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なまえをいれてください
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67 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 11:35:09.96 ID:e3CHeZDr
葉型に拡がったカーテンの裂け目に両手をかけ、僕は外界の処女膜を破り、夜にダイブした。
空には仄かに霧がかかり、白い月が滲んでいた。
自転車をフラフラと走らせ、映画「スタンド・バイ・ミー」の主題歌を鼻歌で口ずさみながら、僕はこの上もなく上機嫌だった。
「スタンド・バイ・ミー」、心に傷を負った四人の少年が、線路づたいに「死体探し」の旅に出る甘く切なく美しい永遠の少年映画。
誰もが、喪われた自身の少年時代を想い起こす名画の中の名画だ。僕はこの映画が大好きだった。
英語の授業で、この映画の主題歌をクラス全員で歌ったことがある。その時ばかりは僕も熱心に参加した。
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68 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 11:36:25.87 ID:e3CHeZDr
僕は死体(タカラモノ)を自転車の前カゴに載せ、狂った思考の線路づたいに自転車を走らせ、
たったひとりの「スタンド・バイ・ミー」を敢行した。
胸が高鳴った。誰一人として見向きもしなかった、醜くみすぼらしい透明な一匹の虫けらによって、これから世界がひっくり返されるのだ。
中学校の正門に着くと、門の前に自転車を停め、ビニール袋から淳君の頭部を取り出しさてどこへ置こうかと思案をめぐらせた。
水色の正門の真ん中がいいか?白塗りの塀の、中学校の名前の入ったプレートの真下にするか?
いろいろと悩んだ挙句、僕は門の真ん中に頭部を置き、二、三歩後ろに下がって、どう見えるかを確認した。
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69 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 11:46:26.71 ID:e3CHeZDr
その瞬間、僕の世界から、音が消えた。
世界は昏睡し、僕だけが独り起きているようだった。
地面。
頭部。
門。
塀の向こうに聳える校舎。
どの要素も、大昔からそうなっていたように、違和感なく調和し、融合している
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70 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 11:47:27.77 ID:e3CHeZDr
まるで、一枚の絵画、映画の中のワンシーンのようだった。
校舎は朧月夜の闇の中へその輪郭を霞ませていた。
校舎の正面壁の上部中央に、月桂樹の葉のなかに「中」の文字のあしらわれた校章が取り付けられている。
僕にはその校章はルドンの描く、あの一ツ眼巨人(サイクロプス)の眼玉のように映った。
校舎から視線を下へ這わせると、正面玄関のガラス扉が見えた。そう、巨大な一ツ眼の化け物の口は、幾度となく僕を、弄ぶように呑み込んでは吐き出し、
呑み込んではまた吐き出したのだ。
この建物は、僕の憎悪の結晶であり、自分を排除し続けた正解の象徴だった。
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71 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 11:58:28.09 ID:e3CHeZDr
だがそういった激しい怒りや憎しみは、今や僕の支配するこの夜の闇に融け出し、きれいに浄化された。
今の僕を包むこの夜の闇は、思いどおり世界を描くことのできる僕だけの真っ黒いキャンパスだった。
これまでに味わった数多の屈辱も、この夜の闇が、優しく塗り潰した。
僕はもう恐れなかった。もはやこの建物のどこにも、僕を脅かす力は潜んでいないように思えた。
あれほど僕を脅かした堅牢な一ツ眼の化け物は、今や僕の決壊した精神のダムから怒涛のごとく迸る闇の波間に力なくたゆたう幽霊船と化し、その実体を喪っていた。
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72 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 12:00:12.04 ID:e3CHeZDr
校舎南側の壁沿いに二本並んだナツメヤシの葉が、降りかかる月の光屑を撒き散らすように音もなく擦れ合っている。
呪詛と祝福一つに融け合い、僕の足元の、僕が愛してやまない淳君のその頭部に集約された。
自分がもっとも憎んだものと、自分がもっとも愛したものが、ひとつになった。
僕の設えた舞台の上で、はちきれんばかりに膨れ上がったこの世界への僕の憎悪と愛情が、今まさに交尾したのだ。
告白しよう。僕はこの光景を、「美しい」とおもった。
薄い夜霧のドレスを裂いて伸びてくる月の光切った先は鑿となって、闇の塊の中から、この世のあらざる絶望的に美しい光景を彫り出していた。
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73 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 12:01:15.94 ID:e3CHeZDr
もう、いつ死んでもいい。そう思えた。
自分はこの映像を作るために、この映像を視るために、生まれてきたのだ。すべてが、報われた気がした。
もはや僕には、正気も、狂気も無かった。ただ、濃密な無感覚のみが、僕の虚の肉体を領した。
