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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目

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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
283 :Stage.13 hjmn ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/30(日) 23:11:34 ID:gv6sb5jB0
アルス「ちーっす。みなさんお久し〜。またまた時間たっちまったな」
タツミ「サンクスコールの前におさらいだね。ゲームサイドでは、僕はランシールに勇者試験を
   受けに行きました。ところがそこで同じく勇者(一級討伐士)のレイさんと試験が重なって
   制度を管轄してる世界退魔機構がアホなせいで競争することになっちゃったんだけど……」
アルス「退魔機構に黙って、こっそりレイと協定を組むことにしたんだよな。
   しかしレイは最初からお前に勝ちを譲る気だったハズだが、俺が画面で見てたら、
   お前、あいつに勝ちを譲って不合格になってなかったか?」
タツミ「ま、そのあたりはこれから本編で語りますので。それではサンクスコール!」

タツミ「>>42様、ショウ君いい人だよね。悪く言えなくなっちゃったなー」
アルス「あいつが来なきゃヤバかったよ。ったく、お前の家はどうなってるんだ」
タツミ「なに言ってんの、動物の死骸が届くなんて序の口なんだから、今度はもっとスマートに対応してよ」
アルス「じょ、序の口ってアンタ……」
タツミ「伯母さんヒステリー起こすたびに僕に八つ当たりするけど、他にはけ口ないから付き合ってあげて。
   たまにビールの缶とか飛んでくるから、ガラスや鏡を背中に避けないこと」
アルス「なんだそr」
タツミ「一條栄治のアホは金さえやっときゃ黙るから、都市銀から1万くらいずつ降ろして渡してやって。
   夏休みと冬休みに年齢詐称してバイトした分が信金の口座に30万くらい入ってるから、
   入り用の分だけ都市銀に移して使うこと。あのバカには間違っても信金の方の残高は教えるなよ、
   『なけなしのお金をなんとか工面して渡してる』って信じ込ませてるから」
アルス「あの、その」
タツミ「僕の机のひきだしに胃薬と抗鬱剤が入ってるので用法と用量を守って正しくお使いください。
   さーて、この後のプランニングはどうするか――」

アルス「………………………………>>43様、俺ちょっと頑張れそうにないかもしれません」


アルス・タツミ『それでは本編スタートです!』


【Stage.13 勇者試験(後編)】
 ゲームサイド続編 [1]〜[14]
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
284 :Stage.13 [1] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/30(日) 23:15:03 ID:gv6sb5jB0
Prev >>29-40 (Game-Side Prev (マエスレ)>>344-352)
 ----------------- Game-Side -----------------

「薬草は持ちましたか? 毒消し草は? 聖水と満月草もちゃんとありますね?」
「いいですか、危なくなったら迷わず逃げるのですぞっ。絶対に無理はなりませんぞっ」
「っくぅ! 俺が付いて行ければいいんスけどッ、いいんスけどぉ……!」

 あのね、「はじめてのおつかい」じゃないんだからさぁ……。

「「「レイ殿(さん)、くれぐれもうちの勇者様をよろしくお願いします!!」」」
 深々〜と頭を下げる三人組に、
「ま……任せておきたまえ……ップククククク」
 レイさんは必死に笑いを堪えている。

 ――心配してくれるのはありがたいんだけどね。


 そんなこんなで僕とレイさんは、いよいよ試験会場にやってきた。
「ここが入り口らしいな」
 赤茶色の地肌がむき出しの荒野が、地平まで広がっている。そのど真ん中にぽっかりと
空いている空洞。妙に人工的に整った階段が地下へと続いている。
 建材に発光物が含まれているのか、中は地下全体がぼんやりと明るく、視界に不自由は
なかった。降りてすぐ、僕の背丈ほどあるドクロの像が左右に並ぶ通路が続いている。
 眼窩の奥が赤く光っている不気味な彫像を、レイさんが剣の先でつついた。
「まだ新しいな。わざわざ作ったのか?」
「やだね、このいかにも〜って雰囲気。ピラミッドでも感じたなー」
 侵入者を歓迎しない建造物ってのは、えてして随所に恐怖を煽ろうとする「あざとさ」
がある。それでなくとも僕が直接絡むイベントは異常に難易度が高い。また本来のシステ
ムを無視した難問を吹っかけられなければいいけれど。

