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『紅血の呪縛』
立場だけの交換・変化 7交換目?

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立場だけの交換・変化 7交換目?
279 :[sage]:2014/07/11(金) 05:16:19.38 ID:QrOoWjEJ
#ファンタジー世界が舞台の割と変化球気味な立場交換話を投下します。

『紅血の呪縛』

 田舎と言うより辺境という言葉が似合いそうなトランシア地方の西の外れにあるスルヴァナ村。人口100人余り、特産品は林檎と樺の材木という典型的な農林業主体の平和なこの村に、今ちょっとした騒動(トラブル)が起こっていた。
 「それで、マリア達は、まだ見つからないんですか?」
 この村唯一の小さな教会の主である修道服姿の青年が、心配そうな表情でこの村の村長を務める初老の男性に尋ねる。
 「ああ。とは言え、あのふたりのことじゃから、それほど心配はいらぬとは思うのだが……」
 「面目ない、ロミオ司祭! ウチのあんぽんたんがマリアちゃんを無理矢理連れ出しちまったに決まってる」
 同席している大柄な中年男性が、土下座しそうな勢いで思い切り頭を下げている。
 「頭を上げてください、ロバートさん。確かに、彼が誘った公算は強いでしょうが、ウチのマリアの方が年上で、見習とは言え聖職者なのです。むしろ、止めなかった点はあの子にも責任があります」
 人格者で知られる司祭は、ロバートの謝罪に如才なく答えた。
 と、その時……!
 「村長、アイツらが帰ってきやがった!」
 バンッと教会の扉を開けて若い男が駆け込んでくる。
 「「「!」」」
 3人はいっせいに立ち上がり、男に案内させて、その場へと急ぐ。
 村の入り口の柵の前には……。

 「えーっと、皆さんお揃いで、何してんの?」
 きょとんとした顔の14、5歳の少年が、同い年くらいの少女を背負って、数人の村人に囲まれて小首を傾げていた。
 「バッカもーーん! あんな置き手紙1枚残して消えるヤツがあるか!」
 案の定、父であるロバートは、拳骨とともに盛大な雷を落とす。
 「……ったぁ〜。なんでさ!? ちゃんと書き置き通り2日で戻って来たじゃん」
 「──確かに約束を守るのは良いことです。ですが、それ以前に、こういう無茶をする際は、年長者に一言相談してほしかったですね」
 いつもは温厚なロミオ司祭も、少なからず怒っているようだ。
 「あぅあぅ……ごめんなさい、お兄様」
 司祭の妹らしき少女が少年の背中から降りて縮こまる。
 「まぁまぁ、お小言は後にするとして……もしかして、マリアちゃんがケガでもしているのかね?」
 父兄ふたりをとりなす村長だが、結果的にそれは少年の一番の弱点を突いたようだ。
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280 :『紅血の呪縛』[sage]:2014/07/11(金) 05:17:20.09 ID:QrOoWjEJ
 「う、うん。ちょっと足首を捻ったみたい──ごめん。ボクのせいだ」
 「そんな! アレはわたしがドジだったから……」
 「だとしても、あんな場所に連れて行かなければ、こんなメには合わなかったはずだし」
