- ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv2
46 : ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 14:58:31.48 ID:Cfa/RVcP0 - だいぶ遅れましたが、予約が出来上がりましたので投下したいと思います。
支援の方、よろしくおねがいします
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48 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:02:04.52 ID:Cfa/RVcP0 - 万物は流転する。
そこに多少の善悪があろうとも、今日も太陽は東から昇り西へ沈む。 そう、このバトルロワイアルの舞台の中であっても。 一匹の魔物が、我が物顔で獲物をなぶり殺しにする。 望むものを手に入れた魔物は手始めに辺りを探索し、丁度いい獲物を発見した。 自分と同類であろう魔族、天使のような羽と光輪を持った男、そして年端もいかぬ少女。 魔物は――バラモスはまったく抵抗を受けることもなく、そのうちの二人を痛めつける。 殴り飛ばし、爪で傷つけ、倒れる二人を足蹴にさえする。 二人から漏れる苦痛のうめき声は地獄の交響曲となって、バラモスの鼓膜を震わして満たす。 バラモスにとって至福の時間であった。 飛び散る血に愉悦を感じ、苦痛に歪む表情に高揚感がこみ上げる。 バラモスは逃げることさえ、二人と一匹に許さない。 それをさせないだけの切り札が、今もバラモスの手の内にあるのだから。 人よりも遥かに巨大な手で、バラモスは女性の身体を鷲掴みにしている。 バラモスがその手を握り締めれば、細身の女性の体など赤子の手を捻るように簡単に潰されることだろう。 卑劣にも人質という方法をとったバラモスだが、この三人には効果てき面であった。 「う……」 人を見守り、時には手を差し伸べる天使のエルギオスは特に念入りに痛めつけられた。 三人の中でも、一番油断できぬ戦闘力の持ち主だというバラモスの冷静な分析と判断もあった。 だが、最大の理由はエルギオスが天使であるということだった。 人を守るという天使は、人を滅ぼす魔族のバラモスからすれば言わば反目する天敵。 鼻持ちならない存在だからだ。 這いつくばるエルギオスを、バラモスは何度も何度も踏みつけた。 「……」 タバサはとっくに意識を手放していた。 子供のタバサの体力は大人のそれの半分以下。 意識を繋ぎ止めることのできる臨界点はとうに突破していた。 あるいは、それは幸せなことだったのかもしれない。 意識が無くなれば、痛みを感じることもないのだから。 バラモスとしても、玩具は反応があった方が嗜虐心をそそられる。 タバサは早々にバラモスに飽きられて、放っておかれた。 かろうじて虫の息の状態で放置されたタバサの身体を起こし、ムドーが抱き起す。 「もうやめるのだ」 そして、唯一ムドーだけはまったくの無傷だった。 タバサの容体を気遣いながら、なおも攻撃をエルギオスに仕掛けるバラモスを諌めようとする。 バラモスは最初に、ムドーにこう問うたのだ。 何故魔族が人間と行動を共にしているのか、と。 「まだ分からぬか? 貴様こそ、魔族のはしくれなら理解しろ!」 バラモスの右手には、四肢をだらりと投げ出したローラの姿があった。 バラモスが一定の価値を認めたその美しき女性は、気絶させられていた。 あれだけ気丈なお姫様のことだ。 バラモスの口から放たれた激しい炎を止めるために、生身のままでフローラの背中を守ろうとしたあの時のローラの芯の強さをバラモスは忘れていない。 自分が虜囚の身に甘んじ、それどころか人質となったことで他者を危険に晒す羽目になったと知ればどうなるか。 最悪の場合、舌を噛んで自殺するおそれすらあった。 確かに、フローラよりローラを選んだのは、バラモスもローラの方が御しやすいと思ったためではある。 だが、この二人の女性の意志の強さはそれこそ、他の人間よりずば抜けている。
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50 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:03:23.67 ID:Cfa/RVcP0 - 決してローラの意志が薄弱ということではない。
金剛石と鋼玉の二つの硬度を比べたら金剛石の方が硬いのに違いないが、だからといって鋼玉が柔らかいという理屈にはならないのと同じだ。 そう考えたバラモスは人質を気絶させ、余計な行動に出られるリスクは限りなく低く抑えた。 「これこそが我ら魔族の本懐。 力というシンプルな道理を示す絶好の機会ではないか。 何故我がこうして回りくどい方法を使っていると思うのだ」 エルギオスとタバサがその命を散らさずにいられるのは、皮肉にもムドーの存在があったからだ。 バラモスは開いた左手でエルギオスを掴むと、乱暴に人形を振り回す子供のようにエルギオスを地面にたたきつける。 エルギオスの命が擦り減っていく。 バラモスの左手が振り下ろされるたびに、地面がエルギオスの体の形に陥没する。 並みの人間なら三度死んでもおかしくないダメージを受けてもまだ生きてられるのは、彼が天使の中でも並外れた実力と体力の持ち主だからであろう。 もはや受け身を取ることも適わず、エルギオスは意識の糸を手繰り寄せるのが精いっぱいの有り様だった。 「貴様はこれを見て何も感じぬのか? もっと思うままに生きてみよ。 己の中に住み着いた欲望を解き放て。 貴様の本性は我と同質であろう!」 逃げようにも、逃げればローラが殺される。 戦おうにも、人質のローラが邪魔だし、バラモスを殺せない理由がムドーたちにはあった。 結果として、ムドーにできるのは制止の声を投げかけることだけ。 エルギオスが振り回されるのを見ていることができない。 ムドーは顔を背け、バラモスが気まぐれを起こして止めてくれないかと期待するだけだった。 このような光景は見たくなかった。 ムドーは痛ましくて見ていられないのではない。 バラモスの言葉を否定できないがために見ていられないのだ。 ムドーの心は今激しく揺さぶられている。 ムドーは命を奪い取る感触を、その本能が覚えている。 ムドーは人の血があんなにも赤黒いことを、知っている。 人間の内臓は、思いの外綺麗だということを経験談として熟知している。 命を握りつぶすことが、何物にも勝る娯楽の一種であることを理解している。 ムドーには確信がある。 きっとムドーという魔族は日常的に、人間の命を奪っていた。 記憶を失う前は、そこにいるバラモスと何一つ変わらない存在であったことを、ムドー自身が認めてしまう。 「やめろ……私を惑わせるな……」 きっぱりと拒絶の意志を示すことが、ムドーはできない。 思い出してしまえば二度と戻れない気がして、ムドーは顔を逸らす。 腕の中で気絶しているタバサに対して、相反する二つの感情が争う。 前途ある少女の未来を奪うといいう、究極の快楽に身を任せるか。 骨が粉々に砕けるまで、この細い腕を握り締めたい。 頭部を叩きつぶし、赤い花を地面に咲かせたい。 泣き叫ぶタバサの悲鳴が聞きたい。 ともすれば、今にも舌なめずりをしてタバサに襲い掛かりたいという衝動がムドーの胸中を満たす。 だが、逆にこの小さき命を守りたいという気持ちも芽生えつつあるのが自覚していた。 ゲロゲロという名前には不満はあるものの、タバサがムドーのために名前を考えてくれた、という点は紛れもなく本物だ。 魔物であるはずのムドーに臆することなく近づいてきた少女に、漠然とした何かを感じる。
