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名無しくん、、、好きです。。。
コウ ◆W56eoB1Y.M
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29

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コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
487 :名無しくん、、、好きです。。。[sage]:2008/10/23(木) 22:37:15 ID:t78fJBNw
投下いいですかね?少し長いので、支援お願いしたいのですが
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
490 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 22:43:43 ID:t78fJBNw
では投下します。

先日ようやく本編最終回を見ました。
そのアフターものです。短編です。長編の続きではありません。

!注意!

・名無しですが、オリキャラみたいなものが出ます。
 ただ、流し読みでもいいので出来たらオリキャラ苦手な方にも読んでいただければ嬉しいです。


少し長いので、支援お願いします。

タイトルは『明日へ/ありがとう』
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
493 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 22:49:18 ID:t78fJBNw
これまでの人生における一番の後悔事は何か、と問われれば私は迷うことなく即答する事が出来る。
何のことはない。それは、祖父の死に目に立ち会えなかったことである。
私が祖父の突然の危篤の報を受け取ったのはペンドラゴンのカレッジであったため、故郷であるオーストラリアの病院に着いた時には既に連絡を受けてから8時間が過ぎていた。
息せき切って病室に文字通り飛び込んだ私の目に映ったのは、泣き咽ぶ母と、その母とは対照的に静かに祖父の安らかな死に顔を見つめる祖母の二人だった。
「……久しぶりだな」
意味のある言葉をなかなか発する事が出来ず、栗色の髪を震わすだけの母に代って祖母はそうポツリと一言呟くと、再び祖父の顔に視線を落した。
祖母の目に涙はなかったが、その横顔に、私の胸はキリキリと音をたてて痛んだ。

私にとって祖父とは、ただ祖父であるだけでなく、父親であり、また兄のような存在でもあり、付け加えるならば初恋の相手でもあった。
別に私には父親がいないというわけではなかったが、私の父親という人は骨の髄までのワーカホリック、
つまりは仕事人間であり、私には彼が家族というものに対して何ら関心を持たないように見えた。
遊園地に連れて行けとせがむ幼い私に、私と母のチケットとして一日分のフリーパスを二枚だけ寄越して自分はさっさと仕事に行ってしまったし、
私の誕生日パーティーに参加したこともなければ、学校行事の存在も覚えていなかっただろう。
なおも言いつのる私に父は、「社長から動かないと、部下がついてこないだろ」という子供心には到底理解できないような言い訳を放ちながら、
緊急だと言って逃げるように会社に向かった。
母も母で、お父さんはカッコつけだからねー。と、父をかばっているのかいないのかよく分からない事を楽しそうに言っていたが、子供が納得できようはずがない。
なるほど今思えば、父が祖父から会社を任されたのは丁度その頃で、偉大な先代の後釜ということで舐められないように父も必死だったのだろう。
だからと言って、何度も言うように当時の私にわかるはずもなかったが。
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
494 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 22:50:53 ID:t78fJBNw
そんな私が可哀想になったのか、はたまた自分のせいで父が私にかまえなくなったと考えて申し訳なく思ったのだろうか、祖父は私の父親のように振舞ってくれた。
遊園地のジェットコースターには祖父と母と私の三人で乗ったし、私の誕生日パーティーには祖父がチョコレートケーキを作ってくれた。
入学式に始まり、授業参観に遠足、運動会から文化祭、終いには卒業式まで。ありとあらゆる行事に来てくれたのは祖父だった。
実に私の子供時代は祖父と共にあったというわけである。父親不在の家庭において、私が特に鬱屈した歪みを抱え込まなかったのも彼の存在が大きかったと言ってよい。
 
永遠の眠りについた祖父は戸籍上丁度70歳だったが、それでも往年の若さは失われているようには見えなかった。
白髪のように見えなくもない――以前私がうっかりそう口を滑らせた時、祖父は大層落ち込んだようだが――
綺麗で柔らかな銀灰色の髪も品良く整えられていたし、造形美の上位に位置するであろう整った容貌は彼の若々しさを大いに後押ししていた。
そこらにいる典型的なメタボリック体型でもなければ、骨と皮だけの骸骨でもない。
すらりと均整のとれた体躯は一見細そうだが、無駄なくついた筋肉は引き締まっていて力強く、抱きついた時の逞しさは今でも容易に思い出せる。
内面においても、穏やかな性格ながら祖父の言葉には多くの経験からくるのであろう説得力と明晰さがあり、
また頭の回転も早く、場の空気を読むことに関しては無意識ではないかと疑うほどに自然で嫌みがなかった。
若い頃はさぞかし浮名を流したことだろう。
実際、祖父は幾つになっても近所に住む女性には老若問わず大変な人気があるようだった。
「昔は今よりも少し天然が入っていたがな。最近ではどうも、自分でコントロール出来るようだ」
まだ祖父が存命の頃、彼のあの性格は昔からかと尋ねた私にそう言って、祖母は肩をすくめた。
 
