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【妖怪】人間以外の女の子とのお話30【幽霊】

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【妖怪】人間以外の女の子とのお話30【幽霊】
170 :本編1 ◆DC//ihYmPg [sage]:2014/06/25(水) 04:54:48.42 ID:qyTUtd1K
別所に出したやつの後付前日譚エロパートを書いたので本編ごと投下。
御寛恕ください。


犬の式神つるばみと悪霊退治に行くお話


「仕事だぞつるばみ」
 俺の言葉に尻尾だけがぱさぱさ振られた。聞いてはいますよ、ということらしい。腹が立ったのでだらしなくごろ寝しているつるばみの尻尾をわしっと掴んでやる。
「ギャン!」
 読んでいた雑誌を放り出し、つるばみはだだっと部屋の外へ逃げていった。ちらっと中が見えた女性向けのファッション誌にはところどころボールペンで印がつけてある。
俺はそっと雑誌を閉じた。これはいずれ無茶ないちゃもんをつけられて買わされる前兆だ。避けられないこととはいえ、できれば見ないでおきたい。
 これ捨てたいなあ、捨てたらばれるよなあ、なんてことを俺が考えていると、室内の温度がずんと下がった。続いて、一般人では耐えられないような圧迫感と共に扉が開かれる。
「ご主人! 尻尾触ったらいけないって、何度言ったらわかるんですか!」
 登場したるは和装美人。屈辱に燃える瞳は茶。どんぐり色の犬耳と犬尻尾を怒らせ、鋭い牙を剥き出して詰め寄ってくる彼女の名はつるばみ。退魔師である俺の式神だ……一応は。
「いやだって、つるばみがこっち向かないし」
「ご主人がこっちに回ればいいだけの話じゃないですか! 肩叩くのでもいいですし。尻尾はいけないんです! セクハラですよ!」
「セクハラなのか?」
「胸触るのから一段下がるくらい」
 一段、とわざわざ自分の胸を使ってジェスチャーで説明してくれるつるばみだが、人間の俺にはさっぱり通じない。
「なんだかよくわからんが、とにかくセクハラなんだな」
「わかってください。セクハラです」
 ふん、と鼻息荒く頷いて、つるばみは元の場所でごろんと寝転がった。
「それで? 仕事ってなんですか? 私の尻尾を掴まなくちゃいけないほど緊急のお仕事ですか?」
「いや、違うけど……霊障の治療と、施設の御祓いってところかな」
 今回の仕事に関する資料の入った茶封筒を渡すと、つるばみはそれを開くこともなく外を指差した。
「ジャーキー買ってきてください。その間に読んどきますから」
「ええー」
「傷ついた! セクハラされて傷ついたんです! 慰謝料を請求します! 離婚です!」
「俺たち結婚してないけど」
「じゃあ結婚してそれから離婚しましょう!」
「なんてプロポーズだ……さすがだな、つるばみ!」
「わおん!」
 俺たちは元気よく拳を打ち合わせた。
 そして。
 しばらくの、沈黙。
 俺がそろそろと腕を下ろしても、つるばみは笑顔のままだった。その手はいつの間にかまた外を指差している。
「あっこれ本気なやつ? 本当にジャーキー買ってこなくちゃいけないやつ?」
「ささみでもいいですよ」
「ドッグフード食ってろ」
 俺は部屋から叩き出された。たまに食ってるくせに、ドッグフード……
【妖怪】人間以外の女の子とのお話30【幽霊】
171 :本編2 ◆DC//ihYmPg [sage]:2014/06/25(水) 04:57:14.21 ID:qyTUtd1K
