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KOUSEI ◆g9UvCICYvs
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 32

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コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 32
10 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 19:49:02 ID:PAVTxe14
1乙です。
では早速、前回の続きを投下させていただきます。
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 32
11 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 19:49:58 ID:PAVTxe14
 ○シーン9『気持ちの問題』Bパート。

 スザク達が中華連邦に旅立ってから一週間。
 行政特区失敗についての後処理も山場を越えたと言って良かったが、相変わらずの忙しさではあった。
 そんな中、ロイの元にある書類が持ち込まれた。
『黒の騎士団工作員捜索掃討作戦』
「……」
 ロイは提出された書類をいつも通り短時間で速読した。そして、前に並んで微動だにせず、気をつけをしている男達に視線を向けた。
「君達の言いたい事は分かった」
 執務机を挟んで立っていたのは全員、ロイより年上だった。
 クラウディオ、デヴィッド、エドガー。三人ともダールトンの姓を持つ、グラストンナイツのメンバーだった。そして、今回の書類、いや、作戦を提案してきたのも彼らだった。
「この件について、ギルフォード卿は何と?」
 ロイは行政特区では意見の相違から多少激しい口論をしたが、それでも信頼を置いている騎士の名前を出した。“説得”なら、彼らグラストンナイツを取りまとめており、ナナリー総督の方針にある程度の理解がある、そちらから攻めた方が早いと思ったのだ。
「ギルフォード卿は療養中です」
 デヴィッドの答えに、ロイは表には出さなかったが胸中で嘆息した。
「そうですか……」
 どうやらロイは早くない方の選択肢を取らなければいけないようだった。
「黒の騎士団のほとんどは中華連邦に亡命してしまいましたが、必ずまだ協力者が残っているはずです。そいつらを捕らえなければいけません」
 と、エドガーが言葉と共に一歩前に出る。隣のデヴィッドもそれに習った。
「ぜひ、大規模なテロリスト捜索作戦の許可を」
「……」
 クラウディオも無言で一歩前に出た。
 机越しとはいえ、上背のある三人の騎士に詰め寄られて、ロイは軽い圧迫感を感じた。
(やれやれ……)
 ロイは内心でため息をついた。そして三人の騎士の説得法を考える時間をとるために、再び報告書に目を落とした。
 報告書の内容は検問設置を前提とした交通の封鎖はもちろん、情報、生活のあらゆるものに規制をかけ、それで潜伏している黒の騎士団工作員をあぶりだそうと言うものである。
(どうしたものかな、これは……)
 このエリアから三人のラウンズが去った今、ロイはエリア11における軍の司令官的立場にあった。
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12 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 19:53:28 ID:PAVTxe14
 総督であるナナリーからも、ある程度の裁量権を与えられており、ロイはやろうと思えば総督を通さず、軍主導の政治犯(黒の騎士団)の取締りを行う事ができる。
 だが、もちろんロイはそんな事をするつもりは無かった。なぜなら、それをナナリーが望んでないからである。
「政治犯捜索は警察に任せればいい。軍人が会議と戦場以外にしゃしゃり出て、良い結果を生む事などそうは無いよ」
 ロイの言葉に、血気盛んな青年たちはすぐに反応した。
「それでは、黒の騎士団の工作員をみすみす捨てておくとおっしゃるのですか!」
 エドガーが更に迫ってきて、テーブルに手を置いた。
 ロイは首を動かし、見上げる角度を調節した。
「だから、それは警察に任せればいい。それより、今度ナナリー総督が行う、イレブンの幼稚園訪問だけど、その時の護衛を君たちに――」
「話を逸らさないでいただきたい」
 ロイの話題の切り替えは、赤毛の青年デヴィッドに遮られてしまった。彼は、口調は穏やかながらも、威圧的な視線をロイに浴びせた。
「ナイトオブゼロ様は、エリア11に黒の騎士団を存在させていても何とも思わないのですか?」
 正直な所、ロイは極少数の黒の騎士団の工作員がこのエリア11にいる事について、その危機性を感じていない。なので、本心を言えばロイはデヴィットの言うように、その件については何とも思っていない。だが、とりあえず、口ではこう言うことにした。
「思うさ、もちろん不愉快だよ」
「なら」
