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618 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:10:30 ID:DfQq5FIN -
「……見つからんな」 「……見つかりませんね」 時刻は間もなく夕刻。太陽の沈む茜色の空を見上げた少女の溜息がひとつ。 ウエディングドレスに身を包んだ一乃谷刀子は、静かに現状を憂う。 逢えない、見つからない。 愛しい如月双七の姿は、何処を捜しても見つけることができなかった。 探索に費やした時間は二時間ほど。 何度かの休憩を挟みながら、連れである九鬼耀鋼の言葉を信じて線路沿いに往復していた。 時間が経過し、虱潰しに周囲を捜索し……やがて、二人の間に当然の帰結である結論が生まれた。 「移動したか。当然といえば当然だがな」 「やはり、双七さんも……羽藤桂さんや、アル・アジフさんといった人たちもですか」 「そうだろうな。全員、襲撃によって離れ離れになってしまった。集合地点は決められなかったからな」 「仕方、ありませんね……」 時間を無駄にした、という事実が疲労として体に染みる。 捜し人どころか、別の参加者を見つけることもできなかった。この近くにはもう人もいないのかも知れない。 双七は何処に行ってしまったのだろうか、と共通の知人の姿を二人は思う。 徒歩で歩いているのか、電車で遠くに行ってしまったのか。それすらも情報もない現状では把握できない。
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620 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:11:54 ID:DfQq5FIN - 仕方がなく、二人は進路を北に取る。
中央方面なら人もいるだろう、という結論。誰でもいいから接触、情報は必要不可欠だ。 九鬼と刀子、二人の利害関係が再び一致する。 「お嬢さん、付いてくるか?」 「手分けして捜す、という方法もありますが……情報がない以上、闇雲に回っても先ほどの二の舞でしょう」 「なら、もう少し同行するか。いざというときは、二手に別れる必要もあるかも知れんからな」 地図を片手に九鬼は大地を踏みしめる。 コンクリートだった足元が、やがて地面となり……そして、草木が混ざりはじめる。 方角は森へ。とりあえず考えの裏側を取るために、廃屋まで歩いてみようということになった。 周囲への警戒は忘れない。 歴戦の勇士たる九鬼はそのことを頭に留めながら、余った時間で刀子へと尋ねる。 話題はあの男、彼女の兄である一乃谷愁厳だ。 「あの男は、まだ寝ているのか?」 「……いいえ、もう起きています。今は大人しくしているようですね」 「いいことだ。そのほうがこちらとしても助かる」 一乃谷愁厳。 刀子の兄にして、神沢学園生徒会会長。 そして妹のために二人の人間を殺害した、罪深き者。 双七たちまでがこの殺戮遊戯に巻き込まれているという真実を告げた以上、妙な真似はしないはずだ。 兄の犯した罪はあまりにも重い。 人殺しの罪状は一生掛かっても償いきれるかどうか、分からない。 それでも償わなければならない。たとえ許されないとしても、たとえ贖えないとしても。
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623 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:12:28 ID:DfQq5FIN - 「……と、ところで。他の皆さんは何かの服を持っていないでしょうか?」
「可能性としてはないわけではないがな」 「……何故、私たちの支給品の中に、私の制服を入れてくれなかったのでしょうか」 「紛うことなく、嫌がらせだな」 首肯を一度し、真っ直ぐに歩く。 警戒は怠らない。周囲……半径30m程度ならば、もはや動物ですら見逃さない。 先に起きた戦い。羽藤桂たちと別れてしまったあの時のことを九鬼は思い出す。 まさに失態だった。あのような無様の二の舞は起こさないと決めていた。 刀子もまた、兄の罪滅ぼしのために足を動かす。 償いきれない大罪だ。兄妹がこの身体を賭けても贖えるかどうかが分からない。 浮ついた気持ちは振り払った。この身は兄の贖罪のために。 森の中を歩く。 動物すら周囲には存在しない、静かで不自然な森の中。 静寂を超えて寂滅と言わんばかりに静かな夕暮れの森林浴。 『あー、ひゃひゃひゃひゃひゃ! ドクタァァァァァァアッ、ウェェェェェェストッ!!!』 だったはずなのだが。 突如、響き渡る人の声。狂ったような高笑いと騒音が寂滅の森を賑わせた。
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625 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:13:19 ID:DfQq5FIN - ぴたり、と。九鬼と刀子の足が止まる。
男は驚愕に目を見開いた。この殺し合いの最中、マイクだか拡声器だかで自己主張するようなキ○ガイがいるとは! 刀子は小首を可愛らしく傾げた。何処から聞こえてくるのだろうと、二人は辺りを見回してみる。 『さすが我輩! 試運転から二時間、周囲に呼びかけて見るも人影はなし! 思いっきり乗り回したら突如エンストに我輩涙目でぽつん。 一時は喉も枯れて我輩、もうダメだよパトラッシュ……しかししかししかしッ!! この大天才の前に不可能はないッ! 即座に修理っ、息を吹き返すはスーパーウェスト爆走ステージ『魂のファイアーボンバーァァァァァア』ッ!! ちなみに今は再び試運転なのである、まる。 テステス、マイクのテスト中。さあ、我輩の科学力に平伏すべし一般人ども! つーか生きている人、この指止まれーーーーー!!』 ギュイィィイイン、と喧しい騒音が辺りに響く。 あまりの勢いに気圧されてしまうが、このまま黙って立ち尽くすのもナンセンスだろう。 とっととあの勇敢な困ったちゃんを、華美な車から引き剥がしてやらねばならない。 九鬼は騒音か、それとも目の前の問題が原因か、僅かに顔をしかめて頭に手を当てている。頭痛がしているらしい。 「あー…………少しいいか?」 『どわーはっはっはっはっはっはッ!!!』 「……おい」 『いーっひっひっひっひっひっひッ!! ドクターーーーーーウェェェェェエ、」』 「…………ふんっ」 『ス、どぐはっ!? …………ぷつ、ぷつ、ブツ』
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628 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:13:43 ID:DfQq5FIN - 埒が明かないので制圧。
九鬼が軽トラックを思いっきり蹴り飛ばす。 興奮していたウェストは彼の接近に気づかなかったらしく、奇襲に為す術もない。 トラックから転がり落ちて三日天下を演出。小型マイクのスイッチは刀子が溜息を付きながらぷつり、と消した。 「なっ、なっ、な、なにをするのであるかーーーーーッ!!!」 「莫迦なことをやろうとしてた馬鹿を止めただけだ」 「ん? 馬鹿とは誰のことであるか? ……イッツ、ユー?」 「…………お前だ、お前」 常人が聞いたなら苛立つだろうが、九鬼はどちらかと言えば呆れ果てている。 刀子は苦笑いしながらも、ようやく人に巡り合えたということを歓迎することにした。 一方のウェストも同じく人を捜す立場の人間だった。 問題は自身を天才と認め、崇める第三者を捜しているということだが。九鬼の言葉には嘲りしかない。 「なぁぁああんと!? この大・天・才ッ! ドクターウェストに向かって馬鹿!? なんという愚かな妄言っ、なんという無知、無知とは罪、罪には罰があるのが定説であると我輩は語る!!」 「…………ああ、分かった。分かったからとりあえず落ち着け」 ぎゃー、ぎゃー、ぎゃー、と叫び声。 静寂は僅か三人で打ち破られ、森の中には喧騒が巻き起こる。 実質、マシンガントークは一人だけ。それでもウェストと打ち解けるには時間が掛かった。 刀子は埒の明かない会話を見て、ほんのりと溜息を付くのだった。 ◇ ◇ ◇ ◇
