- 【東方】魂魄妖夢はみょんみょん可愛い
223 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 08:08:25 ID:ppUePs0SO - みょんみょん
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224 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 14:15:12 ID:ppUePs0SO -
「足を按摩しましょうか」 「自分で揉むからいい」 「汗を拭きましょうか」 「自分でやる。手拭いをよこせ」 「ですが、それでは」 「いいから、早くよこせ!」 妖夢は何か言いたそうだったが、俺は構わずに妖夢の手から手拭いをひったくる。 妖夢は何も言わず、じっと俺を見つめる。 本当に忌々しい奴だ。 この頃俺は、極力妖夢に身体を触らせない様にしている。 そうしないと、苛々してどうにかなってしまいそうだからだ。 こいつのせいで、俺は色々と苦しい目に遭っているのに。その張本人は何とも思っていない。 それが苛立たしくてしょうがない。本当に忌々しい奴だ。 一丁あの澄ました顔をひっぱたいてやろうか。そんな事を考えていると、 「どう?仲良くやっているかしら」 幽々子がぬらりと部屋に入ってきた。 「妖夢、お使いを頼みたいんだけど」 「幽々子さま、申し訳ありませんが今は……」 「お願い。急ぎの用事なのよ」 「……かしこまりました」 部屋から出ていく妖夢を、幽々子はにこにこと見送っていたが、しばらくすると俺の方に顔を向けて、 「上手くいっていないみたいね」 とため息を吐いた。 「仲良くしなさいって言ったでしょ」 幽々子が咎める様に言う。その言葉にかちんと来た。 「どうやってあんな奴と仲良くやれってんだよ!」 「あんな奴……あんな奴ですって!?」 「そうだよ!あんな人形みたいな奴と仲良く出来るかっ!」 俺は幽々子を睨み付けた。 幽々子は首を振り、悲しそうな目で俺を見る。
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225 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 14:17:01 ID:ppUePs0SO - 幽々子はしばらく黙っていたが、やがて決心した様に口を開いた。
「妖夢は人形なんかじゃない。ちょっと特殊な体質だけど……生きている」 「貴方と同じよ……心だって……」 「素直で真面目な子よ。でも……」 「真面目だから、何でも言われた通りにやってしまうの」 「感情を表に出さないのは、剣士ならば相手に心を読まれるなと教わったから」 「辻斬りにしてもそう。あの子は、師匠に言われた事を実践しただけなの」 「あいつの師匠が……辻斬りしろ……と」 「直接そう言った訳じゃないけど……あの子はそう解釈したようね」 「しばらくは好きにやらせるつもりだった……そしたら、貴方を連れてきた」 「これは思っていたより良い方向に行きそうだと……私は貴方に感謝していたのよ」 幽々子の言っている事が分からない。妖夢がどういう奴であれ、俺を殺そうとした事実に変わりはない。 それを、幽々子に感謝されても。俺は殺されかけたというのに。 「勝手な事を!俺は妖夢に殺されかけたんだぞ!?」 「そうよ。だけど、貴方はやはり妖夢に命を救われたのよ。それを覚えておきなさい」 そう言い捨てると、幽々子は部屋を出ていった。 ・・・・・・ 足を動かす訓練とやらを始めてしばらく経ったが、俺の右足の具合は一向に良くならなかった。 日に日に痛みが増してきている。堪りかねて妖夢に按摩してもらったが、余り痛みは引かない。 「もういい。幽々子を呼んでこい」 「幽々子さまを?」 「いいから呼んでこいっ!」 妖夢は部屋を飛び出した。 しばらくすると、妖夢に急かされながら、幽々子がゆっくりと部屋に入ってきた。 「何よぅ、せっかくお昼寝していたのに」 「アンタに話がある」 「あら、丁度良かった。私も貴方に話があったの」
