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名無しさん@ピンキー
雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11

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ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
748 :名無しさん@ピンキー[sage]:2014/05/26(月) 00:03:51.74 ID:rXJOGTkB
久々に投下します
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
749 :雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk [sage]:2014/05/26(月) 00:05:22.15 ID:rXJOGTkB
 教会を見下ろす丘の上で、僕は腹這いになって偵察をしていた。
 僕を取り逃がしたのにも関わらず、ホルジオーネ側に動きはないようだ。
 普通なら歩哨を立てたりして、少しは警戒するだろうに。
 僕一人くらい、取るに足りない存在だと思われてるってことか。
 当たっているだけに腹は立たないが、男として少し複雑な気分にもなる。
「相手の姿が見えないからって、監視を怠ってると決めて掛からない方がいいな」
 同じく腹這いになったダブルオーが、自然な動きで僕の肩を抱いてきた。
 その手の甲をピシャリと平手打ちしてやる。
 くっ、今の動きはちょっと女の子っぽくなってしまったかも。
「ごめん、ごめん。つい、いつもの癖で」
 ダブルオーは嬉しそうにニヤニヤ笑いながら、はたかれた手の甲をさする。
 僕はムッとした顔でスパイ崩れを睨み、距離を取るため肘と膝を使って横移動する。

「で、どうして僕を助けてくれるの?」
 僕を助けることで、ダブルオーに何のメリットがあるのか。
 彼は国際手配されている殺し屋で、僕は官憲側の人間である。
 本来なら、僕は彼に助けてもらうどころか、とっくに消されてても不思議ではない。
 まさか本当に僕の体が目的じゃないだろうな。
 そりゃ、絶体絶命のピンチを助けてもらった時、ちょっとだけ胸がキュンとしたのは事実だけど。
 だからと言って、抱かれてもいいなんて思ったわけじゃない。
 ああ、こんなナリをしているのが全ての元凶だ。
 早くケリをつけて男の格好に戻らないと、このままじゃ本当におかしくなってしまう。

「言っとくけど、『君みたいなレディが困っているのを……』なんてのは要らないから」
 できるだけ冷たく、かつツンデレっぽくならないように努力する。
「うん、それもあるんだけど。このままだと帰りの足がないからねぇ。雇用主はあてにできなくなったようだし」
 確かに、マーサのところに出向いて、「用がないなら帰る。家まで送ってくれ」と言ったところで無駄だろう。
 バトルロイヤルを制し、契約寸前までいってた僕とシズカでさえ、理由もなく殺されかけたんだ。
 予選敗退した連中なんかは、問答無用で口封じされるに決まってる。
「生きて帰るには君のメイドを取り返し、島にいる敵を一掃しなくちゃ。あの娘の戦闘力、なかなか強烈だからなあ」
 性格はもっと強烈だけどね。

 ところでホルジオーネは、どの程度の戦力を島内に備蓄しているのか。
 この島が帝都を占領するための秘密基地だとすると、相当の戦力を隠していると考えられる。
「とにかく戦力を大幅にアップさせないと、この島に永住することになっちゃうぜ。まあ……」
「『君となら、それも悪くないかも』とかのお上手は、聞く耳もたないから」
 機先を制してやると、ダブルオーはやれやれという風に首を振って見せた。
「さて、そろそろ行くか。あのピエロちゃんに戻ってこられたらまずいんだろ」
 確かに、彼の言うとおりなのだ。
 このまま無駄に時間を費やせば、ジィナ嬢がティラーノの私設軍隊を率いて攻め込んでくる。
 そして、連中にホルジオーネ討伐の手柄を立てさせれば、帝都にティラーノの軍勢を常駐させる口実を与えてしまう。
 それを回避するためにも、どうしてもシズカに再起動してもらわねばならない。

「じゃあ、僕が正面から陽動を仕掛けるから、クーちゃんは搦め手から侵入して、メイドを奪い返してくれ」
 ダブルオーはタキシードの内ポケットから、銀色に輝くシガーケースを取り出した。
 蓋を開くと、時限信管と強烈な威力を秘めた爆薬がぎっしりと詰まっていた。
「こいつで大騒ぎを起こすから、その間にメイドの方を頼むよ」
 スパイ崩れはさわやかに笑うと、身を屈めた姿勢で丘を降りていった。
 どんな魂胆があるのか本音は分からないけど、助けてくれるってのなら利用させてもらおう。
 借りるとなれば、猫の手よりは遥かに頼りになるのは確かだし。
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
750 :雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk [sage]:2014/05/26(月) 00:05:59.71 ID:rXJOGTkB
 僕はダブルオーとは逆方向に丘を駆け下りた。
 教会の裏手へ迂回して、侵入口を見つけるのだ。
 途中から鬱蒼とした茂みをかき分けて先へ進む。
 教会の裏手はほとんど手入れが行き届いておらず、原生林並みに草木が茂っている。
 周囲からの目隠しにはなるが、進行速度は極端に遅くなった。
 足元が全く見えないので、ブービートラップでも仕掛けられてたら一巻の終わりだ。
 おそるおそる進むものだから、歩みは更に遅くなる。

 小枝とかに引っ掻き傷をつけられながら前進していると、ようやく教会の勝手口に辿り着いた。
 頑丈そうなオーク材のドアは、体当たりしようものならこっちがぶっ壊れそうだ。
 鍵が掛かっていたなら、そこでゲームセットになってしまう。
 そっとドアノブを回してみると、幸いなことに施錠はされていなかった。
 直ぐにでも忍び込みたいが、ここはダブルオーの支援を待つのが得策だ。

 待つことしばし、もの凄い轟音と共に地響きが伝わってきた。
 ダブルオーの陽動作戦が開始されたのだ。
 地響きが静まると、今度は腹に響くマシンガンの銃声が聞こえてきた。
 続いて、聞き覚えのあるワルターの甲高い銃声が交錯する。
 どうしたものかと躊躇していると、やがて銃声がボリュームダウンしてきた。
 射手たちが遠くへ移動を開始したのだ。
 僕が潜入しやすくなるよう、ダブルオーは敵を教会から引き離してくれている。
 今がチャンスとばかり、僕は教会内部へと突入した。

