- 【ひぐらし】こちらスネーク雛見沢村に潜入した4
692 :通りすがりの人@本編執筆中 ◆/PADlWx/sE [sage]:2009/03/06(金) 22:48:15 ID:FuUVry3M - 「大石さん。…………例の一件、何か分かりましたか?」
「なっはっは、こりゃ痛い所を疲れました。……それがまださっぱりでしてね。お手上げ、と言った所です」 興宮にある店の一角で、私と大石さんは昼食を取っていた。 本来なら、署内で済ませるべき物なのだが、「東京本庁から来た特命刑事との特別研修」と滅茶苦茶な理由をつけてここへ来たのだ。 ……本当に、大石さんは変わられていない。 そして、昼食のひとときに合わない話をしていた。例の殺人事件の事だ。 幸い、周りには余り人がいないので、ちょっと声を潜めれば何を話していても分からないだろう。 「犯人がぶっ放した銃はAK。……しかし、ホトケには弾痕がありませんでした。 そうすると、AKは、あの二人の持ち物だ、って事になります。あんな山道に銃が落ちている訳ないですからねぇ。 もしも最初から犯人が銃を持っているのならそっちを使うでしょう」 「……なら、犯人はナイフだけで二人を殺害した、って事ですか? そんなのは――」 あり得ない、と言おうとしたが止まる。実際、私は目の当たりにしていたからだ。 奴の超人的な強さを。ナイフで銃弾を弾き、片手で軽々と突撃銃を扱った姿を。 あいつなら、可能なのかもしれない。 ……一体、彼は何者なんだろう。 「彼」なのかすらも怪しいが、犯人の正体が気がかりだった。 捜査は難航を極めているらしい。夜の山道、しかも目撃者は私一人だけなのだから。 近隣住民の聞き込みも行ったそうだが、何も手がかりは得られずにいた。 おまけに、被害者の身元の特定にも至っていない。手詰まりもいい所だ。 「赤坂さんの話、そしてホトケの状態から察するに、そうなっちゃいますよねぇ。 銃弾を弾いたあげく、片手でカラシニコフを撃っちゃうような人物なら、……可能でしょう」 信じたくは、ないですけどねぇ。とどこか茶化した様子で大石さんは答えた。 ……私を助けに来た、忍者の存在は彼に話していない。 話が余計にややこしくなるし、それこそ正気を疑われてしまう。 あの化け物の話をしただけでも、半信半疑といった様子なのだから。 ――いや、大石さんは私を信じてくれていると思う。 ただ、そんな化け物が存在する、という事を信じたくないだけなのだ。 「……本当に申し訳無いです。あの時、逃がさなければ……」 「いえいえ、むしろそんな化け物相手に生きて戻れた事が奇跡ですよ。無事で何よりです」 からん、とお冷やに入っている氷が音を立てた。 クーラーが効いている店内は静かだ。
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693 :通りすがりの人@本編執筆中 ◆/PADlWx/sE [sage]:2009/03/06(金) 22:48:58 ID:FuUVry3M - ふいに、大石さんが話題を変えた。
「それはそうと、祭りの日には会えたんですか? ――古手梨花に」 「いえ、それが、…………まだです」 ここに来た、本来の目的。――私と妻を救ってくれた、少女の救出。 今まで彼女の予言は真実だったから、それが続けば今年――彼女は殺されてしまう。 それを止めるべく、私はここにやってきたのだ。……しかし、未だに彼女には会えていない。 もう綿流しの祭りは終わっている。本来なら、――ここで終わりなのだ。 だけど、まだ彼女は生きている。 行動を起こすのが遅いのかもしれないが、…………私は、まだ彼女を救えるチャンスが残されている。 今度こそ、彼女を救わなければ。 そう思っているのに、未だに会えていないのは惜しかった。 「古手梨花の予言の話、……そして、アルファベットプロジェクトと入江機関の不正支出の話。…………どうもキナ臭いです。 雛見沢連続怪死事件に関わってそうな気もします。まずは古手梨花さんに詳しく話を聞きたい所ですが」 「……今朝、学校に電話を掛けてみました。でも――休みだったんです」 「おやおや、風邪でもひかれましたかなぁ? 季節の変わり目ですからねぇ」 「…………私もそう思ったんです。それで家に電話をかけました。でも――――留守でした」 もっと早くから、接触を試みるべきだった――と今更のように思う。 祭りの前に、彼女に会っておくべきだったのだ。 学校にもいなくて、ひょっとしたら家にもいないかもしれない彼女。 必死に、生き残る為に抵抗を始めているのかもしれない。 早く、助け出さなければならない。 「風邪で寝込んでいる、という可能性は?」 「勿論あります。ですから、今日の夕方にでも伺ってみようと思っています。どちらにせよ、私は雛見沢に向かうつもりです」 「ちょうど良かった。私も調べなくちゃいけないことがあるんでね、一緒に行きましょう」 「それは……?」 大石さんの話し方に引っかかりを覚えたので、尋ねてみる。 すると、彼はもっと声を潜め、私に顔をぐっと近づけて言った。 「……今年もね、起こってしまったんです。――――オヤシロさまの祟りが」