「でも、軍主導で政治犯の取り締まりなどやったら、嫌でも市民の目に付き、不安を煽る……いや、それが不要とは言わないよ。でも現在の急務ではない。今は、混乱した民心を安定させる事が重要とされる時期ではないかな」
 ロイは、ゴホンと咳をして間を置いた。
「そのために、ナナリー総督は以前にもましてマスコミに顔を出し、地域にも積極的に訪問し、民の慰撫に努めておられる。しかし、この作戦はそのナナリー総督の行動を無にしかねない危険なものだ。それを理解しているのか、君たちは?」
 すると、エドガーが更に机の上に身を乗り出してきた。
「不穏分子を掃討する事こそ、民心を安心させる事に繋がります!」
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13 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 19:55:31 ID:PAVTxe14
 ここで、ロイは初めて瞳に哀しみの色を乗せた。同じブリタニアの仲間ではあっても、彼らと、ナナリー総督の思想は大きく食い違っているのだというのを思い知らされた気がした。
「……君のその民心の中には、イレブンの人達が入っていないね」
「当たり前では無いですか! 我々は戦争の勝利者なのですよ!」
 ロイは部下を、多少冷ややかに、そして悲しげに見つめた。
「ナナリー総督はそれを無くそうとしておられる。それが分からない君たちではないだろう?」
「平等と言っても、それはブリタニアとブリタニア人に利益がある上での平等であるべきです」
 と、デヴィッドもエドガーに同意した。
「それに、今は緊急時です。どちらが優先されるべきかは、ナイトオブラウンズであるキャンベル卿にはご理解いただけるかと思いますが」
 緊急時に無効とされる平等の何が平等なのか、ロイには分からなかった。
 ロイは、分厚いレンズ越しの視線を三人に巡らせた。そして、諭すように言った。
「今、残念ながら民の心は、あのようなエンターテインメントを巻き起こしたゼロによって混乱している。そんな中、大規模な軍事行動を起こし、規制をかける事は無意味に民の不安や反発を巻き起こす可能性が高い」
 一から十まで説明しなければいけない事に、ロイは軽く辟易した。
「それよりも、今は、イレブンを含めた民にこの地に残って正解だったと思わせる事が先決ではないのかな? 君たちだって、イレブンを含めた国民に反乱や不信の種を植え付けたいわけでもないだろう」
 ロイは、あえて“イレブンを含めた民”の部分を強調した。これは、そもそもナナリー総督の治めるエリア11では大前提なのだ。
「物事には機会、そして順序というものがある。今はエリア11ではもはや大した力を持たない黒の騎士団に集中するより、国全体に目を向けるべきだ」
「それが消極的過ぎると言っているのです!」
「よせ」
 興奮して銀髪の上官に詰め寄ろうエドガーを、クラウディオは手で制した。次いで、彼はその瞳で上官を見据えた。
「ではキャンベル卿。ならばせめて、その国全体に目を向けるという点を踏まえて、あなたが考える今後の私たちの指針と、予定をお聞かせ願いますか」
 ロイは納得して頷き、淡々と三人に告げた。
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14 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 19:57:31 ID:PAVTxe14
「ナナリー総督のイレブンを含めた民心の慰撫、そのお手伝いだ。だから軍の仕事は今までと同じ、総督の護衛が中心になるね。それに、はっきり言っておくけど、僕は軍を総督の命令無しに動かすつもりはない」
 ロイの言葉に、三人は明らかに落胆したようだった。
「あなたのやり方は、ブリタニアのやり方ではない! あなたは一体、何のためのラウンズで、裁量権を与えられた司令官で、軍人なのか!?」
 エドガーが激しく机を叩いた。振動が走り、机上の小物が軽く飛んだ。
「……」
 ロイは、その上司に対して棘のありすぎる言葉を黙って受け取った。その棘がナナリーではなく自分に向いている内は黙って受け取る事に決めていたからである。
 その方がいいのである。ナナリーは今、軍人・文官の両方からその不満が集中しつつある身、ならばせめて軍人の不満ぐらい自分の下で留めるのも、ロイは自分の仕事だと思っていた。
 それに、実力で上り詰めたスザクならともかく、単に気に入られた、という理由だけでラウンズになった自分の事に対しては色々思う所もあるだろう。言葉が少々陰湿なものになるのも無理は無いと思われた。
 しかし、ロイのその沈黙は目の前の三人の眉間に溝を作らせるのには充分だった。
「なんとかおっしゃったらどうか!」
「いい加減にしろよお前達」
 怒声に近い声が部屋に響き、青年士官三人と、その上司の少年は軽く肩を震わせた。
 それ言ったのは堪忍袋の緒が切れたロイではなかった。ロイは至って冷静だった。
 言ったのは、部屋に入ってきた一人の男だった。
 長身で、金髪の髪。瞳は青く、ジノのような生粋のブリタニア人を思わせる青年だった。着ているのは黒い軍服でそれはグラストンナイツが好んで着用するものだった。
「アルフレッド!」
「久しぶりだなクラウディオ。それに、二人も」
