- 【セレナ】カルドセプト総合Book7【ミュリン】
520 :ライバーン×女主7[sage]:2014/02/03(月) 00:00:47.06 ID:mQXYquQP - 「……で、俺の得は?」
彼女の言葉の後、彼が平静を努めた台詞を吐くまで、やや間があった。 何故、間を空けねばならなかったのか。 故意にか否か、それを彼が意識することは無かったが。 「言うと思った」 男の台詞を聞いた彼女は妙に楽しげに、にんまり口の端をつり上げると、 「無いね」 妙にすっきりした口調で言った。 「ジェミナイと祭壇で戦う時に使うカード以外は、レオとセレナに全部あげちゃった。現金は国へ帰るレオの路銀にしてもらう予定だし、他にあんたが欲しがりそうな物は持ってない」 返事を聞いた途端、けっと吐き捨てるようにライバーンから短い嘲笑があった。 「ふざけんな。俺は儲からねぇ事はしねぇって言ったろ」 「わかってる。だから、これは『お願い』なの」 不愉快げな彼の態度も予想のうちと言わんばかり。彼女は落ち着いたまま、じっと賞金稼ぎを見つめている。 お願い。その単語を、彼は無意識に舌の上で転がした。 毎度毎度、人の話を聞かず、自分の都合に無理やり巻き込み力ずくのゴリ押しで無茶を通す。 そんな身勝手な女であるはずが、今日に限って、拒まれるのもやむ無しと言外に含んだりしているのが気に入らない。 それが、堪らなくライバーンを苛立たせる。 「……来いよ」 あまりに苛々したせいで、彼の口は彼を裏切った。 これはさすがに意外だったと見えて、豆鉄砲食らった鳩というかアーチャーに一撃もらったデコイというか、彼女は目を丸くしてぱちぱち瞬く。 そのまま動かない相手に焦れて、ライバーンは女の手首を掴んだ。 「相手してやるって言ってんだよ。疫病神のてめぇとの腐れ縁が切れるなら、気まぐれで付き合うくらいはしてやろうってんだ。気が変わらねぇうちに来いよ」 何の見返りもなく誰かの願いをきいてやるなどと、著しく流儀に反する行いだ。 なぜ、そんな事をしようと思ったのか、自分でもわからない。 理由をつけるとしたら、この程度しか思いつかない。 握った手首を引こうとして、ライバーンは女セプターの様子がおかしい事に気付く。 いつでも物怖じすることなく彼を見る女が、視線を落とし目を伏せている。 それだけではない。 俯いた顔が、赤い。顔だけでなく耳までほんのり赤く染まっている。
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521 :ライバーン×女主 8[sage]:2014/02/03(月) 00:07:37.64 ID:mQXYquQP - 「………その…手…」
短くはない沈黙の後、空気に掻き消えそうなほど弱々しい声がようやく女から漏れた。 「手?」 「あの…だから……は…かしい、から、えっと…は、離し…て」 いつでも飄々とした余裕を感じさせ、滅多な事ではペースを崩さない普段の彼女とは別人のように狼狽した、蚊の鳴くような声だった。 それを聞いたライバーンの中で、ある仮定が不意に浮かび上がる。 彼女の頭の中身が普通とかなり違う事は、短いような長いような付き合いの中で否応なしに理解させられている。 そうだ。常人とは相当にずれているからこそ、もしかして、もしかしたら。 それを確かめるため、握った手をゆっくりと引き寄せて、女の手の平に口づけた。 唇を触れさせた瞬間、細い腕がびくりと震えるが、それきりで特に抵抗する気配はない。 それだけ。唇で触れただけで一度動きを止める。 と、ごく微かではあるが、小刻みな震えが伝わって来た。 そのまま、目線だけを上向けて女の顔を伺う。 唇に落とすわけでもない、ごく軽く、撫でるように触れるだけの、何という事もない口づけだった。 それなのに、女はますます顔を朱に染め湯気でも吹きそうになりながら、まるで陸に上げられた魚のように口をぱくぱくさせている。 