- 戯(たわ)けないで、DTM諸君!〜音老八玉伝〜
44 :名無しサンプリング@48kHz[]:2021/09/15(水) 08:49:29.21 ID:yGh9DT7o - 「結局、要はそういうことなのよ、カタチの証明は要らないっていうね」
第三の珠 『ミサイル色をしたそれは音速の空、あるいは、いくつかの詩編』を手にした結論マンが現れた ”アタシらにとって珠そのものは重要じゃねえんだよ!” 言葉にこそしないが鋭い目線、襟をたてた白のスーツがそれを物語っていた 結論マンは浅草在住 平日の17時までは男性として荷物サバキのアルバイトをして過ごすが、夕方以降、蝶に変身する その後ろ姿をして「マダム=コマガタ」と評される 続いて第四の珠、村木昇一(56)も現れた ”言わずもがな、ってか───” 第四の珠には異名はない 7玉の中では一番透き通っていて、どこから見てもクリスタル 強いて言えば、『クリスタルなそれは』だろう 『クリスタルなそれは』を手にした村木昇一(56)もまた珠が大事なんじゃない 自覚そのものが大事なんだと全身のオーラで訴えていた ”てめえら”───トリスタン和尚は顔をしかめる ”てめえらがそこまで言うなら、こっちとしても、別に珠ってか物証はどうでもいい” ”最初から8玉は目安、あらかじめ俺言ったよな?人数に制限はないと” ”それ俺が言ったこと繰り返してるだけじゃねえの?お前等” 矢継ぎ早にトリスタン和尚の脳裏に浮かぶコトバ 和尚はそのどれを最初に言うべきか思案していたのかもしれない 「いや、いいけど」─────答えは出ていた 別に珠を持ってるからって、何ができるワケでもないお前等らが、珠を持ったせいで勘違いした それでここまで勘違いが行き過ぎた ただそれだけのこと つまりは「まあいいけど」が結論なのだ
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- アジフライ定食VSあっさりしじみラーメン
1 :名無しサンプリング@48kHz[]:2021/09/15(水) 09:01:21.66 ID:yGh9DT7o - 場所は湘南・江ノ島にて
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- 戯(たわ)けないで、DTM諸君!〜音老八玉伝〜
45 :名無しサンプリング@48kHz[]:2021/09/15(水) 14:11:34.97 ID:yGh9DT7o - その頃、トリスタン和尚を含むDTM初老たちのもとへ一斉にアボイド警察からの警告書が内容証明で届いていた
”なぁに好き好きに音ならしよって!!” そんな憎悪を示すかのように封筒はマットブラック(艶消し黒)な質感で塗りつぶされていた 更に、特殊な製法で丁寧に一体型成形されており、封筒が完全なシームレス構造になっていることも不気味さを増していた ============警告========================= 貴殿が2021年X月X日付けでサウンドクラウド(以下サンクラ)に投稿され、 かつツイッターでシェアされてておりますボカロ楽曲におきまして そのXX小節目6連符最後のファ#がアボイドである疑いが報告されております。 つきましては、事実確認のうえ、該当アボイドノートに対していずれのご対応をされるのか期日までに封書にてご回答ください。 一、該当アボイドノートを削除する 二、該当アボイドノートを別の音程に変更する ※その場合は変更後の音程を明記ください 三、該当アボイドノートをゴーストノートとし、譜面には残すが音は鳴らさない ※その場合は音符を()記号で囲った譜面の複写を添付ください 四、テンションと言い張る ======================================== 警告は一律このような内容であった ここで四を選ぶとボイシング違反(音符配置法違反)で立件されてしまう (これはいかんナ)──── この警告を読めばDTMERたちも怖気づいてしまう 中には、”転んでしまう”者も現れるだろう いやむしろ、ヤツらはそれを狙っているのだ!!!
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46 :名無しサンプリング@48kHz[]:2021/09/15(水) 16:24:57.58 ID:yGh9DT7o - 「おのれ!屈したくない!だが理論違反罪としてSNSでつるし上げられては困る!」
多くのDTMER──とりわけ妻子のおる者は、アボイド警察を必要以上に恐れた だが一方でクリエイターとしての矜持 全ての音符に意味を持たせた以上はそれを削除したり安易に音階を変えたりはできない そこで苦肉の策として『三、該当アボイドノートをゴーストノートにすることを確約する』を選んだ (#♪) Velocity = 0 ”譜面は変えてない、よって自分は曲げてない” "ファ#はいつだってそこにいる、そこにいる” だが同時に ”あえて音を鳴らすことによって将来起こりうる、起こるかもしれない不要な軋轢・衝突を避ける” 大人の対応────── こうした対応を迫り、承服させたことそのものがアボイド警察の成果であった DTM界隈には老齢化、オワコン化による、ファンタージェンの崩壊だけでなく こうした理論ハラスメントが席巻しつつあったのである だが理論武装に対して、敢然と立ち向かう『反理論武装グループ』がいた アバンギャルド、実験的、前衛空間、ギフハブ空間、ノイズアンビエント そんなミームスレスレの概念を盾に、『降りてきたサウンドだから仕方ない』と開きなのである
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- 戯(たわ)けないで、DTM諸君!〜音老八玉伝〜
47 :名無しサンプリング@48kHz[]:2021/09/15(水) 16:38:57.57 ID:yGh9DT7o - 『理論は不要』
