- SS書きの控え室145号室
661 :名無しさん@ピンキー[sage]:2014/06/15(日) 17:23:01.50 ID:byTMDE3H - >>659
お前の母ちゃん天才なんじゃねえの>近所でガス漏れ
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665 :名無しさん@ピンキー[sage]:2014/06/15(日) 22:31:01.81 ID:byTMDE3H - いろいろ読んでパクr勉強する
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172 :元405(前書き)[sage]:2014/06/15(日) 22:50:36.43 ID:byTMDE3H - 前スレ>>473-478に感想をくださった皆様、ありがとうございます。元405です。
レンリン系SS投下させていただきます。 以下、注意書きになりますのでご一読ください。 ・長さは48レス分です。 投下規制回避のため、間隔を空けての投下とさせて頂きます。 ・このSSは、Nem氏の楽曲「夢食い白黒バク」を基にした二次創作です。 いわゆる「モジュールのキャラ化」要素を含みますので、苦手な方はご注意ください。 また、 若干の暴力描写を含みますので、そちらが苦手な方もご注意ください。
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173 :元405@(1/19)[sage]:2014/06/15(日) 22:51:43.37 ID:byTMDE3H -
――ボクはまた、夢の中に立っていた。 目の前に広がっているのは、見慣れた教室の風景。 規則正しく並んだ机も、校庭に面した大きな窓も、何もかもが昼間の学校とそっくりそのまま。 ただ一つ違うのは、それらが全て、目に突き刺さるような、真っ赤な色をしていることだった。 床も、壁も、天井も、まるでペンキをぶちまけた様に一面がどぎつい赤に染められていた。 その赤い教室の真ん中で、クラスの奴らが僕を取り囲んで立っている。 そいつらの顔も、みんな真っ赤に燃え上がっていた。 『……お前、ウザいんだよ。いつも一人でブツブツ言いやがって』 『……話しかけても目を合わせないくせに、遠くからチラチラこっち見てくるし。正直、キモいんですけど』 『……頼むからもう、学校来ないでくれよ。お前がいると、皆が迷惑すんだよ』 クラスの連中が、口々にボクに暴言を浴びせてくる。それを聞いていることに耐えられなくなって、ボクは耳をふさぎ、その場に しゃがみ込んだ。目をつむると、まぶたの裏に赤い闇が広がる。 それでも、ボクを責め立てる言葉の洪水は止むことは無い。耳に押し付けた手をすりぬけて、ボクの内側へと流れ込んできては、 ボクの心の柔らかい部分を傷つけていく。 『……っていうかお前、なんで生きてんの?』 『……そうだよ、あんたなんか死んじゃえばいいのに』 どうしようもないほどに胸がざわつき、ボクはとうとう、心が張り裂けるほどの大声で、叫び―― 「うわあああっ!!」 ――そうして、自分の部屋のベッドの上で飛び起きた。
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174 :元405@(2/19)[sage]:2014/06/15(日) 22:52:36.25 ID:byTMDE3H -
ひどく蒸し暑い夜だった。 背中にじっとりと貼りつく、パジャマの感触。投げ出した脚にからむようなシーツ。 目が覚めたとたん、そんな不快感と夜の闇がボクを取り囲んでいた。 「はぁっ……はぁ…っ」 息が荒く、寝汗がひどい。一瞬前までボクの全身を覆っていた恐怖の名残がそこに残っている。 「……夢……か……」 ようやく落ち着いたボクは、周りを見回して、そこが間違いなく自分の部屋であることにほっと安心する。 よかった。この場所に、あいつらはいないんだ。 ボクは枕元に手を伸ばし、そこに目覚まし代わりに置いておいたスマートフォンを手に取り、時計を見た。 「午前……3時、か」 口の中でぼそり、とつぶやくと、ボクは身を起こし、ベッドから降りる。2階にある自分の部屋から出て1階に下りると、父さんや 母さんを起こさないよう足音を忍ばせながらトイレへ行って用を足し、ついでに台所で水を一杯飲んだ。 「……ふぅ」 生ぬるい水道水をこくん、と飲み干したボクは一息つき、再び自分の部屋に戻ってベッドに横になった。けれど、寝る前にクーラーを 切ってしまったボクの部屋はむっとするほど暑く、とてもじゃないけれどすぐに眠ることは出来そうになかった。 「参ったなぁ……これじゃ、寝られやしない……」 朝までもう、時間が無いけれど、少しでも寝なくちゃいけない。明日も学校があるんだから。 ――学校。 その言葉が頭に浮かんだ瞬間、ボクの心の中にちくり、と何かが引っかかる。 指先をそわそわさせ、やたらと寝返りをうち、頭は妙にさえ、ますます眠りからは程遠い状態になっていってしまう。 「ああ……くそっ」 そしてボクは、とうとうがばっと身を起こすと、枕元のスマートフォンを握り締めてしまう。 そんな事、するべきじゃないのに。 そんな事をしても、何もいい事がないのはわかりきっているはずなのに。