 しょんぼりする少年を少女が懸命に慰める。
 ある意味微笑ましい光景だが、ふたりが不在にしていた2日間、やきもきしていた大人陣としては、一言釘を刺しておかねばならない。
 「それで、「ちょっと冒険してきます」って、どこ行ってきたんだ? 北の森のゴブリンの巣穴か? あそこは、2年ほど前にワシと司祭とドゥーンのおやっさんで掃除(物理)したから、コボルト1匹残っちゃいないはずだが」
 「うん、知ってる」
 「では、南の廃坑ですか? 確かにあそこなら、ロックワームやはぐれノームがいてもおかしくありませんし、巧くすれば鉱石も拾えるでしょうが、君達には少し手に余るでしょう」
 「ええ、それはわかっています、お兄様」
 「だったら、どこへ……まさかっ!?」
 村長が血相を変え、残る大人達の表情も一気に厳しくなる。
 無言のまま10対近くの目に睨みつけられ、少年たちはついに観念した。
 「──うん、東の山奥の幽霊屋敷」
 「この大たわけが!!」
 先ほどとは比べ物にならない怒り混じりの叱責を父親から浴びせられた少年は、慌てて言い訳する。
 「で、でも、結局、屋敷の中には行けなかったんだよ。塀を乗り越えて庭までは入ったんだけど、玄関が開かなくて、色々試してるあいだに、マリアが転んで捻挫して……」
 その言葉に、ようやく父であるロバートは怒りの矛を収めた。
 「ふんっ! 当たり前だ。そもそもあそこは、冒険者経験のあるワシや神童と呼ばれたロミオ司祭でも入るのをためらう正体不明の場所だぞ。万一中に入れば、お前らみたいなヒヨッコでは、命がいくつあっても足りんわ!」
 「そう考えると、マリアの負傷で素直に引き返してきたのはむしろ幸運でしたね。あの屋敷には得体のしれない瘴気のようなものを感じましたから、長く留まれば蝕まれたかもしれません」
 司祭の言葉に「うんうん」と頷く大人たち。
 「まぁ、それはさておき。お前さん達は、確かに冒険者を目指すだけの技術は持っているのかもしれんが、同時にまだまだ一人前と言うには程遠い半人前だ。
 父親やお兄さんに無用の心配をかけるものじゃないと思うぞ」
 司祭とはまた異なる意味で人望のある青年団長の言葉に神妙に頷く少年少女。
 いつもならこういう場面では、冒険者志願の少年が反発心を見せるのだが、幼馴染の優しい少女にケガをさせたことで、多少なりとも罪悪感を感じているのかもしれない。
 「ふぅ、これで一件落着か。とりあえず、ふたりとも家に戻って身体を休めなさい。無事に戻ってきたことに免じて、村長としての罰は与えないが、保護者の方にたっぷり絞られる覚悟はしておくように」
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281 :『紅血の呪縛』[sage]:2014/07/11(金) 05:17:54.44 ID:QrOoWjEJ
 「うへぇ」「はぁい」
 村長の言葉に顔を見合わせ、神妙に(もしくはゲンナリと)頷く少年と少女。
 ともあれ、話がまとまったようなので一同解散となり、村人たちは三々五々に家に帰る。
 自分も村の一角にある家に向かいかけ……しかし、少年はふと足を止めて、村の東にそびえる岩山の方を、どこか遠い目で見つめた。
 「どうかしたの?」
 少女の問いに、どこかミステリアスな微笑を浮かべつつ、少年は首を横に振った。
 「──ううん、なんでもないよ、マリア」