 アルフレッドと呼ばれた男は、金髪を手でかき上げ、兄弟達に一瞬微笑んで見せた。
「お前、もう怪我はいいのか?」
「いつまでも寝てはいられないだろエドガー。それより……」
 と、アルフレッドは少々目を鋭くして兄弟を見渡した。
「お前達はどういうつもりだ?」
 強い口調で兄弟に尋ねられた三人は、驚いて顔を見合わせた。
「どう、とはどういう事だ?」
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15 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 19:59:33 ID:PAVTxe14
「先ほどの問答の事だ。お前らも、軍人ならば、ナイトオブゼロ様のご指示に従え。ナナリー総督のご意志に照らし合わせてもこの方のおっしゃる事は的確だ」
 話に出されたロイは、事の成り行きをキョトンとして見ていた。そんな上官を一瞥して、エドガーはアルフレッドに向き直った。
「アルフレッド……しかし」
「外見や評判だけで本質を見落とすな。父上がお嘆きになられるぞ」
「……」
 三人はまた黙って顔を見合わせた。彼らにとって父の名は充分鎮静剤になり得たらしく、いつの間にか、その表情から先ほどまでの激情にも似た反発心は消えていた。
「……分かったよ」
 やがて、クラウディオが敬礼をして踵を返した。他の二人もしぶしぶ無言でそれにならい、部屋から出て行った。
 部屋にはそれを見送ったロイとアルフレッドが残された。
 ロイは安堵に近い息を吐いた後、笑顔を作って立ち上がった。
「アルフレッド卿。助かったよ」
 ロイは机を回り、アルフレッドの前に立った。
「それにしても久しぶりだね。君が助太刀にきてくれた、東ロシア戦線以来かな?」
 すると、突然、彼はロイの前で跪いた。
「アルフレッド卿?」
 ロイが驚いて尋ねると、アルフレッドは深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんキャンベル卿。兄弟として恥ずかしい限りです。今後このような事は二度と無いように良く言い聞かせますので、どうかご容赦をいただけないでしょうか」
 ロイは意外そうな顔をして、首を振った。そして、自分も膝を折り、金髪の若者の肩に手を置いた。
「何を言っているんだ。僕は彼らを罰したりなどはしない。僕にとって、意見の相違は歓迎すべき事だからね」
「真に恐ろしいのは集団の中に同じ認識を持った者しかいない事、ですか。相変わらずですねキャンベル卿」
 アルフレッドは軽く笑って、立ち上がった。しかし、彼の顔がロイの上になると、その表情はいつの間にか真剣なものに戻っていた。
「しかし、上官であるあなたに対して暴言を吐いたのも事実、謝罪はさせていただくのは当然の事です。本当に申し訳ありませんでした」
「あっ、いや。それはスザクと違って、仕方がない所もあるだろうから」
 ロイはハハっと乾いた笑い声を上げながら立ち上がった。
 それを見て、アルフレッドは少し悲しげな表情を浮かべた。
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16 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 20:01:31 ID:PAVTxe14
「キャンベル卿。あの……あまり気になさらないで下さい」
「へっ」
「あなたは、ラウンズとしての実力を十二分にお持ちです。それは、一度でもあなたの指揮下に入った事のある騎士なら、誰でも分かる事です。ただ、その実力が枢木卿と違い、周りに認知されていないだけです」
「アルフレッド卿……」
「ご自身を卑下するのはお止め下さい」
 言われて、ロイは照れくさくなって、頬をポリポリと掻いた。
「……ありがとう。君の言葉は深く心に刻んでおこう」
「はい、そうして下さい。それにしても、改めてお久しぶりですキャンベル卿。また会えて嬉しく思います」
「ああ、僕もだよ」
 ロイはスッと手を差し出した。アルフレッドは迷い無くその手に自分の手を重ねた。
「東ロシア戦線では大変お世話になりました。あなたがいなければ、私は今頃東ロシアの土の下か、この間の黒の騎士団政治犯強奪事件の時に死んでいたでしょう」
「じゃあ、もしかして書き換えたプログラムは役にたったのかい?」
 プログラムとは、東ロシア戦線の折、アルフレッドがロイの指揮下に入った時、ロイが命じて書き換えさせたKMFの緊急脱出プログラムの事である。
 緊急脱出プログラムは緊急脱出用のイジェクション・シートを強制射出させるプログラムで、搭乗する騎士によってある程度任意に調節できるようになっている。
 基本的に、操縦に慣れていない新人騎士は、機体がダメージを負えばすぐに強制脱出させるように設定し、ベテラン騎士はある程度ダメージを食らわない限り強制脱出プログラムが作動しないように設定する。
 これは実に悪しき習慣と言うべきものだとロイは思っていた。つまり、ベテランの兵士は半壊しようが機体を自分の身を犠牲にしてでも持ち帰ってこいという事である。
 まったくもって馬鹿馬鹿しい。機体より兵士の方が何十倍何千倍も貴重だというのに!