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175 :元405@(3/19)[sage]:2014/06/15(日) 22:53:23.58 ID:byTMDE3H -
ボクはすっ、すっと馴れた手つきでスマートフォンを操作し、あるサイトへアクセスする。 そこはいわゆる、ボクらの学校の『裏サイト』というやつだ。 おおっぴらには言われていないけれど、学校の生徒ならその存在は誰でも知っていて、毎日誰かしらがある事ない事を書き込んでいた。 ボクは掲示板のページを開き、そこに書き込まれている内容を順に読んでいく。 ――夢の中で、あいつらが言っていたのと同じ言葉を。 『kimt>Lってマジウザい。学校来んなって感じ』 『ぱる>↑同意。アイツ何でいっつも一人でブツブツ言ってんの? 超キショイんだけど』 『雪猫>ぶっちゃけL氏んで欲しいと思う人挙手 ノ』 「……ちくしょう、どいつもこいつも……」 液晶画面にうっすらと映りこむボクの眉間に、険しい皺が寄っていく。 それぞれの発言の前に表示されているのは発言者のハンドルネームだけど、それもみんな、普段の呼び名そのままだったり、自分の 名前から文字を取ったりしているせいで、ボクにはどの発言者が誰のことだか、大体は予想がついてしまう。 そして、『L』。 どの発言者からも、口々に陰湿な陰口を言われている、彼。 これが、ボク――鏡音レンの事であることも。
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176 :元405@(4/19)[sage]:2014/06/15(日) 22:54:37.87 ID:byTMDE3H -
「……どいつもこいつも、群れなきゃ何もできないバカばっかりのくせに」 ボクはイライラと頭をかきむしる。 そうだ、所詮こいつらは、絶えず周りを気にしてキョロキョロして、他人の作った空気に乗っかることしか出来ない、何も考えてない バカの集まりだ。 ボクは違う。誰かの決めたルールや雰囲気になんて決して流されることのないボクだけが、世の中の本当のことを分かっているのだ。 それなのにこの、口だけは達者な連中は、よってたかってボクに妬みの言葉を浴びせかけてくる。 思い知らせてやりたい。 ボクとお前らとの間に、どれだけの差があるのかを。 「……見てろよ、あんなバカ達なんか、ボクの言葉でどうとでも…… 真っ暗な部屋の中で、ボクは一心不乱にカチカチとスマートフォンを操り、作成したメッセージを送信した。 『ストレンジダーク>Lってそんなに悪い奴かな? 意外にいい奴だし、マジメに勉強してると思うけど……』 ストレンジダーク。これがボクの、もう一つの名前。 他の連中とは違う個性を持ち、それでいて誰も計り知ることの出来ない、真っ暗な闇だ。 それなのに、掲示板の向こうにいる連中は、そんなボクの事を一向に認めようとしない。 『さっく@テス勉>↑は??』 『shine>何こいつ→ストレン 意味不明なんですけど』 『バルス>ウケるww必死かよwww』 「……くそっ!」 怒りが頂点に達したボクは、スマートフォンをぼすっと投げ捨て立ち上がる。苛立ちを押さえられないまま部屋の中をぐるぐると 歩き回り、窓を開けて夜空を見上げた。月はもうすぐ西の空に沈み、あと数時間もすれば、あのいまいましい太陽が昇ってくることだろう。 ――このまま、永遠にこの夜が明けなければいいのに。そう思った。
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177 :元405@(5/19)[sage]:2014/06/15(日) 22:55:22.12 ID:byTMDE3H -
その時だ。 「……ん?」 ふと、視界にちらり、と見えた何かが気になったボクは、そちらへ視線を向けた。 その先にあるのは、夜空に浮かぶ下弦の月。冷たい輝きを放ちながら、明け方の空に今にも沈んでしまいそうなそれは、きれいな 下向きのアーチを描いている。 そのアーチの内側、半円に囲まれた中心に『何か』の影があった。 「何だろう…あれ」 そこには確かに何かがあって、しかも、ほんのわずかに動いているらしいことが、なぜかボクにはわかった。真っ暗な夜空を背後に 背負っているにもかかわらず、だ。 じっと見つめていると、その影は、だんだん大きくなっているような気がした。 まるで、そこに『誰か』がいて、ゆっくりとこちらへ近づいてきているかのように。 「……って、いくら何でもそんなバカな」 そんなくだらない想像を打ち消すためにボクは笑い、2、3度パチパチとまばたきをする。 そして、最後にまぶたを開いた、その瞬間。 「――やあ、こんばんは」 何のまえぶれもなく、『そいつ』は、突然ボクのすぐ目の前に現れた。