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51 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:04:22.36 ID:Cfa/RVcP0 - この胸に宿った感情の正体を、ムドーは測りかねる。
それはいまだかつて経験したことのない感情だった。 これは安らぎなのかそれとも別の何かなのか。 今のムドーはそれに対する答えを持ち合わせていない。 人を殺し続けてきたであろう手で、小さき人の命を壊さぬようにそっと抱き寄せる。 この温もりを手放すことも、今のムドーにはできそうもなかった。 「ククク……分かっているはずだ。 貴様も自分が何を求めているのか」 ムドーの揺らぎを見て取れたバラモスは畳み掛ける。 そんな人の命に拘泥する必要はないのだと、まるで邪教の教祖のように語る。 「人が狐や鷹を殺すと、それは狩りという高尚な趣味だという。 しかし、魔族が人間を殺すとそれは残酷だという」 人間など、守る価値もない生き物だとバラモスは諭す。 「いつもそうだ。 人間は己の手が汚れているにも関わらず、他者を平気で貶す。 そんな自分に都合のいい道理だけを振りかざす人間こそが、この世界で最も醜く愚かな生き物なのだ。 そして、そんな人間を守る神や天使などという生き物も同じように滅ぼさねばならぬ」 人は平等という。 しかし皆知っている。世界が平等でないことを。 生まれ一つとっても、王族から奴隷まで様々な階級が存在する。 人は自由という。 しかし皆知っている。世界が自由でないことを。 奴隷を見て自由だと思うのは、籠の中の鳥を指さして自由だと言うことと変わらない。 人は愛という。 しかし皆知っている。愛が人を裏切ることを。 永遠の愛を誓ったはずの夫婦が不貞行為に走る。 有史以来、そんな不倫や浮気が世界から根絶されたことは一日たりともなかった。 人は嘘をつくなという。 しかし皆知っている。人はうそつきであることを。 魔族は嘘をつかない。 嘘をつくのはいつだって人間だ。 人は正義という。 しかし皆知っている。それが自分を正当化するために使われる便利な単語だということを。 正義という言葉は、とても陳腐で安っぽいだけだ。 「これだけ言っても分からぬのなら、実演を見せてやろう」 あと一押しながらも、なかなかその一歩を踏み出せぬムドーにさしものバラモスも業を煮やす。 あくまでムドー本人の手で、一時とはいえ行動をともにした仲間を殺させることで背中の後押しをさせるつもりだったのだ。 しかし、バラモスはこれ以上の問答は無用だと判断し、荒療治に出る。 エルギオスの体を左手でつかみ、頭上に高々と掲げる。 右手にはローラの体。 左手にはエルギオスの身体。 痛めつけるための手加減した攻撃ではない。 本気で叩きつけて殺害し、その脳漿をぶちまけさせる為だ。 人の臓物を見れば、いよいよムドーも衝動を抑えきれぬと見た上での行動である。
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53 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:05:04.62 ID:Cfa/RVcP0 - 「目に焼き付けておけ」
ムドーは動けない。 いや、動きたくないと思っているのか本人でさえも分からない。 抵抗できないのを理由にこのままエルギオスが死亡して、ムドー自身も堕ちていくのを望んでいるのか。 それとも、この状況を打開しようとしても策が思い当たらないが故に動けないのか。 人質のローラが、今になって邪魔に思えてくる。 ムドーどころかタバサもエルギオスからも赤の他人に過ぎない人間の命を気遣うなど、ムドーからすれば理解不能だ。 しかし、タバサとエルギオスが必死になって救おうとしている命でもある。 二人の願いを無下にすることもできず、かといってこのまま立ち尽くしてエルギオスが死ぬのも見たくはない。 ああそうか、そこでムドーは一つ納得する。 いつの間にか、ムドーはエルギオスに死んでほしくないと思っているのだ。 記憶喪失だという、自分でも胡散臭いと思う理由をとりあえず信じてくれ、そして生かしてくれたエルギオスに何らかの情が湧いているのだ。 少なくとも、ローラよりもエルギオスに生きてほしいとムドーは思っている。 人間は牛や豚も同然だと、それこそ悪い意味で老若男女平等に扱い殺してきたはずの自分が、人と天使の命に順列をつけようとしている。 これもまた、今までのムドーにはない変化だった。 「ムドー……」 もはやタバサよりも死に近い状態のエルギオスが、声を振り絞った。 「ムドーよ、諦めなければ道は自ずと開かれるのだ」 かつて、すべてを滅ぼす堕天魔になったエルギオスを打ち滅ぼしたのは、決して諦めることのなかった一人の少女だった。 天使であることを捨ててまで、自分に立ち向かってきた少女アンジェ。 エルギオスは孫弟子にもあたる少女から聞かされた言葉を、自分なりに解釈してムドーへとぶつける。 「悪しき言葉に耳を貸してはならない。 お前とこの化け物は違う存在だ。 いや、前まではそうだったかもしれないが、今は違う。 そうであろう?」 愛するラテーナとの数百年に及ぶ別離。 かつてのエルギオスはラテーナに裏切られたと思い込んでいた。 エルギオスは人間を憎み、世界を憎み滅ぼそうとした。 それを止めてくれたアンジェと、再会できたラテーナのおかげでエルギオスは己の罪深さと不明を恥じた。 愛はこの世で最も尊い感情だ。 それは恋愛感情に限った話ではなく、肉親を愛する気持ち、友人を愛する気持ち、それがあるからこそ人も守護天使も強くなれる。 なのに、その愛をエルギオスは捨ててしまった。 愛を手放すことで、己さえ蝕む憎悪と異形を手にした。 「ん……」 タバサの唇から、音が漏れる。 エルギオスの命の危機を肌が感じ取ったのか、意識が深い闇から浮上する。 タバサが目にしたのは、鮮やかな金髪が朱に染まったエルギオスの姿。 瞬時に悟った、もうエルギオスは長くないと。 今すぐバラモスの手から救出して、回復呪文による治療を施さないと死んでしまう。 「よく見ていろ! 強者が弱者から奪う光景をな!」 バラモスがついに地面へと叩きつけるため、エルギオスの体を急降下させる。 即死は免れられない。 その瞬間、エルギオスは最後の力を振り絞った。
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56 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:06:24.17 ID:Cfa/RVcP0 - 「信じているぞ、『ゲロゲロ』!!」
