トップページ > お絵描き・創作 > 2012年06月02日 > 2CfhPHRB

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◆zeBlsFcand8U
いい加減暇だから、小説書いてみた。

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いい加減暇だから、小説書いてみた。
37 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 16:16:56.49 ID:2CfhPHRB
サークルを退会して、私の身辺整理は一区切りがついた。
私は、学校にいく楽しみをつくるようにカウンセラーに言われていた。
丁度新歓の時期が近づいていた。
私は、大学に残る意思を固めて、提出を求められていた感想文を学長に渡した。
その場で、学長は静かにそれを読んで、少ししんみりとした。
「休学中、君が部活動やサークル活動に励むのは黙認しよう。
 ちょっと思い出したよ。私も上京組でね。そうだな。寂しかったよ。
 たまに顔を出しなさい。忙しいが数分なら悩みを聞くから」

いきなりまともな部活動を探そうというのも難しい話だ。
新歓に参加し、興味を持ったいくつかの部活もあったのだが、迷惑そうにされた。
留年ばかりしていると、顔見知りは多く、あいつはヤバい奴だと見做されるのだ。
途方に暮れている時、私の肩を叩く人がいた。

「君、武道に興味ない?」武道錬成部と大きく筆の文字が踊るチラシ。
高梨と名乗った相手は、身長がやたら高い。
私の許容量を超えて喋りまくった。三年らしい。
普通の会話でも結構厳しいが、彼は凄く声が大きい上に早口だった。
私が答えられずにいると、体格の良いのが左右を固め、背後には女子がついた。四面楚歌。
女子に背中を押され
「はいはいどいてどいて」
高梨が先導して私は実にスムーズに拉致された。

いい加減暇だから、小説書いてみた。
38 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 16:18:36.16 ID:2CfhPHRB
各部活やサークルの出し物の端っこの地味なテーブルに連れて行かれ。説明を受ける。
潰れたのと潰れかけの武道系団体が合併してできた部。
単独だと、どうしても学内の施設を借りにくいので、協力して借りやすいようにしたそうだ。
理解のある武道団体を除き、団体への登録を認めてもらえなかったそうで。
大会やら対外試合といったものには、あまり積極的には取り組めない。
本気の部員は、道場との掛け持ちしてこちらは気楽にやっているという。
ちょっとかじりたい程度から入部OKと敷居も低いそうだ。
これは良いなと思った。
K1とかは苦手だが、剣道とかには興味を持った時期もある。
脈ありと見られたらしく。
それぞれの部活が持っていた備品があるから、あれこれやるのもOKと畳み掛けられる。
ダイエットにもなるよと、女子が言った。
この頃私の体重は136kgあった。痩せていた頃しょうゆ顔だった私の顔は無残な有様だ。
運動系の部活はつらそうだとかいう偏見があったが、それも含めて断る理由が虱潰しにされた。
入らない手はないと、その場で入部届を書いた。

辛くないと思っていたら、そんなことは無かった。
デブ症で出不精。体も硬い私は単なるストレッチから悲鳴を上げた。
高梨さんは自分の鍛錬の最中にちょくちょく気をつかってくれて。
股を割ったりなんなりと、硬い私の体を解すために手を貸してくれた。
ちょっとしたことで悲鳴を上げる私を煩く思う人も多かったようだが。
練習日は欠かさずでようと決めて実行していると、少し話せる理解者が出てきた。
もう、あの虚しい日々には戻れない。今のところ、これしかない。
一ヶ月くらいすると120度が限界だった開脚が140度は楽になり、無理すれば150度までいけた。
つま先につかなかった指先が、腹がつかえて痛むがどうにかつくようになった。
それをみた高梨さんが、頑張ったねと言いながら。
廃棄処分する予定だった自転車タイプのトレーニングマシンを御褒美としてくれると言った。
部費で処分するよりは、押し付けた方が良いという理由だったらしいが、私はそうとは知らずに喜んだ。

