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◆fYihcWFZ.c
女装SS総合スレ 第10話

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女装SS総合スレ 第10話
94 : ◆fYihcWFZ.c [sage]:2014/04/09(水) 22:21:03.23 ID:bvEafg32
『瀬野家の人々』 俊也の場合-B1 2009年4月 1/9

「えっ?! ええ──────っ?! 理沙、本当にこの子が話してた子なの?」
 駅前の広場に、頓狂な声が響いた。
「そうよねー。ねっ、俊也クン?」
「すいません、その……聞いてる人がいない場所に移動しませんか?」

 住んでる街から電車で1時間近くかかる街。たぶん知り合いはいないだろうけど、女装中
に通行人の行きかう前で本名を呼ばれるのはたまらない。
 近場のカラオケ屋に3人で入って一息つく。

「……今更で悪いんですが、理沙さん、でいいんですよね?」
 僕の目の前に座る、ギャル系の格好をしたやや小柄な女の人におずおずと尋ねてみる。
 前に会った時は茶髪だけど大人しい感じの人で、声は確かに一緒だけど印象が重ならない。
「そーよ? びっくり? びっくりした?」

「ええ。正直なところ、少し」
「この子はね、いつもはこんな感じなのよ。一昨日急に普通の格好で出かけて驚いたもの」
「アタシだってねー。TPOは考えるわけですよ。2、3年ぶりに会うプチ同窓会だもん。
一応、猫かぶりモードで。……俊也クン、こんなギャル嫌?」

「嫌、っていうほどじゃないですけど、身近にいないタイプですので」
「敬語なんてやーよ。オトトイみたいに、アタシのことはリサって呼んでっ」
「一昨日は、姉のふりをしてただけですし、そういうわけには……」

「あ、ちょっといい? そこが分からないの。漫画じゃあるまいし、弟が姉のふりをして見
破れないとか、そんなことありうるのか、って」
「親しい人なら無理だと思いますよ。一昨日は、3年間会ってない昔の友人同士だったから
なんとかなっただけで……それでも、理沙さんにはばれたわけですから」

「アタシだって、そこまで確信もってた分かったわけじゃないよ? だいたいおねーちゃん、
こんなちょー美少女が実は男の子って、フツーは漫画の中だけの話じゃん」
「そこも疑問。どこからどう見ても女の子なんだけど、2人で私を担いでるわけじゃなくて?」

「じゃー、自己紹介しましょっか。まずはアタシ、杉本理沙。オトトイは猫かぶってたけど、
本性はこんな感じなんでヨロシクねっ」
「ええと、瀬野俊也と申します。今日はこんな格好で本当に申し訳ありません」
 かぶっていた黒髪ロングのウィッグを外しながら、僕は女性2人にお辞儀する。

「ダイジョーブ、姉貴には事情は話してあるから。アタシが女装で来てってお願いしたとか」
 今日はハイウェストで長い黒のサロペットスカートに、白のトレーナーを合わせた衣装。
 女装もそろそろ慣れてきたとはいえ、身内以外に女装と知られている状態で同席するのは
また別種の恥ずかしさがある。

「普段から女の子に間違えられますけど、正真正銘、男です。胸だって真っ平でしょう」
 今日はパッドもブラジャーもつけてないので膨らみがない、下も男物の下着の状態。
 そういえば、前回僕が男物の下着で外出したのは、何日前のことだっただろう?
 胸に重みがないことに違和感を覚えていることに気づいて、複雑な気分。
女装SS総合スレ 第10話
95 : ◆fYihcWFZ.c [sage]:2014/04/09(水) 22:22:30.45 ID:bvEafg32
『瀬野家の人々』 俊也の場合-B1 2009年4月 2/9

「いやでも声も女の子だし、貧乳の女の子ってことも……」
「姉貴、疑いすぎ。……って、あんた本当に俊也クンだよね? 悠里が俊也クンのふりをし
てるとかないよね?」
「まだ声変わりしてないからこれが地声ですし、僕は本当に俊也ですよ」