やはり、だ。 自分を犯した相手に好奇心で情交を求め、そしてまたとんでもない理由で体を重ねたがって来たこの女は。 そのくせ、手を繋いだり子供がじゃれるような口づけを送られたりと、そんな極々些細な事がひどく恥ずかしいのだ。 どんな敵を前にしようが決して揺らがなかった精神が、とても平静を保てなくなるほどに。 いつもいつも、破天荒な行動ばかりが目につく女の思わぬ一面を掘り起こしたライバーンは、知らぬ間に肩を震わせて笑った。 こいつに、こんな部分があったとは。 いや、もしかしたら、芽生えたとでも言ったほうがいいのかも知れない。 さらに言うなら、こいつにこんな顔をさせられるのは、世の中広しと言えどもおそらく自分だけなのだ。 そう思うと、不思議なもので一気に優越感が込み上げる。 そして、これ以上に忌々しい事は今後の人生において決して起こるまいと断言出来るほど忌々しいことに、そんな彼女の顔を、本当に本当にほんの少しだけ、可愛いと思ってしまった。
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522 :ライバーン×女主 9[sage]:2014/02/03(月) 00:21:26.57 ID:mQXYquQP - 悪戯心で、人差し指の先を伸ばした舌で一舐めしてやる。
ひゃっという、悲鳴にしては甘やかな声が小さく零れた。 「何、女みてぇな声出してやがんだよ」 気分よく揶揄してやると、女セプターが無言のまま憎たらしげに、にやつく賞金稼ぎを睨む。 が、赤い顔のままでは迫力も何もあったものではない。 おかげでライバーンはその時、油断しきりだった。 勢いつけた彼女に飛び掛かられても、まともに抵抗できなかったのだから。 ぶつかってきた重みに押し倒される形で、そのまま重なりあってベッドへ倒れ込んだ。 噛み付くようにして唇を重ねられたかと思うと歯が当たる硬い感触があり、続いて舌がぎこちなく口内へ入り込んで来る。 至近距離で聞こえる水音。犬歯の尖りが舌を掠めて、ぞわりと背筋が疼く。 色気も艶も駆け引きも打算も感じさせない、がむしゃらで幼い口付けを妙に新鮮に感じながら金の髪に指を沈めて後頭部を押さえつけた。 回した腕で柔らかい体を捕らえると、呼吸ごと彼女の舌を絡め取る。 舐めて、吸って、舌と一緒に唾液を啜り、送り込んで、また絡ませる。 舌先で感じる、唾液に濡れた柔かな感触は、女の中を克明に思い出させ、その記憶で素直に反応し始める息子が少しばかり業腹だ。 呻きながら胸板を軽く押して、離れたいと彼女が意思を伝えると、ようやく腕の力を緩めて唇を離した。 ちょうどナニの上に乗っている形の女が彼の体に起きている変化に気がつかないわけがなく。 一度ちらりと視線を下向けてから満足げな色みを青い目に覗かせると、膝で体重を支えて体を浮かせ、さっきまで下敷きにしていた部分をしなやかな手付きで撫で上げて来て、含みのある微笑を浮かべている。 煽る手の動きと艶のある笑みを見て、処女散らした時には声も出ない有り様で半泣きだったくせにとライバーンは苦笑した。 「何ニヤついてんの?」 すっかりいつもの調子で口を利く彼女の、柔らかでいて張りのある太股をライバーンの掌が撫でる。 「生娘になんか手え出すんじゃなかったって思ってたんだよ」 その指の先端を引っ張り、女が革手袋を抜いた。 「あのとき余計なことしなきゃ、こんな面倒な事にならなかったのにねぇ」 完全に面白がる響きで他人事のように言う彼女の帯を、なだらかに括れたウエストへ這い上がった男の手が解く。 「それよりずっと前、そもそもデュナンでてめえに関わらなけりゃ、なべて世は事もなしだったんだ」 「喧嘩売る時は相手よく見ろって事だね」 「お前、俺をムカつかせずに喋るって簡単な事が無理なのか」 「簡単なんてとんでもない、それ超難しいよ。何言っても怒るんだもん。小魚食べるとイライラしないらしいからさ、後で干したヤツあげようか」 「いらねーよ、ふざけやがって」 ベッドの上の男と女にしてはずいぶんと色気のない会話を交わしつつ、脱がして脱がされてを互いに何度か繰り返し、全てを取り払ってしまうとシーツの上に寝転がる。 使い古されたシーツの毛羽立ってざらりとした肌触りを直に感じながら、どちらともなく腕を伸ばして素肌を重ね合うと、水にインクを落としたように滲み、混ざる体温が心地好かった。
