- 【初音ミク】VOCALOID総合エロパロ25
209 :元405[sage]:2014/06/17(火) 23:08:36.62 ID:v2Gg/M7o - >>208
ご感想どうもです >>206の続きを投下させていただきます
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210 :元405B(1/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:11:35.47 ID:v2Gg/M7o -
――それからもボクは、夜ごとにトリッカーと契約を交わし、夢の世界を堪能し尽くしていった。 一度堰を切ってしまった欲望はもう留まるところを知らず、ボクがトリッカーに望む夢のシナリオは、日増しにエスカレートしていく 一方だった。恥ずかしさを覚えたのも初めの数日だけのことで、それ以後はむしろ、自分の考案した夢の素晴らしさに誇りさえ覚え、 それをただ一人の聞き手に向かって延々と語り続けている時間もまた、何とも言えず心地よかった。 夢の中で、ボクはもはや王様のような存在と化し、他の連中をかしずかせ、跪かせ、やりたい放題の事をしていった。 時には気に入らない男子同士を選んで、本気の殴り合いを演じさせたり、またある時は、いつも気取っている高飛車な女子を、全裸で 踊らせたり、思いつく限りのありとあらゆる屈辱的な行為を強いてやった。 そしてボクの隣にはいつもリンやルカ先生がいた。彼女たちはボクの言う事をなんでも素直に聞く、下僕のような存在だった。ボクは 気が向くと――といっても、ほぼ毎晩のことだったが――彼女たちの身体で、思う存分に自分の欲求を満たしていた。 けれどそれでも、人間の欲望には際限がないものだということを、ボクは思い知る。 卑猥な言葉を大声でわめかせたり、わざと他の連中がいる前で交じりあい、恥ずかしがる様を眺めたりと、ボクはあらん限りの妄想を 形にして、彼女たちを辱めた。 だけどいずれ、それでもボクの心は満たされなくなって、ついにボクは、何人ものリンを、夢の世界へと呼び出してしまった。 「レン君、スキ」 「大好きだよ、レン君」 「ねえ、レン君、わたしとしようよ」 「いや、わたしの方が先だもん、ね、レン君?」 素肌をさらした無数のリンが、ボクに四方から抱きつきながら、口々に愛の言葉をささやいてくる。 その足元ではこちらも増殖したルカ先生が、よってたかってボクの股間にちゅぱちゅぱと吸い付いている。 (――ボクは、幸せ、だ……) どろんとまどろんだ目つきで、半開きの口から薄笑いをこぼしながら、ボクは、そんな思いをかみしめるのだった。 この真っ赤な楽園の、中心で。
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211 :元405B(2/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:13:14.69 ID:v2Gg/M7o -
その反面、ボクは学校を休むことが多くなっていった。 楽しい夢から覚めた朝、学校に行かなければならない事を思うと、前よりもかえって気が滅入った。もっともっと、夢を見続けて いたかった。 どうして朝は来るんだろう? ボクは何のために学校に行くんだろう? そんな事を考えていると、ボクの気分はますます憂鬱になり、ついにはベッドの中に逃げ戻ると、母さんには仮病を装って、学校を サボってしまうのだ。その頻度も、ボクの夢の中での振る舞いが過激になっていくのと比例するように増えていった。 もう、クラスメイトの悪口も、裏サイトの書き込みも、現実のリンやルカ先生に会うことも、どうでもよかった。頭の中にあるのは ただ、これ以上、このイヤな世界と一秒だって関わっていたくないという思いばかりだった。 (――仕方がないじゃないか) 昼間、ベッドの中で、ボクは誰が聞いているわけでもない言い訳をぼそぼそとつぶやき続ける。 (ボクは悪くない。悪いのはみんなあいつらなんだ。あいつらがボクに優しくしないから、だからボクはあんな夢を見るようになって、 それで……とにかくボクは悪くないんだ。だって、どう考えたって、不当な扱いを受けていたのはボクなんだから。……なんにも 思い通りにならなくて、つらい事であふれていて、イヤな奴ばかりがいる世界と、どんな願いも叶えられる世界なんて、比べるまでも ないじゃないか) そうやって、日の当たる時間をシーツにくるまったまま、日陰で死にかけている虫のようにはいつくばってやり過ごし、ただひたすら、 夜の闇が世界を覆い隠してしまうまで耐え続ける。 そして背中にのしかかってくる、現実の重みに耐え切れず、悲鳴を上げて潰れそうになってしまう寸前―― 「――やあ、見つけたよ。かくれんぼは、もうお終いだね」 ふわり、とシーツをめくって現れる、トリッカーの手を、すがるようにして掴むのだ。