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694 :通りすがりの人@本編執筆中 ◆/PADlWx/sE [sage]:2009/03/06(金) 22:49:32 ID:FuUVry3M -
「な、……それはどういう…………」 私は愕然とした。 五年目の祟り。それはすなわち、彼女――古手梨花が殺される、という事では無かったのか。 だが彼女は生きている。なら誰が。 「これもまた秘匿捜査かかりそうなので、ご内密にお願いします。……興宮の郊外で、焼死体が発見されました」 「……死体の身元は?」 「もうすぐ特定されます。――しかし妙なんですよね、これが」 大石さんは首を捻った。 「遺体はドラム缶に詰められていましてね、それで随分強く焼かれたみたいです。闘士型姿勢、って知ってますか? 急に焼かれると、皮膚が断裂してこんな感じに手足が屈折するんです。体の一部が炭化してたので、ガソリンか何かでしょうね」 それで、と私は問う。 「ホトケは殺されてから焼かれました。ここまでは問題ありません。身元をはっきりさせない為のものかもしれませんし。 しかし、ドラム缶の中に、ホトケのものらしき財布が入っていましてね。身分証明書が入っていたんですよ、その中に」 「……ドラム缶の中? それはどういう――」 「遺体は死後二日以上経過しています。そして財布にはすすが少し付いているだけで、焼けてはいませんでした。 つまり、焼いてしばらくした後に入れられた、或いは中に落としたって訳ですね。……妙な話じゃありませんか?」 ――確かに、妙な話だった。 身元の判別を分かりづらくするため、死体を焼いたり、顔面を潰したりするのはよくある話だ。 しかし、その死体の側に身元の証明出来る物があった。犯人が見落とした――とは考えづらい。 被害者のバッグだかポケットだか分からないが、財布は被害者の物だとすると、ドラム缶の中に入っている理由が分からないのだ。 何せ、財布は焼けてもいないし変形もしていないのだから、わざわざ「後から入れた」としか思えない。 犯人の財布であるかもしれない、とも思った。 だが、同じような理由でそれは却下される。財布という貴重品を落として気づかない人間はいないだろう。 被害者と犯人が争った場所、もしくはドラム缶を設置する為の場所で、自分の持ち物をドラム缶の中に落とす。 ――実際、そうだとしたらかなり間抜けな犯人だ。 だが、ドラム缶は小さくない。上から覗き込んで中に落とすとしたら、財布は胸ポケットに入れていなければならない。 そんな場所にある物が落ちて、気づかない犯人がいるのだろうか。 ……とにかく、被害者の身元が分かれば、財布が誰の持ち物かも分かるだろう。 そう思って、大石さんに財布の持ち主を問う。 「身分証明書に書かれていた名前は何ですか?」 「赤坂さんは知らないと思うけど、ここら辺ではちょっとした有名人の方です。――――――北条鉄平、ですよ。 名字で分かると思いますが、二年目と四年目の祟りに合われた方の関係者です。五年目の祟りには――」 妥当と言えば、妥当ですね。と大石さんが言った。 まだ、死体が北条鉄平なのかは確定していない。だが――ありうる話だった。 ダム建設に賛成だった北条一家。その内の一人がまた選ばれただけの話だ。 ――けれど、それは彼女の予言に含まれていなかったはずだ。 その死が、何故起きたのか。彼女ですら予知できない出来事だったのか。
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695 :通りすがりの人@本編執筆中 ◆/PADlWx/sE [sage]:2009/03/06(金) 22:50:06 ID:FuUVry3M - 「もう一つ、妙な点があります。ホトケは銃殺されてたんですけどね、顔に打撲痕がありました。相当強く殴られたみたいです。
…………これも、変な気がしませんかぁ? 銃を持っている犯人が、『殺す為に』ホトケを襲ったのなら、最初に殴る必要は無いでしょう」 「……確かに。でも最初は気絶させるつもりで、急に殺さなければいけなくなった理由が出来たとしたら、或いは……」 言っていて、妙だなと感じた。 第一、そんな理由が思い浮かばない。被害者を気絶させて、どうするつもりだったのか。 第二に、被害者を気絶させる為に襲ったのなら、銃を持っていたこと自体がおかしい。 そもそも、相手を気絶させるのなら、殴るという原始的な行為ではなくても可能だ。 薬物をかがせた方が手っ取り早い。 銃で脅して、それから殴る為か――。だとしたら複数犯でなければ難しい。 だとしても。犯人が複数いるのなら、よってたかって襲いかかれば銃なんて必要ないんじゃないか。 ……ということは、初めは殺す気がなくて、争いが発展していく過程で銃を使ったのか。 