いい加減暇だから、小説書いてみた。
39 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 16:20:06.38 ID:2CfhPHRB
我が家にトレーニングマシンが届いた。
私は訓練を少しでも楽しくするために、巨乳グラドルの等身大ポスターをその前に貼りだした。
二次元オタクというものが、三次元に興味がないとするむきもあるが、それは違う。
三次元に否定されて、二次元に逃げ込んだのが大半で、私もそうだった。
とにかく必死にこなした。膝を痛めるといけないからとランニングをメニューから外されていた分。
自宅の中で、のろのろでも少しづつこのマシーンで訓練をした。
最初の一ヶ月が過ぎた頃、我が家にあった100kgまで計測可能の体重計に99.7という表示が出た。
びっくりして、大学構内の保健室にいって計らせてもらうと101kgだった。
これを高梨部長に報告するなり、ダイエット一ヶ月成功祝いとしてコンパが開かれた。
私のことを煙たがっていた部員すら、おめでとうとジュースを注ぎにきてくれた。
凄くストレートに、こんなヤツはすぐ来なくなると思って賭けてたんだよという人もいた。
二ヶ月目、私の体重は82kgになっていた。
体がものすごく軽く感じて、ランニングも息が上がるのは早いが速度はかなりだった。
息が上がりにくい自宅ではかなりトレーニングマシンの走行距離を稼げるようになった。
もっとも表示が30kmとかでていても、計測機能は故障しているらしいから、実際の距離は不明。

段々、体を動かす楽しさを憶えた頃。親父から唐突に電話が来た。
「どうだ、辞める決心はついたか」
からはじまって、大学を辞めろと何度も言われた。
母さんをこれ以上困らせるな。どうせお前はまた行かないんだ、と。
それを何度も否定していると、唐突に電話がガチャッと切れた。
母は、これを土日に我が家に来た時に聞くなり、ちょっと実家に行ってくると憤慨して出ていった。
それっきり、アパートに母が来ることはなかった。
その夜に親父から電話が入った。
「俺が昔居合やってた頃の道具が納屋にあった。
 ちょうどいいゴミ捨て場があるなら放り込むつもりなんだが、どこかいいところ知らないか」
「僕の家の玄関の扉が涎垂らして待ってるよ、パパ」
「ガチャッ」

いい加減暇だから、小説書いてみた。
40 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 16:23:29.01 ID:2CfhPHRB
居合道具がこの四日後には一式届いた。
名義を変更しないとまずい書類などもあって。どうすれば良いのか箇条書きで書いてあった。
刀剣の手入れの仕方などの、真新しい本と共に、真新しい稽古着が一着。
お古で良かったのに、私は泣いた。
母からは、もう大丈夫そうだから、お父さんの所にいるね、と電話で告げられた。

道具はあっても師匠なし。
取り敢えず大学で稽古着を着るようになると、剣道をやっている部員からよく声がかかるようになった。
居合をやってみたいと告げると、誰もやってないという残念な答えが返ってきたが。
それなら、形をやってみたらどうかと言われ、日本剣道形を一緒にやるようになった。
相変わらずそれ以外は基礎的な鍛錬だった。
ついに4ヶ月目に、私は179cm68kgという体型に大改造された。
皮膚のたるみや肉割れの跡が酷かったが、部員全員から本気で祝福してもらった。
これが、私の転機となった。
私の見栄っ張りは、自身のなさの裏返しなのだとカウンセラーが言った。
しかし、大きなダイエットをやり遂げた事で、今が転機になっているとも。
復学を考える時期が来たのよ、と言われたと写真とともに親父にメールをしてみた。
「お前の為に学費を出すなんて反吐が出る」
という返信があった後、口座に学費が振り込まれ。止まっていた仕送りが再開された。

バイト先でも、評価が著しく変わった。あいつはいつものろまだと言われていた。
パソコンが得意なので、どうにか置いてもらっていたのだが。
巨体を支えていた筋量が残ったまま大幅減量に成功した体は軽く。
客前に出ても見苦しくないからか、他にも色々任され、時給もあげてもらえた。