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212 :元405B(3/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:16:16.81 ID:v2Gg/M7o -
「……待ちかねたよ、トリッカー。今日は遅かったじゃないか」 知らぬ間に、とっぷりと暮れた窓の外の空を背負って立つトリッカーに向けて、ボクはへらへらと笑ってみせる。 ろくに外の空気にも当たらず、毎日毎日寝てばかりいるボクの顔はひどく腫れぼったくなってしまい、初めて会った時には同じ顔を していたはずのトリッカーとも、今はもう、別人のような面相になってしまっていた。 そのトリッカーの顔も、今日はなんだか、いつになくうきうきと楽しげな様子だった。 「やあ、悪かったね。なんといっても、今日は大切な日だからね。それなりに準備が必要だったのさ」 「ふうん……まあ、そんな事、どうでもいいや。それより聞いてよ、今日考えた夢もスゴいんだよ。あのね……」 そんな彼の話を聞くのもそこそこに、ボクは口から泡を飛ばしながら、今夜の夢の内容を語り始めた。今日のは自信作なのだ。早く、 この素晴らしい物語を自分自身で体験してみたくて、ボクはうずうずする気持ちを抑えられなかった。 しかし。 「――残念だけど、君の願いを叶えることは、もうできないんだ」 「――え?」 突然の、あまりにも突然の、予想すらしていなかったその言葉に、ボクは面食らって、言葉を失う。 トリッカーは相変わらずニコニコと笑い続けているが、その口調には、ボクをだましてからかっているような様子はひとかけらも なかった。 「どう……して」 「訳が知りたいかい? ごらん、ほら」 トリッカーは、ボクを部屋の窓の前まで手招きする。誘われるがままにボクが窓辺に立つと、トリッカーはすいっ、と人差し指を 窓の外に突き出し、真上を指した。 つられてボクも窓から空を見上げる。 「………」 夜空の真ん中に、ぽっかりと月が浮かんでいた。 満月だ。 白銀色に光る、その天体が、まるでボクらの頭上を押さえつけるようにして、真上から見下ろしていた。 ボクはふと、トリッカーと初めて出会った夜に見た、三日月の事を思い出す。 ――そうか、あれからずいぶんと長い時間が経った気もするけれど、実際には、まだほんの数週間のことだったんだ。
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213 :元405B(4/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:19:22.06 ID:v2Gg/M7o -
でも、とボクはトリッカーに振り返る。 「あの月が、どうかしたの?」 そうだ、ボクはトリッカーに、どうして願いを叶えてくれないのかを質問していたのだ。 トリッカーは思わせぶりに間を置くと、逆に、ボクに向かって質問を返してきた。 「あの月が、あんなに風船みたいにふくらんでしまったのはどうしてだと思う?」 「どうして、って……」 「教えてあげるよ。それはあの中に、君の欲望がつめこまれているからさ」 トリッカーが僕に向けて、ぴっ、と指を差す。 「ボクの……?」 「そうさ。これ以上君が欲望をふくらませつづければ、いつか月はぱちん、とはじけ飛んでしまうだろう。粉々になった月のかけらを 拾い集め、元通りにくっつけ直すのにはなかなか時間がかかるものなんだぜ? だから、僕の役目は、月が満ちるまでと決まって いるのさ」 「何を……何を言ってるのか、わからないよ、トリッカー」 ボクはいらだち、首をぶんぶんと横に振る。いつも通りの、トリッカーの難解な言葉が、今日は特にボクの心をちくちくと刺激する。 しかしトリッカーは、そんなボクにはお構いなしに話を続ける。 「わからなくてもいい。どのみちこぼれ落ちた砂時計を逆さに返すことは、君にはできないんだ。