何も起こらない。 (き、気のせいか。なんだかとても悪い予感がしたのだが……ま、まあいい!) ホッと安堵するイスペイル。 だが、彼はレーダーモニターを見る勇気はなかった。 まあ、どっちにしろ見る必要も――なかったのだが。 「逃がさんぞ、キサマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 もう二度と聞きたくないレーベンの叫びが、背後からイスペイルを襲った。 ◇ ◇ ◇
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494 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:22:59 ID:0fgLlHko - 「タスク、機体の調子はどうかしら?」
「万事オーケーっス、姐さん!」 ガルムレイド・ブレイズに操縦するヴィレッタが通信を送る。 それに答えるのは二度の気絶を体験したタスクだ。 ただし二回目は無理やりに起こされたという違いはあるのだが。 そして二人が現在いる場所はエリアC-2。 彼らは周囲の探索を行いながら、地図を見たうえで生じた疑問の答えを確認しようとしていた。 「ところで姐さんはどうなっていると思いますか? 俺はやっぱ端っこは行き止まりになってるんじゃないかって思うんですけども」 「そうね……まあ、直にわかることだわ」 参加者に配られた地図の端はどうなっているか。 極めて自然な質問だが知っておくに越したことはない。 よって共に飛行を行える機体でもあるので二人は確認する事に決めた。 ここまでは特に異常なし。出会った人間も一人も居ない。 だが、そんな時先行していたガルムレイド・ブレイズのレーダーに反応があった。 「接近する機影を確認……! タスク、何か来るわ!」 「了解! さぁ〜て、どうなることやら……!」 ガルムレイド・ブレイズとビッグデュオが共に臨戦態勢を取る。 ヴィレッタが言った通り、前方からは何かの音が響き、タクスに緊張が走る。 飛び出してくるのはユウキ・ジェグナンのような信頼できる仲間か、 はたまた有無を言わさず襲ってくるようなヤツか。 生来の博打好きが故に吉と出るか凶と出るかの状況に、僅かに興奮を覚えるが冷静さは損なわない。 操縦桿を握る手に込めた力が一段と強くなり、やがてタスクは迫りくる来訪者達を確認する。 「女! どこだここは!?」 「知らん! 私が知ってたまるか! そもそもお前が追ってくるからあの壁がなんだったかわからなかったのだ!!」 タスクとヴィレッタにはわからないが二機は会場のループにより此処まで辿りついていた。 だが、問題はそこではなくこの二機が一体何なのかだとタスクは考える。 一方はリューネ・ゾルダークの機体、ヴァルシオーネR。 もう一方はサイズを考えるとジガンスクードのような特機だ。 タスクには両機から聞こえる声に心当たりはないがわかることはある。 あんまり関わり合いになりたくない。タスクは本能的にそれを悟った。 追っている方も追われている方も、普通じゃないような気がする。 失礼だとは思うけども、両者の様子からタスクはそう受け取った。 「そこの二機、止まりなさい!」 ガルムレイド・ブレイズを全面に出し、ヴィレッタが逸早く制止を掛ける。 内心どうしようかと悩んでいたタスクはヴィレッタの判断の速さに感嘆する。 やはり頼りになる上官だ、と思わずにはいられない。 ビッグデュオよりも小さいながらもガルムレイド・ブレイズから確かな頼もしさが感じられた。 これで奴らも少しは落ち着くか。そんな事を思いながらもタスクは慎重に状況を見守る。
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495 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:23:43 ID:0fgLlHko -
「むっ、もしやその声は……?」 ヴァルシオーネRからは訝しげな声が聞こえた。 少なくとも知った声ではないが、ヴィレッタの知り合いなのだろうか。 まあ、どこか謎がある彼女ならどんな知り合いがいても可笑しくはない。 だが、その次に飛び出してきた言葉にタスクは唖然となった。 「その声!? キサマ――女かアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 今まで女性型の起動兵器をつけ狙っていたレーベンが更なる怒りを見せる。 レーベンが何よりも嫌うのはエーデル以外の生身の女だ。 声色からしてヴィレッタを憎むべき女とだとレーベンは断定する。 ヴァルシオーネに撃ち放っていたレーザーマグナムの照準をガルムレイド・ブレイズへ。 更には足を向けて無理な体勢を取ってまで、フットミサイルすらも撃ち放つ。 「くっ!」 既に回避出来るタイミングではない。 レーザーマグナムとフットミサイルの衝撃によりガルムレイド・ブレイズが吹っ飛ぶ。 その後をゴライオンが追いすがる。 大きさ故に嫌でも目につくビックデュオを追いぬいたあたり、余程女という存在が気に食わないのだろう。 当然タスクがレーベンの行動を黙って見ているわけもない。 「待ちやがれ! てめぇよくも姐さんを――」 「タスク! 後方からまだ!!」 「な、なんだって!?」 直ぐに援護に出ようとするタスクをヴィレッタが諌める。 慌ててレーダーに目を向けるタスク。 しかし、確認するよりも早くビッグデュオに衝撃が走った。 起点はビッグデュオの背部。方向からしてレーベンのゴライオンではない。 そもそもゴライオンはいままさにガルムブレイド・ブレイズに殴りかかろうとしている。 ならば一体誰が――答えは直ぐにわかった。 「エリアC-2だと……原理はわからんが、まあいい。私のやるべきことは変わらん!」 レーベンがループによりやってきたようにガトーも此処に辿りついていた。 今しがたビームキャノンを放った、MS形態のガンダムアシュタロンHCがビックデュオと対峙する。 悠然と構えるアシュタロンHCからはこれといった隙は見られない。 こいつはかなりやる相手だ。直感的にタスクはそう悟るが、駄目もとで通信を開く。
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498 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:25:00 ID:0fgLlHko - 「俺はタスク・シングウジ。あいにくだけどアンタと殺し合いをするつもりなんかねぇ。
だから見逃せ……っていってもどうせ見逃してくれないんだよなぁ?」 「ふっ、わかっているのであれば無駄な口を開かんことだな、若造」 「ゲェ!? やっぱりそうきますか」 短い会話が終わった途端、アシュタロンHCがビッグデュオへ突っ込む。 更に二門のビームキャノンによる砲撃というオマケつきだ。 タスクにとって予想出来た展開ではあるが全然嬉しくもなんともない。 気を取り直して胸部に装備されたガトリングミサイルで応戦。 サイズの違いもあり、一発でも受ければ危ういミサイルの雨がアシュタロンHCを襲う。 対するアシュタロンHCは咄嗟に変形する。 更に下降し、掃射されたガトリング砲を掻い潜る形で空を駆けていく。 その速度は凄まじく、敵であるというのにタスクがガトーに掛かるGを心配してしまう程だ。 「くそ! こっちはパワー自慢の特機なんだ。そうチョロチョロ動かれたら困るって!」 「無論、それを狙っている!」 「ちっ、いちいち反応してくれるとは、ずいぶん律儀な方でえええええええええええええええええッ!!」 やがてガトリングを避けるだけでなく、アシュタロンHCはビッグデュオの下方すらに潜り込む。 今度は一転して上昇。ビッグデュオの背部と並行する形で上空を目指す。 同時にビームキャノンを撃ち、避けようのないビックデュオの背部が砲撃にさらされることになる。 揺れるコクピット内でタスクは舌打ちを撃ちながらも、ビックデュオの頭部を動かそうとする。 両目部分に装備された超光熱線、アークラインによる反撃を考える。 だが、そんな時ビッグデュオのレーダーがとある反応を示す。 そういえば何か忘れていたような気がタスクにはしてならなかった。 「キサマら……ことごとく私を無視しおって……! もういい! ならば私にも考えはある。 ここらでスコアを稼がせてもらおうではないか!!」
