- 母親が他人に犯される 漫画・小説 #13
689 :多部聡の憂鬱 ◆pQBymCKmbj68 [sage]:2012/12/20(木) 10:38:39.07 ID:YJ5xXwSU - 10.
あっという間に梅雨のシーズンがやって来た。 高校は土日は休みで、当然、俺と母さんの休みは一致している。 最近、母さんが休日のどちらかを留守にすることが多くなっていた。 「…あれ。出かけるの?」 雨の土曜の朝、母さんが外出の支度をしているのを見て俺は聞いた。 「ああ。うん、今日は…えっとね、講習会があって」 「講習会?」 「……7月に、学校で健康診断があるでしょ」 「ああ、うん」 「そのための保健指導教諭への講習があるのよ」 「ふうん」 「夕方には帰るから。朝と昼ごはんは適当に済ませてくれる?ごめんね」 母さんは黒縁の眼鏡を外し、いつも頭の後ろで括っている髪を下ろしていた。 肩までふわりと垂れた髪に緩いウエーブが掛かっているのに、少し俺は驚いた。 「…なんか、おめかしだね」 「え」 「いや、髪が…ほら、ちょっとパーマ掛かってるから」 「──外に行くんだもの。これくらい、自分でやったら、すぐよ」 我が母ながら、まだまだ綺麗だ。実際は41歳だが、30代前半で通用するのではないか。 “おばあ”なんてあだ名は、やっぱり言われるに当たらない、と思う。 「やっぱりそういう髪型にすると、若いね。まだまだイケるよ」 思わず、そう言った。 「──なに、言ってんのよ」 母さんは珍しく、少し照れたように笑った。
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- 母親が他人に犯される 漫画・小説 #13
690 :多部聡の憂鬱 ◆pQBymCKmbj68 [sage]:2012/12/20(木) 10:39:37.23 ID:YJ5xXwSU - 11.
母さんからの電話があったのは、夕方の6時を廻った頃だった。 「…ごめんね。知り合いの先生たちと話が…長引いちゃっ、て」 「あ、そうなんだ」 「悪いけれど、飲みに、誘われて。ん…晩ごはん…も、済ませておいて、くれる?」 「分かった。それからさ、ちょっと熱っぽいんだね。うちに風邪薬あったっけ?」 「……風邪、薬?…えっと、救急箱に、あ、ったんじゃ…ないかしら?…」 「分かった。探してみる。大丈夫だから心配しないで。飲み会、楽しんできてよ」 「ありがと。ごめんね、聡…っ。お願いね」 分かったよ、と返事しているその途中で、母さんの電話はプツンと切れてしまった。 おそらく、友人に急かされでもしたのだろう。 晩飯を適当に有り合わせで済ませた後、市販の風邪薬を飲んだ。 「風呂はやめといた方がいいかなあ…」 独り言を言いながら救急箱を棚に戻す。 すると、棚の一番奥に病院の処方薬の包みらしきものが隠れるように置いてあるのを見つけた。 「なんだ、病院の風邪薬の残りがあったなら、こっちにすりゃ良かったな」 何気なく俺は、その包みを引っ張り出す。 良くある病院用の薬の紙袋。だが、まず目に入ったのは──「新井産婦人科」の文字だった。 「…産婦人科?」 心臓がどくん、と跳ねた。どういうことだろう。 産婦人科で風邪薬?袋の中身を、俺は慌てて取り出してみる。 オレンジ、黄色、赤、白の錠剤がそこに入っていた。 折り畳まれた処方箋がある。少し震える指で、俺はそれを広げてみる。 カタカナと英文字で記載された薬名。備考欄に注意書きがあった。 ──経口避妊薬。 そう、印字されていた。
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- 母親が他人に犯される 漫画・小説 #13
691 :多部聡の憂鬱 ◆pQBymCKmbj68 [sage]:2012/12/20(木) 10:40:40.82 ID:YJ5xXwSU - 12.