――そして僕は」 そこでトリッカーはいったん言葉を切ると、両手をパン、と合わせてこちらに差し出してきた。 「君から、<お代>を受け取らなくちゃいけないね」 お代、だって? ボクは今まで、そんなものの必要性を一度だって考えもしなかった。 ボクの幸せこそが、自分の幸せだって、トリッカーもずっと言っていたじゃないか。 「お代って……お金が必要だったの? そんなの、一言も……」 「残念ながら、君たちにとっての値打ちがそのまま僕にとっての価値あるものになるとは限らない。僕が頂きたいのはただ一つ」 トリッカーが、ボクの瞳をじっと見据えながら、言った。 「君の――『ユメ』だ」
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214 :元405B(5/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:21:49.33 ID:v2Gg/M7o -
「ボクの夢って……それはキミが与えてくれたものじゃないか」 わけがわからないなりに、ボクは必死で反論する。何しろ、トリッカーが去ってしまうかしまわないかの瀬戸際のようなのだ。 どうしたって、必死にならざるを得ない場面だ。 「君が毎晩繰り返していたあの世界のことなら、それは違う。アレは君の欲望を触媒に、世界に満ちる夢の残滓をまとめあげて 生み出した、言うならば出来の悪い模造品だ。――でも人の持つユメは」 トリッカーの指が、ボクの胸をとん、と突く。 「ここから生まれたユメは、そんなレプリカなんかじゃない。一人ひとり違う形、違う色、違う輝きをした、最高の嗜好品なんだ。 そのユメを頂戴するために、僕はこうして、ときおりこの世界に姿を表しているのさ」 いくぶん興奮した口調で、早口にまくし立てるトリッカーの顔を見て、ボクはぎょっとする。 いつもの優しい、穏やかな笑顔に似ていながら、何かが決定的に違う、不安を感じさせる笑顔が、そこにはあった。 まるで――まるで、そう。 念願の獲物を仕留める瞬間を目前にした、狩人のような。 トリッカーが恍惚としてつぶやく。 「ああ……こうして触れて、目を閉じているだけで感じるよ。君のユメが持つ、鮮やかな輝きを……」 色鮮やかな、ボクの想い。 (――見上げた青空にも負けないほど、水色に澄み切って輝く、感謝の気持ち――) ありがとう。ありがとう。 こんなボクを気にかけてくれて、本当にありがとう。 その、ひそかに抱えた色鮮やかな想いだけが、暗くよどんだボクの心に残っている、最後の光、だった。 それが今、トリッカーの手によって、奪い取られようとしている。
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215 :元405B(6/18[sage]:2014/06/17(火) 23:23:41.11 ID:v2Gg/M7o -
「………」 知らず、ボクはずず、と後ずさりをして、トリッカーからやんわりと身を遠ざけようとしていた。 トリッカーは無言のまま、ボクに向かってまっすぐ一歩を踏み出してくる。 ボクはそのまま、さらに後ろに下がり、そこにある何かをかき抱くように、両手を胸の前でぎゅっと組み合わせた。 ――これを渡しちゃいけない。ボクの頭が、心が、全身が本能的な警告を発していた。 これだけは、絶対にボク自身の手で守り抜かなくちゃいけないものだ。 絶対に。 「何を怖がっているんだい?」 張り付いたような笑顔のまま、トリッカーはどんどんこちらへ迫ってくる。部屋の中は逃げ回るにはあまりにも狭く、ボクはいつの 間にか、ベッドの縁へと追いつめられてしまっていた。 「君には夢さえあれば、他には何もいらないんだろう? それが君の、君自身の望みだったはずだ。忘れたのかい?」 へたり込んでしまったボクの目の前で仁王立ちになったトリッカーが、右手の手袋を左手できゅっ、としごいてはめ直す。 そしてその右手を、ゆっくり、ゆっくりボクの顔に向かって伸ばしてきた。 「……やだ……やだよ……こんなの、イヤだよ……」 その、真っ黒な手の平が迫ってくるのにつれて、ボクの視界はみるみるうちに暗黒に塗りつぶされていく。 ボクの世界から、色が、奪われていく。 「あっはっは。今更悔やんでも、もうすべてが手遅れさ。さあ――」 高らかに笑いながら、トリッカーがその手をボクの顔に完全に覆い被せた。 「モノクロの世界へようこそ!」 瞬間、取り返しがつかないほどの、何かとてつもない喪失感を感じながら、ボクは意識を失った。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