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499 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:26:03 ID:0fgLlHko - 宙に浮かんだヴァルシオーネRの中でイスペイルが憤慨する。
度重なる冷遇の末にイスペイルは所謂やけくそな状態に陥っていた。 気がつけばヴァルシオーネR自身も可愛らしく怒っている。 この光景はリュウセイ・ダテにとっては喜ばしいものに違いないが、タスクにとって全く嬉しくはない。 何故なら自分の予感が当たっていた。 ヴァルシオーネRの予備動作に覚えがあったのだから。 両肩に装備された円形のユニットに光が集まる。 それぞれ右肩の方には青い光を、そして左肩には赤い光を、 くびれた腰をまわして、回転を加えながらヴァルシーネRは右腕を突き出す。 それこそが合図、二輪の光輪が唸りをあげながら射出される。 「クロォォォォォォスソーサー!!」 変則的な軌道を描きながらクロスソーサーがビッグデュオを襲う。 判っていたもののビッグデュオに避ける術はなかった。 空中戦に特化したビッグデュオではあるがその巨体ゆえどうしても格好の的になりやすい。 後方に退くことで少しでもクロスソーサーの直撃のタイミングを遅らせる。 だが、可愛らしい外見はしているものの、ヴァルシオーネRは最強ロボ・ヴァルシオンの兄弟機だ。 依然として回り続けるクロスソーサーは容赦なくビッグデュオの胸部装甲を抉る。 コクピットブロックが胸部に存在するため、あまりダメージを受けるのは不味い。 しかし、そんな時上空から伸ばされたビーム砲がビッグデュオの頭部を直撃する。 「私が居ることを忘れたか!」 そうだった。未だにガトーのアシュタロン・HCは健在だ。 いつのまにかアシュタロン・HCとヴァルシオーネRに囲まれる形となってしまった。 勿論ガトーとイスペイルが事前に打ち合わせたわけではない。 ただ一際大きなビッグデュオを先ずは潰しておこうと判断したのだろう。 単独では火力が足りずとも、二機掛かりなら充分に勝機はある。 あくまでも推測でしかないが、決定的なのは自分の状況が危機以外のなにものでもない事だ。 「く、くそ、ヴィレッタ姐さんの方も気になるってのにしかたねぇ! 俺もちょいと腹くくってやらぁ! 男、タスク・シングウジ……やる時はやるってこと、見せてやるぜ!!」 先程吹き飛ばされたヴィレッタへの心配を忘れずに、タスクは操縦桿を強く握りしめる。 今は自分に出来ることを、自分でやりきるしかないのだから。 誰にも頼らず、ただ自分だけの力をタスクは一重に信じ、ビッグデュオにその命を預ける。 ◇ ◇ ◇
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504 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:27:29 ID:0fgLlHko - 「いけ、ファングナックル!」
ガルムレイド・ブレイズが右腕のファングナックルを発射する。 二形態の内、現在はS形態を取っているガルムレイド・ブレイズ。 TEソフィアによる防御はあるものの、青い躯体の至る所に見られる損傷がゴライオンの猛攻の跡を示している。 ウルフヘッドを模した拳が牙をむき、その獰猛な口を開きながら一直線にゴライオンへ飛ぶ。 エリアC-2の北部から始まった戦闘は西部までに移動している。 その間のゴライオンとの戦闘経験からヴィレッタは先ず直撃のコースだと推測する。 事実、ゴライオンにファングナックルを避けようとする動きは見られない。 「うおおおおおおおおおおおおおお!!」 元々レーベンにファングナックルを避わすつもりはなかった。 一歩も退くことなく、ゴライオンが大きく右腕を振りかぶる。 向かってくるファングナックルとタイミングを合わせ、真っ向からぶつかる。 そう、レーベンはゴライオンの右腕でファングナックルを撃ち返した。 ファングナックルは堪らずガルムレイド・ブレイズの右腕に戻る。 右拳だけとはいえ勢いを全く意に介さず、殴り返したゴライオンの馬力はやはり強烈なものだ。 思わずヴィレッタは下唇をかみしめる。 「どうした女! その程度か!?」 加えて操縦者の方も厄介だ。 確かレーベン・ゲネラールと此処に来るまでに名乗っていた。 先程より少しは落ち着いているようだがそれでも面倒なことに変わらない。 だが、このレーベンは出来るだけ迅速に突破、もしくは撃破しなければならない。 分散することになったタスクとの合流を目指す必要があるためだ。 そして気がかりな事はまだあった。 (先程私の声に反応した参加者……たしかイスペイルという男だったハズ。 タスクにジョーカーのことが知られたら、面倒ね……) レモン・ブロウニングにより指名された7人のジョーカー。 十六時間以内に同じジョーカー以外の参加者を二人殺さなければ首輪が爆発されるルール。 ヴィレッタはそのルールを押しつけられた一人であり、同じ境遇の者がヴェルシーネRに乗っていた。 確認したわけではないがあの特徴的な声はイスペイルという男だろう。 あれでタスクは勘のいい青年だ。あの時、自分の声に反応したイスペイルを疑問に思ったかもしれない。 もしタスクがジョーカーのルールを知ってしまえば自分は選択しなければならない。 即ちタスクとこのまま行動を共にするか、ジョーカーとして他者と戦っていくかを。 だが、生憎ヴィレッタの選択は未だ決まっていない。
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506 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:28:27 ID:0fgLlHko - (結局は答えが出なかった……時間はあったというのに。
タスクに知られずとも、決めなければ……そう、すぐにでも……!) タスクが気絶していた間、ずっと考えていた。 不用心に気を失うタスクを殺せばノルマの半分は達成される。 考えたくはなかったが、自分でも驚くほどにその考えは自然に零れ落ちた。 しかし、裏切りたくはないという強い思いが実行には移さなかった。 タスクを含め仲間達は、エアロゲイダーの二重スパイとして活動した自分を受け入れてくれた。 そんな彼らをもう一度裏切りは、それも殺すなどは到底出来ない。 だけども、レモンの言っていたノルマを実行しなければ自分はここで終わってしまうだろう。 異星人の一種と思わしきテッカマンランスをいとも簡単に殺した、首輪の爆弾は今でも首に巻きつけられている。 首輪を外せばノルマに従う必要もないが、ここまでの事を仕込む彼らがそれを許すとは思えない。 懸念材料が多い現状では、結局、ヴィレッタはまだ決められはしない――。 「何を呆けている! 女アアアアアアアアアアアアアア!!」 迂闊だったと咄嗟にヴィレッタは自らの行為を悔やむ。 ジョーカーとしてという特殊な身の上から思考に没頭してしまったヴィレッタ。 ヴィレッタが見せた隙は当然ガルムレイド・ブレイズの動きにも伝わり、レーベンはそこを狙った。 ゴライオンは腕を振りかぶり、持っていた十王剣を思いきり投げつける。 充分に乗せられた勢いが十王剣に強力な加速をもたらす。 避けきれない。ヴィレッタの判断は間違ってはいなかった。 TEスフィアを破り、ゴライオンより下方を飛行していたガルムブレイド・ブレイズの肩に十王剣が突き刺さる。 体勢を崩したガルムレイド・ブレイズにゴライオンは更に追撃をかける。 右腕を十王剣へ伸ばし、強引に引き抜くだけでなく右脚で蹴り飛ばす。 「ちっ、この……!」 「こんどこそ本当に終わりだ! 所詮エーデル准将以外の女など、生きる価値などないッ!!」 ガルムレイド・ブレイズが見る見るうちに海上へ落ちていく。 ゴライオンは再び接近。十王剣を逆手に持ちかえ、そのまま振り下ろす。 ガルムレイド・ブレイズの胴体を串刺しにせんと迫る。 堪らず両肩のビームキャノン砲と腰のビームバルカンを乱射するが、ゴライオンは損傷をものともしない。 鬼気迫る勢いを以ってして突撃するゴライオンは既に攻撃に一身を捧げている。 ヴィレッタが己の危機を悟った瞬間、ガルムレイド・ブレイズの下方に存在する海で水しぶきが舞い上がった。 「熱源反応!? これは……!」