 食器や調理器具が散乱する厨房を駆け抜け、照明の落ちた廊下を突っ切る。
 再奥のドアを開けると、見覚えのある階段が目に入った。
 ここは礼拝堂の裏に当たる。
 僕はマーサとシズカが戦ったホールへと戻ってきたのだ。
 さて、シズカはどこに囚われているのか。
 マーサたちが戻ってくるまでに探し出し、蛋白燃料を注入してあげなければ。

 まずは2階からガサを掛けることにして、ギシギシ鳴る階段を駆け上がる。
 突き当たりにある客室のドアを開けるが、そこには誰もいなかった。
 それは想定内のことであり、ここへ来たのはシズカのメイド服を回収するのが目的だ。
 これを着用させれば、彼女の防御力は格段に向上する。
 たとえ戦車砲の直撃を喰らっても、へっちゃらなんだから。
 ちょっと着てみたい誘惑に駆られるが、僕の体では着弾の衝撃までは受けきれないから無意味だろう。
 仕方なく、メイド服を手にしたまま、廊下に面したドアを次々に開けていく。
 だが、全ての部屋を回っても、シズカの姿はなかった。

 もしかして屋根の十字架に磔にされているのではと窓から身を乗り出すが、残念ながらそんな嬉しい光景は見られなかった。
 やはり一階なのかと思って隈なく確かめるが、厨房とホールの他はフロアの全てが礼拝堂になっている。
 となると、どこかに地下へと続く通路があるはずだ。
 焦りながら隠し扉を捜していると、天井からいきなり声が降ってきた。

『ウォーニング……ウォーニング……』
 飛び上がるほど驚いたが、それはスピーカーから流れ出た合成音声だった。
 嫌がらせのようなタイミングに憤ってみたが、本当に驚くのはここからだった。
『処理モードへ移行。地下処理施設は10分後に作動します……作業員は速やかに退去してください……』
 抑揚のない警告音声が、僕を死ぬほど驚かせた。
 続いて足元から微かな振動が伝わってくる。
 地下施設があるという僕の予測は的中したのだが、それを喜んでいる場合ではない。
 奴らは地下の処理施設で何かを処分しようとしている。
 どう考えても嫌な予感しかしない。
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
751 :雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk [sage]:2014/05/26(月) 00:06:57.89 ID:rXJOGTkB
 鳴り続けている警告ブザーが耳障りで、危機感は嫌でも盛り上がる。
「ちくしょう、どこだっ。どこかに地下への入り口があるはずだ」
 頭をフル回転させて考えてみるが、僕の頭に詰まっているのはコミックとかサブカルとかのくだらない知識だけだ。
 その中から教会に関する知識、しかもシリアスな傾向に絞って思考を巡らせる。
 すると今まで見えなかったものが見えてきた。
 こういうときに怪しいのは懺悔室だ。
 外部から隔絶された密室性は、秘密を隠匿するにはもってこいなのだ。

 僕は懺悔室のドアを蹴り開け、中へと飛び込んだ。
 怪しげなカーテンを剥ぎ取ると、そこに通信機が隠されていた。
 マーサはこれを通じてスポンサーたちと話をしていたのだ。
 こうなったら誰でもいいから、助けてくれる人にすがるしかない。
 助力を得られるのなら、先っぽくらいは入れさせてあげても──よくないっ。
「誰かっ、誰か聞こえますかっ?」
 僕は無線機のスイッチを入れ、取り敢えず誰でもいいから助けを呼ぶことにした。
 すると、当たり前だがホルジオーネ側に傍受されてしまった。
 連中の使ってる周波数に固定したままだったのだから、これは当然の失態だわ。

『あら、あなたなの?』
 モニターに写ったのは、醒めた目をしたマーサの顔だった。
『そんなところにいたのね。別に捜してたわけじゃないけど』
 やっぱり、僕なんかヤブ蚊ほどにも危険視されてなかったんだ。
 分かってたけど傷つくなあ。
『この島に向かってくる飛行物体をレーダーが捉えたの。そちらの対応が優先事項だから』
 それはジィナ嬢が率いる、ティラーノの空挺部隊に違いない。
 マーサは僕よりも、そちらを危険と判断したのだ。
 教会がこうも見事に無人なのは、ダブルオーの陽動のお陰だけじゃなかったんだ。

「シズカはどこだ。彼女を返せっ」
 僕はビビりそうになるのを必死でこらえ、モニターの中のマーサを睨み付けた。
『残念だけど、あなたのお友達は処分させてもらうわ』
 じゃあねと無線を切ろうとするマーサに必死で食い下がる。
「どうしてそんなことを。シズカが何をしたっての? こっちはアンタに望まれてやって来たんじゃないか」
 都知事を暗殺する殺し屋を募集しておいて、応募したら処刑するなんてのは納得できない。
 辻褄の合う理由を聞かないことには、報告書も書けないじゃないか。
『都知事を殺せと言われ、軽々しく請け負うような手合いは危険なの。そういう危険因子は排除しておくに限るわ』
 そりゃ確かにおっしゃるとおりなんだけど、それは僕みたいな官憲側の台詞だろ。
 都知事を殺せって、軽々しく命じるような危険人物には使ってもらいたくない。

『どうでもいいわ、そろそろ処理施設が稼働するころだから。煮えたぎる超酸のプールに浸かればウーシュだってお終いよ』
 なんだって。
『あなたもこれで目が覚めるでしょうから、普通の女の子として生きることね。素敵な恋をしなさい』
「おいっ、ちょっと待てぃ」
 いろいろ突っ込みを入れようとした途端、モニターは途切れてしまった。
 同時に鳴り続けている警告ブザーがオクターブを上げ、僕の焦燥感を煽り立てる。