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178 :元405@(6/19)[sage]:2014/06/15(日) 22:56:13.81 ID:byTMDE3H -
「うわあっ!?」 驚いたボクは悲鳴を上げ、思わずその場でしりもちをついてしまった。 そんな慌てふためくボクの様子を見て、そいつは面白そうに笑っていた。 「あっはっは、いや、悪かったね。驚かせるつもりはなかったんだ」 くい、と頭上のシルクハットを持ち上げてそう言うと、そいつは開け放したままの窓からボクの部屋へと入ってきて、窓枠に足を 組んで腰かけた。真っ黒なズボンと、それに合わせた上半身の真っ黒なタキシードは、月の光を浴びても全く輝くことなく、ただ黒々と そのシルエットを浮き立たせている。 「き、キミは……誰?」 いまだに事態を飲み込めないまま、ボクは目の前の闖入者に尋ねた。そいつは胸に手を当てて、こう答えた。 「僕かい? 僕は誰でもない存在さ。と同時に、世界中の誰でもある。例えば君自身でもあるし、あるいは他の誰かでも」 「……?」 何が言いたいのかさっぱりわからない。 戸惑うボクにかまわず、相手は言葉を続けた。 「ああ、それとも、僕のこの見た目が気になるのかな? そりゃあ、僕はヒトの心の写し身だからね。見る者によって、その見え方は さまざまだ」 そう言われて、ボクは改めてハッと気付いた。 目の前にいるそいつの姿は、ボクにそっくり、うり二つだったのだ。 身につけている服こそ違うけど、体つきや顔はまるで鏡を見ているかのようだったし、その口から発せられる声も、聞き馴染んだ ボクの声そのものだった。 ――夜空に突然現れて、平気な顔で空中を歩いてきたかと思えば、ボクにそっくりそのままの姿をしている。 きっとこいつは、人間じゃないんだ。 ボクは直感的にそう思った。
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179 :元405@(7/19)[sage]:2014/06/15(日) 22:57:21.97 ID:byTMDE3H -
「……まあ、僕のことなんてどうでもいい。それよりも、もっと重要なことは他にある」 そいつはぴっ、と人差し指を立て、ボクをまっすぐに指差した。 「君、何か悩んでいるんじゃないかい?」 「ぼ、ボクが?」 話の流れが突然自分へ向いてきたので、ボクは少しうろたえた。 「そうさ。イヤなこと、困っていること、何かあるんじゃないのかな?」 「きゅ、急にそんなこと言われても……」 何も思いつかない、と言おうとした時、きょろきょろと落ち着かずさまよわせていた視線の先に、ベッドの上に投げ出されたままの スマートフォンがある事に気付いた。 「……!」 その途端、ボクの頭の中に、先ほどまでのささくれ立つような激情が急激によみがえってくる。 ――誰もボクのことをわかろうとしない。皆がみんな、ボクをのけもの扱いして、笑いあっている。 だけど、そんな事を初対面のこいつに言ったって仕方がない。そう思ったボクは、言葉を濁した。 「……別に、何もないよ。悩みなんて」 「そうかい? だけどおかしいな、僕を見つける事ができるのは、心に重く、暗いものを抱えた人だけのはずなんだけど……」 また、わけのわからない事をブツブツと言いつつ、そいつは首をかしげる。 しばらくの間そうしていたが、やがてぽん、と手を叩くと、にっこりと微笑んだ。 「それじゃ、聞き方を変えてみようか。君の叶えたい願いは何?」 「願い……ごと?」 「そう、望み、希望、何でもいい。何かひとつくらい、欲しいものや、『こうなればいいのに』なんて願い、持っているだろう? それを僕が、叶えてあげようじゃないか」 「そんな事、キミに……ええと」 何か質問しようとして、ボクはまだ、相手の名前を知らない事に気がついた。 「名前か。……でも困ったな。ヒトは僕を、いろいろな名前で呼ぶからねえ。眠りの神ヒュプノス、夢魔インキュバス、無貌の神、 ニャル……何とか。そうそう、夢を食べる幻獣、バクなんて呼ばれてた事もあったっけな」 楽しげな口調で、そいつは過去をなつかしむように語り続ける。 「……まあ、そんなわけで、僕にとって名前なんてものはあまり意味を為さない。君の好きなように呼んでくれて構わないよ。 ……どうしてもと言うなら、そうだな」 そこで言葉を切ると、そいつは改めて自分の姿をまじまじと見まわした。きっと、今の自分の姿に似合う名前を考えているのだろう。 やがて顔を上げたそいつは薄笑いを浮かべながら、その容姿にもっともふさわしい名前を、ボクに告げた。 「――<トリッカー>とでも、呼んでくれればいい」
