- ファイアーエムブレム&ティアサガ第49章
452 :名無しさん@ピンキー[]:2014/01/15(水) 22:58:25.01 ID:9ZBPNsiy - 433のリクで、リーン×セリス投下します
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453 :名無しさん@ピンキー[sage]:2014/01/15(水) 23:00:19.31 ID:9ZBPNsiy - 「これでやっと一区切りといったところだな」
グラスを手にした黒髪の美青年が、どこか肩の荷が下りたというような顔をしながらグラスの酒を揺らした。 「ご立派でした、セリス様。あなたはその若さでお父上を超えられた。きっとシグルド様も喜んでおいででしょう」 その隣に並び立つ長身の紳士も、感極まった様子で声を震わせている。 イザーク王シャナン。シアルフィの聖騎士オイフェ。ともに解放軍を長きにわたって支えてきた勇者たちだ。 「シャナン。オイフェも、これまでわたしを支えてくれて、本当にありがとう。どれだけ感謝を述べても足りないよ」 グラスになみなみと注がれたぶどう酒をゆっくり口に含みながら、青髪の少年が城のホール内に視線を向けた。 即席の祝勝会場となったホールには解放軍の主だった者や、その支援者たちが集い、思い思いに食事や歓談に興じている。 これだけ大規模な催しが行われるのは、イザークで解放軍が発足して以来初めてのことだ。 ラナにそう耳打ちされたリーンは、皿に乗せられたローストビーフをつまみつつ、セリス皇子の方を見遣った。
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454 :名無しさん@ピンキー[sage]:2014/01/15(水) 23:03:46.47 ID:9ZBPNsiy - シアルフィ公にして父であったシグルドの仇を討ち果たした彼を、領民たちは熱狂をもって出迎えた。
残るはグランベルの皇都バーハラに君臨するアルヴィス皇帝の遺子ユリウスと 17年前の政変でアルヴィスの計画に加担した聖戦士たち率いる軍勢との一大決戦。 未だ敵方の精鋭騎士団は全貌を見せておらず、激戦が予想されているが、解放軍の面々の顔は総じて明るい。 シアルフィでの勝利を前後に、北方ではシレジアの民が武装蜂起を起こしてグランベルからの独立を果たし 西のアグストリアでも解放軍が結成され、グランベルの駐留軍と拮抗しているという吉報がもたらされたからだ。 そして、ミレトスからグランベル領へ向かって北上を続ける解放軍にも好材料はあった。 直近ではトラキアで聖戦士ノヴァの直系、アルテナが仲間に加わっているのが大きい。 とう亡くなったと見なされていたレンスター王女が帰還したことを受け、解放軍の一翼を担うレンスター兵の士気は総じて高く この度のシアルフィ解放戦においても並々ならぬ働きでその存在感を示している。 シアルフィ領を奪取したことを受けて、多方面に軍を派遣する必要のある帝国軍との戦力差は逆転している。 祝勝会に集った諸侯たちも、その大方が勝利を信じているのだろう。 祝いの席の最中にも、セリス皇子を始めとする聖戦士たちに目通りを願う者は後を絶たない。 多くは今後の戦いについての激励や、自らも兵や財をもって協力しようという申し出であり 中には戦後の領土配分や婚約者についてなど、いささか気が早い話をする者たちもいる。 押し寄せる人波を側近や近衛が「お疲れですから」と押し留め、しかしその押し問答は延々と続いている。 グランベル帝国の圧政。暗黒教団が主導してきた子ども狩り。 世界が闇に閉ざされていく傍らで、人々は屈辱に耐え、ひたすらに待ち望んでいた。 救世主の到来。光に満ちた世界の到来を。 イザークで兵を起こしたセリス皇子の存在は、苦汁を舐めていた人々を勇気づけた。 かつてグランベルで暗躍し、正当継承者クルト王子を暗殺した勢力を一掃したのは、彼の父シグルト公だった。 聖剣を振るう在りし日の聖騎士の雄姿に、息子のセリスを重ねている者は決して少なくなく。 そうでなくとも巷では光の皇子などと持てはやされていることから、期待のほどがうかがえるというものだ。