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509 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:29:28 ID:0fgLlHko -
驚くヴィレッタを尻目に海中から何かが飛び出す。 一本の赤いドリルが海水を出鱈目に撒き散らし、ゴライオンへ向かっていく。 続けて見えたものは白に染まった強大なショルダーアーマーに、黒を基調とした躯体。 背部には先程飛んできたものと同じく血に染まったように赤いドリルがある。 何よりも鬼と相応しき顔面から覗く緑眼がこちらを見上げている。 両目を見張るヴィレッタには見覚えがあった。 それは武人と称するに相応しい男と死闘を繰り広げた人造人間の専用機。 アースクレイドルに座する主の敵を断つ、斬艦刀を持ちしその機体の名は――スレードゲルミル。 「俺はザフト軍ミネルバ隊所属のシン・アスカ! アンタたち、レイ・ザ・バレルを知らないか!? 知っていたら教えろ……拒否は許さない!!」 パイロットはザフトのスーパーエース。 そして悲しき復讐者、シン・アスカ。 紅に染まった両眼がガルムレイド・ブレイズとゴライオンを鋭く睨みつける。 ◇ ◇ ◇
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512 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:30:09 ID:0fgLlHko - そこは真っ暗な海の底だった。
周囲に居るものは自由気ままに泳ぐ魚やサンゴ礁ぐらい。 もし、死んだあとにこうやって海に沈んだらゆっくりと眠れることだろう。 憎しみも争いも何ものかも忘れることが出来て、いつまでも安らかに。 海の流れにスレードゲルミルを任せ、その中でシンはそんなことを考えていた。 (フリーダムは討った……この手で、確かに……) ニュートロンジャマーキャンセラー搭載機、フリーダム。 かつて血のバレンタインと呼ばれる悲劇から起きた戦争中に奪取された機体。 シンにとってフリーダムは全てを奪い、また今の自分をつくらせた存在でもある。 ザフトと連合の戦地となった永久中立国オーブ。 一般の民間人でしかなく、戦火から逃れようとしたシンはそこで家族を失った。 父を、母を、そしてたった一人の妹すらも。彼女が伸ばした細い腕を掴んではやれなかった。 全てはフリーダムが起こした戦闘の流れ弾のせい。 だからこそシンは願った。守れる力を、大事なものを奪おうとするものを倒せるだけの力を。 出来るだけの努力は続け、その結果がザフトの士官学校での首席卒業を可能とさせた。 もう二度とあんな悲しい想いは繰り返さない。フリーダムのようなヤツは必ず、自分で斃す。 ただそれだけを願い、妹の面影を忘れずにシンは戦い続けた。 そしてシンはようやくフリーダムを斃すことに至った。 その筈だった。 (だけど俺は……) しかし、喜びはなかった。 残ったものはどうしようもない空虚感のみ。 ずっと燻っていた願いを果たせたというのに。 理由は痛いほどわかっている。 ドモン・カッシュ、そして自分のために死んだジャミル・ニートの存在がしこりとして残っている。 彼らは自分に殺し合いに乗るなと言った。 一般の良識に当てはめれば彼らの言い分が正しいのだろう。 だが、ここでは常識など通じない。人一人の頭が四散したことで全ては始まった。 この異常な状況で良識を持って行動できるほど、シンは器用に自身の感情を抑えられない。 なによりも今度こそ護ると誓った少女のために、死ねるわけにはいかなかった。 既に何分経ったのかもわからない。 ぼんやりとした目で計器を見やる。 どうやらいつの間にか隣のエリアに流れていたようだ。 機体の方はというと――問題ない。マシンセルがずっと修復を行っていたようだ。 ドリルブーストナックルを撃つぐらい問題はない。 だが、問題があるといえばシン自身の方だ。 フリーダムを斃せたというのに、結局は得るものはなかった。 復讐をやり遂げてもこんな結末が待っているのはなんとなくわかっていたがやりきれない。 両親や妹のマユが戻ってくると信じたわけでもない。 だけど、何かが欲しかった。 どんな些細な事でもいい。せめて自分がフリーダムを斃せたことで何かが変わって欲しかった。 たとえばザフトと連合の下らない戦争の終結が一日でも速まるような変化が。 青春の全てをなげうって、鍛えぬいた技術に一定の成果があっても良かった筈だ。 戦って、戦い抜いて、そうして進んだ先に待つものがこの空虚だけだとしたら。 自分は一体何を求めて戦っているのか……それすらもわからなくなってしまう。 想像するだけでどうしようもなく怖かった。自分を導いてくれる何かが欲しいと強く思う。 ドモンやジャミルがいくら自分に立派な言葉を投げかけてくれたとしても、結局彼らは赤の他人だ。 あの皆城総士のように、本心では何を考えているかなんてわかりやしない。 しかし、あいつだけは違う筈だ。
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514 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:31:43 ID:0fgLlHko -
(レイ……どこに居るんだ。俺はどうすればいい……教えてくれ、レイ。 スレードゲルミルは俺に何も教えてくれない……お前の、お前の言葉なら俺は……) レイ・ザ・バレル。あまり社交的ではないシンにとっての数少ない友人の一人だ。 士官学校時代からの同期でありその縁はかなり深い。 いつだってレイは冷静で、大抵のことは彼が言うとおりだった。 それはミネルバ隊に配属された後にも変わらない。 レイともう一人の同期、ルナマリアと共にザフトとして戦うと決めた。 ザフトの勝利を勝ち取るために、ギルバート・デュランダル議長の理想を実現するために、 そしてもう二度と大切な存在を失わないために。 あの頃の自分なら迷うことはない。 レイが進むべき道を指し示してくれれば、自分はそれに向かうだけだ。 だから当面の目的はレイとの合流だ。 襲われれば勿論迎撃する。ただ、問題は目の前で戦闘を目撃した際について。 レイ以外の人間は直ぐには信用できない。 たとえ危ういところを助けても絶対に裏切られないとは言い切れない。 だが、他者と接触すればレイの情報を得られる可能性もある。 レイなら自分と違って上手く立ち回っていることだろう。 出会った人間に言付けを頼み、自分を捜していてくれているかもしれない。 取り敢えずの思考は纏まった。 何十分かの静寂がシンの瞳に再び灯を宿させる。 まどろみを振りきり、シンはスレードゲルミルを海上へ飛ばそうとする。 そんな時、けたたましい声をスレードゲルミルのセンサーが捉えた。 『何を呆けている! 女アアアアアアアアアアアアアア!!』 一瞬唖然とするシン。 だが、直ぐに気を取り直して上を見やる。 センサーからは何かがぶつかり合う音が聞こえた。 戦闘だ。先程、自分が身を置いていた暴力の渦が頭上に広がっていた。 やるせなかった。結局は皆戦うことを望んでいると思ってしまったから。 襲う奴は必ず一人は居る。人間だから、周りは皆他人だから。 何も自分だけじゃない。自分のようにただ自分勝手に誰だって戦っている。 死にたくはないから、守りたいものがあるから、ただそれだけだろう。 自分もその一種と自覚するシンにそれを否定するつもりはない。 なら戦ってやるだけだ。真っ向から自分の守りたいものを他人の望みより優先させるために。 ひどく自分勝手なエゴに塗れた考えだが仕方ない。 レイの言葉を聞くまでの間、そのぐらい単純な方針でないと迷いは生じてしまう。 所詮は斃すべき敵でしかないドモンとジャミルの言葉に心を動かされてしまったのがいい例だ。 だから――レイと出会うまで精いっぱいこの状況を足掻く。それだけだ。 スレードゲルミルの両眼が一際鋭い輝きを放つ。 (やってやる……やってやるさ。目についたヤツ全員からレイの情報を聞き出す。口を割らないヤツは……後悔させるまでだ……!) 咆哮を上げながらスレードゲルミルは真っすぐ海上を目指す。 依然として己の道を彷徨う怒れる瞳が、剣鬼を再び戦場へ飛びこませる。 ◇ ◇ ◇