 一応スカートを穿いてるとはいえ、ウィッグも取ったし、化粧もしてない。
 これで男と信じてもらえない自分が少し情けない。
 ……本当は『情けない』以外の感情も自覚してるけど、そこからは敢えて目をそらして。

「姉貴、悠里のこと覚えてるかな? こっちに引っ越す前、小学校のころ何回かうちに呼ん
だことあったし。俊也クンはその弟」
「もちろん覚えてる。あの頃から可愛い子だと思ってたけど、今はこんな感じの美人に育っ
てるのかあ」

 初めて女装で外出した日に出会った、中里美亜紀さん。
 その後色々連絡を取ってたわけだけど、結局うちに遊びにくるということになった。
 それも、小学校時代のお姉ちゃんの友人たち数人を引き連れて。

『分かってるよね? 明日は俊也が私のフリをして相手してあげてね?』
『さすがにばれると思うけど……』
『ばれた瞬間、大笑いしてやるくらいの気分でやれば大丈夫。きっと、みんなも喜ぶわよ』
 そんな会話の結果、僕はお姉ちゃんのふりをして皆を応対して。

 割と意外なことに、その日は最後までバレずに散会までこぎつけて。
 でも見送る別れ際に、その会の参加者の一人だった理沙さんが、こそこそと寄ってきて、
僕だけに聞こえるように囁いたのだ。
『あなた悠里じゃなくて、俊也クンだよね? 今度、その格好で一緒にデートしよ?』

 ……とまあ、それが一昨日の出来事。
 『デート』の機会は意外に早くめぐってきて、それから2日後の今日、彼女が今住んでる
この街まで、電車に乗って一人でやってきたのだ。事前の指定通りに女装姿で。
 今の服は可能な限り目立たないようにというチョイス。充分注目を浴びてた気もするけど。

「最後、杉本詩穂。理沙の姉です。今度大学3年だから、俊也くんからはおばさんだよね」
 理沙さんと同じく少し小柄で、切れ長な目の割と美人な女性が、自己紹介してお辞儀する。
「まー。このオバサン、ただのやじうま兼、解説役だから深く気にしなくていーよ」
「ひどいなあ。まったく、誰に似たのかな」

「さてねー? じゃあ、さっそく本日のメインイベント、始めましょー」
「……カラオケでしょうか?」
「いーや? 俊也クンの大変身たーいむ。どんどんぱふぱふー」
 ニンマリした笑顔で、口で囃し立てる音真似をしてたりする。

「なんだか嫌な予感がひしひしとするんですけど……帰ってもいいですか?」
「じゃあ、ミアとかみんなに教えてもいい? あれ俊也クンの女装だったんだよー、って」
「……それは勘弁してください」
 内心、(正直、激しくどうでもいいな)と思ってしまったのは秘密だ。
女装SS総合スレ 第10話
96 : ◆fYihcWFZ.c [sage]:2014/04/09(水) 22:24:27.47 ID:bvEafg32
『瀬野家の人々』 俊也の場合-B1 2009年4月 3/9

「にひひ。いーこだ、いーこだ。じゃー、まずこれに穿きかえて」
 持ってきていた大きなボストンバッグから、何か黒い物体を取り出して手渡される。
 一応、下着という分類になるんだろうけど、どちらかというと既に「ヒモ」としか言いよ
うがない存在。

「これ、着なきゃいけないんですか?」
 作った困った表情でなく、普通にひきつったような困ったような笑顔になってしまう。
「100均で買った新品だから気にしなくていーよ? それとも俊也クン、アタシの脱ぎた
てが穿きたい?」

 100円均一、恐るべし。こんなものまで売っているのか。
 しぶしぶ従う様子を装いながら、スカート姿のまま男物の下着からその物体に穿き替える。
 幸い前のほうは三角の布があって、なんとかすっぽり収まった。勃起したら即はみ出しそ
うだけど。