タバサも、エルギオスを救出できる唯一の存在に助けを求める。 「お願い、『ゲロちゃん』!!」 愛とは信じることだ。 病めるときも健やかなる時も、いついかなる時も愛する者を信じる。 信じることでゲロゲロの不安を振り払い、道を示す。 愛を捨ててしまったエルギオスに残された、唯一できることがこれだ。 もしも贖罪のためにこの世界にエルギオスが呼ばれたのなら、これこそが使命だったのだろう。 もしエルギオスが一人の心を傷心から救ってやることが出来れば、彼の生きることに無駄は無いだろう。 もしエルギオスが一人の迷い続ける魔物の道を示してやることが出来れば、 あるいは一人の少女を命を救うことが出来れば、 あるいは一羽の弱っている雛鳥を助けて、 その巣の中に再び戻してやることができるのなら、 エルギオスの死はきっと、無駄にはならない。 天命を果たしたエルギオスを、女神セレシアは優しく受け入れてくれる。 「そうだ、私の名前は――」 いつの間にか、ゲロゲロは走り出していた。 重い体を動かし、その手にはデーモンスピアを装備し、地を蹴りバラモスに肉薄する。 「ゲロゲロだッ!」 身体の中に巣食っていた邪念が吹き飛ぶ。 願いを託され、自身のなすべきことをしっかり見極めたゲロゲロが今、生涯初めて誰かのために戦う。 ようやく、ゲロゲロは自分の中にあるわだかまりの正体を知る。 これは『信頼』だ。 ゲロゲロは今エルギオスとタバサに全幅の信頼を寄せられている。 頼る相手がムドーしかいないという状況もあるが、それでも何かをしてほしいと期待され、望まれている。 力による上下関係のみしか知らなかったゲロゲロにとって、これもまた初めての感情だった。 誰かに信頼されるとは、こうも重くそして快いものだったのか。 ちゃんと望まれたように在ることができるのか、ちゃんと期待されたように動けているのか不安はもちろんある。 だが同時に誰かの信頼に応えるべく、どこからか活力が湧いてくる。 他の誰かのために、限界を超えた力を発揮できる。 それは誰かの命を奪うことで得られる快楽とは、まったくベクトルの違う快感であった。 弱いはずの人間が何度でも立ち上がれるのは、この信頼という感情のおかげなのだ。 そう遠くない昔、自分はその強い信頼と絆で結ばれた誰かと戦っていたような気がする。 今なら、記憶の中にある誰かが何度でも立ち向かってきた理由がゲロゲロ理解できた。 人を殺し、命を奪うことしか知らなかったゲロゲロの右手が悪魔を象った槍を振りかざし、バラモスに振り下ろす。 槍の形状を最も活かせる刺突ではない。あくまで殴打だ。 一撃必殺の効果を発揮する可能性のあるデーモンスピアで、刺突はしたくなかった。 万一のこともあり得るから。 そして万に一つの可能性が起こった場合、この場にいる全員が死ぬ。 狙うは……バラモスの右手だ。 どちらかしか救えないのなら、ゲロゲロは迷わずエルギオスを救っただろう。 しかしエルギオスは言ったのだ。 信じていると。 エルギオスに信頼されたゲロゲロはその言葉の意味を必死に考えた。 そして、たどり着いたのだ。 エルギオスの真意に。 エルギオスは自分よりも、囚われの身の姫を助けることを望んだ。 人を助ける守護天使が、人質を放って自分を助けろと言うはずがないのだ。
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58 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:08:30.64 ID:Cfa/RVcP0 - ローラなど、ゲロゲロからすればまったく関係のない人間なのに、それでもエルギオスの心を汲み取った。
だが、結果としてみればその判断は功を奏した。 「ぬぅ!?」 バラモスから見ても、いざゲロゲロが動くとなればエルギオスの方を助けると踏んでいたのだ。 だが、蓋を開けてみればゲロゲロは無警戒だった右手への殴打を加えてきた。 バラモスの右手が鈍痛でローラ姫を取りこぼす。 バラモスの顔が苦痛の色に染まった。 だが、同時に。 左手は当初の目的を完遂し、エルギオスは痛恨の一撃を受けた。 最期にエルギオスが見せた表情は絶望でも苦悶でもなく、安堵。 (そうだ、それでいい) 視界に暗がりが広くなるなか、エルギオスは満足する。 ゲロゲロを監視するという目的は果たせなかったが、道を示すことはできた。 これは捨石でも自己犠牲でもない。 一人の男が自分で納得して、自分で選んだ道だ。 誰も文句を言うことではない。 あとはこれがデスタムーア打倒の狼煙になれば、言うことはない。 (アンジェ……) きっとここでも守護天使にふさわしい行動をとっている少女の武運を期待する。 (イザヤール……) かつては人間のことをあまり好きでなかった禿頭の弟子に、もう一度会いたかった。 (ラテーナ……今傍に……) そして最後に、愛する女性の名を呟きながら、エルギオスは逝った。 天よりも高い場所に、愛する女性と二人でいるために。 ローラを救出し、その腕に抱いたゲロゲロに今度はバラモスが攻勢を仕掛ける。 バラモスのツメに装着されたのはサタンネイル。 魔王が着けるのにふさわしい、猛毒を帯びた魔の爪である。 二撃、三撃、サタンネイルをつけた腕を振るう。 対して、ゲロゲロは今度は防御に回らざるを得ない。 いまだ気絶したままのローラをその腕に抱き、満身創痍のタバサには被害が回らぬよう、立ち位置を常に気にしながら片手で槍を振るう。 「殺戮は魔族の本能。 今我らを突き動かしている衝動こそがそうではないか!」 「一緒にしないでもらおう!」 ゲロゲロが槍をとっているのは殺すためではない。 タバサとローラを守るためである。 そして同時に、バラモスに対する義憤もあった。 卑劣な方法でタバサを傷つけ、またエルギオスを死に至らしめたバラモスは許しがたい敵だ。 「そうか、ならば終幕といこうか」 金属音を鳴らし、槍と爪を打ち鳴らせていたバラモスはそこでいったん下がった。 そこで、胸が膨らむほど大きく息を吸い込む。 バラモスの体内の構造はもちろん、人間とは大きく配置も構成も違う。 胃の付近にある、人間にはあり得ない可燃性のガスがたまった袋からガスを口元まで送り出す。 そして鋭い牙を火打石の要領で打ち鳴らし火花を発生させる。 あとはその火花にガスを引火させて、勢いよく吐き出せば激しい炎のできあがりだ。 炎の射線上にはゲロゲロはもちろん、その奥で蹲ってるタバサもいる。
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60 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:10:29.28 ID:Cfa/RVcP0 - ゲロゲロが避ければ、タバサは焼かれてしまう。
ゲロゲロは受けざるを得なかった。 同じように、人にはない器官から絶対零度の氷の息を吐き出した。 激突する二つの息吹に、水蒸気が発生する。 しかし、強さはバラモスの炎の方が上らしい。 あっというまに炎の熱気がゲロゲロの口元まで迫ってくる。 「ヒャダルコ!」 その後ろにいたタバサが、背後から援護をする。 発生した冷気が氷柱を形成しながら地面を走る。 怪我のためと、あくまで呪文の生成速度を重視した故のヒャダルコだった。 山彦の帽子の効果で、二重に発生したヒャダルコはマヒャドに匹敵する威力を持つ。 いまにもゲロゲロの肌を焼き尽くそうとしていた炎を押し返し、五分の状態まで持っていく。 あとは互いの息と魔法力がどこまで持つかの耐久勝負になるかと思われた。 だが、バラモスはさらなる切り札を持っていた。 人などは容易く呑みこむほどの超巨大な火球を、その右手に発生させる。 ゲロゲロが瞠目する。 タバサが息を呑んだ。 あれは母がよく使っていた呪文のメラゾーマだからだ。 バラモスは一挙動で二つの動作を繰り出せることができるのだ。 どれも高い威力を持った呪文とブレスと打撃の内から、二つを同時に繰り出す。 この五分の攻防の中でさらにメラゾーマがくること、それはタバサとゲロゲロにとっての死を意味する。 (いかん……) そろそろゲロゲロの息も途切れそうな頃にさらなる攻撃だ。 ゲロゲロとてかつては大魔王の眷属の一人として生きていた。 自分にも同時に二つの攻撃ができることをその体が覚えている 。 しかし、厄介なことにゲロゲロが持ちうるもう一つの技は激しい稲妻だ。 空気を帯電させ、イオン化させることによって数万ボルトの電撃の通り道を作る。 そして標的を感電させることはできる。 しかし、天から降り注ぐ電撃では、真正面から飛んでくる業火への対抗はできない。 技の相性が悪すぎるのだ。 (誰か……!) こんなとき、父や母や兄がいたら。 頼もしい仲間のモンスターがいたら。 震える手で魔法を放ちながら、今は傍にいない家族たちのことを考える。 灼熱の火球はゲロゲロを呑みこみ、ローラの体も焼き尽くすだろう。 いよいよバラモスの中でメラゾーマの呪文が完成し、あとはそれを放つだけになった。 「「メラゾーマ!」」 その言葉と同時に、ヒャダルコの呪文も途切れる。 放たれたメラゾーマはゲロゲロとローラとタバサを軽く呑みこむだろう。 万事休すの状態で、タバサは目を瞑った。 それしかできなかった。 傷ついた体では、眼前に広がる絶望に対する抵抗はできず逃げることもできない。 なのに。 炎はいつまで経ってもこない。 熱気はいつまでもタバサには感じられず、自分が放ったヒャダルコの冷気で冷やされた空気がいまだに肌に伝わる。 そういえば、メラゾーマの掛け声は同時に二つ聞こえてきた。 一つはもちろん野太い魔物の声。もちろんバラモス。 そしてもう一つ。どこか懐かしい澄んだ声の持ち主。 「間に合った……なんとか間に合いました……」
