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つづくない
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百合カップルスレ@18禁創作板9

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百合カップルスレ@18禁創作板9
289 :つづくない[sage]:2013/09/06(金) 07:25:03.75 ID:J3BUWi1b
 練習、練習、また練習。ユカリが音楽部で合唱コンクールの伴奏者に任ぜ
られてから3週間が経った。始業前、昼休み、放課後、まとまった時間があ
れば必ず音楽室へと足を運ぶユカリ。ユカリは自分のブランク、そして合唱団
や指揮との相性の両方で、練習を必要としていた。いや、全く合わせたこと
すらない部員たちと、審査にかける合唱をたった2ヶ月で創り上げていくために
は、特訓が必要だった。フミ、カシマキ先輩、葛葉先輩、そして指揮の脇田
先輩もまた、ユカリの跳躍に振り回されない練習が必要だった。時間が刻々
と経過していく。その日が迫っている。その日になれば、全く情け容赦のない
鉄槌が下る。
 我が母校が出場するコンクールは、県、地域、全国に分かれる。前の学校
でなら予選もあったが、進学しても続ける人間は少ない。数校のライバルから
ふるいにかけられる。地域へ進めるのは例年通りなら2校。そしてそのうち1校
には有力な候補がいる。昨年一昨年と2年連続で地域コンクールに出場し、
過去にも何度か全国へ進んでいる、女子校の合唱団。人数はこちらの半分
近く、県内の合唱継続を希望する女子が、まず最初に考える入学候補。
我が校限定のあだ名を“ヤマ”。理由は、顧問教師兼指揮の名字と容姿。
これを聞いたのは、フミとカシマキ先輩からだ。バレー部の副部長が聞けば、
すごくムッとしそうなネーミングセンスだった。

「うーん……」
 始業前の廊下、第1音楽室へ向かう道すがら、ユカリは唸っていた。普段
からユカリは顔に眠気とだるさを隠さない。朝に至ってそれはもうひどい。
「やっぱり疲れが出てるね」
「わかるぅ……?」男子が聞いたら大小様々な感想を抱えて、そのまま転倒
しそうな声色。さすがに音楽室へ着く頃にはいつもの調子に戻っているが、
その前ときたら寝起きとの違いは服装と化粧くらいだ。
「遅寝早起きだとやった分だけ後退するって言われない?」
「後退してもげんじょー維持はできてる」
 楽譜その他をはさんだファイルを危なっかしく揺らしながら、怪しい足取りで
廊下を進む。これが現状。
「ある程度手も休ませないと翌日に響くし」
「喉じゃないからそうやすやすと潰れないよぅ」
 ため息をつく。そして左手を取る。
「!?」両手で包んでさわさわ。
「!!??」手を洗うようにすりすり。
「!!!???」手相を見るように両親指でぐにぐに。
「ーーー!!」「目、覚めた?」こくこく。
「繋いでいく?」「遠慮します……」
 前に繋いで行こうとした時はそれはもう嫌がられた。私の手にねずみがしがみ
ついてると言わんばかりのすごい顔。こうして揉むときはいい顔してくれるのに。
「あのぅお2人さん、私がいること忘れてません?」フミが目の前にドブネズミを
見つけていた。
百合カップルスレ@18禁創作板9
290 :つづくない[sage]:2013/09/06(金) 07:30:15.78 ID:J3BUWi1b
「私トモキさんと話があるから先行ってて」
「え? うん……」ユカリを先に向かわせると、フミは私を脇の廊下に誘った。
「ちょっと触りすぎじゃありませんか」フミはいつもながら不機嫌だった。
「自覚はあるよ」
「あるなら尚更です。ユカリはこういうの慣れてないんですからちょっとは
自重してください」睨む顔には諦めも取れた。
「そう言われてもね、ユカリったら手を取るたびにあんな顔してくれるんだ
もん。肩の力が抜けるし、反復したいよ」フミは眉端を下げる。
「反復って……。大体なんで練習見に来るんですか」
「ユカリを推薦したのは私だから」
「最初に誘ったのは私です!」
「嘘ついてね」
「それは、私だけじゃ音楽室で弾いてもらうことすらできないから……」
 フミは視線を床に向けた。
「アガリ性の子を引きずり出す大変さはフミさんの方が知っているでしょうに。