 * * * 

 「ねぇ、ホントに行くんですか?」
 獣道と大差のない荒れた小道を慎重に歩きながら、紺の修道服姿の少女が、先に立って歩く少年に声をかけた。
 もっとも、修道服と言っても、大きな街の教会に属する聖職者の煌びやかな絹製のそれとは異なり、厚手の綿布で作られた実用本位の質素なものだ。
 ワンピースの裾もいくぶん短く、膝が隠れる程度の長さで、そこから覗く足には白い長靴下と頑丈な革製のハーフブーツを履いている。
 よく実った麦穂のような鮮やかな山吹色のロングヘアは、三つ編みにした上で修道女の頭布(ベール)に包んでいるため、山中でも邪魔にはならないだろう。
 こんなド田舎だと、たとえ教会の修道女(見習い)と言えど、山菜やその他の山の恵みを採りに行ったり農作業を手伝ったりと屋外活動の機会に事欠かないので、普段からそれに応じた動きやすい格好をしているのだ。
 「ここまで来て何言ってるんだよ。そら、着いたぞ」
 一方、少年の方は、丈夫そうな麻のシャツとズボンのうえに、イノシシの皮で作られた胴着のような防具を身につけていた。足元は脛部分を薄い鉄板で補強したロングブーツで、手には指無しの革手袋をはめている。
 銀と言うより白に近い薄い灰色の髪を短めに刈り込み、額には草色に染めたバンダナが巻かれていた。
 腰に刃渡り40センチ弱の小ぶりな剣──俗にショートソードと言われる武器を吊り下げているあたりからして、剣士志望なのだろうか? それにしてはあまり体格はよろしくないが。
 「うっさいなぁ、お袋の血筋であんまし背が伸びないんだよ!」
 ナレーションに突っ込むのはやめていただきたい。
 いかにも駆け出しの軽戦士といった身なりのミドルティーンの少年と、同い年くらいの修道女のコンビは、ついに今回の“冒険”の“目的地”となる場所に辿りついていた。
 「ぅぅ……とうとう“幽霊屋敷”まで来ちゃいました」
 気弱そうな少女が言うとおり、目の前の林の開けた場所には、少年の背丈より頭ふたつ分ほど高いレンガ塀に囲まれたかなり大きめの館がそびえたっていた。
 少年たちが住むスルヴァナ村では、「東の山の幽霊屋敷」と呼ばれる場所で、危険区域として立ち入りを禁じられている場所のひとつだった。
 とは言え、冒険者歴もある元傭兵の父から剣などの手ほどきを受けている少年本人は、これでもいっぱしの戦士のつもりだ。
 幼いころから父親の冒険談(たぶんに子向けに誇張されたもの)を聞いて育ったこの少年は、成長するにつれて自然と「僕も将来、冒険者になる!」と考えるようになっていた。
 とは言え、こんな冒険者ギルドの支店すらない辺境の小さな村で、そうそう冒険者が必要となるような“事件”が起こるわけもない。平素は狩人として近隣の野山を駆け巡って獲物を仕留め、家と村の収入に貢献しているのが現状だ。
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282 :『紅血の呪縛』[sage]:2014/07/11(金) 05:18:48.64 ID:QrOoWjEJ
 未来の大冒険者を目指す少年としては、それが大いに不満だった。と言って、今すぐ村を飛び出てひとりで冒険者としてやっていけると思うほど、夢想家でもない。
 何しろ、金銭はもちろん、圧倒的に場数を踏んだ経験が足りない。
 そこで、ときおり手が空いた時期をみはからって“冒険行”にくり出すのが、ここ1年ばかりの彼のトレンドになっていた。
 しかも、その“冒険”に、時には幼馴染の見習いシスターである少女マリアもつき合わせるのだ。
 ──少女にとっての不幸は、幼いころから神童と呼ばれるほど頭の良かった兄ロミオの薫陶で、すでに初歩的な治癒呪文なら使えるようになっていたことだろう。
 おかげで、無茶しがちな幼馴染の専任看護婦(おくすりばこ)として同行せざるを得なかったのだから。もっとも、彼女は彼女で少年とのふたりきりの冒険行を楽しんでいるフシもあったが……。
 とは言え、これまではせいぜい半日程度の日帰りできる距離の“冒険”だったのに、今回は初めて1泊2日の“冒険旅行”となっている。東の山自体は村のすぐ隣りとは言え、目的の館までかなりの距離があるからだ。
 実際、朝早くに村を出たふたりが館の前まで着いたとき、すでに夕暮れと言ってよい時間帯になっていた。
 「(ゴクッ)は、話には聞いてましたけど……」
 「ああ、かなり大きなお屋敷みたいだな」
 村で一番の名主でもある村長の家が余裕で5、6個は入りそうな広さの屋敷もさることながら、敷地の周囲が丈夫なレンガ造りの塀で囲まれ、さらに塀のすぐ外に幅1メートルほどの小川が堀のようにめぐらされている。
 唯一の出入り口は門だが、四頭立ての大型馬車でも通れそうなそこは、武骨な鋼鉄の門扉で閉ざされ、大きな閂と錠前がかけられているため、簡単に開きそうにはない。
 難攻不落の城砦とまではいかないが、なかなかの防御能力……。
 「……とは全然言えないよな、うん」
 軽々と“堀”を跳び越え、塀のそばに着地するふたり。その塀のほうも、年の割には背の低い少年が、ジャンプすれば飛びつける程度の高さでしかない。
 そんなわけで、レンガ塀を乗り越えて、あっけないほど簡単に少年と少女は屋敷の庭に侵入することができたのだ。