 強烈な酸に漬け込まれたら、さすがにシズカも無事では済まない。
 生体表皮はアッと言う間に溶け落ち、剥き出しになった装甲とて耐え切れまい。
 シズカは溶けて、この世から完全に消滅してしまうのだ。
 ダメだ、画を想像するだけでトラウマになりそうだ。
 一刻の猶予もなくなったので、手当たり次第にその辺のスイッチを押しまくる。
 すると、どれが当たりだったのか分からないが、大きなオルガンがスライドを始めた。
 ぽっかり空いた空洞に飛び込むと、地下へと続く階段があった。
「シズカ、待ってろよ」
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
752 :雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk [sage]:2014/05/26(月) 00:07:43.35 ID:rXJOGTkB
 転げるように駆け下りると、そこはディスポーザーの制御室になっていた。
 メーカーの開発部なんかが使っている、大型廃棄物を処理する施設だ。
 新製品の機密を産業スパイから守るため、試作品とかを処分するのに用いられている。
 おそらく、この床の下に処理プールがあるのだろう。
 そこに廃棄物を収容し、高温のフッ酸を満たして撹拌するのだ。
 メーカーの処理施設は、大型のエアカーすら数十分で跡形もなく消し去ることができるという。
 シズカ程度の大きさなら、アッと言う間に溶けきってしまうだろう。
 とにかく、急いで酸の注入を止めなければならない。

 制御板を出鱈目に押してみるが、2度目のラッキーはなかった。
 産業スパイ対策で、一度スタートすると強制終了できない仕様になっているのかもしれない。
「そうだ、フッ酸の注入用パイプを……」
 タンクから通じているパイプのバルブを閉めれば、手動で止められるかもしれない。
 そこらのパネルとか、開きそうなところは片っ端から開けてみる。
 だが、それっぽいバルブやスイッチは見つからない。
 続いて床を這いずり回り、継ぎ目らしいものを捜す。
 すると、埋め込み式の取っ手が見つかった。
「これだっ」
 ボタンを押すと取っ手がせり上がり、それを握って力一杯持ち上げる。
 僕がそこに見たものは──

「シズカァーっ」
 僕の眼下、5メートルほど下の床に、貞操帯のみを身につけたシズカが横たわっていた。
 直ぐに飛び降りようとしたが、無情にも3本の鉄格子が邪魔して抜けられない。
 太さ3センチはあろうかという鉄格子は、腐食防止のテフロン加工が施されている。
 もちろん僕の力ではどうにもならない。
「シズカっ、起きろっ」
 僕の呼びかけにも、シズカは反応を示さない。
 硬直してピクリとも動かないその姿は、輪姦の挙げ句に惨殺された死体を思い起こさせた。
 お尻にねじ込まれたコードが、傍らに置かれたコンデンサに繋がっている。
 アレのせいで、シズカは活動に必要なエネルギーを蓄えることができないのだ。

「頼むっ、シズカ。頼むから目を醒ましてくれっ。もう時間がないんだっ」
 僕にできることは必死で呼び掛けることだけだ。
 鉄格子を握り締め、力一杯揺すってみる。
 この時ほど、自分の非力を恨めしく思ったことはない。
 警告ブザーのトーンが今一度変わり、絶望感がのし掛かってくる。
 同時にツンとした臭いが、鼻孔の奥を刺激し始めた。
 プールの四隅に開けられた注入口から、フッ化水素酸の溶液が噴き出してきたのだ。
 このままではシズカが溶けてしまう。

 幾度となく僕の窮地を救ってくれた命の恩人。
 押し付けられた無理難題を、一緒になって遂行する、頼りになる相棒。
 そして、肉親がいない僕にとって、この世でたった1人の家族。
 そんな大事な存在が、目の前で消え去ろうとしている。
 手を伸ばせば届きそうなところにいるのに。

 フッ化水素が眼球の水分と結合し、僕の目を灼く。
 涙が溢れかえり、前が見えなくなった。
 自分が非力なため、掛け替えのないパートナーを失ってしまうのだ。
 鉄格子を握り締め、今一度渾身の力を込めた。
「こんなの嫌だぁーっ」
 僕が絶叫した時だった、奇跡が起きたのは。
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
753 :雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk [sage]:2014/05/26(月) 00:09:11.20 ID:rXJOGTkB
 たった今までビクともしなかった鉄格子が、熱せられた飴細工のようにひん曲がった。
「…………?」
 僕は自分の両手を目の前にかざして凝視した。
 自分の起こした奇跡が信じられず、僕はしばし思考停止した。
 嘘みたいなできごとであるが、これは紛れもない現実だ。
「そうだ……シズカっ」
 火事場の馬鹿力でも、夢でも嘘でも構わない。
 たとえ何かの罠であっても関係ない。
 僕はねじ曲がった鉄格子の隙間から、処理プールへ向かって身を躍らせた。

 5メートルの落差があったのにも関わらず、足首と膝の関節が上手く機能してほとんどショックを感じない。
 シズカに駆け寄り、貞操帯の鎖を引きちぎる。
 そして、電気エネルギーを横領しているコードをアヌスから引き抜いてやる。
 ボディを抱き上げると、間一髪でフッ酸の溶液がテフロン製の床を舐め埋め尽くした。
 僕が履いているシンセレザーのローファーがブスブスと煙を上げる。
 この靴ではそう長いこと保たないようだ。

「ふぅ……」
 深い溜息をついて首を振ったら、嫌なものが視界に入ってきた。
 壁に埋め込み式の檻があり、中に双子のチャイニーズニンジャが囚われていたのだ。
 だから言わんこっちゃない。
 彼女たちはマーサの触手に敗北し、シズカと一緒に処分されることになったのだろう。
 姉妹は無言のまま、恐れと憎しみと、そして期待の籠もった目で僕を凝視している。
 助けを乞わないところを見ると、自分たちが僕に何をしたのかくらいは覚えているようだ。
 こんな連中を助ける謂われはないし、助けてもまた襲ってくるおそれがある。
 けど──やっぱり、女の子がこんな残酷な方法で殺されるのを黙って見逃すわけにはいかない。