いい加減暇だから、小説書いてみた。
41 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 16:25:53.35 ID:2CfhPHRB
夏を乗り切り、後期から復学した。後期は地獄のスケジュールだった。
スムーズに進級するために、最低限必要だと指示された単位を確保するため補講が多く。
バイトを削りながら臨んだが、幸い浪費がなくなった事でバイトを削っても問題はなかった。
私は優や良の多い結果を手にして、学長に更生を祝ってもらい。三年になることができた。

学内での私の扱いは大分変わった。口下手だがけっこうやる奴と見做されていた。
特に、恐ろしい勢いでダイエットを成功させ、体重を67kg前後で維持している辺りが魅力。
ダイエットの秘訣を知りたいと女子が近づいてくる事も多く。経験値を貯める機会に恵まれた。
自分に自信がないから見栄っ張りになっていたというのは本当だった。
自信がついて、変な見栄を張ろうとしなくなると、不思議と口下手なりに喋れた。

三年の6月。梅雨に入ってじめじめとしていた。
朝練の為に早く道場に来た私は、まだ誰も来ていない暗い道場を見渡して更衣室に入った。
開けて、中を見て、おっぱい丸出しの女子がいたので、その場で硬直した。
向こうは挨拶を使用と開いた口から、代わりに悲鳴を上げた。
ばたんと扉を閉めて、更衣室の扉の前のプレートが男子であることを確認する。
痴漢と連呼する中に男子更衣室だといっても、錯乱状態の相手は理解してくれない。
やがて悲鳴を聞きつけて正義感あふれる他部の部員達が武道場に乗り込んできた。
ああ、終わりだ、と思いながらも私は男子更衣室と書いてあるプレートを指さした。
変態めといった対応になってもおかしくないと思ったが、そうはならなかった。

「謝りませんから」
七条伽夜と名乗った相手は、稽古着に身を包んだ姿で居直った。
他部の面々は、災難だとは思うが、男子更衣室を使っていたのがまずいと言った。
私は、よくよく考えて整理し
「申し訳ない」
謝った。こっちは眼福、向こうは見せ損なのだ。こうするのが一番のように思えた。
赤い顔をした伽夜はふいと顔を背けた。不謹慎にもとても素敵だと思った。
他の部員達もやってきて、どうしたのと聞くと、伽夜はなんでもありませんと言った。

【第二回更新ここまで】
いい加減暇だから、小説書いてみた。
42 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 17:26:12.77 ID:2CfhPHRB
その日の練習には余り身が入らなかった。
黙想が多かったのは、立ち上がるとまずい種類の、生理現象対策の為だ。
伽夜の周りにはすぐに人だかりが出来ていた。概ね男子。これには助けられた。
黒髪に黒目で、化粧っ気も薄いのに美人。それに稽古着の胸元は結構膨らんでいる。
既に他をライバル視している状態の奴も多く、漂う不穏な空気。
伽夜が迷惑そうにしていたので、一度は高梨さんが解散させたが、
結局、入れ替わり立ち代わり、ひっきりなしに誰か男子がついていた。
一方、黙々と黙想をしていた私はといえば、女子部員からの評価が何故か上がったような気がした。
おそらく気のせいではなく、こちらをとあちらをみながら、表情が変わるのでまず間違いない。
その私が、いの一番に伽夜に魅了されていたわけである。世の中なんとも滑稽だ。

伽夜はスポーツチャンバラで小太刀二振り扱うのだそうだ。
うちの大学ではスポーツチャンバラをやっている人間など聞いた事も無かった。
それで、近からず遠からずの剣道をやりに、この部に遅れて入部したとのことだ。
歓迎会の時の自己紹介の後、やはり男子が伽夜を取り巻いていた。
私は黙々とウィスキーを空け、飲み放題パック料金の元を取る作業に従事していたと思う。
コミュニケーション下手で輪に入らないところは、あまり変わってはおらず。
特に意中になりかけの異性を囲む輪に飛び込んだら、あがり症の虫が疼きそうだ。
時折カラオケステージが空いていると、気まぐれ、楽曲リストを開き。
Top of the world やsingといったフォークから、一転して、鈴木雅之を歌い。
カウンター席の60代超えのマダムからのリクエストに答え、カクテル「ラブコール」などをご馳走になっていた。
アニソンを心ゆくまで歌いたい。