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180 :元405@(8/19)[sage]:2014/06/15(日) 23:09:01.56 ID:byTMDE3H -
「それで……ええと、トリッカー」 気取った名前だな、なんてことを頭の片隅でちら、と思いながら、ボクは再び話しかけた。 「なんだい、少年?」 「ボクの願いごとを叶えてくれるって、本当?」 「もちろんさ。それこそが、僕が、この世界に存在する唯一の目的であり、存在意義だからね」 胸に手を当て、トリッカーは誇らしげに言う。その様子を見て、ボクはじっと黙り、考え込んだ。 (ボクの、望み――) 心の中を、いろいろな思いが駆け巡っていく。その度ごとに頭に浮かぶ『望み』は膨れ上がり、また萎んでいき、さまざまに形を 変えていく。 「――夢、を」 そうしている内、ボクは自分でも気付かないうちに、ぽつり、と言葉を発していた。 「夢? 夢が、どうかしたかい?」 部屋の床に、吐き捨てるように放たれたその言葉を、そっとすくい上げるかのようにトリッカーが優しく聞き返してくる。 ボクはうつむき、膝を抱え込んだままの姿勢で、ぽつぽつと言葉をつむいでいった。 「幸せな夢を、見たい。……毎晩毎晩、ベッドに入ると、夢の中にまであいつらが出てくる。あいつらは昼間とおんなじように、 ボクを指差して、笑うんだ。『気持ちが悪い』『お前なんか嫌いだ』って。……せめて、夢の中で――ボク一人の世界でくらい、 安らいでいたいのに、ボクにはそれすら出来ないなんて……!」 語り続けるボクの声がつっかえつっかえになり、だんだんと震えを帯び始めた頃、ボクの瞳から、一粒の涙がこぼれ出した。 ――今までボクは、何があっても、誰に対しても、決して自分の本心を見せることなんてしてこなかった。 弱みを見せれば、つけ込まれるだけ。そう考えていたから。 こんな風に、誰かに向けて、自分の弱音をぶちまけるなんて、初めての体験だった。
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181 :元405@(9/19)[sage]:2014/06/15(日) 23:18:23.03 ID:byTMDE3H -
「――なるほど。それが君の願いか」 ボクの話を黙って聞いていてくれたトリッカーは深くうなずくと、ふわり、と窓枠から降り、音もなく床に着地した。 そして、ボクの前にひざまずくと、そっとボクの涙をぬぐってくれて、微笑んだ。 「よし、わかった。その願い、僕が叶えてあげようじゃないか」 「えっ……?」 ボクはぱっ、と顔を上げた。すぐ目の前にある、トリッカーの顔と視線がぶつかる。 「本当に?」 「本当さ。僕が君に、魔法をかけてあげよう。そうすれば君は今夜から、悪夢なんていっさい見なくなるよ。それどころか、夢の 中身はもっともっと素晴らしいものに変わっているはずだ」 トリッカーの声はあくまでも親しみのこもったもので、ウソをついているようには思えなかった。 「ほら、約束だ。指切りしよう」 そう言って、トリッカーはすっ、と、黒い手袋をはめたままの、左手の小指を差し出した。思わず、つられるようにボクも右手を 差し出す。 二人の小指がきゅっ、と結ばれる。トリッカーの指は、直接触れているはずなのに、まるでそこにないような、つかみどころのない 不思議な感触がした。 「これで、約束は成立。さあ、そうと決まったら今夜はもうお休み。すでに君の心と体には、魔法がかかっているからね」 トリッカーはすっと立ち上がり、ボクにそう促す。 「うん……」 言われるまでもなく、さっきまでの興奮がウソのように、ボクの全身は急な眠気に誘われていた。 ふわぁ、と一つ、大きなあくびをしてから、のろのろとベッドにはい上がる。身を横たえるとたちまち意識が薄れ出し、とろとろと 心地いい脱力感が体中に広がっていく。 「――それじゃあ、いい夢を――」 トリッカーの優しい言葉を最後に、ボクは眠りの世界へと落ち込んでいった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
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182 :元405@(10/19)[sage]:2014/06/15(日) 23:28:57.88 ID:byTMDE3H -