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631 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:14:44 ID:DfQq5FIN - 「つまり……貴様は死んだ人間である、と。そういうのであるな、九鬼耀鋼」
「ああ。確かに死んだ記憶はあるのだがね。もっとも、この記憶そのものが植えつけられたものという考えもアリだが」 「やはり……別世界。そして、死者の蘇生は真実と考えるべきでしょうか?」 「現実に死んだ人間がこうして生き返っている以上、恐らくは真実と考えるのが妥当であるな」 ようやく、落ち着いて情報交換を執り行えたのは周囲が茜色に染まり始めた頃だった。 落日が森の中を幻想的に染め、不思議な雰囲気を醸し出している。 情報交換の内容は多岐に渡った。 九鬼が死んだことがあるということ。 平行世界の可能性についての意見交換。 如月双七、羽藤桂、アル・アジフを初めとする仲間たちの情報の交換。 「む……トーニャとはマッスル☆トーニャのことであるな。我輩、知っておるぞ」 「本当ですか!? ……マッスル☆トーニャ?」 出逢ったことのあるトーニャやアルについて。 そして、ドクターウェストという人材が九鬼の想定以上の科学力を持った天才であるということも。 「……つまり、この首輪を解除する自信がある、ということだな?」 「うむ、任せておくのである。我輩、このままあの神父どもに舐められるのは御免こうむるのである」 「私見だが……この首輪、科学力だけでは解除できんかも知れん。魔術についてはどうだ?」 「うーむ……そちらは魔導書を持たない我輩にはノータッチである……ええいっ、忌々しくてロンリーウルフぅぅぅうう!!」 ある程度の算段が整い始めた。 必要な人材。ドクターウェストのように首輪を解析できる者。アル・アジフのように魔術に詳しい者。 必要な道具。首輪と工具。出来れば解析できるような施設が望ましい。 そして設計図。あるとないでは大違いだと、自称大天才の男は語る。この会場に存在する可能性は薄いが、探す価値はある。
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635 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:15:51 ID:DfQq5FIN - 九鬼の中でそういった計画が次々と練りこまれていく。
基本は仲間集め。ウェストを仲間に引き入れた以上、後はアルたちと合流する。 後は戦力を増強させ、殺し合いを肯定した者たちを排除しながら、必要な道具を確保すれば。 このふざけた遊戯、終わらせることができるかも知れない。 今後のことを考えて、九鬼は思考に没頭していた。 願っていた科学力を持つ人材を仲間に出来たことに、気を緩ませていたのかも知れない。 夕暮れ時、魔が出没されるとされた時刻、逢魔ヶ時。 亡霊が静かに、生者の命を狙う時刻。 「……む……?」 魔弾が迫る音はなかった。 殺意など感じられない。たとえ九鬼が半径30mを警戒していたとしても。 その索敵距離を遥かに超えた場所の狙撃に、対処などできようはすがなかった。 ようやく、九鬼の耳に銃弾が風を切る音が届く。 思考から行動までの時間は一秒に満たなかった。常人では為す術すらなかった。 だが、しかし。 発射された銃弾が標的の肉体に突き刺さるまで、一秒など掛かるはずがなかった。
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639 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:16:45 ID:DfQq5FIN - 「しまっ――――ウェスト、伏せ、」
近くにいた刀子の身体を突き飛ばし、まずは安全を確保。生憎と手加減する余裕はなかった。 殴るような掌が刀子の胸に直撃し、九鬼の行動が信じられない、と呆然とする彼女は木陰へと転がった。 だが……遠くにいるウェストに手は届かなかった。 九鬼は羽織っていたコートを投げる。 彼のコートは防刃防弾仕様になっていた。防ぐまではいかなくとも、勢いは殺せるはずだった。 だが、無常にも弾丸はコートを貫いた。 彼のコートは普通の、何ら変哲もないただのコートに変更されていたのだから。 「むっ……? がはっ!?」 赤い夕暮れの色が世界を支配する中、鮮血が舞う。 九鬼のコートを銃弾は難無く貫き、そのまま標的の肉を突き破って己が仕事を全うした。 ウェストの身体に大きな衝撃が走り、激痛が全身を蹂躙する。 刀子の顔が凍りつく姿を、ぐらりと身体が倒れようとするウェストの瞳が捉える。 森の中へと続く道の中……亡霊は静かに、何の感慨も受けないまま追撃の姿勢を取っていた。 ◇ ◇ ◇ ◇
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643 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:17:43 ID:DfQq5FIN - (……浅いか?)
亡霊、吾妻玲二は静かに思考する。 コルトM16A2による狙撃のタイミングは完璧だった。並みの者ならば確実に命を奪っている。 非凡なる戦闘力を備える九鬼耀鋼だからこその反応があるからこそ、彼は首を僅かに傾げた。 舌打ちをひとつ。暗殺の心得として、頭ではなく心臓を狙ったはずだ。 だが、この距離では緑の髪の男の何処に当たったのか、確信できる材料が足らないことに苛立った。 南へと進路を取った玲二が三人の人影を発見したのは、烏月たちと別れて一時間近くだ。 あまりにも喧しい騒音に人の気配を感じ取った彼が見つけたのは、三人の男女の集団。 白髪に眼帯、長身の男は手強そうだった。殺すならまずはこちらだ、と当たりをつけた。 緑色の髪に白衣、ハイテンションな男はそれほど強そうに感じなかった。 黒髪にウエディングドレスに身を包んだ少女。こちらも精々、殺してきた少女とそれほど大差はないと予想。 襲撃するならば眼帯の男を銃撃。かろうじて避けても白衣の男に当たるように狙撃した。 眼帯の男が身体を捻って避けたのは驚きだが、目論見通りに白衣の男は地に沈んだ。 感慨はない、達成感はない。 我が人生の全ては愛しい彼女のために。人を捨てた亡霊が静かに死を告げる。
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646 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:18:35 ID:DfQq5FIN - ◇ ◇ ◇ ◇
「ウェストさんッ!!!」 「ちっ……腹をやられたか。お嬢さん、応急処置を施しておいてやってくれ」 倒れ伏すウェストに駆け寄る刀子。 対照的に苦々しい顔をしながら、九鬼は狙撃主へと対抗するために周囲へと視線を向けた。 敵はスナイパー。今、この瞬間も命が危険に晒されていることは間違いない。 誰かが敵を黙らせなければ、治療も何もなく、皆殺しになると戦場で培った冷静な思考が告げていた。 刀子は慌てて頷くと、デイパックの中を漁ろうとする。 その手を、震える男の腕が止めた。 驚いた刀子が前を見る。少し、唇を噛み締めて痛みに耐えながらも、不敵に笑うウェストの姿があった。 「……行くのである。応急処置は、我輩が自分で……やるのである」 「で、ですが……!」 「…………敵が迫ってきた以上、対処してもらわんと困る、ので……ある」 しかし、と刀子が食い下がるような時間はなかった。 九鬼が彼女の肩に手を置き、僅かに首を振った。 それだけの行為だった。それだけしかの行為しかできる時間はなかった。 刀子は僅かに迷って……そして、頷いた。今は襲撃者を何とかする。九鬼と二人で、確実に倒す。
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650 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:19:29 ID:DfQq5FIN - 「分かりました……死んでは、なりませんよ」
