- 【田村・とらドラ!】竹宮ゆゆこ 37皿目【ゴールデンタイム】
479 :174 ◆TNwhNl8TZY [sage]:2014/06/15(日) 22:38:24.71 ID:9hncihB2 - 小ネタSS投下
すみドラネタ >>453〜>>467までの締めくくり。
|
- 【田村・とらドラ!】竹宮ゆゆこ 37皿目【ゴールデンタイム】
480 :174 ◆TNwhNl8TZY [sage]:2014/06/15(日) 22:39:03.74 ID:9hncihB2 - ちゃんと鳴ってるんだか定かではないインターホンはもう五回も押したが、先程から変わらず室内からは物音一つしやしない。
このまま根比べに付き合ってやるつもりはさらさらないので、私は玄関横のポストに徐に手を伸ばす。 壁との隙間に軽く指先を忍び込ませれば、睨んだとおり、金属の冷たい感触が。 そうして引っ張り出した他人様の家の合鍵を、これまた平然と玄関備え付けの鍵穴に突っ込む。 カチャリと小さく金属質な音が響きば、もはやこれで私の行く手を邪魔するものは何もない。 ──そう、おそらくは息を殺して居留守を決め込んでいたあいつ以外は。 「よぉ逢坂。なんだ、やっぱ居たんじゃねえか」 それまで侵入者を拒んでいたドアが突然役立たずになった気配を察知した家主、もとい何だ? 居候か? ともかく逢坂はドタドタと足音を轟かせ、無礼な侵入者であるところの私を排除すべく駆け寄ってきた。 開きかけたドアに勢いそのまま、体当たりで無理やり閉じようと試みるも、そうはいかねえ。 高須家内へと繋がった僅かな隙間に、逢坂がぶつかり閉ざそうとする寸でのところで学生鞄を挟ませた。 押しつぶされる鞄を憎々しげに見やる逢坂の目つきは、そりゃもう高須顔負けにキツくなっている。 その逢坂が、ギロりというような音でもしてそうな視線を私へと向けた。 「いくらなんでも非常識じゃないの? 普通しないわよ? 合鍵まで探し出して、勝手に入ろうとしてくるなんて」 私から言わせりゃあんな防犯意識の薄すぎる場所に置いておいて、隠したもなにもないだろう。 現にたった二度訪れただけの私がこうして容易く見つけ出せたんだからな。 「普通だぁ? どの口で言ってんだ。人のことシカトしておいて非常識もクソもあるかよ」 逢坂は一瞬バツが悪そうに目を泳がせたが、ごほんと下手くそな咳払いをするとすぐさま余裕を取り繕う。 「さあ、なんのことかしら。ていうか、用がないんなら帰りなさいよ、私だって暇じゃないんだから」 「私だって暇つぶしにおまえの相手なんかしねえし、手間もとらせねえよ。私が用があるのは高須だからな」 「あァ?」 けれどもそんな取って付けた余裕ぶりも私の一言で幾らも持たずに剥がれ落ちる。 額には青筋まで走らせて、今に唸り声でも上げそうだ。 百面相よろしくコロコロ変化する表情は見ていて飽きないかもしれないが、しかしこいつが私に向かって笑顔を振りまく日なんて来ねえだろうよ。 あったとしても勝ち誇ったとか小馬鹿にするとか、きっとそういう類のものだろうと想像して、私は頭上でほくそ笑む逢坂の幻影に内心で舌打ちした。 目の前の逢坂なんかはこれ見よがしに露骨な舌打ちをかましてくれた。 「……ねえ、前から不思議だったんだけど」 逢坂は怪訝そうに眉を顰める。 「あんた、どうしてそんな竜児にかまうの?」 私が高須をかまう理由、か。 さて、どう答えたものだろうな。 じろりと半目で睨めつける逢坂を他所に、私は自問自答に没頭する。 真っ先に、かつ唯一頭に浮かんだものとしては、外面に反して意外と真面目な性格だった。 たしかに高須は真面目ではあるし、よく気が利くタイプでもある。 先日の校外清掃のときも、傍に置いておけば大抵のことは勝手にやってくれていたので便利だったが、それだけが理由というのは違う気がする。 となると、私自身も何故高須にかまうのか、明確に説明するのが難しい。 たかだか数日行動を共にしただけのわたしが高須について述べられるのは、こんなありきたりで表面的な事ぐらいしかない。 ただ、大事なことはもっと深いところにあるような、漠然としていつつ確信めいたものもあり──そんなことを逢坂相手に、まさか言うわけがないだろう? 「実はよ、私は高須にちょっと借りがあってな」 「へぇ。借りねぇ、借り」