「……う……ん…?」 やがてボクは意識を取り戻し、うっすらと目を開ける。 そして、周囲の光景を見回すと、少しうつむいて苦笑いを浮かべた。 (何だ…やっぱり、何も変わっていないじゃないか) ――そこに広がっていたのは、目覚める前と同じ、真っ赤な教室のままだった。 閉じたドア、締め切られたカーテン、ボクから距離をおいて、輪になって立っているクラスメイト。何もかもが変わらないまま、 そこにあった。 (やっぱり……ボクはここから逃げることはできないんだ) そんなに都合のいい話が、あるわけはないんだ。 ボクはゆっくりと目をつむる。もう、何も見たくない。こうしてただ、本当の朝が来るまで耐えていよう―― しかし。 (………?) 視界がまぶたに閉ざされる寸前、ボクはふと、一抹の違和感を覚え、ふたたび目を開いた。そうして、クラスメイトの顔を、 おそるおそる端からゆっくりと眺めてみる。 そこに浮かんでいるのは、いつもの蔑むような表情でもなく、冷たく見下すような視線でもない。 恐怖と、怯えに満ちた顔だった。 (何だ……? こいつら……何を怖がってるんだろう?) そのうち、そいつらの視線が、ボクの顔ではなく、その下、下げた右手の先に向かってるらしい事に気付いて、ボクもすっと 視線を下に向ける。 (!……そういう、事か) そこにあった、恐怖の源泉。 それは、ボクの右手にしっかりと握られていた、冷たく光る、一振りのナイフだった。
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183 :元405@(11/19)[sage]:2014/06/15(日) 23:29:30.72 ID:byTMDE3H -
そんなものを、いつの間に手にしていたのか、ボクには覚えがない。 ただそれは、今こうして目にするまで持っている事にも気付かないほど、ボクの手の平によく馴染んでいた。ずっと前から、体の 一部ででもあったかのように。 ボクは何の気なしに、それをすいっと目の前まで振り上げ、観察しようとした。 その瞬間。 「ひいい……っ!」 周りの連中が、少し大げさなくらいにざわざわと悲鳴を上げ、がたたっ、と後ずさった。 その様子に、ボクの心の奥深くで、何かがどくん、とざわめく。 (……ボクを……怖がってる……?) ――いつもいつも、教室の端で、誰からも声をかけられず、空気のように扱われていたボクが。 ネット上ですら誰にも省みられる事なく、夢の中でさえゴミのように詰られていた、このボクが。 今は、こいつらを震え上がらせる存在になっている。 「……ふふ……」 ボクは薄笑いを浮かべると、ナイフを構え、つかつかと歩み出る。一番近くにいた男子を目掛けて。 そいつの顔がみるみるうちに青ざめていくのを見て、ボクの気分はますます高揚する。 それが最高潮に達したところで、ボクは思い切りナイフを振りかざし、そいつの肩口に向けて突き刺した。
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184 :元405@(12/19)[sage]:2014/06/15(日) 23:30:03.33 ID:byTMDE3H -
「うわああっ!」 そいつの悲鳴が響くとともに、刃物が皮膚と肉を貫通し、ぎぎぃっ、と骨に突き刺さる鈍い感触が、指先に伝わってくる。 そして傷口からは、盛大に血が噴き出してボクの顔へ――とはならなかった。 「………?」 確かに突き刺したはずのナイフからはしかし、何の手ごたえも感じられなかった。まるで、ふわふわの綿がつまった、ぬいぐるみを 刺しているかのようだ。 傷口からも、真っ赤な血は流れ出ず、そのかわり、ぷしゅぅぅぅ、という間抜けな音を立てて空気が漏れ出てきたかと思うと、その 男子の体はふにゃふにゃとしぼんでいき、最後にはしぼんだゴム風船のようになって、教室の床にくしゃり、とへたりこんでしまった。 なんとも、あっけない。それでも、ボクの心には、そいつに逆襲してやったという確かな爽快感があった。 「さてと……」 ボクは右手でナイフを弄びながら、くるり、と他のクラスメイトの方へ振り向いた。 「きゃああっ!」 その途端、教室中を狂ったように逃げ惑い始めたそいつらを、ボクは片っ端からナイフで切りつけてやった。 連中は必死で教室から外に出ようとしたが、カーテンは鉄の門のようにぴったりと閉じ、教室の前後にあるドアもまた、どれだけ力を 込めてガタガタと引き開けようとしても微動だにしない。逃げ場のない、狭い教室の中で互いにぶつかり合いながらわめき散らすそいつらの 様子は、おかしくて仕方なかった。 当然だ。ここはボクの夢の世界なのだから。誰も逃がしたりするもんか。 「あはははは!」 笑いながらボクはナイフを振り回し続ける。その切っ先がかすめたのが腕だろうと足だろうと、たとえ洋服の上からでさえ、切りつけ られたクラスメイトはぷしゅぅ、ぷしゅぅ、とみすぼらしいゴム風船に変わってゆく。 (……そうだ。お前らなんか、ぎゃあぎゃあ騒ぐことしか出来ない、中身がからっぽの存在じゃないか) 足元にへたっている、クラスメイトであったモノ達を無造作にぐしゃりと踏みつけ、ボクは勝ち誇る。 ボクは違う。ボクはこいつらとは違う。ボクの方が、お前らなんかよりよっぽど、『上』なんだ。 (――思い知ったか) 真っ赤な教室で、ボクはだれかれ構わずナイフを突き立てる。 廊下でボクの足を引っ掛けた男子を、ボクのことを集団で無視しつづけた女子を、ボクをバカにする誰もかれもを。 まるでゲームの敵キャラを蹴散らしているかのような、興奮した気分で。 ひたすら笑い声を上げながら、切り裂き続けた。 ――やがて夢から覚める、その瞬間まで。