 気が付くと、僕はコンパネをぶん殴り、分厚い水密扉ごと中にある開閉ボタンを押していた。
 鉄格子がせり上がったが、シュガー姉妹は信じられないものを見たように硬直していた。
 驚いたのはハンマーパンチにか、お人好しな行為の方にか。
 それとも両方になのか。
「来いっ」
 僕が身を屈めて急かしてやると、シュガー姉妹はようやく我に返った。
 2人は檻から飛び出すと、僕の肩をジャンプ台にして天井の穴から脱出する。
 さすがはクノイチ、鮮やかな身のこなしだった。

 僕はシズカを背中に担ぎ直すと、膝を畳んで天井を睨み付ける。
 何故だか知らないが、今の僕ならあそこまで飛べると確信していた。
 理屈じゃない、体そのものがそう語っていた。
「タッ」
 掛け声とともに膝のバネを開放した次の瞬間、僕はシズカを背負ったまま制御室に飛び込んでいた。

 薄情にもシュガー姉妹の姿は既に消えていた。
 否、最大のチャンスにも関わらず、襲ってこなかっただけでもよしとするか。
「よし。シズカ、逃げるぞ」
 僕はシズカを横抱きにしたまま階段を駆け上がった。
 一階へと戻った僕は礼拝堂から厨房へ抜け、そのまま教会裏の茂みへと飛び込んだ。
 茂みを突っ切り、ダブルオーと別れた丘の上まで一気に走る。
 ここまで来れば取り敢えず安心だろう。

 何とか助かったらしい。
 ホッと溜息を漏らした途端、急にシズカが重くなってきた。
 これは、こなきじじいにおぶさられた気分だ。
 いや、シズカが重くなったんじゃなく、僕の力がなくなってきたのだ。
 たまらず、その場につんのめってしまう。
「なんて重いんだ、君は」
 大の字になってハァハァ言ってると、ジワジワと笑いが込み上げてきた。
 安堵感と達成感が混じり合い、僕の感情は笑いの形を取るしかなかったのだろう。
 他に選択肢があるものか。
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
754 :雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk [sage]:2014/05/26(月) 00:12:04.84 ID:rXJOGTkB
 しばらくゲラゲラ笑っていると、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
 さあ、そろそろお待ちかね、蛋白燃料の補給シークェンスに移行するか。
 ジィナ嬢が率いる空挺部隊が到着する前に、ホルジオーネの兵力を壊滅させておかないと。
 ティラーノに帝都防衛の手柄を与えてなるものか。
「シズカ、するぞ」
 シズカはまだ起動していないが、蛋白燃料を先行補給することにより再起動と同時にフルパワーを発揮することができる。
 紳士としては不当な振る舞いになるが、今は不必要な感情移入をしている場合ではない。
 ただ彼女の中に放出すればいいという、準強姦に相当する睡姦プレイになるのも仕方がない。

 僕はスカートの裾をたくし上げ、パンティをずり下げて男の証を露出させた。
 次いでシズカの両足首を持ち、左右に大きく広げさせる。
 無抵抗の関節がグニャリとした感触を伝えてくる。
 うわ、検死で遺体を取り扱ってる時の気分だわ。
 シズカがピクリとも反応してくれないのもよくない。

「た……勃起たない……?」
 こんな肝心なときに、補給ホースが言うことを聞いてくれない。
 まさか女装が過ぎて、ナニが役に立たなくなったんじゃないだろうな。
「冗談じゃない」
 必死で扱いてみるが、分身はウンともスンとも反応しない。
 シズカの股間に顔を寄せ、蛋白燃料の補給口をVの字にした指で割ってみる。
 まじまじとガン見してやるが、如何にも作り物じみた感じがして余計に萎えてきた。
 ウーシュタイプのそこは、グロさを軽減するためディフォルメを施されている。
 そんなファンタジー設計が、今は仇になっている。

 くっ、こうなったらとにかく突っ込んで、無理やりにでも発射するしかない。
「シズカ、ゴメンな」
 僕はシズカの股の間に割り込み、萎えたホースを注入口にあてがう。
 そして柳腰に手を回し、強引に貫こうと抱きしめる。
 ダメだ、血の通っていないヤワなモノじゃどうにもならない。
「おいっ、シズカ。いい加減で起きてくれ」
 僕は必死で呼び掛けてみるが、シズカは薄目を開けたまま無表情で硬直している。
 こりゃ、いよいよ変死体だ。

「くそっ、これは死体なんかじゃない、ただのダッチワイフと思えばいいんだ」
 自分に言い聞かせようとした途端、僕は気付いてしまった。
 あまりにもシズカを人間として見てきたせいで、彼女を物として扱うことに心理的な抵抗を感じているのだ。
 彼女に対してダッチワイフじみた行為をすることに、自然にストップが掛けられているのだ。
 なんてデリケートにできてるんだ、僕のハートは。

 頭を抱えて自己嫌悪する僕を我に返らせたのは、いきなり轟いた爆発音だった。
 僕はパンティをはき直し、身を屈めたまま丘の頂へと這い寄る。
 慎重に向こう側を見下ろすと、とんでもない光景が目に飛び込んできた。
 無骨な二足歩行型の自動歩兵が20体、整然と隊列をなして行進している。
 見たことのない機種だが、あれはホルジオーネのオリジナルマシンなのだろうか。
 体高は5メートルほどで、右手にガトリングガン、左手にミニカノン砲を装備している。
 先程の爆発音は、あのカノン砲の炸裂音だったようだ。
 今まさに先頭の1体が、左腕を振りかざして砲撃態勢に入っている。
 その砲身の先には、必死で逃げていくダブルオーの後ろ姿があった。
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
755 :雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk [sage]:2014/05/26(月) 00:13:00.79 ID:rXJOGTkB
 あの人は律儀にも、まだ囮の役目を果たしてくれているんだ。
 僕がシズカを助け出し、再起動させると信じて。
 なのに、僕ときたらこの体たらくだ。
 ついさっき、火事場の馬鹿力を出したせいなのか、むしろ普段より体に力が入らない。
 情けないが、いっそ本当に男の娘になって、ダブルオーに抱かれてやるくらいしか、彼に報いる手段はないのか。
 ああ神様、僕に彼を救う力をお与えください。
 今一度、先程のように奇跡を──。
 敬虔な信者でもない僕が祈ったところでどうにもなるまい。
 けど、履いてるパンティは、ガチガチのクリスチャンのサトコから借りてるものなんだ。
 せめてパンティ分くらいの奇跡を──。