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523 :ライバーン×女主 10[sage]:2014/02/03(月) 00:31:55.88 ID:mQXYquQP - 己の下に横たわる女の滑らかな肌の上、鎖骨のカーブに沿ってライバーンが唇をすべらせると、髭の先で擽られた女が楽しそうに笑いながら身を竦める。
「……ねぇ、一発で仕込んでよ」 「無茶言うな」 無理難題をふっかけられたライバーンが顔を上げると、彼女は緩く目を瞑っていた。 「明日には、プロムスデルに着いてしまうから……」 残された時間の少なさを口にした女の瞼に、ぎゅうと力が篭るのが見える。 その顔を見なかったふりしたライバーンが白い胸元へ再び唇を寄せ、軽くついばみながら下降する。 口づける度に体温を上げてゆく肌から女の匂いが濃く立ち上り、吐息とともに彼の体の下で太股が焦れて揺れる。 ふわふわとした乳房の柔らかさをたどって昇り、頂点を唇で挟んで軽く吸い立てると、短く甲高い鳴き声を上げて女の体が震えた。 見る間に硬くなる乳首を口の中で転がしなぶる。 「ッ…」 首から肩にかけて力を込めた女が、零れそうになる矯声を喉で押さえつけていると気配でわかり、彼は目を細める。 乳房を解放して、粟立つ白い肌に舌先で唾液の筋を引きながら滑り、ある箇所で動きを止めた。 ちょうど、豊かな双丘の間。 薄い皮膚と肉と肋骨の下で鼓動する心臓の真上。強く、強く、口付けて赤い痕を鮮やかに残す。 「あ、」と女から微かな声が漏れた。 「逃げるか」 「………え?」 ライバーンが発した一言が何の脈絡もなく、あまりに唐突だったせいで、彼女が聞き返す。 逆の立場は何度も経験したが、これは非常に珍しい。惑いの呟きを耳にした彼は、少しばかりしてやったような気分になる。 「カード、持ってんだろ」 余程の事がない限りセプターはカードを肌身離さず持ち歩く。女も、曖昧に頷いた。 「そいつを根こそぎ頂くついでだ。このまま黙って行方眩ますなら…付き合ってやらねぇ事もねえ」 神になる運命からも世界と宇宙を脅かす危機からも逃げて身を隠し、望むなら幾ばくかの時を共に過ごして人として生を終える。 世界が終わるからどうしたと言うのか。どうせ誰でも最後には死ぬ。それが一律に揃えられるだけだ。 セプターの能力があれば暮らしに困る事はない。ましてや、彼女の力は群を抜いている。 明日か、明後日か、数年後か。世界が滅ぶという日まで、自分のために能力を振るい、行きたい土地へ足を向け、見たいものを見て、勝手気ままに暮らすことは容易い。 そうする事の何が悪いのか。 何もかもを一人で引き受けてやらずとも良いではないか。 それは、小悪党が舌先三寸に乗せて唆すに相応しい甘言。 唇を掠める距離で囁かれる甘い誘いに、彼女がほとんど吐息だけで薄く笑う。 「…………いい、ね」 情欲に滲む女の目許が、複雑に揺れた。
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524 :ライバーン×女主11[sage]:2014/02/03(月) 00:40:47.76 ID:mQXYquQP - ベッドで体を絡ませながら男が女に囁く言葉など、何より当てにならない戯れ言と古今東西、相場が決まっているというのに。