「ふんっ……誰に向かって言っているのであるか……我輩は次元一の大天才、ドクターウェストであるぞ……」 「その言葉を、信じます!」 力強く、少女はそう言って疾走した。 九鬼もまた、僅かにウェストへと視線を向けると……彼女を追って、襲撃者の元へと駆けていった。 ◇ ◇ ◇ ◇ まったく、この大天才を狙うとは愚かな奴なのである。 世界の損失。いや、むしろ宇宙の損失であることが分からんのか。まったく凡俗ばかりである。 腹が痛い。我輩泣きそう。 ぷりーず、ぶらっど。僕の身体に戻っておいで、マイ、血液。 ……眠いのである。 …………苦しいのである。 ………………楽になりたいのである。 ……………………想像以上にピンチなのである。 ええい、この程度の怪我、ギャグで済ませてしまえば。 ビルの倒壊に巻き込まれたって我輩は死なんのだ。え? コミック力場が発生していた? そんな事情は関係ねえ、である……ごふっ。
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652 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:20:14 ID:DfQq5FIN - ぐらぐら、と思考が揺れる。
脳に血液が行き渡っていないやもしれぬ。 このままでは。 このままでは、我輩もまた、多くの命と同じように。 「……認めんので、ある」 死んでたまるか、と我輩の心がギターで訴える。 こんなところで死ねない。 まだ大十字九郎との決着も付けていない。 主催者どもに大天才を敵に回した意味を教えてやらなければならない。 凡骨リボンをエルザ第二号にするプランも残っている。夢はいっぱい、理想もいっぱいで僕、ハッピー。 我輩は世紀の大天才。 この心が望む限りに。面白く、派手に、悪っぽく。 この世界全てに我輩の天才っぷりを披露し、証明しなければならんので、ある。
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656 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:20:49 ID:DfQq5FIN - 「はーっ、はーっ……とっとと帰ってくるのである、九鬼」
この首輪を解析し尽くした暁には、誰もが天才と認めるのであろう。 ほら、生きる目的もうひとつ。 立ち上がれ、我輩。白衣の一部を引き裂いて包帯代わりに。凡骨リボンのときも似たようなことをしたのである。 さあ、我輩の準備は万端。 後は九鬼たちが帰ってくるのを待って、科学の力に舌を巻かせてやるのである! イーヒッヒヒッヒ! イーッヒヒ…… ヒヒヒ…… ………… ……………… …………………… ………………………… ……………………………… ◇ ◇ ◇ ◇
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660 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:21:38 ID:DfQq5FIN - (どうする……?)
このまま残りの二人も殺害するか、それとも無理をせずに撤退するべきか。 奇襲に対する反応から考えても、眼帯の男が強敵であることは理解した。 更に倒れているはずの男とて、確実に仕留めたという自信はない。 玲二は少しだけ思考を巡らせると、再びウェストへと狙いをつけた。 一撃必殺、無理はしないのが信条だ。わざわざ強敵に真正面からぶつかる必要はない。 取り逃した少女が逃げたか、それとも木陰で震えているかは分からない。 故にまず、確実に一人を殺害するべきだと思い至り、もう一撃、今度は倒れる体にぶち込んでやろうと思って。 「……っ――――!」 がさがさ、と草の中を疾風のように駆ける少女の姿に驚愕した。 一乃谷刀子とて、少女ではあるが歴戦の猛者。 突然の事態に困惑こそしたが、仰け反る九鬼の体勢から方向を逆算。玲二の潜伏先を把握する。 後は牛鬼の脚力と、幼い頃から修練した一乃谷流の力を信じるのみ。 翻る白無垢のドレス。 無力と断じた少女の予想外の動きに、玲二の反応が僅かに鈍る。 疾駆する白い光が亡霊を貫こうと、白銀の凶刃が閃いた。
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663 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:22:38 ID:DfQq5FIN - 「ちっ……!」
「イヤァアアアッ!!」 空気を両断する風の音。 玲二は一旦、距離をとって少女の一撃を避ける。 同時に歯噛みした。女だからと侮ることの愚かさを思い知る。例えば先刻にあった烏月やこのみとて強者であったのに。 あのときのような落とし穴はない。接近された以上、なんらかの手段を講じる必要がある。 相手は刀を持っている。ならば刀で対抗するべきか。 否。断じて否、と玲二は選択肢のひとつを破棄した。そうすることに意味はない。 彼女の動きは修練を積んだ剣士そのものだ。付け焼刃の剣術など、比べるべくもない。 「…………」 「お聞かせ願えますか。何故、このような馬鹿げた殺し合いに乗るのかを」 「……答える義理はない」 「そうですか……ならば、あなたは私の敵ですね」 問答は少なかった。刀子はゆっくりと、流れるような動きで刀を構える。 玲二としてはキャルの情報を集めておきたかったが、それよりも体勢を立て直すのが先だった。 コルトM1917に弾丸を装填し、少女へと突きつける。 引き金を引けば殺せるはずだ。優位な状態に自分はいる。だからこそ油断なく、焦燥なく、そして慢心なく。
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667 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:23:44 ID:DfQq5FIN -
刀子が地面を蹴ると同時に、玲二の拳銃が火を噴いた。 弾丸は刀子の白無垢を貫くも、彼女の身体には当たらない。一度の踏み込みで大きく移動している。 莫迦な、と困惑しそうになる頭を切り替える。 「一乃谷流、地蜂乱刀ッ!!」 繰り出される乱れ斬撃。 兄である愁厳が九鬼耀鋼に繰り出したときよりも、遥かに鋭く……そして疾く、一撃が激烈だった。 玲二はただの一撃も喰らわない。喰らってはいけないと察知した。 バックステップで距離を取る。敵は剣士、千羽烏月と似たようなもの。 彼女の動きに意識を集中させ、確実に仕留めようと銃を構える。 構えて、玲二は違和感を覚えた。 何かがおかしい、と気づくのに一秒。そして、その違和感の正体に気づくのも一秒。 目の前には白無垢の少女。 先ほど狙撃した白衣の男は計算に入れないとして……眼帯の男は何処に行った? 答えはすぐに突きつけられた。 玲二の背後、刀子に意識を集中したために背後の確認を怠った。
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669 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:24:22 ID:DfQq5FIN - 「―――よう」
「――――――!!?」 気軽そうな挨拶は背後から。 玲二が背後を振り向くこともなく、その場から離脱しようとする。 九鬼耀鋼は逃がさない。 ――――九鬼流絶招 肆式名山 内の肆―――― 玲二の背後に密着していた九鬼の肘が振り下ろされた。 狙いは後頭部。一撃で頭を叩き割らんとする攻撃。 その動きは振り下ろされるハンマーのように。玲二は直感に従って左腕を頭に回す。 その上から、九鬼の壮絶な一撃が叩き込まれた。 「焔槌(ほむらつい)」 「ぐっ……がぁぁぁあ!?」 ガードの上からでも伝わる衝撃に、玲二が吼える。 牽制代わりに拾った木彫りの星を手裏剣のように投擲した。 何を投げられたのか分からなかった九鬼は一瞬だけ身構え、そして繰り出す一撃で彫刻を砕く。 そうしている間に距離を取り、改めて男と少女を見返した。