 「……! ね、ねぇ、カール、ここ、何か変な感じしません?」
 「おいおい、屋敷に入りもしないうちから、何ビビってんだよ。それに、万が一、ここが本物の幽霊屋敷で、ゴーストとかスケルトンが現われても、修道女のマリアがいたら楽勝だろ?」
 「ぅぅ……一応、「浄化」の呪文は使えますけど、あんまり過剰に期待しないでくださいね。わたし、まだまだ駆け出しなんですから」
 ヘの字に眉の両端を下げ、幼馴染の少年に予防線を張る少女。一応、少女のほうが半年ほどとは言え年長のはずなのだが、余人から見れば「積極的に妹の手を引くやんちゃな兄と、気弱で引っ込み思案な妹」そのものだ。
 「心構えの問題だよ。ん?」
 最初は屋敷の立派な(ただし、ものすごく古ぼけた)玄関の扉を開けようと、力を込めた少年だったが、扉は動かなかった。
 「鍵がかかっているんじゃないかしら?」
 「いや、そういう感じじゃないんだが……マリア、ちょっと手伝ってくれ」
 少年に言われて、少女も両開き扉の少年と逆の方に手をかける。
 「わたし、あんまり力に自信はありませんよ?」
 そう謙遜する少女だったが、少年は知っている。
 この地方最大の都エクレシアに留学していた頃は聖堂騎士候補生になったこともあるロミオ司祭。その彼に鍛えられている少女は、下手したら自分と同等以上にパワフルであることを。
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283 :『紅血の呪縛』[sage]:2014/07/11(金) 05:19:26.10 ID:QrOoWjEJ
 それを証明するかのように黒檀製の重い扉はじりじりと開き始め、やがて人ひとり入れるくらいの隙間が生じて、それ以上動かなくなった。
 「うん、これくらいあれば十分か。ひゃっほぅ、いよいよ探検の始まりだぜ!」
 「ちょ、カール、待って! やっぱり此処、絶対変ですよ〜」
 少女の制止も聞かず、スルリと屋敷の中に潜り込む少年。
 館は恐いが、こんな所でひとりにされるのはさらに恐い。
 少女も慌てて少年の後を追うのだった。

 * * * 

 豪華ではあるが、古びて朽ちかけた謎の屋敷の探索。
 非常に興味をそそられるフレーズではあるが、実際に行ってみたふたりの少年少女の感想は……。
 「──飽きた」
 飽きるの早っ!?
 「だって、おもしろそうなモノが見つからないんだもん」
 だから、ナレーションと会話するのはやめろと……。

 閑話休題(それはさておき)。
 そもそも、盗賊(シーフ)や職人(クラフター)、あるいは商人(マーチャント)系の技能を持たない、しかも冒険者としても未熟どころか卵の殻さえ取れていない少年少女が、たったふたりでこんな場所に探索に来ても、ロクな成果が上がる訳がないのだ。
 そのことを自覚して、この時点で引き返せば良かったのだが……。
 「あ、カール、この部屋の扉は開くみたいですよ」
 「ラッキー! ほとんどの部屋に鍵がかかってるから、困ってたんだよなぁ」
 ついに屋敷の2階の一番奥の部屋にまでふたりは到達した、してしまった。