だから、ライバーンは世間知らずの小娘の愚かさを、鼻先でせせら笑う。 「真に受けんなよ、こんな、つまんねえ話」 膝裏を抱え、のし掛かって、奥の奥まで貫いて抉る。 これ以上は望めぬ場所まで体を繋げて、思い切り嘲った。 指一本すら触れられていない女の中心は、しかし滴るほど蜜に濡れていて、狭い場所を乱暴に割り裂き進む剛直を歓喜とともに迎え入れる。 「う……ん…っ」 喘いだのか、相槌だったのか、甘く圧し殺された声が女の喉から溢れた。 「出来もしねぇ、くせによ」 見ず知らずの魔法の杖などという胡散臭い相手からいきなり助力を求められて迷いも無く承諾し、何の得にもならない長旅をするような底抜けのお人好しには、宇宙の危機とやらを見過ごす事も、仲間を捨てる事も無理だ。 そもそも逃げた所で、どうにもならない。 神の使いにしろ教祖にしろ、草の根わけても探し出すに違いないのだから。 「嘘つきは泥棒の始まり、ってな」 揶揄の声と共に、ゆっくり腰を引く。 女の中は名残を惜しみ、熱く潤んでねっとりと絡み付く。 「あ……あ…っ」 胎内を擦られる快楽に、背をそらした女が喘ぐ。 喘ぎながら、短く息を吐いて呼吸を整えようとする。 「は…ぁ…ッ…あんたに、嘘つき呼ばわりされるのは、心外…ぃ…っ!んん…ぁ…ッ…」 上擦りながらも、憎たらしい台詞を吐くことは忘れない彼女が言いかけた憎まれ口の残りを、ライバーンは深く穿つ事で黙らせた。 どうあっても、ただ可愛らしくはいられないのが、らしいと言えばらしい。 ぎりぎりまで引き付けた昂りをねじ込んで行くと、狭まった奥の方でざらりとした襞が絡み付いて来る。 ここが弱い場所だ。二度の経験で、そう覚えている。 ぐいと押し込むと、女が悲鳴に似た甘い声を上げて身をよじる。 蕩けた奥をかき混ぜ、舐めるようにして味わいながら戻ると、また深い位置を目指して沈みこむ。 弱点を集中的に責めて律動させ往復する度、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が立つ。 女は男を逃すまいと捕らえて新たな蜜を垂らし、それでもまだ足りないと深く呑み込む。 ぎこちなくはあるが相手の動きに精一杯応え、彼を欲して彼女は腰を揺らめかせる。 その様は、貪欲、淫らというよりは、いっそ健気なほど。
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525 :ライバーン×女主 12[sage]:2014/02/03(月) 00:46:16.29 ID:mQXYquQP - 「…ひぁ、あ…ライバーン……」
頼りなげに持ち上げられた白い腕が、躊躇わずライバーンの背に伸びた。 強く抱きつく事で、絶頂が近い事を彼に訴える。 しがみつかれた彼は、彼女の顔を覗き込んだ。 快楽ゆえか、他の理由か、涙で曇る青い目が男を映し、湖面のような青に彼の顔が像を結ぶ。 それに気付いたライバーンは、悪党らしく、不敵に、下品に笑う。 笑った、つもりだ。 すぐに女の肩口に顔を埋めたので、実際どうだったか。 「あ…、あぁ…ッ!ライバーン…ライバーン…っ」 うわ言めいて彼の名を繰り返す彼女のうなじを唇で弱く食みながら両腕の中にその体を捕らえると、柔らかな肢体が、がくがくと小刻みに震え、彼女の内側が搾り取るように蠢く。 「くぁ…あァ…っ、あ…はぁ…っ」 ライバーンが強く抱き締めると同時、彼女の体からくたりと力が抜ける。 達した女に一拍置いて、彼もまた快楽に目を閉じ欲望を放った。 疲労と充足感の混じる気だるさにまかせて女の上に倒れこむ。 相手も重たいと文句を垂れる余裕はないのか、荒い呼吸と汗の滲む素肌を重ね、長いような短いような無言が互いの間に訪れる。 濡れた肌が冷えて冷たく、相手に触れている箇所だけ温かい。 と、不意に、まだ体を繋げている女のすべすべしたふくらはぎが、ライバーンの太ももを撫でた。 耳朶に付けた金の耳飾りを、ぬるく湿った女の舌先がちろりと弄ぶ。 