「しかし、まさか君がこんなふざけた話を承知するとは思わなかったよ、青少年」
 先を歩くレイさんが振り返って言った。なにやら上機嫌だ。
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
285 :Stage.13 ?? ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/30(日) 23:21:38 ID:gv6sb5jB0
あれ? 投下できない。
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
286 :Stage.13 [2-1] ◆IFDQ/RcGKI [sage 長すぎるのかな?]:2008/03/30(日) 23:24:03 ID:gv6sb5jB0

「青少年って……レイさんとあんまり変わらないと思うんだけど」
「ははは、一回りも年上なんだ、いいだろう」
 ということは28歳か。それでも世界に名を馳せる勇者としては十分若い。
「君のことだ、てっきり本部に食って掛かると思ったんだがね」
「騒いだって時間を食うだけでしょ。どうせ世の中なんていい加減なもんだし」
 僕がさらっと流すと、レイさんは首をかしげた。
「なんだか前に会った時とは別人のような気がするな」
「そんなに変わったかな」
「怒らないでくれよ? 以前の君は少々ギスギスしてて、人を寄せ付けない雰囲気があっ
たんだが、今は素直というか……かわいい、というのか……」
 かわいい、ねぇ。まあ妥当な評価だな。へたに「デキるヤツだ」と頼られたり警戒され
るより、多少あなどられるくらいが丁度いい。
「それに武器も。剣は使わないのかい?」
 僕の腰に差しているえものをレイさんは珍しそうに見ている。さっき武器屋で新調した
ばかりの物だ。基本的に戦闘は人任せな僕としては使う機会が無いことを祈りたいが、い
ざとなったら自分で身を守らないと、ってんでサミエルに見繕ってもらった。
「使い慣れてるわけじゃないけどね。僕、こういう軽いのじゃないと扱えないから」
 なにより刃物で斬ったり刺したりってのが、どうにもダメだ。その点でもこの武器は僕
の性に合っていると思う。
「まあ人それぞれだが。やはり君は変わったなぁ」
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
287 :Stage.13 [2-2] ◆IFDQ/RcGKI [sage 区切ってみた]:2008/03/30(日) 23:26:03 ID:gv6sb5jB0

 ひとまず地下一階は問題なく進んだ。
 僕がさりげなく正解ルートに導いてるせいもあるけど、なにせレイさん、強すぎ。
 途中で二、三体のさまようよろいと出くわしたが、ひとりで瞬く間に倒してしまった。
金属の塊を剣でスッパスッパぶった斬っていくんだから、常軌を逸している。
 最近のサミエルも戦闘が人間離れしてきたと感じていたが、この世界の人たちは能力の
上昇具合が半端じゃない。外側からゲームとして接していた時は考えもしなかったけど、
こうして生で見る分には鳥山先生のDBかって迫力だ。
 しかも洞窟を入る前にさり気なく現在のレベルを聞いてみたら、30を超えたあたりから
面倒で数えていないとか言ってるし、もしかしてこの人、実は単独でバラモス打倒も余裕
なんじゃないだろうか。
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288 :Stage.13 [3-1] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/30(日) 23:31:03 ID:gv6sb5jB0

   ◇

 地下二階に降りると、だだっ広い空間に出た。画面上なら右上の方に正解ルートの下り
階段があるはずだけど、ここからじゃ遠くて見えない。
「たぶんこの方向だと思うけど」
 見当をつけて歩き出そうとした矢先。レイさんが低い声でつぶやいた。
「あのヨロイ共ばかりなら良かったんだが……やはり生身の魔物もいるか」

「グワゥ!!!」
 暗がりから突然ピンクの物体が飛び出してきた。キラーアンプ、蛍光ピンクの殺人ゴリ
ラという、こいつも別の意味で向こうじゃ考えられない生物だ。
 そいつが2、4、6……ちょっと待て、なんだこの数?
「散れ、用はないっ」
 地下室に爆発音が響き渡った。東の二代目のイオラが、押し寄せてきたピンクの群れを
牽制する。
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
289 :Stage.13 [3-2] ◆IFDQ/RcGKI [sage 文字数制限変わった?]:2008/03/30(日) 23:31:54 ID:gv6sb5jB0
 だが魔物の群れは怯む気配もなく、さらに数を増して押し寄せてきた。地下室を埋め尽
くさんばかりのモンスター軍団。ピンクのゴリラの波間に、巨大な鹿型モンスター・マッ
ドオックスや、ピラミッドでも散々お世話になったマミーやら腐った死体やらも混ざって
大騒ぎだ。