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216 :元405B(7/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:26:21.80 ID:v2Gg/M7o -
――ガタガタと、何かが激しく揺れているような音がする。 「……う……うぅ……」 その音に、自分の体までが揺すぶられているような気持ち悪さを感じながら、ボクはうっすらと目を開けた。 妙に重く感じられる頭をぶるん、と一つ振り、顔を上げる。 だが次の瞬間、そんなボクの茫洋とした意識は、一気に驚愕へと変化した。 「………!?」 ボクが目を覚ました場所は、夢の中の教室だった。ボクが何度となく、自作自演の舞台を繰り広げてきたホームグラウンド。 だが今、その場所は完全に、ボクのものではなくなってしまった事をありありと主張していた。 「……色が……消えてる……!」 そう。部屋の中一面を、烈しく塗りこめていた赤色が、今は鈍い灰色で塗りつぶされてしまっているのだった。 床も壁も、天井も、そして机や椅子も、その何もかもが。 「そんな……一体誰が、こんな事……」 ボクは教室の真ん中で、全身の力が抜けたようにへたり込んでしまった。そんなボクを、灰色の空間は素知らぬ顔で取り囲み、 知らんぷりを続けている。 ガタガタと鳴り続けている窓の方を見れば、カーテンは開かれており、その向こうでは大嵐が吹き荒れていた。ちょうど、今の ボクの心の様子を表すかのように。 天井を振り仰ぎ、四方の壁を落ち着きなく見回して、タイル張りの床の感触を両手で確かめながら、ボクは頭の中でぐるぐると 繰り返す。 (――トリッカーだ) あいつの仕業だ。 夢に落ちる寸前、ボクは、あいつに何かをされた事を覚えている。そのせいで、夢の世界がこんな風になってしまったのだ。 ボクは――あいつに、何をされたんだ?
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217 :元405B(8/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:28:40.17 ID:v2Gg/M7o -
「そう……確かあいつは、奪っていったんだ」 ボクは頭を抱え込み、つい先ほど起きたはずの出来事を思い出そうとしてみる。トリッカーが言っていた言葉を、呼び起こそうとしてみる。 あいつはボクから、何かを奪っていった。ボクの持っていた何かを。 ボクの、大切な大切な―― 「ううっ!」 その先を思い出しそうになった瞬間、みしり、とボクの頭が割れそうに痛む。まぶたの裏に火花が散り、思わずボクは反射的に その場で立ち上がった。 その時だった。 『レン君』 不意に、まったく出し抜けに、ボクの目の前にリンが姿を現した。 「うわっ!」 何の前兆もないその出現に、ボクは大声を上げて飛び退いた。すぐ背後にあった机が倒れ、ガタン! という耳障りな音を立てた。 そんなボクの狼狽にも関わらず、リンはいつもと同じ、にこにことした微笑みを浮かべていた。今夜の彼女は裸ではなく、きちんと 制服を身にまとっている。 だがしかし、そんな彼女の全身からも、やはり、色が抜け落ちているのだった。 「リン……」 白黒写真の中にいるようなリンに向かって、ボクは、おそるおそる近づき、震える手を伸ばす。その手が、ひたりとリンの頬に届いた。 慰めてほしかった。この、正体のわからない不安な気持ちを、和らげてほしかった。優しいキスがしたかった。そんな何よりも切実な 欲望が、ボクの身体を突き動かしていた。 リンの顔が、ボクのすぐ目の前にある。火照った頬の肌色も、目の覚めるような金色の髪も失ってしまっているけれど、それでも やっぱりリンはリンで、整った顔立ちや、柔らかそうな唇は、変わらないままそこにあってくれた。 その唇が、ボクの見ている前で、ゆっくりと開かれていく。 そして。 『……お前、ウザいんだよ。いつも一人でブツブツ言いやがって』 その唇から、口汚く発せられたのは、ボクへの罵倒の言葉だった。