 パンティの御利益があったかどうかは知らないが、僕の祈りは通じた。
 奇跡は真っ青な空の片隅に、一点の染みとなって現れたのだ。

 最初、ゴマ粒ほどだった染みは、見る間に小豆へと膨らむ。
 それが大豆になるころには、けたたましいローター音が響き始めた。
 ヘリだ、しかもティラーノの空挺輸送ヘリじゃない。
 見覚えのあるあの青い機体は、警視庁航空隊が所有する『はやぶさU』だ。
 どういうわけか、夢にまで見た援軍がやってきたのだ。
 僕がこの秘密任務に就いていることは、都知事と側近しか知らない。
 おそらく、白川都知事は僕達を遠巻きに監視させていたのだろう。
 そして頃合いよしとして、蒔いた種の収穫にきたのだ。

 援軍の登場は嬉しいが、タイミングが遅いし、規模が小さすぎる。
 どうせなら武装機動隊の2、3個大隊を送ってくれないと、自動歩兵軍団に返り討ちされてしまう。
 あんな6人しか乗れない小型ヘリを派遣して、この状況をどうにかできるとでも思っているのか。
 だが、僕の心配は杞憂だった。
 たとえ乗員が少数でも、総合戦力では全然負けていなかったのだ。

 地上50メートルでホバリングを始めたヘリから、何かが投げ落とされた。
 小型の高性能爆弾だと思って逃げかけたが、それ自体は爆発物ではなかった。
 やけにヒラヒラした布きれに包まれたその物体は、僕もよく見知った存在である。
 トモエ01型、戦闘支援バトルドロイドの1号機。
 ポンタ技研が開発した最新鋭のロボコップだ。
 見た目には10代前半のゴスロリ少女だが、侮ってはいけない。
 あのちっちゃなボディには、ロボット先進国の最先端テクノロジーが惜しげもなく注ぎ込まれている。
 おそらく、戦闘用としては世界で最も優れたアンドロイドなのだ。

 トモエは降下しながら、フリルが目いっぱい付いた日傘を開いた。
 もちろん、彼女は日傘にパラシュートの役目を期待したのではない。
 自動歩兵が撃ち掛けてきたガトリングガンを遮るため、補助装甲を展開させたのだ。
 トモエのパラソルは、高速徹甲弾をことごとく弾き返してしまった。
 シズカのメイド服にも劣らぬ、素晴らしい防御力だ。
 そのまま自由落下したトモエは、地面に激突する寸前に特殊装備を始動させた。
 厚底ブーツに組み込まれた、熱核ジェットホバーを噴射したのだ。
 見えないトランポリンに着地したように、トモエの体が空中で柔らかく上下する。
 地上10センチのところで落ち着いたトモエは、日傘を投げ捨てて、背中に背負っていたM66機関砲を腰溜めに構えた。
 そして、軽い前傾姿勢を取ると、地面を滑るようにダッシュを開始した。

 目の覚めるような猛烈な加速力だ。
 ガトリングガンの自動照準が追いつかず、トモエのかなり後ろで着弾の砂煙が上がる。
 照準システムが誤差を修正したころには、彼女は鋭いターンでコースを変えてしまっている。
 エアスケートのスピード競技を見ているような、鮮やかなコーナリングだ。
 トモエは自動歩兵の背後に回り込むと、高速で横滑りしながらM66をぶっ放した。
 ドムドムドムッという重低音が響き渡り、自動歩兵たちの背中に小爆発が連続する。
 20ミリ弾が薄い背面装甲を貫通し、ボディの内部で炸裂しているのだ。
 たちまち3台が前のめりになって機能を停止する。
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
756 :雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk [sage]:2014/05/26(月) 00:15:39.66 ID:rXJOGTkB
 のろまなロボットたちが振り返ったときには、トモエの姿は既に消えていた。
 片足を後方に高々と上げたアラベスクスパイラルで、再び連中の背後に滑り込んでいたのだ。
 火力だけじゃなく、芸術点も素晴らしく高い。
 ドムドムドムッとM66が火を噴き、今度は5台のロボットが黒煙に包まれた。
 さすがは戦車に搭載し、装甲車や軍用ヘリを攻撃するサブウェポンだけのことはある。
 威力は凄いが反動のきついその重機関砲を、トモエは完全にコントロールしていた。
 この重火力と高機動力の両立こそが、ポンタ技研が彼女に求めたものだっだのだろう。

 ホルジオーネの大仰な自動歩兵どもは完全に翻弄され、なす術もなく片っ端から葬られていく。
 完全なワンサイドゲームじゃないか。
 トモエは時折ジャンプをしたり、スピンを入れたりする余裕さえある。
 あれは“特定の誰か”に対して行っている、精一杯の自己アピールなんだろうな。
 なんにしても、トモエ01型が従来のロボット兵器20台以上の戦闘力を持っていることはよく解った。