頭が混乱した。 経口避妊薬──ピル。 それに関する知識は俺も持っている。でも、なぜ母さんが。 俺はさらに処方箋の日付を見た。処方されたのは、2週間前だと分かる。 錠剤のシートには、すでに使用されて空になっている部分があった。 つまり、母さんがこのピルを服用している。 それが意味することは──ひとつしかない。 父さんが死んで5年になる。母さんは独り身だ。 だから、そういう相手が出来ても、それは仕方のないことかもしれない。 でも、誰と? 俺は必死に考えをめぐらせたが、心当たりはない。 母さんはとても綺麗だと思う。まだまだ恋愛から遠ざかるには早い。 けれど、全くそういう素振りを母さんは見せていなかった。 母さんが、俺に秘密を持っていた。そのことが、ショックだった。 (聡も、母さんのことを、そんな風に心配できる年齢になったんだね。) (聡一さんに似てきたねえ。) (聡も負けないようにいい男になりなよ。) 母さんの照れたような笑顔。そして、俺に向けてくれる深く、強い愛情。 そのすべてが、ガラガラと音を立てて崩れていく気がした。 母さんが悪いわけじゃない。息子にだからこそ、言えないこともあるだろう。 でも。でも── 「…俺に、黙ってなくてもいいじゃないか」 思わず、俺はそう呟いていた。
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692 :多部聡の憂鬱 ◆pQBymCKmbj68 [sage]:2012/12/20(木) 10:41:47.52 ID:YJ5xXwSU - 13.
俺は結局、母さんにそのこと問い質せなかった。 母さんが帰宅したのは、結局、もう日付が変わってからだった。 俺は母さんと顔を合わせる覚悟が出来ず、部屋で寝入った振りをした。 もしかして、こんなに遅くなったのも飲み会なんかではないのかもしれない。 “その男”と、会っていたのじゃないのか。 もしそうなら、こんな時間に帰ってくるというのは──つまり、そういうことだ。 俺はその晩、ベッドの中でほとんど眠れずに過ごした。 日曜の朝、母さんは普段の母さんと変わらなかった。 「おはよう、ゆうべはごめんね。数軒、付き合わされちゃった」 髪を後ろで束ね、黒縁の眼鏡を掛けた母さんは、珈琲を飲みながら笑った。 「…そうなんだ。珍しいね。そんなに仲の良い先生っていたんだ?」 思わず、探るようなそんな調子になった。 「…うん?まあね」 「…男の先生?」 「え?」 「いや。一緒に飲んだ先生って」 母さんは僅かの間、俺の顔を見つめて、それからまた笑った。 「…あははは。女の先生だよ。それに3人だし。保健の教諭に男の先生はいないねえ」 「そっか。そうだよね」 少し微妙な空気が流れた。俺と母さんの間に、流れたことのない空気だ。 「──あ、そう。風邪はどう?薬はちゃんと飲んだの?」 母さんが、やや慌てたように言葉を繋いだ。 そして立ち上がると、俺の額に、自分のおでこをこつん、と当てた。 どきり、とした。母さんの行為にもそうだったが、母さんから少し香水の香りがしたからだ。 母さんが香水を付けていたような記憶は、俺にはない。父が生きていた頃を含めても。 「ん。うん。服んだよ」と、俺は素っ気なく言う。動揺を悟られないように。 「うーん…そうだね。熱はないね、多部聡、3-C、出席番号14番、問題なし」 おでこを離した母さんは、にっこりと、いつものように笑った。 これまで俺を守リ続けてきてくれた母さんの、優しい笑顔だった。
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693 :多部聡の憂鬱 ◆pQBymCKmbj68 [sage]:2012/12/20(木) 10:43:06.76 ID:YJ5xXwSU - 14.
どうしたらいいのかを俺は懸命に考えたが、答えは浮かばない。 このまま、時の過ぎるままに任せておくべきなのか。 母さんが俺に秘密にしている限り、知らない振りをしておくのが息子として正しいのか。 「…まるで、マザコンだな」 俺は自嘲して、そう呟いた。 理屈では、こういう可能性もあると分かっていたつもりだった。 でも、実際に、俺の母さんが、見知らぬ誰かに──男に、抱かれている。 そう思うと、身がよじれるほどの熱い焦燥だけが募った。 次の日、こっそりとまた棚の奥を確かめた時、ピルの紙袋は消えていた。 俺が見てしまったことに気づかれた様子はなかったが、母さんが隠し場所を変えたのだろう。 そして俺は悶々と何も出来ぬまま、日にちだけが過ぎていった。
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