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672 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:25:16 ID:DfQq5FIN - 「ちょうどいい、首輪が欲しかったところだ。お前の首を捻じ切って、解析するとしよう」
「九鬼さん……」 「どの道、危険な敵は排除するに限る。双七たちに危険が及ばんとも限らんからな」 刀子のほうは殺す、ということに僅かの抵抗があった。 だが、目の前の亡霊は確実に敵であり、そして兄と同じく不幸を撒き散らす存在だ。 止めなければならない。最悪、それが殺すことになろうとも。 玲二は冷静に、的確な判断を己に求めていた。この状況の最善策を、ツヴァイとして己に問いかける。 真正面で戦うことは愚の骨頂。 一時撤退の必要がある。無傷で退却する方法、もしくは逃げながらも相手を葬る方法を。 本来の暗殺者、殺し屋としての心得のままに。 冷たい『人間兵器』として。敵の言葉は聴かない、同情もしない、正面から戦うことなどもっての外。 敵の視界に写ることなく殺す。衝撃的な真実を目の当たりにしても、まずは敵を撃ち殺す。 例えば標的を殺せと言われれば、その家族諸共に心臓を撃ち貫く。 「―――――」 故に同情も、敵にかける言葉もなく。 玲二はデイパックからとある物を取り出すと、導火線に火に灯して投げつけた。 後は脇目も振らずに、踵を返して避難する。 その背中を追おうとする刀子の肩を、投げつけられた物体の正体を見極めた九鬼が叫んで捕まえた。
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673 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:25:56 ID:DfQq5FIN -
「下がれぇぇええええええええええええッ!!!!!」 「っ―――――!!?」 投げ付けられた物体の正体。 ニトログリセリンを主剤とする爆薬。その名をダイナマイトと言った。 数秒のときが、無限に感じられた。 目に見えないカウントダウンの後、一時期は静寂を保っていた森に轟音が響き渡った。 ◇ ◇ ◇ ◇
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679 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:27:00 ID:DfQq5FIN - 「………………よし」
ここまで来ればいいか、と玲二は一息つく。 深くなっていく森の中に身を隠し、背後からの襲撃を対処しながらようやく腰を落ち着けた。 とりあえず衝撃波が背中を必要以上に後押ししてくれたおかげで、地面を転がりまわってしまった。 「痛っ……」 白髪に眼帯の男の一撃。 ガードした左腕が痺れて麻痺している。 それほど長引かないかと思うが、あの一撃が後頭部に直撃していたら昏倒は免れなかった。 それだけに狙撃で仕留められなかったことは悔やまれた。 体に残る多少の打ち身は無視する。無理な撤退の代償に過ぎない。 ダイナマイトは高威力のため、身の安全を考えるなら多用はしたくない。 どうせ使うなら、奇襲でいきなり放り投げたほうがずっと安全で確実だ。次からはそれも考慮しよう。 彼の行動方針は変わらない。 キャルを捜しながら、彼女を害する可能性のある全ての参加者を葬り去る。 殺し屋として、亡霊として。 ただ無感情に殺す。同情もせずに殺す。そうしなければ、ならない。
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682 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:27:29 ID:DfQq5FIN - 「……………………」
ならば、何故彼女たちの墓を作ったのか。 その疑問は決して考えることなく。僅かに残った情など目をそらして。 吾妻玲二は歩き続ける。 深い、深い森の中へと。求め続けるたったひとつの願いを―――今度こそ、この手で掴むために。 【E-5/森林(マップ中央)/1日目 夕方】 【吾妻玲二(ツヴァイ)@PHANTOMOFINFERNO】 【装備】:コルトM16A2(8/20)@Phantom-PHANTOMOFINFERNO-、スナイパースコープ(M16に取り付けられている、夜間用電池残量30時間)@現実 【所持品】:『袋1』コンバットナイフ、レザーソー@SchoolDaysL×H、コルト・ローマンの予備弾(21/36)、 ダイナマイト@現実×9、ハルバード@現実、小鳥丸@あやかしびと−幻妖異聞録−、コルトM1917(0/6) コルトM1917の予備弾21、ニューナンブM60(4/5)、ニューナンブM60の予備弾10発 『袋2』支給品一式×5、おにぎりx30、野球道具一式(18人分、バット2本喪失)、コンポジットボウ(0/20)、 ハンドブレーカー(電源残量5時間半)@現実、秋生のバット、桂の携帯(電池2つ)@アカイイト首輪(杏) 【状態】:疲労(大)、左腕に痺れ(一時間ほど)、右腕の骨にヒビ、頭部から出血(処置済み) 【思考・行動】
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684 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:27:57 ID:DfQq5FIN - 基本:キャルを見つけ出して保護する。不要な交戦は避け、狙撃で安全かつ確実に敵を仕留める。
1:次の標的を捜す 2:理樹とクリスに関しては、情報だけは伝える。殺すかは場合による 3:烏月とこのみ、羽藤桂はなるべく襲わないようにする 4:周囲に人がいなければ、狙撃した参加者の死体から武器を奪う 5:弾薬の消費は最低限にし、出来る限り1発で確実に仕留める 6:第四回放送の時点で、刑務所に居るようにする 【備考】 ※身体に微妙な違和感を感じています。 ※時間軸はキャルBADENDです。 ※棗恭介(井ノ原真人?)、眼帯の男(九鬼耀鋼)、静留を警戒しています。 ※C-4採石場付近に、言葉と鈴の墓があります。 ※『この島に居るドライ=自分の知るキャル』だと、勘違いしています。 ※ツヴァイの移動先は、後続の書き手氏に任せます。 ◇ ◇ ◇ ◇
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688 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:28:37 ID:DfQq5FIN - 「ぐっ……くそっ……!」
九鬼耀鋼は薙ぎ倒された木々を押しのけて、ようやく立ち上がる。 轟音は周囲一kmまで響いたのでは、と思うほどだった。 まさかダイナマイトを持っているとまでは予測できず、おかげで取り逃がしてしまったことは悔やむしかない。 とりあえず、打ち身程度で済んだのは御の字と言えるだろう。 (逃げる時間稼ぎか。自殺覚悟で臨まれたら、こちらもこの程度では済まなかったな) 二度死ぬ、というのも可笑しな話だな、と九鬼は笑う。 そんなことを思いながら周囲を見渡した。木々が折れてしまっているが、道はまだ分かる。 (あのお嬢さんの姿は……ないな。逃げ切ってくれたとは思うが) 爆発による衝撃波で、刀子共々吹っ飛ばされてしまった。 おかげで刀子の姿を確認できない。無事であってくれれば有り難い、と九鬼は思いつつ、戻る。 敵に逃げられた以上、今やらなければならないことは刀子の心配ではない。 彼女がたとえ気絶していようと、兄のほうが現れてその場から避難してくれるはずだ。 彼について思うことはあるが、再び立ち塞がるなら今度は捻り殺すのみ。
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689 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:29:35 ID:DfQq5FIN - 「…………何処だ?」