この時、僕の皮膚の内側と外側が化学反応を起こし、僕の世界の「目盛り」は大幅な変更を余儀なくされた。
この光景を視てしまったあとでは、もはや他人と同じ目盛りで世界を視ることは不可能だった。
用意した挑戦状を頭部に添え自転車に跨り、僕は学校をあとにした。
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74 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 12:10:35.37 ID:e3CHeZDr
森の出入り口に向かう途中、にわかに雨が降り始めた。雨滴は間をおかず大粒になり、やがて空を破いたような土砂振りの雨となった。
僕は手提げバックを地面に置き、腕を拡げ、掌を開き、雨を抱いた。
雨は空の舌となって大地を舐めた。僕は上を向いて舌を突き出し、空と深く接吻した。
この時、僕の舌は鋭敏な音叉となった。不規則なリズムで舌先に弾ける雨粒の震動が、僕の全細胞に伝播し、足の裏から抜け、地面を伝い、
そこらの石や樹々の枝葉や小ぶりの溜池の水面に弾ける雨音と共鳴し、荘厳なシンフォニーを奏でた
甘い甘い死のキャンディを命いっぱいに含んだ僕の渇きを、雨の抱擁が優しく潤してゆく……。
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75 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 12:17:10.56 ID:e3CHeZDr
森の出入り口に向かう途中、にわかに雨が降り始めた。雨滴は間をおかず大粒になり、やがて空を破いたような土砂振りの雨となった。
僕は手提げバックを地面に置き、腕を拡げ、掌を開き、雨を抱いた。
雨は空の舌となって大地を舐めた。僕は上を向いて舌を突き出し、空と深く接吻した。
この時、僕の舌は鋭敏な音叉となった。不規則なリズムで舌先に弾ける雨粒の震動が、僕の全細胞に伝播し、足の裏から抜け、地面を伝い、
そこらの石や樹々の枝葉や小ぶりの溜池の水面に弾ける雨音と共鳴し、荘厳なシンフォニーを奏でた
甘い甘い死のキャンディを命いっぱいに含んだ僕の渇きを、雨の抱擁が優しく潤してゆく……。
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77 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 12:18:29.41 ID:e3CHeZDr
僕は森を抜け、公園に停めた自転車の前カゴに淳君の頭部を載せると、家に向かって猛スピードで自転車を走らせた。
自転車の速度も相俟ってか、先ほどまでとはうってかわり、BB弾のような硬い雨が、まるで罪を咎めるように、僕の全身を打擲した。
家に着くと、自転車置き場に自転車を入れ、母親が帰っているかどうかも確かめず、鍵のかかっていない玄関から家の中に入った。
母親はまだ帰っていなかった。
僕は風呂場の脱衣所に淳君の頭部を置き、居間から庭に出て、庭の隅の水道の脇にかけてある、直径六十センチほどの金メッキのトタンの盥を持って、再び脱衣所へ行った。
汚れた淳君の頭部を、その盥で洗おうと思ったのだ。
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78 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 12:28:07.48 ID:e3CHeZDr
家から出る際、玄関から外に出るのは危険すぎる。この家の老朽化した木の階段は、踏みしめるたびにけたたましい軋り音をたてるからだ。
両親が起き出さないとも限らない。部屋の窓から直接庭に降りるしかない。
不意に強い風が吹き、カーテンの裂け目が。いっそう大きく葉型に拡がった。
この六畳の洋室は僕の小宇宙であり、僕の「拡張した」内界だった。
決して外へ開かれることのなかった、その内界に突如、外界の処女膜が立ち現れたのだ。
皮肉な話である。極限の内向の果てに僕が視たのは、外界への入り口だったのだ。
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79 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 12:29:18.31 ID:e3CHeZDr
葉型に拡がったカーテンの裂け目に両手をかけ、僕は外界の処女膜を破り、夜にダイブした。
空には仄かに霧がかかり、白い月が滲んでいた。
自転車をフラフラと走らせ、映画「スタンド・バイ・ミー」の主題歌を鼻歌で口ずさみながら、僕はこの上もなく上機嫌だった。
「スタンド・バイ・ミー」、心に傷を負った四人の少年が、線路づたいに「死体探し」の旅に出る甘く切なく美しい永遠の少年映画。
誰もが、喪われた自身の少年時代を想い起こす名画の中の名画だ。僕はこの映画が大好きだった。
英語の授業で、この映画の主題歌をクラス全員で歌ったことがある。その時ばかりは僕も熱心に参加した。
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81 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 12:38:35.28 ID:e3CHeZDr
僕は死体(タカラモノ)を自転車の前カゴに載せ、狂った思考の線路づたいに自転車を走らせ、
たったひとりの「スタンド・バイ・ミー」を敢行した。
胸が高鳴った。誰一人として見向きもしなかった、醜くみすぼらしい透明な一匹の虫けらによって、これから世界がひっくり返されるのだ。
中学校の正門に着くと、門の前に自転車を停め、ビニール袋から淳君の頭部を取り出しさてどこへ置こうかと思案をめぐらせた。
水色の正門の真ん中がいいか?白塗りの塀の、中学校の名前の入ったプレートの真下にするか?