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226 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 14:18:49 ID:ppUePs0SO - 「妖夢、少し席を外して頂戴」
妖夢はぺこりと頭を下げ、おとなしく部屋から出ていった。 「さてと。まずは貴方のお話から伺いましょう」 「よくもあんな藪医者に診せたもんだな!」 「藪だなんて!あの方は名医よ」 「うるさいっ!違う医者を呼んでこい!面倒は見てくれるんだろ!?」 「分かっています。早速手配しましょう」 「ところで……貴方に聞きたい事があるんだけど」 「その足が……治らなかったらどうするつもり?」 「治らない……だと!?治してもらわないと困るんだっ!!」 「万が一。万が一の話よ。もし……最善を尽くしても治らなかったとしたら……」 「貴方は……どうするつもり?」 もしも、俺の足が治らなかったら。右足がこのままだったら。考えただけでもぞっとする。 廁に行くのも、畑を耕すのも、酒を飲みに行くのも、えらく苦労する事になる。 「そうなった時……貴方には、誰か面倒を見てくれる人はいるの?」 「いや、いない……」 「友達や、頼れる人は誰かいないの?」 「……いない」 「あら可哀想」 幽々子は面白そうに俺の顔を覗き込む。いちいち癪に障る女だ! 「だから困るんだろうがっ!足が元通りにならないと!!」 思いっきり怒鳴りつけてやったが、幽々子はにやにや笑うのみ。糠に釘といった風だ。 「話はそれで終わりか?目障りだから部屋から出ていってくれ!」 「はいはい、分かりました……と言いたい所だけど」 「ついでに……もう一つ聞いてもいいかしら?」 「まだ何かあるのか!?」 幽々子はこほん、と咳払いして、居住まいを正した。 「貴方……ここで暮らす気はない?」
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227 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 14:20:57 ID:ppUePs0SO - 幽々子の顔からは笑みが消えている。冗談で言っているのではないらしい。
「ここで、って……この屋敷でか!?」 「そう、この白玉楼で。どうかしら?」 「前にも言っただろ。俺には俺の生活があるんだよ」 「どんな生活?」 「そりゃあ……悪くない生活だよ。独り身だから気楽だし」 「気楽?怪我をしても誰にも頼れない、心配してくれる人もいないのに?」 「……」 「寂しいとは……誰かと一緒に居たいとは思った事はないの?」 「……」 「どうせなら皆で楽しく暮らしましょうよ。これも何かの縁だと思って」 「貴方がここで暮らすなら、働かなくてもいい。面倒は私たちが見ましょう」 「望むなら、もっと広い部屋を。味わった事もない様な美味を。美酒を」 「どうかしら?悪い話じゃないと思うわよ」 ここに来る前の生活は、たしかに質素だった。身の回りのものも粗末なものばかり。 家族もいない侘び住まい。いい暮らしぶりとは、お世辞にも言えない。 それでもだ。 詫びのつもりの申し出かも知れないが、俺を養ってやろうと言う、幽々子の態度が気に入らない。 いくら見事な屋敷でも、見事な庭があろうとも、楽な暮らしが出来たとしても。 「俺は、こんな幽霊屋敷で暮らす気はない」 「残念だわ」 幽々子は悲しげに目を伏せた。 「それでは、足が治ったら。時々ここに遊びに来てもらえないかしら?」 「ここに来て何をしろと?俺は芸なんか出来ないぞ」 「あの子と……妖夢と会ってあげてほしいの」 「それも嫌だ。俺はあいつが嫌いだ。大体……」 そこまで言った時だった。 幽々子と目が合った。幽々子の目はぞっとするほど冷たい。まるで死人の様な目だ。
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228 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 14:23:40 ID:ppUePs0SO - 「そう言えば、アンタはやけに妖夢にこだわるな」