そんな祖父だから、私は相当な楽観を持っていた。少なくとも、私の子供くらいは彼に抱き上げてもらえるだろうと思っていたのだ。
けれどそんな孫娘の期待をスッパリと裏切り、あまりにもあっさりと、あまりにも儚く、私の初恋の人は逝ってしまったのだった。

コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
496 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 22:56:53 ID:t78fJBNw

――――――――――――――――――――――

「おばあちゃん……」
祖父の葬儀の翌日、今では祖母一人のものになってしまった祖父母の家を私は訪れていた。
街の郊外にあるそれは、シミ一つない白くて綺麗な木目の外観が特徴の、なかなかに年代ものの家屋だ。
祖母の大切な人から譲り受けたというこの家では、毎年私の誕生日パーティーが開かれる。
それだけでなく、ペンドラゴンのカレッジに進学するまでほとんど毎日のように通っていたこの家は、いわば私にとって第二のホームだった。
しかし半年ぶりとは言え、その慣れたはず家のリビングにおいて私は微塵も動くことができずただ立ち尽くしていた。
私の視線の先には、たった今私が呼びかけた人物、つまり祖母がいる。
特に何か目立った変化があるわけでもない。いつも通りの祖母だ。
祖父の愛用していたアンティークのアームチェアに腰を下ろし、そのアーム部分に片肘をたてて、手のひらに形の良い顎をのせている。
彼女の顔が向く先にはテレビがあり、何度も再放送されている半世紀程前のある独裁者についてのお馴染みのドキュメント番組が小さな音をたてていた。
祖母とそれほど親しくもない人間ならば気付かないだろう。だが、祖父と同様に彼女とも血の繋がり以上の絆を持つと自負する私にはわかった。
わかってしまった。
目に痛いほどの鮮やかな緑光の髪も、遠目からでもわかるきめ細かい白雪の肌も、
三人の子供を産み、なおかつピザを筆頭にジャンクフードばかり食べているくせに平然と保たれているモデルのような抜群のスタイルも。
いつも通りだ。そう、何もかもがいつも通りなのだ。
ただ一つ。
普段は皮肉気な、悪戯好きなチシャ猫のような、そんな小気味良い光が湛えられているはずの金色の瞳が、
何を見るでもなくぼんやりと虚空を彷徨っている以外は…。
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
498 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 22:58:57 ID:t78fJBNw
祖母の異常性について私は、小学生の時に祖父から詳しく聞いていた。
異常性とは、要するに私という孫がいる祖母が10代の少女であるということだ。
それは、気持ちが若々しいとか女の命である肌の年齢が10代とかいう事ではない。言葉通り、見た目通り、祖母は少女の姿をしていた。
私が地元のジュニアハイに上がり、卒業して街の中心にあるハイスクールに入って、さらにそこを出てペンドラゴンのカレッジに進学しても、彼女の外見に変化は無かった。

『不老不死』

話だけなら三文小説にも劣る陳腐な想像の産物も、実物とその証拠を見せつけられれば壮大なノンフィクション大作になった。
永遠に年を取ることもなく、死ぬこともない。
それはどんなに凄いことなのだろう。医学の発達は人類の限界の極致に辿り着いたといわれるこの時代においても、人間は死から逃れることも許されることもない。
あの祖父ですら例外ではなかった。
それはどんなに喜ばしいことなのだろう。歴史の奔流の中で、権力を得た者たちの多くは永遠の若さ、永遠の命を望んだ。
自らが世界の主として繁栄し続けるために。自らの美貌が損なわれないために。
それはどんなに楽しく、美しく、万能で、幸福で、気楽で、そして――
どんなに虚しいことだろう。
 