 世における多くの職業がそうであるように、退魔師にも才能が必要だ。
まずこの世ならざるものを視ることができなければ話にならない。術を行使する気の力がなければ何もできない。
突然変異もいないわけではないが、基本的にそういった才能は血によって継がれる。俺はそういう一族の分家の分家の分家、くらいの生まれだ。
才能は、ない。視ることはかろうじてできるが、術を使うのは少し怪しい。その程度の人間がうっかり退魔師なんて選んでしまったものだからなかなかに生きづらい。
生きづらいが、今更やめられるはずもなく。下っ端として一族の屋敷の隅に部屋をもらい、ちょこちょこと仕事をこなして生きている。
「おや倫太郎さん、お出かけですか?」
 近所のコンビニに行こうとすると門のところで式神が声をかけてきた。うちの一族が使う式神は基本的に犬で、門番をしている彼も例に漏れず犬の式神だ。
人間に耳と尻尾をつけた姿のつるばみと違って、ゴールデンレトリーバーそのものの姿をしているが。俺がああともうんとも言わないうちに、彼がはっと目を見開く。
「そういえば倫太郎さんお勤めが……! いけませんよ倫太郎さん! 倫太郎さんがひとりで御祓いに行ったら死んでしまいます! 今手透きの者を何人かつけますから、ちょっと待ってください」
 遠吠えしようとする彼の口を慌てて塞ぐ。こんなことで式神たちを呼ばれたら、後で誰に何を言われるかわかったものじゃない。
「いや、違うから。つるばみに頼まれて買い物に行くだけで、仕事には後でちゃんとつるばみと行くから」
「あ、そうでしたか。それはすいません早とちりして……姐さんがいるなら安心ですね」
 はーやれやれ、と門番の式神は胸を撫でおろす。騒ぎにつられて寄ってきた他の式神たちもほっとした様子でぱたぱたと尻尾を振っている。
心配から出たこととはいえ、俺の胸の内には黒いものが渦巻いた。人間はそこまででもないが、式神たちは力の強弱というものにひどく敏感で、俺は連中に舐められきっている。
最年長にして最強の式神であり、下手な一族の人間より発言権のあるつるばみに至っては俺のことを子分くらいにしか思っていない。
彼女に気に入られて専属でついてもらっているからこそ、俺もどうにかやっていけているようなところはあるから、文句を言えた筋合いではないのだが。
心の中で舌打ち一つして俺は門を出た。
「倫太郎さんひとりでちゃんと帰ってこられますか?」
「ここはワタシが見守りましょう」
「ツイテクオレツイテク」
「お前ら俺をなんだと思ってんだよ! 近所のコンビニ行くだけだよ! お使いくらいできるよ!」
 後ろからわらわら寄ってくる式神たちに怒鳴りつつ。
【妖怪】人間以外の女の子とのお話30【幽霊】
172 :本編3 ◆DC//ihYmPg [sage]:2014/06/25(水) 05:00:06.96 ID:qyTUtd1K
 ジャーキー食べてもささみ食べても俺のシュークリーム食べてもまだ機嫌が悪いつるばみを宥めすかし、俺は被害者が入院している隣町の病院まで辿り着いた。
まず被害者を治療し、それから施設の御祓いに行く。この手の仕事はその順番でやるのがセオリーだ。
霊的な傷は一般的な傷と違ってつけた者とつけられた者の間に繋がりができる。被害者の霊障からその繋がりを手繰ることで相手の情報を探ることができるのだ。
 病院の自動ドアをくぐると独特の冷えた空気が吹き付けてきた。目に付いた弱い霊をざっと祓い、ロビーを抜けて人気のない一角に移る。そうして、俺は後ろを振り返った。