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517 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:32:29 ID:0fgLlHko -
「レイ・ザ・バレルですって……!」 「知っているのか、アンタ!?」 思わずシンの声が張り上げられる。 ヴィレッタを助けることになったのは偶然でしかない。 その偶然にも助けたヴィレッタがレイの言葉に反応を示した。 直ぐにでもレイの情報が入るかもしれない。 何よりもレイとの合流を目指すシンにとって紛れもなく幸運なことだった。 「いや、私は……」 「はぁ? 何を歯切れの悪いコトを言って……知っているのか知らないのかどっちなんだ!」 しかし、ヴィレッタの返答はなんとも不明瞭なものだ。 レイ・ザ・バレルのことは当然知っている。 何処に居るかはわからないが彼もまたジョーカーの一人だ。 レイについて話すということは当然ジョーカーの存在が露呈されることだ。 同時に自分もジョーカーであることも知られてしまう。 けれどもヴィレッタは未だ自分の身の振り方を決めてはいない。 この状況でジョーカーの存在を口に出してもいいものか。 一瞬の沈黙。ヴィレッタにとってはあくまでも一瞬でしかなかった時間。 だが、シンにとってその時間は長く感じられ、ヴィレッタへの疑惑を膨らませることになる。 「そういうことかよ……! 助けてやったのに、俺なんかに話すつもりなんかないってことかよ!」 「違う! ただ――」 「うるさい! 違うもんか! 信じられるものか!!」 表面上はあくまでも冷静を貫くヴィレッタの態度がシンの激情をますます駆りたてる。 シンは只でさえ頭に血が昇りやすく、そこにレイの情報も加わっている。 碌に喋ろうとしないヴィレッタにシンは敵意を露わにする。 最早取りつくしまもなく、シンはただその暴力に身を任す。 既に戻ってきていたドリルブーストナックルを腕に、それも今度は両腕に装填。 両腕を同時に振りかぶり、ガルムレイド・ブレイズだけを真っすぐと狙う。 「言っただろ、拒否は許さないって!」
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- 第三次スパロボキャラバトルロワイアル3
520 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:33:51 ID:0fgLlHko - 一本でさえ強力なドリルブーストナックルが二本同時に発射。
凄まじい回転の果てに生まれる赤い火花が空に軌跡を残す。 反射的にヴィレッタはTEスフィアによる防御を選択。 TEスフィアの出力が間に合ったせいか、寸前のところで侵攻を喰いとめる。 流石はゼンガー・ゾンボルトとのダイゼンガーと互角に張り合った機体だけのことはある。 しかし、そこに更なる追撃が爆風をもって襲い来る。 「どけ! そいつは俺の得物だ! 女はこのレーベン・ゲネラールが殺してやる!!」 「くっ! 邪魔するなよアンタ!!」 声高らげに叫ぶはゴライオンを操縦するレーベン。 抜け目なくゴライオンのフットミサイルをガルムレイド・ブレイズに撃ちこんでいる。 またそれはガルムレイド・ブレイズだけでなくスレードゲルミルの方へにもだ。 レーベンにとってシンは女の殺害を邪魔立てしただけで殺す理由には充分すぎる。 シンに臆する理由もない。直ぐにレーベンに反撃を行おうと考える。 先ずはこれが終わってから――やはり信用に値しなかったヴィレッタに後悔の念を植え付けるために。 遂にはフットミサイルの威力も相まってTEスフィアが破られる。 両のドリルブーストナックルに喰いこまれたガルムレイド・ブレイズへスレードゲルミルが猛追をかけた。 胸部を抉るとらんとばかりに暴れ狂うドリルブーストナックルが耳障りな音をあげる。 「女アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」 「アンタのせいだ……アンタがレイについて話せば、こんなことにはあああああああああッ!!」 ガルムレイド・ブレイズは漸くドリルブーストナックルを振り払うがそこには悪夢のような光景があった。 スレードゲルミルだけでなく、ゴライオンまでもこちらへ向かっている。 奇しくも先ずはガルムレイド・ブレイズから始末しようと考えたのだろう。 ヴィレッタの頬を思わず冷や汗がつたう。これを危機と言わずになんと言えばいいか。 頭部の赤熱線・ブラッディレイやビームキャノン、ビームガトリングで応戦するが止められない。 依然として迫る危機の中、ヴィレッタは一つの案を捻り出す。 (こうなったらレイ・ザ・バレルのことをあのシン・アスカに……!) 幸い此処にはタスクは居ない。 自分がジョーカーであると露呈してもここで仕留めれば問題はないだろう。 そうすればノルマも達成出来、考えるための時間が延びる。 悪くはない考えだ。少なくとも仲間への裏切りよりか心が痛むことはない。 ジョーカーであることについての告白をシンは今更信じようとはしないかもしれない。 しかし、このままではいずれ撃破まではいかずとも今後の行動にも支障が出る。 とにかくこの状況を打破しなければ何も始まらない。 スレードゲルミルとゴライオンへの反撃を練りながら、ヴィレッタはガルムレイド・ブレイズの操縦桿を握った――。 「――知ってるか? 真打ちは遅れてやってくるのがお約束だってことをなぁ!!」
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522 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:34:33 ID:0fgLlHko - 陽気な声が周囲一体に響く。
やがてやってきたものは衝撃ではなく轟音の群れだ。 それはヴィレッタの前方からではなく後方からやってきた。 言いようのない数のミサイルの大群にスレードゲルミルとゴライオンは停止を余儀なくさせる。 巨大なプロペラ・ユニットによる飛行でやってくるは赤い巨人。 最強と呼ばれしメカデウス、THE BIGの内一機、ビッグデュオ。 そしてそのパイロットはギャンブル好きな、陽気でどこか憎めない男。 「てめぇら! よってたかって姐さん苛めるとは……いい度胸してるぜ!!」 「タスク!?」 「アイサー! 遅れてすんません、姐さん」 タスクがビックデュオを強引にガルムレイド・ブレイズの前へ押し出す。 胸部からのガトリングミサイルの掃射は依然として続いている。 絶好の機会を失ったスレードゲルミルとゴライオンはミサイルをやり過ごすしかない。 スレードゲルミルは即座に斬艦刀を形成し、ゴライオンは円形のシールドを翳す。 しかしそれでもビックデュオのガトリングミサイルの威力は無視出来るものではなく、二機は除々に後退を余儀なくされる。 「助かったわ、タスク……それで、さっきの二機は?」 「たたき落としてやったっス! こうガツーンと一発って感じで。まあもう一方は見失っちまいましたけども……」 「そう、それは頼もしいことね」 確かに後方を確認しても機影は見当たらない。 ビックデュオの各部にはビーム痕を始め様々な損傷が見られるが、タスクの言うとおり無事切り抜けられたのだろう。 ヴィレッタは安堵するがそれはタスクの救援が間に合った事だけではない。 ジョーカーについての告白。それを行う必要がなくなった意味合いも含んでいた。 だが、このままで良いというわけでもない。 いつかは決めなければ、タスクとの間にもなんらかのトラブルが起こる可能性もある。 後回しにするのも今回で終わらせるべきだ。 「ちっ! さっきのヤツか! だが、このレーベン・ゲネラールの邪魔立てするヤツは容赦せん! 俺のエーデル准将への想いはこんなものではない!!」 そんな時、ゴライオンが更に上昇しビックデュオへ突撃する。 スレードゲルミルは何故か止まったままだがタスクの注意はゴライオンの方だけだ。 タスクと同じくヴィレッタも狙いをゴライオンに絞る。 今までは数の違いやレーベンの気迫に押されていたがやられるだけではない。 エアロゲイターの切り札ともいうべきSRXチームの隊長を、伊達や酔狂で務めているわけではない。 己の創造主、もう一人の自分というべき存在から預かった契約は、未だ終えていないのだから――。 既に目を通しておいたマニュアルに記載された一文が鮮明に蘇る。 そのコードは――イグニッション、点火を指し示すワード。
