- 三島由紀夫全戯曲上演プロジェクト
394 :名無しさん@公演中[]:2011/05/10(火) 10:23:45.28 ID:QYzEO3xG - この地上で自分の意欲を実現する方式に二つはないのではないか? 芸術も政治も、その方式に於ては一つなのでは
ないか? だからこそ、芸術と政治はあんなにも仲が悪いのではないか? ただ、いつも必ず失敗し、いつも 必ず怒つてゐるのは、理想主義者だけなのである。 ワグナーは、加藤道夫氏とちがつて、どうやら、理想の劇場は死んだといふことを、誰よりも鮮明に、腹の中で 知つてゐた男のやうに思はれる。だから彼の「理想の劇場」が建つてしまつたのである。しかしこの壮大な規模の 古代祭典劇の再現を自分で見ながら、やはりワグナーは、その友にして仇敵ニイチェが荘厳な面持で、 「神は死んだ」と言つたやうに、ニヤリと笑ひながら、「理想の劇場は死んだ」と呟いてゐたかもしれない。 私はワグナーといふ男のことを考へると、彼の作品のあのやうな悲愴さにもかかはらず、ワグナー自身は、毫も 悲愴さを持たぬ人間だつたやうな気がしてならない。それは多分彼が「芸術家だから理想主義者ではない」といふ 風土に、育ち且つ生きたからであらう。 三島由紀夫「楽屋で書かれた演劇論 理想の劇場は死んだ」より
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