「なあつるばみ、機嫌直してくれよ」
 屋敷を出てからこの方、つるばみはつんとそっぽを向いている。あなたの声なんか聞きたくありません、と耳も伏せられたままだ。
「ええと……足りなかったか? いちおう、言われたものは両方買ってきたんだけど」
 つーん。今度は背中を向けられた。不機嫌の原因である忌々しい尻尾がゆらゆらと揺れている。
触るんじゃなかった、と後悔しても時は戻らない。そっと肩を叩くと、きっと振り向かれた。
「今人払いの結界張りましたから大きな声出して喋っても大丈夫ですよご主人。それで?」
 それで、と言われても。
「尻尾を触って悪かったです。これからは肩を叩きます」
 とりあえずそう言ってみると、つるばみはちっちっと指を振った。
「それなんですけど。謝り方が問題なんですよ。とりあえずなんか買ってきて食べさせればいいだろうみたいなの、よくないと思うんですよね。
私がそんなんで機嫌直す安い女みたいじゃないですか」
「つるばみが買ってこいと言ったのでは」
「ほらすぐそうやって口答えする! ぜんぜん反省してない証拠です。自分の分のシュークリームまで買ってきてましたし」
 俺の記憶が確かなら、それもつるばみが食べたと思う。ここで火に油を注ぐほど俺は愚かではないので、その一言をそっと胸の中にしまった。
「今度ブラッシングしてやるから」
「あっほんとですか? やった……いや、そうじゃなくて。そうじゃないんです。そういうことじゃないんです」
 つるばみはぱっと顔を輝かせたくせに、すぐにいかめしい表情を作った。
しかしながら後ろで尻尾がぶんぶん振られているので機嫌は相当直ってきているらしい。あと一押しというところか。
「気持ちの問題なんですよね、気持ち。とりあえず物とか与えとけばいいだろ、という臭いがご主人からはぷんぷんします」
「……はい」
「これは忠言なんですよ。ご主人は誠心誠意誰かに謝るということを覚えたほうがいいと思うんです。
その点私ならご主人が失礼なことをしても我慢してあげますから。立派な大人になるために練習しておきましょうね」
 年齢から言ったら俺ももう立派な大人なのだがそれは言うまい。
ここまで来たら気分よく説教させておけば収まるので、俺ははいはいと頷いてそれらしいことを言っておく。
「そうだな。でも、俺はつるばみをないがしろにするつもりはないよ。ちゃんと、謝る。尻尾をいきなり触ってごめんなさい、つるばみ」
「うーん……及第点よりちょっと下ってところですかね。まあいいでしょう」
 つるばみは満足げに頷いた。ようやく終わったらしい。俺がほっとしたところでこの面倒くさいこと極まりない式神は更に面倒くさい発言をした。
【妖怪】人間以外の女の子とのお話30【幽霊】
173 :本編4 ◆DC//ihYmPg [sage]:2014/06/25(水) 05:02:21.42 ID:qyTUtd1K
「ではこれを機会に正しい尻尾の触り方を教えてあげましょう」
「えっいいです」
「よくないです」
 がるるるるる、と唸り声を上げながら凄まれてはどうしようもないので、諦めて従う。
「まず抱きしめます」
「はい」
 俺は自分を抱きしめた。
「……素でやったっぽいので許しますけれども、違いますから。私です。私を抱きしめるんです」
 無茶振りが来た。よく見ればつるばみも頬が少し赤い。恥ずかしいなら言うなと言いたい。
それでも彼女が言い出したら引っ込めない性格なのは重々承知なので、俺はつるばみを抱きしめる。その細い体は俺の腕の中にすっぽり収まってしまった。