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62 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:12:39.78 ID:Cfa/RVcP0 - 言葉の合間合間で息を切らせたその女性は、全速力で駆けつけたのだろう。
肩を上下させながら、息を弾ませる。 バラモスと同じメラゾーマを相殺するために放たれたその手の先に、熱気が後を引く。 白いドレスに身を包んだ、蒼髪のその女性は――。 「お母さん!」 タバサの表情が喜色に包まれる。 ようやく、家族の一人と再会できたのだ。 エルギオスの死という悲劇はあったものの、それは喜ばしいことであった。 「ふん、誰かと思えば貴様か。失せよ小娘、貴様に用はない」 「あなたに用がなくても、私にはあります」 バラモスがフローラの方へ向き直ると、フローラはゲロゲロの手で合図をする。 下がって、ローラとタバサの安全を確保しろということなのか。 自分の姿に警戒しないことにはわずかに戸惑ったが、考えてみればタバサの母親なのだ。 娘と同じように、魔物に対する慣れというものを感じられた。 ローラを丁寧に横たえて、タバサへ持っていた超万能薬を渡す。 エルギオスとタバサのどちらかに使おうと温存していたのだが、今となっては使う相手がタバサしかいない。 それが少しだけ寂しかった。 自分の迷いを振り払ってくれた男を野晒しにするのはあまりにも忍びない。 ゲロゲロは遺体を回収し、あとで弔うことを誓った。 「あの時逃げ出した女が、何故今更のこのこと舞い戻ってきた?」 「ソフィアさんたちのおかげです」 「誰だそれは?」 「あの二人は、何故あの時ローラ姫を人質にとったのか、その理由と意味を考えました」 ソフィアたちの予測は当たっていた。 自らの愛の証明をするために、ローラ姫は自らバラモスに囚われることを望んだ。 しかし、勘違いしてはいけない。 ローラは自発的に残ったのではない。 バラモスに脅された結果として、フローラが殺されるより自分が残るのを選んだのだ。 「あなたはローラ姫を試すために、人質にしたのではありません」 「ほう、面白いことを言う」 「単純なことです。あなたはそのままの意味の『人質』が欲しかっただけの事」 ローラが残ったのは愛の照明のため。 では、バラモスがそもそも人質にする理由は? ソフィアはこう考えた。 人間の心を試さずにはいられない、嫌な奴なんだろうなと。 それは話を間接的に聞いただけの者が導き出せる答えとしては、限りなく正解に近いだろう。 しかしフローラは知っていた。 直接バラモスが対峙した者にしか知りえない情報を持っているのだ。 他ならぬフローラ自身が、その答えを導くヒントを身に着けているのだから。 ソフィアに会えたことは本当に幸運だった。 会うことができなかったら、大切な娘と、それを守ろうとした仲間でさえ知らずに死なせていたに違いない。 「答えは、あなたの指にはめられたそれです」 フローラが指さしたそれはバラモスの指に填められたリングだった。 いや、それは指輪などではない。 人間の腕に合うように作られたサイズだから、バラモスの腕に入りきらず指輪のように見えるだけだ。 フローラの腕輪と似たようなデザインの宝飾。 ただ一つだけ違うとすれば、その腕輪に填められた宝玉の色。 フローラの腕輪には青い宝玉がはめられてるのに対し、バラモスの腕輪には赤い宝玉。 そう、フローラはその腕輪の正体を知っている。 自らが手にしているメガザルの腕輪と逆の効果を持つ腕輪。 究極と対をなす至高の装飾品。
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63 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:14:05.12 ID:Cfa/RVcP0 - 「それが、メガンテの腕輪!」
持ち主の死を条件に発動する二つの腕輪。 しかし、その性質は大きく違う。 メガザルの腕輪が仲間を死の淵から救いだし、全快させるのに対し、メガンテの腕輪は敵を道連れにする。 それは究極の献身と至高の挺身を体現したものだった。 バラモスはその腕輪を身に着け、事前に敵に知らせることで攻撃意欲を低下させるのに利用した。 下手に自分を殺すと、その瞬間にお前も死ぬと。 だが、それだけでは万全とは言えない。 相打ち覚悟で挑んでくる者、バラモスの指を切り落とせば問題ないと考えてくる者もいるだろう。 そこでローラ姫の出番である。 人質を見せびらかすことで、下手な行動に出るのすら許さない。 特に勇者のような正義感に燃えた輩にはうってつけの策だった。 その二重の策故に、ゲロゲロたちははじめバラモス相手に為すすべもなく蹂躙されたのだ。 まさに悪魔の思考回路。 大魔王ゾーマが、地上侵略のためにバラモスを送り込んできたのも頷ける。 「ククク……正解だ、と言っておこうか」 魔王バラモスにとって、愛の証明などは些事に過ぎない。 ローラの想い人が本当に信ずるに足る人物かどうかなど、明日の天気程度にしか気にする価値はない。 あくまで自身が生き残るためにとった策の副産物なのだ。 「デボラお姉さんとゴレムスを殺し、あまつさえタバサの命まで奪おうとした……」 普段おしとやかなフローラの目に、はっきりと怒りが現れる。 フローラからすれば、バラモスは家族と仲間を殺し、ローラ姫を人質にとった存在なのだ。 もう縁も所縁も十分すぎるほどにある、憎き相手だった。 「許せません」 「許さなければどうした!?」 フローラの怒りなどどこ吹く風といったように、バラモスはフローラの視線をまっすぐに受け止める。 ローラ姫という人質はいなくなったものの、いまだにバラモスがメガンテの腕輪を保持していることに変わりはない。 フローラもゲロゲロもタバサも、全力を出すのは難しい状況だ。 「貴様も愛などというまやかしを信じるのか? 愛など、人間が棒と穴の欲望に高尚な名前を付けただけに過ぎん」 「いいえ違います。 肉欲と性欲ではない、もっと違う何かがあるからこそ神はその感情に愛と名付けたのです」 「貴様も、所詮は男の子種を欲するだけの雌であろう? 隠さずともよい、より良い雄を求めるのは、生命に備わった本能なのだ」 「いいえ違います。 私は夫に何かしてほしいと思っていません。 夫が幸せならば、その相手は私でなくてもよいのです」 ここで引いてはいけない。 フローラは断固たる意志を持って、バラモスの言葉を跳ねつける。 ローラの愛の証明を邪魔をしてまで戻ってきたのだから、フローラまでバラモスに心を揺さぶられてはならない。 何より、娘が見ている。 「愛に見返りなど求めてはいけません。 見返りを求めれば、それは単なる取引に過ぎません。 好意を差し出してその対価に好意を求めるのは、恥ずべき行為なのです。 諦めなさいバラモス。あなたの言葉は私には通じない」