 やはり来たか、ゲーム設定を大きく無視した局地的ハードモード!
 今回は「エンカウント率が黄金の爪所有時並」というイレギュラーらしい。

「仕方ない。君は下がっていたまえ」
 すうっと流れるように、レイさんは魔物の群れの中に踏み込んでいった。
 瞬間、黒い剣士を中心に殺戮の嵐が巻き起こった。血煙の中を舞う白刃に、迷いはかけ
らも見受けられない。
「グギャア!」
 モンスターの身体の一部が空中を飛んで、ドサリと僕の目の前に落ちてきた。斬られた
本体の方と目が合った瞬間、そいつは後ろから縦に半分にされて転がった。
 いやはや、本当に強いな。これなら僕に出番が回ってくることもなさそうだ。
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
290 :Stage.13 [4] ◆IFDQ/RcGKI [sage もしや20行以下!!??]:2008/03/30(日) 23:36:12 ID:gv6sb5jB0

「さて……と」
 僕の作戦はいつものことながら「ぼうぎょ」。
 いかに素早く戦線を離れ身の安全を計るかが重要だが、仲間から離れすぎると別の敵と
相対する危険があるため、「にげる」とは違う微妙な距離の取り方が難しい。防御も存外
と奥が深いのだよ。
 ほら、戦闘じゃ全然役に立たない分、せめて邪魔にならないようにしないとね。

 なんて気をつけてたつもりだったんだけど、いきなりバシっと肩のあたりに痺れるよう
な痛みが走った。
「――ッ なんだ?」
 ブーンという昆虫の羽音が近づいてきた。巨大なピンクの蜂が何匹も飛び回っている。
 げっ、ハンターフライだ。確かこいつは通常攻撃の他にもう一つ、ギラを持っている。
順当なルートでこの洞窟に挑んだのなら大したダメージではないはずだが、僕のレベルで
は十分な痛手だ。
「大丈夫か青少年?」
「平気、こっちは気にしないで」
 とは言ったものの、素早いコイツらから逃げ回るのは至難の業だ。
 仕方ない。
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291 :Stage.13 [5-1] ◆IFDQ/RcGKI [sage それはキツイなぁ]:2008/03/30(日) 23:38:54 ID:gv6sb5jB0

 心は迷ったままだったが、僕の理性はその場で作戦を切り替えた。マントを後ろに払っ
て、新品の武器を引っ張り出す。
「たまには戦います、かっ!」
 ヒュンと空気を裂いて鎖状の刃がうねり、攻撃してきたハンターフライが逆に吹っ飛ん
でいった。

 はがねのむち。
『勇者様は器用っスから、こういう特殊武器の方が合うと思うっスよ。っていうかコレし
かないっしょ! ほらぴったり! 似合う!』
 というサミエルのアドバイスを受けて(なにがそんなに似合うんだか気になったけど)
買ったものだ。今まで扱ったこともない武器をいきなり実戦投入するのは不安だったが、
さすが武器の専門家が見立ててくれただけあって、コイツは意外と思った通りに動いてく
れる。

 僕には一撃で仕留められるほどの腕力は無いが、当たれば痛いものは痛い。本能レベル
で襲って来ているモンスターたちを牽制するには十分だ。
 が。
「え、嘘?」
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292 :Stage.13 [5-2] ◆IFDQ/RcGKI [sage 32行の文庫換算できないじゃん]:2008/03/30(日) 23:40:26 ID:gv6sb5jB0

 牽制のつもりで放った一撃が、一匹のハンターフライの片羽を根本から切り落とした。
 偶然だ。テロップでは『改心の一撃!』とか出ているんだろう。足下に墜落してきたピ
ンクの蜂は、狂ったようにその場で暴れている。
 これを放っておくのは……かえって可哀想だよね。とどめをさしてやるべきだ。
 僕は意を決してそいつを足で押さえつけ、聖なるナイフを握った。

 ――手が、動かない。


 耳元には別の敵の羽音が迫っている。
 羽音に混じって、いつもの悪夢がフラッシュバックする。
 刃物が肉を割く音と、飛び散る血と。
『あんたなんて――』



もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
293 :Stage.13 [6-1] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/30(日) 23:40:58 ID:gv6sb5jB0

 ズサリ、と目の前の蜂に大振りの剣が突き立てられた。
 同時に肩にトン…と重みがかかり、そこがふわあっと暖かくなった。いつの間にか傍ら
に来ていたレイさんが、僕の肩に手を当てている。今のは回復呪文? 
「無理しなくていい。さ、耳を塞いで」
 僕は咄嗟に両耳を手の平で押さえた。
 ドーン! ともの凄い音が轟き、先刻よりさらに激しい光と衝撃が周囲を席捲する。
 イオラのさらに上位呪文、イオナズンに違いない。こんな極大呪文まで溜めナシ詠唱ナ
シで発動できるって、どんだけ熟達してんだろう、この東の二代目は。