咄嗟に話を変えた。何故か分からないが、このままだと命を吸い取られる。そんな気がしたのだ。 「そりゃそうよ。妖夢は私の娘の様なものだから」 幽々子の異様な雰囲気が和らいだ。 「だから、私はあの子の為なら……」 「俺と会うのが、あいつの為になるのか?」 幽々子は答えない。辺りの空気が重苦しくなる。 「そんなに妖夢の事が嫌い?どうしても許せない?」 「あの子が貴方に……許してもらおうと、あれ程尽くしているのに?」 「あいつは……あいつは、アンタに言われてやってるだけじゃ……」 「私は助け船を出しただけよ。あの子が……悩んでいたから」 「どうか……あの子の事を誤解しないであげて」 幽々子が俺の言葉を待つ様にこちらを見つめている。 「足が治ったら……まぁ、そうだな。時々会ってやるぐらいなら」 「本当に?」 「会うぐらいなら、な」 これは嘘だ。足さえ治れば、こんな所とはこれきりにしたい。それが本音だ。 「本当に……会ってくれるの?」 「会うだけでいいならな!」 これも嘘だ。妖夢とも、幽々子とも、これきりにしたい。 しかし。正直に本音を言って幽々子を刺激しない方がいい。 妖夢絡みになると、幽々子には妙な凄みがある。下手に触らない方がいい。 幽々子はこちらの真意を測る様に俺の顔を見つめていたが、やがて 「そう、良かった。妖夢もきっと喜ぶでしょう」 「それでは明日にでも医者を呼びましょう」 と、にっこり笑った。 ・・・・・・ 次の日。 俺の部屋に医者がやって来た。 あの医者が。大勢の助手を連れて。
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229 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 16:39:27 ID:ppUePs0SO -
「何でこの藪医者がっ!」 「だって、幻想郷一の医者と言えばこの方しかいないもの」 医者の脇で幽々子がにやにや笑う。 暴れようとする俺を、医者の助手たちが押さえ付ける。 「何をするつもりだ!!」 「触診よ」 感情のこもってない声で医者が答えたかと思うと、俺の右足を無遠慮に触りだした。 「痛い!」 「じっとしてなさい」 しばらく触っていたかと思うと、医者は幽々子と話し始めた。 「結構ひどいわね」 「仕方ないのよ」 「気は進まないけど」 「でも、やってくれるんでしょう?」 「一体何の話なんだ!?」 医者も幽々子も何も言わない。 助手が俺の口を抉じ開け、妙な液体を無理矢理飲ませる。 「な、何を飲ませた?」 「麻酔薬よ。これから手術するから」 医者は平然と答える。 「手術だと!?幽々子、これは一体どういう事に……」 幽々子はにやにや笑うのみ。 次第に俺の意識はぼんやりしてきた。 ・・・・・・ 「この酒……大分水で薄めてるな」 「いい酒が飲みたきゃ払うモン払って下せぇよ」 酒屋の親父がぶっきらぼうに答える。 「もう少し待てよ。暮れまでにはツケも払えるさ」 「それじゃあ困るんですがね」
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230 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 16:41:09 ID:ppUePs0SO - 「ところで……最近あの男を見ないな」
「あの男……?」 「ほら、まずそうに酒を飲む。牛蒡みたいな野郎だよ」 「ああ、茂作ですか。あいつなら死にましたよ」 「あの牛蒡がか?気の毒に。病か?」 「食われたらしいですよ。妖怪に」 「妖怪に……」 「儂らがガキの頃にゃよくある話でしたよ」 「今でも時々あるんですよ。山で仕事してたり、夜道を歩いていると」 「そりゃまあ無惨な有様だったとか……腕しか残ってなかったそうで」 「……嫌な話だな」 「妖怪にも妖怪の都合があったんでしょうが」 「あんな痩せたのを食うぐらい……飢えてたんですかねぇ」 妖怪がいるのは知っている。それらしい奴を見かけた事もある。 しかし、知っている人間が妖怪に食われたのはその話が初めてだった。 「まぁ、運が悪かったと思うしかねぇですな」 「儂らだって、いつそんなのに出くわすやら……」 「出くわしたら仕方ねぇ……ここは、そういうトコですからねぇ……」 仕方ねぇ……か。