 東ロシア戦線時のアルフレッドは、この悪しき習慣に素直に従い、自機“グロースター”に、ほとんど機体が全壊しなければプログラムが作動しないような設定を施していた。
 そして、それを知ったロイは「僕の部隊には、機体が半壊しても脱出しないような特攻隊員はいらない!」と強い口調でその設定を直させたのである。
「はい、おかげさまで、あの紅蓮弐式の輻射波動を食らい、愛機を犠牲にしましたが、私は何とか生きています」
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17 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 20:02:42 ID:PAVTxe14
 アルフレッドは苦い笑みを浮かべた。
 ロイは「いや、それでいい」と、いかにも上官らしく頷いて見せた。
「生きていればまた戦えるからね。それで、今日から早速仕事に復帰するのかい? だったらよろしく頼むよ。また君には世話をかける事になるだろうけど」
「いえ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
 アルフレッドはまた律儀に敬礼した。
「では、私はナナリー総督の方へ挨拶に参りますので。“その後またこちらに戻ってまいります”」
「ああ。って、えっ? 戻ってくるの?」
「はい、これからキャンベル卿の“副官”として、精一杯務めさせていただきます。よろしくお願いいたします」
「副官?」
 ロイは素っ頓狂な声で聞き返した。
「君が僕の副官?」
 アルフレッドは不思議そうな顔をした。
「あれ、お聞きになっていないのですか?」
「いや、初耳だよ」
「はい、シュナイゼル殿下に頼まれました。私も喜んで引き受けたのですが……」
「シュナイゼル殿下が?」
 ロイは驚いた。
 確かに、シュナイゼル殿下には、副官というか補佐を回して欲しいという希望を伝えた事があり、近々派遣するとも言われていたが、それがアルフレッドだとは。
 もちろん、ロイはこの人選に文句など無い。アルフレッドは優秀な人間だし、むしろ副官に留めておくのが惜しいぐらいの人物だ。だが、
「いや、待ってくれ」
 ロイはすぐにはその人事に承知しかねた。
「それは嬉しいけど、君はグラストンナイツだろう? そっちの方はいいのかい?」
「グラストンナイツでも、その前に私はブリタニア軍人です。転属命令が出ればそれを受理するのは当然でしょう」
「まぁ、それはそうだけど……」
「それに、一つの部隊に拘っていては自分の視野が狭くなってしまいます。私の父も、時には自らコーネリア様の下を離れ、他の部隊で腕を磨き、見識を深める事があったと言います」
 確かに、コーネリア皇女の専任騎士であるギルフォードと違い、アルフレッド達の父ダールトンは言い換えれば一介の軍人である。場合によっては転属し他の部隊でその辣腕を振るう機会もあったのかもしれない。
 いや、息子であるアルフレッドがこう言うからにはあったのだろう。
「……ちなみに、君たちの取り纏めであるギルフォード卿は、今回の人事については何と?」
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19 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 20:04:36 ID:PAVTxe14
「良く学ばせていただけ、と大賛成していただきました。あと、餞別代りにギルフォード卿が騎乗していた“グロースター”まで頂きました」
「そうか」
 肝入りの部下を快く送り出してくれるという事は、それだけ腕を買われ、信頼されているという事だろう。ならば、その信頼には応えるべきだ、とロイは考えた。
「そういう事なら、僕からは何も言う事は無い。これからよろしく頼むよ“アルフレッド”」
「はっ」
 アルフレッドは気をつけをして、また敬礼した。そして順序は逆になってしまったが、ナナリー総督に仕事復帰の報告に行くために、部屋を出て行った。
(それにしても、最初は僕の命令すら聞いてくれなかったあのアルフレッド卿が、僕の副官とはね……)
 一人になった部屋で、ロイはそう内心で呟きながら苦笑し、執務机に座った。まだまだ今日中に片付けなければいけない事は山ほど残っていた。
 仕事の量の多さに、ロイは憂鬱を通り越して笑いがこみ上げてきた。