いろいろと悩んだ挙句、僕は門の真ん中に頭部を置き、二、三歩後ろに下がって、どう見えるかを確認した。
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82 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 12:41:00.96 ID:e3CHeZDr
その瞬間、僕の世界から、音が消えた。
世界は昏睡し、僕だけが独り起きているようだった。
地面。
頭部。
門。
塀の向こうに聳える校舎。
どの要素も、大昔からそうなっていたように、違和感なく調和し、融合している
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83 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 12:44:57.80 ID:e3CHeZDr
まるで、一枚の絵画、映画の中のワンシーンのようだった。
校舎は朧月夜の闇の中へその輪郭を霞ませていた。
校舎の正面壁の上部中央に、月桂樹の葉のなかに「中」の文字のあしらわれた校章が取り付けられている。
僕にはその校章はルドンの描く、あの一ツ眼巨人(サイクロプス)の眼玉のように映った。
校舎から視線を下へ這わせると、正面玄関のガラス扉が見えた。そう、巨大な一ツ眼の化け物の口は、幾度となく僕を、弄ぶように呑み込んでは吐き出し、
呑み込んではまた吐き出したのだ。
この建物は、僕の憎悪の結晶であり、自分を排除し続けた正解の象徴だった。
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85 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 12:56:27.02 ID:e3CHeZDr
だがそういった激しい怒りや憎しみは、今や僕の支配するこの夜の闇に融け出し、きれいに浄化された。
今の僕を包むこの夜の闇は、思いどおり世界を描くことのできる僕だけの真っ黒いキャンパスだった。
これまでに味わった数多の屈辱も、この夜の闇が、優しく塗り潰した。
僕はもう恐れなかった。もはやこの建物のどこにも、僕を脅かす力は潜んでいないように思えた。
あれほど僕を脅かした堅牢な一ツ眼の化け物は、今や僕の決壊した精神のダムから怒涛のごとく迸る闇の波間に力なくたゆたう幽霊船と化し、その実体を喪っていた。
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86 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 13:07:11.01 ID:e3CHeZDr
校舎南側の壁沿いに二本並んだナツメヤシの葉が、降りかかる月の光屑を撒き散らすように音もなく擦れ合っている。
呪詛と祝福一つに融け合い、僕の足元の、僕が愛してやまない淳君のその頭部に集約された。
自分がもっとも憎んだものと、自分がもっとも愛したものが、ひとつになった。
僕の設えた舞台の上で、はちきれんばかりに膨れ上がったこの世界への僕の憎悪と愛情が、今まさに交尾したのだ。
告白しよう。僕はこの光景を、「美しい」とおもった。
薄い夜霧のドレスを裂いて伸びてくる月の光切った先は鑿となって、闇の塊の中から、この世のあらざる絶望的に美しい光景を彫り出していた。
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87 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 13:08:21.17 ID:e3CHeZDr
もう、いつ死んでもいい。そう思えた。
自分はこの映像を作るために、この映像を視るために、生まれてきたのだ。すべてが、報われた気がした。
もはや僕には、正気も、狂気も無かった。ただ、濃密な無感覚のみが、僕の虚の肉体を領した。
この時、僕の皮膚の内側と外側が化学反応を起こし、僕の世界の「目盛り」は大幅な変更を余儀なくされた。
この光景を視てしまったあとでは、もはや他人と同じ目盛りで世界を視ることは不可能だった。
用意した挑戦状を頭部に添え自転車に跨り、僕は学校をあとにした。
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91 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 13:22:48.14 ID:e3CHeZDr
森の出入り口に向かう途中、にわかに雨が降り始めた。雨滴は間をおかず大粒になり、やがて空を破いたような土砂振りの雨となった。
僕は手提げバックを地面に置き、腕を拡げ、掌を開き、雨を抱いた。
雨は空の舌となって大地を舐めた。僕は上を向いて舌を突き出し、空と深く接吻した。
この時、僕の舌は鋭敏な音叉となった。不規則なリズムで舌先に弾ける雨粒の震動が、僕の全細胞に伝播し、足の裏から抜け、地面を伝い、
そこらの石や樹々の枝葉や小ぶりの溜池の水面に弾ける雨音と共鳴し、荘厳なシンフォニーを奏でた
甘い甘い死のキャンディを命いっぱいに含んだ僕の渇きを、雨の抱擁が優しく潤してゆく……。
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92 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 13:23:45.66 ID:e3CHeZDr
