- もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
303 :Stage.13 [11-1] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/31(月) 00:05:33 ID:DADMtNCE0 - いよいよ試験も終わりだ。地下三階にはまったくと言っていいほど敵の気配は無かった。
上の階で出し尽くしたんだろうか。 奥の正面の壁に目をやると、大きな人の顔が掘られていた。例の「引き返せー」を言っ てくるわけだが……ここは黙っておこうw レイさん驚くかなー? とかwktkしつつ、そいつの前まで来たら。 あれ? なにも言わないぞ? レイさんはさっさと左に曲がっていく。壊れてるのかな。 僕はそいつの顔をペチッと叩いてみた。 『しまった! レイさん、振り向かないでそのまま聞いて』 いきなりそいつがしゃべった。それも僕そっくりの声で! 「なんだい、青少年?」 『忘れてたんだよ、ここはそういうトラップなんだ。振り向いたらスタート地点に戻され るっていう』 「ち……!」 違う! なにデタラメこいてやがんだコイツ! と言う前になにかが腹の周りにもズルッと巻き付いて、すごい力で後ろに身体ごと引っ 張られた。
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304 :Stage.13 [11-2] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/31(月) 00:08:58 ID:DADMtNCE0 -
「おいおい、いきなりゴール間近で振り出しに戻るトラップとは」 『ひどいよね。そういうことだから、気をつけて……』 石の人面とレイさんの会話が、急速に遠ざかっていく。 「ひゃあああ〜!?」 なんかさっきも同じようなことなかったか? 『騒ぐな』 頭上から降ってくる低い声。見上げると、金色の鱗がうねうね動いていた。太い蛇のよ うな身体が僕に巻き付いたまま、狭い通路を器用に飛んでいる。 僕の記憶が正しければこいつは、 「あんた、スカイドラゴン?」 『当たりだ』 確かにここの地下深くには、なぜか空の名を冠する金色の龍が出現する。システムバラ ンスはともかく、生態系としてはどうなんだと突っ込んだ記憶がある。 『暴れるな、取って食ったりはせん』 金の龍は言った。 『貴殿に話しがあるのだ、異世界の勇者よ』
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306 :Stage.13 [12-1] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/31(月) 00:10:32 ID:DADMtNCE0 -
異世界の……僕の素性を知ってる? 『本当なら上の階で分断し、連れてくる予定だったのだが。片割れが絶えず貴殿を気にし ていて、思うようにならなかったのだ』 「ええ〜!? じゃあ死ななくていいのに殺しちゃった魔物もたくさんいたんじゃないの? ごめん! そんな事情知らなくて」 思わず謝ると、金の龍はぐははと笑った。 『気にするな。戦いに興奮して本当に貴殿を襲っていた愚か者もいたようだ。知能が低い のはちっとも使えんよ』 そうこう話しているうちに行き止まりについた。ここは宝物部屋の裏側に当たる外れルー トで、もっとも奥にある人面に「たまには人の話を素直に聞け」と諭される場所だ。 その最後の人面が、僕を見下ろしている。 僕の後ろで、金の龍が地に降りて頭を下げた。 直後に、威圧感。 圧倒的な――。
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308 :Stage.13 [12-2] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/31(月) 00:12:41 ID:DADMtNCE0 -
『われが勇者と語り合うのは、これで五度目となるな』 壁の顔から声が聞こえた。どこか遠くから流れてきているような、擦れ混じりの声だ。 『だが貴様は、勇者であって勇者ではない。あの孤高の、悲しい少年とは、違う』 「……アルスのこと?」 『そうだ』 アルスのことを悲しいと言ったそいつは、静かに、決定的なことを僕に告げた。 『われが勇者によって討たれたのは四度。さしもの少年も、四度目には狂いそうな顔をし ておったよ』 心臓が、鳴った。 ずっと考えないようにしてきた事実を、とうとうここで突きつけられてしまった。 「いやぁ……うん、なんとなくわかってたんだけどね。やっぱりそうなんだ。参ったな」 ――あの、眩暈がするほど高い神竜の塔の最上階で、まるで鏡を見てるようなもう一人 の「僕」が、満面の笑みで手を差し出した。 『キミも勇者になってみなよ。本当に楽しいから』 吸い込まれるように僕も手を差し出して、そして契約が成立したあの瞬間。 彼が一瞬、すがりつくような目をしたのを、僕は見たのだ。
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309 :Stage.13 [13-1] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/31(月) 00:14:00 ID:DADMtNCE0 -
ゲーム……だからこそ、この世界には決定的なものが欠けている。 決して救われない。どんなにあがいたところでどうしようもない。 世界を救うはずの彼だけが、ここに未来がないことを知っている。 『繰り返される伝説の中で過去を覚えておったのは、勇者たる少年とわれだけであった』 そうか。それでも他に仲間はいたわけだ。皮肉にも敵の親玉だったみたいだけど。 本当に参ったなー。 いやね、最初からどうもおかしいとは思ってたんですよ。だってアイツ『四回も』って 言ってたでしょ? 僕のクリア回数を。 でもこのゲーム、前回のデータを引き継いだまま最初からプレイはできないから、冒険 の書は一度消さなきゃならない。アイツが前の冒険を覚えてられるはずがないんですよ。 っていうか、ですよ? 死に物狂いで旅をして、目の前で父親を殺されるような経験もして、挙げ句にやっとの 思いで魔王を倒したら今度は故郷にも帰れないとか、そんなキッツイ冒険をですよ? 延々と繰り返されたら……普通、精神イッちゃいますよね?