「どう? 俊也少年。女の子のショーツの穿き心地は。……でね、次はこれ!」
 次に手渡されたのは、デニムの超ミニスカート。
 後ろを向いて、今着ているサロペットスカートを脱いでそれに穿き替える。
「うわっ! 脚長っ! ほそっ! すごいスベスベじゃない。脛毛剃ってるの?!」

 妹の言動に呆れていたのか今まで無言で見守っていた詩穂さんが、突然大きな声をあげた。
「脛毛とかは、まだ生えてきてないだけですよ。手入れとかしてないです」
「声変わりもまだって言ってたし、そっかー。中学二年ってそういうもんなんだ」
「僕は遅いほうです。体育の時とか、時々クラスメイトからからかわれますねえ」

 覚悟(期待?)していたよりは、幾らか長めのスカートだった。股下で言うと5cmくらい。
 股下スレスレ、屈んだら即下着が見えるシロモノもありうるかと予想していただけに、少
し拍子抜けしてみる。
 ただウェストのボタンをはめると、居心地が悪い感じがするのは否めなかった。

「ん? どったの?」
「いえ……そのままずり落ちそうで不安に……」
「それ、腰で穿くタイプだから、そんな感じでおっけーだよ?」
「男と女で骨盤の形が違うから……それに、お尻が貧相だから、みっともなくないですか?」

「いや全然。モデルさんみたいな引き締まった綺麗なお尻だなあ、って羨ましく見てたのに」
 少し不安になってくる。僕はこの人に男扱いされてるんだろうか?
 確かに藍色の厚地のスカート越しだと前の膨らみも判然としないし、第一こんなミニスカー
トを穿いた男は普通いないと思うけれども。

 続いてブラジャーを取り出してきたので、トレーナーとTシャツを一気に脱いでみる。
「うわっ! 本当に男の子だったんだ。今まで信じてなくてごめんなさい」
 むき出しになった胸をまじまじと見つめつつ、驚いた顔で詩穂さんが言う。

「まあ、女に間違われるのは慣れてますから。今日はずっと女装してましたし」
 言ってて自分でも少し悲しくなってくる台詞。100%事実なのがなんともまた。
 ……問題はむしろ、女と思われることへの抵抗感が薄れていってることかもしれないけど。
女装SS総合スレ 第10話
97 : ◆fYihcWFZ.c [sage]:2014/04/09(水) 22:25:44.99 ID:bvEafg32
『瀬野家の人々』 俊也の場合-B1 2009年4月 4/9

「いやでも本当に身体細いのねえ。肌も綺麗だし、女風呂で一緒になっても『貧乳だけど素
敵な女の子だなあ』って絶対思うな。……どう? これから私たちと一緒にスパに行かない?」
「犯罪に巻き込むのは勘弁してくださいってば」

「そこなミニスカート姿の女装少年。ブラジャーの付け方分かるかい?」
「これ、理沙さんが無理やり着せたんじゃないですか……良くわからないです」
 女性2人の前で『正しいブラジャーのつけ方』を実演するのはどうかと思い少しとぼける。
 黒いブラジャーを付けてもらい、お腹丸出しの短い黒いキャミソールをかぶる。

 でも『私は悠里、女の子』と自分に言い聞かせて、女に成り切ったつもりでいるときより、
『あんまり女装慣れしていない少年』としてこの2人の前にいるときのほうが、ずっと羞恥
感が上なのはなぜなのだろう。
 もう慣れていたはずの、むき出しの太腿すら気恥ずかしくなってくる。

「で、ラストはこれ!」
「あっ、それ私のじゃない。理沙、人のタンス勝手に漁って持ち出さないでってば」
 目の前にぶらりと吊るされた、豹柄のトップス。
 大人しそうな詩穂さんが着ていたとは思えず、思わずびっくりした目で見つめてしまう。