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- ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII Lv2
66 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:16:31.11 ID:Cfa/RVcP0 - フローラとてかつてはそうしていた。
リュカに尽くしていれば、いずれ振り向いてくれると思っていたのだ。 しかし、尽くせば尽くすほどにリュカの心は離れていくのを実感した。 当然だ。リュカはフローラに対して負い目を抱いているのだから。 フローラのやったことはその負い目を利用して、リュカの優しさに付け込んでいただけだ。 嘘をついてフローラ選んだのだから、フローラを大切にせよと。 ありもしない借用書に振り回され、リュカは一層自分を責める。 フローラが壊す。フローラが侵す。フローラが奪う。 リュカの幸せの全てを奪い、リュカのすべてを踏みにじる。 ゲマでもイブールでもミルドラースでもない。 他の誰でもないフローラが、 フローラ自身が愛するリュカの全てを奪う! 「小娘が、減らず口を叩くな!」 「小娘ではありません!」 間髪入れずにフローラはバラモスに返す。 「母親です!」 小娘でいられた時間など、とうの昔に過ぎていた。 夢見る少女でいられたのは、リュカと結婚するまでだ。 現実を知り、フローラは打ちのめされ、そして強くなろうと努力した。 守られるだけの女は嫌だと、呪文の勉強をして武器の使い方も覚えた。 リュカはフローラのことなど愛していない。 彼が愛しているのはビアンカだった。 それでも好きになった。 それでもなお、リュカの隣でリュカを支えることを望んだ。 リュカは複雑な気持ちだっただろう。 フローラと子を成すことで、伝説の勇者が生まれたのだから。 結果として、ビアンカよりもフローラを選んだリュカの選択は正しかったのだ。 だが、それすらもリュカにとっては許されざる行為をしたはずの自分が正当化されてしまったのだと思っただろう。 タバサとレックスは望んで生まれた子ではなかったのかもしれない。 けれど、子を産み妻から母親になったフローラはまた強くなった。 この世に生を受け、おぎゃあと泣く双子を初めて抱きしめたとき、何があっても守ると強く心に秘めた。 自分の使命は家族を守ることだと、フローラは自身の全てを注ぎ込んだ。 女は弱し、されど母は強し。 子を守ろうとする母は無限の強さを発揮する。 「永遠の愛などない! 何故なら、人間が永遠ではないからだ」 「例えそうだとしても、私は夫を……リュケイロムを愛しています」 リュカがフローラを愛してなくても、フローラはリュカを愛しているのだから。 リュカがいつの日か心から笑えるのなら、その時フローラは傍にいられなくてもいい。 自分という呪縛から、今度こそリュカは解放されねばならないのだ。 「いつか終わりのくるその時まで、あの人を愛し続けます!」 その時はもう近いのかもしれない。 メガザルの腕輪がそう言っている気がした。 恐れはないが、ただ一つ不安があるとすれば、レックスとタバサのこと。 自分が死ねば、悲しむかもしれないから。
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69 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:21:42.18 ID:Cfa/RVcP0 - 「我は破滅と混沌を司る唯一無二の存在に仕える者なり」
問答は終わりとばかりに朗々たるバラモスの詠唱が響く。 すぐにフローラは悟った。 最大級の攻撃がくると。 それに対して、フローラは超万能薬を使い回復したタバサに声をかける。 「タバサ、合わせて!」 その一言でタバサは全てを理解する。 ゲロゲロにローラを担がせて、タバサはフローラの横に移動し両手を前に突き出す。 「「一なる五柱の精霊の名の下に」」 「三界を蹂躙し、天の裁きを四度受けても尚、冥府魔道を歩み」 その言葉に、今度はバラモスが驚愕に目を剥いた。 メガンテの腕輪を持っているバラモスに対して、フローラたちは迂闊に攻撃を仕掛けれないはず。 なのに、フローラたちは極大呪文を行使しようとしている。 つまり、フローラたち、いやフローラはメガンテに対抗する術を持っているということだ。 「「不浄なるものを照らし出す光の奔流を」」 「命ある者の血と臓物と苦痛で、五臓と六腑を満たす者なり」 ゲロゲロの耳に耳鳴りが聞こえ始めた。 そして、すぐに理解できた。 これは耳鳴りではない。 集い始めた魔力が集束し加速し、解放の時を待っているのだ。 「「名付けて曰く、破邪の光爆」」 「七つの大罪を犯し、今ここに破壊の死爆を以て、新たな供物を我が神に捧げん」 大気が震える。大地が鳴動する。天が咆哮する。 「「集え聖光!!」」 「爆ぜよ雷光。 そして唸れ轟音!」 そう、三者が選んだのはすべて同じ魔法。 空爆系最高位の呪文にして、あらゆる呪文の中でも屈指の破壊力を持つ魔法。 「「「イオナズン!!!」」」 その瞬間。 全員の視界が眩い光で真っ白になる。 聴覚は最大級の呪文の四つ分の爆発音で、しばらく使い物にならなくなる。 (お、押され……!) 一発のイオナズンに対して、フローラ親子は山彦の帽子の恩恵もあって三発ものイオナズンが合わさっているのだ。 如何な魔王バラモスとて、この数の差は覆しがたい。 足を踏ん張り、今は耐えているが数秒後には押されるに違いない。 ここはダメージを喰らうこと前提で、激しい炎で少しでもダメージを減らすことに専念しようとする。 しかし、息を吸い込んだバラモスの頭上に突如として落雷が落ちる。 感電のショックで、炎を吐き出すことができない。 たまたま偶然が起きて落雷が直撃するには、あまりにも確率が低すぎる。 バラモスがゲロゲロの方を見ると、いかにもしてやったりという顔で口元が弧を描く。 怒気を込めた目でゲロゲロを睨み付けようとするが、それはあまりにも空しい行為だった。 相殺しきれなかった残り二発のイオナズンが、バラモスに迫る。
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71 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:23:13.67 ID:Cfa/RVcP0 - 「ウ、オオオオオオオオオオォォォォ!!!」
光の奔流がバラモスの全てを呑みこむ。 バラモスの叫びさえ、轟音がかき消していく。 光に包まれた後に、その中心にいるバラモスごと爆発する。 光の彼方に消え去り、バラモスが消えた後に灰燼へと帰した絶望の町。 残骸が残ってる家屋の方が珍しく、地面のほとんどが抉れ、あるいは隆起している。 爆風が三人の肌に礫をぶつけてくる。 はためく髪を押さえつけながら、フローラは爆発の中心点を見ながら言う。 「倒せたのでしょうか?」 「いや、メガンテが発動していない。 無傷ではないが十中八九生きているだろう」 冷静な声でゲロゲロが応えた。 そこで、ろくに自己紹介もしてないことを二人は思い出す。 「タバサのこと、ありがとうございます。 私はフローラと申します」 「ゲロゲロだ。 タバサには色々と世話になっている」 挨拶もそこそこに、ゲロゲロは本題を切り出す。 「してフローラよ。 あのメガンテに対する手段があるというのか?」 「はい。 このメガザルの腕輪なら、メガンテに対抗することができます」 メガンテの厄介なところはその威力もさることながら、呪文にカテゴライズされていながらマホカンタが通じないことだ。 