 トモエがすべての自動歩兵を屠り去るのを待って、上空に待機していた『はやぶさU』が降下してきた。
 ローターが止まりきる前に、紺色の出動服を着た男が飛び降りてくる。
 第0機動隊の隊長、ナショーカ・キッソ警視正だ。
 トモエはマスターである彼に褒めて貰いたくて頑張ったのだろう。
 両手を大きく広げてニコニコ顔で滑り込んできた彼女を、ナショーカは一顧だにしなかったのだが。
 彼はヘリの中から呼び掛けられ、そちらへ向き直ることを優先したのだ。

 昇降口に立っているのは、なんとあの女都知事だった。
 彼女は自分を暗殺しようという犯人の顔を一目見てやろうと、野次馬根性から御出座してきたのだ。
 警視庁で最も頼りになる、最強のボディガードたちを引き連れて。
 白河法子は右手を差し出して、エヘンエヘンと咳払いを繰り返す。
 ようやく気付いたナショーカがその手を取り、心底から不本意そうにエスコートする。
 この人は、ホントに女嫌いというか、女のあしらいに疎いんだ。
 イケズな女都知事は、わざとらしく「きゃっ」と黄色い声を上げながら地面に飛び降りた。
 それを見ているトモエは完全に膨れっ面で、今一人の乗員、ナースのジョオ・ウィッチは苦笑いするしかないようだ。

 どうやら無事に大団円を迎えることができるらしい。
 ホルジオーネの自動歩兵軍団は壊滅し、都知事の暗殺計画は未然に潰せた。
 ジィナ嬢の到来は間に合わず、ティラーノの私設軍隊は出番を奪われた形になった。
 連中は帝都に兵を入れる口実を失ったのだ。
 そして、この僕は大事なシズカを取り戻すことができた。
 そのシズカを振り返ると、まだ再起動を果たしていなかった。
 今回は随分と無理をさせたから、ゆっくり休ませてあげよう。

 さて、白河都知事に任務終了の報告でもするか。
 都知事暗殺は未然に防げたが、肝心のホルジオーネには逃げられてしまった。
 ミッション達成率は50パーセントだが、連中がお天道様の下に現れることは二度とないだろうから、それでよしとするか。
 僕は丘を下りながらそんなことを考えていた。
 しかし、現実というものは、いつだって僕の思考を遥かに超えている。
 逃げ去ったはずのマーサ・ホルジオーネが、白河都知事の目の前に現れたのだ。
 夫のヒゲネズミを従者のように伴い、いけしゃあしゃあと、悪びれもせず。

 トモエとジョオ・ウィッチが、サッと都知事の前に立ちはだかる。
 ナショーカも2人を見て、憎々しげに顔を歪ませた。
「あら、何かご用かしら?」
 警視庁警備部でも指折りの強者たちに囲まれて、都知事は余裕満々だ。
 けど、トモエたちはマーサの奥の手を知らない。
 あのメカ触手で奇襲されれば、トモエだって後れを取るかもしれないのだ。
「ヤバいっ」
 僕がダッシュしようとしたときであった。
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
757 :雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk [sage]:2014/05/26(月) 00:16:21.12 ID:rXJOGTkB
「初めまして、都知事閣下」
 マーサが修道服の裾をつまんで、深々とお辞儀をしてみせた。
 どうなってるのかさっぱり分からない。
 この女は都知事を暗殺するため、殺し屋を雇おうとまでしたんじゃないか。
「あなたが今回の黒幕かしら? あたしの暗殺は失敗しちゃったようだけどぉ」
 都知事は愉快そうにクスクス笑い声を立てる。
「いえ、ミッションはすべて順調の内に完了しましたわ」
 マーサは悪びれもせず胸を張った。
 都知事は「どういうことかしら」という風に小首を傾げ、マーサに先を促した。
「これをお見せしたかったのですわ、親愛なる都知事閣下」
 マーサは手にしていた報告用紙を都知事に向かって突き出す。
 トモエが反射的に飛び掛かろうとするのを制し、都知事はA4サイズの印刷物を受け取った。

 都知事が紙面に目を通し、ウンウン頷くようにして内容を確認する。
「閣下を暗殺するための出資を募ったところ、議会と財界からかなりの賛同を得られましたわ。これはそのリストです」
 マーサが口頭で補足説明する。
「次の選挙で閣下に敵対するつもりの造反者です。通話の交信データと、指定口座への振込み記録も押さえております」
 マーサに「ほらっ」と急かされて、ヒゲネズミがメモリーチップを差し出す。
 その中には、マーサと依頼者たちの会話の全てと、振込みに至る金の流れが克明に記録されているのだろう。
「お好きなように使ってもらって構いませんぜ」
 ヒゲネズミが卑屈な笑顔を見せる。
「ついでに、金次第で姐さんを狙おうっていう不届きな連中も、この際まとめて始末しときやしたから」
 僕たちがマーサに殺されかけた訳が、これでよく理解できた。
 マーサは最初から都知事の味方をするつもりで、僕たちはその都知事の敵たる存在だったのだ。

「わぁ〜、サンキュウ」
 白河法子はネズ公からチップを受け取ると、満足そうに笑みを浮かべた。
 アレが表に出りゃ、政敵たちの政治生命は絶たれたも同然だ。
 私欲から、現役の都知事を亡き者にしようと企んだ、何より明白な証拠なんだから。
 アレが公表されずに済むのなら、連中は都知事のどんな要求だって無条件で飲むだろう。
 これで議会における都知事の権力が、より盤石なものになるのは疑いようがない。

「あたしにとっては何よりのプレゼントだわ。で、何がお望みなのかしら?」
 都知事はホクホク気分を隠そうともせず、マーサに問い掛けた。
「今度の件であなた様の足下に隙間が生じましたなら、ぜひ私の亭主をお引き立ていただきたくお願い申し上げます」
 つまり、裏切り者の側近を一人切り捨て、空いたポストにヒゲネズミを付けてくれって頼んでるんだ。
「う〜ん、どうしよっかなあ」
 都知事は値踏みするように、ヒゲネズミの貧相な顔を睨め回す。
「こう見えても結構お役に立ちますぜ。肩揉みでも乳揉みでも、何なりとお申し付けを」
 ヒゲネズミが誇らしげに身を反らし、マーサが彼の緩んだ頬を思い切り引っぱたく。
 都知事はたまらず噴き出した。

