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138 :夢で逢えたら 1/6 ◆8VkLOokZYs [sage]:2012/04/09(月) 00:56:19.58 ID:0mOfjJo50 - イザヤールは深い森の中を彷徨っていた。
全身を怒りに震わせながら力強く歩を進める。 「何ということだ」 彼は怒っていた。 怒気が全身に炎のように揺らめいている。 何もできなかった。 それどころか怯んでしまった。 そのことがどうしても許せなかった。 最初の広間で少年が殺された時。 デスタムーアと名乗る魔族の妖気に中てられた時。 人を守るべき守護天使であった自分がただの人のように動けなかった。 「恥だ」 死ぬのは怖くない。その筈だったのにあの時、体は動かなかった。 自分に対する怒りとデスタムーアに対する怒りがせめぎ合い、イザヤールは吼える。 「ゲームといったなデスタムーア! ならばそのゲーム盤はこの私が引っ繰り返させて貰うぞ!」 まずは彼の弟子であったアンジェを見つけるのだ。 自分のことを恨んでいるかも知れないが、今の自分が信用できる者は彼女しかいない。 「だから生き延びるのだぞ、アンジェ……」 そうつぶやいた後彼はようやく落ち着いた。 自分の方針が定まり、他のことを考える余裕が出てきたのだ。 怒りは収まらないが少なくとも表面上は冷静さを保つことが出来る。 他人の心配もいいが、それよりもまず自分が生き延びなくては話にならない。 イザヤールは自分に支給されたアイテムを確認することにした。 いつ何が役に立つかは分からない。 確認しておくにこしたことはないだろう。 そしてふくろから取り出したのは3本の杖だった。 魔法弾の当たった相手と位置を入れ替える場所替えの杖。 魔法弾の当たった場所に瞬間移動する飛び付きの杖。 魔法弾を当てたモノを側に引き寄せる引き寄せの杖。 それぞれ癖のある魔法の杖だった。 「ふむ、状況次第で役に立つな」 そしてがさゴソともう一度ふくろを漁り――ふと目が合った。 誰と? 森の木々の間からこちらをじっと見つめていた少女と。 「誰だ!?」 イザヤールが誰何すると少女はニッコリと笑いかけてきた。 年齢はアンジェと同じくらいだろうか? 体格は小柄で肩で左右で結えた黒髪が似合っている武闘着姿の少女だった。 「驚かせてしまったようでごめんなさい、大丈夫でしたか?」 「む? ああ、構わん。気にしないでくれ」 融和な雰囲気にどうやら危険な相手ではないようだと判断した。 相手を不安にさせないようにこちらも笑いかけて挨拶をする。
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139 :夢で逢えたら 2/6 ◆8VkLOokZYs [sage]:2012/04/09(月) 00:58:05.09 ID:0mOfjJo50 -
「私の名はイザヤール。君は?」 「イザヤール様とおっしゃるのですね。 申し遅れました。わたくし、リンリンと申します。 以後お見知りおきを」 「う……む」 楽しそうに笑う彼女を見て、イザヤールは違和感を覚えた。 どうもこのリンリンという少女は雰囲気が変だ。 (なぜだ?) どこか場違いに思えてならない。 そこまで思って気づいた。そう、「場違い」なのだ。 ここはあのデスタムーアという魔族が用意した殺し合いをする世界なのだ。 なのに何故……「楽しそうに」笑えるのだ? イザヤールが先ほどしたようなその場を取り繕うような愛想笑いではない。 (状況を理解していないのだろうか?) そう思い、質問してみることにした。 「……リンリン、君は今の状況が解かっているのか? あまりのん気に笑っていられるような事態ではないのだぞ」 「はい、殺し合い、ですね? 大変なことになりました。 自分がこんな夢を見るなんてちょっと信じられないですよね」 「何? 今何と言った?」 「夢です。夢の中でこれは夢と気づくものを明晰夢というのでしたか…… しかし突然こんな場所に瞬間移動して殺し合いを強制させられる、 なんて荒唐無稽な出来事が現実にあるはずがないでしょう? ゾーマを滅ぼしたすぐ後に彼より巨大な魔族が現れるなんて全く現実的じゃありません」 ようやくイザヤールは理解した。 確かに普通の人ならこの事態を夢と思い込むのも納得できる。 というより普通はそうだろう。 自分だってこの出来事が全て夢ならばどんなにいいかと思う。 でもそうではないことをイザヤールは理解してしまっている。 今までの戦いの経験が、守護天使としての本能が、あのデスタムーアのおぞましい妖気が「本物」であると 細胞全体で感じ取ってしまっている。 (認めたくないが、これは現実なのだ……) どうしたものだろう。 リンリンにこれは現実だと説くか、勘違いさせたままにおくか。 イザヤールはおせじにも口が上手いとは言えないし、下手に現実を説くと 相手をパニックに落としいれてしまうかもしれない。 かといって夢だと思わせたままだと思いもかけない行動を起こしそうだ。 (残酷かもしれないがこれが現実なのだと教えた方がいいな…… もしパニックになったとしてもなんとか止めるしかない) 幸いにも近くに他の気配は感じない。 横槍が入らなければこの少女が暴れたところで簡単に取り押さえられるだろう。 (さてどうやって切り出すか……) と考えていると先にリンリンに話を切り出された。
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140 :夢で逢えたら 3/6 ◆8VkLOokZYs [sage]:2012/04/09(月) 00:59:44.22 ID:0mOfjJo50 -
「わたくし、自分がどうしてこんな夢を見てしまうのか考えてみたんですよ」 「ん? ああ……うむ」 少し迷ったがとりあえず切り出す糸口が見つかるかも知れないと思い、 そのまま話をさせてみることにする。 「多分、わたくしは……戦いたかったんです、全力で」 イザヤールの背筋を悪寒が走りぬける。 邪魔なふくろを放り捨てて瞬時に後方へと跳び、リンリンとの間合いをとった。 目の前の少女からは信じられない程の殺気がほとばしっている。 「リンリン……君は……」 「わたくしは武闘家として技の鍛錬をずっと行ってきました。世界を救う旅の最中でも。 しかしその力を発揮する機会に恵まれていませんでした。 魔物との戦いも刺激的ではありましたが、力任せに襲いかかってくる者が相手では 技を活かせるような戦いにはなりません」 リンリンは悲しそうな表情を見せたかと思うと一転、イザヤールの方をみて薄く笑みを浮かべる。 「でもイザヤールさんは違う。わたくしには解かります……あなたはとても強い。 わたくしの夢が生み出したのだから当然なのかもしれませんが、 生きるか死ぬかの死合いを、心から技を競い合えることのできる本当にわたくしが望んだ相手……クス」 小さく口元を歪めると両手をだらりと降ろし、自然体で立つ。 先ほどまで迸っていた殺気が消え、完全な無為となる。 「どうぞいらしてください」 「……っ」 (隙が……ない、大したものだ!) イザヤールはこの展開に戸惑っていた。 無害な女の子と思っていた相手が突然、猛獣の如く牙をむいたのだ。 戸惑わない方がおかしいといえる。 だが、殺気をその身に受け戦闘状態に思考が切り替わることで落ち着きを取り戻した。 リンリンは武闘家であり、素手でも充分な戦闘力が発揮できる。 だが自分の特性は戦士であり、武器がなくては戦闘力は落ちてしまう。 ならば逃げるか? その選択肢は選べない。 なぜなら彼は義の戦士。 目の前の哀れな少女を見捨ててこの場を去るなど出来る筈もなかった。 (彼女を悪夢から目覚めさせる!) 戦士である彼の素早さは決して高くはない。 防御を高め、カウンターを狙う戦法が有効と判断しその場に構えた。 それを見てとったのだろう。リンリンは微かに笑うと再び構えを取った。 「ならばこちらから参ります!」 瞬間、彼女の姿が消えた。 否、そう見える程の速度で跳躍したのだ。 (速い!) 彼の背後の草が弾ける。
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141 :夢で逢えたら 4/6 ◆8VkLOokZYs [sage]:2012/04/09(月) 01:01:04.61 ID:0mOfjJo50 -
「後ろか!」 振り向きざまに腕をクロスさせる。 ガシィッ リンリンの飛び蹴りを見事に受けとめた。 「お見事」 「なんの!」 両腕を振るってリンリンを弾きとばし、宙を舞う彼女に拳を放つ。 昏倒させて拘束するのが狙いだ。 だが彼女はうしろに目があるかのように落下しながら身を捻るとイザヤールの拳をすり抜けた。 そのまま地面に両腕で着地し、まるでブレイクダンスでも踊るかのようにその場で回転しながらイザヤールに連続蹴りを放つ。 脇腹、肩、腕にそれぞれヒットするが、身の守りに定評のある彼には大した痛手とはならない。 そのままサッカーボールを蹴るかのように足を振るう。 しかしそれもまた、リンリンに瞬時にその場を飛びのかれ回避されてしまった。 