だから、今考えなければならないことはウェストの安全の確保。 せっかく、首輪を解除できる人物に巡り合えたのだ。 こんなところで死なせるわけにはいかなかった。駆ける九鬼はウェストと別れる場所まで戻る。 予測どおり、そこにはウェストがいた。 大木に背を預けて座り、俯いたまま動かないウェストの姿があった。 彼は腹部に巻かれた白衣を真っ赤に染め、だらりと両手足を投げ出したまま動かなかった。 「ま、さか……」 九鬼は最悪の可能性を想定する。 コートによる防弾は通じなかった。被弾したウェストの傷の深さも確認できなかった。 ここで彼が倒れるという意味の重要性を、九鬼は誰よりも知っていた。 だからこそ、若干慌てた様子で九鬼はウェストへと駆け寄った。 「この、莫迦が……」
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693 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:30:16 ID:DfQq5FIN - 小さく、口の中で九鬼は呟いた。
無理にでも刀子に処置をさせるべきだったかと後悔して。 「莫迦とは聞き捨てならん……我輩は世界一の大天才なのである!……くかー」 「…………………………」 彼の寝言に、思いっきり脱力させられた。 「……おい。起きているなら返事をしろ」 寝言の内容から起きているのか、と錯覚させられたが、どうやら本格的に睡眠を取っているらしい。 怪我の様子を見る。詳しくは分からないが、撃たれたのは脇腹らしい。 胸や腹のど真ん中でなかったことに安堵する。これなら、処置しだいで助かる。 よく見てみると、銃創が二つあった。 一度撃たれた経験があるらしい。ほぼ並んでいる銃創痕を見て、彼の適切な対処への自信にようやく納得がいった。
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694 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:31:19 ID:DfQq5FIN - 「…………まったく」
ウェストの白衣を取替え、包帯は九鬼のシャツを引き千切って代用する。 一通りの応急処置を終えると、彼が乗っていた装飾の派手な軽トラックの助手席へと乗せる。 自身は運転席へと乗り込み、小型マイクなどの騒音の元は電源を落とした。 向かう先は病院が望ましい。少し遠いが、首輪を解除する工具も置いてある可能性を考慮すれば行く必要があるだろう。 (すまんな、双七……お前らと合流するのは、少し後になるかも知れん) 一乃谷刀子や、羽藤桂、アル・アジフも気になる。 出来れば途中で合流したいところだが、恐らくは高望みになるだろう。 今の自分に出来ることは、ドクターウェストへの適切な治療と処置。そして首輪を外す手伝いをすることだ。 エンジンを掛ける。随分と古くて不安定だが、今はまだ軽トラックも動けるらしい。 九鬼は一言よしっ、と声を上げると、アクセルを踏む。 目指す場所は病院へ。 この忌々しい首輪からの解放を求めて。この殺人遊戯を叩き潰してやろうという意思の元に。
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698 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:32:02 ID:DfQq5FIN - 【E-4 森林(マップ)/1日目 夕方】
【九鬼耀鋼@あやかしびと−幻妖異聞録−】 【装備】:なし 【所持品】:支給品一式、不明支給品×1、日本酒数本 【状態】:健康、肉体的疲労中 【思考・行動】 基本方針:このゲームを二度と開催させない。 0:軽トラに乗って病院へ向かう 1:ウェストを治療し、工具や設計図を集める 2:制限の解除の方法を探しつつ、戦力を集める。 3:自分同様の死人、もしくはリピーターを探し、空論の裏づけをしたい。 4:如月双七に自身の事を聞く。 5:主催者の意図に乗る者を、場合によっては殺す。 6:いつか廃屋に行ってみるか。 【備考】 ※すずルート終了後から参戦です。 双七も同様だと思っていますが、仮説に基づき、数十年後または、自分同様死後からという可能性も考えています。 ※自身の仮説にかなり自信を持ちました。 ※今のところ、悪鬼は消滅しています。 ※主催者の中に、死者を受肉させる人妖能力者がいると思っています。 その能力を使って、何度もゲームを開催して殺し合わせているのではないかと考察しています。 ※黒須太一、支倉耀子の話を聞きました。が、それほど気にしてはいません。 ※アルとの情報交換により、『贄の血』、『魔術師』、『魔術』、『魔導書』の存在を知りました。 情報交換の時間は僅かだった為、詳細までは聞いていません。 ※首輪には『工学専門』と『魔術専門』の両方の知識が必要ではないか、と考えています。
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701 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:32:46 ID:DfQq5FIN - 【ドクター・ウェスト@機神咆哮デモンベイン】
【装備】:スーパーウェスト爆走ステージ『魂のファイアーボンバー』 【所持品】支給品一式 、フカヒレのギター(破損)@つよきす -Mighty Heart- 【状態】疲労(大)、左脇腹に二つの銃創 【思考・行動】 基本方針:我輩の科学力は宇宙一ィィィィーーーーッ!!!! 0:睡眠中。 1:拡声器で参加者を募りつつ、車で移動。 2:知人(大十字九郎)やクリスたちと合流する。 3:ついでに計算とやらも探す。 4:霊力に興味。 5:凡骨リボン(藤林杏)の冥福を祈る。 【備考】 ※マスター・テリオンと主催者になんらかの関係があるのではないかと思っています。 ※ドライを警戒しています。 ※フォルテールをある程度の魔力持ちか魔術師にしか弾けない楽器だと推測しました。 ※杏とトーニャと真人と情報交換しました。参加者は異なる世界から連れてこられたと確信しました。 ※クリスはなにか精神錯覚、幻覚をみてると判断。今の所危険性はないと見てます。 ※烏月と情報を交換しました。
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705 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:33:26 ID:DfQq5FIN - 【スーパーウェスト爆走ステージ『魂のファイアーボンバー』】
見た目には装飾華美な軽トラック。 荷台には電気式のアコースティックギターが置かれ、車体には拡声器を装備。 拡声器は運転席から使用可能。また、武装等は備えられおらず、車としてのスペックも並。 ◇ ◇ ◇ ◇ そうして、物語がもうひとつ紡がれる。 己の目的のために迷いなく万進する者たちの話が一旦、区切られる。 ここからは子供たちの話だ。 迷い、傷つき、指し示される道の正しさも理解できず、足掻き続ける子供たちの物語。
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708 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:34:19 ID:DfQq5FIN - 「………………」
そして、その場には『彼』が残された。 周囲は木々で薙ぎ倒され、爆弾で蹂躙され尽くした森の中に彼はいた。 一乃谷愁厳、その人である。 ダイナマイトの衝撃により、妹の刀子は後頭部を打って気絶してしまったため、彼が表へと出てきたのである。 彼にとって妹が全てだった。 だから手を汚してきたし、その道に迷いも躊躇いも感じなかった。 故に目を逸らしていた、と愁厳は静かに思う。その行為に悔恨し、自身の愚かさに唇を噛み締めた。 双七無くして、刀子の幸せは有り得ないからこそ。 (だからこそ……) もう、人殺しの道は歩めない。 こうなった以上、やらなければならないのは後悔ではなく行動だ。 人殺しの業を妹に背負わせるわけにはいかない。この罪は罰として、自身が背負わなければならないのだから。