 「何、ここ……?」
 部屋に一歩足を踏み入れた少年は、部屋の内部を見て驚きの声を漏らしたが、それも無理はない。
 やたらと広い──おそらくは舘の3分の1近い大広間とも言える広さも目を引いたが、それだけではない。
 ここまでの屋敷の内装は、黒や茶色を始め、渋めの赤や紺色といった全般にシックで落ち着いた色合いで統一されていた。
 それに対して、この部屋だけは、白をベースにローズピンクやライトパープル、あるいはレモンイエローといった明るいカラーで壁紙や調度類がまとめられていたのだ。全体の雰囲気も、居間や応接間といった感じではなく、あくまで個人の部屋のようだ。
 これほどの広さを占有しているのだから、おそらくは館の主人の部屋なのだろうが……。
 「カール、こっちに、ベッドに人がいます!」
 「え!?」
 幼馴染のうわずった声に促されて、壁際の奇妙な肖像画を眺めていた少年は声のした方へと振りむく。
 確かに部屋の隅には天蓋付きの古風なベッドが置いてあったが、その枕元と思しき場所を覗き込むマリアの顔には驚きの表情が浮かんでいた。
 「おいおい、モンスターならともかく、こんなところでミイラ死体と対面ってのは勘弁してほしいなぁ」
 狼や野犬、あるいはゴブリンやコボルト程度の相手なら、すでに戦って斃(ころ)したこともあるが、やはり同じ“人”の死は一線を画する。
 しかし、見習修道女の答えは、少年戦士の思考の斜め上をいった。
 「違います! この人、生きてるんです!!」
 「!」
 あわてて駆け寄る少年を待っていたかのように、ベッドに横たわる人物が目を開けた。
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284 :『紅血の呪縛』[sage]:2014/07/11(金) 05:20:09.39 ID:QrOoWjEJ
 「…………」
 眠っていたのは未だ年若い──おそらく少年と同年代か、せいぜい1、2歳くらい年上の、美しい少女だった。
 プラチナというよりミスリルと表したほうが似合いそうな見事な輝きの白金色の髪を腰よりも長く伸ばし、長い睫毛の下に覗く瞳は淡い菫色。
 白磁のように白く滑らかな肌と、一流の人形職人でも作れないような整った顔立(かんばせ)は、見る者を男女問わず惹きつける。
 今は比較的簡素な白い夜着(ナイトドレス)を着ているが、しかるべき服装をして夜会にでも出席すれば、たちまち宴の中心として耳目を集めるであろうことは、容易に想像できた。
 「──何方(どなた)かしら? 私(わたくし)に何か御用?」
 羽根布団とおぼしき上掛けの中から、ゆっくりとけだるげに上半身を起こした“眠り姫”は、意外にしっかりしたアルト気味の声でふたりの侵入者に向かって問い掛ける。
 「へっ!? え、えーと……」
 悪戯好きの腕白小僧がそのまま成長したような少年も、完全に予想外なこの事態に何と言ってよいかわからない。
 まさか、「無人の幽霊屋敷だと思って貴女のお家に不法侵入しました」とは、いかに少年がずうずうしくても言いづらい。
 「すっ、すみません! わたしたち、てっきり、このお屋敷が無人かと思って、そのぅ……勝手にお邪魔してしまいました」
 その点、即座にキチンと自分たちの不明を詫びるあたり、さすが礼儀正しい教会の娘と言うべきか──墓穴を掘っているとも言えるが。
 「あら、そうなの。私、てっきり……いえ、それはいいわ。お二方に少しお話を伺ってもよろしいかしら?」
 寝起きで頭がはっきりしないのかそれとも元々天然なのか、館の主らしき少女は、ツッコミどころ満載なマリアの台詞を軽くスルーしてベッドに腰掛け、ふたりを手招きする。