それとも、第三者が喧嘩の仲裁という形で、被害者を撃ったのか。 ――分からない。やはり、妙だった。 やれやれ、と大石さんが首を振る。 「今年のオヤシロさまは何を考えているのかさっぱりです。殴ってから頭をぶち抜いて、お急ぎで焼いて財布と一緒に死体を放置する理由が、ですね。 予言通りだと古手梨花がこの後に死ぬわけですから、余計に訳分かりません。おまけに、入江の先生まで行方不明なんですから」 「……入江先生が行方不明なんですか!?」 私は驚いた。 確か、彼は入江機関のトップで、確か、二佐――のはずだ。 その彼が、行方不明になった。 「赤坂さんもご存じの通り、雛見沢に診療所は一つしかないです。そこの先生がどこかに行かれちゃ、村中の人が困りますよね。 ……犯人は何を考えているのやら。目的がさっぱり分かりませんねぇ」 私は一度、息を大きく吸ってからはき出した。 ――先ほどから、頭の中に「彼女」の存在がちらついているのだ。 すでに、事態は動き始めている。 まだ――間に合う。だから、私が助けにいく。 オヤシロさまの祟りも、今年で最後にする。これ以上犠牲者は出させない。 「……さてと。私と一緒に夕方に雛見沢へ行く、って事でいいですよね?」 大石さんが話題を変えた。 そろそろ、彼は署内に戻らなければならないのだろう。時計を気にしている。 「えぇ。お手数でしょうが、送ってくださると助かります。古手神社付近で降ろして下さい。帰りは何とかします」 「お安い御用です。こっちでの仕事はちゃっちゃと片付けちゃいますね。古手さんの件に関して、はっきりさせちゃいましょうか」 そう言って、私と彼は店を後にした。
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696 :通りすがりの人@本編執筆中 ◆/PADlWx/sE [sage]:2009/03/06(金) 22:50:45 ID:FuUVry3M - ぶらぶらと適当に道を歩く。
とある公園のベンチに、私は腰を下ろした。 五年目の祟り。北条鉄平らしき人物が死亡。入江京介が行方不明。 その数日前に、興宮郊外で殺人事件発生。 ――はたして、繋がりはあるのだろうか。 あったとしても、なかったとしても、今年の祟りは『何か』が違う。 頭の中の何かが、ひっきりなしに警鐘を鳴らしている。 またこの前の様な目に合うかもしれないぞ、と。何かが囁く。 今度は拳銃もない。もしも――『奴』にまた会ったら、今度こそ命がないだろう。 接近戦なら多少は有利だろうが、あいつは化け物のような人間だ。きっと格闘も強いに違いない。 ――今度は生きて帰れないかもしれない。本当に、命が無い。 五月蠅いぞ、ともう一人の自分を黙らせる。 危険を犯すことなど何ともない。そう言い聞かせねば、やってられなかった。 ここでぐうたらしても始まらない。こうしている間にも、彼女は救いを必要としている。 だけど。助けに応じるのは、もう少し知識と強さが必要だ。 私は雛見沢に詳しい訳では無い。ここへ来る前に、あらかた資料に目を通したが、全てを知ったとは言い切れないだろう。 前者を満たそうと、図書館へ向かう事を考えた。 雛見沢の地理、そして彼女が予言した怪死事件、入江機関などについて調べ直してみるか。 そこでふと、この前すれ違ったスネークという人物を思い出した。 彼は似ていた。私を襲った襲撃犯と。 すれ違った時は、私は車に乗っていて、彼はこちらを見ていなかった。 だから、彼が襲撃犯であるとは断定できない。顔をはっきりと見たわけではないからだ。 が――怪しかった。大石さんの言うように、教師としては不自然とした体格も。 この時期に赴任してきた事実も。外国の人間であることも。 ――やはり、警戒しておくに越したことは無い。 あの顔を強く思い浮かべながら、私は一歩、前に踏みしめた。
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697 :通りすがりの人@本編執筆中 ◆/PADlWx/sE [sage]:2009/03/06(金) 22:54:00 ID:FuUVry3M - 以上です。
……リアルで色々ありまして、投下が非常に遅れてしまいました。 しょっちゅう待たせていますね。申し訳ないです……。 話の転換点に来ているので、ちょっとストーリーを練り直します。 矛盾点があるので、以前投下したTIPS「襲撃犯の正体」を後日変更します。
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- 【ひぐらし】こちらスネーク雛見沢村に潜入した4
698 :通りすがりの人@本編執筆中 ◆/PADlWx/sE [sage]:2009/03/06(金) 22:55:03 ID:FuUVry3M - あと重ね重ねすみません、羽入とグレイフォックス予約します。今度は期限内に……!
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