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456 :名無しさん@ピンキー[sage]:2014/01/15(水) 23:07:48.44 ID:9ZBPNsiy - つい昨日、目に焼きついた一シーンをリーンは反芻する。
迫り来る紅蓮の太陽に真っ向から飛び込み、その身を焔に焼かれながらも光り輝く聖剣を掲げ、アルヴィスの胸に突き立てたセリスの姿を。 刹那の光景は、神話のように凄烈で、侵しがたく。その場にいる者たち全ての心を揺さぶったに違いない。 戦や暴力沙汰に疎いわたしですら、遠目に見てなお胸が打ち震えたのだから。 父から母を簒奪し、そして殺め、ロプト教団が台頭するきっかけを作ったアルヴィスを、セリス皇子は自らの手で誅した。 これ以上ないという方法で力を内外に示した彼は、今や誰もが認める英雄で、あらゆる権力者の注目の的だ。 今後、姻戚を結ぼうという申し出がひっきりなしに押し寄せてくることだろう。 そうでなくとも年頃の乙女であれば、誰しもが一度は白馬に跨った王子様と出会い、そして結ばれることを夢見るものだ。 そのほとんどは、まさしく夢や幻に終わるのだろうが。 リーンはそれを果たした稀有な人間だったが、しかしそれが人生最悪の日と重なってしまったのは、不幸という他なかった。 省みれば、始まりからしてセリスとは縁がなかったのだと諦めがついたし、それでも遠くから彼の幸せを願うくらいには思慕の情を抱いている。 権力者たちの応対に戸惑っているセリス皇子を見ながら、リーンはしばし瞑目した。 彼の無事を祈り、それから正面の三段重ねのケーキへと向かった。 孤児が目の前のご馳走をないがしろにするのは、騎士が力なき者を見殺しにする以上に罪なことなのだ。 宴もたけなわとなったところで楽器を手にした吟遊詩人らが会場内に参列し、用意してある椅子に腰かけた。 チークタイムに入ると、男と女が互いの手を取り合い、ホールの中央に歩を進める。 とはいえ、由緒正しい血筋であろうとこの時世ではこうした催し事に慣れているはずもない。 まともに踊れている組は2割にも満たず、足を踏んだり他の組と交錯したりという有様だ。 それでもリーンは、そんな仲間たちのぎこちなさを決して不快には感じなかった。 戦場では滅多に拝めぬ彼らの素の顔が見られて微笑ましかったし、新たな時代の到来を予感させた。 柱に寄り掛かりながら彼らの踊りに目を細めているうちに、見知らぬ男たちが一人二人と寄って来た。 自分を口説こうと寄ってくる者たちをあしらうのにいい加減疲れたリーンは、一人ホールを抜け出した。
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457 :名無しさん@ピンキー[sage]:2014/01/15(水) 23:23:34.99 ID:9ZBPNsiy - 城内の通路は無人ではなく、随所随所に見張りの兵がいた。
彼らに労いの声をかけつつ脇にある螺旋階段を上がり、一気に屋上へと向かう。 扉を開けると、地平の彼方まで大小の星々が瞬いている。 普段着ている服より布地が厚手なのか、外に出ても夜風はそれほど冷たく感じなかった。 しばし目を休ませたのち。 草原を吹き抜ける風を首元に感じながら、下ろしていた髪をリボンでまとめてポニーテールにする。 窮屈で動きづらいドレスを着ることもあと二回か三回はあるかもしれないが、やはりわたしには似合わない。 気ままな踊り子の服と暮らしが分相応だ。 多少自虐も、入っているかもしれないけれど。 思いに耽っている最中に足音が聞こえ、リーンがはっと後ろを振り返った。 するとそこには―― 「やあ、お邪魔していいかな」 「……セ、セリス様?」 いつもの軍服ではなく、礼服に身を包んだセリスが立っていた。 「ぐ、偶然ですね! セリス様も息抜きですか?」 「息抜きは息抜きだけど、偶然じゃないよ。下の兵士に聞いて、後を追ってきたんだ」 「……え、と」 きょとんとしているリーンに、セリスは微笑を浮かべた。 「隣、いい?」 「え、あの、でも、いいんですか?」 「よくはないんだろうけど、これ以上あそこにいても、肩が凝るだけだしね」 わたしとしては、自分みたいな流れの踊り子と一緒にいたら妙な噂が立ってしまうのでは、という意味合いで尋ねたのだが どうやらセリスは違う意味に解釈しているようだった。 確かに彼は、身分を鼻にかけず、皇族らしかぬ振る舞いが目についた。 幼馴染のラクチェやラナが言うところによると、それが彼を育んだイザークの気風であるらしい。 「わ、わかりました。どうぞ」 「ありがとう」 セリスはリーンの隣まで進み出ると、そのまま手すりに腕を重ねた。