「でも大丈夫? 俊也くん、私より背随分高いし、男の子だし入らないんじゃないの?」
「……まあ、とりあえず着てみます」
 大人しく袖を通してみる。オフショルダーなデザインで、ほっておくと際限なくずり落ち
そうな気がして、右肩にひっかける形で調整。

 左肩と背中側が大きく開いて、ブラジャーとキャミソールの紐が丸見え状態。
 一応丈はスカートにかかる程度で、腕を高く上げない限りお腹が見えることはなさそう。
 袖は肘上くらいの長さ。
「うわあ。ちょっとショックかも。普通に入って似合ってる。……きついとかない?」

 実は少しぶかぶかな感じがするけど、これを言ったらショック与えそう。
「一応、大丈夫かと。生地が伸びたらごめんなさい。新品を買ってお返ししますね」
「いや、どうせもう着るつもりなかったから大丈夫。プレゼントしてもいいわよ」

「姉貴、『どうしよう、入らなくなっちゃったー』とか言ってたもんねえ。着たくても着れ
もんからねえ」
 そう言ってケタケタ笑う理沙さん。あまり突っ込まないほうが良い話っぽい。

「それにしても……この時点でもう、完璧女の子だよね。肌綺麗だし、頭小さいし、首細く
て長いし、肩幅狭いし、それに顔もアイドル顔負けな超美少女だし。
 いーなー。私もこんな美人に生まれたかったなあ」

 『うわっ、手も凄い綺麗。手タレ出来るよ』『足ちっちゃーい。可愛くていいなあ』とか
微妙に羞恥プレイめいた賞賛を受けつつ、マニキュアとペディキュアを塗ってもらう。
 こんな風に褒められるのは珍しくないけど、指先が真珠色に光る様子はなんとも新鮮だ。

 そのまま理沙さんの手によって化粧一式も受けさせられて、茶髪というより金髪に近い、
ウェーブのかったウィッグを被らされる。
女装SS総合スレ 第10話
98 : ◆fYihcWFZ.c [sage]:2014/04/09(水) 22:27:19.00 ID:bvEafg32
『瀬野家の人々』 俊也の場合-B1 2009年4月 5/9

「うっ……わぁ…………」
「わお。やっぱり美人はどんなにやってもサマになるんだ。カクサ社会だなあ」
 化粧は、魔法だ。
 差し出された鏡の中の、いわゆる『ギャル系メイク』を施された自分を見て、改めて思う。

 少女漫画でよくある、顔の半分以上を占める大きな目。
 長い付け睫毛で縁どられた黒目がちな目は、それがリアルに存在するかのような印象だ。
 ラメ入りのシャドウとチークを使用したのだろう。瞼の上と頬が微かに輝き、抑えめな色
合いの口紅を施された唇が、謎めいた笑みを漂わせている。

 男心を挑発するようで、でもどこか羞恥心を漂わせていて、自らの美を勝ち誇るようで、
でもどこか危うさを放っていて。
 もしお姉ちゃんがこんな格好で僕に迫ってきたら、僕はどんな反応を示すのだろう?
 ドキドキが止まらない。スカートの下、股間が熱く、堅くなるのを感じる。

「理沙、あんな風に背筋を伸ばして姿勢よくしなさいよ。くねくねしてみっともない」
「うわ、とばっちりきた。説教くせー。どーでもいーじゃん」
「でもこれ……途中から完璧に意識から抜けてたけど、あなたって本当は男の子なんだよね」
「……ええ、そうです」

「プロの女性モデルさんって言われたら納得しちゃうなあ。どっからどう見ても男っぽいと
こなんてないもの。すっごい自然で。……もしかして女装慣れてたりするの?」
「俊也クンって、小学校入るまで、ずっと女の子として生活してたんだっけ?」
「へーっ。そんなこと本当にあるんだ」