くふん、と甘えた声を出しながらつるばみは体を強く押し付けてきた。体の奥をくすぐる甘い匂いと嗅ぎなれた獣臭が混ざり合って俺を混乱させる。
「はい、尻尾を触ってください。届きますよね? やさしくですよ」
 相手は犬……相手は犬……心の中で呪文を唱えながら、俺は手を伸ばす。視界をつるばみの犬耳に塞がれているから手探りで探すしかない。
「あ、やだご主人……そこは腰ですよ、腰」
 相手は犬……相手は犬……
「んっ……ふぅん……ちーがーうー」
 相手はいぬ……相手はいぬ……
「きゃん……そこはお尻です。もお、なんかご主人の触り方、やらしい……」
 あいてはいぬ……あいてはいぬ……


 拷問の時間を終えて、俺はようやく目的の病室に辿り着いた。つるばみは上機嫌で普通の人間に聞こえないのをいいことに鼻歌なんか歌っている。
未だ手に残るやわらかな感触を意識しないよう努めながら俺は持ってきた茶封筒を取り出した。ざらざらした紙の感触がありがたい。
 目的の少年は病室の隅で青白い顔をしてベッドに寝ていた。その左腕を靄のような翳が覆っている。
俺が声をかけると彼はのろのろと身を起こした。簡単に自己紹介を済ませると、少年はすぐに自分に何が起こったかを話してくれた。

 掴まれたのだ、という。
「一ヶ月くらい前の話ですね。自分、バスケやってて……ずっとベンチにも入れなかったんで、まあ、そういうレベルなんですけど。
あそこ……例の体育館で三年最後の試合をやったんですけど、やっぱりメンバーに選ばれなくて。
最初はしっかり応援してたんですけど、俺より後に始めた二年とかが試合してんの見るのがだんだん辛くなってきて……その上、こんな……
あ、すいません。で、なんか、鏡見てたんですよ。壁にあるやつ。特に意識して見てたとか、そんなんじゃなくて、
ほんとに、なんとなくなんですけど……そしたら、変なことに気がついたんですよ。ゼッケンの番号が違うなって。
ウチは番号に変なこだわりある奴多くて、そんでみんな、結構覚えてるんですけど……メンバーが違うんです。鏡に映ってるのと、今プレイしてんのと。
見間違いだと思ったんですけど、でも、鏡ん中でプレイしてんの、俺なんですよ。最初は、なんかもう、夢なのかなって思って。
夢なら夢で、活躍してる俺を見るのもいいかなって思って見てたんですけど……ほんとすごいプレイヤーなんですよ。
こいつならスタメン任せられるなってプレイで。俺もああいうプレイができてたらなって、そう思って見てたら……もう、悔しくて、悔しくて。
俺だってあんなふうにできたら、とかって。ぶっちゃけ、泣いちゃって。そうしたら、休憩入ったときに、俺がこっちを見たんです。
鏡の中の俺が、俺を見て、にやって笑ったんです。そうやって、にやって笑って、自分の左腕を掴んだんです。
そしたら俺の右腕までぐっと掴まれたような感じがして、あっと思ったときには気が遠くなって……このざまです」
【妖怪】人間以外の女の子とのお話30【幽霊】
174 :本編5 ◆DC//ihYmPg [sage]:2014/06/25(水) 05:03:59.74 ID:qyTUtd1K
「しょぼっ」
 少年の話を聞き終わるなり、つるばみはそう言い捨てた。霊的存在である彼女の声も姿も一般人である少年には伝わらない。
返事をするわけにもいかないので頷くと、つるばみも心得たもので分析を話してくれる。
「この感じじゃ妖怪じゃなくて幽霊ですね。かなり陰湿ですけど……一ヶ月くらい経ってるんですよね? 