「まあ、考えておくわ。あなた、お名前は?」
 名を問う都知事に対し、本人より先に答えた者がいた。
「モトリオ・ミナモンテス……我がミナモンテス家の当主にして、一族の面汚しだ」
 ナショーカ警視正がこめかみをピクつかせながら吐き捨てた。
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
758 :雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk [sage]:2014/05/26(月) 00:17:36.56 ID:rXJOGTkB
 こんなに驚いたことはなかった。
 この面倒臭がりの薄汚れた男が、こともあろうにティラーノ一族と世の覇権を競い合う、ミナモンテス家の当主だというのだ。
 こりゃ、ティラーノにやられて没落するわけだわ。
 あのキーヨやコリーン嬢に比べて覇気がなさ過ぎる。
 従兄弟のナショーカ警視正に軽蔑の眼差しを向けられても、「よぉっ」と手を挙げて全く意に介さない。
 何を勘違いして大物気取りしてるんだ、と思った瞬間、僕ははたとあることに気付いた。

 あの当時、ミナモンテス家の主立った者は、不慮の事故や急病で次々と倒れていった。
 アルファケンタウリへの移住を目的に計画された、ミナモンテスの宇宙開発事業も相次ぐ事故で頓挫した。
 これにより、ミナモンテスは世界政経の中枢から完全に一掃されることになった。
 一連の事件が政敵ティラーノによる破壊工作だとすれば、次期当主のモトリオも間違いなく殺されていただろう。

 あの時、モトリオが難を逃れるため、敢えて取るに足りないクズを演じていたとすれば──。
 全てがティラーノに逆襲する機会を待つための、巧妙な芝居だったとすれば──。
 そう言えば、僕は初対面のときからヒゲネズミに得体の知れない大物感を抱いていた。
 それに、マーサみたいな女性を妻として娶っている、奇跡のような事実がある。
 あの他人を惹き付けるカリスマ性にマーサの冷徹な頭脳が加われば、ティラーノにとって脅威になるかもしれない。
 それに、極東八家たるホルジオーネは、この土地にそれなりの勢力を持っている。
 仮に残る七家を全部味方に付けたなら、ネズミは強力な後ろ盾を得ることになるのだ。
 僕はその場を辞して去っていく夫妻の後ろ姿を見送りながら、慄然としたものを感じていた。

 危険が完全に去ったのを見届けてから、僕は都知事のところへ歩いていった。
「あら、無事だったの?」
 白河都知事は僕に気付くと、満面の笑みを浮かべて迎えてくれた。
 そりゃ嬉しいだろう。
 自分を狙った暗殺事件の黒幕を燻り出そうとして、思いも掛けなかった大漁にありついたのだから。
 こっちはあんまり無事って訳じゃないけど。
 顔中煤だらけだし、わざわざ仕入れた制服もあちこちボロボロだ。

 ここで予想外の緊急事態が発生した。
 ナショーカ警視正が近寄ってきたと思ったら、僕にハンカチを差し出したのだ。
「お、お怪我はありませんか?」
 ぎこちなく尋ねるその声は、精一杯のいたわりと誠意に溢れていた。
 嘘だろ、頬もほんのり赤く染まっているじゃないか。
 僕はこのとき、全身の肌に寒イボが立つのを感じていた。
 ナショーカは女嫌いで有名だが、軟弱な男はもっと嫌いなのだ。
 目の前にいるのが女装した僕だと知ったなら、彼は恥ずかしさのあまり憤慨するだろう。
 そして、怒りにまかせて僕を八つ裂きにしてしまうに決まってる。
 だから僕は俯いたまま、小さく頷くしかなかった。

 気が付くと、トモエが敵愾心剥き出しの表情で僕を睨んでいた。
 マスターに好意を寄せられている僕に、猛烈な嫉妬を感じているのだろう。
 憎々しげに僕の顔を覗き込んだトモエが、目と口を大きく開けたまま硬直した。
 そして僕を指差してプルプル震えている。
 やっぱり気付いてくれちゃいましたか。
 僕は胸の前で小さく手を合わせ、トモエとの友誼におすがりするしかなかった。

「見た? 見たぁ? あのナショーカがほっぺた赤くしてたわよ、あのナショーカがぁ」
 糞都知事が僕の肩にすがり付き、耳元でキャハキャハと笑う。
 ナショーカが何も知らず僕に一目惚れしたらしいことも、僕がそれに困惑してることも、この女は楽しくてならないのだ。
「だ、黙ってて……くれますよね……」
 僕はとうとう生殺与奪権まで、この悪徳都知事に握られてしまったのだった。
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
759 :雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk [sage]:2014/05/26(月) 00:18:20.78 ID:rXJOGTkB
 悪夢のような潜入捜査はこれで終わりを告げた。
「女装だけは二度とするまい」
 そう心に誓う僕だったが、この特技がずっと後になって僕の命を守ることになろうとは──。
 さすがにこのとき気付くはずもなかった。

                               * * *

 島から帰った僕は、パンティ泥棒の罪でサトコから死ぬほどボコられた。
 無事に再起動を果たしたシズカが、助け船を出してくれなかったのは言うまでもない。

 そのシズカだが、胸元の肌があちこち痣になっただけで、機能に障害は出なかった。
 焼け爛れた人工皮膚だが、これは思いも掛けぬ大漁に気をよくした都知事が修理を約束してくれた。
 今回のことで彼女の懐に幾ら入ることになるのか、僕なんかには想像も付かない。
 人工皮膚の張り替えにはとんでもない修理費が掛かるのとのことで、警視庁の予算は付かなかった。
 それを都知事が私財をなげうって直してくれるって、美談の図式になっている。
 これにより不人情な警視庁の株は下がり、都知事はまた人気を上げた。
 本当に、どう転んでもタダでは起きない女だよ。
 まあ、今回のシズカはそれだけの活躍をしたのだから、遠慮せずにご褒美を受け取るといい。
 ドイツ本社から修理キットが送られてくるまでは、痣をファンデーションで隠してもらわなくてはならないが。