「そーだよ。昔、悠里によく俊也クンのアルバム見せてもらってたもん」
 お姉ちゃん、そんなことしてたのか。
「ちっちゃいころの俊也クン、全部女の子の格好してたっけ。七五三とか可愛かったなあ」
「昔の話で記憶には残ってないんですが、よく姉のお下がりを着せられていたそうです」

「ああ、そういう話か。なるほど。でもそれならこの馴染みようも納得?」
「小学以降は女装してなかったんですが、先週、突然姉に『服入れ替えて遊びに行こう』っ
て無理やり女装で外出させられて。で、その時偶然美亜紀さんに会って、僕が姉の振りをし
て応対して……で、一昨日も姉の身代わりをさせられた、って流れです」

「じゃあ、別に趣味で女装してるわけじゃないんだ?」
「絶対に趣味じゃないです。好きでこんな格好はしません」
 今のところは、まだ。たぶん。きっと。そうであって欲しいと切に願う。
「どーかなー? マンザラでもない、って顔しまくりだったじゃん」

「別にいいんじゃないかな。ほら、最近男の娘とか流行ってるみたいだし。いっそ本当の女
の子になっちゃったほうがいいんじゃないの?」
「やめてください。ただでさえ、男から告白されて嫌な思いしてるんですから」
「ええと、それはごめんなさい。でもこれだけ美少年なんだから、女の子にももてるんじゃ?」

 着替えに化粧で、予想外に時間が経っていたらしい。その質問に答えようとしたときにフ
ロントから終了前の電話がかかってきて、そのまま外に出ることにする。
女装SS総合スレ 第10話
99 : ◆fYihcWFZ.c [sage]:2014/04/09(水) 22:28:25.35 ID:bvEafg32
『瀬野家の人々』 俊也の場合-B1 2009年4月 6/9

「フロントの男の子、すごいびっくりしてたね」
「入るとき、あいつ俊也クンに気のある素振りしてたもんね」
「清楚で大人しそうな美少女が、ギャルに化けて出てきたらそりゃ驚くか」
「……あの、それなんですが、出来れば『俊也』って呼ぶの止めていただけませんか?」

「うーん。そーだねー。……じゃあ、こーしよ? 俊也クン、これから敬語禁止。1回破っ
たら、1回『俊也』って呼んであげるから。どう?」
「……ええ、わかりま──うん、わかった」
「もっと砕けた調子でいーよ。ねっ、『トシコ』ちゃん!」

 なるほど今日の僕は、『トシコ』ってギャル系の女の子なのか。
 どこまで出来るか、不安と同時にワクワク感を覚えている自分がいた。

「とりま、サンダル買いにいかねばだ」
「これじゃダメ?」
「そのコーデで、スニーカーはダメっしょ! 論外」

 下着に衣類、化粧に香水、アンクレットまで含めたアクセサリ類一式。
 理沙さんが持ってきた女のもののアイテムで身を包んだ僕だけど、唯一靴だけが履いてき
た男物のスニーカーのままだ。
 近場の店に入って、適当に安物で女性用のサンダルを購入してみる。

「それじゃ、私はここまでかな。また夕方に荷物持ってくるから、その時また会いましょう」
 店を出たところで、履き替えたスニーカーをビニールに包んで、ほかの荷物も入れたカバ
ンに突っ込んだあと、詩穂さんがそんなことを言った。
「ほいじゃーねー。あーとん」

「……そういう予定だったんだ?」
「てか元々来ないハズだったんだけどね。どうせなら、ってことで荷物持ち頼んだだけだし」
 『やじうま兼、解説役』って、本当なのか。去っていく詩穂さんを手を振って見送る。

「ま、あのオバサンのことは忘れて、れっつごー」
 理沙さん──リサに手を引かれて、街を歩き出す。
 いつも見慣れた街並みとは違う、それでも十分に大きな街並み。行きかう人も当然多い。
 男でいるとは当然違う、『瀬野悠里』でいるときとも大きく違う視線に少し戸惑う。