(これは、アルフレッドに手伝ってもらったとしても、徹夜は確実だな……)

 ○

『日本を見ているのか?』
 紅月カレンが斑鳩の甲板から、海を眺めていると、聞きなれた声が耳に届いた。
 赤い髪を海の風に弄ばれながら、カレンは振り返る。そこには黒い仮面の男がいた。黒の騎士団のリーダー、ゼロである。
「ゼロ……」
 ゼロは無言でカレンの隣まで歩いてくると、転落防止用の柵に手をかけた。そして、仮面越しにカレンと同じ方角に、空と海の境界線に視線を向けた。
『この方角は日本だからな』
 ゼロは、水平線のはるか向こう。今いる中華連邦の宝来島より何千キロと離れた島国の名前を出した。そこはもちろん、ゼロ自身にとっても思い出深い場所だった。もちろん、ゼロの中身の人間にとってもだ。
『違うのか?』
 更に問われた。カレンは、正直分からなかった。ただ海を見ていただけのつもりだが、言われてみれば無意識に日本を見ていたのかもしれないとも思えた。
「どうでしょうね。分かりません……」
『そうか』
 ゼロはそれだけ言うと、また黙ってしまった。カレンもあえて言葉を続けようとは思わなかった。無言の会話というのも確かに存在するのである。
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21 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 20:05:35 ID:PAVTxe14
 二人はしばらく海を見ていた。二人の目の前のカモメが何度も上昇、下降を繰り返す。やがて、一匹のカモメが海から魚を捕らえ、それを嘴に加えて舞い上がる。
『日本を離れた事、後悔してるのか?』
「……」
 ある程度予想ができたゼロの言葉に、カレンはしばし考え込んだ。そして、静かに首を横に振った。
「いいえ、そんな事はありません。私は貴方の右腕。あなたのいる所が私の居場所です。後悔なんて――」
『今は二人きりだ』
 その一言で、ゼロは分厚い主従の壁を取り除いた。この瞬間、二人の関係は黒の騎士団のリーダーとその部下ではなく、学園生活を共に過ごした友達になった。
 カレンは静かに目を閉じた。そして、またしばし考えて、弱々しく息を出した。
「今なら、あなたの気持ちが少しは分かる気がする」
『何がだ』
「生まれ育った土地を離れるのは、一時的とはいえ寂しいものね」
 日本。カレンにとって一言で言えば色々あった土地だった。生まれ、育ち、その中には様々な出会いがあった、そして、その出会いの数だけ思い出もあった。
 兄や母と過ごし、友人と出会い、彼とも出会った。
 しかし、今はその日本を離れ、カレンは中華連邦に亡命した身である。
『……そうか』
 唐突に強い風が吹いた。カレンは再び髪が、ゼロは黒いマントが宙でなびいた。しかし、二人は微動だにせず、海を眺め続けていた。
「ねぇ、ルルーシュ」
『んっ』
「あなたは、どうやってこの感情から立ち直ったの?」
 ゼロの祖国であるブリタニアは、ルルーシュを追い出した。追放した。彼にとっては憎むべき国なのかもしれないが、それでも、その国でも幸せはあった、とかつてルルーシュは語ってくれた事があった。
 紅月カレンは黒の騎士団ではC.Cを含めて二人しか居ない、ルルーシュの過去を知る人物だった。
 ゼロは、少しだけ仮面を前に傾けた。そして、呟くように告げた。
『一番大切なのは、土地とか思い出じゃないから』
「えっ」
『俺にとっては、大切だったのはブリタニアで過ごした母さんとナナリーとの思い出もそうだが、それ以上に、その人たち自身だからな。
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24 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 20:08:21 ID:PAVTxe14
 確かに、国を出るときには一抹の寂しさはあった。だが、俺の隣にはナナリーがいた。だから、俺は寂しくなかった。どちらかと言えば、ナナリーに寂しい思いをさせないように必死だったな』
「そう……」
 土地と思い出ではなく、人。
 そうかもしれない、とカレンは漠然と思った。
 ――カレン、大丈夫だ。僕が付いてる。
 そう言ってもらえれば。彼が傍にいて言ってもらえるなら、カレンはおそらくそれだけで安心できる。それだけで、寂しさなど感じなくなる。