 僕はシズカの様子を見ようと部屋のドアを開けた。
 すると、座って何やら作業をしていたシズカは、慌てたように向こうを向いてしまった。
 そして、何かを僕の目から隠すように、床に身を伏せる。
 前をはだけさせていたことからして、ちょうど痣を隠す作業をしていたのか。
「どうしたんだよ、シズカ。ちょっと具合を見てあげよう」
 気にすることはないと、僕はファンデーションの乗りを確認しようとした。
「いい……なんでもないから……」
 シズカは珍しく気まずそうに、身を小さくして屈み込んだ。
 何を今さら恥ずかしがってるんだ。
 そうまで拒絶されると、こっちも意地でも見てやろうという気になる。
「遠慮するなって。見せてみろよ」
 僕はシズカの肩を持って身を起こさせようとするが、彼女は頑なに拒み、僕の手を振り払おうと肩を揺すった。
 その途端、シズカが隠していたものが、身の下から転がり出てしまった。

「えっ、練乳?」
 それを拾ってみると、市販されている缶入りの練乳だった。
「返してっ……」
 シズカが身を起こした拍子に、身を挺して隠していた残りのものが全部転げ出る。
 クリームのパックにロングライフミルク、それに計量カップに攪拌機──。
「お、おい……シズカ……」
 よほど見られたくなかったのか、シズカは真っ赤になって涙ぐんでいるようだ。
 シズカは使い切ってしまったアシッド・ストームのタンクに、甘くて美味しい合成ミルクを補充していたのだ。
 こっそり準備しておいて、後で僕に飲ませて驚かせるために。
 それが、恥ずかしくも仕込みの段階でばれてしまったのだ。

「とんだ変態野郎ですね……この糞ご主人様……」
 うわ、悔し紛れに毒舌メイド属性が出たよ。
 そんなのプログラムされてないのに。
「いい……クローには飲ませてあげない……から……」
 シズカは怒ったようにそっぽを向いてしまった。
「いや、飲みたいよ。ちょっと飲ませて」
「絶対に……いや……」
 僕はプルンと飛び出したおっぱいに口を近づけるが、シズカは身をよじって拒絶する。
「いいじゃん。ちょっとだけ」
 なんてイチャイチャして、なし崩しにエッチなことにもつれ込もうと企んでいると──。

「奥方さま。ちちくりあってるでゴザルっ」
「ゴザルっ」
 ミニの着物を着たクノイチが天井から飛び降りてきた。
 しまった、こいつらがいるのをすっかり忘れていた。
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
760 :雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk [sage]:2014/05/26(月) 00:19:02.38 ID:rXJOGTkB
 シュガー姉妹は僕たちが島から帰ってきて直ぐ、この独身寮に姿を現せた。
 都知事は僕と停止中のシズカ、それに僕の協力者たるダブルオーを回収した後、帝都に向けてヘリを発進させた。
 シュガー姉妹はヘリが離陸する隙を狙い、ランディングギアに飛び移ったという。
 そうやって島を脱出した姉妹は、僕をストーキングして寮に忍び入ったってわけだ。

 最初2人を見たとき、しつこく決着をつけにやって来たのかと思った。
 しかし事情は少し違っていた。
 彼女たちは僕が垣間見せた体術や女装を、本場のニンポーだと勘違いしていたのである。
 戦わずに逃げ回っていたのも彼女たちを油断させるための演技で、殺人ピエロも勿論、僕の配下ということになっている。
 挙げ句、僕をニンジャマスターだと誤解するに至ったのだ。

「我ら、真に忠節を尽くすに値する主君を捜していたでゴザルっ」
「是非とも殿の元で、忍び働きいたしとうゴザルっ」
 このまがいもんのクノイチたちは、なんと僕の手下として働きたいと申し出たのだ。
 これに対するサトコの回答は明解だった。
「捨ててらっしゃい、今すぐにっ」
 姉妹を野良猫みたく扱うサトコもどうかと思うが、2人の無神経さはそれを上回っていた。
「なれば奥方さまの配下として忠節を尽くしとうゴザル」
「いやん、奥方さまなんて……そんなんじゃぁ……」
 たった一言で陥落したサトコは、身をクネクネとよじらせてOKしてしまった。

 というわけで、リンとレイのシュガー姉妹は、僕の部屋の屋根裏に住み着くことになった。
 そして僕がこっそりシズカとイチャつこうとすると、即座にサトコへ通報してくれる。
 まったく、ありがたい同居人が増えたもんだと悲しくなる。
 そんなこんなで一段と騒がしくなった僕の周辺だが、もっと気が重たくなる懸案事項が残っている。
 シズカを助け出すときに発揮された、あの火事場の馬鹿力のことだ。

 あんな常軌を逸した力を生身の人間が出せるわけがない。
 それに、火事場の馬鹿力なんてのは、気がついたら信じられない結果が出てたって類のものだ。
 決して、自分の意思でコントロールできるような代物じゃないのだ。
 どう考えても不自然である。
 考えられるヒントは、一度死んだ僕が蘇るのに、特殊な移植手術を受けたという事実だ。
 きっと、そこら辺に隠された秘密があるのだろう。

 執刀医は死んだ実父の助手だった、クローン技術の権威と言われる博士だ。
 ちょうど来週の公休は、定期的に受けている検診の予定日に当たっている。
 それとなく尋ねてみて、疑念を晴らしてみることにしようか。
 もしかすると「訊かなかったらよかった」なんてことになるかもしれないけど。


 そして──その嫌な予感は見事に的中することになる。  
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11
761 :名無しさん@ピンキー[sage]:2014/05/26(月) 00:20:38.54 ID:rXJOGTkB
投下終了です


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