嘘つくのが1番ダメってことも」
「あなたに言われたくありません」ジッと見つめられる。
「どうして?」
「わかってるんですから。トモキさん、ユカリの前で1度もピアノ弾いてない
そうですね」
「第2音楽室を効率的に使うにはね、ピアノに二兎を追わせちゃダメなんだよ」
「私が初めて行った時は席に座ってたじゃないですか」
「居候仲間と来客が連れ立って来たのに、座って挨拶はないでしょう」
「ユカリを説得したとき、自分が候補になることなんて一片たりとも考えてない
言い草でしたよ」
「あの時も言ったけれど、ユカリのピアノを大舞台で聞きたかっただけだよ」
 フミはため息をついた。
「ユカリを音楽部に入れて、カシマキ先輩や葛葉先輩とピアノの話ができる人
なのに、合唱伴奏なんて少しも興味なさそうな顔を当然のようにするんです
よね、ただ『ユカリの演奏が聞きたい』ってだけで」
「そうだよ。フミさん、ピアノだけじゃなくあなたまで二兎を追ってるよ?」
「どういう意味ですか」キッと横目に睨まれる。
「ユカリに触られたくないことと、ユカリを音楽部へ押し付けてるように見え
てること、ごっちゃにしすぎてわけわかんな……」
「どっちもあなたのユカリに対する扱いです! これじゃまるで……」
 そこでフミは言葉を切る。
「まるで……何?」フミの瞳が潤んでいた。唇をギュッと食み締め、ただ喉元
の言葉に耐えている。そのまま何も言わなくなる。
「……フミさん、あなたはユカリに言ったよね、自分が誘って巻き込んだ人に
泥なんてぶつけさせないって」
「言いました。それは今も変わりありません」
「私もだよ。自分から絡んでる人を崖から突き落とすような真似はしない。
私が自分の行動に対して、これだけは誓える」
「あなたの認識が間違っていたとしても、ですか。何一つ知らず、知識もなく、
自覚もなければ準備期間すらない、そんなまっさらな状態でも、そう言い
切れますか」
「むしろそれは前提だよ。フミさん、私はユカリに対して何一つ確たることを
知らないんだ。ユカリが私に手を取られるくらいで合唱と向き合えるとしても、
ユカリは何一つ私に話してはくれないからさ。だから私は、今か今かと待ち
構えるくらいしかできないよ」
「待ち構えて、受け止めきれるんですか。とんだ傲慢です。それに、ユカリ
だってあなたのことを知りません」お話にならない、とフミは顔を下げた。
「さっきも言ったけれど、それも含めて待ち構えてるんだよ」
「……ひどい人……!」
 フミは去っていく。自分の責務を全うするために。
 そして、そこに私は本来要らない。でも私はユカリに頼んだから。私を舞台
に連れて行ってと、そう頼んだから。私は自分が絡んだ人間から手を離し
たりしない。最後まで私は手を繋いでいなければならないんだ。
百合カップルスレ@18禁創作板9
291 :つづくない[sage]:2013/09/06(金) 07:35:01.59 ID:J3BUWi1b
 第1音楽室に着くと、ちょうど1曲終わったところだった。
「ともきさん、久しぶりね」顧問教師が出迎える。
「一週間くらいでしょうか、今朝もよろしくお願いします」
「お辞儀なんてしなくていいよ。こちらとしても聴き手がいると身が引き締まる
だろうから。そうでしょう?」
 はいっ! と一斉に宣言され、目を見開く。フミが一瞬こっちを見た後
目を逸らした。
「じゃあ早速聴いて貰おうか。樫牧さん、ピアノに。ともきさんとゆかりさんは
観客席にどうぞ」
「はい」
 カシマキ先輩が演奏席に座り、ユカリが私の座る観客席こと、音楽室の
ありふれた椅子に来る。
「さっき何の話してたの?」
「私がなぜフミさんの手に触らないのかって話」
「フミ触られたかったの?」
「いや、違うみたい。始まるよ」
 脇田先輩が構え、リズムを取り始める。カシマキ先輩がピアノを奏で、
ソプラノ、アルト、テノール、バスがそれぞれの歌を歌い始める。明瞭に、
正確に、声を用いて、歌詞の解釈と豊かな感情とを、存分に口から発していく。
声は重なり交じり合い、1つの差し迫る波塊として私に届く。潜めた声、語る声、
呻く声、叫ぶ声、あらゆる声種がたった2本の腕に指揮され、たった2つの手で
支えられて、私の体を包んでいく。
 曲が終わると、私は無意識に両手を掲げ、それをぶつけ合う。それは賞賛の
ものでなく、披露したことそのものへの感謝。合唱は本来競うことができない