僕は森を抜け、公園に停めた自転車の前カゴに淳君の頭部を載せると、家に向かって猛スピードで自転車を走らせた。
自転車の速度も相俟ってか、先ほどまでとはうってかわり、BB弾のような硬い雨が、まるで罪を咎めるように、僕の全身を打擲した。
家に着くと、自転車置き場に自転車を入れ、母親が帰っているかどうかも確かめず、鍵のかかっていない玄関から家の中に入った。
母親はまだ帰っていなかった。
僕は風呂場の脱衣所に淳君の頭部を置き、居間から庭に出て、庭の隅の水道の脇にかけてある、直径六十センチほどの金メッキのトタンの盥を持って、再び脱衣所へ行った。
汚れた淳君の頭部を、その盥で洗おうと思ったのだ。
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93 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 13:25:30.36 ID:e3CHeZDr
家から出る際、玄関から外に出るのは危険すぎる。この家の老朽化した木の階段は、踏みしめるたびにけたたましい軋り音をたてるからだ。
両親が起き出さないとも限らない。部屋の窓から直接庭に降りるしかない。
不意に強い風が吹き、カーテンの裂け目が。いっそう大きく葉型に拡がった。
この六畳の洋室は僕の小宇宙であり、僕の「拡張した」内界だった。
決して外へ開かれることのなかった、その内界に突如、外界の処女膜が立ち現れたのだ。
皮肉な話である。極限の内向の果てに僕が視たのは、外界への入り口だったのだ。
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99 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 13:49:34.58 ID:e3CHeZDr
葉型に拡がったカーテンの裂け目に両手をかけ、僕は外界の処女膜を破り、夜にダイブした。
空には仄かに霧がかかり、白い月が滲んでいた。
自転車をフラフラと走らせ、映画「スタンド・バイ・ミー」の主題歌を鼻歌で口ずさみながら、僕はこの上もなく上機嫌だった。
「スタンド・バイ・ミー」、心に傷を負った四人の少年が、線路づたいに「死体探し」の旅に出る甘く切なく美しい永遠の少年映画。
誰もが、喪われた自身の少年時代を想い起こす名画の中の名画だ。僕はこの映画が大好きだった。
英語の授業で、この映画の主題歌をクラス全員で歌ったことがある。その時ばかりは僕も熱心に参加した。
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101 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 13:50:46.94 ID:e3CHeZDr
僕は死体(タカラモノ)を自転車の前カゴに載せ、狂った思考の線路づたいに自転車を走らせ、
たったひとりの「スタンド・バイ・ミー」を敢行した。
胸が高鳴った。誰一人として見向きもしなかった、醜くみすぼらしい透明な一匹の虫けらによって、これから世界がひっくり返されるのだ。
中学校の正門に着くと、門の前に自転車を停め、ビニール袋から淳君の頭部を取り出しさてどこへ置こうかと思案をめぐらせた。
水色の正門の真ん中がいいか?白塗りの塀の、中学校の名前の入ったプレートの真下にするか?
いろいろと悩んだ挙句、僕は門の真ん中に頭部を置き、二、三歩後ろに下がって、どう見えるかを確認した。
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102 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 13:52:03.31 ID:e3CHeZDr
その瞬間、僕の世界から、音が消えた。
世界は昏睡し、僕だけが独り起きているようだった。
地面。
頭部。
門。
塀の向こうに聳える校舎。
どの要素も、大昔からそうなっていたように、違和感なく調和し、融合している
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104 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:01:27.43 ID:e3CHeZDr
まるで、一枚の絵画、映画の中のワンシーンのようだった。
校舎は朧月夜の闇の中へその輪郭を霞ませていた。
校舎の正面壁の上部中央に、月桂樹の葉のなかに「中」の文字のあしらわれた校章が取り付けられている。
僕にはその校章はルドンの描く、あの一ツ眼巨人(サイクロプス)の眼玉のように映った。
校舎から視線を下へ這わせると、正面玄関のガラス扉が見えた。そう、巨大な一ツ眼の化け物の口は、幾度となく僕を、弄ぶように呑み込んでは吐き出し、
呑み込んではまた吐き出したのだ。
この建物は、僕の憎悪の結晶であり、自分を排除し続けた正解の象徴だった。
【TPS】warframe part59【PS4】 [転載禁止]©2ch.net
105 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:02:43.91 ID:e3CHeZDr
だがそういった激しい怒りや憎しみは、今や僕の支配するこの夜の闇に融け出し、きれいに浄化された。
今の僕を包むこの夜の闇は、思いどおり世界を描くことのできる僕だけの真っ黒いキャンパスだった。
これまでに味わった数多の屈辱も、この夜の闇が、優しく塗り潰した。