 初対面の見目麗しい少女(しかも寝間着姿!)の間近に立って話をするというのは、純情童貞少年には少々ハードルが高い。
 何の疑いもなく彼女に近づくマリアと異なり、少女の誘いに素直従うことを躊躇ったカールだったが、その躊躇いがこの場では功を奏した。
 「ふふっ、そう、いろいろなコト教えて欲しいの……貴女のこととかも念入りにね」
 銀髪の少女の瞳が妖しく揺らめいたかと思うと、マリアの目から意志の光が消え、ぼぅっとした表情のまま、フラフラと少女に歩み寄る。
 高位の魔物や外法の術師などが稀に備えている「魅了の魔眼」だ。
 「そうそう。もっと近くに、ね?」
 楽しそうな笑みを浮かべつつ、立ち上がってマリアの肩に手をかけ、そのまま抱き寄せる少女。睦言を囁くかのように耳元に寄せられた朱い唇の間からは、八重歯と呼ぶには鋭すぎる犬歯が覗いている。
 もし、マリア本人が正気なら聖職者のハシクレとして、目の前の少女が不死の者に属する存在であると気付いただろう。
 それも、不死者(アンデッド)の中でも極めて高レベルな魔物──ヴァンパイアだ。マリアやカールは愚か、彼らの保護者であり冒険者としては中堅クラスの実力を持つロミオやロバートでさえ、勝ち目はほとんどない相手だ。
 ゆえにこそ、少女は鴨葱というもおこがましいレベルで自らの前に飛び込んできた獲物を、じっくりと料理するつもりだった。
 だったのだが……この場にいる三人目の人物について失念していたのは少々迂闊と言えるかもしれない。
 「マリア、危ないっ!」
 百合ちっくな雰囲気に呑まれ(好奇心満々でデバガメしてたとも言う)て傍観していた見習戦士の少年が、さすがに「ソレ」の異常性に気付き、間一髪でマリアを少女の抱擁から突き飛ばしたのだ。
 もっとも、勢いよく突き飛ばされた先で、当のマリアはベッド脇のサイドチェアに頭をぶつけ、打ちどころが悪かったのか、あるいは先刻の魅了の影響なのか、気を失っているようだが……。
 「あら、何をなさるの?」
 いいところを邪魔をされたと言うのに、吸血鬼娘の方の反応は、至極穏やかなものだった。
 「マリアの血は吸わせない!」
 悲壮な覚悟を決めた少年は、震える手で腰の剣を抜き放つ。
 如何に獣やモンスターの類いと戦い、斬り伏せた経験があるとは言え、いざ実際に人(の形をしたモノ)に刃を向けるとなると、躊躇いがちになるのも無理もない。
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285 :『紅血の呪縛』[sage]:2014/07/11(金) 05:20:50.10 ID:QrOoWjEJ
 もっとも……。
 「その口ぶりだと、私の正体についてある程度推察されているようですわね。恐くないのですか?」
 「──恐いに決まってるだろ! だからって、マリアが吸血鬼にされるのを黙って見てられるかよ」
 実のところ、館の主である吸血鬼の少女は、マリアを同族にしたり吸い殺したりするつもりは毛頭なかった。
 元よりこの忌々しい館に封じられた身。この場所から逃げられない以上、下手に人死にでも出してその存在を知られ、討伐隊でも組まれると厄介だ。
 これでも500年を生きた真祖のひとり、なまなかな相手に遅れは取らないつもりだが、万一外から館に火でもかけられたら、あっけなく滅びかねない。
 望まずして不死者にされ、悠久の時の流れにいささか飽いてはいたものの、積極的に死にたいわけでもないのだ。
 それ故、美味そうな少年少女(エサ)が運よく迷い込んできたのだから、ちょっぴり(数日間貧血になる程度に)“味見”はするものの、その後、記憶を消して外の世界にちゃんと返してやるつもりだった。
 だから、ちょっとした退屈しのぎの戯れのつもりで、いかにも駆け出しとわかる少年戦士に、こう問うたのだ。
 「まぁ、勇敢なお方。でも、私に勝てるとお思いですか? 貴方はとりたてて腕利きというわけでもなさそうですし、お持ちの剣も魔剣聖剣どころか銀製ですらないようですけど」
 「それは……」
 少年も、元冒険者の父親から、強大な魔物を相手にするには魔法のかかった武器か、銀製の武器でないと効果が薄い(もしくは皆無)という話は、聞いたことがあった。
 彼が手にしているのは、父が昔予備の武器として使っていたお古のショートソード。数打ち品としては悪くない代物だが、無論特殊能力とは縁がない。
 「お気づきの通り私は真祖──格の高い吸血鬼です。なまなかな武器や腕前ではかすり傷すらつきませんし、種族としての特性を別にしても、魔術の腕前も相応に高いと自負しておりますのよ」
 言葉づかいこそ上品で口元に柔らかな笑みを浮かべてはいるものの、少女の姿をした真祖の目には、猫が捕えたネズミをいたぶる時のような険呑な光が宿っていた。
 視線こそ逸らさなかったものの、少年は唇をギュッと引き結び、自らの無力を噛みしめているようだ。

