- 【昭和の】♪三島の名句・美文♪【遺産】
612 :名無しさん@お腹いっぱい。[]:2011/12/23(金) 12:05:18.45 ID:cU6g7XfU -
中野新橋あたりの、誰も待っていない、うす暗いボロアパートに戻り、 「やれやれ……どっこししょ」とかタメ息をつきながら、 薄くなった頭から制帽を外し、縦縞のド派手な 制服を脱ぎ捨ててゆく姿……。あまりにも哀しすぎる。 年相応なサルマタ姿に戻ると、40年間も買い続けている『フロムエー』 をコンビニ(昔、バイト勤めしたことのある店)の袋から出して眺める。 「60ぅのジジィのオレに、工事現場の交通整理はつらぃやねぇ……」 ヤカンがピィピィ鳴りだした。『緑のたぬき』かなにかをズズッと すすりながら、魚肉ソーセージを肴に『ワンカップ白鶴』を1杯やる。 22時41分、テレビで古館一郎が「もぉ、横綱も冗談ばかり。クククッ……」 とかウケている声を聞きながら、ふと見上げると、 ハンガーから吊り下がった、齢(トシ)不相応に派手な制服。 「げふっ。はぁ〜、もぉ寝っがな……」 誰も聞いてくれる人がいないセリフをまたこぼしながら、 傍らにふたつ折りにしていた、せんべい布団を拡げ、寝っころがる。 酒の力を借りて寂しい現実を忘れようと、老爺は眠りの世界へ落ちる。 ……夢のクニでは、俺は“夢”を成功させたシンガーさ。 吉祥寺駅前でギターをかき鳴らしていた35年前、 レコード会社のプロデューサーが拾ってくれたんだ。 ……ん? えっ? あれっ? やっぱり夢かぁ。プロデューサーの 顔をよく見れば、前のバイト先の店長(28歳年下)じゃねぇか。 やっぱり俺の現実なんてあのボーヤに使われるだけなんだよな。へへっ…… せめて、夢のなかでぐらい“みじめさ”ってもんを忘れさせてくれよ。
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