だいぶん弱ってはいますがまだこの人間が死んでないんだから雑魚ですよ」
「確かに。それくらいあったらたいていは死んでるもんな」
 うっかり返事をした俺の言葉に反応して被害者の彼がびくっと体を震わせた。
「え、え、ど、どういう」
 きょときょとと彼の視線が揺れる。俺は慌てて手を振った。
「あー、違います違います。相手がしょぼいんで死ぬようなことはないね、ってことです」
「あ、そっすか」
 まったく納得していなそうだったが、ひとまず落ち着いてはくれた。が、彼は気味悪そうにつるばみの方を睨んでいる。
「どうしました?」
「あ、いえ……そこに、いるんですよね、なんか……なんとなくいるような気がするってくらいなんですけど……?」
 もともと素質があったのか、悪霊にやられたせいで敏感になっているのか。彼にはつるばみが感知されているらしい。
変に不安がられても面倒なので適当に説明しておくことにする。
「ここにいるのは俺の式神……ええと、使い魔とかって言ってわかりますかね。ゲームとかで出るやつ」
「あんまゲームとかやんないんで。すんません」
「あー、まあ、退魔師の手下みたいなものです」
 手下、と言ったあたりで首元をがしっと掴まれた。そのまま細くて白い腕がきりきりと締め上げてくる。
「手下とは大きく出ましたね、ご主人。確かにご主人は私の主ですけれど。手下。手下ねえ。て、し、た。偉くなりましたねえご主人も」
 息ができない。どんどん白くなる俺の顔に合わせて、少年の顔もどんどん白くなってくる。
「あ、あの、あれですか、なんか、やばくないですか、首絞められてるみたいな」
「げほっ……これはですね、早く彼を助けないといけないワン! なにをぐずぐずしてるんだワン! って怒ってるんです。ははは」
 ふふふ、と耳元でつるばみも笑う。
「そんなこと言ってないワン! もっと身を弁えた発言をするべきだと怒ってるんだワン!」
 退魔師です、と名乗ったときあんなにも輝いていた少年の瞳が不信に曇っていく。まだ信頼があるうちに済ませたほうがよさそうだ。
つるばみにどうにか勘弁してもらい、俺はカバンから術符を取り出した。
「これからまず君の左腕を治して、それから大本を叩きに行きます。いいかな?」
「はい」
 彼の腕に触れると、そこからはひりつくような悪意が感じられた。霊の力ががっちりと絡み付いているのがわかる。
そこに手に持った符を貼り付け、体内を巡る力を集中させる。
「――治」
 一言でいい。符が眩い光を発して消える、少年の腕に憑いていた霊障が弾け飛ぶ。
実感があるのか、俺が本物らしいところを見せたおかげか、少年の瞳に輝きが戻ってきた。
「あ……消えた! 嫌なのが消えました! すげえ!」
「それはよかった。これから俺たちは本体を倒してきますから安静にしていてください。明日また来ます」
「はい!」
 彼に護符をいくつか渡し、しっかり勇気付けて俺たちは病院を出た。
霊を相手にする場合、気の持ちようは案外馬鹿にできない。あの元気があればじきに回復するだろう。
【妖怪】人間以外の女の子とのお話30【幽霊】
175 :本編6 ◆DC//ihYmPg [sage]:2014/06/25(水) 05:05:44.49 ID:qyTUtd1K
 これで任された仕事の半分は終わった。残された施設の御祓いをするには人目のある昼間では都合が悪い。
夜にはまだ少し時間がある。
そんなわけで、俺たちは打ち合わせも兼ねてファミリーレストランに入った。都合のいいことに空いている。
人気のない隅の席を選び、店員に訝しまれながらも二人分の料理とドリンクバーを注文した。
不審のまなざしがざくざくと突き刺さってくるが、以前連れて行かれたプライダルフェアに比べればこれくらいたいしたことはない。
つるばみは霊的存在なので余人の目には見えないし触れることもできない。つまり、他の人には俺が一人で来ているようにしか見えない。
あれは凄かった。本当に凄かった。模擬挙式に至っては今でも夢に見る。本当に凄かった。
 テーブル席なのにわざわざ俺の隣に座ったつるばみを押しのけて、ドリンクバーで彼女の好きなカルピスを取ってくる。
念のために、二つ。予想通りつるばみはコップを二つとも受け取って、くいと一気に飲み干した。
「ご主人って術の腕はさっぱり上達しないのにこういうことはどんどん気が利くようになりますね」
「そうかもな。パシリの倫太郎って呼んでくれ!」
「パシリの倫太郎」
「呼ぶな!」
「ごめんねパシリン」
「略すな!」
 自虐でもしないとやっていられない。俺は弱いのだ。弱いのに、これから悪霊と戦わなければならない。