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523 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:35:31 ID:0fgLlHko -
「リミッター解除――イグニッション! ヒオウ! ロウガ!」 緑色のカメラアイが発光した後、ガルムレイド・ブレイズが吹き荒れる灼熱を身にまとう。 自然界四つの力に次ぐエネルギーであるターミナス・エナジーはどこにも存在する。 故にそのターミナス・エナジーを動力とするターミナス・エンジンは言うなれば永久機関。 限界のない力が内部でまるで炎のように燃え盛る――灼熱の正体はそれだ。 そして胸部に存在する緑の丸状の部位の輝きはいっそう強くなった。 続けてガルムレイド・ブレイズの各部装甲が外れ、二機の小型機となる。 鳥類を模した方がヒオウ、残りの狼を模したものがロウガだ。 「ターゲットインサイト……! さぁ、いけ!」 一瞬の内にヴィレッタは演算計算を終え、ヒオウとロウガに指示を与える。 二機ともガルムレイド・ブレイズと同じく炎に包まれている。 彼らにもターミナス・エンジンの血は通っているのだから。 ヴィレッタの意思を受け、目前のゴライオンへ強襲。 ヒオウは後ろから周り、ロウガは愚直な程に正面からゴライオンへ駆けていく。 ヒオウは装備されたビームマシンガンを乱射し、レーベンの注意を引いている。 その隙を狙ってロウガが喰らいつき、振り払おうとしたゴライオンの左腕へ逆に噛みつく。 小型機といえどもその威力は侮れるものではなく、連続して鈍い音が響く。 「こ、こいつら! こしゃくな真似を!」 無事な方の腕でゴライオンはロウガを殴りつける。 堪らずロウガは吹き飛ばされ、ヒオウが両脚で受け止める。 ヒオウとロウガの二機ではゴライオンを喰いとめることは出来なかった。 しかし、時間は充分に稼げた。レーベンの新たな隙を誘うぐらいの時間は。 「しつこいヤツは嫌われる……ってね。いい大人のくせにさっきから見苦しいぜオッサン!!」 ヒオウ、ロウガと入れ違いの形でタスクの駆るビッグデュオがゴライオンへ向かう。 プロペラ・ユニットを前へ向け、ロケットエンジンによる噴射が更なる加速をもたらす。 そして両のプロペラ・ユニットからアームが顔を出し、その指が力強く掴む。 掴んだものはゴライオンの両肩だ。 急な接近に対応が遅れたゴライオンの両肩がギシギシと軋む そのパワーは強大。最強のメガデウス、THE BIGの名は伊達ではない。
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525 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:36:24 ID:0fgLlHko - 「くっ、放せ! このクズが!!」
「聞こえねぇなぁ! それより気にならねぇか……俺とアンタの運、どっちが強いかをッ!!」 ゴライオンも右腕をビッグデュオの胸部に撃ちつけ、ファイヤートルネードを噴射させるがビッグデュオは離れない。 元々赤い躯体が更に赤みを帯びてもタスクは動じない。 これぐらいで臆するようであればとっくにヒリュウ改から降りている。 それにジガンスクードのような大型機に乗ってきたタスクにはお得意の戦法だ。 だが、ファイヤートルネードは確実にビッグデュオの装甲を、胸部を溶かしている。 コクピットが胸部に存在するビックデュオには決して楽観できない状況。 それでもタスクはゴライオンを掴むのをやめはしない。 幾ら攻撃を貰おうとも決定打をこちらが打てればいい。 我慢の果てに勝利の一瞬を掠め取っていく。 タスクはパイロットである以前に勝負師だ。 一か八かの状況。そこで勝利をもぎ取ってこそ勝負師たるもの。 たとえ分が悪かろうと勝負と名のつくものに負けるつもりはない。 離脱するどころか両目のアークラインを発射し、駄目押しの一撃を見舞う。 ゴライオンの顔半分が熱戦で焼かれ、思わず反り返った。 そして爆発が起きる。 「運だめしさせてもらったぜ、レーベン・ゲネラール! そんでもって結果はもちろん、タスク様の勝ちだぁッ!!」 遂にはビッグデュオがゴライオンの両方を握り潰すまでに至った。 爆発により、ゴライオンの躯体がビッグデュオから離れる。 辛うじて腕は繋がっているものの両肩からは黒煙が出ている。 決めるのであればここだ。タスクはトドメの一撃を見舞おうと再度ビックデュオの拳を振るう。 右腕をゴライオンに胸部へ、その圧倒的な力を持って動力系を潰す。 海上へ落ちゆくゴライオンにビッグデュオの腕が今まさに届こうとする。
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527 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:38:28 ID:0fgLlHko - 「――フットミサイル!」
「なに!?」 そんな時、ゴライオンが両足のフットミサイルを発射する。 一発目の爆発によりビックデュオのアームユニットが焦げつき、 やや遅れ二発目が胸部にて炸裂し、爆炎が生まれる。 黒々とした煙を突き破り、ビッグデュオがその巨体を再び大空に晒す。 減速はしたものの、完全にビッグデュオの勢いを止めるには至っていない。 だが、レーベンの狙いはビッグデュオの撃破ではない。 至近距離での炸裂による爆風は当然ゴライオンの方にも及んだ。 吹き荒れた爆風をその身に受け、ゴライオンが加速。 その躯体は何処までも広がっていそうな、青い海を目指していた。 「タスク・シングウジ、そしてヴィレッタ……覚えておくがいい! キサマらは必ず俺が殺してやる!!」 ゴライオンは勢いを緩めることなく海中へ飛びこんだ。 さすがのレーベンも状況が不利だと悟ったのだろう。 ビッグデュオから貰った痛手の他に今までの損傷もある。 実に画に描いたような捨て台詞を残し、ゴライオンは離脱していく。 (そうだ……あのイスペイルという男も絶対に許さん! だが、ヤツは一体どうなって……) 殺すべき人間は未だ多い。 獅子の怒りは未だ収まりそうにはなかった。 【1日目 10:30】 【レーベン・ゲネラール 搭乗機体:ゴライオン(百獣王ゴライオン)】 パイロット状況:ブチギレ(戦化粧済み) 機体状況:頭部半壊、両肩破損、左腕にひび、右足一部破損、動力低下、十王剣(全体に傷あり) 現在位置:C-4 第一行動方針:ヴァン、タスク、ヴィレッタ、イスペイルは次こそ必ず殺す 第二行動方針:女、女、女、死ねええええええ! 第三行動方針:ジ・エーデル・ベルナルについての情報を集める 最終行動方針:エーデル准将と亡き友シュランの為戦う 備考:第59話 『黒の世界』にてシュラン死亡、レーベン生存状況からの参戦】 ◇ ◇ ◇
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531 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:39:34 ID:0fgLlHko -
一方イスペイルはというと―― 「ひ、酷い目にあった……」 波に流され、ようやく海の上まで上がってきていた。 ビッグデュオに叩き落とされた時に気絶していたため、自分がまたしてもループにより移動した事にも気づいていなかった。 【1日目 10:30】 【イスペイル 搭乗機体:ヴァルシオーネR(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)】 パイロット状況:疲労 機体状況:両腕に損傷 EN80% 現在位置:C-7 南端 第一行動方針:まずは生存する為にノルマ(ノーマル、アナザー、どちらでも可)を果たす 第二行動方針:出来れば乗り換える機体が欲しい 最終行動目標:自身の生還 備考:首輪の爆破解除条件(アナザー)に気付きました ◇ ◇ ◇