僕はもう恐れなかった。もはやこの建物のどこにも、僕を脅かす力は潜んでいないように思えた。
あれほど僕を脅かした堅牢な一ツ眼の化け物は、今や僕の決壊した精神のダムから怒涛のごとく迸る闇の波間に力なくたゆたう幽霊船と化し、その実体を喪っていた。
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106 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:05:42.37 ID:e3CHeZDr
校舎南側の壁沿いに二本並んだナツメヤシの葉が、降りかかる月の光屑を撒き散らすように音もなく擦れ合っている。
呪詛と祝福一つに融け合い、僕の足元の、僕が愛してやまない淳君のその頭部に集約された。
自分がもっとも憎んだものと、自分がもっとも愛したものが、ひとつになった。
僕の設えた舞台の上で、はちきれんばかりに膨れ上がったこの世界への僕の憎悪と愛情が、今まさに交尾したのだ。
告白しよう。僕はこの光景を、「美しい」とおもった。
薄い夜霧のドレスを裂いて伸びてくる月の光切った先は鑿となって、闇の塊の中から、この世のあらざる絶望的に美しい光景を彫り出していた。
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108 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:09:01.38 ID:e3CHeZDr
もう、いつ死んでもいい。そう思えた。
自分はこの映像を作るために、この映像を視るために、生まれてきたのだ。すべてが、報われた気がした。
もはや僕には、正気も、狂気も無かった。ただ、濃密な無感覚のみが、僕の虚の肉体を領した。
この時、僕の皮膚の内側と外側が化学反応を起こし、僕の世界の「目盛り」は大幅な変更を余儀なくされた。
この光景を視てしまったあとでは、もはや他人と同じ目盛りで世界を視ることは不可能だった。
用意した挑戦状を頭部に添え自転車に跨り、僕は学校をあとにした。
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110 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:13:11.22 ID:e3CHeZDr
駐輪場に自転車を戻し、音が鳴らないように慎重に門を閉め、そのまま裏庭に廻り、植木鉢の並んだアルミ棚によじ登って、
二階自室の窓の柵に手を引っ掛け、開いた窓から部屋の中へ入った。
机の引き出しの奥から赤マルの箱とライターを取り出し、窓の柵に身を乗り出して、煙草に火をつけた。
先ほどまでかかっていた霧は散り、大口をあけた獣の横顔のような、パックリ開いた純白の下弦の月が、夜にくらいついてた。
風はやみ、吐き出した紫煙は幽かにゆらめきながら、純白の月へと真っ直ぐたち昇っていった。
その煙はあたかも、この世での使命を終え、肉体から抜け出してゆく、僕の魂のようだった。
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111 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:15:11.33 ID:e3CHeZDr
森の出入り口に向かう途中、にわかに雨が降り始めた。雨滴は間をおかず大粒になり、やがて空を破いたような土砂振りの雨となった。
僕は手提げバックを地面に置き、腕を拡げ、掌を開き、雨を抱いた。
雨は空の舌となって大地を舐めた。僕は上を向いて舌を突き出し、空と深く接吻した。
この時、僕の舌は鋭敏な音叉となった。不規則なリズムで舌先に弾ける雨粒の震動が、僕の全細胞に伝播し、足の裏から抜け、地面を伝い、
そこらの石や樹々の枝葉や小ぶりの溜池の水面に弾ける雨音と共鳴し、荘厳なシンフォニーを奏でた
甘い甘い死のキャンディを命いっぱいに含んだ僕の渇きを、雨の抱擁が優しく潤してゆく……。
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112 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:18:53.41 ID:e3CHeZDr
僕は森を抜け、公園に停めた自転車の前カゴに淳君の頭部を載せると、家に向かって猛スピードで自転車を走らせた。
自転車の速度も相俟ってか、先ほどまでとはうってかわり、BB弾のような硬い雨が、まるで罪を咎めるように、僕の全身を打擲した。
家に着くと、自転車置き場に自転車を入れ、母親が帰っているかどうかも確かめず、鍵のかかっていない玄関から家の中に入った。
母親はまだ帰っていなかった。
僕は風呂場の脱衣所に淳君の頭部を置き、居間から庭に出て、庭の隅の水道の脇にかけてある、直径六十センチほどの金メッキのトタンの盥を持って、再び脱衣所へ行った。
汚れた淳君の頭部を、その盥で洗おうと思ったのだ。
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113 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:23:41.81 ID:e3CHeZDr
家から出る際、玄関から外に出るのは危険すぎる。この家の老朽化した木の階段は、踏みしめるたびにけたたましい軋り音をたてるからだ。
両親が起き出さないとも限らない。部屋の窓から直接庭に降りるしかない。