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458 :名無しさん@ピンキー[sage]:2014/01/15(水) 23:30:04.01 ID:9ZBPNsiy - 眼下には大きな河が流れていて、その先には広大な平野が広がっている。
つい先日まで戦場だったとは思えないほど、辺りは静まり返っている。 「広いな。ここが父上の故郷……」 「ここ、昔は騎士団領として有名だったらしいですね。グリューンリッター、でしたっけ」 「へえ、意外だな。そういう話にも詳しいんだ?」 感心したふうに顔を綻ばせるセリスに、リーンは照れ笑いを浮かべた。 「ううん、詳しいというほどでも。知っている大半は、踊りにまつわる物語だけだし」 「そうなんだ。うん、確かにリーンの踊りを見ていると、わたしもすごく元気づけられる」 「うーん、褒めてもらえるのは嬉しいんですけど」 「本心だよ?」 「いえいえ、疑ってるわけじゃなくて」 不思議そうに首を傾げるセリスを見て、本当に自覚していないんだろうな、と苦笑が漏れる。 「さすがにもう、こんなに気安く話しかけたりはできないかなって。口の利き方も、もう少し考えないと」 セリスは異父兄弟のユリウスと同様、皇女ディアドラの血を受け継いでいる。 アルヴィス皇帝を討ち果たした今、彼はグランベルを総べる第一皇位継承者だ。 孤児で、一介の踊り子にすぎない自分が、そのような雲の上の人と会話すること自体、おかしな話だった。 「そんなの気にしないでよ。ここまで苦楽を共にしてきた仲間じゃないか」 「うーん、そうは仰られますけれど」 「ちょっとリーン。お願いだよ本当」 懇願する彼の姿は妙に新鮮で、その腰の低さにどこか後ろめたさを覚えた。 「ま、まあ、セリス様がそれで良いっていうなら、こっちもそのほうが話しやすいけどさ」 「そう。はぁ、よかった」 「……ふふ、やっとまともに笑ってくれたね」 「……え?」 「もしかしたら気のせいかと思ってたんだけど」 セリス様、あんまり喜んでいないように見えたから。 そう呟いたリーンに、セリスは図星を突かれたようにたじろいだ。
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460 :名無しさん@ピンキー[sage]:2014/01/15(水) 23:37:36.69 ID:9ZBPNsiy - 動揺を見せたことを、セリスは恥じるように俯き、ややあって顔を上げた。
「よく見ているんだね」 「た、たまたまですって。でも、お気持ちはわかります。ユリア様は未だ見つかっていませんし」 「それもある。ミレトスからここに至るまで彼女のことはずっと気がかりだった。ただ」 おもむろにセリスはつけていた手袋を外し、自分の手のひらを見つめた。 剣を振り続けて固くなった、何度となく血に塗れただろう手を。 「宿願の一つを果たしたのもまた事実だ。父の無念を晴らせたのは喜ばしいし、充足感を覚えていないわけでもない」 リーンは小さくうなずき、次の言葉を待った。 その言い方からすると、浮かぬ顔の要因は他にもあるということだ。 「アルヴィス皇帝は、強かった。今まで戦ってきた誰よりも」 イザークのドズル王より、フリージのブルーム王より、トラキアのアリオーン王子より。 聖戦士の血を色濃く受け継ぐ強敵たちよりもなお、アルヴィスは手強かった。 万感を込めて宙を見遣るセリスの姿に、リーンは微かな胸の高鳴りを感じた。 「ラナやコープルにマジックシールドをかけてもらって、聖剣の魔法障壁を展開してなお、彼が操る炎はこの身を焼いた。 