フローラの考えた対抗策はまさに前代未聞と言ってもいいほどだった。 メガンテの呪文に対してメガザルの腕輪をぶつける。 これなら、確かに死ぬのはバラモスとフローラのみで済むだろう。 だがしかしそれの意味するところは……。 「え? それって……」 タバサが反応した。 パチパチと音を立てて燃えていく木材と、そこからモクモクと立ち込める黒い煙。 文字通り木端微塵に粉砕された煉瓦は無数の礫へと変り果て、路傍の石へと成り果てて見渡す限りに広がる。 そして、愛する母の背中をタバサの眼は捉える。 母は両手を広げ、タバサを何かから守るように立ちふさがっている。 タバサとフローラの見ている先には、紅蓮の炎が渦巻いている。 赤い、赤い世界だ。 視界一面が真っ赤に染まっている。 それは醜悪さすら感じさせるほどの、地獄の業火だ。 生きとし生けるものすべてを喰らい、燃やし尽くす破壊の権化だ。 やはり予測通り、バラモスは生きていた。 きっと、母は今あの炎に立ち向かおうとしているのであろう。 タバサはそれを悟った。 ふと、フローラがタバサの方を振り返る。 その頬は煤で黒く汚れ、辺り一面に漂う熱気で汗が浮かんでいる。 それでもなお、母は高潔さと清廉さを併せ持った雰囲気を失っていない。 瞳には不屈の意志を宿し、体には献身の意志を漲らせ。 その美しさは未だ衰えを知らず、絵画から飛び出してきたと言われても信じてしまいそうなほどだ。 圧倒的なタフネスを持つ魔王を前にして、母はタバサの方を見るとニコリと笑い、言った。 「大丈夫」 慈しみの籠った言葉が、タバサの心へと直接語りかける。 お腹を痛めた母親だけが抱ける、我が子への愛情。 タバサは確かにこの声を母体の中で聞きながら、レックスとともにこの世に生まれ落ちたのだ。 タバサは無条件でその言葉を信じた。 この声でタバサはお伽噺を聞かされ、昼は頭を撫でられて褒められ、夜には子守唄を聞き眠りについたのだ。
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73 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:24:39.09 ID:Cfa/RVcP0 - 幼き少女にとって、親というのは絶対の存在だ。
ましてそれが、タバサ本人も最高の両親だと思っている存在ならなおさらだ。 強くて優しい、みんなから慕われるリュカとフローラは自慢の家族。 時には反発することもあったが、リュカとフローラの言葉はタバサにとって絶対の意味を持っていた。 「あなたは絶対に私が守ってみせるから」 「だめ……」 だからこそ、タバサはその言葉を拒絶する。 母は何があっても、娘であるタバサを守るだろう。 そう、どんな時でも、どんなことがあっても。 母のその言葉に嘘はない。 母は決して嘘をつかない。 それは母から感じられる悲壮な決意から感じ取れる。 フローラがキッと見据えるその先には、この焼け落ちた絶望の町を闊歩する、魔王の一人がいることだろう。 黒煙と粉塵で今も視界を遮られてはいるが、そこにいるのは間違いない。 かの魔王は血よりも鮮やかな爪を持ち、鋭く尖った牙をくねらせる。 世界を燃やし、世界を壊すその魔王を倒すために、母は命を賭けるつもりなのだ。 あれを倒さないといけない理由はタバサにも理解できる。 あの魔物は決して捨て置けない類の生き物だ。 あれは邪悪そのものだ。 賢しらに言葉を操り、人を巧みに惑わせる魔性の存在だ。 魔物使いの父を持つタバサでさえ、その魔物との対話と理解は諦めたほどだ。 だが、それとこれとは話が別なのだ。 奴がどれほど邪悪だからといって、母がその身を犠牲にするのを、娘であるタバサが容認するはずがない。 まだタバサは母に甘えていたい年頃なのだ。 長い別離を経てようやく母との幸せな日々が手に入れられる矢先に、こんな殺し合いに放り込まれた。 そんなの、タバサは嫌だ。 ついに大魔王を倒し、家族で穏やかに過ごせる日々を手に入れたのに。 こんなところで、家族を失うなんて絶対に嫌だ。 「ダメ! 私のお母さんを……私のお母さんをやめないで!!」 もちろんフローラとて、簡単に死ぬつもりはないだろう。 ローラという人質も取り返した今、動けないほど瀕死に追い込んでからメガンテの腕輪を奪うという方法もとれるのだから。 だがしかし、何故かタバサはそれ以上の何かを感じている。 母は、死ぬことを前提に物事を考えているような節が見受けられたのだ。 「大丈夫、死ぬと決まった訳じゃないから」 「やめよ、親が死ぬところを大事な娘に見せるのか?」 「しかし、これしか方法がありません。 私はあなたにこの腕輪を差し出して私の代わりに死んでくださいと言うところも、娘には見せたくありません」 「そう急くな。 エルギオスが言っていたぞ。 諦めなければ道は自ずと開かれるとな」 そう言うと、ゲロゲロはタバサに断りを入れて、タバサの支給品を取り出す。 取り出したのは蒼い宝玉だ。 持ち主の死の運命を一度だけなかったことにする、奇跡の宝玉、復活の玉だ。 「これで私が、奴を一人で仕留めればいいだけのことだ」 今なら、バラモスが少なからずダメージを受けているこの時なら一人でも討ち果たすことができる。 確かに復活の玉さえあれば、失うのはこれだけでいい。 フローラがその身を犠牲にする必要はないのだ。 まさか蘇生を可能にする道具がポンポンと出てくるとは思わず、フローラは面食らった。 確かに、自分はメガザルの腕輪を支給されたことで、どこか焦っていたのかもしれないと反省する。
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75 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:26:31.77 ID:Cfa/RVcP0 - 「私にとっても、バラモスはエルギオスの仇。 ここは私に任せてくれ」
フローラとタバサはローラ姫を抱えてその場から離れる。 冒険をして、腕が鍛えられていたのが幸いだ。 旅に出る前のフローラでは、ローラ姫を引きずっていくことしかできなかっただろうから。 歩調はだいぶ緩やかであったが、それでもメガンテの射程範囲外にはなるだろう、という場所までこれた。 フローラが戻ってきたのは正解だったが、唯一失敗と言えるのは一人で戻ってきたことだろう。 ソフィアたちにはアレフを探すのを依頼していた。 フローラ一人が戻ってきたのはローラと互いに知り合いなのもあるが、ローラの手元にある消え去り草を当てにしていたのだ。 それを駆使してなんとかローラと二人で逃げ出すために、フローラは単身舞い戻ってきた。 だが、フローラの思っていたよりもはやく、魔王バラモスは他者と接触していたのが誤算だった。 ソフィアとハーゴンがいれば、先の極大呪文同士の激突で必ずや倒すことができただろうから。 いや、その代わりにフローラが死んでいたことを考えれば、プラスマイナスで言えばゼロだったのかもしれない。 「あのね、タバサ……」 もう一度、母がタバサに声をかける。 ひょっとしたら、話す機会はもうあまりないかもしれないから。 「お父さんね、お母さんのこと好きじゃなかったの……」 「え……?」 その言葉を一字一句違えず聞いたはずなのに、タバサはその意味を理解したくなかった。 どこか遠い異国の言語を母が喋り、たまたまタバサは自分たちの言葉と聞き間違えたのだと、逃避したくもなった。 何故なら、記憶の中にある両親はいつも寄り添いどんな時も離れることはなかったのだ。 グランバニアの王宮内でも、仲睦まじいおしどり夫婦で有名だったのだ。 その父が母を愛してなかったなどと、タバサは聞き間違いだとしか思いたくなたかった。 「お母さんがね、私と結婚してって脅したの」 それでも、母の表情は嘘をついてるとは思えない。 