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218 :元405B(9/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:31:11.96 ID:v2Gg/M7o -
「なっ……!?」 突然ぶつけられたその暴言に、ボクは頭をがあん、と殴られたようなショックを受け、その場で固まってしまう。 目の前のリンに、一瞬前となんら違いは見られない。相変わらず、にこやかな表情のまま、彼女はそこに立っている。 と、呆然としているボクへ向けて、リンが再度、言葉を発した。 『……話しかけても目を合わせないくせに、遠くからチラチラこっち見てくるし。正直、キモいんですけど』 今度もまた、クラスメイトの連中が言っていた悪口だ。ボクは何がなんだかわからなくなり、リンから逃げるように、よろよろと 身を引いた。視線をリンの方からそらす事ができなかったせいで、ボクはどん、と、後ろにいた誰かとぶつかってしまう。 ――誰かと? さっきまで、教室にはボク一人しかいなかったはずなのに。 『……頼むからもう、学校に来ないでちょうだい。貴方がいると、皆が迷惑するのよ』 頭上から降り注ぐように聞こえた声に、ボクは耳を疑う。 そんな。そんなまさか。 ボクはばっと視線を上げる。 白黒のルカ先生が、そこにいた。 『……っていうか貴方、なんでまだ生きてるの?』 『……そうだよ、あんたなんか死んじゃえばいいのに』 ルカ先生の手が、ガタガタと震えだしたボクの身体をがっしりと抱きすくめる。どこにも逃がすまいとするように。 そこに、いつか差しのべられた時の温もりは、ほんの少しも残ってはいなかった。
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219 :元405B(10/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:35:36.20 ID:v2Gg/M7o -
『誰も貴方に期待なんかしていないのよ。何もできないくせに文句ばかりは一人前なんだから、本当に』 『いい加減、自分が悪いんだって認めなさいよね。それとも気づいてるのに目をそらしてるだけ? どうしようもないのね』 じりじりと、リンがこちらに迫ってくる。 色のない世界で、ボクはめちゃくちゃに暴れながら、虚空に向かってわめき散らした。 「いやだ! いやだイヤだイヤだイヤダイヤダ! こんなの違う! こんなの、ボクの望みじゃない! 誰か助けて! 助けてよ、 トリッカー! お願いだよ!」 そんなボクの醜態に、あきれ返ってうんざりとした口調でリンとルカ先生が、たたみかけるように罵詈雑言をあびせてくる。 『ああ、もう、本当にやかましいわね。そういう所がみんなから嫌われてる原因だって、どうして気づかないのかしら』 『自分勝手で、無責任で、都合の悪い時だけ他人を頼って、プライドだけは高くて周りの事を見下して。いったい何様のつもりなの かしらね。バッカじゃないの?」 『そのくせ、そういう自分を他人に見透かされてることには気づかないのよね。言っとくけど、あんたが他人をどんな風に思ってるか なんて、あんた以外の全員がとっくにお見通しなのよ。わかってるの?』 二人が言葉を発するたび、ボクの心ががしゃん、ぱりんと音を立てて砕け散っていく。今まで必死に保ち続けてきた、ボクという形が 空しく崩れ落ちていく。 ボクは死んだ。もう何もない。ボクにはもう何も残っていない。 『ああ、貴方って本当に……』 『いい加減にしなさいよね、この……』 そして二人はぴたり、と黙り込むと。 揃って同時に、最後の一言を放った。 『 * * * * * * 』 「うわあああああああああああああっ!!」 その言葉を耳にした瞬間、ボクの長い長い絶叫が尾を引いて、嵐の中を切り裂き、白黒の世界中に轟き渡った。
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220 :元405B(11/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:39:00.14 ID:v2Gg/M7o -