心に余裕があるうちにつるばみの詳しい見解を聞いておく。
「つるばみ、どうだ? 俺たちだけでやれそうか?」
「ご主人にはちょっと厳しいくらいの相手だと思いますよ。危なくなったらサポートしますから頑張ってくださいね」
 面白くないのが顔に出たらしい。つるばみはにたっと笑って俺の頬をつねった。
「そんな顔しなーい。ご主人は退魔師としてはヘボなんですから強いのとなんか戦わなくていいんです。
これくらいの雑魚が危なくなくて、面倒見る側としても安心ですし」
「……どうせ俺はお前におんぶにだっこだな」
「ええ。ちっちゃい頃はだっこしてくれだっこしてくれってうるさかったですけど、今もあんまり変わってないですねぇ……
してあげましょうか、おんぶとか。だっことか」
「いらない。ともかく御祓いのときは手伝ってくれよ」
「お任せください」
 いつまでも俺を子供扱いしようとするつるばみの手を振り払い、俺は改めて施設の資料を読む。
 件の市立体育館には前々からよくない噂があった。
視界の端を影がよぎる、奇妙な声が聞こえる、気分が悪くなる、といった基本的なものは一通り揃っている。
とはいえ、これまでに目立った事故はないし、過去にその土地が墓地や霊地であったということもない。
性質の悪い幽霊が住み着いたか、しょうもない妖怪の遊び場になったか。霊障の様子からして今回は幽霊らしいが。
つるばみが俺のハンバーグを平然と平らげるのをあきらめの気持ちで見ながら、俺は幽霊に有効な符を頭の中でリストアップしていた。
【妖怪】人間以外の女の子とのお話30【幽霊】
176 :本編7 ◆DC//ihYmPg [sage]:2014/06/25(水) 05:08:10.28 ID:qyTUtd1K
深夜。
 人が寝静まり、人ならざる者たちが目を覚ます時間。
 俺とつるばみは市の体育館に侵入を果たしていた。
警備員と監視カメラはつるばみの術によってそれぞれ無力化されている。俺にはとてもできない芸当だ。
 広い体育館の中は静まり返っている。湿っぽい空気の中に乾いた汗の匂いがした。霊的な者の存在は感じられない。
消えかかっているような雑魚ですら、いない。そのことこそがここに何かがいるということを示している。
少年が腕を掴まれたという鏡はすぐに見つかった。
どういうことに使うのか運動に疎い身ではわからないが、ちょうど観客席から見下ろせる位置にある。
「つるばみ、どうだ?」
「いますね。この臭い、やっぱり幽霊です。こちらに気づいてますよ」
 ふんふんと鼻をうごめかしながらつるばみは断言する。が、それだけだ。
ここまでですよ、と闇の中で紅い唇が閃く。後は自力でやれということか。
覚悟を決めて、俺はひとまず少年と同じことを試すことにした。観客席に続く通路には使ったままと思われる運動器具が転がっている。
踏んで転ばないよう気をつけながら俺は観客席に登った。体育館の真ん中でつるばみが能天気に手と尻尾を振っている。
おざなりに俺も手を振り替えして観客席に座ってみた。ニスを塗られた木の床が照明に煌々と照らされている。
一ヶ月前、その日の彼はこうやって座って、チームメイトたちがコートで駆け回るのを見ていたのだろう。
自分が憧れて、憧れて、ついに立つことを許されなかった場所。言葉の節々に無念が滲んでいた。耐え難い劣等感。
勝てないという事実。あの病室で、彼を苛んでいるそれらの傷。霊障を取り除くことはできても、それらの傷はどうしようもない。
時間に任せるしかないものだ。そしてそれは俺の傷でもある。
 ――来た、という感触もなかった。鏡の中の俺がにやりと笑う。符を使うでもなく、指だけで高度な術を編み上げる。
俗に一流と呼ばれるような人間たちだけに許される技だ。その術で、佳麗な犬の式神を縛りあげ、屈服させる。
才能がなければそんなことはできない。俺がいくら努力したところで届かない。つるばみなら、できるだろう。
耐え難い劣等感。勝てないという事実。この暗闇で、俺を苛んでいるそれらの差。
主従で縛ることはできても、それらの差はどうしようもない。どうしようもないものだ。
そしてそれは――そうじゃない――それは、俺だけの傷だ。
「うおああっ!」
 滅茶苦茶に術を暴発させる。ぎゃっ、という悲鳴と共に黒い靄がボールのように椅子の間を跳ねた。
そのまま暗闇に消えていこうとするそれを追いかける。憑かれかけた左腕に鈍い痛みが残っているが気にしてなどいられない。
「天・元・行・躰・神・変・神・通・力!」
 素早く九字を切り、悪霊に打ち込む。力ある言葉が形となり、矢となり、霊を撃つ! 