一度も勉強したことがないからこそ言える”強弁”で理論軍にまっこうから立ち向かった『反理論武装グループ』 その先頭にいたのが、DTM界のレジェンドであるアバ三傑──枢軸卿、発射マン氏、ボビーオロゴン氏である アバ三傑はオレンジ色の手帳を振りかざして「降りてくるものを信じろ」「理論を学ぶとかえって濁る」と説いて回った だが支援者は思った以上に集まらず、次第にアバ三傑自身が評価してくれない世間を敵視するようになった 「ここまではいいか?DTM近代史───」 バアン!!!! 「メモらなくていいから聞け!!」 DTM専属講師トニー”エンジェルハート”レボミーは声を荒げた 「メモってそれお前ら後で見るんか?取っとるだけか?適当な事してんじゃねえぞ」 単にアバンギャルドなだけでは理論警察に対抗できない かといって宇宙の波動がどうこう、イルカの声と同じ周波数どうこう言い出してもキリがない オンコード、裏コード、簡単なコード転回、コムロ楽曲、久石楽曲など基礎的な事くらいは勉強してはどうかというのである ”濁りたくない” 拒むDTMERも多かった それはワクチンを打ちたくない理由と非常に親(ちかし)い 非常に親(ちかし)からず遠(とほ)からずであった
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- 戯(たわ)けないで、DTM諸君!〜音老八玉伝〜
48 :名無しサンプリング@48kHz[]:2021/09/15(水) 18:03:49.62 ID:yGh9DT7o - 『1−6−2−5の型!』
セイッ! セイヤッ! 『1−3−4−5の型!』 セイヤッ! ヤアーッ!! 『もう一度!4−5!ドミナモ!はい最後ドミナモ!』 ヤアーッ! ヤアーッ!!! 平成元年 夏 、都内某所 むせぶほどの熱気の中、やや甲高い、ハリのある声が響き渡っていた HIDEチャンの掛け声である 真っすぐに前を見つめ、小さな足のつま先をグッと力を入れて床を掴んでいる すでに稽古は1時間を超えており、無垢なドングリのようなマナコにも疲労の影が見え始めていた この時、HIDEチャンが師事していたDTM師匠こそ何を隠そうトニーエンジェルハートその人だったのである 『はい下降、はい下降フーッ 1−7−6−5 1−7−6−5 フーッ』 フーッ! フー! HIDEチャンは呼吸をととのえ、正面を見据えたまま「すり足」でジリジリと奥へ後退する そして一礼をして座り、そのまま座禅を組んだ (なんというすがすがしい少年なんだ) トニーエンジェルハートの率直な感想である こんな御子がゴロゴロいるとするならば、この日本という国のDTMの未来は明るい トニーはそう予感した 少なくとも、この時は、まだそう信じるにたる世界がそこにはあったのである
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- 戯(たわ)けないで、DTM諸君!〜音老八玉伝〜
49 :名無しサンプリング@48kHz[]:2021/09/15(水) 18:23:17.66 ID:yGh9DT7o - ”何度も何度も基礎を反復する”
”基本に忠実、基本に勝るものなし” それがトニーエンジェルハートの信条だった そのトニーに師事したHIDEチャンのドミナントモーションが美しくないわけがない! 「ヤアーッ!!」 HIDEチャンのモーションは一切ブレのない基本の型だが ただただ、まっすぐで美しく、そして力強かった HIDEチャンは連盟の審査員をうならせるほどの「型の出来」ではやくも有段者となる だがHIDEチャンは型はできても実戦が不得意であった 実戦では応用が物をいう すぐに裏を返そうとしてくる相手 反則ギリギリのテンションを仕掛けてくる相手 それらにHIDEチャンは翻弄され、涙した それでも「まっすぐの型」を貫こうとするHIDEチャン 基本型で立ち向かおうとする小さな背中にトニー師匠がかけたコトバ それが「音楽は勝ち負けではない」であった 「音楽は勝ち負けではない」────どういうことか この時のHIDEチャンにはまだどういうことか皆目分からなかった つづく
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- 戯(たわ)けないで、DTM諸君!〜音老八玉伝〜
51 :名無しサンプリング@48kHz[]:2021/09/15(水) 20:44:00.30 ID:yGh9DT7o - そして平成2年の春、関東大会予選
相手、文化学院大学付属代々木高校3年亀石─── 対するHIDEチャンは1年生にして大会出場、それもそのはず部員1名─── 「はじめッ!」 「セヤッ!」 「ヤアーーッ!!!」 開始早々、亀石は得意の転回、裏コードを利用して調性から離脱 一瞬、重量を失ったかのようにフワっと舞ったかと思うと急に楽曲のモチーフへと戻される強烈なキャッチーさ 随所に嫌味なく配置された9th、13thが怒涛のようにHIDEチャンに襲い掛かった 一方HIDEチャンは基本、基本、基本 1年間、ただひたすらにドミナントモーションだけを繰り返してきた ヨンゴー ヨンゴー イチロクニーゴー ヨンゴー ヨンゴー イチロクニーゴー 愚直に、一途に 雨の日も、雪の日も──── しだいに研ぎ澄まされた精神の中で、あらゆる事象が現在へとドミナントしていった あらゆる悩み、それは「過去」の悔やみであり「未来」への不安──── 定まらない思考はまるで頭の中で猿たちが騒ぎたて「思考の木」の枝々を飛び回っている状態 そんな思考が「今」に向かって集約されることで雑念は振り払われ思考は澄み渡る ドミナントとは、「今という時間への思考の回帰」を意味していたのである 「ヤアーッ!!」 ナナイチ HIDEチャンのドミナントモーションが決まった 「それまでーーッ!」 ワー ワー
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