胸の内から絞り出すように言葉を続ける母は、思い詰めた表情をしている。 あんなに苦しそうにしている母を見るのは、タバサにとって初めてのことだった。 タバサの胸が疑問と混乱で埋め尽くされる。 「天空の盾が欲しかったら結婚してって」 二人が愛してなかったというのなら、その二人の間に生まれた子供のタバサはどうなるのか。 タバサもレックスも望まれ祝福されて、生まれてきた子供ではなかったのか。 仲睦まじい姿を見せていた両親の間に愛情などなかったのだとしたら、両親が子供に抱いていた感情もまた偽りだったのか。 それはタバサのアイデンティティの崩壊にも等しかった。 タバサは両親に対して絶対とも言える信頼を無条件に抱いていた。 だが、肝心の両親がタバサを愛してなどいなかったのだとしたら? 「でもこれだけは覚えていてタバサ。お父さんもお母さんも、あなたたちのことは心から愛しているわ。 お母さんはもちろん、お父さんもよ」 「ど、どういうこと……?」 幼いタバサには理解できなかったであろう。 時に、愛よりも実利を選ぶ結婚があることを。 ルドマンにとって、天空の盾は大事な娘に持たせる嫁入り道具でしかなかった。 それがそもそもの悲劇の始まりなのだ。 好きじゃなかったら、結婚なんかしなければいいのにとは思えても、タバサは口には出せない。
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77 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:27:48.94 ID:Cfa/RVcP0 - それを口にすることは即ち、リュカとフローラの間に生まれた自分の存在の否定に繋がるのだから。
「それはね――」 そこまで言ったところで、フローラは中断する。 ようやくローラの眉が動き、瞼を開けようとしていたからだ。 「ごめんねタバサ、後で全部話をするわ。 どの道長い話になるでしょうから」 「そんな!」 理屈ではそれが正しいと分かっていても、タバサは納得できるはずがない。 こんな宙ぶらりんな気持ちのまま、戦うことなんてできない。 「……ここは?」 「気をお確かにローラ姫。 遅れましたが、迎えに参りました」 胡乱な瞳だったが、フローラの姿を認めた瞬間に意識が覚醒する。 「アレフ様は!? バラモスは!?」 「申し訳ありません。 急を要する事態でしたので戻ってまいりました。 アレフさんの捜索はソフィアさんとハーゴンさんという二人にお任せしました」 ローラが周囲を見渡す。 モクモクと立ち込める黒煙と焼ける町。 それを見て、ローラの顔は蒼白になる。 「バラモスはどうなりましたか!?」 確かに先のローラの言葉にアレフのことしか答えなかったが、そこまでバラモスのことが気になるのか。 フローラはローラの表情に尋常ならざるものを感じながら、また答えた。 「手ひどく痛めつけましたが、死んではいないでしょう。 ゲロゲロさんという方が、今すべてを終わらせにいっています。 大丈夫です。 メガンテの腕輪なら無効にする術があります」 おそらく、メガンテの腕輪のことについてローラは気にしているのであろう。 そう予測したフローラはわざわざ聞かれてもないメガンテの腕輪のことまで織り込んで説明した。 しかし、ローラの危惧しているのはそうではなかった。 「いいえ、そうではありません! 今すぐこの場を離れて!」 その次のローラの言葉で、フローラは事態が切迫していることを直感する。 「バラモスは私から、荷物を全て奪いました!」 「さすがの我も、今のは死を覚悟したぞ」 同時に魔王バラモスの声が、どこからともなく響いた。
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80 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:29:41.68 ID:Cfa/RVcP0 -
同時刻――。 「いないだと!?」 デーモンスピアで今度こそバラモスを死に至らしめようと、ゲロゲロが爆発の中心点まできていた。 いまだに黒煙は晴れないが、逃がす機会を与えはしない。 そう思っていたのに、バラモスはどこにもいない。 黒煙の向こう側に立つバラモスの姿を認めたからこそ、生きているとゲロゲロはおろかフローラもタバサも確信していたのだ。 あのような巨体、死ねばその死体はどうやっても隠しきれるものではない。 つまり、バラモスは生きていてどこかへ移動したのだ。 誰にも知られることなく移動する手段を使って! ――場所は戻る。 衣服はところどころ焼け落ち、その体にはイオナズンの直撃による激しい負傷の跡が多々見受けられる。 それでもなお、二発のイオナズンの直撃を受けても魔王バラモスは生きていた。 自らを包む粉塵を利用して、ローラから奪った消え去り草を使い、その身を隠す。 そしてもう一つあったローラの支給品、万能薬。 これはローラから奪った時点で飲んでいたのが功を奏した。 元よりカーラとゴーレムの戦いで負った傷も決して浅くはなかったのだ。 もしも出し惜しみをしていたら、イオナズンの直撃には耐えられなかったであろう。 バラモスにとってはこれ以上ない屈辱だった。 この魔王が身を隠すだけに留まらず、抜き足差し足で移動をさせられるのだ。 「認めよう、女。 貴様は我の不倶戴天の敵であると」 ようやくバラモスの方も合点がいった。 フローラたちが全力で向かってきた訳が。 フローラの腕に装備されている蒼い宝玉の埋まった腕輪がそうなのだ。 あれもまた、装備した者の死を契機に発動し、何らかの奇跡をもたらすのだと。 ならば、その邪魔者からまず消し去ればよい。 「なればこそ、ここで消えてもらおう!」 「導きの儀式を永久に繰り返し――」 「遅い!」 すでに呪文を完成させているからこそ、バラモスは声をかけたのだ。 エルギオスたちがバラモスを殺す訳にはいかなかったように、バラモスもフローラを殺す訳にはいかない。 バラモスが放ったのは、標的を彼方へと消し去り排除する追放の呪文。 「バシルーラ!」 「あ……」 放たれた光弾に包まれたフローラが、ふわりと羽もないのに浮かび上がる。 少しずつ少しずつ上昇し、バラモスの頭よりも高い場所まで上がる。
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82 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:30:52.69 ID:Cfa/RVcP0 - 「お母さん!」