黒い靄は形を変えたが、すぐ元に戻った。
「ご主人だめです効いてないです、別のやつを!」
 つるばみの声が飛ぶ。急急如律令の符を取り出し、気を込め、悪霊に打ち込む。法に則り迷いなく飛ぶ符が白い軌道を描く! 
黒い靄は形を変えたが、すぐ元に戻った。
「それ使ってここまで効かないのも逆に凄い」
 つるばみの冷めたコメントを聞かなかったことにし、禹歩に入る。天然自然の理に従った歩法によって気を正しく流し、悪霊を祓う一撃を拳にて打つ! 
黒い靄は形を変えたが、すぐ元に戻った。
「あっこれひょっとしてギャグでやってるんですか?」
 俺は泣いた。
【妖怪】人間以外の女の子とのお話30【幽霊】
177 :本編8 ◆DC//ihYmPg [sage]:2014/06/25(水) 05:09:42.28 ID:qyTUtd1K
 悪霊はつるばみがわんと吠えただけで浄化された。これでもう体育館は安全だろう。そう、安全だ。よかったよかった。
「ご主人……」
 体育館の冷たい床が頬に心地よい。
「ごめんなさい、その、ほら、ちょっと言っちゃったっていうか、ええと、あの……」
 静かだ。いつも騒がしい屋敷にいるせいで、こういった声がないところにいることはほとんどない。
静けさがこんなにも心地よいものだとは知らなかった。
「ごめんなさい、私の見立てが間違ってましたね、相手が強かったんですね。強かったんです。
ご主人もたいがいですが相手が強かったんです。だからほら、元気出して……元気……
嫌でもおんぶして連れ帰ってあげますから……」
 そういえばお腹が空いた。夕飯を食べ損ねたからだ。
「……ご主人」
 そっ、と熱い手が頬に触れた。
「ご主人はがんばりましたよ。ちゃんと悪霊を引っ張り出したじゃないですか。仕事はちゃんとできていますよ。
少なくともあの人間の霊障は治しましたし。上出来です。ね? ご主人はちゃんと退魔師としてやっていけてますよ」
 その熱い手によって、胸の中でかっかと燃え盛っていた自己嫌悪の薪が燃え尽きていく。
残ったのは、達成感とは程遠い白い灰だけだった。起き上がろうとしたがうまくいかない。どうやら気を使いすぎたらしい。
それでも、やさしい声で俺を慰めるつるばみに礼を言うために、視線を動かす。
 つるばみは。俺の式神は。犬の性をその内に秘めた、妖しい女は。

 ……すごく、うれしそうな顔をしていた。
敗北感に打ちのめされ、力を使い果たし、惨めに這い蹲る俺を前にして、本当にうれしそうだった。
近年稀に見るくらいのうれしそうな顔だった。
俺のささやかな罪悪感を跡形もなく吹っ飛ばしてしまうくらいの、めっちゃくちゃにうれしそうな笑顔だった。
その笑顔の理由を考えるのが厭で厭で、厭で。

 俺はもう一度泣いた。


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