- 伊東乾 (@itokenstein) Part2
819 :7分74秒[sage]:2014/06/02(月) 15:34:38.44 ID:poIowITu - レビュー対象商品: さよなら、サイレント・ネイビー 地下鉄に乗った同級生 (集英社文庫) (文庫)
「アンダーグラウンド」で村上が世間側=善の立場に依って書いているというのは、 伊東乾氏の半ば意図的な誤読である。 彼が折に触れ憤りを表明している豊田亨の紹介文に関しても、 あの紙幅であの内容を書けば誰でもそうなるという程度のもので、 特に指摘すべき事実誤認は無いし、文章的修辞による意図的な歪曲も無い。 「さよなら、サイレント・ネイビー」を読むとわかるだが、つまり伊東氏はそもそもが村上ファンで、 大好きな村上なら友人(と自分)のことをきちんと理解して書いてくれるはずだ… と期待して読んだところ、意外と普通の記述だったのでがっかりしたのだ。 (「アンダーグラウンド」は実行犯についての本じゃないから当然である) 当時の伊東氏の世界観では、村上はもっと親身になって書いてくれるはずだった。 それで半ば逆恨みをしつつ、ならばと自分で書くことにして、 村上に対してこんな批判的なことを書けば話題になってベストセラーになって 著者からの反応もあるだろうと待ってたら普通に無視されたので、 それ以来村上批判者のクラスタに入ってネチネチ言ってるわけである。 時代的にも「ねじまき鳥クロニクル」「アンダーグラウンド」の時期の村上は ほとんどあらゆる方面から論難されていたので、批判者の論に触れるのは容易であったろう。 しかしそれでもなお、伊東氏は村上と志を共有していると私には思える。 その証拠に、「さよなら、サイレント・ネイビー」の主張の核心にあたる マインド・コントロールへの対抗についての見解は、驚くほど「アンダーグラウンド」のそれに似通っている。 批判者というギミックを敢えてかぶりながら、本質的には同じベクトルの主張をすることで、 村上の思想に対する援護射撃を行っていると言えるだろう。 伊東氏は今なおTwitterやウェブ上のコラムで村上を痛罵することがあるが、 根拠の薄弱さや、推論と事実を混同したまま進める半狂乱的な論考、 その帰結として異常なまでに高まったスノビズム的な言動は、 まさにマインド・コントロールの危険性を身を以て読者に示すための、 真に迫ること類いまれなパフォーマンスであり、その熱心さは心を打つ。 非常に情念のこもったアンサー・ソングとして貴重な読み物になっており、 「アンダーグラウンド」との併読を強くお勧めできる一冊である。
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