ものだ。人が集まり一緒に歌うだけで成立する合唱に、統一された採点基準や
相互比較の概念は矛盾する。人の声が統一できず、比較しようにも各々の
声はそれぞれが規範となる。各々の歌いたい気持ちを統制し、わざわざ競争に
かけることはない。
 しかし、競わないものは発展せず、競うためには披露しなければならない。
歌わない人々に対して、判断を仰がねばならない。判断するためには、統一
した指向性が必要になる。つまり、上手な、合唱だ。曲を解釈し、感情を乗せ、
正確に発音し、明瞭に発声する。発声方法は統一され、各部各小節のバランス
は細密に構成される。そこから減点し、審査する上で参考にする。
 審査は審査員の投票だ。各審査員の二分された合否が、合唱団の次会進出、
進出終了を決める。県、地域、全国、審査員の違いはあっても、判断方法は
同じ。よって、県と全国に差はない。あるとすれば、自団とライバルの歌唱の差だけ。
県でも全国でも、曲も指揮も伴奏も歌唱人員も、全て同じ。県のコンクールに
出ている最中、相手にしているのは県内の他校だけではない。県外の全国
コンクール出場校までをも相手にしている。県のコンクールでできないことを
全国の場でならできる、ということはほとんどない。出場コンクールの時期によって
仕上がりに違いはあるが、それなら開催日が突然変更になっても同じこと。
歌唱の最高点を開催日に合わせられるか否か。
 すなわち、我が校の合唱団では、県コンクールまでの残り1ヶ月と少しで、
全国コンクールへの出場可否が、6、7割決まってしまう。
百合カップルスレ@18禁創作板9
292 :つづくない[sage]:2013/09/06(金) 07:46:51.83 ID:J3BUWi1b
「正直助かったよ。マキは大変だけど、少なくとも私は歌に専念できるからね」
 葛葉先輩ことホノカさんは言った。彼女はアルトで、私の2つ上の先輩だ。
今ユカリが担当している自由曲の前任伴奏者でもある。
「先輩、1つ質問いいですか。どちらかというと答えにくい方の」
 ユカリは質問がある時あまり物怖じしない。考慮と考察が面倒くさいわけ
ではないようだが、受け応えがいちいちイレギュラーな私でさえド直球が恐ろ
しいこともある。
「答えられるなら」
「先輩は伴奏したくなかったんですか?」直球どころか衝突だった。
「……んー、難しい質問だな。別にやりたくなかったわけじゃないんだ。ただ、
私は合唱で歌がやりたくて部に入ったから、どうも指揮や伴奏はしっくり来なくて
ね。だから脇田さんが、今年も両方に他薦されて断らなかったときは、指揮の
方がやりたかったんだな、と思ったし、マキがピアノ弾けなさそうな顔してたのも、
何となくわかるんだよ」
 ホノカさんは顧問や弾けない後輩たちから押し切られる形で自由曲の担当
になった、とフミから聞いている。ユカリを勧誘しているとき強引だったのは、
そのせいもあったのかもしれない。もしカシマキ先輩のピアノ歴が発覚していな
ければ、彼女は2曲とも歌唱で出場できなかった可能性もある。
「フミさんから聞きましたが、昨年度卒業した先輩に、2年続けて伴奏を
やっている人がいましたよね。それも課題自由両方」
 伴奏は無伴奏曲を選べば不要なように、現役部員の担当としては煙たが
られることもなくはない。私には合唱団に入ったその先輩が、自ら両方志願
した理由がわからなかった。
「それは私にもちょっと意外だったんだ。新入生の頃はソプラノでやってて、
それにしか興味なかったらしいから」
「そうなんですか?」ホノカさんはうなずいた。
「なのに翌年から伴奏を受け持ってて。1度理由を聞いたけど、『もし部員
全員と練習できる役割があるとすれば、伴奏しかないんだ』って言ってた。
最初はその意味がわからなかったけど、今ならちょっとはわかる気がする」
「全員と練習できる……ですか」ユカリは何か考えているようだった。
「それであの人が卒業する前、私が去年も伴奏をやってたからだろうけど、
頼まれたんだよ。音楽部の皆と一緒に練習してほしいって。『周りが下手
だろうが、自分が下手だろうが、団の一員だから。伴奏をサボりにかかってたら、
それを皆が真似するから』って。それが妙に頭に残っててさ」
 ホノカさんはその先輩を思い出しているのだろう。その目に酔狂な人など
見る様子はない。
「それで今年も、とりあえず伴奏自体はできるようにしておいたんだ。技術が
ないから、課題曲は4ヶ月やそこらで出来ないけど、去年のうちに決まってた