それだけで、放ったばかりだというのに、再びライバーンの体の芯が熱を持ち始める。 身の内にくわえたままの彼の分身が質量を取り戻しているのを感じ取った彼女は無意識にそれを締め付け、そうする事で伝わる他人の形に陶然とした深い息を吐き出した。 「……まだ、出来る?」 冷めやらぬ熱を含んだ眼差しを向けられ、ライバーンは唇だけで笑う。 これで、男を知って間もないのだから恐ろしい。 「仕方ねぇ、最後まで付き合ってやるよ」 応えたあとはもう、言葉らしいものを交わす事もなかった。 互いに奪えるだけ奪い、与えるだけ与え、どちらが先にかわからぬほど疲れ果てて意識を手離すまで、交わり続けた。 泥のように重たい眠りに引きずり込まれる寸前、腕の中に抱き締めた女が胸板にそっと唇を寄せるのがわかった。 微かな音を立てながら何度も不器用な口付けが繰り返される。 どうも、痕をつけたいが上手くいかないらしい。 目を開ける事すら億劫でしたいようにさせていたが、何度目かで擽ったさを堪えきれなくなったライバーンは小さく笑い声を立てる。 その、肌に触れる唇の柔らかな感触が、この日、彼が覚えている最後の記憶となった。
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- 【セレナ】カルドセプト総合Book7【ミュリン】
526 :ライバーン×女主13[sage]:2014/02/03(月) 00:55:08.21 ID:mQXYquQP - 淀んだ水底から水面へ浮上するように、ゆっくりと目が覚めた。
馴染みの無い上掛けの感触。 自分が衣服を纏っていない事。 今、こうして寝そべっている場所。 溶けるような眠りに引き込まれるまで、誰が共にいたのか。 散らかる記憶の断片を寄せ集めながら半覚醒のぼんやりした頭で手を伸ばし、傍らにあるはずの体温を探る。 しかし、手に触れるのは柔らかく吸い付くような肌ではなく乾いたシーツの冷たさで、さらりとした木綿の布地を撫でた途端、それまで輪郭をぼやかしていた意識は急速に固まった。 弾かれたように体を起こすと、寝具から立つ衣擦れの音は意外なほど部屋に大きく響き、一人きりなのだと痛いほど感じさせる。 眠る前の記憶ではまだ黄色みがかって明るかった日の光が、今は赤みを帯びて部屋に差し込んでいた。 全身に重たくまとわりつく倦怠感に顔をしかめ、時間の経過を大まかに把握しながら鈍い動きで首を巡らせる。 意識を途絶えさせるその瞬間まで、ぴたりと体を合わせていた相手は既に影も形もなく、グシャグシャに乱れたシーツと、その上に置かれた物が無ければ全ては夢だったと思ったろう。 シワだらけの安っぽい敷布の上。 ぽつんと残された、カードの束と、その下敷きにされた黒い革がライバーンの目に写る。 束のうち何枚かめくってみると、煮え湯を飲まされ続けたクリーチャーとスペルで、彼女愛用のブックだと確認出来た。 正体のわかったカードをぞんざいにシーツに投げ出して、次にブックの下に置かれていた黒い物体をぼんやり眺める。 何となく見覚えのある黒い手袋だ。 数秒経って、それがイカれた老錬金術師の屋敷で無くした自分の持ち物だと気付き、彼女が返そうとしていた忘れ物を悟った。 たかが手袋一つ。こんなつまらない物のために、あんな下らなくも腹の立つ噂を流されるとは。下らなすぎて泣けそうだ。 断じて、それだけの理由で、目頭が熱い。 ライバーンは項垂れる。項垂れて、胸の中央、やや左下の位置に赤い鬱血を一つ見つける。 ちょうど、心臓のある辺りだ。 深く息を吐き出して仰向けに倒れ込んだ彼は、いつぞや自分が忘れた手袋を握った手で、顔を覆う。 ちょうど忍び寄ってきた夕闇が狭い部屋に存在するあらゆる輪郭を溶かし、何もかもを呑み込んだのは、彼にとって幸いであったかも知れない。
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- 【セレナ】カルドセプト総合Book7【ミュリン】