(結局、最後はそこに行き着くのか)
 ライさえいればいい。それで自分の世界は上手く回る。彼がいれば、日本だってきっと簡単に解放できる。彼がいればこの遠い中華連邦の地でも寂しくなんてない。彼がいれば、彼がいれば、彼がいてくれれば……。
 一年前に比べて、自分の思考はえらく端的になったものだ、と思ってカレンはなんだか可笑しくなった。
 そして、そう割り切るとカレンはなんだか元気が出てきた。そうだ、自分の進む道はどこの国にいようと一本道なのだ。
 どこかにいるライを助けて、日本を解放する。それだけだ、そのために真っ直ぐ進めばいいのだ。
『カレン』
 ゼロ、いや、ルルーシュはカレンの肩に優しく手を置いた。
『君が寂しいと感じているのなら、それは俺の責任だ。だから……』
 そこまで聞いて、すでに立ち直っていたカレンは呆れた。この男はいつもそうだった。ライの事になると、責任だの俺が悪かっただの陰気な事この上ない。
 カレンは、ルルーシュをもっと知りたかった。ライが親友とした男をもっと知りたかったのだ。そして同時に、ルルーシュから見たライも知りたかった。
 しかし、一年前とは違い、ルルーシュはカレンに対して、どこと無く腫れ物を触るような接し方になった。そして、ライの事を語る時は、いつも遠慮がちな上、最後にはいつも「俺が悪かった」「俺の責任が」とか言い出す。
聞きたいのはそんな取り繕った言葉ではなく本心だ、と思うカレンだった。
 カレンはルルーシュの手を払いのけた。そして、おそらく女性に拒絶される機会が少ないのが原因だと思うが、軽く驚いている彼の前で腕を組んで、言った。
「ねぇ、ルルーシュ。あなたって、結構卑怯よね」
『は?』
「そうやって、自分で卑下して、もしライを助けられなかった時の予防線を張ってる」
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26 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 20:11:22 ID:PAVTxe14
『いや、そんな事は……』
「だってそうでしょ。親友を助けられなかった。というのより、責任を感じている人を助けられなかった、という方が気持ち的には楽だもの」
『……俺がそう考えているように見えるのか?』
「見える」
 カレンは断言した。ゼロは力なく顔――仮面を下に向けた。
『ショックだ……』
 本気で落ち込んだ様子の友達を見て、カレンは笑った。
「だったら、そう言うのはやめて。私は別にあなたに責任を取ってもらうために協力してるわけじゃないの。あなたが、私と同じく純粋にライを助けたいという気持ちを持っているから、私はあなたに協力するのよ」
 カレンがゼロ=ルルーシュという裏切りの事実を知っても、二心無くゼロに仕え続けているのはそういう理由だった。
 もし、ライの事が無ければ、きっとカレンは、「ルルーシュが自分が信頼したゼロに成りうるのか見極める」とか言い訳して、しぶしぶ彼の部下としてありつづけるか、完全に見限っていたに違いなかった。
 ライを助けたい。その想いの共通こそがカレンにとって重要であり。それだけで、カレンがゼロに協力する理由に足りた。
『やれやれ……』
 カレンの気持ちを察したのか、ゼロが嘆息混じりに仮面を上げる。
『俺はお前を勇気付けるつもりだったんだが。それが、いつの間にか俺が怒られていては世話が無い』
 それを聞いて、カレンは拳を作り、人差し指を口に当ててクスクスと笑った。
「そうね、一応お礼は言うべきよね。ありがとう、慰めようとしてくれて」
『フン、勘違いするな』
 ゼロの口調は皮肉っぽいものに変化した。
『お前は、親友の女だからな。ライを助け出した時、お前に元気が無くて、今まで俺が苛めていたと勘違いされたら困る。だから、ここは、それなりに優しくしておくべき所だと思っただけだ』
「うわ、ひっど〜い。っていうか、実際そう思ってても、そんな事女性に言う?」
 その時、カレンは形の良い眉をピクリと上げた。鍛え上げられた第六感的感覚が、何かを捕捉したのだ。
『どうした?』
 ゼロが不審に思って尋ねると、いつの間にかカレンは零番隊隊長の顔になっていた。
「人が来ますゼロ。これは……多分神楽耶様です」
 カレンが言うのと同時に、廊下を駆ける音が聞こえてきた。数秒後、一人の少女が重いドアを開けて甲板に現れた。