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 「あああ……」 自室のベッドの上で、座り込んだレンがすすり泣くような声を上げている。 まぶたを開けてはいるが、彼の心は、もうここにはない。夢と現実のあわいをさまよい、今もなお、終わらぬ責め苦を受け続けて いるのだった。 少年の瞳は今や完全に輝きを失い、まるでそこだけが夜そのものに食い荒らされたかのように、眼窩にはただ黒い闇だけがざわざわと まとわりついていた。 ――もしも、今この瞬間、この場所を、誰か別の第三者が眺めていたならば。 その誰かは、レンのすぐ側に立つ、得体の知れない存在を観ることが出来ただろう。 生き物なのか、無生物なのかもわからない。形は絶えずうごうごと変化を続け、大きくなったかと思えばまた縮み、決まった形という ものをまったく持たない、何か。 ――「栽培」と「収穫」を終え、もはや不要となった『写し身』としての外観を脱ぎ捨てたそいつの、四方八方に伸ばした触手の 一本には何か、きらり、と輝く物体がからめ捕られている。 あまりにもおぼろで、もろく、儚く、けれど尊い光を放っているそれを、そいつはじゅるるぅ、っと自らの本体の中に引きずり 込み、体内に収めてしまった。あらゆる物体、あらゆる存在を貪欲に飲み込むほど黒々としたそいつによって、もはや、一筋の輝きも そこからは見出せなくなってしまう。 その瞬間、そいつは笑った。 目も鼻も口も持たないそいつだが、興奮したかのように身をぶるると震わせて、体のあちこちを尖らせ、拡げては、そこに開いた 穴からぶぶう、という調子外れの音を立てるその様子は、まさに『笑った』としか形容できないものだった。 それからもう一度、レンの眼前にずるり、と這いずって行くと、じっと観察するように動きを止める。 が、次の瞬間にはもう、何の興味もなくなったというように、ふいとその場を離れると、ざざざざざ、と恐ろしく素早い動きで 窓から外に飛び出し、世界の夜と同化して、その姿を完全に消してしまった。 ――やがて夜空には暗雲がたちこめ、月もまた、その輝きを静かに失っていった。
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221 :元405B(12/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:50:28.25 ID:v2Gg/M7o -
◇◆ ◆◆◇ ◇◇◇◇ ◆◇◇◆◆ ◆ ◇◆◆◆◆◆◇ ◆ 「……あれ……?」 窓越しに、太陽がさんさんと照りつける教室の入り口で、クラスメイトでざわめく教室内を見渡しながら、ボクは誰に問いかけるでも なく、首をかしげた。 どうしてボク、ここにいるんだろう? 今朝は何時に起きて、朝ご飯は何を食べて、どうやってここまで来たんだっけ? ――どうしてボクは、そんな当たり前の事が気になるんだろう? ぽかん、と口を開けたままその場に突っ立っていると、後ろから入ってきた誰かが、「おい、邪魔だよ」と言って、どん、とボクを 突き飛ばした。 「え……ねえねえ、ちょっと、見てよ」 それで、ボクの存在に気づいた女子の一人が、今までしゃべりあっていた友達に、ひそひそと耳打ちする。それを聞いた相手の方も 「嘘、やだぁ」などとつぶやきながら、こちらをチラチラと盗み見ている。 (……何だよ、あいつ転校したんじゃなかったの?) (……え、俺聞いてたとの違う、家庭の事情で働きに出たとか聞いたんだけど……) (もう来ねー事になったらしいとか言ってたの、お前じゃなかったっけ?) (知らねーよ) やがて、そのひそひそ話はクラス全体に広がって、ついには全員が、ボクを遠巻きに眺めながら、こそこそと何かを言い合っていた。 ああ、イヤだなあ。ボクは心の中でため息をつく。きっとまた、何かボクの悪口を言われているに決まってるんだ。 ルカ先生は、まだ来ていないのかな。先生がいてくれればきっと、ちょっと頼りないけど、でも一生懸命なあのしゃべり方で、 みんなに静かにするように言ってくれるのに。 「ヤダ……何かあいつ、ニヤニヤしてるよ。ねえ、キモくない? リン」 教室の窓際の方で、誰かが不味いものを飲み込んだ時のような声で話している。ボクは何の気なしに、そちらを振り向いた。 そこには、友達に同意を求められて、戸惑った様子でいるリンの姿があった。 その顔を見て、ボクは一瞬、ひどくなつかしいような感覚にとらわれる。 おかしいな。ボクは昨日もおとといも、ずっと学校に来ていたんだから、なつかしいなんて気分になるわけがないのに。 ボク、一体どうしちゃったんだろう?