自由曲ならって。志願したわけじゃないけど、弾こうとする人がいなかったから、
そのいない人の分まで一緒に皆とやりたいな、と思ってさ」
「だから、私が弾いた後即、伴奏をオリたんですか」
「まぁね。顔つきにやる気がなさそうだったとしても、弾き方聞いてれば地道に
やる人だってわかったから。どの道私は代打のつもりだったし、任せられるなら
それでもいいって。これで心配するほど下手なら譲れないけど、そうではなかった。
理由になってるかな?」
「はい、十分です」ユカリは口元から笑みをこぼしていた。
「ならいいけど。ま、できればフミちゃんが引っ張ってきてくれた人にわざわざ
頼むんじゃなくて、私のポジションにマキを充てたかったけど、本人が厭そう
だからいいかなって。マキは私よりずっと上手だから」
「でもいいんですか、半年か9ヶ月か、伴奏の練習、してたんですよね」
 ユカリはホノカさんの演奏席を奪ったように思っているらしい。
「私は歌を歌いに部へ入ったんだよ。音楽部へピアノを弾きに入ったんじゃない。
だから、私はそれでいいんだよ?」ホノカさんは笑いかけた。
「……、ありがとうございます」ユカリは深々とお辞儀をした。
「そんな仰々しくしないで。本番で私の伴奏がトチったらすごい目立つんだから」
 ホノカさんは眉端を落としてユカリを見つめていた。
「ゆかりさん、次お願い」
「あ、はいっ。それじゃ」
「うん、やろうか、ユカリさん」
 顧問に応えたユカリの顔は、かつて見なかった程にほころんでいた。
百合カップルスレ@18禁創作板9
293 :つづくない[sage]:2013/09/06(金) 07:53:18.35 ID:J3BUWi1b
 県のコンクール本番まで1ヶ月を切った。梅雨らしい雨もほとんどないまま
夏へと突進する我が校では、既に各教室に備えられたエアコンのファンが
全力で、活動燃料を部屋の住人たちへと供給していた。ニュースではダムの
貯水率が少ないと稲作農家が嘆き、食堂には自販機のアイスクリームを横目に、
おにぎり定食を苦渋の表情で注文するフミの姿があった。
 温度がマイナス域の食べ物は喉の天敵だ。運良く風邪を母なる大地から贈られ
た暁には、数日の練習時間を削ぎ落とされた挙句、治療後に自分の歌唱全体を
再構築するという後悔の尽きない作業を強いられる。人も塵芥も垂れ汗も多い
夏フェス、熱すぎるお味噌汁、お風呂上りの扇風機、熱すぎるジャンクストアの
コーヒー、冷えきった店内で食べるブルーハワイ、咳や悪寒を呼び込むものは
合唱団の仇敵となる。
 歌唱の敵は真夏の友、と宣言した音楽部の顧問は、名前だけヨーロピアンな
御高い氷菓に舌鼓を打っていた。カシマキ先輩はフミに緘口令を発した。
ホノカさんは水色とこげ茶色が賛否両論の台座付き3段氷菓に、危うく現実逃避
しかけていた。私はユカリと、冷奴や納豆に器がそっくりなシャリシャリクリームを、
一緒に掬い食べた。ユカリの口を苦心して開けさせていると、偶然居合わせた
フミの眉間にシワが召喚された。冷凍庫とエアコンはもっと信仰されるべきだ。

「トモキ、1つ聞いていいかな」
 今日は珍しく昼休みに音楽部の練習がなかった。そこで第2音楽室の天使、
エアコンに週1限定の施しを受け、ユカリと2人前のランチサンドを摂っている。
「何? 改まって」タマゴサンドをつまみ上げたところで私は止まる。
「あ、食べてて食べてて。それで最近、ナツヤギさんから、よく睨まれる」ユカリは
眠そうにハムサンドを手にしていた。
「ナツヤギさんて私のクラスの?」
「うん。アルトの」
 ナツヤギさんはフミと同じく部活勧誘時に加入した新入生だった。特に親しく
はないが、ユカリ加入の際に名前を覚えられているので、会えば適当に話をする。
「ナツヤギさんが睨んできて、どうして私に?」
「ナツヤギさん、トモキが来ると喜んでるから」ぶつくさと愚痴るような言い方だった。
「私が? 特に行って喜ぶような仲ではないけど」
「トモキが気づかなくても、ナツヤギさんは何かお腹に持ってるみたい」
 不満なのはわかるけど、それじゃ腹に据えかねているのか根に持っているのか
わからないよ、ユカリ。
「そんなジーンズにちっさいリボルバー挿し隠してる、みたいなこと言われてもね」
「ナツヤギさん粋がって転んでアソコ吹っ飛ばすチンピラじゃないよ?」そこまで言うか。
「ユカリは邪魔そうだね」ユカリは黙り込んだ。少しして話し始める。