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712 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:35:04 ID:DfQq5FIN - 「刀子……安心しろ。俺はもう、道を間違えん」
刀子の代わりにやらなければならない。 双七との合流を。主催者たちに仇為す者にならなければ。 彼とは友人同士だ。 こんな愚かな自分を友人と思ってくれる。 (約束も、した) 彼の苦難、彼の危難は、我が刀でもって必ず振り払う、と。 友人として約束した。なればこそ、もはや修羅の道を歩くことは出来ないのだ。 「……まずは、仲間の勧誘からか。決して平坦な道ではないが……やるしかない」 今まで奪ってきたからこそ。 救いを求める者を必ず救おう。それが唯一の罪滅ぼしだ。 この身が殺人鬼であることは否定できない。 だが、それでもやり通さなければならない。愚直に、一途に、これまで通りの実直さを持って。
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713 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:35:39 ID:DfQq5FIN -
「……………………」 ふと、気になって愁厳は視界を下へと向けた。 愁厳と刀子は意思ひとつで身体を入れ替えることが出来る。 牛鬼という妖怪を先祖に持つ故の特権だ。だが、問題がいくつかある。 そのうちのひとつは身体を入れ替えても、服装まで入れ替えることは出来ないという問題である。 さて、先ほどまで刀子が着ていた服装を思い出してみよう。 ウエディングドレス。女の夢、女の理想郷の果てにある花嫁衣装。ついでにナイスブルマのオマケつき。 どう考えても女装癖のある変態です、本当にありがとうございました。 「……………………」 頬を赤く染めて、今の自分を恥じた。 こんなところを誰かに見られたら、しばらくは立ち直れない。それほどの恥だ。 いや、落ち着け一乃谷愁厳。これから歩む道を考えれば、それは些細な問題に過ぎないのだ。 全力で無視し続けることにしよう、と心に決めて……五秒後。 (…………確か、俺の服は刀子のデイパックの中にあるはず……) 即効で羞恥に耐えられなくなった愁厳は着替えを選択。 さすがにこの格好で色々と誤解された日には、死んでも死に切れない。
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716 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:36:50 ID:DfQq5FIN - そうして、デイパックの中をごそごそと漁り……とりあえず、刀だけは用心のためにと掴んだところで、気づいた。
人の気配だった。そして、紛うことなく人の足音だった。 「…………む?」 薄暗い洞窟のような場所。地下へと繋がっているらしい不自然な岩肌の迷宮。 そこからゆっくりと、フラフラになりながら一人の少年が現れた。 「な、何なんだよ、お前……」 疲労した様子で、彼は愁厳へと語りかける。 周囲は薙ぎ倒された木々。そしてその中央に立つ愁厳は刀を持っていた。 少年が怯え、警戒するのも当然の話だった。 そうして、愁厳は彼と出逢った。 彼の名前は鮫氷新一。 愁厳が殺した……対馬レオの友人であり、そして同じく人殺しをした心弱き一人の子供と。 ◇ ◇ ◇ ◇ フカヒレが地上に再び顔を出し、夕焼けを浴びることができた頃には、日も大分沈んでいた。 暗い、ジメジメとした通路を何kmも歩いて、ようやく光を見つけることができたのである。 正直に言うと、中は比較的安全だった。 自分を殺そうとする奴がいるわけでもない。フカヒレを脅かす外敵も存在しない。
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718 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:37:36 ID:DfQq5FIN - 歩いている間は色々と考える時間ができた。
精神的に余裕がある以上、考えてしまうことが色々とある。もっとも、そのほとんどが結局、自分に活かせるモノではなかったが。 現実逃避、フカヒレが選んだのはそんなものだった。 どうして、と彼は世界に向かって問いかけた。 何故、奪われなければならないのか。何故、脅かされないといけないのか。何故、自分なのだろうか。 命の危険などない世界に生まれた一般人の一人として、誰もが考えただろうことを。 レオはどうして死んだ? スバルはどうして死んだ? どうしてカニの奴だけは助かった? どうして俺が人殺しなんかさせられてるんだ? どうして姫やよっぴーたちじゃなくて、俺が巻き込まれなきゃいけなかったんだ? (どうして……こんなことに……) 生きたかった。 生き残りたかった。 死にたくないから歩き続けた。 その間、悶々とした陰鬱な思いがフカヒレの心を締め上げていた。
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721 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:39:12 ID:DfQq5FIN -
でも、その反面で思うことがあるのだ。 あくまで想像の範疇だった。所詮、弱者の妄想の産物にしか過ぎなかった。 それでも、フカヒレの中にひとつの正当性があった。最後の砦とも言うべき、正しき怒りが……確かにあった。 「レオぉ……スバルぅ……」 頼れる友人たちがいた。 一緒に笑って馬鹿をやっていれば、大抵のことは流れていった。 その世界が好きだった。責任感もなく、自堕落で、怠惰で、本当にどうしようもないほどの集まりだったけど。 フカヒレは……鮫氷新一は、嘘偽りなく、彼らのことが好きだった。 「なんで……死んじまったんだよぉ……」 理不尽だ、と思った。 ゲームよりもずっと残酷な現実に喚き散らしたかった。 友達を返せ、と言いたかった。その怒りだけは正しく、彼の胸の中にあった。 ただ……義憤以上に、彼は自分の命が大事で大事で仕方なくて。死ぬのが怖くて、仕方がなかった。 そして、出口へと辿り着いた。 ◇ ◇ ◇ ◇
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724 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:40:01 ID:DfQq5FIN -
因果が廻っていく。 運命の歯車が軋む音と共に巡り合わせる。 フカヒレは出逢ってしまった。 夕焼けに体を染めたそのとき、目の前には男がいた。ウエディングドレスを着た、ふざけた格好の長身の男に。 周囲は木々が薙ぎ倒され、その中心に男は立っていた。 手には刀。その瞳は抑揚のない、感情の読めない凡庸な色で……そして、限りなく不気味だった。 「…………む?」 「な、何なんだよ、お前……」 「……神沢学園、生徒会会長。一乃谷愁厳だ」 フカヒレは愁厳を警戒する。 殺されたくない、騙されたくないという思いを前面に押し出して。 虚勢を張り、震え上がりそうになる心を抑えて。 「…………君は、この殺し合いに乗っているかね?」 「の、ののの、乗ってねえよ! ほ、ほんとだぞ?」 「そうか……その言葉を、信じよう」 静かに一乃谷愁厳はその言葉を受け入れた。 良く言えば実直に。悪く言えば馬鹿正直に。明らかに挙動不審なフカヒレの言葉を信用した。 一方のフカヒレは『ふ、ふふふ、さすが俺、簡単に信用を得られるぜ……』などと、見当違いを口にする。 愁厳は刀を下ろして後ろ手に構え、敵意がないことを示すと、小首をかしげてフカヒレへと尋ねた。
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727 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:41:00 ID:DfQq5FIN - 「……これから、俺は仲間を集う。君も……付いて来るかね?」