不意に強い風が吹き、カーテンの裂け目が。いっそう大きく葉型に拡がった。
この六畳の洋室は僕の小宇宙であり、僕の「拡張した」内界だった。
決して外へ開かれることのなかった、その内界に突如、外界の処女膜が立ち現れたのだ。
皮肉な話である。極限の内向の果てに僕が視たのは、外界への入り口だったのだ。
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114 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:36:04.82 ID:e3CHeZDr
葉型に拡がったカーテンの裂け目に両手をかけ、僕は外界の処女膜を破り、夜にダイブした。
空には仄かに霧がかかり、白い月が滲んでいた。
自転車をフラフラと走らせ、映画「スタンド・バイ・ミー」の主題歌を鼻歌で口ずさみながら、僕はこの上もなく上機嫌だった。
「スタンド・バイ・ミー」、心に傷を負った四人の少年が、線路づたいに「死体探し」の旅に出る甘く切なく美しい永遠の少年映画。
誰もが、喪われた自身の少年時代を想い起こす名画の中の名画だ。僕はこの映画が大好きだった。
英語の授業で、この映画の主題歌をクラス全員で歌ったことがある。その時ばかりは僕も熱心に参加した。
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116 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:37:01.91 ID:e3CHeZDr
僕は死体(タカラモノ)を自転車の前カゴに載せ、狂った思考の線路づたいに自転車を走らせ、
たったひとりの「スタンド・バイ・ミー」を敢行した。
胸が高鳴った。誰一人として見向きもしなかった、醜くみすぼらしい透明な一匹の虫けらによって、これから世界がひっくり返されるのだ。
中学校の正門に着くと、門の前に自転車を停め、ビニール袋から淳君の頭部を取り出しさてどこへ置こうかと思案をめぐらせた。
水色の正門の真ん中がいいか?白塗りの塀の、中学校の名前の入ったプレートの真下にするか?
いろいろと悩んだ挙句、僕は門の真ん中に頭部を置き、二、三歩後ろに下がって、どう見えるかを確認した。
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117 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:38:36.21 ID:e3CHeZDr
その瞬間、僕の世界から、音が消えた。
世界は昏睡し、僕だけが独り起きているようだった。
地面。
頭部。
門。
塀の向こうに聳える校舎。
どの要素も、大昔からそうなっていたように、違和感なく調和し、融合している
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119 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:48:14.92 ID:e3CHeZDr
まるで、一枚の絵画、映画の中のワンシーンのようだった。
校舎は朧月夜の闇の中へその輪郭を霞ませていた。
校舎の正面壁の上部中央に、月桂樹の葉のなかに「中」の文字のあしらわれた校章が取り付けられている。
僕にはその校章はルドンの描く、あの一ツ眼巨人(サイクロプス)の眼玉のように映った。
校舎から視線を下へ這わせると、正面玄関のガラス扉が見えた。そう、巨大な一ツ眼の化け物の口は、幾度となく僕を、弄ぶように呑み込んでは吐き出し、
呑み込んではまた吐き出したのだ。
この建物は、僕の憎悪の結晶であり、自分を排除し続けた世界の象徴だった。
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120 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:49:18.41 ID:e3CHeZDr
だがそういった激しい怒りや憎しみは、今や僕の支配するこの夜の闇に融け出し、きれいに浄化された。
今の僕を包むこの夜の闇は、思いどおり世界を描くことのできる僕だけの真っ黒いキャンパスだった。
これまでに味わった数多の屈辱も、この夜の闇が、優しく塗り潰した。
僕はもう恐れなかった。もはやこの建物のどこにも、僕を脅かす力は潜んでいないように思えた。
あれほど僕を脅かした堅牢な一ツ眼の化け物は、今や僕の決壊した精神のダムから怒涛のごとく迸る闇の波間に力なくたゆたう幽霊船と化し、その実体を喪っていた。
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121 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 14:50:09.38 ID:e3CHeZDr
校舎南側の壁沿いに二本並んだナツメヤシの葉が、降りかかる月の光屑を撒き散らすように音もなく擦れ合っている。
呪詛と祝福一つに融け合い、僕の足元の、僕が愛してやまない淳君のその頭部に集約された。
自分がもっとも憎んだものと、自分がもっとも愛したものが、ひとつになった。
僕の設えた舞台の上で、はちきれんばかりに膨れ上がったこの世界への僕の憎悪と愛情が、今まさに交尾したのだ。
告白しよう。僕はこの光景を、「美しい」とおもった。
薄い夜霧のドレスを裂いて伸びてくる月の光切った先は鑿となって、闇の塊の中から、この世のあらざる絶望的に美しい光景を彫り出していた。