祖母の秘密は一家の中では当然のことだったが、もちろん誰も家族以外の他人には話さなかった。
私にとってはすでに慣れていたこともあって、祖母の秘密がどうということはなかったし、それを話すことで何らかのトラブルが生じることはわかりきっていたからだ。
けれどそれ以上にこの時私は、この祖母に対してあまりにも大きな憐憫の情を抱かずにはいられなかった。
あの祖母である。
当然祖父が逝くことに対しての覚悟もあっただろうが、それがいざ現実に到来した瞬間、いかに彼女とはいえ、その心への打撃は私の受けたものとは比べものにならなかったはずだ。
そしてそれを永遠に引きずる。言葉通り、永遠である。この先あの祖父の暖かさを知って、それでもなお永遠に独り生きていかなくてはいけないのだ。
ぞくりと私の心は震えた。
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
499 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 23:01:39 ID:t78fJBNw
幼い私から見ても、祖父と祖母は目に見えない、しかしとてつもなく強固な絆で結ばれている事はわかっていた。
それは愛でもあったが、それ以上にもっと深くて靄がかかっているように掴みづらいものだった。
私の父の性格は間違いなく祖母の遺伝であったが、彼のものなど可愛いく思えるくらいの祖母のそれも祖父はあっさりといなし、包み込んでいるようであった。
思わず口元が引き攣るような辛辣な皮肉も、気まぐれな猫のようにそっけない態度も、祖父にだけは何処吹く風だったのだ。
本当にお互いがお互いを理解していて、自然に一緒にいられる。
私にとっての初恋の相手は祖父であったが、今思えば祖母と一緒にいる時の祖父を私は最も愛していたのではないだろうか。
理想とも言えるあの二人の関係や距離感にこそ、幼い私は恋をしていたのではないだろうか。
だからその一対である祖父がいなくなった時、私の悲しみは彼の死と一緒に、もうあの祖父母の関係を見る事が出来ないのだということにも起因していたはずだ。
そしてその悲しみは、当のもう一対である祖母にとってはきっと私の何倍にもなるだろう。
鳥の中には、つがいの片一方が死ねばもう片方も後を追うように寂しさで死ぬという、恋だの愛だのを詠う詩人の創作意欲を大いにかきたてるような種もいると聞く。
確かに彼女が死ぬことなどはないのだが、もしかしたらもしかするのではないか。ひょっとしたら、このまま祖母も……。

「…っ…おばあちゃん」
心に入り込もうとした恐ろしく冷たい何かを振り払い、私は先ほどより強い調子で祖母を呼んだ。その甲斐あってか彼女はゆっくりとこちらを向く。
「……!」
しかし私の脆弱な心は、再び冷たい何かによって竦みあがった。祖母の表情は常の生気溢れるそれではなく、感情という感情を削ぎ落としたかの如き無表情であったからだ。
(まるで……)
『人形』だ。
頭に浮かんだ言葉が祖母の秘密と相まっていやにリアルに思えて、私は慌てて頭を振った。必死に。何かを追い払うように。そんな事を考えてはいけないと自分に言い聞かせた。

コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
502 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 23:03:47 ID:t78fJBNw
「……涙もでないな」
と、突然それまで黙っていた祖母が言葉を紡いだ。川のせせらぎのように流れた言葉は、意識しなければ耳に入らないような調子だった。
「っ、おばあ、ちゃん!」
「…………」
三度、私は祖母を呼んだ。存在を確かめなければ、彼女が消えてしまうような気がして出た言葉だった。
「……私も、お前やあいつのように泣ければ良かったんだが…無理だったよ」
「………うん」
あいつ、とは私の父親、つまり祖母にとっては息子にあたる男のことだろう。
「でも…私は、吃驚した。父さんが泣いたところなんて、その、見たことなかったから」
「…兄妹の中では、あいつが一番懐いていた」
「やっぱり、そうだったんだ…」
あの仕事人間の父が、自主的に祖父の葬儀に参列したことは、私にとって小さくない驚きを提供した。
どうせ何か理由をつけて来ないに決まっていると私はふんでいたし、正直祖父を失った悲しみは私の方が大きいと思っていた。
父とは別段不仲ではないが、惰性で祖父を送るような人間には来て欲しくなかったのだ。
祖父が逝った時、父は仕事の都合でヨーロッパの方に行っていたらしいが、こっちにいたとしても果たして彼は仕事を放り出してまで祖父の病院に来ただろうか。そう私は考えていた。
だから葬儀の時に、祖父の棺に取りすがった父が大きな声を上げて泣き出した時など、私はこれは夢か幻かと自分の正気を疑わずにはいられなかった。
祖父の色である銀灰の髪を持った叔父と、祖母の色である緑光の髪を持った叔母が左右から宥めなければ棺にずっと縋りついていそうな父の勢いに、
自分が祖父と父の関係を完全に見誤っていたことを私は悟ったのだった。

コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
505 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 23:07:02 ID:t78fJBNw
「…ねえおばあちゃん、これからどうする?」
今できる限りの陽気な口調を取り繕って、今度は私から祖母に用件を切り出した。先程から頭をぐるぐると色んな考えが巡って落ち着かなくなってきたので、テレビの前の青いソファに座りながらである。
さっきまで立ち尽くしていた位置より活動を続けるテレビに近くて、今の私にはその音さえも少しうるさく感じた。
「…どうする?」
祖母はゆっくりと首をかしげた。彼女の表情はまだ何も形を作らない。私はそれが怖くて、目をそらしながら早口に言った。
「うちに移ってこないかって、母さんが。おばあちゃんと一緒なら母さんも楽しいだろうし、私もそれが良いと思うんだ!だから、その、ね……」
「…………」
答えは居た堪れなくなるような沈黙しか返ってこず、私の用件はすっかり尻すぼみになってしまう。
言葉が途切れると、すっ、と祖母の視線が動いた気配がした。何だろうと気になり恐る恐る見れば、彼女の視線はテレビに向けられている。
「…………ぁ」
すると、私の知る彼女からは考えられないような、無防備で可愛らしい呟きが聞こえた。
驚いたことに、ふと祖母は何かに気づいたように目を軽く開くと、先程までの虚空を彷徨っていた視線をわずかながら現実に引き戻したようであった。
「…?おばあちゃん?」
「……どうやら、相当参っているみたいだな、私は」
祖母の口調は、既に元に戻っている。
「え?」
「こんなものがやっていた事にも気付かなかった」
そう言って祖母はテレビを指差した。先ほどから変わらず放送されているのは、例のドキュメント番組である。
画面には大きく、『魔王の所業』というテロップに、私にとってはフィクションの世界の出来事でしかなくなったナイトメアフレームによる大規模な戦争の映像が映っていた。
「…これがどうかしたの?」
「ん?ああ……いや、何でもない。それよりも、何だったか。そう、むこうに移るかという話か」
「うん」
「そうだな…」
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
507 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 23:09:26 ID:t78fJBNw
曖昧に言葉を濁しながら、祖母は再び視線をテレビに移した。番組は終りが近づいてきたのか、静かな音楽と共に『魔王の最期』とテロップが変わった。
祖母につられるように目を向けた私も、この場面は馴染みが深いので映像を何の気なしに見つめた。
映画、ドラマ、舞台劇、本…死後50年という歳月が流れたこの独裁者について製作された数多くのそれらは、ほとんどがお約束のシーンとしてこの場面を最後に持ってくる。
誰が考えたのか、朗々と謳われる終幕の文句もいつも決まって同じものだった。

――世界を手中に入れたかに見えた魔王は、蘇った英雄の剣により斃れる。
賢き民衆は平和の尊さを知り、英雄と共に地上の楽園を築くべく歩き出す。
再び魔王が蘇ることのないよう、皆で手を取り合って守っていこう。この、きたるべき明日を――

そして、物語は終わる。今に連綿と続く空前の世界平和の時代の到来である。画面が暗くなり、余韻を持たせたかと思ったらすぐに次の番組が始まった。
「ふふっ」
漏れ出たような小さな笑いに、私は意識をテレビから離した。
「明日、か」
祖父が逝ってから久しく失くしていた祖母本来の調子が、少しだけ、ほんの少しだけ、その声にはあった。
「おばあちゃん?」
「…悪いな」
祖母は立ち上がる。
「え?」
「やっぱり母さんには、一緒にいれないと伝えてくれ」
「……な」
「少し回ってみたくなった、世界を」
「…は、はあ!?」
一体全体突然何を言い出すのかと私が立ち上がり質す前に、祖母が此方を向く。
まだ少し足りない。
けれど、だいぶ彼女らしさを取り戻した、夜空の月のような金色の瞳と視線が交差した。
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
509 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 23:11:33 ID:t78fJBNw
お互いに相手を見つめながら、