「……そうじゃないけど、トモキと毎日会ってるのに、なんで来たら喜ぶのかなって」
 サンドの進みは止まっている。
「うーん、ナツヤギさんとはそんなに話さないからね。私メンバーじゃないし」
 というか私が会ってまともに話す合唱メンバーは、フミ、カシマキ先輩、ホノカさん、
そしてユカリくらいだ。
「視界には入ってる」
「それなら早々に何か私へ言ってくるはずだけど。ユカリを推したことでナツヤギさん
が不機嫌になるなら、いつまでもただ見てるだけって意図がわからない」
「……けでいいのに」「え? 何?」「何でもないっ」
 ユカリはハムサンドを思いっきり詰め込んだ。そしてそれは多すぎた。
「はい、お茶」呼びかけている名前の緑茶を飲み干すユカリ。
「ぷは、失敗失敗」
百合カップルスレ@18禁創作板9
294 :つづくない[sage]:2013/09/06(金) 07:55:38.44 ID:J3BUWi1b
「それで、私には原因が思いつかないから、カシマキ先輩に相談したら?」
「先輩?」
「最初にユカリを拒んだのって先輩でしょう。もし私がユカリを推したことで
腹に据えかねてるなら、表立ってユカリの申し出を断ろうとした先輩に話し
てるかも」
「でもナツヤギさん、先輩とそんなに話さないよ?」ユカリはフルーツサンドを
手にした。
「ユカリを睨んでるのに、わざわざユカリの前でコソコソ喋ったりしないでしょう」
「それはそうだけど……」ユカリは腑に落ちない様子だった。
「でも、ユカリが恨まれる理由はないと思うよ。私が行くと喜ぶって意味は
わからないけど、ユカリはもう1ヶ月以上も音楽部の一員なんだからさ。
今更って感じがする」
「眠そうって言ってたくせに……」
「音楽部員が顔で伴奏者を選んでるならそれまでだよ。今ユカリの演奏は
音楽部に欲しがられてるんだから。演奏までダメなら早々に10年連続なんて
諦めてるさ。そんな甘い覚悟でコンクールなんて出ないよ。顔で決まるのは
合唱じゃなくてミスコン」
「……私の顔は求められてないってこと?」ユカリが眉根を寄せた。
「ユカリは音楽部でモテたいの?」
「そうじゃないっ」
「ならいいじゃない。私は眠そうなユカリの顔が好きだよ」
「!!!!!!!!!!!!」
「……あれ? ユカリ?」
 フルーツサンドを手にしたままユカリは固まっていた。
「キウイが落ちるよ」
 微動だにしない。キウイとミカンが1切れずつスカートに落ちる。
「ユカリ、ちょっと大丈夫?」
「えっ、そうだねっ!!!」
「そうだねじゃなくて、落ちてるよ、中身」
「え……」ユカリは自身のスカートを見下ろすと、目を見開く。
「ごめっ、先戻るっ!」
「え、ちょ、ユカリ?」
 ユカリは慌しくスカートの2切れをサンドの包みに投げ込むと、そのまま
まとめて出て行ってしまった。
「もう……なんなのよ」残された私は残ったサンド2つを手早く紅茶で流し
込み、せっかくの居候を終えた。


「やっぱり」人気がないとはいえ、全く居ないわけではなかった。
百合カップルスレ@18禁創作板9
295 :つづくない[sage]:2013/09/06(金) 08:01:19.57 ID:J3BUWi1b
「ナツヤギさん」
「トモキさん。話すのは久しぶりですね」
「そうですね」
 次の休み時間、私は探りを入れてみることにした。ユカリの初演奏の際は
怪訝な顔をされてしまったが、今までは特に嫌われている様子がない。
「合唱の調子はどうですか?」
「今のところは順調です。ヨレ気味だったソプラノの同級生たちも今はまとまって
いますし、脇田先輩の出身だけあって指揮とバスの相性が良いみたいで」
 ナツヤギさんは前の学校よりも昔から合唱を続けているメンバーで、同い年
ということもあって新しく入ったソプラノの世話人になっていた。今のパートは
アルトだが、前の学校で声域が低くなりすぎたため転向している。
「それは良かった。なまじ小さく関わったので気になってしまって」
「わかります。トモキさんならいつでも歓迎しますよ。今日は試聴にいらっしゃい
ますか?」ユカリに軽く触れても眉1つ動かさない。となると……。
「いえいえ、いくら張りが出ると言われても、そう何度も足を運んでは邪魔に
なりますから」
「邪魔だなんてそんな、トモキさんなら先輩たちも喜びますよ」
「先輩方が? 最初はカシマキ先輩に睨まれてしまいましたが」