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28 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 20:13:33 ID:PAVTxe14
「ゼロ様! こちらにいらしたのですね」
 神楽耶は肩で息をしていた。その少女を確認したルルーシュは、再び心に仮面を被り、神楽耶に歩いて近寄った。
『どうされたのですか神楽耶様。そんなに慌てて』
 神楽耶は数度息を付き、呼吸を整えた。そして、ゼロの前で手を組み、告げた。
「天子様が、天子様が」
 神楽耶の口からカレンとゼロを驚愕させる事実が伝えられた。
 天子の婚約を、二人はこの時初めて知った。

 ○

「なぁ、アーニャ。お前は一体何が気に入らないんだ?」
「別に」
 中華連邦の高級なホテルの一室。結婚式当日まで割と暇なジノとアーニャは、私服姿で並んで座り、今流行のレーシングゲームに勤しんでいた。
 二人とも会話を交わしながらも、顔を合わせず画面を凝視している。
 ちなみに、この状態でかれこれ三時間になる。
「だってさ、お前明らかに不機嫌だろ。なんでだよ、スザクがナナリー総督のために残らなかったからか? それとも、ロイと離れ離れになったからか? ってうお!?」
 トップを独走していたジノの自機が、ゴール直前でアーニャからのアイテム攻撃を受けてスピンしてしまった。その隣をアーニャの車がしたり顔で通っていき、
「はい、また私の勝ち」
「だーー! またゴール前で、抜かれたぁぁぁあ!」
 ジノは髪を掻き毟って歯噛みした。画面上ではスピンの間に大きく順位を落としたジノのキャラクターががっくりと項垂れていた。
「ジノは無駄な動きが多い上に、常に一位を独占しようとするから、攻撃アイテムの脅威に晒されやすい。このゲームは中盤まで真ん中の順位を維持し、後半一気に巻き返すのが基本」
 アーニャは淡々と解説した。事実、アーニャは先ほどからジノを交えた十人以上のインターネット対戦で三十戦無敗なので、言っている事に間違いは無い。
「いや〜、そうは言うけどな。なんか嫌なんだよ、他人に前を走られるのは。ほら、“ブリタニアの疾風”である俺としてはさ」
 その言葉に、アーニャは怪訝な顔で、首を傾げた。
「“ブリタニアの疾風”? 何それ、初耳」
「ん? 知らない? 俺の二つ名」
 アーニャはしばし考え込んだが、思い当たるものは何も無かった。
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30 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 20:15:51 ID:PAVTxe14
「……聞いた事ない」
 アーニャは眉間に皺を寄せた。
「もしかしてそれ、自分で作った?」
「だって、ロイとスザクにだけあって、俺には無いって言うのもさみしいじゃないか」
 それを聞いて、アーニャは、可哀想なものを見るような――というか実際、可哀想だと思った――目をジノに向けた。
「自分で作った二つ名とか……虚しくない?」
「言うな……」
 ジノは一瞬泣きそうになった。しかし、彼は不屈の精神で立ち直った。
「さてアーニャ! もう一回だ!」
「望む所」
 そして、二人はまたレースを始め、テレビ画面に凝視した。
 レースの序盤、相変わらずジノが序盤から一位を走っており、後続からの強い攻撃アイテムの脅威に晒されている。
(男って、ほんとうに懲りない)
 アーニャはそう内心で呟きながら、ジノのキャラクターに攻撃アイテムを放った。しかし、それは違うキャラに当たってしまった。
「なぁ、さっきの話なんだが」
 ジノが肩を揺らし、コントローラのステックをガチャガチャと激しく動かしながら言った。アーニャは逆にコントローラーを最低限の動作で操りながら答えた。
「二つ名の事?」
 会話しつつも、二人は画面から目を離さなかった。
「違う。それは忘れてくれ……お前の機嫌が悪い件だよ」
 ジノのキャラは、上手い機動で敵からのアイテムをかわした。彼は「よし」と歯を出して笑った。
「ロイがいなくて寂しいのと、スザクが友達のナナリー総督のために残らなかったのが気に入らないのは分かるが、少しは機嫌直せよ。もう殿下のご結婚までそう時間も無い事だし、俺としては三人一丸となって護衛任務にあたりたいんだ」
