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276 :UnnamedPlayer[sage]:2015/11/10(火) 18:57:16.25 ID:QCLHLsBu - プロローグ
報われない人生の終わり 小鳥遊たかなし 響ひびきは、人が良い。 困っている人を見ると、助けてしまう。 そんな性格だった。 理由は簡単だ。何か見返りがあるかもしれない、そう思ったからだ。 情けは人の為ならず。 この言葉が彼の座右の銘である。 情けは仇、という考えが現代的な解釈でもあり、その側面もあるだろう。 だがその言葉を響は原義の意味で解釈していた。
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277 :UnnamedPlayer[sage]:2015/11/10(火) 18:58:22.83 ID:QCLHLsBu - 情けを掛ければ巡り巡って自分に返ってくるので誰にでも優しくせよ。
だが、それは人情で溢れる時代の事。 現代社会では、そのような人間は利用されるケースが圧倒的に多い。 また彼のように名前負けしているような容姿のまま生きてきた人間であると、 弱者として扱われるのか、利用されるケースは圧倒的に多かった。 そのように人を利用する事に抵抗を持たない人物たちから良いように利用される。 それが彼の人生だった。
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278 :UnnamedPlayer[sage]:2015/11/10(火) 18:58:48.35 ID:QCLHLsBu - 思えば酷かった。
好きな子が出来た。 気を引こうとした。友人もそれに気付いた。 献身的に尽くした所、何故か最終的に友人が持っていった。 好きな子が出来た。 彼女はそれに気付いた。献身的に尽くした所、金銭の消費だけが結果として残った。 本命と思わしき男を連れて彼の手配したチケットでデートに行った事を聞いた。 などなど。
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280 :UnnamedPlayer[sage]:2015/11/10(火) 19:00:26.46 ID:QCLHLsBu - それでも彼は他者への献身を止めなかった。
いつか来るであろうかけた情けの巡り先。 それを信じていた。 だから、 猛スピードで突っ込んできた資材運搬車の映像が視界を埋めた時ですら、 彼は何らかの幸福が訪れると信じてやまなかった。
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281 :UnnamedPlayer[sage]:2015/11/10(火) 19:01:08.75 ID:QCLHLsBu - 第一章
1話 新しい人生に憧れを 『報われない人生を終えた感想は、どうでしょうか?』 真っ白い空間で響は、走馬灯を見ていた。 見終わった後、女性の声を聞いた。 その声に反応し、知らず瞑っていた目を開いた。 響は自分の姿を確認する。 衣服は何も身にまとっていない。 裸の姿。 響は周囲を見渡した。 白い空間が広がっている。 見た事のない空間。 彼はそこで女性と相対していた。 宙に浮かぶその女性は、彫像か何かのような顔をしていた。 造形が美しいだけではない。 表情がない。 (誰なんだろうなぁ) ぼんやりと的を射ていない事を考える彼は、その彫像のような女性に言われた言葉について考え始めた。
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282 :UnnamedPlayer[sage]:2015/11/10(火) 19:02:03.70 ID:QCLHLsBu - 人生はどうだったと聞かれた。
つまりは感想を聞かれている。 多分、そういう発言を受けると言う事は人生が終わったと言う事なのだろう。 響はその事について、ショックを受けた、 訳ではなく、彼の胸には安堵があった。 報われない人生。 確かに言われてみればその通りだった。 利用される為だけに生きてきたような。 そんな人生だった。 甘い汁は誰かが得る物、 30年以上生きてきて、そんな結論に気付いていた。 誰かの為の人生を過ごすモノは、きっと幸せを得られない。 自分の為の人生を過ごすモノが、幸せを得る。 気付いていた。 見ていれば分かる。 他者へ配慮せず自分の事だけを考える者が甘い汁を得ていた。 他者を上手く利用した者が金銭・女性・名声、 それらを得ているのを知っていた。 情けは人の為ならず。 いつもそう考えて行動していた。 言葉が意味する自分への報い。 行動後に思ってしまうこの言葉は、きっと打算的な考えなんだと戒めるような考えになっていた。 だから彼は報われなかった。
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284 :UnnamedPlayer[sage]:2015/11/10(火) 19:03:22.23 ID:QCLHLsBu - 30年以上生きて彼女も居なかった。