「フローラさん!」 「タバサ、タバサぁ!」 空中で溺れるかのように手足をばたつかせるフローラ。 必死の抵抗も空しく、まだまだ高度を上げていく。 そして、ある高度まで到達すると、光弾に包まれたフローラはスピードを上げてどこかへと飛んでいく。 「お母さああああああああああああああああああああああん!」 「タバサあああああああああああああああああああああああ!」 その言葉を最後に、フローラは見えなくなった。 どこか遠いところへと、強制転移をさせられたのだ。 「そんな……」 ローラがへたり込む。 これでは、結局元の木阿弥だ。 フローラの代わりにタバサがいて、そして絶望的な状況はあの時の繰り返し。 自分の支給品が奪われたせいで、このような事態を招いた。 「娘よ、貴様はあの女の子供か?」 無言でバラモスと対峙するタバサ。 その気丈さは褒められるべきではあるが、総身に震えが走っている。 何より、母の言葉の意味が分からないままなのだ。 リュカがフローラを愛してないとはどういうことだったのか、それを聞く前にフローラは消し去られた。 肉体は健康そのものでも、精神は十全とは言い難い。 こんな状態では、バラモスに勝つのは到底不可能である。 「案ずるがいい。 貴様の母もすぐに同じ所へ送ってやろう。 だが、腹が減ってきたところだ。 最初に殺した女の肉は筋張ってて固そうだったからやめたが、貴様のはらわたはさぞや柔らかいのだろうなぁ」 舌をチロチロと覗かせながら、バラモスは言い放つ。 恐怖心を煽る言葉を選び、タバサの体を縛り付ける。 恐怖とは人間につける最高のスパイスだ。 食われるその寸前の人間の恐怖と絶望の顔。 かぶりついたその瞬間、恐怖という調味料をかけられた人間の肉は得も言われぬ味を引き出す。 涙は極上の甘露となって、バラモスの舌を潤す。 これだから、バラモスは人間を殺すのをやめられない。 タバサももはやその言葉に涙を抑えられない。 歯の根が合わず、ガチガチと震える。 いつも守ってくれた大人はもういない。 ゲロゲロですら、今は離れた場所にいる。 「おやめなさい! バラモス、もう一度私があなたの所に戻ります! だからっ!」 「いいや駄目だローラ姫よ。 まずは教育をせねばなるまい。 我から逃げようとすればこうなるということをな」 タバサの前に立ちふさがったローラを、バラモスは跳ね飛ばす。 「娘よ、貴様のしゃれこうべをあの女に見せてやるのも一興」 徐々に伸びるバラモスの腕。 それを前にして、タバサは身が竦んだ。 魔王に威圧され、涙を流すことしかできない。
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85 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:33:00.21 ID:Cfa/RVcP0 - 「来たれ、正義の雷」
だが、その瞬間。 タバサとバラモスの間に雷が落ちる。 威力自体は抑えられていたようで閃光と残響音を残したまま、あっさりと消える。 「何者だ!?」 バラモスが誰何の声を上げる。 その言葉を待っていたかのように、どこからか男の声が聞こえる。 「ひとつ、人の世生き血を啜り」 土を踏みしめる音が聞こえる。 自らの居場所を知らしめるために、わざと大きく音を立てて。 「ふたつ、不埒な悪行三昧」 その男は不審者のような恰好をしていた。 外套を羽織っているのはまだいい。 だが、その下はなんと引き締まったむき出しの筋肉にパンツ一丁。 とどめはその顔だ。 顔には町の酒場によくいるあらくれもののマスクを被っており、怪しさ爆発である。 ローラもタバサも、一瞬驚きのあまり逃げ出そうとしたほどだ。 「みっつ、醜いこの世の悪を」 誰がどう見ても変態としか思えない恰好。 なのに、男はやましいところなど何もないかのように堂々と背筋を伸ばして歩いてくる。 肩で風を切って、その足取りは一定の歩調を保ち、腕は大きく振られている。 そして、どこか優しさすら感じさせるその独特の印象。 まるで、彼が勇者だと言われてもその雰囲気だけで納得しそうなほどだ。 「退治てくれよう、あらくれ仮面」 オルテガとバラモス、本来会うことなく死んでいった二人のあり得ない邂逅が今このとき実現した。 「さあ、頑張ってねオルテガさん」 オルテガがあんな大層な名乗り口上を上げたのは、オルテガ自身の強い希望もあったが、本命は援軍は一人だけだと思い込ませることだ。 盗賊の自分は真正面から戦わずに、身軽さを身上とした戦い方をすればいい。 建物の物陰に隠れて、ルイーダは機を窺う。 亡き友との思い出の品を握り締めて。 絶望の町での戦いはまだ終わらない。 【エルギオス@DQ9 死亡】 【残り46人】
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87 :献身と挺身 ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:34:45.68 ID:Cfa/RVcP0 - 【???/???/昼】
【フローラ@DQ5】 [状態]:全身に打ち身(小) [装備]:メガザルの腕輪 [道具]:支給品一式*3、ようせいの杖@DQ9、白のブーケ@DQ9、魔神のかなづち@DQ5、王者のマント@DQ5 不明支給品(フローラ:確認済み1、デボラ:武器ではない物1、ゴーレム:3) [思考]:リュカと家族を守る。 ローラを助け、思いに答えるためにアレフを探す。 [備考]フローラがどこまで飛ばされたか後続の書き手氏に任せます 【G-3/絶望の町 屋外/昼】 【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】 [状態]:後頭部に裂傷あり(すでに塞がっている) 記憶喪失 [装備]:デーモンスピア@DQ6、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9 [道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、人力車@現実、復活の玉@DQ5PS2 [思考]:タバサと共に行く。エルギオスの言葉を忘れない。 [備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。 【タバサ@DQ5王女】 [状態]:健康、精神的に動揺、恐怖 [装備]:山彦の帽子@DQ5 [道具]:支給品一式 [思考]:家族を探す、フローラの言葉の意味が気になる。 ゲロゲロと共に行く 【ローラ@DQ1】 [状態]:腕に火傷(小) [装備]:なし [道具]:なし [思考]:アレフを探す アレフへのかすかな不信感 【オルテガ@DQ3】 [状態]:健康 記憶喪失 [装備]:稲妻の剣@DQ3、あらくれマスク@DQ9、ビロードマント@DQ8、むてきのズボン@DQ9 [道具]:基本支給品 [思考]:正義の心の赴くままに、主催者たちやマーダーと断固戦う。 記憶を取り戻したい。 [備考]:本編で死亡する前、キングヒドラと戦闘中からの参戦。上の世界についての記憶が曖昧。 【ルイーダ@DQ9】 [状態]:健康 [装備]:ブロンズナイフ@歴代、友情のペンダント@DQ9 [道具]:基本支給品 賢者の聖水@DQ9 [思考]:オルテガとともにバラモスと戦う。 アンジェとリッカを保護したい。 殺し合いには乗らない。 [備考]友情のペンダント@DQ9は、私物であり支給品ではない。 『だいじなもの』なので装備によるステータス上下は無し。 【バラモス@DQ3】 [状態]:全身にダメージ(中) [装備]:サタンネイル@DQ9、メガンテの腕輪@DQ5 [道具]:バラモスの不明支給品(0〜1)、消え去り草×1、基本支給品×2 [思考]:皆殺し できればまたローラを監視下に置く [備考]:本編死亡後。 ※光の剣@DQ2がエルギオスの死体付近にあります
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88 : ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 15:35:32.45 ID:Cfa/RVcP0 - 投下終了しました。
まずは遅れてしまったこと、申し訳ありません。 そして数々の支援ありがとうございました
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92 : ◆uOBASANc9I [sage]:2012/07/01(日) 16:32:39.55 ID:Cfa/RVcP0 - あ、直前までカーラの出る話を読んでいたせいかな。すごく恥ずかしい……
wikiに収録された際に修正しておきます
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