 いや、一番違うのは『視線』じゃなくて『視線の不在』か。
 “ギャル系の外見をしている”、というだけで、目を合わせないよう、目を向けないよう、
不自然な方向を見てる人の多いこと。

 そして同時に、逆にガン見してくる人も多い。しかめ面でみてる中高年女性とか、エロそ
うな目で見る中高年の男性とか。
 付け根近くまでほぼ丸見えになった太腿から、ふくらはぎ、足首からつま先まで、今まで
になく視線が粘りつくのを感じる。男が男の脚を見て、何が嬉しいのかと思うけど。

 こうもジロジロ見られると、脚の付け根にある、短すぎるスカートと小さな布に隠された
『あるはずのない物』の存在に気付かれそうで、どうにも落ち着かない気分になってしまう。
女装SS総合スレ 第10話
100 : ◆fYihcWFZ.c [sage]:2014/04/09(水) 22:30:09.98 ID:bvEafg32
『瀬野家の人々』 俊也の場合-B1 2009年4月 7/9

「アタシらそんなことやんねーの、しっしっ」
「あんがとー。リサ、何度も何度も、もーもうしわけ」
「まったくしつこいよなあ。ヤになっちゃう。もー、エロオヤジ全部滅んじまえてーの」

 これで何人目だろう。
 援助交際目的で声をかけて来る男性の数が、段違いなのだった。
 そのたびにリサ(正直、この呼び方はまだ慣れない)が追い払ってくれたけど、自分一人
だったらどうなってたことやら。

「いつもこんな感じなの?」
「まっさかー。今日はトシコがいるから特別だね。トシコこそ、いっつもこんなん?」
「そーんなことないよぉ。無いこと無いけど、こんなにはナイ」
「そっかー。でもあるにはあるんだ」

「まーねー。……制服着てるときとか多いかな」
「あの制服かあ。あれ有名だし目立つもんねえ。めんこいし」
「……? んー。何か勘違いしてる?」
「え? ……ああっ。メンゴメンゴ。ナチュラルに間違えた。でも制服ってそれじゃ……」

 一昨日理沙さんが僕たちの家に遊びに来たとき、部屋の中に飾っておいたお姉ちゃんの学
校の、高等部の制服。その日、その場で着替えさせられたりもした。
 『制服』と聞いて理沙さんの頭に浮かんだのはその服みたいだけど、それはお姉ちゃんの
制服であって、僕の制服じゃない。僕の制服というと、詰襟のことだ。

「うん。そーゆーこと。珍しくもないよ?」
「むむー。まーいっか。プリクラ撮ろ、プリクラ」
 この手のお話はお気に召さなかったのか、あるいは僕の顔色を読んだのか。話題を途中で
打ち切って僕の手を掴んで、半ば強引にプリクラコーナーに引っ張り込んでいく。

「大丈夫? ここ女性専用ってあるけど」
「何か問題でも? トシコちゃん、女の子だよね?」
 はい、そうでした。
 少し意識から外れてたけど、今の僕──じゃない、『アタシ』は女の子なのだった。

 備え付けの鏡を覗き込む。
 派手な豹柄のトップス。大きく開いた左肩の上で、強いウェーブのかかった金髪が躍る。
 この鏡じゃ見えないけど、デニム地のウルトラミニから生脚が伸びている。
 下着だって上下ともに女物で、胸はないけどブラジャーもしている。

 瞬きするたび風が起きそうな付け睫毛に縁どられた、大きな目。カラコンを使うのは初め
てだけど、思った以上に印象が変わるものだと感心してしまう。
 いつも使ってる化粧品が、『無香料』の割には匂うので気になっていた。でも今の化粧に
比べれば確かに匂い抑えめだと納得してしまう。そんな女らしい匂いが周囲に漂う。