「なんという素早さだ、まるで燕だな」 「なんという防御力、まるで熊のようです」 リンリンの腕には腕輪が嵌っている。おそらくそれが彼女の素早さを増幅しているのだろう。 相手を捉えきれないイザヤールと相手に痛手を与えきれないリンリン。 (わずかに私が有利……か?) 防御に欠けるリンリンはイザヤールの攻撃をまともに食らえば危ない。 対してこちらは防御態勢を崩さなければ、リンリンの攻撃を受け切れる自信があった。 「フ、うふふふふ……」 「何が可笑しい?」 「楽しいんですよ……力と力。速さと速さ。そんな単純な能力のぶつかり合いではない……技と技との比べ合いが…… 楽しくて嬉しくて溜まらないのです。ああ、わたくしは確信できました。この瞬間をこそ望んでいたのだと」 「なんと素晴らしい――『夢』! 」 「夢ではない、これは『現実』だ!」 再びリンリンの姿が消えた。 先ほどの巻き戻しのようにイザヤールの背後の草が弾ける。 「また後か!?」 振り向くが、そこにリンリンの姿はない。 瞬間、頭上の木の枝が弾ける。 「上だと?」 上空から迫るリンリンの蹴りをイザヤールは咄嗟に右腕を掲げて防御する。 だが腕に伝わる衝撃は思いのほか軽かった。 腕に当たったのは単なる折られた木の枝。 リンリンはその隙にすでに地面へと着地し、イザヤールの懐に入り込んでいた。 「しま――」 「遅いです!」
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142 :夢で逢えたら 5/6 ◆8VkLOokZYs [sage]:2012/04/09(月) 01:02:39.66 ID:0mOfjJo50 -
リンリンの両の掌底がイザヤールの脇腹へと叩きこまれる。 メシィ、バキッ 「ゴフっ」 イザヤールのアバラが砕け、鮮血が彼の口腔からあふれ出る。 まさしく会心の一撃を喰らい、彼の命運は尽きようとしていた。 (く…、だ、が) イザヤールは執念で踏みとどまり、掌底を放ったまま硬直しているリンリンへ手刀を放つ。 だが手刀が彼女の意識を断つ寸前、硬直が解け、リンリンはスウェーバックして手刀を回避した。 そのままイザヤールの手刀を取り、捻り上げて肩に担ぐと微塵の躊躇もなく腕を折る。 「ガァ!」 「さようなら、本当に楽しかったです」 彼女はもはや動けないイザヤールに愛しい相手を抱くように腕を首に回す。 (無念……アン…、ジェ――) イザヤールは残った左腕を僅かに震わせるが、無駄だった。 ゴキン 鈍い音を立てて頸椎は砕かれ、イザヤールは即死した。 全身の力が抜けたイザヤールの身体を地に落とし、リンリンは一息つく。 そして掌を握り、開きを繰り返して身体の感触を確かめる。 ダメージはない。 リンリンはイザヤールのふくろと自分のふくろを回収し、その場を去ろうとして……ふと目が合った。 無念に目を見開いたまま息絶えているイザヤールに。 よろり、とリンリンはふらつき、近くの樹に手を突いて身体を支えた。 顔を蒼白にして吐き気を堪えるように口元を手で覆う。 しばらく震えていたかと思うとぶつぶつと呟いた。 「違う…違う……これは夢 夢なのですから……わたくしは誰も殺していない そう、なんてことはないただの夢……」 そしてリンリンは再び顔を上げた。 「だから」 その顔には酷く陰惨な笑みが形作られていた。
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144 :夢で逢えたら 6/6 ◆8VkLOokZYs [sage]:2012/04/09(月) 01:14:29.68 ID:0mOfjJo50 -
【イザヤール@DQ9 死亡】 【残り49名】 【E-1/森/朝】 【リンリン@DQ3女武闘家】 [状態]:健康 性格:おじょうさま [装備]:星降る腕輪@DQ3 [道具]:場所替えの杖[9] 引き寄せの杖[9] 飛び付きの杖[9] 支給品一式×2 未確認アイテム0〜2個 [思考]:基本:夢の中で今までできなかった死合いを満喫する。 1:とりあえず人を探す。 [備考]:リンリンは現状を夢だと思っています。
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145 :名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]:2012/04/09(月) 01:14:58.17 ID:0mOfjJo50 - あ、書き込めた。投下終了です。
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