食われた茂作も、死ぬ間際にはそう思っていたのか。 それとも……何とかしようと藻掻いていたのか。 その時ようやく気付いた。 このやり取りの後。あれから俺は酒屋に行っていない。 行けなかった。行こうと思った、あの満月の晩に俺は…… 目が覚めた。ここはどこだ? この天井は。あの部屋だ。白玉楼だ。枕元には、幽々子と妖夢が正座している。 「良かった。気がついたのね」 幽々子はにこにこと微笑みながら話し掛ける。何やら嬉しそうだ。 妖夢は顔を真っ青にして、呆然と俺を見つめている。 「貴方の足、大分悪くなってたみたい」 「だから手術して、悪い所は切ってもらいました」 「ちょっとした手違いで、左足も切っちゃったって」 「あんな藪医者とは思わなかったわ。ごめんなさいね」
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231 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 16:42:37 ID:ppUePs0SO -
布団をめくる。俺の足は太もも辺りで無くなっている。両足とも。 「責任は取ります。今後、貴方の生活の一切の面倒は私たちが……」 ・・・・・・ あれからしばらく経った。 俺は布団に仰向けに寝転がったまま、天井を見つめている。 「お食事をお持ちしました」 妖夢のか細い声が聞こえる。 そろそろと障子が開き、盆を持った妖夢がおずおずと部屋に入ってきた。 あれから。 俺はとにかく妖夢に当たり散らした。ぶつけられるのは、こいつしかいなかった。 口汚く罵った。唾を吐きかけた。思い切りぶん殴った。 何をやっても妖夢は抵抗しない。されるがままだった。 ひとしきり当たり散らすと、今度は虚しくなってきた。 こいつに当たっても、俺の足は元に戻らない。元の生活にも戻れない。 この幽霊屋敷で飼われるしかなくなった。 世話をされて生きるのみ。自由に出歩く事も出来ない。 そう考えると……飯を食う元気もなくなってきた。 「今日も……召し上がらないのですか」 珍しく妖夢が話し掛けてきた。俺は返事をしない。返事をするのも億劫だ。 「このままでは……死んでしまいます」 俺を殺そうとした奴が、今度は俺の心配か。笑おうとしたが、笑う元気もない。 黙って天井を見つめていると、妖夢の顔が目の前に現れた。 俺の顔を心配そうに覗き込んでいる。 「卵粥です。どうか。どうか一口だけでも……」 俺の口元に、粥を掬った匙を持ってくる。俺はその匙にゆっくりと視線を移す。 口を開ける気も起きない。匙がぷるぷると震えるのを、ぼんやりと眺めていた。
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232 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 17:43:00 ID:ppUePs0SO - 目の前の匙が消えた。やっと諦めたらしい。
いくら勧められても、食いたくないものは食いたくない。 ところが。妖夢はなかなか立ち去らない。 匙を持ったまま、俺の枕元に座り込んでいる。 そして。何を思ったのか、匙の粥を自分で啜る。一体何を 俺に覆い被さってきた。 すっかり面食らった俺の顔を、しばらく見つめたかと思うと口を吸ってきた。 思わず振りほどこうとするが、振りほどけない。こいつの華奢な身体のどこにこんな力が。 柔らかな唇の感触。妖夢の匂いが鼻をくすぐり、口の中に甘味が広がる。 米の味だ。ごくり。つい、飲み込んでしまう。 俺が飲み込んだのを見ると、妖夢はやっと唇を離した。 それでも、まだ俺に覆い被さったまま、俺を見つめている。 妖夢は俺を鋭い眼で見つめていたが、やがてその眼が滲んできた。 ぽたり、ぽたりと涙が俺の頬に落ちる。あの妖夢が泣いているのだ。 「お願いです……、ご飯を、食べて下さい……」 「死なないで……死なないで下さい」 「貴方に死なれたら、私は、どうしたら良いの……」 「私のせいで、貴方に……死なれたら……私は、私は」 「どうか死なないで……後生ですから……」 俺に縋りつき、まるで子供の様に泣いている。 そんな妖夢を、俺はただ呆然と眺めていた…… ・・・・・・ その日の夜。幽々子が部屋にやって来た。 久し振りに見た幽々子の顔は憔悴しきっていた。 行灯の光に照らされた幽々子の顔は、まるで疲れ果てた老婆の様だった。 「貴方には酷い事をしてしまったわね」 幽々子は弱々しく笑う。 「あの子の為に、良かれと思ってやった事なのに……」 弱々しく、幽々子が話し始めた。