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185 :元405@(13/19)[sage]:2014/06/15(日) 23:35:36.49 ID:byTMDE3H -
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 『きゃむ蔵>あ、今日もLキタ。マジうぜぇ』 『鰹節>窓際で空見てますなう。何か見えますかー?(笑』 そして、翌日。 学校の昼休み、ボクは裏サイトの書き込みを、ぼんやりと流し読みしていた。相変わらずそこに書かれているのは、匿名の壁に身を 隠した、無責任な連中の落書きばかりだ。 ボクはふと、スマートフォンの画面に合わせていた視線の焦点を、その背景――クラスメイトの会話でざわめく教室内に向ける。 ――だからさぁ、ホントに見たんだって。 ――マジでー? じゃあ今日帰りに寄ってこーよ。 ――それどこで買ったの? ウチも欲しいなー。 くだらない会話で盛り上がり、笑い合っているこいつらの中には、確実にあの書き込みをした奴が混じっている。 そしらぬ顔で、何食わぬ顔をして。自分は他人を傷つけたことなどないというフリをして。 ボクはその事が、憎らしくてたまらなかった、 今にも椅子を蹴立てて立ち上がり、そいつら一人一人の顔を殴りつけてやりたくなる衝動に駆られる事もしょっちゅうだった。 でも、それは昨日までのボクの話だ。 こいつらはどうせ、中身がからっぽのゴム人形なのだ。ボクがその気になれば、いつでもパチン、と弾けさせてしまえる。 あの夢の中で、そうしてやったように。 (……お前らなんか、本当は、ボクの足元にも及ばないんだ) そう考えるだけで、自然に笑いがこみ上げてくるのを抑えきれなくなっていた。
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186 :元405@(14/19)[sage]:2014/06/15(日) 23:36:38.98 ID:byTMDE3H -
「……おい、何笑ってんだよ?」 その時。 偶然目が合った男子が、ボクの笑いに気がつき、ぴくりと眉根を寄せて立ち上がった。クラスの中でも体格がよく、喧嘩っ早い タイプ……早く言えば、バカの筆頭みたいな奴だ。 ボクはぱっと目を伏せたが、すでに遅く、そいつの取り巻き連中もがたがたと立ち上がって、窓際の席に座っているボクを取り囲む ように迫ってくる。 「今よ、俺の方見て笑ったよな? あ? 何で笑ったのか、説明してみろよ」 どん、と座ったままのボクの肩を小突きながらそいつが詰め寄る。それでもボクはひたすら黙ったまま、じっとしていた。 いつもの事だ。こうしていれば、飽きっぽいこいつらはすぐに興味を失って、いなくなってしまう。バカにはバカの対処法が あるのだ。 けれど。 (……ひ、ひぃぃっ!) ボクの頭の中に、昨夜の夢の光景がフラッシュバックする。 目の前に立ちはだかっているこいつも、夢の中の登場人物の一人だった。こいつは間抜けにも、足をもつれさせてボクの方へと 倒れこみ、勝手にナイフが腹に刺さって自滅したのだ。 その時の、みっともない表情が、ボクの伏せたまぶたの裏に浮かび上がってきた瞬間。 「………くくっ」 ボクは再び、口の端を歪めて、押し殺すような声で笑っていた。
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187 :元405@(15/19)[sage]:2014/06/15(日) 23:37:50.58 ID:byTMDE3H -