「あいつらが残した明日を見届けてやるのが、魔女である私の役目だろう?」

祖母はそう言って、何とも言えない表情を浮かべた。
祖父を喪失した大きな悲しみと、何かを見つけたような小さな喜びの入り混じったそれは、胸がしめつけられるような、それでいてとても眩しく輝くものを見るような、不思議な感覚を私にもたらした。
その表情のまま何故か祖母は、ゆっくりと、いっそ慈しむとすら言えるくらい優しく私の頭からつま先までを見直してくる。今まで向けられたことのないような月光の瞳に、どこかくすぐったい思いをする。
一つ頷くと、彼女はまた私の目を覗き込むように視線を合わせてきた。

「そうとも、私は…」

胸に軽く手を添え、姿勢良く立った祖母の頬を、ほんの一筋だけ、私が見る最初で最後の彼女自身の涙が濡らしている。
だけど次第に変わっていく彼女の表情は、今度こそ間違いなく会心の、切なくも誇らしげな微笑みで、

「私は、C.C.なのだから」

その気高き孤高の魔女の姿に、知らず私は見惚れた。

――――――――――――――――――――――
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
511 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 23:15:07 ID:t78fJBNw
――――――――――――――――――――――

――世界を手中に入れたかに見えた魔王は、蘇った英雄の剣により斃れる。
賢き民衆は平和の尊さを知り、英雄と共に地上の楽園を築くべく歩き出す。
再び魔王が蘇ることのないよう、皆で手を取り合って守っていこう。この、きたるべき明日を――

番組が終わり、画面がブラックアウトしたのを確認すると、ライは右手に持ったリモコンでテレビの電源を落とした。
「う……ん」
自分でも知らないうちに熱心に見入っていたのか、体全体が凝り固まっている事に気付いて、彼は愛用のアームチェアに座ったまま伸びをした。
ぐっと体をほぐした後に、そろそろだろうとリビングの柱時計を見る。時計は夜の11時を指していた。
それを確認してからゆっくりと立ち上がると、ライは庭に面したバルコニーの方へ足を進めた。
軽くバルコニーへのガラス戸を開けてみると、さすがに夜遅いこともあって風が冷たい。それでも我慢できないほどでないことが分かると、彼は迷いなく星空の下へ出た。
手すりに両手を置いて、空を見上げる。世界の中でも、ここオーストラリアは特に自然に恵まれている。そのおかげか、月も星も眩いばかりの輝きを発していた。
「父さん」
後ろからの呼びかけは若々しい凛とした響きと自信とに満ちていて、鋭く冷たい夜風と奇妙な調和を成していた。ライは振り向く。
その際、今は亡き大切な友人の一人が指摘してくれたように、足が自動で戦闘の構えを取ったが、彼はこれはもう癖のようなものだと諦めていた。
ライは目の前の人物と視線を合わせた。母親譲りの金色の瞳にはしっかりとした光が湛えられていて、彼は心中で喜びつつも一抹の寂しさを感じた。
明日には青年は、本当の母国の大地に足を踏み出すのだ。
「母さんに挨拶はした?」
内面の若干の複雑な感情をおくびにも出さずにライは問うた。その言葉に、目の前の少年、もとい青年は疲れたように頷く。
「…ああ。あっちには清々するって言われたけど。カレッジを卒業しても、もう帰ってくるなって」
「はは…」
ライは苦笑するしかない。その光景が、まるで見ていたように容易に想像出来たからだった。
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512 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 23:18:31 ID:t78fJBNw
「そっか…。でも、あの母さんだってきっと寂しいんだよ、息子の独り立ちは。それを認めたくないから意地になるし、心にもないことを言う。許してあげてくれ」
「…あれが、寂しいだって?」
青年は、異次元の存在である何かを見るような目つきをした。その視線にも、ライは再び苦笑を返すしかない。
「まあ、いいか。父さんがそう言うなら。…俺には少し理解できないけど」
「うん、よかった」
言って、ライは夜空を見上げ続けた。満天の星が散りばめられ、その中心にひときわ強烈な光を反射している月がある。

