- 【セレナ】カルドセプト総合Book7【ミュリン】
513 :ライバーン×女主の人[sage]:2014/02/02(日) 23:17:09.97 ID:dgD6DlpR - ライバーンと女主持って来たので投下させて頂きます。
女主さんはちょっと変人の女勇者アバターでよろしくお願いします。
|
- 【セレナ】カルドセプト総合Book7【ミュリン】
514 :ライバーン×女主 1[sage]:2014/02/02(日) 23:21:00.32 ID:dgD6DlpR - ソルタリア最古の遺跡の一つに天空の祭壇と呼ばれる、空に浮かぶ巨大な島がある。
いかなる時代から存在するか定かでないその祭壇は遥か高みより大地を見下ろす荘厳たる構えで、いつからともなく主神ソルティスに祈りを捧げる信徒達にとっての聖地となり、多くの巡礼者で賑わった。 しかし、祭壇の膝元にある都プロムスデルへジェム教団を名乗る一団が本拠を構えて勢力を拡大し始めると巡礼者は目に見えて減り、街道沿いに数多ある宿場町も活気を失って久しい。 のだが、ここ数週間ほどの間に事情が大きく変わった。 多くのセプター達を配下に治め東大陸を制圧していたジェム教団が、壊滅的な打撃を受けたのだという。 絶対のカリスマ性で教団を統治していたはずの教祖に何があったのか。一部の部下による謀反であるとか、暴走したクリーチャーによって教祖が深手を負ったのだとか、噂だけは様々に囁かれるものの定かではない。 しかし沈みかける船から鼠が逃げ出すが如く教団を離れる元信者は日に日に増え、聖地を目指す巡礼者も少しずつ見られるようになると、それらを目当てに商人たちも動き出す。 僅かな前進ではあるが、街道は再びかつての賑わいを取り戻しつつあった。 そんな時勢であるから、聖都プロムスデルまであと少しの位置にある宿場町でも、目抜通りはなかなか混雑していた。 正午を少し回った時間のせいもあり食事と休息を求める旅人達が群れを成して泳ぐ魚のように途切れる事無く流れ、彼らに売り込もうと土産物や食べ物を扱う露店から客引きの声が賑やかに飛ぶ。 その通りの隅、黒衣の人影が姿を表した事に、気がついた人間が何人いただろうか。 ほんの一瞬前まで何もなかった場所に次の瞬間、時間と場所を継ぎはぎしたような唐突さで、鍔広の帽子を被り黒いコートを着た隻眼の男が立っていた。 右目を覆う派手な装飾の眼帯が目立つ、すぐに筋者と察しがつく風体だ。 隠されていない左目に剣呑な輝きを爛々と宿している今、その印象はさらに強い。 前触れのない男の出現に気が付いた僅かな人間の一人。露店を冷やかしていた最中、彼に進路を阻まれた金髪の若い娘が足を止め、そっと目を細める。 セプターである彼女には、空間を操作した魔力の名残が彼の周囲に細かな粒子となって微かに煌めく様を読み取れた。 「……見つけたぜ」 彼から発せられたのはたった一言のみだったが、地の底で唸るような低い声にこれ以上ない怒りが籠っていた。 忌々しい相手に思い付く端から罵倒の言葉をぶつけてやりたい。しかし人間というものは腹が立ち過ぎてしまうと逆に言葉が出なくなるのだという事を、ライバーンは現在進行形で痛感している。 だというのに、彼をそれほどまでに怒らせた張本人は、彼と正反対の明るい笑みでもって彼を迎えた。 「やっと来たわね。遅かったじゃない」 まるで友人に対するように、ひらひら手を振りながら呑気に話しかけて来るのが神経を著しく逆撫でる。 多少の個人差はあれど、自分以外の術者の気配を感じ取る事は、セプターならば難しくない。馴染んだ相手であれば更に簡単だ。 この様子を見るに、彼が彼女を見つけたのとほぼ同時、女セプターがさりげない風で雑踏に紛れ仲間と徐々に離れて一人になったのは偶然ではなかったようで。 「…俺が何で追いかけて来たか、わかってるよな?」 「えー、全然わかんないなー。若さへの嫉妬?」 「黙れ」 「…若さへの嫉妬?」 「二回も言うな!」 なめられている。完全に。 愉快そうにこちらを窺う女に向かってマジックボルトを叩き込んでやりたい衝動に駆られたライバーンはコートの内側へ手を突っ込んで、寸でのところで思い留まる。 一見して堅気ではなさそうな男と見目だけなら麗しい乙女の組み合わせは、通行人や露店商達から少なくない注目を集め始めている。 下手に騒ぐと、はぐれた彼女を探している筈の仲間が駆けつけ多勢に無勢、という事になりかねない。 「……顔貸せ」 しばらくの沈黙を経て、短く吐き出すのが精一杯だった。 付いて来いと手で促して背を向けライバーンが歩き出すと、軽い足取りで女セプターが続いた。