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310 :Stage.13 [13-2] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/31(月) 00:15:33 ID:DADMtNCE0 -
「魔王を倒してふと気がついたら、一六歳の誕生日の朝に戻されるってわけだ。あなたも、 いつの間にか復活していて?」 『さすがに飽いたわ。決して手に入らぬ世界を侵攻してなんになる』 「そういうシナリオだもんねぇ。でも僕に声をかけたということは、僕にそれを壊せる可 能性があるということかな」 『知らぬ。無いのではないか?』 そんな投げやりにされても。あんた魔王でしょ。 「じゃあなんで呼んだの」 『伝えただけだ。いつもの通りわれの元に来るも良し。なんらかの方法で神竜とやらに会 い、さっさと戻るもよし』 ただ貴様には会ってみたい気もするがな。壁の向こうで笑う気配があった。
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312 :Stage.13 [14-1] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/31(月) 00:17:35 ID:DADMtNCE0 -
――そして、そのさらに向こうからレイさんが僕を呼んでいるのが聞こえた。 僕がいなくなったことに気がついたらしい。 『…………』 壁の顔は沈黙してしまった。あの圧倒的な威圧感も無くなっていて、後ろを向くとスカ イドラゴンの姿も消えていた。 ビキッ いきなり目の前の壁に亀裂が入った。あっという間に崩れ落ち、埃が舞い上がる向こう 側に、レイさんが剣を構えて立ちつくしている。 「ど、どこに行っていたんだね! 心配したぞ、気がついたらいないから」 「ごめん、なんか変なワープトラップ踏んじゃったみたいで、気がついたらここに飛ばさ れてたんだ」
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313 :Stage.13 [14-2] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/31(月) 00:18:45 ID:DADMtNCE0 -
言いながら壁の残骸をまたいで隣の部屋に移動する。そこには二つの宝箱が並んでいた。 「まあ無事で良かったよ。それでこの宝箱だが、どちらかニセモノだったり罠だったりす るのだろう?」 それを聞こうとしたら僕がいなかったんだね。さすがレイさん、慎重だ。 「えーと確か……」 僕は一方の宝箱を、すっと指で示した。 「こっちをレイさんにあげる。実はランダムで当たり外れがあるんだ。こればかりは事前 知識じゃわかんないんだよ。それでさ、考えたんだけど……ここくらいはフィフティにい かない? 当たった方が合格ってことでさ」 ◇
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314 :Stage.13 [14-3] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/31(月) 00:19:29 ID:DADMtNCE0 -
僕の手にはコインが一枚。初めて手に入れた「小さなメダル」ってヤツだ。向こうでは レイさんがブルーオーブを片手に、神殿の人たちと更新手続きの件で話しをしている。 こちらを気にしているようだったので、僕はもう何回目になるのか、「気にするな」と 手を振った。 「心配ありませんよ勇者様、どうせすぐ別の条件で合格できますって!」 「一級討伐士を持つ者は人気が半端でじゃないですからな、退魔機構もそうそう剥奪でき ません。ヘタなことをすれば世論を敵に回しますし」 「そうッスよ! 俺らも今までと変わんないし。元気出してください!」 仲間たちが口々に僕を励ましてくれる。 「ありがとう。ごめんね、期待に応えられなくて」 僕の形ばかりの返事にも、みんなは真剣な顔で言葉を継いだ。 「なに言ってるんスか! 無事に戻ってきただけでホッとしましたよ」 「命あっての物種ですからな」
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315 :Stage.13 [14-4] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/31(月) 00:19:51 ID:DADMtNCE0 -
みんな本当にごめん。僕もいい加減、自分が嫌いになりそうだよ。 こんなに心配されてるのに……僕もう、そんなのどーでもいいんだよね。 なんかいろいろ考えることがてんこ盛りで、もう頭の中ワヤクチャだよ。 さてどうしよう。 天下の魔王様まで投げちゃったこの大問題を、どうやって片付ける?
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317 :Stage.13 atgk ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/31(月) 00:23:19 ID:DADMtNCE0 - 本日はここまでです。
多数のご支援ありがとうございました。 しかしさるさんの次は行数制限なのでしょうか。 本日だけのイレギュラーだといいのですけど……。 私の様な文庫ページ換算で書いてる人間には、 さるさんより行数を制限される方がキツイですorz
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