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233 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 17:44:06 ID:ppUePs0SO - 「白玉楼は死人の集う幽霊屋敷」
「その通り。ここには死人しかいないわ」 「死人は生きている者とは違う」 「食べる必要も、眠る必要も、産む必要もない」 「死人には……生きている者の様な心が持てないの」 「だって死人には、死の恐怖がないから。命を持てないから」 「たとえ生きている者の様に振る舞っても……心だけは……」 「白玉楼で、生きている者は妖夢だけだった」 「あの子も特殊な体質だけど……でも、生きているの」 「生きている筈なのに……あの子の心は死人のそれに近付いていった……」 「他人のものであれ自分のものであれ、命に執着しない……」 「仕方のない事なのよ……死人と長く一緒に居過ぎたもの……」 「それが、あの子のお役目だから。仕方なかったのよ」 「あの子は、それでも一生懸命お役目を果たそうとしている」 「白玉楼の庭師として。剣術指南として。相応しくなろうと頑張って……」 「自分の心が、死人の様になりつつあるのにも気付かず、精一杯」 「私は……それが不憫でならなかったの……」 「あの満月の晩」 「妖夢が狼狽えていたの、血塗れの貴方を抱えながら」 「『斬り損ねました。どうしましょう』とね」 「私は言ったわ。『妖夢はどうしたいの』と」 「あの子はますます狼狽えたわ。あんな妖夢、初めて見た……」 「自分でも分からなかったのよ。何故斬り損ねたのか、何故連れて帰ったのか」 「そこで私はこう言ったの。『いっそ止めを刺してしまえば』とね」 「『殺してしまえば、その男も妖夢も楽になれる』こうも言ったわ」 「『さぁ妖夢。貴女はどうしたいの?』」 「『この男の手当てを』妖夢は、はっきりとそう言ったわ」
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234 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 17:45:37 ID:ppUePs0SO -
「あの満月の晩」 「あの子は斬り損ねたと言ったけど、それは違う」 「あの子の腕前は知っている。斬ろうと思ったなら、必ず斬る。躊躇わずに」 「貴方の様な常人には決して躱せない太刀筋よ」 「斬り損ねたのではない。斬れなかった」 「殺し損ねたのではない。殺せなかった」 「貴方を斬ろうとした刹那……貴方のどこに惹かれたのかは分からないけど」 「あの子は……妖夢は、貴方の命を奪う事を躊躇った」 「初めてだった。あの子が、命に執着したのは」 「気付いたのよ。死人ではない、自分の心に」 「あの子の心が生き返った。それが嬉しくて」 「叶えてあげたくなったの。あの子の思いを。でも……」 「結局、私は……貴方も妖夢も傷つけただけだった……」 「貴方がそんな風になってから……妖夢は毎日泣いているわ……」 「自分のせいで、自分の看病が至らなかったから、こんな事になったのだと……」 「あの子は何も知らないの。私が、私が勝手にやってしまった事なの……」 「少しでも長く一緒に居れば、貴方の心も変わるかと」 「頼れるのがあの子だけになれば、貴方の心も変わるかと」 「未練を断ち切れば、貴方の心も変わるかと……」 自嘲する様な、幽々子の擦れた笑いが聞こえる。 「私は思い上がっていたのね……ただの死人のくせに」
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235 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 17:47:10 ID:ppUePs0SO - 「いくら恨まれても構わない。私は、それだけの事をしたから」