|
- 【セレナ】カルドセプト総合Book7【ミュリン】
515 :ライバーン×女主 2[sage]:2014/02/02(日) 23:25:39.64 ID:dgD6DlpR - 一言も発する事無く進むライバーンの後を、変な模様の野良猫がいただの屋台の串焼きが旨そうだのと、一人で勝手に喋りながら女は付いてきた。
ある程度の大きさがあれば、どの町にも悪所と呼ばれる一帯はあるもので、お世辞にも褒められたものでない経歴を引っ提げて流れ者をやっていると、どの辺りにそんないかがわしい一角があるか何となくわかるようになる。 彼が今、足を向けているのはまさにそういった胡散臭い辺りで、しばらくすると町並が猥雑なものに変わって来た。 日が沈む頃には酒と吐瀉物の匂いが漂い、酔っ払いの喧嘩や客の袖を引く街娼の猫なで声などで混沌とした活気に満ちる筈の場所。 まだ日は高く世界は明るい。それでも少し前まで歩いていた界隈とは一線を画する雰囲気の周囲を、珍しそうにきょろきょろしながら歩く彼女が後に続いているのを肩越しに振り向いて確認したライバーンは、ある建物に入る。 風雨に晒され看板の文字も判然としない、絵にかいたような木賃宿。 サービスらしきものは一切存在しない代わりに従業員との接触は最小限、料金は格安、胡散臭い客にも詮索無しという、こういう宿の性質はどこの土地でも変わらない。 今、出会いたくない面々がいかがわしい界隈に不馴れであろう事からも、うってつけの場所だ。 ライバーンは入口で居眠りしていた白髪の老婆に部屋の空きを確認して一泊分を前払いすると、振り向きもせずに薄暗い廊下を進む。 背中に聞こえるブーツの踵が廊下を踏む足音と、安普請の床板が軋む音で女が続いたのは知れた。 やがて空き部屋の前にたどり着いたライバーンがドアを開けると彼女は部屋を覗き込み、中央に置かれた簡素なベッドが目立つ狭い室内を見て、そわそわした落ち着かない視線を彼に流す。 安宿は街娼が客を連れ込む事も多い。さっき通った廊下にも早めの仕事に勤しんでいるらしき矯声が憚りもせず漏れ聞こえていたから、まあこんな反応も無理からぬ事かも知れない。 その視線に、目で促して先に女を部屋に入れたライバーンは、自分も部屋へ入るなり乱暴にドアを閉めた。 「てめぇ、あんなふざけた噂流しやがって、どういうつもりだ!」 叩きつけるように扉を閉めるが早いかライバーンの怒鳴り声が部屋に響いた。 仲間と呼べるような集団に属す事も長らく無い身だが、それでもそれなりに他人との関わりは生まれるものだ。 彼女が広い範囲に流した馬鹿馬鹿しい噂のせいで、そのそれなりの人脈のうち真に受けなかった多数派からは面白半分のからかいの種にされ、真に受けた少数派からは流行り病の類いを疑われ、それはもう不愉快極まりない思いをさせられて腸が煮えくり返っている。
|
- 【セレナ】カルドセプト総合Book7【ミュリン】
516 :ライバーン×女主 3[sage]:2014/02/02(日) 23:29:12.58 ID:dgD6DlpR - 開口一番で噛みつかれた彼女は、不機嫌にふんと鼻を鳴らして口を尖らせた。