527 :ライバーン×女主14[sage]:2014/02/03(月) 01:06:02.20 ID:mQXYquQP - ーーーと、まあ、つい一週間ほど前、そんな事があったものだから、今現在、隻眼の賞金稼ぎは、笑顔で目の前に立っている金髪の女セプターに向かってどんな顔をするべきなのかわからずにいる。
とりあえず、色んな意味で複雑な胸中から、苦虫を噛み潰したような渋い顔が現在進行形だ。 場所は、王都の酒場の前。いつだか彼女に絡まれて飲む羽目になった彼の行き付けの店。 昼は過ぎたとは言え、まだ夕方にもならないうちから店が開いているはずもないが、常連客なら無遠慮に侵入しても寛大な店主は飲ませてくれる。 人生を狂わせた疫病神が消え失せたのが清々しすぎて、日が高かろうが低かろうがお構いなしに、とにかく酒に浸りたい気分でやって来たライバーンは、店の前で壁にもたれ掛かり人待ち顔で立っていた女セプターとまさかの御対面と相成ったわけだ。 「……神様に、なるんじゃなかったのかよ」 不機嫌に言うと、彼女は日溜まりの猫のように目を細めた。 「誰かさんに、大事なブックを丸ごと全部盗まれたんだよね。迂闊にも」 喉の奥で噛み殺した笑いが、実に楽しそうだ。 「秘蔵のカードたっぷりのブックでさ、あれ以外で勝つ自信ないから、もう一回同じブックを組めるカードが集まるまでは神様になれそうにないんだな、これが」 よくもまあ、抜け抜けと。突っ返してやろうか。 換金する気になれなかったカードは全て懐に残っている。 「そりゃ、凄腕の泥棒がいたもんだな。超ダンディーな天才カードハンターに違いねぇ。それか、手前ぇが救いようのない間抜けになったかだ」 嫌みをたっぷり吐いてやるが、ふふんと鼻先で軽くあしらわれただけに終わった。悔しい。 結局自分は、この世界に留まるための口実に上手いこと使われただけなんじゃなかろうか。 本当に、忌々しい。とことん食えない女だ。 いや、違う。こいつに限らず女というのは、そもそもそういう生き物だったのを忘れていた。 ライバーンがそれは深く反省し自らを戒めていると、くいくいとコートの裾を引っ張られた。 「忘れ物だよ」 「……手袋なら受け取ったぜ?」 あの、錬金術師の屋敷に忘れた手袋の事を言っているのだと、彼は思ったのだ。 しかし、彼女は自分の鼻先を人差し指で指差した。 「あの時持ってたカードのついでに、連れて、逃げてくれるんだったよね?」 丸い目を輝かせた女セプターが、賞金稼ぎの手を取る。 実に憎たらしい表情を目にした彼から舌打ちが漏れる。 「与太話を信じんなって言ったろ。死んでも願い下げだぜ、この疫病神が」 悪態をつくライバーンは、その手を、振り払わずに思い切り引いた。 いとも容易く腕に飛び込んできた彼女の、唇ではなく、額に口づける。 たちまち耳や首の辺りまで赤く染まり、湯だったようになった女の顔を見て、彼は少しばかり溜飲を下げたのだった。 ソルタリアで覇者となった彼女が、この先、新たな世界を創造し神となるかどうかはまだわからない。 が、疫病神に取り憑かれた彼の人生が、末永く波瀾に満ち満ちている事だけは、この時、明確に決定づけられる事となったと書き添えておく。
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- 【セレナ】カルドセプト総合Book7【ミュリン】
528 :名無しさん@ピンキー[sage]:2014/02/03(月) 01:09:10.65 ID:mQXYquQP - 以上です。
おかげさまで書いたものが無駄にならずに済みました。 ありがとうございます。 ライバーンは主人公が男でも、いなくなると案外寂しがる気がしている。 次にレオ辺りをネタに何か書けたら持って来ます。
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