「きっかけはともかく、今は仲が良いではありませんか。あなたもピアノを弾く
のでしょう?」
「いえ、現役の部員さんに自己紹介するようなものではありませんよ」
「カシマキ先輩が演奏、聞きたがっていましたよ?」
 やはり眉を動かさない。ユカリが睨んでくると言っていたけど、顔に出るほど
悪く思ってはいないってことかな。あるいはカシマキ先輩か誰かがガス抜き
してくれているのか。ちょっと踏み込もう。
「あはは、ユカリの演奏で十二分ですよ。最近は先輩方とも合ってるみたい
ですし」
 顔が強張った。やっぱり癪に障る所があるんだろうか。
「ユカリさんには本当に助けられました。良い人を薦めてもらって、ありがとう
ございます」
 社交辞令にしては仰々しい言い方だ。ユカリは即戦力というわけではなかった
し、練習中も何度かナツヤギさんは戸惑っていたはずだ。
「いえいえ、強引に引きずり出してしまったようなものですから。大舞台のユカリが
見たくてつい口が滑ってしまって」
「友達が活躍できるならそれを見たいと思うのは当然のことですよ。会場でも
歓迎しますから」
 ここまでかな。勇み足を入れると的になるのはユカリだ。
「それはどうも。楽しみにしています」
百合カップルスレ@18禁創作板9
296 :つづくない[sage]:2013/09/06(金) 08:08:51.67 ID:J3BUWi1b
 その日の放課後、私は第2音楽室で人を待っていた。暑い日が続くとはいえ、
西日が入らずエアコンが1度稼動している教室は、猛暑と言えるほどでもない。
「来ていただいてありがとうございます、カシマキ先輩」
「いいえ、今日は先生が出張でいらっしゃらないから。それで、何のお話?」
「ユカリとナツヤギさんのことです。ユカリから、ナツヤギさんが時々私を睨むと
相談を受けまして」
 カシマキ先輩は不可解だと顔に出した。
「ナツヤギさんからは特にユカリさんに関して聞いていないけれど、いつからなの?」
「特に時期は聞いていませんが、入部してすぐというわけでもなさそうです。
もう入部して2ヶ月近く経っていますから、練習を共にしていくうち、何かナツヤギ
さんに睨ませるようなことがあったのではないかと」
「ひょっとして、私が最初糾弾したから呼んだの?」カシマキ先輩は心外そうに
言った。
「いいえ、ただナツヤギさんがユカリの加入に関して文句や愚痴を言う相手が
いるとしたら……」
「先立ってユカリさんを追い出そうとした私、ということね」先輩はため息をついた。
「……初日に謝った時は見ていたと思うけれど、あれからユカリさんにはもう1度
謝ったのよ。自分だけの印象に捕らわれて、ユカリさんの志願してくれた気持ちを
考えていなかったって」
「あの時はユカリの言い回しも悪かったですよ。枯れ落ちたものから自分なりに
肥やす、なんてこと普通は思いませんから」
「正直に言えば、ひどく堪えた。ユカリさんが言ったことで、私は自分が伴奏を
どう考えていたか丸裸にされたから。その上部員で囲って追い出そうなんて」
 悔しそうな顔だった。私が改まって呼び出したため、悄気返ってしまったらしい。
「フミさんも多分言っていると思いますが、囲んだのはともかく、先輩がユカリの
姿勢を疑ったことは間違ってません。一夜漬けだと知らなかったなら、たとえ
見た目だけでもあんな言い方で志願されては嬉しくなかったでしょう」
「よくわかるのね。そうして私は見た目で演奏者を判断したの。音楽に携わる
人間が絶対にやってはいけない事をね」先輩は自分の目耳に節穴と名付けて
嘲っていた。
「見た目を整えずに志願しても心証を好くすることはできませんよ。単にその結果
生まれる個々人の相性の問題です。合唱では相手の鍛え上げた歌声が自分と
合わない、なんていちいち深く嘆かないでしょう?」
「真っ先に出て行って真っ先に嘆いていたら、呆れ顔の矛先になるだけじゃない」
「先輩が最初に言わなくても、誰かが言っていたと思いますよ。ナツヤギさんが
そうかもしれませんし。ユカリは顔つきで誤解を受けやすいから」
 カシマキ先輩は少し迷った後、話し始める。
「言い訳するわけではないけれど、私はホノカさんが伴奏の席に据えられた時、
真っ先に止められなかったの」
「顧問や先輩方が寄ってたかって“説得”し続けたそうですね」……あ。
「あの時私が申し出ていなければ、ホノカさんはアルトとして舞台に立てなかった。
でも、歌えるのは課題の新作1曲だけ。あの自由曲はホノカさんが『自分でも