――もう、20年か。

ライは目を細めて、あの眩しくも苛烈な日々を思い返した。
20年前、彼は二人の親友と共に、世界を敵に回した。
彼らとの誓いも絆も、ライは信じていたし、戦うことに迷いはなかった。
当初は計画を止めるつもりでいたが、時機を逸したことを悟ったライは、鎮魂歌のフィナーレになんとかして、それこそ自らの命と引き換えにしてでも彼らを逃がすつもりだった。
けれど、結局最後の最後で彼にとってのみ信じられない事に、ライは二人の親友に見事に裏切られた。彼らは、ライのフィナーレへの参加を断固として許さなかったのだ。
最終決戦の前夜、ライは友の一人に寝込みの状態を蹴り飛ばされ、衝撃を殺しきれずベッドから横っ跳びに落ちた所を、もう一人の友の指揮する衛兵に抑えつけられた。
わけが分からず逃れようともがくライに対して、すぐに聞き覚えのありすぎる声が掛けられた。

『お前とは此処でお別れだ、ライ。罪も罰も、すべて俺たちが貰っていく』

『君は、こんな馬鹿げた芝居に付き合う必要はない』

自分を見下ろして冷然と言い放つ二人に、ライは何が起こったかを悟り、叫んだ。叫びたかった。ふざけるなと。何故、何故自分だけを置いていくのかと。
しかしそれは、音として発せられることはなかった。幾人もの衛兵に抑えつけられた段階で薬を嗅がされた彼の意識は、霧に包まれ始め、闇に溶けていった。
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515 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 23:22:32 ID:t78fJBNw
やめろ
声は出ない。だが、ライの魂の叫びは、彼の意識が薄れても止むことはなかった。
やめろ、やめろ
『すまなかった、本当に』
やめろやめろやめろやめろ!
『ライ…ごめん』
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!
『『―――――』』
やめてくれ――――!!

暗転

と、ほぼ同時に聞こえた彼らからの、先ほどの冷然さとは打って変わった暖かな言葉。
そしてそれが、ライの聞いた二人の最後の肉声だった。
魔女による精神干渉もあって、彼が再び意識を取り戻したのは無情にも二ヶ月の後。
舞台の幕は、下りていた。

「……父さん」
その声に、ライは残酷な過去への回帰を止めた。あの時のことを思い出すと、いつも周りが見えなくなるのは自分の悪い癖だと彼は思った。
少なくとも、そう思えるくらいに今の彼は大人になっていた。それが良いことなのかどうかは、また別の問題だが。
「何だい?」
尋ねると、珍しい事に少し逡巡してから、ライの目の前の青年は思い切ったように言った。
「…………一度しか、言わないから」
「ん?」
息を軽く吸い込む。

「………ありがとう」
俺の、父さんでいてくれて

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518 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 23:25:03 ID:t78fJBNw
「………」
呆然、まさしく呆然であったが、この時のライの自失は、一瞬とはいえ無理からぬことだった。
青年の、少し目を逸らしてそっけなく言うことで照れくささを隠すような様子は、ライの記憶にある一人の友と本当にそっくりだったから。
今までにないくらい、ピタリと一致するものだったから。
だが、その時の呆然は本当に一瞬だった。同時に気持ちの奥底から湧き上がるくすぐったさと、
それよりも大きな後ろめたさをブレンドした暗い感覚を覚えて、ライはなんとかすぐに反応することが出来た。が、
「そんなこと、」
「それと!」
多少ボリュームの上がった声に遮られる。
「俺の生まれが何だろうと、父さんが嫌がったとしても、俺の父親は、父さんだけだから!それだけは許してもらうから!」
「っ!?」
柄にもないことを言って恥ずかしくなったのだろう。言い終わらないうちに青年は、戸口の方へ脱兎のごとく走った。
ライの方も今度こそすぐには反応できず目を見開いて硬直していたから、青年を追うことはなかった。
「………………」
数瞬の間、夜風のささやく音が世界を支配した。そして、なんとか意識の再建を果たした男の愉快気な笑いにかき消えた。
「…ははっ。ははは……あはははは」
彼にしては珍しい事に、笑いはなかなか消えてくれなかった。
「はは、は……。そうか…知ってたのか、あの子は」
噛みしめるような、ライの独語だった。
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
519 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 23:26:29 ID:t78fJBNw
…20年前、フィナーレの直前の舞台から突き落とされ、役者としての戦いを失い、しかも観客にすらなり損ねた無様な男は、
幕が下り、劇場の灯が消えた後もどうしようもない虚無感に囚われた。
傍らには、彼から見れば自分と同じようにまさに死に損ねたといった感のする魔女がいたが、彼の心には細波一つたたなかった。
彼女に対し、自分を今まで眠らせていたことを糾弾する気さえも起きなかった。
何をするでもなく、数ヶ月間を死んだように世界を歩き回って潰し、惰性で自分の存在をそこに置いていた。
ライは、自分にはこのまま何もせず、ただ無気力に朽ちていく運命こそが相応しいだろうと思っていたし、この世に未練はなかった。
未練がないから、未練がなかったのだ。彼の心は死にかけていた。
しかし、彼は今度は逃避という名の眠りにつくことすら許されなかった。その理由は既に、小さくとも確かな生命をもってこの世界に息衝いていたのである。