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122 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 15:01:20.97 ID:e3CHeZDr
もう、いつ死んでもいい。そう思えた。
自分はこの映像を作るために、この映像を視るために、生まれてきたのだ。すべてが、報われた気がした。
もはや僕には、正気も、狂気も無かった。ただ、濃密な無感覚のみが、僕の虚の肉体を領した。
この時、僕の皮膚の内側と外側が化学反応を起こし、僕の世界の「目盛り」は大幅な変更を余儀なくされた。
この光景を視てしまったあとでは、もはや他人と同じ目盛りで世界を視ることは不可能だった。
用意した挑戦状を頭部に添え自転車に跨り、僕は学校をあとにした。
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123 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 15:03:02.45 ID:e3CHeZDr
駐輪場に自転車を戻し、音が鳴らないように慎重に門を閉め、そのまま裏庭に廻り、植木鉢の並んだアルミ棚によじ登って、
二階自室の窓の柵に手を引っ掛け、開いた窓から部屋の中へ入った。
机の引き出しの奥から赤マルの箱とライターを取り出し、窓の柵に身を乗り出して、煙草に火をつけた。
先ほどまでかかっていた霧は散り、大口をあけた獣の横顔のような、パックリ開いた純白の下弦の月が、夜にくらいついてた。
風はやみ、吐き出した紫煙は幽かにゆらめきながら、純白の月へと真っ直ぐたち昇っていった。
その煙はあたかも、この世での使命を終え、肉体から抜け出してゆく、僕の魂のようだった。
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125 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 15:16:49.62 ID:e3CHeZDr
森の出入り口に向かう途中、にわかに雨が降り始めた。雨滴は間をおかず大粒になり、やがて空を破いたような土砂振りの雨となった。
僕は手提げバックを地面に置き、腕を拡げ、掌を開き、雨を抱いた。
雨は空の舌となって大地を舐めた。僕は上を向いて舌を突き出し、空と深く接吻した。
この時、僕の舌は鋭敏な音叉となった。不規則なリズムで舌先に弾ける雨粒の震動が、僕の全細胞に伝播し、足の裏から抜け、地面を伝い、
そこらの石や樹々の枝葉や小ぶりの溜池の水面に弾ける雨音と共鳴し、荘厳なシンフォニーを奏でた
甘い甘い死のキャンディを命いっぱいに含んだ僕の渇きを、雨の抱擁が優しく潤してゆく……。
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126 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 15:17:58.15 ID:e3CHeZDr
僕は森を抜け、公園に停めた自転車の前カゴに淳君の頭部を載せると、家に向かって猛スピードで自転車を走らせた。
自転車の速度も相俟ってか、先ほどまでとはうってかわり、BB弾のような硬い雨が、まるで罪を咎めるように、僕の全身を打擲した。
家に着くと、自転車置き場に自転車を入れ、母親が帰っているかどうかも確かめず、鍵のかかっていない玄関から家の中に入った。
母親はまだ帰っていなかった。
僕は風呂場の脱衣所に淳君の頭部を置き、居間から庭に出て、庭の隅の水道の脇にかけてある、直径六十センチほどの金メッキのトタンの盥を持って、再び脱衣所へ行った。
汚れた淳君の頭部を、その盥で洗おうと思ったのだ。
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129 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 15:35:31.66 ID:e3CHeZDr
森の出入り口に向かう途中、にわかに雨が降り始めた。雨滴は間をおかず大粒になり、やがて空を破いたような土砂振りの雨となった。
僕は手提げバックを地面に置き、腕を拡げ、掌を開き、雨を抱いた。
雨は空の舌となって大地を舐めた。僕は上を向いて舌を突き出し、空と深く接吻した。
この時、僕の舌は鋭敏な音叉となった。不規則なリズムで舌先に弾ける雨粒の震動が、僕の全細胞に伝播し、足の裏から抜け、地面を伝い、
そこらの石や樹々の枝葉や小ぶりの溜池の水面に弾ける雨音と共鳴し、荘厳なシンフォニーを奏でた
甘い甘い死のキャンディを命いっぱいに含んだ僕の渇きを、雨の抱擁が優しく潤してゆく……。
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130 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 15:36:52.30 ID:e3CHeZDr
僕は森を抜け、公園に停めた自転車の前カゴに淳君の頭部を載せると、家に向かって猛スピードで自転車を走らせた。
自転車の速度も相俟ってか、先ほどまでとはうってかわり、BB弾のような硬い雨が、まるで罪を咎めるように、僕の全身を打擲した。
家に着くと、自転車置き場に自転車を入れ、母親が帰っているかどうかも確かめず、鍵のかかっていない玄関から家の中に入った。
