- 【友達≦】幼馴染み萌えスレ25章【<恋人】
35 : ◆TC02kfS2Q2 [sage]:2014/09/10(水) 06:15:11.09 ID:RerYoEMv - 投下させていただきます。
『幼馴染は神様』 「神様、神様、お願いです。今度のテストで100点取らせてください」 相手はお遊びだとは言え本気だ。 この性格はちっとも変わらないから分かりやすい。 ランドセルのお世話になってもおかしくないいスタイルの真世の必死な顔を見て、いつものようにおれは噴き出しそうになった。 年上の女の子がおれに助けを求めているのだ。 おれの目の前には半額セールのいなり寿司。真世なりに考えた最上級のお供え物のつもりらしい。 言っておくが、無論おれは神様ではない、善良なる小市民だし、多感な時代の中学生だ。神通力の一つでも持っていれば、 それはそれで自慢になる。だが、おれが出来ることはせいぜいお供え物を頂いて……。 「ういやつじゃ。お主はきっと100点取れるぞい」 と、真世の『神様ごっこ』に付き合うことぐらいしかできない。 願いが通じるか通じないかは、神のみぞ知る。 都会と言う程街でなく、田舎と卑下する程過疎ってないおれと真世の住む街での楽しみはこんなものだ。 刺激と言えば、メディアか漫画ぐらいののほほんとした土地だし。 「なんで、100点取りたいんだ?無理すんなよ真世姉」 「漫画家になるには、頭よくないといけないんだよ」 真世は確かに絵は上手い。 人を引き付ける魅力があると言うか、隙のない作画を見せる。しかし、天は人に二物を与えないもので、 正直に話すとストーリーはそこまでもない。素人にそこまで求めるのもおかしな話だが、中学生だったおれは、 他人の事情まで考える余裕はなかった。 「きっと願いは叶うじゃろう……こんな感じでいいか?」 「ありがとうございまするー」 神様なんているもんか。 小学生からの遊びが抜けきれない真世をどうしても年上だと受け入れられないのは神様ごっこのせいだけではない。 お互いに小さな頃からパンツの柄を言い合える程の間柄だし、真世が幼い頃から絵を描いていることも知っている。 もっと漫画家って、カリスマ的で、言うこと成すことにみなひれ伏せる神様みたいな存在で。 それを目指している真世とは程遠い存在で。だけども、そんな主張をすると真世が角立てる。 「久太は漫画の読みすぎだしー」 「漫画家志願がそのセリフはねーだろ」 「わたしは久太よりお姉さんだから、このくらい言わなきゃだめなのよ」 シャッターが閉まった店ばかりの商店街を真世と並んで歩く日々も段々と消えていくんだろうと、年甲斐もなく哀愁に漂ってみた。 #
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- 【友達≦】幼馴染み萌えスレ25章【<恋人】
36 : ◆TC02kfS2Q2 [sage]:2014/09/10(水) 06:16:20.12 ID:RerYoEMv - 保護欲を求められる年上の幼なじみが本当に漫画家になったと聞いたのは、おれが就職で都会に出て生活に慣れ始めた
ときのことであった。刺激的な都会の生活はおれには少々荷が重すぎたもの、このまま帰郷するのも慰みものにされるだけなので、 しばらく都会に染まっていた。地元のことなど、うっすら忘れかけていた。 激流のように流れる情報の渦に酔いしれて、仕事、帰宅後ネット漬けの非生産的な毎日だったが、さほど苦に感じない。 都会の毒が身体中にまわっているんだろう。 ある日、解毒剤の代わりに真世からのメールが届いた。いきなり、前触れもなく。 おれとは反対に地元に残った真世は、地元でバイトをしながら漫画家修行をしていたという。 ひなびた商店街で働きながら雑誌、単行本、果てはアニメ化と夢は果てることはない。 おれからの返信が進まない情けなさ。 そんなに簡単になれるもんかと、正直おれは鼻で笑っていた。 漫画家なんて、雲の上の人。 言うならば神様。 対して地に足ついた生活を送っていたおれは段々と真世が追いかけている夢さえも、心の片隅どころか外れに追いやっていた。 そんな真世が夢を勝ち取った。 誰もが知っている訳ではない雑誌で連載を始めたらしい。