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534 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:40:49 ID:0fgLlHko -
「へっ、おとといきやがれってんだ! さぁ〜て残りは……」 ビッグデュオの中でガッツポーズを取りながらタスクが周囲に目を回す。 ゴライオンを撃退したもののまだ全ては終わってはいない。 ウォーダン・ユミルの機体、スレードゲルミルという強敵が未だ残っているのだから。 だが、こちらには頼りになるヴィレッタも居る。 二人掛かりでいけばそれなりにやれることだろう。 だから今の戦闘で受けた損傷はそこまで気にしなくともいい――。 そう確信していた。 「貰ったぞ!」 「くっ、おまえは……!」 「姐さん!」 突如として海中から躍り出る機影が一つ。 ヤドカリのような形をしたそれにタスクは見覚えがあった。 ガンダムアシュタロンHC、MA形態がガルムレイド・ブレイズの真後ろを取った。 先程戦闘途中で補足出来なくなったがまさか追ってきていたとは。 戦闘不能に出来なかった自分を悔やみながらタスクは直ぐにビッグデュオを動かそうとする。 しかし、機敏な動きを得意としないビックデュオではどうしようもないタイムラグが発生する。 アシュタロンHCは、アナベル・ガトーにとってその時間は充分すぎた。 歴戦のパイロットであるヴィレッタの反応よりも早く、ガトーはアシュタロンHCを動かす。 ギカンティックシザースを開き、ガルムレイド・ブレイズの両腕を強烈な力で挟み、再び海中へ飛びこむ。 未だヒオウとロウガとの合体を終えていないガルムレイド・ブレイズは満足な状態ではない。 なすがままに海中に引き込まれ、あっという間にタスクの視界から消えてしまう。 「ちっ! なんてこった……今すぐいくぜ、姐さ――ぐ、ぐわぁ!!」 救援に行こうとするビッグデュオに衝撃が走る。 それがやってきた方角からして原因は一つしかない。 再び反転させた視界の先には、丁度今しがた撃ち放ったドリルを手に戻した機体の姿がある。 そいつが何者であるか今更確認するまでもない。
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536 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:41:39 ID:0fgLlHko -
「どけよ! 俺はあの女に用があるんだ……!」 「悪りぃけど絶対にノゥだ。というかドリルブーストナックルなんて軽々しく撃つんじゃねぇ! ちょいと寿命が縮んだじゃねぇか!!」 「知るかよそんなこと! 戦ってるんだ……相手のことまでなんて……!」 どこかふざけたような調子で抗議するタスクにシンは僅かながら動揺するが退くわけにはいかない。 たった今海へ消えていったヴィレッタという女は確かにレイを知っていた。 レイとの合流へ近づくにはあの女の情報を手に入れないわけにはいかないためだ。 やがて少なからず感じた戸惑いをシンは言葉にする。 「だいたいなんでお前はそこまで……もうその機体だってボロボロじゃないかよ! 邪魔しなればお前に用はないんだ。だからそこをどけぇ! そうじゃないと俺は……俺はこの斬艦刀でお前を……!」 迷いが自身の負けに繋がることは重々承知だ。 それでも迷ってしまう自分をシンは確かに認識する。 ドモンやジャミルとの出会いが関係しているのかもしれない。 しかし、あまり時間を喰っていてはヴィレッタを見逃してしまう。 レイの情報を優先するのであれば全力でタスクを斃せばいいだけだ。 そう、先程の戦闘によりビッグデュオの損傷は決して軽くはなく、特に胸部のそれは重いものに見える。 斃そうと思えば簡単に斃せるはずだ。ドリルを背部へ戻し、シンはスレードゲルミルを構えさせる。 両腕に握られた一本の太刀、斬戦刀を上段の構えでビッグデュオへ翳す。 なんとしてでもここは突破する。 ただそれだけを考え、シンはビックデュオを睨む。 「はっ! このタスク様も舐められたもんだ……あいにくだが斬艦刀には慣れてんだ! それもお前よりもっとおっかねぇ人達の斬艦刀だ! 伊達に盾の役目をしてるわけじゃねんだッ!!」 だが、タスクは動じない。 勝負師故の負けず嫌いという理由もある。 斬戦刀といえど振るう人物がゼンガーのような男でなければそこまで怖くはないのも理由の一つだ。 それに何よりもシンと同じくタスクにも退けない理由があるのだから。 「ヴィレッタ姐さんはやらせねぇ……! 姐さんを追うなら俺が相手になってやらぁ!」 仲間の一人も守れないようじゃ……惚れた女なんか守れやしねぇぜッ!!
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538 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:42:27 ID:0fgLlHko - 浮かんだ顔は金髪のどこか意地っ張りな女。
自分が惚れた女の顔を一度も忘れたことはなかった。 今は傍に居ない彼女だが放すつもりは毛頭ない。 だからこそタスクはシンを此処で喰いとめようと考えている。 斬戦刀の刀身がたとえどれほど大きく見えようとも、タスクはビッグデュオを退かせるつもりはない。 そんなタスクの様子をシンは心底憎らしく感じている。 抵抗しなければやられないのに――だが、やらなければならない。 自分は何としてでもレイと合流しなければならないのだから。 「くそ、くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」 シンが発した叫びはどこか悲しげなものだ。 結局は変わらない。フリーダムを斃した後も変わらない。 戦うだけしか出来ない自分への悔やみなのだろうかはわからない。 ただシンは全てを振り払うかのようにスレードゲルミルに怒りを込める。 翳していた斬艦刀の刀身を横に向け、スレードゲルミルが一迅の風となってビッグデュオへ向かう。 それは風と呼ぶにはあまりに圧倒的な暴力の塊でしかない。 ガトリングミサイルの発射口を開き、応戦するビッグデュオ。 「勝つか負けるか二つに一つ! タスク・シングウジ、この勝負勝たせてもらうぜッ!!」 ガトリングミサイルの渦をスレードゲルミルが突撃。 機体の各部でミサイルが爆ぜ、衝撃が襲うがスレードゲルミルは止まらない。 やがて斬戦刀を振り切り、ビックデュオの横を追いぬいていく。 轟音が響くと同時にシンは確かに己が振るった斬戦刀に手ごたえを感じた。 断ち切ったものはビックデュオの右腕。 もはや巨大な鉄の塊でしなくなった右腕が海中へ落ちる。 それは右腕を失い、不安定ながらもなんとか飛行し続けるビッグデュオがスレードゲルミルへ向き直った時と同じ。 ガトリングミサイルによる損傷が至る所に見られるスレードゲルミルを無傷とは言い難く、痛み分けといったところだ。 しかし、結果的にスレードゲルミルはビッグデュオを突破することになった。 スレードゲルミルに、シンにヴィレッタを追わせるわけにはいかない。 右腕がなくともまだ左腕がある。 そのあまりの威力故に使用していないメガトンミサイルだって健在だ。 だからまだ――戦える。タスクはビッグデュオの腕を突き出し、スレードゲルミルを捉えようとする。 「ちっ! ドジった! だが、まだまだこれからってコト見せてやらああああああああ――」 だが、その腕が掴んだものはあまりにも心許ない空虚のみだった。
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541 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:43:23 ID:0fgLlHko - 「なっ……!?」