正直恐怖したし、死を覚悟した。ティルフィングがなければ、到底太刀打ちできなかった」 セリスの視線が、自らの腰に提げている剣に向けられた。 「けど、相手だって聖戦士の武器を使っていたんでしょ? 伝説の、炎の魔道書を」 「ファラフレイムだね。疑いなくあれは神の御業だ。フォルセティや、トールハンマーをも凌ぐかもしれない」 セリスは言葉を選ぶように、噛みしめるように続けた。 「パルマークさんは、ティルフィングをどこからどういった経緯で入手したのか、教えてくれなかった。 託された人と約束したから、どうしても言えないって」 パルマーク。亡きシグルド公に仕えていた側近にして聖職者。 セリスに戦いの帰趨を決める聖剣をもたらしたという意味で、この戦いの功労者といってよい人物だ。 「この剣は父シグルドが騙し討ちに遭った15年前の戦い以来、行方知れずになっていた。 シャナン王子の神剣バルムンク同様、帝国ないし暗黒教団の手によって厳重に保管されていたことは想像に難くない。 だから、都合よくわたしの手に渡るなんてことが、そうそうあるはずがないんだ」 「なるほど……、だとすると、どうしてそんなことが起こったんでしょうね」 「……そう、それが引っかかっている。どうして、あの人は」 そう言葉を切り、セリスは神妙な顔つきで夜空を見上げた。 その表情から、きっと頭の中ではある程度答えが出ているのだろうと察せられた。 うっかり口にするには憚られる真実について。 リーンは、それを聞き出そうとはしなかった。 本来ならこうして彼の隣にいることすら場違いなのだ。 身のほどは弁えているし、何より彼もそれについて言及されることを望んではいないだろうと思った。
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462 :名無しさん@ピンキー[sage]:2014/01/15(水) 23:45:28.05 ID:9ZBPNsiy - 「とにもかくにも、セリス様が無事でよかったです。
炎に呑まれたのを見たとき、わたしどんなにショックだったか」 「あはは、ごめんね。心配かけたみたいで」 「なんて、わたしなんかがセリス様を心配するなんて、おこがましいけど」 「そんなことはない。とても嬉しいよ」 「そ、そうですか」 率直な言葉を頂いて恥じらっていると、ふいにセリスがこちらに向き直り、姿勢を正した。 「あ、あの?」 「後悔したくないからやはり今のうちに伝えておく。リーン、わたしと一緒になってくれないか」 「…………は」 唐突すぎるその告白に、思考が空転した。 「ご、ご冗談ですよね?」 ようやく我を取り戻し、どうにか愛想笑いを浮かべたリーンに、セリスは身じろぎもせず射抜くような視線を送る。 「こんなことを冗談で言うと思われるほどに、わたしの評価は君の中で低いのかな?」 ともすれば怒気を含みそうな台詞だったが、セリスの物腰はあくまで穏やかだった。 だからこそ怯んだ。 彼の言わんとしていることの意味を察して。 それは、すなわち―― 「君のことが好きだった。ずっと前から。今後の激戦を生き抜こうと思えるだけの励みが欲しい」 「と、とんでもない! おそれ多いっていうか、わたしにそんな価値なんか」 「あると思ったから、意を決して、想いを打ち明けたわけなんだけど」 ばつが悪そうに頭を掻くセリスの言葉を、リーンの耳は半分も捉えきれていなかった。 夜気とは関係なしに、全身が冷え冷えとしていた。 脳裏に場違いな静止画がいくつも閃いては消えていく。 オアシスの街ダーナ。 その地下牢での、屈辱の記憶が。
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463 :名無しさん@ピンキー[sage]:2014/01/15(水) 23:47:52.67 ID:9ZBPNsiy - 今夜は以上です、お目汚し失礼しました
回想の凌辱色強めかあっさりかで悩み中だったり 続きは二日後くらいに
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