仕事でも同期に比べて出世が遅かった。 仲の良いと思っていた友人は、果たして友人と言えたのだろうか。 体よく利用されただけじゃなかっただろうか。 そんな利用される人生を過ごす事に、疲れていた。 だから、彼はこう言った。 「巡る結果が気になったな、と」 彼は言った。 言葉の裏で、きっとこの次には何か巡ってきた筈だと。 彼は頑なだった。 そんな事は無いと思っていた。 1人くらい人の為に生きて報われても良いと思った。 彼が吐いた言葉に、彫像のような女性は沈黙した後、こう言った。 『死んでまで、そんな事を抜かすとは予想外です』 抑揚のない言葉であったが、彼の結論が推測できなかったらしい。 『普通の人間は、もう一度やり直させて欲しいと口にすると思っていました』 後悔に塗れた人間は、時間の巻き戻し、あるいは1からのやり直しを要求すると、彼女は言った。 『何人も。そんな人間を見て、望みを叶えてきました』
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285 :UnnamedPlayer[sage]:2015/11/10(火) 19:04:23.34 ID:QCLHLsBu - 抑揚のない言葉で淡々と語る女性は、何者だろうと響は思い始めた。
(神様か何かかなぁ) 状況と、彼女の言葉から響が思い返すのは書店で見た異世界転移あるいは転生の小説だった。 (いいなぁ。異世界か、異世界に行ったらああいう小説みたいにモテるかなぁ) 書店に置いてある異世界転移の小説が全ての女性にまつわる題材ではなかったが、彼が手に取り購入した小説はいずれも異世界に転移し、女性にモテモテな小説だった。 モテモテだった。 女性にモテるというのは響にとって羨望する内容だった。 縁が無かった。 女性とは事務の女性社員と喋る程度しかなかった。 風俗店に足を運べばとりあえずの欲は満たされたのかもしれない。 だが、それを響は選択肢なかった。 響は前も後ろも純潔を護ってきた。 護る意志など毛頭無かったが、お店でそれらを捨て去るのには抵抗が合った。
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286 :UnnamedPlayer[sage]:2015/11/10(火) 19:05:44.70 ID:QCLHLsBu - 恋愛の果てにそうありたいと考えていた。
恋愛に夢を見ていた。 ロマンを求めていた。 だからこそ異世界に行き、魅力的な異性を見つけ、早期段階で結ばれるような、そのような題材の小説は、純粋に憧れた。 誰かに愛される主人公が羨ましかった。 魅力的な恋人に愛され、友人仲間に愛される主人公が羨ましかった。 行なった行動の結果仲間に包まれて、苦労が報われる主人公が羨ましかった。 (羨ましいなぁ) 現代日本では彼の主義は報われなかった。 報われた結果となった事は無かった。 得た物は無かった。 読んだ小説の内容が羨ましいとは思っていた。 便利な能力を駆使し、それぞれの方法で幸せを得るという内容だ。 (報われるかなぁ) 妄想に羨望の念を込める響を、眼前の女性は黙って見ていた。
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287 :UnnamedPlayer[sage]:2015/11/10(火) 19:06:32.03 ID:QCLHLsBu - そして、こう告げた。
『望むならば異世界に転移しましょう』 響は驚いた。 そのようなご都合主義が存在して良いのかと、今までの経験から疑った。 甘い話には裏が確実にあった。 この身にそのような褒美が舞い込むのだろうかと、疑い始めた。 『異世界には、何百人も転移しています。そう疑わなくても良いかと思います』 (何百人も、ってそんな大量に? なんでだろう) 『それは、貴方には関係ありません。望みますか?』 (え、ええ。まあ。可能ならば……) 最後に見えた記憶からすると、響は死んだのだろう。 あの質量があの速度で突っ込んできたのだ。 生き残る奇跡は想像できなかった。
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289 :UnnamedPlayer[sage]:2015/11/10(火) 19:07:32.19 ID:QCLHLsBu - このまま死ぬならば、と響は思った。
そう響が考えた時、彼女は掌を彼に向けた。 『他の方は何らかの異能力を付与して、送りこんでいます。ご要望はありますか?』 (要望って言っても) 突然、異能力の要望を聞かれても、咄嗟に回答出来なかった。 頭の中で慌てて何が良いかを考える。 (な、何を思えば良いのだろう? 必要なもの? したい事?) 思い返すのは異世界物の小説。そしてその内容。 (え? え? 異世界って魔物とか居るって事でしょ? 怪我対策とか欲しいな。 いやいやしかし、水も必要だし。食料も必要だし。 魔法っていきなり言われて何をどうしろと、何かリストとかないの? え?) 考えても突然の事に思考がまとまらない。選択肢を絞れない。 『わかりました。では、お気をつけて』 考え続ける中、彼女はそう言った。響は固まった。 (え、まだ決めて)
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290 :UnnamedPlayer[sage]:2015/11/10(火) 19:08:31.82 ID:QCLHLsBu - 世界は白く輝く。
女性の姿が徐々に白色に埋め尽くされてく。 そうして響は異世界へと転移を果たした。 「あなたが、力を手にした状態でも、その考えを貫くのか楽しみにしてます」 一部完
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