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222 :元405B(13/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:52:41.74 ID:v2Gg/M7o -
「……おい、お前」 いつまでもぼうっとしたままのボクに、クラスの男子の一人が、声をかけてきた。クラスメイトの中でも、特に粗暴なヤツだ。 「やめとけよ」「ほっとけって」とか、周りの生徒が止めるのも聞かず、そいつは突き飛ばされて床に座り込んだままだったボクの 胸ぐらをぐい、と掴み、乱暴に立たせた。 その一連の動作が、つい最近同じようなことがあった、という感覚をボクにもたらす。 あれは、いつの事だったっけ? 「今さら何しに来たんだよ。もうここにお前の席なんてねーんだぞ」 そいつが唸るような低音で凄むのもほとんど無視して、ボクはひたすら、自分の過去を思い出そうとする。けどなぜか、どれだけ 思い出そうとしても、あやふやな記憶はあやふやなままで、ボクの思考の端からするすると逃げ去ってしまう。まるで頭の中に 見えない壁があって、ボクが記憶に手を伸ばそうとしても、阻まれてしまっているみたいだった。 「ちっ、相変わらず、辛気くせーツラしやがって。その顔見てるとムカついてくんだよ」 それに、この教室。 上手くは言えないけど、さっきから、何かが変な気がしていた。変……というより、何かが足りない感じ。 本当なら、当然のようにそうなっているべきものが、正しくない形で存在している……そんな気がする。 「てめえ、聞いてんのかよ!」 ボクがちっとも反応を見せないのに業を煮やしたそいつが、ぶうん、と片手を振りかぶった時も、ボクはまだ、違和感の答えを求めて 教室の中をきょろきょろと観察していた。 白い天井、黒い黒板。 窓の外に広がる青空と、校庭に並ぶ樹木の緑。 ボクの方に向かって並んでいる、何十人もの肌色の顔。 (足りないのは、足りないのは――) その時。 そいつが振り上げた拳の勢いにつられて、ボクの身体が揺すぶられた拍子に、ズボンのポケットの中で何かが、がささ、と揺れたのに 気付いた。 ボクは右手をポケットに突っこんで、それが何なのかを手触りで確かめる。 それがわかった瞬間、ボクの頭は雲が晴れていくように急激に冴え、違和感の正体にたどり着いた。 ああ、そうか。 ここには。 『赤』が、足りないんだ。
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223 :元405B(14/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:55:31.14 ID:v2Gg/M7o -
ボクはポケットから右手を取り出すと、そのまま目の前にいるバカ猿の肩に向けて、ためらいなくまっすぐに伸ばした。 ずん、という重い衝撃があって、教室内の時間が止まる。 「……え」 瞬間、何が起きたのか把握できない様子のそいつが、ゆっくりと自分の肩に向けて視線を落とす。 そして、そこからまっすぐに生えている、鈍色のサバイバルナイフを発見して、長々と悲鳴を上げた。 「ぎっ、ぎゃぁぁぁっ!! いでっ、痛ぇっ! 痛ぇぇぇっ!!」 耳元でわんわん響く鳴き声に辟易して、ボクはナイフを持った右手に力を込め、ぎぎ、ぎっ、とそいつの肩から引き抜く。その動きで 新たに肉が裂け皮膚は破れ、またそいつがうぉぉぉっという雄叫びを上げた。 「イヤぁぁぁっ!! 何アレ!? 何やってんの!?」 「おい、ちょ、ヤベーよアイツ! マジで刺しやがったぞアレ!!」 一転、教室中が阿鼻叫喚のるつぼと化す。泣き声、悲鳴、怒号、それにボクから逃げようとする奴らが机や椅子に足を引っ掛け、 それらがガタン! バタン!と倒れる音で、たちまち狭い教室の中は喧噪に満ちていった。 だけどボクにとってはそんな事はどうでもいい。それよりも、もっともっと大事なモノを、ようやく見つけることが出来たのだから。 「これで……やっと赤くなった」 ボクは口の端を歪め、にいっと笑う。 そいつの肩からどくどくと流れ出し、白地のシャツをじんわりと染めて広がっていく、『赤』。 引き抜いたナイフの先端から、ぽたり、ぽたりと床にしたたる『赤』。 目に突き刺さるほどに鮮烈な、その素晴らしい色に、ボクはうっとりと見入っていた。 「でも……まだ足りないな」 ボクはぽつりとそうつぶやくと、再びナイフを持つ手に力を込める。 そうだ。まだ足りない。 ボクの楽園を、取り戻すために。 ――この教室中を、真っ赤に染めなくちゃ。
