- 日本無条件降伏なら、北方領土返還を口にするな!
450 :名無しさん@お腹いっぱい。[]:2012/03/10(土) 16:24:13.23 ID:tILYiUK+0 - さて、第三項である。
千島列島が、ソヴィエト連邦に引き渡されること。 これによって、いわゆる日本の「北方領土」はうしなわれた。 もっとも協定でいう「千島列島」とはどの島からどの島までをさすのかという地理的規定は話しあわれていない。だからソ連が解釈して いるままに島という島がごっそり対象にされたかのようであり、事実、ソ連はすべての島々をとりあげ、日本側が、そこはいわゆる千島で なく固有領土だとする四つの島までとりあげた。 「そのうちの四つの島は昔から私のものだ」 と事実をのべるべき日本は、この座にいない。当時、日本はなお交戦をつづけている。 やがて敗者になる。それを見越しての三人の勝利者の分け前談義なのである。情け容赦があろうはずがない。 しかし、いずれにしても、広大なモンゴル高原と、小さな千島列島とが、それぞれ一条項を立て、等価値であるかのように相並んで記され、 アジアにおける戦後領域がきめられたのである。このことは、もし千島列島(たとえそのうちの一部であっても)をソ連が日本に返還するとすれば、 ヤルタ協定が崩れ、モンゴル高原もまた、中国側から要求されれぱその「現状が維持される」ことを、法理的には、やめざるをえなくなる。 一時期、中国がさまざまな代表団を日本に送るたびに、その代表団が、わざわざ北海道の東端の海岸に立ち、沖にむかって北方の島 をながめ、その返還についてのコメントを繰りかえしている。むろん、あのひとびとは、決してその場合でも口に出すことはなかったが、 北方四島をながめつつ、じつは、 ----外蒙を中国に返せ。 と、暗にソ連にむかって叫んでいたにちがいない。 まことに、中国人とは大がかりな暗喩をやるものではないか。 北方四島の返還については、日本の外務省が外交レベルでもって、相手国(ソ連)に対し、たとえ沈黙で応酬されつづけても、それを放棄 したわけではないという意思表示を恒常的にくりかえすべきである。 しかし、それを国内的な国民運動にしたててゆくことは有害無益だと思っている。有害というのは、隣国についての無用の反感をあおるだ けだということである。 ロシア史においては、他民族の領土をとった場合、病的なほどの執拗さでこれを保持してきたことを見ることができる。 かれらは、感情の上では、千島列島は対日参戦という血であがなったものだと信じている(むろん、そういうばかなことはない)。 日本が、政府主導による国民運動などをしているぶんには、彼の国は、日本はそれを流血でもってとりかえすつもりかなどということを、 ある種の政治的感情でもって考えかねない体質をもっている。 ----やる気なら喧嘩は買ってもいい。 という考え方を伝統的にとってきたロシアが、日本と北方四島返還さわぎにのみ例外を設ける保証などどこにもない。 こんにちのソ連政府としては、千島(クリル)列島とモンゴル高原とが、ヤルタ協定においてセットになっているぐらいのことは知っている。 また、中国人が日本の北方領土返還運動に同調することがソ連に対してどういう意味をもつかについても、むろん中国人以上に知りぬい ている。中国人が、中蒙国境に出かけて行ってそれを叫ばず、北海道の東端でモンゴルを返せと暗喩をこめて叫んでいることも、知っている。 北方四島を日本にかえすことは、モンゴル高原を中国にかえすことと同じ論理であると思っているのにちがいない。 日本人がもし、北海道東端の沖にうかぶ島をみて、同時に北アジアに隆起する大高原を思いあわせるようになればやっと一人前のアジア人 になれるのではないか。 (文藝春秋 「ロシアについて----北方の原形」 司馬遼太郎 著 から) http://www.geocities.jp/ittunjp/sibaryou/yaruta.html
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