「……別に、迷惑はかけてない」
「かけてるよ。お前、中華連邦にきてからずっとムスっとしてるじゃないか」
「私は元からそんな顔」
「その点にはおおいに同意する。だけどな」
 ジノは勢い余って上半身をテレビ画面にグッと近づけた。その大柄な体躯に視界の一部を塞がれたアーニャは、迷惑そうな顔をして、座る位置をちょっと横にずらした。
「お前が不機嫌かどうか見破れない俺だと思ってるのか? それに、中華連邦に来てから、スザクとは必要最低限の事以外、一言も喋ってないじゃないか」
「……」
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 32
33 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 20:18:26 ID:PAVTxe14
 アーニャは無言で自機のスピードを速めた。レースは中盤。そろそろ、勝負をかけ始める頃合だった。
「とりあえず、スザクと仲直りしてくれないか? ってああ! 誰だ今、俺に赤甲羅ぶつけたのは!?」
 ジノの自機の隣を、『ピザ大好きっ子』というハンドルネームのキャラが魔女のような人を小ばかにした笑顔を浮かべながら通過していった。
「あ〜、またピザ子か! さっきもアイツにやられたな、くそ」 
 ジノは毒づいて、またレースに集中した。
「で、話を戻すけど、スザクと仲直りしてくれよ」
「別に、全部が全部スザクが原因で機嫌が悪いわけじゃない」
「じゃあ、何が原因なんだ」
 レース終盤でアイテムを当てられたからか、ジノの声は苛立っていた。アーニャはその後ろから淡々と、自機が無敵になるアイテムを使用し、その後、車をジノと接触させた。ジノのキャラはコースから吹っ飛び、悲痛な叫び声を挙げながら谷底へ落下していった。
「うわ、また俺がビリじゃないか!」
 ジノはまた頭を抱えて悔しがった。その隣で、『ピザ大好きっ子』を抜かしてゴールし、31回目の一位を獲得したアーニャは、コントローラーを操る手を止めてポツリと呟いた。
「女の子が好きでもない男と結婚するのは、見ていてあまり気持ちのいいものじゃない」
 それは、アーニャから見て可哀想なもの以外の何物でも無かった。国を背負う者の宿命と言ってしまえばそれまでだが、少なくとも自分には絶対耐えられないと思えた。
 何よりアーニャがそう強く思ったのは中華連邦到着後、すぐにラウンズ三人で天子に挨拶に伺ってからだった。そして、直に会ってアーニャは気付いた。というか感じ取った。自分とナナリーも持つ、女性が当たり前に抱く感情を、
 ――この人、他に好きな人がいる。
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 32
36 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 20:21:29 ID:PAVTxe14
 それからだ、アーニャの心に何かやるせない気持ちが巣食ったのは。
 やっぱり、女の子に生まれた以上好きな男(ひと)と出会って、結婚して、子供を生んで、家庭を築いて、そして最後はその好きな人とほぼ同時に死にたいものだ。と、歳相応にアーニャは思うのだった。
 いや、正確には思うようになったのだった。
「可哀想……とても」
 アーニャは本心からそう思っていた。
「んあ、何か言ったか!?」
 ジノが最下位ゴールの不機嫌さをそのまま表した顔でアーニャに言った。アーニャは更に不機嫌な顔をジノに向けてやった。
「別に」
「じゃあもう一回だ!」
「何がじゃあ、なのか分からないけど望む所」
 そして、レースは32回目に突入した。
 ロイとは違い、二人の夜は遊びで更けていった。

 シーン9『気持ちの問題』Bパート終わり。Cパートに続く。
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 32
37 :KOUSEI ◆g9UvCICYvs [sage]:2008/11/16(日) 20:22:19 ID:PAVTxe14
 投下終了です。
 支援感謝です。
 ではでは〜。
<連絡>
 あと、申し訳ありません。今後は国家試験に集中するため、更新は二週間に一度程度になると思います。


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