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- 【初音ミク】VOCALOID総合エロパロ25
224 :元405B(15/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:57:51.76 ID:v2Gg/M7o - 「てめぇぇっ!!」
と、目の前で肩を押さえてうずくまっていた相手が、低い姿勢のまま、ボクに思い切り体当たりをしてきた。 「うわっ……!」 よける暇もなく、それをまともに食らってしまったボクは教室の壁にどがっ、とぶつかり倒れてしまう。 「ふざけんな!! テメー絶対許さねえからな! 殺す! ブッ殺してやる!!」 怒りで無茶苦茶に興奮し、唾を飛ばして叫ぶそいつが、倒れたボクに馬乗りになり、さらに殴りかかろうとしてくる。 だが、 「おい、やめろって! それ以上やったらそいつ、マジで何してくっかわかんねーぞ!」 「頭おかしくなってんだよ、絶対!」 止めに入った取り巻き連中がそいつを羽交い絞めにして、ボクから遠ざける。そいつはまだ「離せよ!」などと吠えているが、周りが 必死でそれを抑え込んでいる。 いいアシストだ。これでまた、ボクのターンがやって来る。 「いやぁぁっ! こっち来んなって! ふざけんじゃねえぞ!」 「いいから全員出ろ! どこでもいいから逃げろって!」 「何やってんだよ、早く先生呼んで来いよ!!」 「つか警察だろ!? 刺されてんだぞ、誰か電話!」 立ち上がってナイフを構え、つかつかと歩み寄ってくるボクに怯え、クラスメイトは逃げ惑う。 逃げてもムダだ、ここはボクの世界で、お前たちに逃げ場なんか――と思っていたが、意外なことに教室のドアはたやすく開き、 獲物たちは我先にと、巣を追い出された虫けらのようにどたどたとそこに殺到していく。 あれ、おかしいな。いつもとルールが違うじゃないか。今日は趣向が変わっているのかな。 まあ、いいさ。それならそれで、狩場が広がり、長く楽しめそうだ。 ボクは口笛を吹きながら、わざと大げさにびゅんびゅんナイフを振り、まだ教室に残っている奴を追い回した。そいつらが顔面蒼白に なりながら、派手にすっ転んだりするのを眺めるのもまた、面白い。 そいつらも最後には教室からほうほうの体で逃げていき、ボクは結局、最初に刺した男子以外には、誰にもナイフを突き立ては しなかった。 まだまだ、これからだ。お楽しみは、長く続いた方がいいに決まっているんだから。 さあ、そろそろ本腰を入れて、あいつらを追いかけよう……と思った、その矢先。 「………メだよ」 教室から出ていこうとするボクは、背後から誰かに声をかけられた気がして、ん? と振り向いた。クラスの奴等は全員追い出した かと思っていたが、まだ誰か、残っていたのか。 よく目をこらして探すと、教室の一方の壁際、押し寄せられた机と椅子の積みあがった小山の奥に、誰かが体育座りのまま、じっと 隠れていた。ボクは手前にある机を数脚、乱暴にぶん投げて、その誰かを、真正面から見下ろせる位置に立つ。 「こんな……こんな事、しちゃダメだよ、レン、君……」 がちがちと歯を鳴らし、両目いっぱいに涙をためながら訴えてくる、リンがそこにいた。
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- 【初音ミク】VOCALOID総合エロパロ25
225 :元405B(16/18)[sage]:2014/06/17(火) 23:59:52.23 ID:v2Gg/M7o -
「ねえ……どうしちゃったの、レン君……。わたし達のこと、忘れちゃったの……?」 ひっく、ひくっとしゃくり上げ、時々声を裏返らせながらながら、リンが言う。両頬には涙が幾筋も流れた跡が残っていて、手も足も ぶるぶると震えている。 「リン……」 ボクはそっと目を閉じて、リンの言葉を心の中で反芻する。 ――わたし達のこと、忘れちゃったの? その台詞が、ボクの心の中の、いちばん芯にある部分に共鳴し、激しい感情を揺り起こす。 ボクは震えを帯びた声で、リンに答えた、 「……忘れるもんか」 そうだ。 ボクが、リンの事を、忘れたりするはずがない。 「……レン君……!」 にわかにぱあっと明るい顔になり、全身の緊張をほどいたリンの目の前で、ボクはもう一度、ぎゅぅぅっ、と力を込めてナイフを 握りなおした。 それに気づいたリンが、再び「ひっ」と短い悲鳴を上げて後ずさる。 「……忘れられるわけが、ないじゃないか。ボクに、あんな酷い言葉をぶつけておいて」 そう続けるボクの声が、上ずっていることが自分でも理解できた。 激しい絶望と、怒りとで。
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