伽夜が真っ先に懐いた男子は高梨さんだ。その光景は兄妹のように微笑ましかった。
高梨さんも私と同じで伽夜に纏わりつかず。来れば拒まずに相手をしていた。少し羨ましかったが不思議と嫉みはなかった。
暫くして、高梨さんが伽夜に交際を申し込んだらしいが、伽夜はきっぱりとこれを断ったそうだ。
高梨さんがヤケ酒を煽る席で、そういえば伽夜が結構お前のこと気にしてたぞと言った。
「まさか」
この一言で笑い飛ばすと、他の面々もそうだそうだと言った。
裸を見られた相手がどんな人物か位気にするのは当たり前だと思う。

いい加減暇だから、小説書いてみた。
43 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 17:28:45.56 ID:2CfhPHRB
8月上旬。前期の単位は全て良以上で取れていたので母が二万程口座に振り込んでくれていた。
それを送り返しても、浪費がなくなった私の口座には三十万弱の預金があった。
合宿の話が出た時は、肉割れの残る気持ち悪い体を見られたくないので断ったのだが。
幹事をやっている田ノ上が、十人以上になると割り引きが大きくなると懇願してきたので。
参加者の一覧を聞いて、行くことにした。
伽夜がいたのだ。いなければやっぱり断っていただろう。
私は、基本伽夜に纏わり付きはしなかったが、目で追う事は多かった。
余り迷惑をかけまいと、意識して視線を逸らすようには、心がけていたものの。
実直な性格で、さっぱりした性格で、やっかみもすくなく女子受けが良い所が凄く気に入っていた。
容姿が素敵なのは言うまでもないが、鼻にかけない、媚びない、品があると。
洒落た話が出来れば声をかけにいっていたが、自分が参加できる話題の時にも気後れしていた。
合宿中に彼女が交際相手を決めてしまったら、きっと後悔するような気がした。
駄目なら駄目で、駄目になる前に当って砕けたい。

場所はとある島。田ノ上の実家があるそうだ。
田ノ上という名前にしては珍しく、彼の実家は神主の一族らしい。
自慢話を聞く限り。島唯一の神社ではあるが
さして観光地として人気があるわけではなさそうだった。

フェリーで近くの島まで行ってから、人口の少ない島々を巡る連絡船に乗り換えた。
この最中、伽夜が船酔いで他の乗客に吐きかけそうになるというトラブルに見舞われたが、
咄嗟にベストを脱いだ私がそれを伽夜の口元にかざして防いだ。
オタクをやっている時に、女の子にゲロを吐かせる本を売っていた人がいたなと思い出し。
彼ならこのベストをどうするのだろう、と思いながら、船員さんに捨ててくれと預けた。
女子で180cm超の身長を誇る、喜納さんと左右から抱え、伽夜を船室まで運んだ。
いい加減暇だから、小説書いてみた。
44 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 17:30:32.51 ID:2CfhPHRB
島につくと、白い布に○○大学武錬部ご一行様歓迎という幟を翻す一団がいた。
自己紹介する彼らが田ノ上と名乗ったので、少しびっくりした。
てっきり民宿か何かに連れて行かれるとおもいきや。
連れて行かれたのは、島で唯一の学校だった場所だ。
今は役場の管理の元、たまーに来る観光客向けに、体裁ばかりの宿泊施設として提供されるとのこと。
個室はないわけではないが、元科学準備室とかのプレートが掛かっていた。
人体標本とかが並んでいる場所で安眠しろというのは些か無理ではなかろうか。

私は、高梨さんと、田ノ上と共に、一年A組の住人となった。
その隣が二年A組というのは如何なものかと思う。
人口過小の島の現実というものをLED越しに見る事はあったが、
現実として直面するとその侘しさは生半可ではない。
コルクボードに貼りだされたままの、廃校となる直前の生徒たちが描いた絵が黄ばんでいた。