何とか仕上げられる』と保証したから決まったの」
「歌唱ではなく、伴奏で決めたんですか!?」
「おかしいでしょう? 私は無伴奏の曲を候補へ挙げ続けたのに、皆ホノカさん
に全部投げちゃった。一昨年昨年と無伴奏曲のヤマと正面から争って、

地域コンクールに進めそうな曲が難しいからって。現役部員の選曲指揮伴奏
が10年目ってことで、皆気負っちゃったのね。私も皆と1度コンクールに出ては
いるけれど、まだ1年目だったから、うまく立ち回れずに皆を説得することが
できなかったの。あ、これフミやユカリさんには黙っておいてね」
 何もかもが逆転していた。結果としての10年目が前提に、結果としての地域
進出が目標に、結果としての伴奏ありが圧力に。
百合カップルスレ@18禁創作板9
297 :つづくない[sage]:2013/09/06(金) 08:21:40.11 ID:J3BUWi1b
 ホノカさんが演奏できる曲を基準に選べば、伴奏付きという枷が、そのまま曲の
選択範囲を狭める。それを理由にして、高難度な曲を候補からわざと切り落と
していく。地域進出を狙える平易さを誤魔化して、ホノカさん“のせい”にした。
 フミやユカリはとんでもない年に入ってしまっていたんだ。
「唯一の救いは、昨年ご卒業なさった伴奏の先輩が、ホノカさんに裁量を与えて
くれたこと。あの先生もそこだけは保証してくれたし、先輩に至っては、『ホノカさんが
決めた曲に文句を言ったら、卒業した後でも校舎まで怒鳴り込む』なんて脅しを
かけていたから」
「それでユカリが来た時あんなに辛辣だったんですか」
「ええ、これは聞き流してほしいのだけれど、ピアノの合奏経験すら疑っていたの。
今思えば、ユカリさんの態度がホノカさんの気持ちを踏みつけている気がしていた
のかも」
「まったく、そんなことで熱くなってたの?」
 2人同時に向いた。第2音楽室の入り口、教室後方ホワイトボードの側に、

ホノカさんがいた。

「ホノカさん、これは、あのっ」
 歩いてくるホノカさんにカシマキ先輩はすっかり取り乱していた。
「とりあえずマキは1度息を整えなさい。喉と肺に関しちゃ私たちがテダレなんだから」
 いつの間にか音楽部員が手足りた刺客になっていた。
「お久しぶりです、オノカさん」
「久しぶり、それと私はホノカだよ。私フランス人じゃないから」
「あれ、フランス語習ってませんでした?」
「蒸し返さないでよ、わかったわかった、Je voulais manger de la glace!」
 街で出くわしたホノカさんが、3段氷菓でお腹いっぱい危機の言い訳に、
斜め向かいのフランス語教室を指し示したときは驚いたものだ。
「あはは、県コンクールが終わったらちょっとだけ食べに行きましょうね」
「いやいや地域のに出るなら初っ端気が抜けることしちゃダメでしょ」
「それもそうですね。ところで、落ち着きましたか?」
「え? ええ……」カシマキ先輩はまた悄気返っていた。
「というか、見えていたなら言ってくれてもいいじゃない」いや、これは拗ねている
の間違いだ。
「人差し指を唇に当てられましたし、途中からホノカさんの話に釘付けでしたから」
 そう言ってホノカさんを見る。
「そうだね。あの選曲は皆が不必要にやたら気合を入れていたから、私が演奏
できるんですか、って突っかかっちゃってたし。去年の伴奏には志願していたから、
ある意味自業自得だ」
「そんなことありません! 無理だってホノカさんが言っているのに、まだ発表すら
されていない課題曲を押し付けようとしていたのは、自分で弾かない人たちなん
ですよ!?」
「弾けないからこそだよ。この話は11月に終わったと思ってたけど?」
「ホノカさんが言っちゃった私に呆れて打ち切ったのが最後です」
「よく覚えてるね。確かにアレはひどかった。弾けるってわかった途端、マキが
怒ってたの放っぽりだして、マキが挙げてた中で伴奏付きの難曲候補、

押し付ける前提で急に引っ張り戻して考え始めるんだもん。先生は口出さないし
もう尻軽もいいとこ……トモキ?」
「私は部外者ですので」
「メルシー。それで結局、忙しい先輩がわざわざ音楽室へ怒鳴りつけに来てくれたよね」
 カシマキ先輩は思い出したのかため息をついていた。
「あ、脅しじゃなかったんですね」
「部活をやっていてOBに怒鳴られるって、不名誉どころじゃないもの。現役のうち