母親はまだ帰っていなかった。
僕は風呂場の脱衣所に淳君の頭部を置き、居間から庭に出て、庭の隅の水道の脇にかけてある、直径六十センチほどの金メッキのトタンの盥を持って、再び脱衣所へ行った。
汚れた淳君の頭部を、その盥で洗おうと思ったのだ。
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131 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 15:38:02.29 ID:e3CHeZDr
家から出る際、玄関から外に出るのは危険すぎる。この家の老朽化した木の階段は、踏みしめるたびにけたたましい軋り音をたてるからだ。
両親が起き出さないとも限らない。部屋の窓から直接庭に降りるしかない。
不意に強い風が吹き、カーテンの裂け目が。いっそう大きく葉型に拡がった。
この六畳の洋室は僕の小宇宙であり、僕の「拡張した」内界だった。
決して外へ開かれることのなかった、その内界に突如、外界の処女膜が立ち現れたのだ。
皮肉な話である。極限の内向の果てに僕が視たのは、外界への入り口だったのだ。
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133 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 16:03:18.52 ID:e3CHeZDr
葉型に拡がったカーテンの裂け目に両手をかけ、僕は外界の処女膜を破り、夜にダイブした。
空には仄かに霧がかかり、白い月が滲んでいた。
自転車をフラフラと走らせ、映画「スタンド・バイ・ミー」の主題歌を鼻歌で口ずさみながら、僕はこの上もなく上機嫌だった。
「スタンド・バイ・ミー」、心に傷を負った四人の少年が、線路づたいに「死体探し」の旅に出る甘く切なく美しい永遠の少年映画。
誰もが、喪われた自身の少年時代を想い起こす名画の中の名画だ。僕はこの映画が大好きだった。
英語の授業で、この映画の主題歌をクラス全員で歌ったことがある。その時ばかりは僕も熱心に参加した。
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135 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 16:13:43.68 ID:e3CHeZDr
僕は死体(タカラモノ)を自転車の前カゴに載せ、狂った思考の線路づたいに自転車を走らせ、
たったひとりの「スタンド・バイ・ミー」を敢行した。
胸が高鳴った。誰一人として見向きもしなかった、醜くみすぼらしい透明な一匹の虫けらによって、これから世界がひっくり返されるのだ。
中学校の正門に着くと、門の前に自転車を停め、ビニール袋から淳君の頭部を取り出しさてどこへ置こうかと思案をめぐらせた。
水色の正門の真ん中がいいか?白塗りの塀の、中学校の名前の入ったプレートの真下にするか?
いろいろと悩んだ挙句、僕は門の真ん中に頭部を置き、二、三歩後ろに下がって、どう見えるかを確認した。
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136 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 16:15:42.88 ID:e3CHeZDr
その瞬間、僕の世界から、音が消えた。
世界は昏睡し、僕だけが独り起きているようだった。
地面。
頭部。
門。
塀の向こうに聳える校舎。
どの要素も、大昔からそうなっていたように、違和感なく調和し、融合している
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143 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 18:25:33.67 ID:e3CHeZDr
まるで、一枚の絵画、映画の中のワンシーンのようだった。
校舎は朧月夜の闇の中へその輪郭を霞ませていた。
校舎の正面壁の上部中央に、月桂樹の葉のなかに「中」の文字のあしらわれた校章が取り付けられている。
僕にはその校章はルドンの描く、あの一ツ眼巨人(サイクロプス)の眼玉のように映った。
校舎から視線を下へ這わせると、正面玄関のガラス扉が見えた。そう、巨大な一ツ眼の化け物の口は、幾度となく僕を、弄ぶように呑み込んでは吐き出し、
呑み込んではまた吐き出したのだ。
この建物は、僕の憎悪の結晶であり、自分を排除し続けた正解の象徴だった。
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144 :なまえをいれてください[sage]:2015/06/11(木) 18:26:33.53 ID:e3CHeZDr
だがそういった激しい怒りや憎しみは、今や僕の支配するこの夜の闇に融け出し、きれいに浄化された。
今の僕を包むこの夜の闇は、思いどおり世界を描くことのできる僕だけの真っ黒いキャンパスだった。
これまでに味わった数多の屈辱も、この夜の闇が、優しく塗り潰した。
僕はもう恐れなかった。もはやこの建物のどこにも、僕を脅かす力は潜んでいないように思えた。
あれほど僕を脅かした堅牢な一ツ眼の化け物は、今や僕の決壊した精神のダムから怒涛のごとく迸る闇の波間に力なくたゆたう幽霊船と化し、その実体を喪っていた。
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