この宿舎、冷房はなかったが非常に快適だった。
島の村よりかなり高い場所にあって、学校だっただけに開放感のあるつくり。
窓という窓を開けると、海からの潮風が絶え間なく肌を撫でて、暑さを連れて行く。
潮焼けはたまらないが、熱射に苦しむよりはかなり良い。
そも、運動系の部活動なのだから、夏のちょっと苦しい環境はお誂え向きだ。
体育館も南の方の島ならではの風通しを考えたつくりで、意外にも過しやすい。
ただ、体育館を周回するランニングだけは、凄くきつかった。
いつもは、声出せ声ー声出せ声出せと掛け声かける高梨さんも寡黙だ。
「体育館の影ー 声出せ声 声出せ」「もうやだ! もうやだ!」
体育館の影に入る度にこんな具合に口を開くが日の当たる場所に出た途端黙る。
男子のこんな姿を見ながら、早々と体育館内で走り込みすると逃げた女子は笑っていた。

【第三回更新分終わり】
いい加減暇だから、小説書いてみた。
45 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 22:35:08.69 ID:2CfhPHRB
私のように、未だ道場も決めていない、ライトな者を除き。
所属道場で参加する大会が決まっていた者が多く。
追い込みをかける人達の掛け声は、朝昼三時間づつきっちりと体育館に響き渡った。
私は、体を作る運動は他よりもしっかりと取り組んで肉体に悲鳴をあげさせたが。
その他は、剣道形の他に、ネットで調べてプリントアウトした他流派の形なぞに取り組んでいただけ。
一人、隅の方で黙々と窓硝子に映した自分を見ながら、そればかりやっていた。
そんな私に、不意に声がかかった。
「せんぱーい。ちょっと、良いですか?」
余り話したことの無い後輩。その後ろには伽夜もいる。
「何だ?」
「何をやってるのかなーって」
「形だ」
「いや、それは分かるんですけど。前にやってたのと違うなって……伽夜が」
「剣道形の他に他の形もはじめた」
「へえー、どこか入門でもなさったんですか?」
「インターネット直伝だ」
「インターネット…直伝…ぷっ ご、ごめなさあっはっはっは」
愛嬌のある顔がたちまち笑みに彩られた。
練習に励んでいた田ノ上や高梨さんがその手を止めた。
「本格的にはなさらないんですか?」
伽夜だった。独特な得物に稽古着という姿。
「どれをやろうか悩んでいる」
「宜しかったら、スポーツチャンバラなさいませんか?」
「え?」
はいタッチ、とばかりに会話する相手が入れ替わる。
ぽんと、伽夜の背中を叩いて、もう一人が行ってしまった。
途端に緊張感が走る。普通の相手と普通に会話するのは良いのだが。
心の中に占める割合の高い相手とのタイマンはまだ厳しい。
いい加減暇だから、小説書いてみた。
46 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 22:36:38.68 ID:2CfhPHRB
「あ、あぁ。いや、しかし」
「無理にとは申しません。もし宜しかったら」
本音を言えば直ぐに頷きたかった。
未だ残る劣等感が、実に十年近く振りの三次元での恋を、下心のように下卑たものと感じさせた。
そんな迷いが機会を逃させてしまった。後悔が募ったが致し方のないことだ。
ふいっと向きを変えて行ってしまう伽夜の背中を見送って、私はもとのように形をはじめた。
心此処に非ずの酷い出来栄えだった。