「お……おう! よし、このシャーク様の力が必要だってんなら、しょうがねえなあ!」 「ふむ……シャーク(鮫)か。いつか、釣り上げてみたいものだな……」 趣味である釣りを思い出し、ほんの少しだけ愁厳の口元が綻んだ。 フカヒレに至ってはようやく自分を助けてくれる相手を見つけられて、万々歳といったところだ。 まあ、ふざけた格好なのはご愛嬌。 愁厳はふと、自分の格好を思い出したらしい。再び、頬を赤く染めて己の格好を恥じてしまう。 ついさっきまで緊張もせずに話しかけることができたのは、最初の一歩は大事だと思ったからに他ならない。 要するに全力で自分の格好に目を逸らして、説得をしたということだ。 それが終わった以上、火急的、速やかに行わなければならないのは……もちろん、このコスプレから解放されることである。 「………………済まんが、少し着替えをして来ても構わないか……?」 「あん? いや、別に良いけどよ……それ、ぶっちゃけ趣味じゃねえのか?」 「断じて違うっ!!」 喝ッ、と言わんばかりに咆哮する。 そんな誤解は絶対にごめんであり、恥ずべき汚名と言って差し支えない。 愁厳はデイパックから自分の服を捜し出す。白い制服は森の中に捨ててしまったが、ドレスより一億倍マシである。 着替えの間、僅かに余った時間があった。
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731 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:42:25 ID:DfQq5FIN - 「君……ええと、フカヒレくんだったか……?」
「シャークだ! シャーク! 鮫氷新一! つーか何でみんなソレを選択するの? おかしくない?」 「ああ、すまない。では、鮫氷くん……君に少し、尋ねたいことがある」 んー、などと曖昧な返事をフカヒレは返す。 彼の中での愁厳の印象は生真面目で女装癖のある男、というぐらいの認識しかなかった。 仲間を集う……つまりは、自分を守ってくれる奴らを募るということだ。 それは自分にとって美味しい話だった。このみや烏月たちの悪口を言う相手も増える。彼女らに嫌がらせもできる。 所詮、嫌がらせの類でしかない……そんな、浅い考えのままに。 フカヒレにとっては万々歳の内容で仲間を……盾を手に入れることができた、と安心していた。 「君は……対馬レオ、蒼井渚砂、古河渚という人物について、心当たりがあるか?」 「えっ……?」 その一言は。 互いの原罪をお互いに突きつけるような問いかけだった。 ◇ ◇ ◇ ◇
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734 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:43:19 ID:DfQq5FIN -
対馬レオとは、鮫氷新一の親友である。 対馬レオとは、一乃谷愁厳が殺した男の名前である。 殺した相手の名前を覚えるつもりがなかった愁厳は、彼の名前を覚えていた。 絶叫する青髪の少女が叫んだ無念を憶えていたのだ。 蒼井渚砂とは、鮫氷新一が最初に出逢った少女である。 蒼井渚砂とは、一乃谷愁厳が殺した少女の名前である。 これも同じだった。名も知らぬ人妖が、彼女をナギサと呼んでいた。 恐らくは放送で呼ばれた少女の名前は、蒼井渚砂のことだと愁厳は予測を立てていた。 古河渚とは、鮫氷新一が殺した少女の名前である。 古河渚とは、一乃谷愁厳が殺したかも知れないと考えている少女の名前である。 愁厳は殺した少女が絶命した瞬間を、この眼で見ることはなかった。 だから生き残った可能性もある。僅かでも可能性があるのなら、その名前も問うべきだと思ったのだ。 「……は……?」 その全ての名前を少年は知っている。 現実にこの眼で見ている。そして……その内の一人は命を奪っている。 目を逸らしていた事実がある。自分が殺した相手が、本物の古河渚ではないのだろうかという疑いが。 それは可能性に過ぎないし、たとえそうだとしてもフカヒレは無視し続けた。 だけど、心の何処かに罪に対する怯えがあった。 だから愁厳の一言が罪状のように突きつけられ、その瞬間、フカヒレは己の心臓が停止したと錯覚した。
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737 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:44:41 ID:DfQq5FIN - 「知って、る……奴も、いるけどよ……レオは俺の友達だったし」
「そうか……すまない、伝えなければならないことがある」 それは愁厳の実直さ故のことだった。 仲間に隠し事をしてはいけない、と。罪を晒し、罰を受け、その上で信頼関係を気づくべきだと。 フカヒレの挙動不審を、着替えのために背中を見せている愁厳は気づかない。 精々が放送で呼ばれた少年少女の名に、不信感を見せているだろう、ぐらいの認識しかなかった。 だから彼は己の罪を伝えた。 それが、本当の仲間になる第一歩だと信じて。 「レオという少年、ナギサという少女を……俺は、殺した」 ぐにゃり、と。 フカヒレの口元が不気味に引きつった。 がらん、がらん、がらん、がらん。フカヒレの中の色々なモノが剥がれ落ちた。
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741 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:45:54 ID:DfQq5FIN - 「殺したことについて、言い訳はしない。こんなことを言うだけで、許してもらおうとは思っていないが……」
「……………………」 愁厳の淡々とした懺悔も聞こえなかった。 それほどまでに衝撃的で……それ以上の感情が芽生えた。 それも複数、たったひとつには収まらない様々な波が、小さな彼の良識や思考を押し流した。 (レオを、殺した……?) 理不尽な怒りが、世界に向けられる慟哭が愁厳へと向けられた気がした。 得がたい友達を、自分を無条件に守ってくれるだろう友人を、無常にも彼は殺害したという。 許せない、赦さない。 そんな後戻りできない感情が、ふつふつと湧き上がってきたのだ。 きっと、愁厳を警戒していた頃のフカヒレなら。 友の仇を前にしても己の命を優先していた。無様に、豚のように喚きながら逃げ出していた。 それでも、人間は理性が焼ききれると、途端に感情的になり……そして、短絡的になる。 (ナギサを、殺した……?) こちらは、怒りではなかった。 当然だ、親しい友人でも自分を守ってくれるわけでもないのだから。 心の真っ黒な部分に生じたのは、喜び。一乃谷愁厳が、ナギサを殺してくれたということに対する歓喜。 ああ、やっぱり自分は正しかった。自分が殺したのは古河渚の偽者であり、本物はあの男が殺したのだ、と。 途端に安堵した。裁判所で無罪を勝ち取ったような自由に対する開放感。 それと同時に彼の中でひとつの使命感が芽生えていく。 この複雑な気持ちを纏めなければならない。己を正義に、己に正しさを証明する『言い訳』を考える。
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744 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:46:56 ID:DfQq5FIN - 決まっていた、この感情もまたフカヒレ自身から派生したものだ。
レオの仇を討とう。欺瞞と偽善に塗りたくられた、短絡的で直情的な激情の渦がフカヒレの背中を押す。 フカヒレはひとつの武装を構えていた。 NYP兵器、ビームライフル。フカヒレでは起動させることなど不可能な代物だが……偶然にも、この中にはまだエネルギーが残っている。 「……俺は、償いたい。この身体に賭けて、この刃に賭けて。今度こそ、正しきことのために己の技量を使おうと……」 とつとつ、と愁厳が何かを喋っている。 フカヒレの耳には入ってこなかった。彼は己の中から湧き上がる衝動を処理するのに精一杯だった。 レオを殺された怒り、ナギサを殺してもらった安堵。 そして……フカヒレのろくに回転しない頭が、短絡的な思考を推進させる。 一乃谷愁厳は人殺しだ。 「うっ……」 あの世界を、幸せで自堕落な空間を奪った殺人鬼だ。 殺さなければ、殺されるぞ?