「忘れ物返そうと思っただけよ。どこにいるかわかんなかったから、そっちからも探してもらおうと思って、あんたが追いかけて来るように仕掛けたんじゃない」 わざわざ後を追いやすいように目立つ行動を取り、探しやすいように進路を取り、急かすゴリガンをのらくら言いくるめて道行きを遅らせ。その努力が実を結んで今、こうして無事に賞金稼ぎと再会を果たせたわけだ。 彼は非常に不満なようだが。 「そういうのはな、もっと普通に探せ!」 「普通に尋ね人の貼り紙でもやって探したとして、色々後ろ暗いあんたが素直に出て来るとは思えない」 全くもってその通り。もしそんな探し方をされていたら名乗り出るどころか全力でトンズラしているところだ。 言い返せなくなったライバーンが舌打ちする。 「ちゃんと手前ぇのお遊びにも付き合ってやっただろ」 神になる前に、まともに男と情を交わしてみたい。そんな戯言を抜かしたこの女と、色々押し切られたとはいえ事に及んだ。 が、それで話は終わり、自分は疫病神と二度とかかわらなくて済むはずだったのだ。こいつがおかしな真似さえしなければ。 「だから不能だって言ってないよ」 押し切る際に口にした約束は違えていないと、平然とした顔のまま女は言ってのけた。 「そういう問題じゃねえ! 大体、何なんだよ。あの緑色の汁が出るとかいう訳わからん話は」 また怒鳴る彼に顔をしかめ、彼女が大袈裟な仕草で耳に指を突っ込む。 「あー、そっか、それが広まったんだ」 「……その口振りだと、他にもあるんだな?」 あまり聞きたくないが確認せずにもいられないライバーンがうんざり顔で尋ねると、女セプターの顔が輝いた。 「サキュバスにいかがわしい事させてるっていうのは想像の範疇すぎてインパクトに欠けたね。鼻からタピオカ食べる趣味があるってのもちょっと地味だったかな。負けたら悔しさのあまり全裸で跳ね回るっていうのは……」 「もういい……」 いたずらの戦果をひけらかす子供のように、自慢気に指折り数えながら流した噂話を列挙していく彼女を、ライバーンが遮った。 怒鳴る気力が早々に尽きたのが悔しい。 悪党の間で体面や面子というものは非常に大事になる。なるのだが、彼のそれは思った以上に深刻な被害を被っていると判明した。 「……今、ここで、グリフォンの餌にされたくなかったら、誠心誠意、心から俺様に謝れ。そうすりゃ、なるべく痛くないように喰わせてやる」 「自分が逆立ちしても出来ない事を、当たり前に他人に求めるのはどうかと思うわ」 獰猛な大型クリーチャーを召喚すると言われても、いけしゃあしゃあと返して来る彼女には動揺の欠片さえ見つけられない。 「……本当に呼ぶからな」 「大丈夫? 大抵、こういうとこは怖い人が経営してると思うけど、ここで暴れるとそれなりに請求されるんじゃないかな。あと、うちのサムライとナイトが最近、得物の手入れしたばかりって言って張り切ってたよ」 「…………」 あくまでも飄々とした彼女と対照的に、しかめっ面のライバーンは頭の中で様々な損得をあれこれ勘定して沈黙する。 彼の中の天秤が忙しく左右に傾き、もう少しで白旗を上げそうになったところで、いつもこんな調子で相手のペースに乗せられるから口先でも勝てた試しがないのだと慌てて己を叱咤した。 「……とにかくだな、俺様に今すぐ土下座して詫びたあとで撒いた噂を訂正して回って有り金全部、寄越すなら許してやらない事も……」 「そんな事よりさ」 全て言い終わる前に、そんな事呼ばわりで言葉を被せられて、ライバーンの眉間に寄せられた皺がさらに深々としたものになった。 そんな賞金稼ぎの表情に全く頓着せず、彼女は笑顔で先を続ける。 「頼みたい事があるんだよね」
|
- 【セレナ】カルドセプト総合Book7【ミュリン】
517 :ライバーン×女主 4[sage]:2014/02/02(日) 23:37:25.54 ID:dgD6DlpR - 彼女の口から出た台詞を聞いた途端、ライバーンの顔色が変わった。
「やめろ、言うな! 絶対に何も言うなよ、お前の頼みなんか聞かねえからな!」 慌てて両手で耳を塞ぎ、聞き入れる意志などこれっぽっちも無いと示しながら必死に制止する。 こいつの要求は聞いたが最後、何がなんでも押し切られるとさすがに学習した。 その態度が癇に触ったらしい。彼女がむっとして、つかつか歩み寄ると彼の両手を掴んで力任せに引っ張り、顔の横から無理矢理に引き剥がす。 ライバーンの抵抗空しく自由になった耳に向かい、再び輝かんばかりの笑顔を浮かべて彼女は口を開いた。 「子供が欲しいの。作るの手伝って」 言いやがった。 