 ばしゃ、ばしゃ、と吹っ飛ばされた生物の部品が雨の様に降り注いできた。
 今度は耳じゃなくて口を塞いだ。
「減らないな……立ってくれ、どっちへ行けばいい?」


もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
294 :Stage.13 [6-2] ◆IFDQ/RcGKI [sage サルさん無くなったかわりに]:2008/03/30(日) 23:41:47 ID:gv6sb5jB0

 グイっと僕の腕を取って引き起こし、レイさんは微かに焦りをにじませた声で言った。
見ると、敵の数がほとんど減っていない。むしろ増えているみたいだ。
 あくまでここは「試験会場」のはず。このモンスターたちも神殿の管理者がなにかしら
の手段で呼び寄せたんだろうが、もう少し調整があってもいいんじゃないか? 本気で潰
しにかかってるようなこの状況は、どう考えてもおかしい。
「ま、まずあの昇り階段まで。昇らずにそこから北」
 僕は一番近い位置にある昇り階段(結構距離がある)の方を指して言った。あの階段は
ダミールートで、そこを起点に上、つまり北方向に進めば正解ルートの下り階段がある。
 簡単にそれだけを伝えると、レイさんは急にニンマリ笑った。
「緊急事態だ、大目に見てくれたまえ」
 いきなり僕を抱き寄せるように手を回して、
「え?」
 ひょいっと肩に担ぎ上げ――。
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
295 :Stage.13 [7] ◆IFDQ/RcGKI [sage 行数制限をかけたのかな]:2008/03/30(日) 23:43:07 ID:gv6sb5jB0

「ひゃあああ〜!?」
「腹に力を入れてないと息が詰まるよ」
 とか言われた途端、すんごいスピードで景色が動き出した。グンッとGがかかって本当
に息が詰まりかける。
 「はい退けて」「邪魔だよ」なんて、そこまで気合いが入ってるようにも聞こえないレ
イさんのかけ声とは裏腹に、進行方向に背中を向けている僕の眼前には、斬られた魔物が
死屍累々と横たわっているのが見えた。ちょ、なにこの人間ダンプ。
「ここから北だったね」
「は、はぇ?」
 気がついたらダミールートの階段に到着していた。

 止まることなく直角に折れてまた走り出すレイさん。背後からどたどたと追いかけてき
た人型モンスター・殺人鬼が斧を振り上げたが、
「レ、レイさん、さつじ……」
 僕が警戒を呼びかけるまでもなく、レイさんはクルッと一回転、次に見たときにはそい
つはあっさり返り討ちにされていた。筋肉質の胸のあたりがぱっくり裂けて、吹き出した
生暖かい液体がピシャリと僕の顔に跳ねた。
「――!」
 抑えろ! 死んでも抑え込まなきゃ!
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
296 :Stage.13 [8-1] ◆IFDQ/RcGKI [sage どっちにしても迷惑ですorz]:2008/03/30(日) 23:51:42 ID:gv6sb5jB0

「目をつぶってなさい。君が血に弱いのはロダム殿から聞いている」
 一瞬、吐き気も忘れた。
 ロダムから聞いてる?

   ◇

 地下三階への下り階段へ飛び込んだところで、追撃はぴたりとやんだ。魔物にもそれぞ
れの持ち場があるのか。こうなってみるとあれも試験のうちだったのかもしれない。
 先ほどまでの喧噪が嘘のように静まりかえった地下室に、レイさんの吐息だけが聞こえ
る。さすがの勇者様も少し息が荒い。少しで済んでるのがすごいけど。

「あの……そろそろ降ろしてくれます?」
 やっぱり軽々と地面に降ろされた。よろけた僕をレイさんはすかさず支えてくれた。
「具合が悪そうだったからね。でもよけい酔わせてしまったかな?」
 首だけ振って答える。ここはお礼を言うべきなんだろうが――。
「聞いてたんだね。いつ?」
「君が武器屋に行っていた少しの間にね。旅を始めた頃よりひどくなっていると。ずいぶ
ん心配していたよ」
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
297 :Stage.13 [8-2] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/30(日) 23:53:16 ID:gv6sb5jB0