|
- 【田村・とらドラ!】竹宮ゆゆこ 37皿目【ゴールデンタイム】
481 :174 ◆TNwhNl8TZY [sage]:2014/06/15(日) 22:39:42.57 ID:9hncihB2 - じっくり思案してからの私に、逢坂は不可解さを隠そうともしない。
どころか、それとこれとどんな関係が、そもそも何があったのか、とでも言いたげな逢坂は勘ぐるように一瞬私から視線を外し、あらぬ方へ意識を飛ばす。 すぅっと細まった瞳は高須家の奥まで届き、単純な逢坂のことだ、おおかたそこら辺に高須が居るんだろうよ。 「だから私は高須に……なんていうか、その……」 「そのってなによ」 「………………」 「ちょっと、はっきりしなさいよ」 もったいぶる私に逢坂は次第に苛立ちを募らせていく。 私は精一杯恥じらうような素振りを見せ、耳から火が出そうなほどにこれでもかと顔を赤くさせた。 「つまり、借りを返すために高須に『良い思い』をだな……これ以上は言わせるなよ?」 とある部分を殊更強調し、思わせぶりに拍車をかけたのは語る必要もねえな。 たっぷり一分は間を置いただろうか。 その間逢坂はというと途切れ途切れに「え」だの「は」やら「ちょ」とか呟いては、またも一人百面相に興じていた。 そうして呟き声もしなくなったかと思いきや、限界を迎えた逢坂は突如叫ぶ。 「えええぇっ!? 嘘でしょう!? そんな、竜児がそんな……嘘よぉ!?」 さあて、逢坂のやつはいったいなにを想像したんだかな。 わざわざその時のことを詳らかに説明してやる義理はなかったので、私は俯くことで半狂乱な逢坂の追求を逃れた。 慌てふためく逢坂の様子を眺めていると吹き出してしまいそうなのを堪えるためだったんだが、私がマジで羞恥に身を染めていると勘違いした逢坂は愕然と肩を震わせる。 「じゃ、じゃあこないだ竜児の帰りが遅かったときがあったのも、それからあんたが来るようになったのも、全部竜児に……?」 無言でもって返事にした。 ほんの少しだけ説明不足な箇所があろうが言い回しが作為的だろうが私は嘘は言わない主義だからな。 現に私の口から飛び出しているのは真実だけだろう。 今のところは、だが。 「〜〜〜〜〜〜〜ッ!? りゅ、竜児、竜児竜児竜児竜児、竜児ぃ!」 いよいよ混乱の極みに達したようだ。 もはや当初の目的も忘れ切った逢坂は脇目も振らずに高須目掛けて駆けていく。 こうなればもうこちらのものだ。 私は遮る者の居なくなった玄関を悠々と抜け、堂々と高須家内へと足を踏み入れた。 後は身に覚えのないことで問い詰められ、訳も分からずの状態だろう高須にどう声をかけてやろうか。 僅かに離れた場所からは、既に金切り声を上げている逢坂と高須のくぐもったやり取りが。 あまり考えている暇はなさそうだな。 「まっ、どうにも待つばかりってのは性に合わねえみてえでよ」 ──来るのかどうかすらわからない「その内」が、私にとってはどうしても待ちきれなかったものだから。 「覚悟しとけよ高須、たっぷり良い思いをさせてやるからよ」 宣戦布告よろしく言い放つ。 あの雨の日の温もりは今はもうない。 それがどうした。 なくなったのなら、これからまた、いくらでも。 「……だから私にも、良い思いをさせてくれよ?」 〜おわり〜
|