ならまだマシ」カシマキ先輩はスパッと両断した。
「私にはE#とFくらいしか差を感じませんが」
「それもそうね」
「いやまったく」
 3年並んで3票の共通見解が得られた。
百合カップルスレ@18禁創作板9
298 :名無しさん@ピンキー[sage]:2013/09/06(金) 08:28:15.38 ID:J3BUWi1b
「それにしても、マキがそこまで真剣に考えてたなんてね」
「当然です。弾き手に弾けって命令することがどれだけ失礼か皆わかって
なかったんですから」
「吹奏楽部で打の人を楽そうって言うようなものだし、気持ちはわからなくも
ないけど、私はマキがもっと早く申し出てくれればな、と今更後悔してる」
「……っ、すみません」カシマキ先輩は腰を曲げた。
「だからそんな仰々しくしないでよ。11月にその話は済ませたでしょ。そうじゃ
なくて、私は一度伴奏に連弾で出たかった、と思ってね」
「連弾……ですか?」カシマキ先輩には全く覚えがなかったようだ。
「うん、伴奏の形は歌唱の聴き取りを邪魔しなければ自由だから。どこもピアノ
1人から変えないだけでね。先生に1度聞いてみたけど、申し入れて楽譜を
提出すれば通るみたいだよ?」
「それではユカリさんと……?」カシマキ先輩は目に見えて落ち込んだ。
「何言ってるの、マキに決まってるじゃん」カシマキ先輩は目に見えて背筋が
伸びた。
「えっ、でもそれでは課題曲の伴奏が」
「……10年目の伝統とか、2年とちょっとしか部にいない私には、どうだって
いいんだよ。そんなことより、マキと一緒に歌う方が大事」
 ホノカさんがマキ先輩の方へ向かう。
「ユカリさんが来てくれた時、私は腕にかまけて、なんてもったいないチャンス
を逃したんだろうって、そう思ったよ」
 ホノカさんが、マキさんの前に踏み出す。
「少なくとも私を出汁に、ユカリさんを追い出そうとしてたとは思わなかった
けどね」
 ホノカさんは苦笑した。
「……申し訳ありません! 私勝手にこじつけてフミとトモキさんが連れて
きてくれた人にひどいこと……え?」
 ホノカさんの少し小さな背が、マキさんの側に寄る。ユカリより少し低い肩が、
マキさんの胸を覆う。マキさんの左肩に、ホノカさんの額があてがわれる。
 ホノカさん、葛葉穂乃香さんは、マキさん、樫牧真紀さんの背中を、
両手で柔らかく引き寄せる。
「真紀、ごめんね、私がもっとピアノ上手だったら、真紀が伴奏弾くこと
なかったのに」
「穂乃香さん……いいえ、私っ……弾けるって言ったこと……後悔して
いませんから……」
「あの人ら相手に、うまく立ち回る、なんて、入って半年だった人が、言う
ことじゃないよ。9ヶ月も秘密にして、片方歌えなくなったんだよ? 真紀は
もっと、怒ってい……」
「やめてください! ユカリさんが来るまでの私なら、少しはそういう気持ちが、
あったかもしれません。私は貴女と同じく、歌うために、入りましたから。
でも、私は私で、満足したいこと、できましたっ。このコンクールで、私は、
穂乃香さんの歌を、支えたいんですっ。穂乃香さんが、自分の腕と天秤に
かけて、それでもなお、好きなように選んだ曲を、一緒に、合唱したいんですっ。
我が音楽部は、全員揃って、合唱団ですから!」
「……ありがとう……!」
 穂乃香さん、真紀さん、2人はすぐそばにいた。ピアノのそばで、ずっとお互いを
支えていた。コンクールまで、1ヶ月を切っている。2人にとってのコンクール。
伴奏と、歌唱。2人の合唱は、今ここに始まった。
百合カップルスレ@18禁創作板9
299 :つづくない[sage]:2013/09/06(金) 08:32:53.60 ID:J3BUWi1b
「付き合わせちゃってごめんなさい」
「ナツヤギさんについては任せて」
 ホノカさんとマキさんはそう言うと、第1音楽室へ戻っていった。既に
いつもの練習終了時刻に近かったが、そのまま帰宅では礼儀を欠く。
「弾けるって言ったこと、後悔してません、か……」
 第2音楽室。西日こそ差し込まないが、外は既にオレンジ色。
 演奏席に座る。蓋を開く。当て布を脇に置く。
 座面を下げる。椅子を動かす。足をペダルに。
 構える。
「……」


 走る。
 捕まえる。振り向かせる。
「あなた、誰?」
 茶色のポニーテールが、揺れていた。


つづくない


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