 はてさて、少し苛め過ぎたか、と真祖の少女が考え始めた頃。
 「…………わかった。僕が身代りになる! 血を吸うなりなんなりしてもらって構わない。その代わり、マリアには手を出さないでくれ!!」
 予想の斜め上の提案が、少年から飛び出してきた。
 (これはまた……幼いなりに、なかなか勇敢な心を持った子ですね)
 苦笑しつつ、「そこまで言うなら、了解してやってもよいか」と考えるバンパイア娘。
 どちらかと言うと、少年より少女のほうが(食料的な意味でも性的な意味でも)彼女の好みだが、それは人で言うなら、鶏肉と魚肉のどちらが好きかという程度の差異でしかない。
 相手が筋骨隆々たる中年男とかなら願い下げだが、目の前の少年は年の割になかなか可愛らしい顔をしているし、血の匂いからして清童(どうてい)なのも間違いないようだ。
 (多少惜しいですが、小さな騎士殿に免じて、修道女に手を出すのはやめておきましょう。その分、彼には本人の言うとおり身代りとしてたっぷり……)
 と、そこまで考えた時、天啓とも言える奇策が、呪われた吸血令嬢の脳裏に浮かんだ。
 (そうか、「身代り」! それなら、あの術式が……)
 うまくいけば、この退屈な永劫の停滞から解き放たれることができるかもしれない。それが無理でも、少なくともこの何もない寂れた屋敷から抜け出すことは可能だろう。
 「なんなり、とおっしゃいましたわね。その言葉に嘘はありませんか?」
 久方ぶりに感じる胸のざわめきを抑えつつ、吸血鬼は少年に告げる。
 「──マリアの無事を約束してくれるなら」
 一瞬の逡巡の後、不安を押し殺して頷く少年。
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286 :『紅血の呪縛』[sage]:2014/07/11(金) 05:21:45.63 ID:QrOoWjEJ
 「貴方、お名前は?」
 「え? か、カールだけど」
 「では、カール。私、ミラルカ・フォン・バールシュタインも、この名に於いて誓いましょう。貴方が私の求めに応じてくださるなら、この女性には危害わ加えず、そのままお家に帰っていただくと」
 その言葉を証明するかのように、ミラルカがパチンと指を鳴らすと意識を失ったマリアの身体がフワリと浮き上がり、先ほどまで彼女が寝ていたベッドの上に横たえられる。
 「この方にはこのままここで休んでいただきましょう。無事に貴方との“契約”が済めば、外にお出しします。ただし、この屋敷に入ってからの記憶だけは消させていただきますが」
 「あぁ、うん、それくらいなら」
 ミラルカの言葉に、多少戸惑いつつも頷くカール。
 「了解いただけたようですね。では、貴方は武装解除してから、こちらへ」

 * * * 

 ミラルカに手を引かれ、剣を置き鎧を脱いだカールは主寝室の入口とは逆の方向の壁に巧妙に擬装された隠し扉を抜ける。そこには、デスクと椅子、さらに古びた書物が大量に詰め込まれた本棚がいくつか置かれていた。
 「ここは?」
 「私の書斎兼実験室、といったトコロかしら」
 先ほどまでに比べて、幾らか言葉づかいが砕けたものになっているのは、少年が己の獲物(いけにえ)となることを承知したためか。
 そのまま壁際に置かれた長椅子に座って待つよう指示されるカール。
 ここまで来たら逆らっても仕方あるまい。覚悟を決めて少年はどっかと座りこんだ。
 「えーと確か……」
 本棚の一角からお目当ての本を見つけて手に取るミラルカ。パラパラとめくり、必要な部分を確認した後、今度は机の引き出しから取り出した羊皮紙に、何かの文字を書き込んでいる。

 「貴方、文字の読み書きはできまして?」
 「一応、普通の文書くらいなら。難しい勉強とか苦手だけど」
 「結構。それでは、右手をお出しなさい」
 よくわからないままに右手を差し出すと、親指の先端をチクリと針で刺される。
 「い、イテッ! 何すんだよ」
 「そのまま、こちらを読んで署名した後、血で拇印を押しなさいな」
 言われるがままに、差し出された羊皮紙に意外に達者な筆跡で名前を記入し、今しがた刺されてまだ塞がっていない指先の傷をその横になすりつけるカール少年。
 「これでいいの?」
 「ええ、よろしくってよ。あとは私の仕事ですから」
 カールから受け取った羊皮紙をミラルカは左手に掲げ、右手の人差指で中空に複雑な図形を描く。
 その指の軌跡が赤みがかった光を発し、俗に言う魔法陣となって、素人にもわかるほどの濃密さで、さらなる魔力の気配が部屋中に満ちた。
 「こ、これは……いったい何が起こるんだ!?」
 「え? いえ、こちらの契約書に書いてあったはずですけど」
 不審げなミラルカの問いに明後日の方向へ視線を逸らすカール。どうやら中味も読まずに盲判ならぬ盲署名をしたらしい。
 「貴方、将来絶対詐欺に遭いますわよ。まぁ、契約に合意したという形式に沿っていれば、私としては別段不都合はありませんけど」
 呆れたような口ぶりでそう呟く真祖の少女だったが、気を取り直して部屋に集った魔力にさらに意識を集中させ、呪文詠唱を開始する。


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