「――ナメてんのか? てめえ」 その顔が、相手からどんな風に見えたのかはボクにはわからない。 そいつはたちまち顔を真っ赤にして怒りだし、ボクの胸ぐらをぐい、と乱暴につかむと、無理やり立ち上がらせた。 殴られる――そう感じたボクが、とっさに手で顔をかばった、その時。 「やめなさいよっ!」 空気を切り裂くような鋭い言葉が飛んできて、ぴたり、とそいつの動きが止まった。 おそるおそる開いたボクの目に、気の強そうな顔でこちらを睨んでいる、一人の女子生徒の姿が映る。 クラスメイトの一人、リンだった。 「……ちっ、またお前かよ。いつもいつも出しゃばって来やがって」 舌打ちと共に、ボクの体をその場に投げ捨てるように突き放すと、そいつは背中を見せて教室を後にした。他の連中も、こっちの 様子をちらちら伺ったりしつつも、ぞろぞろとその後にくっついていった。 「……大丈夫だった? レンくん」 ほっと一つ、ため息をついたリンが、気づかうような笑顔でボクを見る。ボクは無愛想な表情のまま、なんでもないというように 手の平をひらひら振ってみせ、リンから視線をそらしたままでいた。 「よかった……もしまた、あの子たちが何かしてきたら、いつでも呼んでね。絶対、助けてあげるから」 そう言ってにっこりと微笑むと、リンはボクたちのもめ事で中断されていた、友達とのおしゃべりの輪の中へと戻っていった。 ――ちょっとぉ、リン。何であんなネクラのことかまうわけ? ほっときなってば。 ――そんなの、出来ないよ。もしあのまま殴られてたら、レンくん、ケガしてたかもしれないじゃん。 ――ホントお人よしだねぇ、リンって。 ひそひそと、いくらか小声になっているおしゃべりの内容が、途切れ途切れにボクのところまで聞こえてきても、ボクはただ、 自分の席で外を眺めたまま、興味のないふりを続けていた。
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188 :元405@(16/19)[sage]:2014/06/15(日) 23:38:34.32 ID:byTMDE3H -
――彼女の名前はリン。ボクと同じクラスの女子生徒だ。 ショートの金髪、それを留めている前髪のヘアピンが特徴的な、クラスの中心的女子。勉強もよくできる上にスポーツも万能、 おまけに誰にでも優しく接する裏表の無い性格で、男女問わず、クラスメイトのほとんどから好意を持たれていた。 ボクのようなクラスのはぐれ者にも声をかけてくれ、困っている時には助けてくれる彼女は、ボクにとっても特別な存在だった。 (……そう言えば、きのうの夢の中に、リンはいなかったな) 空を眺めながら、夢のことを思い出していたボクはふと、そのことに気づいた。 あの夢の情景は、まるで本当にあったことのようにボクの頭の中に焼きついていて、今でもはっきりと思い出すことができた。 だけど、その映像を初めから終わりまで何度リピートしてみても、リンの姿はどこにも現れなかったのだ。 考えてみれば、当たり前のことだ。 あの夢に『出演』した連中はともかく、リンに対して果たしたい恨みなど、ボクにはあるはずがないのだから。 ひねくれ者の悲しさで、言葉に出す事はできないけれど、ボクは彼女に対して心の中でいつも感謝している。 ――ありがとう。ありがとう。 こんなボクを気にかけてくれて、本当にありがとう。 見上げた青空にも負けないほど、水色に澄み切って輝く、感謝の気持ち。 その、ひそかに抱えた色鮮やかな想いだけが、暗くよどんだボクの心に残っている、最後の光だった。
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- 【初音ミク】VOCALOID総合エロパロ25
189 :元405@(17/19)[sage]:2014/06/15(日) 23:39:38.73 ID:byTMDE3H -
「……レン君、ちょっといいかしら?」 放課後、HRが終わり、さっさと帰ろうと荷物をまとめ、教室を出たところでボクは誰かに呼び止められた。 振り返ると、そこにいたのは担任のルカ先生だ。 「……何ですか? ボク、早く帰りたいんですけど」 「あ、ごめんなさい……ええと、最近、元気がないみたいだけれど、何か、悩みがあるんじゃないかなって……」 大学を出たばかりの新米教師である先生は、ボクのつっけんどんな回答に少し戸惑いながらも、その長身をボクに向かってかがめ、 メガネの向こうから気遣わしげな視線を送ってくる。せいいっぱいの、親しげな態度を示そうとして。 そんなボクとルカ先生の様子を教室の中から観察しながら、クラスメイトの連中がひそひそと笑い合っている。 はあ、とひとつため息をつくと、ボクは 「別にありません。それじゃ」 と言い捨てて、さっさとその場を離れた。後ろから、ルカ先生のとりすがるような声が追いかけてくる。 「あ、あの、レン君! 困ったことがあったら、遠慮なく相談してちょうだいね。先生、いつでも待ってるから!」 その大きな声はきっと、廊下だけでなく、教室の中にまでしっかりと響き渡っていることだろう。それを聞いたクラスの奴らは、 またニヤニヤと笑っているに違いない。 (――まったく、ルカ先生はいつもああなんだから) ボクはもう一つため息をつきながらも、ほんの少しだけ、口元に笑いを浮かべながら校舎を出た。 ……多感な男子中学生が、きれいな女の先生と個人的に仲良さげにしているということが、どれだけ他の生徒のからかいの対象に なるか。そんな事も考えずに、ただひたむきに、心配してくれる一心でボクに優しく接してくれる、ルカ先生。 でも、ボクはそんな先生の事が嫌いなわけじゃなかった。 リンと、ルカ先生。 ボクにとって、この二人の存在だけが、学校というくだらない箱庭へ通う理由の全てだったのだ。