 『ギャル』と呼ぶには微妙に違和感はあるけれど、『女の子』──それも『飛び切り可愛
い女の子』としては違和感の欠片もない。
 そんな美少女が、どこか面白がるような表情で見つめ返していた。
女装SS総合スレ 第10話
101 : ◆fYihcWFZ.c [sage]:2014/04/09(水) 22:31:57.52 ID:bvEafg32
『瀬野家の人々』 俊也の場合-B1 2009年4月 8/9

「目でけー。エイリアンみてー」
「リサ、ひっどー」
 大笑いしつつ往来を歩く。『デカ目機能』か何かそんな機能を使って映った写真は、ほと
んど人のレベルを飛び越えて異常に目が大きくて、見てると自分でも笑いがこみあげてくる。

 プリクラ自体がほとんど初体験なのに、それも『女性専用』のところに入って色々撮って。
 春先なのに、買ったアイスを舐めながら往来を歩く。
 “瀬野俊也”には出来ない、やらない行動も、『トシコ』ならやすやすとやってのけてし
まう。そのことに内心嫉妬している自分を見つけて、戸惑ってしまうけれど。

「おー。リサめっけー。やっほー。その子が今話題のトシコちゃん?」
「やほー。サーシャ。うん、この子がトシコ」
「どもーっす。トシコっす。……って、アタシ話題になってるんだ?」
「うん、リサっちがお姫サマ連れまわしてるって。ういういしくていーねー」

 『体が細い』とよく言われる僕たち姉弟。それよりも更に痩せていて、見ていて少し不安
になるくらいの体型の、ギャル系の女の子が陽気に声をかけてきた。
 その“サーシャさん”に引き連れられて、少しだけ歩いて3人でファミレスに。

 カラオケでいたのは、既に男だと知られていた相手。でも今は、男とばれたらまずい相手。
 この短さのスカートで座ったら、正面から見れば膨らみが分かりそう。不透明な机の存在
に感謝するしかない。
 募る不安を無理やり押し隠して、スカートを押さえながら女らしく椅子に腰かける。

 もうほとんど何も考えなくても出来るようになった動作だけど、男には女にないものがつ
いてるし、骨盤の形も違うのだ。膝を揃えて綺麗に座れていることを、少し意識して確認。
 『女の子らしく』ということでパフェを注文してみたりしたあと、改めて自己紹介。

「ウチは、藤村サーシャ。まー、いわゆるDQNネームってやつ? トシコちゃんの周りに
はこーゆーのって、あんまりいないかにゃぁ?」
「んー、……そーでもないかも? クラスにもいるし。あと、サーラって親戚もいたかな」
「へー、そうなんだ。お嬢様学校って、そーいうのあんまいないと思ってたけどなぁ」

「お嬢様……、ってそんなんじゃないっすよ。別にフツーの学校っす」
 その言葉を口にしたあとで、カマをかけられていた事に気づく。
 正直、外見に引きずられて判断していたみたい。
 これは、気を抜くと凄い勢いで個人情報がばれてしまいそうだ。

「あ、そーなんだ。メンゴメンゴ。ときにその『親戚のサーラさん』ってDQNネームじゃ
なくて、マジモンの外国人?」
 いつもなら別にどうでもいいけど、女装中に身元バレはやばい。できれば女装なこと自体、
ばれないようにしたい。かなり口が滑ったと、今更ながら後悔してみる。

「あー。アタシね、今日ここに来たことがバレちゃうと、もう二度とこっち来れなくなっちゃ
うんだ。だからゴメン、そーゆー詮索はナシにしてくれないかな」
「うっはー。そんなセカイのお方ですか。じゃー、当たり障りのない質問にしなきゃだね。
 ……そだね、ならまず第一問。トシコさんは処女ですか?」
女装SS総合スレ 第10話
102 : ◆fYihcWFZ.c [sage]:2014/04/09(水) 22:34:58.47 ID:bvEafg32
『瀬野家の人々』 俊也の場合-B1 2009年4月 9/9

