- 芋な女子中学生が好き13
882 :神[]:2011/12/19(月) 22:37:30.47 ID:iQrVGFXc0 - 《小説》 転校生の受難
第3部:初めての登校日/第2節“通学路にて” (通し−第38話) 芋窪中学校は、自宅から歩いて30分ほどのところにあった。 祐美の家の周辺はいわゆるベッドタウンタイプの新しい住宅街だが、ほどなく学校 までの道の左右には畑や田んぼが広がった。 どこまでも続く畑の中を送電線が走る風景・・耕耘機の音がのどかな田園風景の中 に響きわたる。 「なんだよ〜、まるでクソ田舎・・」 「しょうがないでしょ。まっ、じき慣れるわよ。」 「あ〜ぁ、少しはにぎやかだと思ってたら・・、田んぼばっかで何もないじゃん。」 これじゃあ、学校の帰りに友達とお茶するところもない。 知らず知らず、祐美の表情は少しずつふくれ面になっていく。 「うるさいわねぇ、でも学校のそばはもう少しにぎやかよ。商店街もあるし・・」 確かに学校に近づくにつれ、通学路の左右には商店が増え、歩道にはちょっとした アーケードもある。 “どんなお店があるんだろ・・ミスドやマックあればいいな” 祐美は期待をこめて、道の左右のお店に目をこらした。 だが、シブヤだったら普通にあるようなファーストフードっぽい店は見あたらない。 商店街自体は確かににぎやかなのだが、なんか昔のおもむきなのだ。いや、むしろ 古びた“いなか町”というほうが正確かもしれない。 そのせいか都会ぽい着こなしの制服で歩く祐美が、場違いにさえ写る。 “これだとカワイイ服おいてる店もなさそうね・・” 祐美の期待感はだんだん落胆に変わっていった。無理もない。ファッション関係の店 を探しても目に入るのは、年配の婦人服ばかりが目立つ洋品店のたぐいばかりだ。 しかも歩道にはみださんばかりに並べてあるその婦人服も、ドンくさい色合いやデザ インのものばかりだ。 少しシャレた美容室が2件ほどあったのが、せめてもの救いだった。
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883 :神[]:2011/12/19(月) 22:41:16.24 ID:iQrVGFXc0 - 《小説》 転校生の受難
第3部:初めての登校日/第2節“通学路にて” (通し−第39話) そのうち祐美は、商店街の店先に立つ人達や買い物のおばさんたちが、ちらちら 自分を見ていることに気づいた。確かに午前中の、本来なら授業中の時間帯に中学生 が外を歩いているのだから多少目立つのは仕方ないかもしれないが、それにしても、 町の人の目がなんとなく冷ややかなのだ。 “あれ・・、アタシなんかへんな格好でもしてるかしら?” 祐美は半信半疑だった。東京で渋谷や代官山を歩いていて、そんな顔をされたこと など一度もない。羨望の眼差しで見られたことは何度もあるが・・。 ところが八百屋の前にさしかかった時のことである。 ちょうど店先には買い物中らしき、おばさん二人が立っていた。祐美が横を通り すぎた時、二人は祐美の足元からてっぺんまでジロっと眺めながら、何やらささや いている。 「呆れたね・・あんなミニスカート履くなんて・・」 「あれで中学生かしら・・」 祐美はプリーツスカートのウエスト部を折り込んで裾を上げていた。とは言え、 初めての学校に行くので、さすがに極端なミニ丈にするのはやめた。せいぜい短かめ の膝上丈といったところか。東京なら、どの中学生や高校生でもしていることだ。 “えっ、私のこと言ってるのかしら・・” 祐美はビクッとした。 一緒に歩く母親も気づいたらしく 「ほら祐美、言われてるよ・・少しスカート下げたらどう。」 だが祐美は、 「ママまで何よ、これのどこがミニだって言うのよ・・東京じゃあ、当たり前なんだ から・・」 そうつぶやくと、 「ホントにクソ田舎・・、信じらんないねぇ・・」 首を振りながら足早に店先を通り過ぎた。
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884 :神[]:2011/12/19(月) 22:46:14.70 ID:iQrVGFXc0 - 《小説》 転校生の受難
第3部:初めての登校日/第2節“通学路にて” (通し−第40話) ところが、今度は床屋の前を通りかかった時のことである。 おりしも店の前では、店主らしき白衣を着た中年の婦人と近所の主婦が立ち話していたが、祐美の姿を見るや顔を曇ら せた。そして祐美をうかがい見しながら、なにやらささやいている。 しかも今度は祐美の耳にもはっきり聞き取れる声だった。おそらく彼女にわざと聞こえるようにしゃべったのだろう。 「なんて格好かしら、髪まで染めちゃって・・」 「ホント呆れますわ、スナックのホステスじゃあるまいし・・」 祐美は髪を少し栗色に染めていた。 といっても、自慢のロングヘアを少し軽く見せるために淡く染めただけだ。けっして ヤンキーぽくしているわけでもない。それなのに…… “やだ、また私のこと言ってる・・なんなイヤな町・・” 祐美は知らん顔をして二人の前をスルーしようとした。 たが通り過ぎた時、背後からかすかに聞こえてくる言葉に祐美の耳は釘付けとなっ た。 「芋窪中学校に転校する子かしら?」 「・・だとしたら、・・・・だし、・・・あの子も時間の問題ね。」 「ふふっ・・ショックでしょうね。」 祐美はドキリとした。 婦人達の会話が、ぜんぶ聞こえたわけではない。 だが“あの子も時間の問題ね。“という言葉だけは明瞭に耳に入った。 自分のことを言っているのは間違いない。 “えぇっ、なんのこと言ってるの、時間の問題って?・・なにがショックなの?・・ いったいどういう意味?・・” 得体のしれない不安が、暗雲のように心に広がる。 そっと母親の顔を振り返える祐美。しかし母は、こんどは何も言わない。あたかも 何も聞こえていなかったのように無表情だった。そんなはずないのに・・
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885 :神[]:2011/12/19(月) 22:47:56.85 ID:iQrVGFXc0 - 《小説》 転校生の受難
第3部:初めての登校日/第2節“通学路にて” (通し−第41話) その後、学校までの道すがら祐美の脳裏には “あの子も時間の問題ね。” 婦人のもらした一言がこびりついて離れなかった。しかし、いくら考えてもその意味 が分からない。 そうこうしているうち商店街も抜け、芋窪中学校の校舎が見えてきた。 「・・・・新しい学校、きれいな校舎だったらいいなぁ…」 祐美の頭には当初に転校するはずだったA中の瀟洒な建物のイメージがあった。 引っ越し先の変更で学区が変わったため、A中でなく、急きょ芋窪中学校に行くこと になったのだ。 だが校舎に近づくにつれ、祐美の期待感は失望に変わっていった。 芋窪中学校の校舎は、古びた灰色のコンクリート造りの建物だった。 A中の白い瀟洒なデザインとはまるで対照的だ。さらに建物自体が大きいせいか、 妙に威圧感がある。 “この学校に1年間、通わなくちゃいけないんだ・・” 祐美は少し悲しくなった。東京の学校が懐かしかった。 「なにぼやぼやしてるの、行くわよ。」 校門前で立ち止まってしまった祐美の背中を母親が軽く押す。 “まっ、いいか・・可愛い制服着れるし・・” 今朝、近所の中学生たちが登校する時に着ていた制服を思い出し、祐美は自分の心を なだめようと努力した。 “校舎はボロっちいけど、制服でうんとオシャレできるんだからいいじゃない” そう自分を言い聞かせたのだ。
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