「親が思いもつかないほど、子供は聡い。ということかな」
何でもないように言うが、その実、自分が父親だと言われたライの心はさっきまでの複雑な暗い感情に代って、暖かな気持ちで満たされていた。
ありがとう
俺の、父さんでいてくれて
「それにその言葉を言うのは、僕の方だっていうのに…」
そう言って、彼は戸口の方へ視線を向けた。
たった今翻って家の中に入った、正真正銘の自分の息子――金色の瞳に烏の濡れ羽色の髪を持つ青年を思い浮かべながら。
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
521 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 23:30:28 ID:t78fJBNw
「…見てるかい?」
そのまま視線を風が吹きすさぶ夜空へと上げて、ライは呟いた。
その言葉の行先は、目に見えない明日へと繋がっていく。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」

「枢木スザク」

ライは眩しそうに目を細めた。

魔王、反逆帝、史上最悪の独裁者
死神、裏切りの騎士、恥知らずの売国奴
彼らを形容する言葉は、どれも痛烈で容赦ない。口にする人々も、吐き捨てるように言う。
それはそうだ。何故なら、彼らはそれだけのことをしたのだから。彼らは世界の敵で、憎しみの権化で。
だから…人々が彼らをそう呼ぶのも、当然のことなんだ。計画通りじゃないか。

だけど――

「忘れないよ」
他の誰のものでもない、僕にとっての真実を。僕にとっての君たちを。
目を閉じればすぐに聞こえてくる、あの時の、君たちの最後の言葉も。

『ライ』
これはルルーシュ。どこか照れくささを隠すような、素っ気ないふりをした捻た言い方。
『ライ』
これはスザク。どこまでも真っ直ぐに、こちらが照れるくらい気持ちを押し出す言い方。
次の瞬間には二人の声が重なり、最後の、永遠の離別の言葉を紡ぐ。
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
522 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 23:32:02 ID:t78fJBNw
『ありがとう』

「…………ああ」
ライはゆっくりと目を開き、安らかな笑みを表情いっぱいに湛えた。
無限に広がる満天の星。煌々と輝く中天の月。彼らが切に願ったように、世界は、人々は、確実に今日も明日へと進んでいく。

「…そうだ。君たちは、本当に……」

その言葉を言うのは、僕の方だっていうのに。

「ルルーシュ」

魔王でもなければ、

「スザク」

死神でもない。

「僕は今…幸せだよ」

大切な仲間として、永遠の友として、

「とても、とても幸せだ」

此方を振り向き、笑って頷いてくれる二人の姿が、ライには見えた。

「ありがとう」

そうして、とめどなく流れる涙にかまわず放たれた言葉は、高らかに夜天に響く。

その20年越しの想いに答えるように、二条の星が流れて消えた。
コードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレ 29
525 :コウ ◆W56eoB1Y.M [sage]:2008/10/23(木) 23:35:11 ID:t78fJBNw
終わりです。
スザクが死んでるのはライの勘違いとかではなく、20年の間にゼロとしての使命をやり尽くして、色々あって彼もまた満足して逝ったということで。
それとC.C.が子供産めるのかはわかりません。勝手な設定です。

さて、突然ですが私のロスカラSSはこれで〆となります。
もし万が一、長編の続きを待っていたという奇特な方がおられましたら、すいません。
先週から続きを再開して今週でなんとか終わらせる予定だったのですが、意外なほど諸々の事に手間取り、書けませんでした。
なので最後はずっと書きためてきたこの短編になってしまいました。
来週から一年間かけて、何を差し置いてもやりたかった事をやってくるので、ほぼ確実にSSが書けなくなります。ですからこんな形ですがお別れです。

今まで私がお世話になった中で、最も一生懸命で粋な保管庫管理人さん
投下の度に強力な支援と素敵な感想をくださったスレ住人の皆さん
本当に、心から感謝したいと思います。

ありがとうございました

さようなら


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