「私に出来る事なら、何でもします。すべて貴方の心に任せます」 「だけど、どうか。どうか妖夢を恨まないで……」 「あの子は……ただ一生懸命だっただけなの……」 幽々子はその場に座り込むと、畳に額を擦り付けんばかりに頭を下げた。 「こんな時ですら、涙も流せない。不便なものね」 顔を伏せたまま、幽々子の肩が啜り泣く様に震えていた。 ・・・・・・ あれから。 俺は縁側に腰掛け、庭の隅の椿の木を眺めている。 紅と白。どちらも大きな蕾がついてはいるが、中々花を開かない。 妖夢の話では、もうすぐ咲くという事だったが。 雲がさぁっと流れ、庭一面に月の光が差し込んできた。 今日は満月か。 青白い光に照らされていると、まるで自分が死人になってしまった様な気がする。 しかも満月とは。嫌でもあの夜を思い出してしまう。 忌々しい。が、それでも見入ってしまうのは何故だろう。 あの月を、それでも奇麗だと思ってしまうのは何故だろう。 「夜風は身体に障ります」 後ろから、不意に声を掛けられる。いちいち煩い奴だ。 「別にいいだろ。お前の身体じゃあるまいし」 縁側で義足をぶらぶらさせながら、声の主に返事をしてやる。 深い溜め息が聞こえたが、俺には後ろを振り返ってやる義理もない。 あれから。 俺はまだ白玉楼にいる。
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236 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 17:48:23 ID:ppUePs0SO - 別に妖夢や幽々子が哀れだと情が移った訳ではない。
ただ、妖夢が手入れしたという、あの紅と白の椿の花を見てから死んでもいい。 そう思っただけだ。何故そう思ったのかは分からない。 椿の花が咲くまで。それまでと決めて飯も食う事にした。 妖夢が涙ぐみながら、深々と頭を下げていたが、別に妖夢の為ではなかった。 それからしばらくすると、椿の花が咲いた。紅と白の、実に見事な花だった。 あんな奇麗な花を見たのは生まれて初めてだった。 つい、また次の年も見てみたいと思ってしまった。 それだけだ。 それだけで、俺は白玉楼で世話になっている。 食事の世話だけではない。義足を作らせたり、酒屋のツケを払っておいてもらったり。 結局、俺は籠の鳥の生活に甘んじている。 仕方がないのだ。俺には最早そんな生活しか出来ないのだから。 仕方がないのだ。そんな生活でも、俺は生きていたいのだから。 あの月を、あの椿を、奇麗だと思える間は。 ここで暮らす以上、色々と妖夢に頼る事になる。 それも、やはり仕方がないのだ。 普段は無愛想なのは相変わらずだが。そのくせお節介な所もあるが。 こいつが居ないと庭を散歩する時に困る。 「身体が冷えてしまいます」 いつの間にか隣に座っていた妖夢が、俺に湯呑みを差し出す。 中身は鮮やかな緑色。 こういう時は酒だろうに。肝心な所で気が利かない。 黙って湯気の立つ湯呑みを受け取る。 雲の晴れた空には、満月がくっきりと輝いている。 「月が奇麗ですね」 熱い茶を啜る俺の様子を、妖夢が横目でちらちらと窺う。 「お前に斬られた夜も満月だったな」 俺が意地悪く答えてやると、俯いて黙り込んでしまった。 しまった。こいつには皮肉が通用しない。何でも言葉通り受け取る。 おまけに、落ち込み出すとどんどん暗くなる。 本当に面倒な奴だ。
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237 :名無したんはエロカワイイ[sage]:2011/02/02(水) 18:04:39 ID:ppUePs0SO -
「ありがとう」 「えっ」 「この茶だよ。旨いな」 俺の顔をきょとんと見つめていた妖夢だったが、やがて嬉しそうに微笑んだ。 俺はまだ白玉楼にいる。 (完) >>220 あんまりイチャイチャできんかった ナースみょん出せんかった ごめん
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