合宿は四日目までまたたく間にすぎていった。
稽古着から覗く素肌の部分は浅く日焼けしてヒリヒリする。
五日目から七日目までは、朝練以外は自由行動が多い。
島唯一の遊泳可能な浜辺にいくと、沖合に流されないためのブイが浮いていた。
私は水着に着替えていたが、海に入ることはなかった。
考えても見て欲しい、デブは浮力が強い。その泳法は持ち前の浮力、脂肪頼りだ。
それに長い間慣れた後で、スリムに変身を遂げたのだ。泳げなくなっても仕方ないではないか。
まあもっとも、ビキニに着替えた伽夜を一目見た時から、私の体の一部の血の巡りがフィーバー。
立ち上がる事も出来ない状態であったので、泳げない事は素晴らしい誘いを断る理由となった。
ただ、伽夜の周りに男子が群がるのを見るだけというのは、少々寂しいものもあった。
パラソルの下を定位置とした私の横に、高梨さんが来た。
いい加減暇だから、小説書いてみた。
47 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 22:44:21.95 ID:2CfhPHRB
「伽夜ちゃん凄いな。いやあ、凄い」
高梨さんは私の彼女に対する視線が恋するものだと見ぬいたのかもしれない。
伽夜を見る目が此方に向けられると、揶揄するようににやりと笑う。
私は、目を即座に逸らしてしまった。
「グラビアアイドルに直ぐにでもなれるんじゃないか。
 ああいう娘と付き合えたら幸せなんだろうな。まあ、俺は振られたけど」
「あの性格が他に代え難いです。媚びないから一層素敵になる」
「…そのまんっま言えばいいのに…。あの、さ。お前。結構脈あると思うぜ?」
「まさか…見て下さいよ。この太腿の筋。肉割れの痕です。こんな醜いの相手にされません」
「ネガティブだなあ。いいじゃないかそれ。厳しいダイエット乗り切った勲章だろ」
「そうですかね」
「そういや、誘われたんだって?スポチャン。やってみたら?」
「ええ」
「それって、興味あるって事じゃないか。一緒に過ごす時間増やしたいんだよ。
 部に二人しかやってる奴いなけりゃ、自然とお前が一緒にいられるんだぞ?最高じゃないか
 そいや…フェリーのあれ、カッコ良かったぞ」
「あれ?」
「ほら、ゲロ。中々あそこまではできないよ。今なんか心底惚れぬいてるんだなって見え見え過ぎ」
俺は赤くなった。高梨さんは凄くかっこいい人だ。年下だけど、凄く尊敬している。
その人に評価されると、照れる。熱い。顔が熱い。耳まできた。
「お前さ、割りと純粋だよ。似合うんじゃないかと思うんだがなあ」
「止めて下さい。私は」
「なんか手のかかる弟みたいな奴だよ。さーってと、体育座りしたほうがいいぞ。
 でっかいなあ」
最後に真っ赤になるアドバイスを残して高梨さんは伽夜の元に走っていった。
ビーチバレーが始まった。私は益々立ち上がれなくなった。
水着のズレを何度もなおす伽夜は素敵を通り越して無敵。

いい加減暇だから、小説書いてみた。
48 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 22:47:32.71 ID:2CfhPHRB
合宿や修学旅行の華といえば夜の怪談話だ。
それと、メンツにもよるが、覗きもある。
この宿舎に風呂は無く、昔民宿をしていたという家の風呂を借りていた。
そういうわけで後者は企む者が出てもどうにか回避された。
だが、前者は実行された。
本当に嫌がった者を除いて六名が集い、怪談話がはじまった。
都市伝説中の聞いたことのある話が四つ続いた。
ネット徘徊癖で変な話には精通した私は、怖がれもしなかった。
伽夜はある寺の話をした。

『御父様から聞いた話です。
 その寺は、辿り着く道がないにポツンと建っているのだとか。
 時折遭難した方がたどり着いては、縋るようにお祈りなさるんですって。
 「私は遭難者なんです。仏様、どうか無事に下山できますように!」
 一生懸命なお祈りに
 「そうなんじゃー」
 と本堂の奥から返事が返って来るとか。
 不思議とこの寺に辿り着いた人は、ちゃんと下山出来るんですって』
静まり返る四名、一人、腹を押さえて笑い出した。私だ。愛想笑いが私の大笑いの後に続いた。