呆然とするはようやくタスクを抜けられたシンだ。 目の前で起きた爆発にシンは驚きを隠せない。 先程スレードゲルミルを包んだものとはまた違う。 遥か前方、ビッグデュオの後方から紫のビームのようなものが伸びていた。 紛れもなく長距離からの狙撃だ。ビッグデュオは一瞬よろけあっけなく海へ落ちていく。 そして更に何らかの兵器を撃ちながら此方へ向かってくる機影が一つ。 ブースターから噴き出す火の色は青く、その軌道がはっきりと判別出来た。 ガンダムとは違う、蒼の機体が目に見張る機動性をもってして向かってくる。 それはかつて仲間達と共に築いた栄光の日々を取り戻さんと願われた機体。 スフィア――ただ奪われるしか出来なかった乙女の悲しみに触れ、その動力は更なる進化を遂げている。 グローリースター、“栄光の星”の名を負わされた機体の名はバルゴラ。 バルゴラ・グローリーが今しがた狙撃したビッグデュオへ肉迫する。 「護るんだ……俺は、護るんだ……!」 蒼穹から零れ落ちたような青に彩られたバルゴラ・グローリーに乗る操縦者の名は春日井甲洋。 その悲しみの深さ故にバルゴラ・グローリーに見こまれた女は段々と失った。 彼もまたその女と同じく失った。ただしバルゴラ・グローリーに乗る前に既に。 悲しみの末に大事な存在の思い出を失くした男。 専用兵装、ガナリー・カーパーから伸びたビーム刃がビッグデュオへ振りかぶられる。 ◇ ◇ ◇
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544 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:44:03 ID:0fgLlHko -
気がつけば地球に居た。 エリアa-1で奇妙な装置を調べようとした直後の事だった。 面食らった。どういう原理なのかと考えるよりも先ず困惑が先だった。 別に宇宙にこだわりがあったわけじゃない。 寧ろ馴染みのない宇宙はどこか居心地が悪く、地球の方が馴染み深い。 ただどこまでも広がっていそうな、青とも黒とも取れる宇宙空間はアレを連想させた。 遠見と溝口さんを助けるために、フェストゥムと共に沈んだあの光景を――。 (そうだ。俺はあの時に……) やっぱりだ。 記憶は戻っている。 あの日のことだけじゃない。 フェストゥムが侵攻した直後の事も、その前のことも大抵のことは思い出せる。 一騎と総士が許せなくてファフナーで戦うことを決めた。 護りたかった。あいつらがあっさりと見放したものを護りたかったから。 だけどそれが、それだけが思い出せない。 大事なものだった筈なのに、大事なものであった事は痛いほど覚えているのに。 だけど――どうしようもなく思い出せない。何故だかそれが悲しかった。 それだけを考え出鱈目に飛行を続けた途中、一つの戦闘を見つけたのはあくまでも偶然だった。
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547 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:45:16 ID:0fgLlHko -
(戦っている……見たこともない。ファフナーともフェストゥムとも違う……俺の知らない兵器……!) 共に大型機だ。 ファフナーやフェストゥムよりも大きい。 それは自身に支給された機体と較べても言えた。 しかし、甲洋に迷いはない。 やれるかやれないかの問題じゃない。 やる。ただそれだけだ。自分は一騎や総士とは違うのだから。 見捨てやしない。何かを、大事な何かを護り通すために戦う。 鉄のように固く、そして閉ざされた意志の元にガナリー・カーパーを構えさせた。 見る見るうちに銃身が展開していくガナリー・カーパーに奇妙な満足を得る。 まるで自分のペットが上手く自分の言う事を聞いてくれた時のような感覚。 家の裏で飼っていたショコラが自分の言う事を――そういえばなんでショコラって名前をつけたのだろうか。 何かの名前を少し変えて筈だろうけども、思い出せない。 また一つわからないことが思い出せないことが増えてしまった。 同時に悲しくなってくる。いつから自分はこんなに涙もろくなったのだろう――やはりわからない。 だけど、今はそんなことを考えている時じゃない。 虚ろ気であった甲洋の顔が再び戦士のそれに戻り、ガナリー・カーパーが緑色の輝きに包まれる。 (捉えた。そこだ、いけ……!) そして甲洋は引き金を引いた。 あっさりと、まるで自分の指を動かすように。 今しがたハイ・ストレイターレットによる撃ち放った光が眩い。 紫の極光を見つめ感傷に浸る暇はない。直ぐにバルゴラ・グローリーを指示を与える。 狙撃のために減速させていた速度をフルスロットルに。 容赦なく襲うGなど気にせずに、バルゴラ・グローリーをただ全力で飛ばす。 更にガナリー・カーパーをブイ・ストレイターレットに変形させ、落ちてゆく敵機へ銃弾を撃っていく。 標的がでかい分、面白いように弾丸は当たってくれる。 もう一方の機体は驚いているせいか特に動きを見せない。好都合だった。 ようやく此方を振りむいた赤い巨人と更に接近。 胸部の損傷が酷い。そう思った瞬間には既に狙いをそこに絞っていた。 どんなに頑丈な装甲だろうとも集中的に狙ってやればそうもいかない。 冷酷な判断。しかし、甲洋は自身の行為に特に感想も覚えずバルゴラ・グローリーを肉迫させる。
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551 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:46:24 ID:0fgLlHko -
「護るんだ……俺は、護るんだ……!」 甲洋は初めて声を発した。 意志とは裏腹にそれは絞り出したような苦しげな声だった。 ファフナーに乗っている時は何もか違う。 もう一つの自己として受け入れ、自分の手足として扱うファフナーとはあまりに違う。 だが、やることは何一つとして変わっていない。 上手くやらなければらない。そうしなければ自分も一騎と総士と同じになってしまう。 もう失いたくない。大切なものは失いたくはないのだから。 ガナリー・カーパーの生物の眼球を模したような緑色の球体、スフィアが鈍く光りその姿を変えていく。 桃色の光の奔流が菱形状の刀身を形成する。 その刀身はあまりにも大きく、出力の高さを否応でも匂わせる。 「ちっ! また乱入者かよ!!」 しかし、ビッグデュオの反撃が叩きこまれる。 ガトリングミサイルでは間に合わないと判断したのだろう。 両目から撃たれたアークラインの光がバルゴラ・グローリーへ向かう。 ビックデュオへ斬りつけようとしていたバルゴラ・グローリーに避ける手だてはない。 そう、あくまでも“避ける”手段はない。 振りかぶらせていたガナリー・カーパーの刃の光が更に輝く。 「――俺はああああああああああああああああッ!!」 そして振るった。 力強く、何もかも薙ぎ払うように。 暴れ狂う光の粒子がアークラインの光を跳ね飛ばし、返す刃で再びビッグデュオへ斬りかかる。 甲洋がこれを狙ったのかは定かではない。 恐らく自分でもわかっていないのだろう。 そもそも甲洋はそんなことまで考えていない。 損傷が特に酷い胸部を斬り裂けば機能停止、コクピットがあればパイロットは即死だろう。 もう直ぐ自分が人を殺すかもしれない。 こんな状況でありながら甲洋はただそれだけを考えていた。 だが刃は止まらない、止まる筈がない――。
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553 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:47:10 ID:0fgLlHko -
「護るんだあああああああああああああああああああああああああああああッ!!」 強烈な一閃がビッグデュオの胸部に走る。 生憎それは鮮やかな太刀筋とはいえなかった。 しかし、確かな力強さがあった。 たとえただがむしゃらに、酷くみっともない様子であっても甲洋の悲痛な叫びに呼応するかのように。 その侵攻がビッグデュオの堅牢な装甲に阻まれようともそれは押し進まれた。 ぶるぶると揺れるガナリー・カーパーをまるでへし折ってしまうかのような強引さで――断った。 損傷が酷かった部分を、攻撃を集中させていた部分を、そして必死に斬りつけていた部分を、両断した。 それはビッグデュオの胸部に存在していた部位。先程まで生体反応があった球状の部位だ。 爆発。やがてグラっと揺れたかと思うと、ビッグデュオは力なく海中へ落ちていく。 胸部から舞いあがった黒い煙はきなくさい臭いを帯びている。 バルゴラ・グローリーはただそれを黙って見下ろしていた。 ◇ ◇ ◇