 やだなぁ、さすが最年長。見抜かれてたのか。
「なにか血に関してトラウマがあるのかい?」
 レイさんの問う声は軽い。まるで大したことじゃないとでも言うように。本当なら、仮
にも勇者の名を背負っている人間に対して、怒鳴りつけてしかるべきだ。

 どうしてだろう、この世界で僕が深く関わる人たちは、みんな怖いくらい優しい。
 まるで僕の理想が反映されてるみたいに。

「ごめん、今は話せない。口に出すのはちょっとまずいんだよね」
 さっきから過去のつらい感覚が戻りそうになっていて、僕の理性が必死に抑え込んでい
る。街中ならともかく、こんなダンジョンの奥で発作を起こしたら迷惑もいいところだ。
 レイさんは困ったように下を向いた。言葉を探しているようだ。
 話せない理由については、ちゃんと教えないといけないか――。
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
298 :Stage.13 [9-1] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/30(日) 23:54:57 ID:gv6sb5jB0

「なんていうか……僕は人より記憶力がいいんだ。知識面だけじゃなくて、その時に見た
映像や音、感じたこととかを丸ごと覚えていて、頭の中にそっくり呼び出せる」
「そりゃすごいな」
 レイさんは感心したようにうなずいた。
「でも弊害もあるんだ。今この瞬間に感じてる現実の体感よりも、脳内で再生された疑似
体感の方が勝ってしまえば、僕自身はもう、自分が今どこにいるのかさえわからなくなる
ほどその『記憶』の中に引きずりこまれてしまうんだよ」
 視覚も聴覚も嗅覚も触覚も、あらゆる感覚を処理しているのはあくまで脳だ。その全て
の記憶が忠実に再生されれば、今『それ』を体感しているのと同じことになる。
「そして感情もね。たとえばその当時は本当に死にたいくらい悲しかったとしても、何年
もあとに思い出したら薄れてるものだろう? でも僕の場合は……」
「その場で自殺しそうなくらいの悲しみが、同じ程度で戻ってきてしまう、ってこと?」
「うん。レイさん、理解が早くて助かるよ」
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
299 :Stage.13 [9-2] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/30(日) 23:56:12 ID:gv6sb5jB0

 それでも、ただ頭の中で思い出すだけならまだ抑制がきく。
 しかし口に出して語るというのは、まず頭の中で言うことをまとめ、音声で形にし、自
分の耳で聞くことでまた脳に還元されるという、三段階で記憶を鮮明にする行為だ。それ
だけですぐに意識が飛ぶってことはないけど、どうしたって感覚がおかしくなるから極力
避けたい。
 ユリコやカズヒロに何度か過去を聞かれたこともあるけど、それが嫌でそのたびに誤魔
化していたものだ。
 別に生まれた時から付き合ってる症状だから対処法もよくわかってるし、日常生活には
そんな支障もなかったんだけどね。うかつに思い出話ができないくらいで。
 でもこの世界に来てガラッと環境が変わって、刺激の強いことも多くて……。


もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
300 :Stage.13 [10-1] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/30(日) 23:57:56 ID:gv6sb5jB0

「血に弱いとしか聞いてなかったが、仲間にはそこまで話してないのかい?」
 他人のパーティーを心配するレイさんの優しい言葉に、僕は苦笑を返した。
「言えばみんな気にしすぎて、必要以上に制約を設けてしまうからね」 
 それでなくとも最近、みんな戦闘ではなるべく流血沙汰を少なくしようと気を遣ってく
れてるみたいだし。今後イベントのたびに「これは勇者様には刺激が強すぎるのでは?」
なんて協議されるわけにもいかない。

「なるほどなぁ……。仲間に隠し事をするのは感心しないが。冷静に判断した上で黙って
るならいいんじゃないかな」
 レイさんはにっこり笑うと、僕の頭をぽんぽんと叩いた。なんか完全に子供扱いされて
る? 仕方ないけど。
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら12泊目
301 :Stage.13 [10-2] ◆IFDQ/RcGKI [sage]:2008/03/30(日) 23:59:24 ID:gv6sb5jB0

「先を急ごうか。次はどっちだい」
「右に折れて、あとは道なりに行けば突き当たりの小部屋にゴールの宝箱があるはず」
「ははは、楽で良いな。今後も一緒に旅をしたいくらいだよ」
「僕もだけど。ダメなの?」
 こんなに頼もしい人がパーティに入ってくれるなら、願ってもない。
「私はどちらかというと父上を捜すのが目的だからね。同行することで迷惑になる」
 っち、断られたか。惜しいなー。
 まあ目的があるのに、こんな面倒な連中に構ってられないか。

   ◇




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