ひーひー言いながら、どうにか息を整えた。私の番になっていた。
『島に来るというので、島の怖い話を、来る前に調べてきた。
 昔、流刑っていう刑罰があったって知っているだろう。
 えんとうって聞いたことはあるのではないかな。遠いに島と書く。
 比較的本州に近い小さな島というのは、昔は流刑地にされていたことが多かったそうだ。
 群島だと、どれかが看守やその家族が暮らす島で、そこを基地に、他の流刑の島を監視していた。
いい加減暇だから、小説書いてみた。
49 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 23:00:48.92 ID:2CfhPHRB
 ところが、維新やらで世情が混乱すると、流刑地の事は後回しにされた。
 干物や工芸品を納品して、食料を持ち帰る船が、明治政府軍によってものだけ奪われ。
 帰りの船には、食料などは積み込まれなかった。それどころか船すら返ってこなかった。
 塩と魚があればどうにか暮らせるだろうが、心の方は限度がある。
 米や味噌や醤油等の配給が途絶え、罪人達は身に憶えがあるだけに恐怖した。俺たちを殺すつもりかと。
 看守は、罪人より圧倒的に数が少なく。本土の支援を失った事がばれると事が起こった。
 ついに反乱じみた事が起こり、流刑の島から、畑を持っていた看守の島へ幾艘もの筏が着いた。
 夜半、火の手があがり、看守達は武器を手にしたが、最悪なことに武器庫が暴かれた。
 火薬や何丁もの鉄砲を手にした罪人達は、看守達を殺してはさらに武器を奪った。
 男は全員殺され、女は罪人達のものとなった。
 暫くして、この反乱があったと気づかずに、明治政府の船が来た。
 罪人達は、自分達を見過ごすならば、これからも干物と工芸品を献上すると言った。
 看守の妻達は、どうか助けてくれ、仇をとってくれと懇願した。
 このあたりを平らげる事を命じられていた役人は、その仕事を早く終える為に、見逃すことにした。
 要は、支配者が入れ替わっただけだ。年貢、税さえ払えるなら問題はないと決めた。
 このことが発覚したのは罪人の殆どがその刑期を終えた後。
 明治政府は、自分たちの反乱の後世からの評価を高める為に腐心していたので、結局握りつぶした。
 かくして、無法の島が明治政府の成立前後に多数生まれたが、今では知る人もなし。
 こうした反乱の起きた島には、大抵どこかにその子孫が築いた、女たちを祀る社があるらしい。
 割りと、出る、と有名な場所が多いそうだよ。男は、とても危ないとさ』

これも都市伝説だ。女性の前で言うにはまずいかと思ったのだが。
意外と受けが良かった。この島はどうなんだろうと高梨さんが言うと田ノ上が眉を潜めた。
「そういう差別的な話は好きじゃねーな」
「気を悪くして済まなかった。別にこの島をどうこう言う気はない」
「お前はいつも他人を見下しているんだよ。俺の事も犯罪者の子孫だと思っているんじゃないかあ」
田ノ上が妙につっかかってきた。高梨さんがその位にしておけと言った。

【第四回更新分終わり】
いい加減暇だから、小説書いてみた。
50 : ◆zeBlsFcand8U [sage]:2012/06/02(土) 23:56:50.79 ID:2CfhPHRB
ここまでの登場人物まとめ

小浦久信 ─ 主人公の一人。元エロゲオタ。二留男。
         物語冒頭、見栄を張る為、長いオタ生活から脱する。
         変人と自認し、ややネガティブさを残す。

高梨義秋 ─ 主人公の一人。武道錬成部部長。
         オタを脱して生き甲斐を失った久信を入部させる。
         面倒見が良い性格で、距離感を見誤らない二枚目。

七条伽夜 ─ ヒロインの一人。
         競技人口の少ないスポーツチャンバラを好む。
         才色兼備で女性受けの良いこざっぱりした性格。
         上品な立ち振る舞いが板につき、躾の良さをうかがわせる。
         男運が最悪で、男を見る目もない苦労人。

喜納撫子 ─ 武道錬成部きっての猛将。
         180cm級の体格で打ち下ろす竹刀は凶器。
         男子からはよくからかわれ、試合でお灸を据えることがあり。
         ついたあだ名がメールキラー。尚、童顔である。
         剣道二段、空手初段、柔道初段。


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