絶対に碌でもない事を言い出すという、確信に近い予感があったから黙れと言ったのに。 そして内容もまた、これまででピカイチにとんでもないと来た。 密室に二人きりという危機的状況を自ら作り出した事を激しく後悔しつつ、疲労感に襲われたライバーンが溜め息とともにベッドへ腰を下ろすと、床よりはマシ程度の意味しかなさそうな寝台は派手に軋みを上げた。 「……どうして、お前が言い出す事は毎度毎度、そう突拍子もないんだよ」 「突拍子なくない。人間はグーバクイーンみたいには出来てないんだから」 急激にぐったりしたライバーンの隣にちょこんと腰かけた彼女は、彼の胸中を知ってか知らずか、丸い目をリスか何かのようにくるりと瞬かせ小首を傾げて覗きこんで来る。 何から何まで無邪気そうに見えるその姿にライバーンは苛々した舌打ちを漏らし、握りこぶし二つ分ほど後ろへにじり下がって彼女から離れた。 その一連の動きを視線だけ動かして追っていた女は責めるような色を目に浮かべはしたが、特に口に出して咎めたり空けた距離を詰めたりすることは無く。 おかげで彼は少し落ち着きを取り戻す。 「てめえみたいな奴の子供がグーバよろしく増えてたらな、とっくに世の中終わってるぜ。何がどうなってそんな事思い付いたか、てめえの沸いたオツムの中身を常識人の俺様にもわかるように説明しやがれって言ってんだよ」 悪態を交えながらも、冗談抜かすなと一笑に付す事をライバーンがしなかったのは、それがどんなに無茶な話であろうとも本人は至って本気で言っているのだとわかっていたせいであり、 それは彼がこの奇妙な腐れ縁の相手に馴染みつつある事を意味する。 もし、このときに自覚していれば、それはさぞかし不愉快な事実として認識されただろう。
|
- 【セレナ】カルドセプト総合Book7【ミュリン】
518 :ライバーン×女主 5[sage]:2014/02/02(日) 23:41:16.78 ID:dgD6DlpR - 「んー…今さ、下手したら宇宙が無くなるかも知れなくて、ちょっと大変みたいなんだけど」
内容に反して緊迫感など皆無の口調で言いながら、女セプターは視線を横へ転じる。 つられて同じ方向を見るライバーンの目に、小さな明かり取りの窓の外、威風堂々たる姿で空に浮かぶ祭壇が見えた。 「プロムスデルへ着いたらジェミナイとかいうのと戦って宇宙の危機を片付けて、わたしは神様になって新しい世界作って、一人でその世界に行かなきゃいけないってゴリガンが言っててさ。そうなると、このソルタリアとは永遠にお別れなんだよね」 そういえば彼女のせいで瓦解しかかっている教団の教祖様が、神や宇宙がどうしただの、ジェミナイ様だかジェミナル様だかがどうのと色々言っていた記憶があるにはある。 目の前の女が神になるという話についてライバーンは半信半疑どころか「疑」が九割だったが、あながち嘘っぱちでも無いのかも知れない。 あの元雇い主の持って回ったまどろっこしい言い回しを我慢して、もうちょっとまともに聞いていれば良かったかと、興味の湧かない話を適当に聞き流していた事を賞金稼ぎは僅かに後悔した。 「神様だか新しい世界だか知らねえが、なりゃあ良いじゃねえか。大出世だろ」 彼としては至極まっとうな理屈を口にしたはずだが、聞いた彼女は思い切り顔をしかめる。 「偉くなると面倒だからヤだ。でも、強くなりすぎて世界のバランス崩しそうだから出てってくれとか言われちゃうし、わたしが神様になっとかないとあちこち困るみたいだから、まあ、引き受けないと仕方ないわ」 ため息混じりの口調が珍しく愚痴っぽい。 口を開けばろくでもない発言しかしない。 顔を見せればもれなく厄介を運んで来る疫病神のようなこの女セプターが、常識の範疇から大幅にはみ出して出鱈目に強いのは身に染みて知っているが、それはそれで苦労があるようだ。 しかしながら、規格外ゆえの苦悩について察してやる義理があろうはずもない。 ライバーンはつまらなさそうに、ふんと一つ鼻を鳴らしただけで、彼女もまた彼のそんな様子を気にかける事なく続ける。 「でもね、だからって、すんなり神様になるのも癪なの。ゴリガンの寿命くらいは縮めてやりたいわけ。