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748 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:47:55 ID:DfQq5FIN - 「うぁぁあああああああああああッ!!!!」
「……――――!?」 テンションに身を任せてしまえ。 この怒りに身を任せてしまえ、そんな声を幻想した。 引き金を引いた。愁厳から見ればオモチャに過ぎない外見の銃から、光線が放出された。 その一撃を不意を撃たれた愁厳は避けることができず。 「ぐぉおおおお……!?」 愁厳の身体が吹っ飛ばされる。 フカヒレは止まらなかった。一瞬の身体の痺れが、愁厳が抵抗する時間を奪っていた。 馬乗りになる。そのまま、拳を握り締めて愁厳の顔面に叩き付けた。 その一撃が、重かった。愁厳の見立てよりも強かった……あの細腕から繰り出されるにしては、拳は硬かった。 握った拳が侵食されていく。 柔らかい骨と皮と肉の上に、硬い殻が鱗のように生えていく。 まるで蟹の甲羅、海老の外殻のように……人間の拳の比ではない硬さの拳が、愁厳へと叩き込まれる。 「お前が……お前がぁ」 真っ赤な殺意、暴虐的な激情。 友の仇を討つという名目が、フカヒレに後先考えることもない子供染みた行動へと走らせた。
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750 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:48:48 ID:DfQq5FIN - 「なんで、なんで殺したんだよ……おい、こら、なあ……!?」
ごつ、ごつ、ごつり。 まるで外殻に覆われたような硬さの拳が、何度も愁厳の顔を殴りつけた。 彼は抵抗できなかった。痺れはそう簡単に取れなかった。 それ以前の問題として……愁厳には、抵抗すること自体に迷いがあったのだ。 「このっ、人殺し……人殺しが……! 死ね、死ねよ、くそっ……返せよ、返せよぉ、畜生ッ!!!」 相手が無抵抗なのを良いことに、フカヒレの行動はエスカレートしていく。 歯向かう相手には狐にでも怯えるのが、鮫氷新一の限界だ。 だが……抵抗しない相手、逃げるだけの相手には強気だった。そして、目の前の男はやはり、無抵抗だった。 フカヒレの叫びは自分勝手なものだった。 それでも、その慟哭はきっと本当に鮫氷新一の本質のひとつであり……そして、その絶望を与えたのは愁厳自身なのだ。 詳しい事情を知っても、彼は抵抗できないかも知れないだろう。 何度も、何度も殴られる。顔が腫れ、歯が折れ、口の中に鉄の味が充満していくなか、慟哭が叩き付けられる。
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752 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:49:43 ID:DfQq5FIN - 「お前みたいなのがいるからレオが、スバルが……っ……俺も、こんな目にあうんだよ……っ!!」
ようやく、身体から痺れが取れた頃には全てが決していた。 愁厳とて、死ぬわけにはいかない。フカヒレを振り払うぐらいの抵抗はしなければならなかった。 だが、まるでハンマーのようなもので頭を何度も殴られたような衝撃は……愁厳から、ほぼ意識を失わせていた。 「レオを返せ……スバルを返せ……返せよ、ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ……ッ!!」 愁厳の首に手をかけた。 そのまま、万力のように締め付けていく。 一乃谷愁厳ができる抵抗はひとつだけだった。それは……己の内の中での戦いのこと。 ◇ ◇ ◇ ◇ 『兄様……! 兄様、代わってくださいッ! 今すぐに……!』 『……それは、出来ない』 兄と妹だけの世界で。 崩れようとする男の姿が鮮明に映し出されている。 桃色の世界が罅割れていく。 もうひとつの戦い。決して、妹を表には出さないようにと、愁厳は体の交換を拒否し続けた。
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754 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:50:14 ID:DfQq5FIN - 『兄様……兄様……!』
『刀子。これは……報いだ。因果応報だ』 フカヒレの叫びを思い出す。 よくもレオを、と。愁厳には彼の妄念まで理解できなかったが、それでも感じ取れた。 友達の死が悲しくて、殺した奴が憎かった。 ただそれだけでも理解できた以上、これは愁厳の自業自得であると語っているのだ。 『どうしても……代わってはいただけませんか?』 『どうしても、だ』 一乃谷愁厳が消えていく。 生まれてからずっと一緒にいた大切な兄の命が消えていく。 そんなことは許せない。愁厳にとって刀子が大切なように、刀子にとっても愁厳は大切な家族だったのだから。 ただ一人の、大切な肉親だったのだから。 『……………………』 救い出す手はある。 強引に体の主導権を握ってしまえばいい。 もう愁厳の意識はほとんどない。ならば、意識が途切れた時間を利用して体を制圧する。 そうすれば、助かる。自分が代わりに表に出ることができる。
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757 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:51:00 ID:DfQq5FIN - その目論見があった。
それなら助けられると信じていた。 その機会を信じてずっと待ち続けることにした。 ――――――――ピッ その電子音は、彼らの世界にまで届いた。 精神体に二人分の首輪がある。兄の首輪と、妹の首輪。 そして……死神の存在を告げる無常な電子音は、大切な唯一の家族……兄の首から鳴っていた。
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762 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:51:48 ID:DfQq5FIN - ――――――――ピピピッ
『あ……ああ……!』 絶望の音が鳴り響く。 刀子の目の前が、比喩でもなく真っ黒になった。 愁厳はその音を受け入れながら、現実の世界へと目を向ける。 己の首を常人よりも僅かに強い力で我武者羅に締め付ける鮫氷新一の姿を。 あまりにも乱暴に首を締め付けるものだから。 必要以上の衝撃を受けた首輪が、抵抗の証と見なしたのだ。 もう、一乃谷愁厳は助からない。たとえ、いかなる手段を用いようとも、彼の死はもはや揺らがなかった。 『刀子。彼を、恨むなよ』 因果応報の言葉の通りに。 静かに愁厳は自分の死を受け入れた。 願わくば、己の因果に大切な妹が巻き込まれないように、と一言残して。 『待って……待って、兄様っ、お兄ちゃ――――!』 追い下がろうとした少女の手が伸ばされる。 だが、無常にも彼女の手が届く前に一乃谷愁厳はこの桃色の世界から消滅した。 首輪はまだ、爆発していない。 死神が鎌を振り上げるよりも前に、甲殻類のようになったフカヒレの腕が愁厳の命を奪っていた。
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765 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:52:39 ID:DfQq5FIN -
もしも、抵抗していたのなら。 一乃谷の力を、牛鬼の力を使って一度でも愁厳がフカヒレに抗ったなら。 恐らく、たちまち彼は恐怖に呑まれ、我を忘れて逃げ出していただろう。自分の命が一番大切なのだから。 だが、抵抗はできなかった。 抵抗するということを迷い、そして出来なかったという結果がここにひとつ。 終わりを告げるのは静かな電子音だった。ピー、と機械仕掛けの死神が刻を告げる。 だけど、一乃谷愁厳には関係のない話。 ―――――もう、自分の頭が爆発するよりも早く、彼は息絶えていたのだから。 【一乃谷愁厳@あやかしびと−幻妖異聞録− 死亡】 ◇ ◇ ◇ ◇
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770 :めぐり、巡る因果の果てで ◆WAWBD2hzCI [sage]:2008/07/07(月) 00:53:34 ID:DfQq5FIN - 「はあ……はあ……はあ……!」
荒い息が森の中に木霊する。 フカヒレは焦点の合ってない瞳と、不自然に引きつった口元を歪めながらそれを見ていた。 そこにはひとつの死体があった。 鮫氷新一が殺害した、一乃谷愁厳の亡骸が無残な形でそこにあった。 「あっ……えっへへ……へっ……へへ……」 まず、感じられたのは安堵だった。 次に達成感。人殺しを殺したという使命を達成したという証に、だらしなく口元が歪んだ。 今、自分が掴んでいる首輪が爆発の電子音を鳴らしているのに気づかないほど、彼の思考は働いていなかった。 ――――――――ピピピピピピピピピッ 「……あん……?」 最初は小さな警告音だったが、フカヒレの耳には届かなかったのだろう。 だが、ようやく喧騒のように騒がしい電子音が聞こえてきたらしい。 それが何なのか、何処から聞こえる声だったのかを確かめようとする頃には……もう、遅かった。
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