「ケホっ、ケホっ」
 『当たり障りのない』質問の最初ががそれかと、少しむせてしまう。
「ほほう♪ その反応、処女ですなぁ」
「……残念ながら、処女じゃないっす」

 自分は童貞であって、処女ではないんです。
 リサも店内に鳴り響く声でケラケラと大笑いして、「そーよねぇ。トシコは処女じゃない
よねえ」とか言ってたりするし。
 その言葉だけで分かってしまいそうで、冷やりとしてみる。

「ほうほう。じゃあさ、初体験はいつかな?」
「そこらへんはノーコメントで。つか、そもそも何でアタシの質問タイムになってるのカナ?」
「いやいやいやいや。こっちのみんなさぁ、トシコちゃんに興味津々なワケよ。ひょっとし
て実は某有名アイドルじゃないかとか、そこら辺まで含めてさ」

「うふふ。そこ、重点的にノーコメントで」
「むー。こりはなかなか。じゃあ、この質問はアリかな? トシコちゃん何の目的で来たの?」
「目的、かぁ……」

 今日は理沙さんに無理やり連れまわされてるだけで、最初から目的なんかない。何事もな
く解放されるのが目的と言えば目的だった。でも、『やりたい』ことならある。
「サーシャとリサの『フツー』が見たいかなぁ。いつもどんな風に遊んでるのか、いつもど
んなことを話してるのか、どんな風に物事を見てるのか、とか」

「なるほどー。それさ、ひょっとして、ドラマの役作りのためとか?」
「うふふ。ご想像にお任せ。初対面の子に処女かどうか聞いたらギャルっぽくなるのかな?」
「んなわけねー……って、実はあるんか?」
「まぁ、それでギャルっぽくなるんかと言えばノーだけど、割と普通の話題ではあるのかな」

 「まぁ、トシコちゃんのせっかくのリクエストだし」と、サーシャさんとリサさんの間で
『普通の会話』を繰り広げてくれる。
 今までセーブしていてくれたのだろう。意味不明な単語だらけで幾つかの話題が同時展開
して、あちこちに話が飛びまくって、相槌を打つのもやっとなくらい。

 知人の話、ファッションの話、最近見たTVの話、落ち目の芸人の話、生理の話、モデル
の話、化粧の話、おっさんの話、イケメンの話、恋愛の話……
 普段の中学の友人に比べると、やっぱりいろんな意味で『大人』な話題が多い。中学生と
高校以上の違いもあるだろうし、同学年でも男と女だと女性のほうが大人びてる気がする。

 一昨日の、『普通の女子高生』同士の会話も思い起こしてみる。
 違う面も多い。人生経験の種類も違う。でも──それでもやっぱり、ギャルも『普通の女
の子』の一員だし、『普通の人』の一員なことが、段々と腑に落ちてくる。
 平凡な事実が嬉しく思えて、茶々を入れつつ唇に笑みが浮かぶのを止められない。

「あれ、女装男かよ。まったく勘違いしてキモイったらありゃしない」
「うげぇ。ひょっとして、ばれてないと思ってるのかねえ。あーヤダヤダ」
 そんな会話を楽しんでいたのに、唐突に大声が店内に響いてきた。
女装SS総合スレ 第10話
103 : ◆fYihcWFZ.c [sage]:2014/04/09(水) 22:42:18.89 ID:bvEafg32
最初、『瀬野家での女子オンリープチ同窓会(女装少年入り)』を考えていたのですが、どうにも萌える
話にならなかったので、その次の話題で書いてみました。

『ほしゅ』の方の続きを読みたいなあ、と思いつつこちらもギャル系女装にしてみましたが、台詞とかが
難しいこと……添削ご指摘あれば嬉しいです。


次は、人によっては合わない描写になるかもしれませんのでご容赦を。


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