で、一人だけのはずがこっそり二人に増えてたらビックリだと思ってさ。ね、お願いだから手伝ってよ」 「…………」 目の前の女はにこりと屈託ない笑顔だが、言われたライバーンは、ただ絶句する。 まさか悪戯の片棒を担がせようとするノリで子作りの相手を頼まれようとは思わなかった。 「あ、わたしね、育った孤児院で赤ん坊や小さい子の世話は散々したし、子育ては一人でもなんとかなると思う。まかせて」 彼の沈黙の理由を明後日の方向に読み取った彼女が、自信満々に豊かな胸を張る。 額に手を当てて頭を垂れたライバーンは、長々とした溜め息をついた。もし吐き出した息が見えたなら、今頃は部屋の床が見えないほど溜まっているのではなかろうか。 常人とはかけ離れた言動をする人間の話を聞いていると、比喩ではなく目眩がして来る。
|
- 【セレナ】カルドセプト総合Book7【ミュリン】
519 :ライバーン×女主6[sage]:2014/02/02(日) 23:47:44.00 ID:dgD6DlpR - 「……他を当たれ」
一言、低く返事をしたライバーンは帽子を頭の上からベッドへ払い落とし乱暴に頭を掻いた。 「いいか、ここ出たら近くの酒場でも行って、適当な奴に声かけろ。あんまりベラベラ喋るなよ。お前、見た目には問題ないんだから、頭おかしいのさえバレなきゃ大抵の男は二つ返事だ」 思考がかなり特殊というかアレだが、平均よりかなり上の彼女の容姿なら食い付く男に不自由しないだろう。 しかし、せっかく懇切丁寧なアドバイスまでしてやったのに、女は非常に不満げに眉根を寄せ、憮然とした顔をした。 「何で、見ず知らずの男と子作りしなきゃなんないのよ」 「そりゃこっちの台詞だ。何で、俺がお前と子作りしなくちゃなんねぇんだよ。てめぇの仲間の嬢ちゃんと小僧に俺が何やったか思い出せ」 本人にも色々やったが、仲間も罠にかけたり濡れ衣を着せたりしてやったのだからこんな話を持ちかけられる謂れはないはずだ。普通は。 「どっちの時も弱打のエフェクトみたいになるまでウィロウで絞ってやったけど、もう一度やって欲しいの?」 「違うわ!俺とお前は敵同士だって言ってんだよ!」 「敵だろうが何だろうが、相手はあんたって決めてるの」 「はぁ?」 膨れっ面の相手から全く予想もしていなかった台詞を聞いたライバーンは、間抜けにぽかんと口を開けた。 こいつと話していて耳を疑うのは何回目だろう。が、すぐに馬鹿にしたような薄笑いを唇に乗せる。 「そんなに良かったか? 楽しんでもらえたようで光栄だがな、好奇心で寝ただけの相手に執着するなんてアホくさいぜ。俺にこだわる理由が一体どこにあるってんだよ」 「理由が必要?」 不思議そうに聞き返されたライバーンが返答に迷い、その空白に一呼吸だけ間を置いて、女がぽつりと言った。 「面白かったから」 からかわれているのか。一瞬そう考えたが、真面目腐った相手の顔を見る限りそういうわけではないらしい。 返された言葉を、一体どう解釈すればいいものか判断つきかねてライバーンの表情が何とも微妙なものになる。 彼女は真顔のまま淡々と先を続けた。 「故郷を出て最初に知り合ったセプターで、一番たくさん戦った相手で…あんたとの色々、面白かったなって最近思うの。神様になるって、よくわからないけど、それをいつか忘れてしまったらヤだなって……」 言い淀み、そこから先の言葉を探している様子で瞬きを何度か繰り返した彼女は、間近に見える隻眼と視線がかち合うと少しだけ笑って、それからすぐ真顔に戻る。 そして、改めて言葉を紡いだ。 「だから、もし追い付いて来たら頼もうと思ってた。子供作るなら相手はあんたがいい。じゃなきゃ、イヤ。ね、手伝って」 口振りはまるで玩具をねだる子供さながら。 だが、まっすぐに向けられる青い目が彼から逸らされる事は、一瞬たりとも無く。 その視線が、ライバーンには不愉快で仕方ない。 苛々する。 彼女から名前を呼ばれるとそこはかとない落ち着かなさを感じるのは前々からだが、この目も気に食わない。 ひどく座りが悪い思いで舌打ちし、睨み返す。 大嫌いだ。こんな風に人を見る人間は。
|