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190 :元405@(18/19)[sage]:2014/06/15(日) 23:40:44.91 ID:byTMDE3H -
――そして、その日の夜のこと。 入浴をすませて、自分の部屋へと上がってきたボクは窓を開け、月明かりを部屋へと迎え入れた。火照った肌をなでる、冷えた夜風が 心地よかった。 「……ふぅ」 ベッドに寝転んだボクは、スマートフォンを手に取って、裏サイトをチェックする。相変わらず、ロクな書き込みがないことは わかりきっているけれど、それでも見ずにはいられない。 だけど。 その、益体もない文章を読んでいるボクの気持ちは、昨日までよりもほんの少し、落ち着いていた。 自分でも、不思議なくらいに。 「……これって、もしかして」 ボクはふと、ひとり言をつぶやく。 「昨日の夢の、おかげなのかな」 その瞬間。 「その通り。君の夢が、君の傷ついた心を癒したのさ」 不意に、窓際から声が聞こえてきて、ボクはぱっと身を起こす。 そこには、一瞬前までは存在しなかったはずのトリッカーが現れていて、優しい笑顔をボクに向けていた。 「今夜も……来てくれたんだ」 「もちろんさ。君の望みが叶うのを見届けるまで、しばらくお邪魔させてもらうよ。……昨夜の贈り物は、お気に召してもらえた ようで何よりだ」 昨日と同じままの恰好で現れたトリッカーは、そう言って深々と頭を下げた。 「ありがとう、最高に楽しい夢だったよ。あんな風にやりたい放題のことができる夢なんて、初めてだ」 「それが本来の夢の役割なんだよ。……現実では発散させられない欲望を、思いのままに表現できるフィールド。それが夢なんだ。 ただ、それはあまりにも大きな力を持っているせいで、ヒトが自由に制御することは極めて難しい。僕がやっているのは、それを ほんの少しだけ、手伝っているに過ぎないんだよ」 「ふうん……?」 説明していることの中身は難しくてよくわからなかったけれど、とにかく、トリッカーはボクの心を救う手助けをしてくれた、という ことだ。それだけがわかれば十分だ。
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191 :元405@(19/19)[sage]:2014/06/15(日) 23:41:27.69 ID:byTMDE3H -
「――それで? 今夜も、昨日の夢の続きを見るのかい?」 トリッカーがそう尋ねながら、ボクを見つめている。 本当に、自分にそっくりのその顔をまじまじと眺めながら、ボクはこくり、と頷いた。 「うん。……まだまだ、あいつらにやられた事への仕返しはすんでないからね」 そうだ、あんなものじゃまだ足りない。もっともっと、ボクの力を見せつけてやらなくちゃ。 ボクの心に、暗い色をした炎がぽっ、と灯る。 それに、どうせこれは夢なんだ。本当に誰かを殺したりするわけじゃない。それなら、好き勝手やった方がいいに決まっている。 「わかった。それじゃあ、今夜も君と契約しよう」 そう言ってトリッカーが差し出した小指を、ボクは迷いなく受け入れる。 全てが思い通りになる、夢の世界へのパスポートを―― ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 暗闇の中に、徐々に、徐々に光が満ちていく。 赤い照明に照らし出されたステージが、壁と、床と、天井の書き割りに覆われ、机や椅子などの舞台装置が現れる。 そろいの制服に身を包んだ役者たちは所定の立ち位置に並び、自分たちに与えられた役柄を何も知らないまま、不安げにあたりを 見回している。 そしてボクは、手元に携えた小道具――前回のものよりも一回り大きく、ずしりと重い手応えのサバイバルナイフを確かめた。 ギザギザと複雑な形に波打つ刃が、降り注ぐライトを受けてぎらり、と兇悪な表情で哂う。 これで、すべての準備は整った。 「――さあ、始めようか」 ボクはにいっ、と笑いながら、呆けた顔のクラスメイトの群れの中へためらいなく飛び込んでいく。 夜が明けるまで、決して終演を迎えることのない、ボクによる、ボクのためだけのステージの幕を開けるために――
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192 :元405[sage]:2014/06/15(日) 23:42:15.04 ID:byTMDE3H - いったん中断させていただきます
続きは後日、改めて投下させていただきます
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