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556 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:48:09 ID:0fgLlHko -
『護るんだあああああああああああああああああああああああああああああッ!!』 アークラインが跳ね返された。 信じがたい出来事だったが現に目の前で起きた。 今からではメガトンミサイルは勿論のことガトリングミサイルでも間に合わない。 認めなくてはならない。 自分は負けた。己の勝負運が尽きたのだ。 (おしまいか……あ〜あ、俺ってかっこわりぃ……) 脱力感は否めない。 ビッグデュオはその火力と装甲からかなりの当たり機体だったに違いない。 そこで運を使い果たしてしまったのか、はたまたその運を活かしきれなかったのか。 どちらにせよ自分が駄目だったのだろう。正直悔しいが仕方ない。 どうやら神様とやらはここからの大逆転は用意してくれなかったようだ。 (すいません、ヴィレッタ姐さん……ちょいと一抜けさせてもらうっす……) ヴィレッタ隊長が気がかりだから仕方ない。 さすがの姐さんも死人を叱りつけることもないだろうから。 だが、思い残すことはある。少しじゃない。結構あるもんだ。 色々と浮かぶがやはり真っ先に浮かぶのはあいつの顔だった。 今頃何をしているだろうかとか、ちょいとは料理が上手くなっているだろうかとか些細なことだ。 とにかくあいつはこの場に居なくてよかったな。 それは確かだが、思うことはあった。 (なぁ、レオナ……いろいろあったけどさ。俺思うんだ……今更だけどさ、ホントかっこわりぃけどさ……)
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- 第三次スパロボキャラバトルロワイアル3
559 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:49:39 ID:0fgLlHko -
ガナリー・カーパーの刃の光により目の前が一気に明るくなる。 どうやら最期の瞬間すらもゆっくりさせてくれないようだ。 少し不機嫌ながら、だがそれでいて確信を持ってタスクは想いを馳せた―― (お前のキスでも貰ってたら……勝ってたと思うぜ? こいつだけじゃなくてシャドウミラーにも。 だって、勝利の女神さまのキスだ……そりゃ御利益ってモンがあるさ。 それも俺だけの……俺だけの女神さまだから……レオナっていう女神だから…………) きっとこんなことを聞いたら赤面するんだろうな。 何故だかそんなことすら思っちまう。余裕なんかないのに。 もうあの光の渦に消えていくというのに何故か。 答えは考えるまでもなかった、今更考えることがばかばかしいぐらいに。 俺は、タスク・シングウジはわかりやすい人間だから。 (好きだったぜ……レオナ、まあ、疑ったことなんかなかったけど……な…………) そこで俺の意識は消えていった。 【タスク・シングウジ:死亡確認】 ◇ ◇ ◇
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561 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:50:56 ID:0fgLlHko -
(フェストゥムじゃない、相手も人間だった……同じ人間だった……! だけど、俺は…………!) 落ちてゆくビッグデュオを見つめる。 ジョーカーとして人を殺せといわれた。 人類の敵、フェストゥムを倒せとはまた違う。 彼らフェストゥムならば一切の抵抗はない。 竜宮島を襲ったという理由もあるがやはり彼らは異質なのだから。 だから自分の力を証明するために、一騎や総士とは違うことを証明するために戦える。 だが、自分と同じように赤い血が流れている人間とは違う。 生き残るということはこの場で他者を蹴落とすことだ。 そして実際、たった今一人の人間の命を奪った。 突然動きを止めたところあれがコクピットだったのだろう。 しかし、後悔はない。 そうしなければ大事なものを護れないのだから。 だけどどうしても気分が悪かった。 「くっ……がっ、げほ…………」 急に吐き気が催してきた。 覚悟は出来た筈なのに。 護ると誓った筈なのに。 今、自分の手で人間一人を殺したと考えれば我慢出来なかった。 今更ながらに人を殺してしまった自分を自己と認めたくないと思う。 しかし、慣れなければならない。 最低でもあと一人は殺さなければならないのだから。 たとえばこのもう一機を、自分の手で。 こうしている間にも襲われる可能性だってあるのだから、ぐずぐずなんかしていられない。 頭ではわかっているのに、身体がどうにも言う事を聞いてくれなかった。
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- 第三次スパロボキャラバトルロワイアル3
564 :儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc [sage]:2010/01/25(月) 23:51:53 ID:0fgLlHko -
「お前……」 だが、シンはスレードゲルミルを動かそうとしない。 動きが止まったバルゴラ・グローリーをただじっと見据えている。 体調を抑えることに精一杯な甲洋なら簡単に殺せるだろうに。 ただ明らかに戦いなれていない様子の甲洋がどうにも気になっていた。 「……名前は?」 「……春日井、甲洋……」 何かの気まぐれか定かではないがシンが甲洋の名前を問う。 元々シンの狙いはヴィレッタが持つレイの情報だ。 襲われれば迎撃はするがそんな時間があればヴィレッタを追うのに費やしたい。 加えて憐れな姿を晒した甲洋を殺す気にはどうにもなれなかったのもある。 また、目の前であまりにもあっさりと命が奪われた事には驚いた。 だが、冷静に考えれば悩む必要はなかった。 自分もそうするつもりだったから。迷いは捨てたのだから。 ただ目の前の人間が代わりにやってくれた。 そのぐらいの印象でしかない筈だ。 だからというわけではないが今回は見逃してやる、とシンは考えていた。 それは苦行を代わりにやってくれた甲洋への僅かながらの感謝だったかもしれない。 「ッ! 皆城が言っていた……今度は見逃さない、絶対にだ……!」 そんな時、シンの表情が豹変する。 時間も惜しいため今回だけ見逃すのは変わりない。 しかし、甲洋が皆城総士の知り合いの一人だということを知った。 何を考えているかわからなかった皆城の知り合いが目の前で殺して見せた。 そこまでの状況を作り出したのは自分だがそれでも思ってしまう。 あの羽佐間翔子もそうだ。これまで出会った皆城の知り合いは人を殺している。 これは偶然なのか。わからない、わからないが警戒に越したことはない。 (残りは真壁一騎に遠見真矢……こいつらは、どうなんだ…………?) スレードゲルミルを反転させながらシンは残りの二人について疑問を抱く。 知っているのは名前だけだ。皆城との関係は一切わからない。 ただ、羽佐間翔子と春日井甲洋の件もあってあまり良い印象はない。 だが、ほんの少しの興味のようなものは確かにあるがそれも些細なことだ。 結局、自分の目的には関係がないことなのだから。
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- 第三次スパロボキャラバトルロワイアル4
2 : ◆MYm9HeJAhf19 [sage]:2010/01/25(月) 23:59:29 ID:0fgLlHko - スレ立て乙です!
では投下の続きを。
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