だからだ。 「そっか……」 思ったほど言葉が出なかった。 メールの内容に驚いた。サイン会が開催されると言う。 半信半疑で真世の名前でネット検索を掛けてみる。そういえば、こんなことをするのも初めてかもしれない。 なんせ、都会に来てから真世のことを避けるように生活していたのだから。 「マジかよ……。神様っているんだな」 ネット社会の今、全国どこでも小さな町の情報さえも手に入るのだ。 誰もが見逃しそうな些細な情報さえも誰かがどこかで拾ってくれる。 自宅のPCのモニターに真世の名が燦然と輝いて眩しく見える。紛れもなく、真世は神様だ。 # 有給休暇を頂いて、おれは初めての帰省を体験した。 大きく見えていた街がこんなに小さく見える不思議。 都会とは三日遅れの雑誌が陽に焼けて並ぶ駅前の売店。 軽トラが爆走する県道。 電線だらけの中心街。 まるで時代遅れの侍たちに出会ったような違和感だ。それもこれも都会の毒か。 実家で一息ついたおれは真世のサイン会が開催される商店街へと手ぶらで向かった。
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37 : ◆TC02kfS2Q2 [sage]:2014/09/10(水) 06:17:30.44 ID:RerYoEMv - 『館林真世・サイン会会場』
だが、漫画家とは言え、端くれとは言え底辺の中の底辺だ。 当然、大きな書店などから相手にされる訳でもなく、おれの地元の小さな個人商店主催のひなびたサイン会だった。 最近はローカルアイドルとやらの邁進で、地方の商店街が二匹目三匹目のドジョウを狙っているらしい。 ただのアイドルではなく、地元に残る漫画家に目をつけたのは、僭越ながら評価させて頂こう。 方眼紙にポスターカラーで中学生が描いたようなハンドメイド過ぎる横断幕が笑いを誘うぐらいに必死だ。 それでも立派なサイン会。胸を張れ。漫画家先生。 「あ、久太。来てくれたんだ。すぐに分かった?」 真世のサイン会の会場は、遠くからでも一目で分かった。気持ちがよい位に見通しがよい。真世の表情まで事細かに確認できる。 つまり、人など、行列など出来てもないのだ。 図画工作感溢れる装飾品と、しわくちゃの法被を纏った商店街の運営委員たちが、悲壮感にブーストをかけていた。 「ま、初日だからね」 「多分、明日もだよ」 「あさってもあるし」 慰めにもならない言葉程、傷付くものはない。 真世は折り畳み式の机に並んだ雑誌を目の前に、ずっと顔を曇らせていた。 「真世先生、サインを……」 おれの言葉に真世は息を飲んでいた。 一番始めの客がおれ。 枯木に賑わいの花びらを。ただし、作り物。 真世が雑誌に手を伸ばすと、表紙にすらすらとサインを書き始めた。 書き慣れた手付き……それもそのはず、おれが中学生の頃から使っていた、ネコをあしらったアイドル系を模したサインだ。 「この雑誌に、わたしの……」 「漫画が載ってるんだよな。知ってます。ほら、500円」 単行本すら出せてないのに、サイン会という暴挙。 傾きかけた商店街が出した結論は、真世の掲載雑誌に、真世のサインを書くこと。 だから、真世の絵ではないのに真世のサインという違和感がおれを攻める。 「神様、しょげるなよ。雑誌に載ったんだから」 「わたしの本じゃないし、神様なんかじゃないよ」 「素人からすればうらやましいぞ。おれこそ神様じゃない。真世姉が神様だ」 「……でも」 真世の背中にランドセルが浮かんで見える。 真世は年上でも永久の少女だということを証明するかのように。 「久太が叶えてくれたようなもんだよ。神様にお願いしたら叶っちゃった」 「神様ごっこか……」 久し振りにくちにしたフレーズ。いい歳してこっぱずかしい言葉だが、真世の前なら許せるような気がした。 「あー。でも久太の言う通りかもね。テストで未だに100点取ったことないし」 「テストなんかもうねーだろ」 サイン会でここまで悠長に会話ができることを恥とも思わずに、真世は真新しい雑誌をおれに手渡してくれた。 おしまい。
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