- 【昭和の】♪三島の名句・美文♪【遺産】
552 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/01/07(金) 10:15:12 ID:wihK74UB - 「文は人なり」とは、まことに怖ろしい格言です。
五十歳にもなれば、人生は、性欲とお金だけで、「純粋な心の問題」は、それが満たされた あとでなくては現はれるはずもないのです。 ところどころ、何のことかわからないことを入れるのが、ファン・レターの秘訣です。 本当に「おはやう」といふのにふさはしい唇を持つた若い女性は、人の目をさまさせますよ。 私は結婚しても、あの手紙だけはとつておきたいやうな気がするの。 「おはなはん」ぢやないけれど、三十年たち、四十年たつて、自分の若いころの魅力的な姿を 思ひ出すには、やつぱりどんなよく撮れた写真よりも、他人の言葉のはうがリアリティが あるにちがひないから。 そもそも、助け合ひなどといふことは貧乏人のすることで、その結果生まれる裏切りや 背信行為も、金持ちの世界とはまるでちがひます。金持ちの裏切りは、助け合ひなどといふ バカな動機からは決して起りません。 三島由紀夫「三島由紀夫レター教室」より
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553 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/01/07(金) 10:19:37 ID:wihK74UB - 毅然としてゐる。青年らしい。ちつとも女々しいところがない。ちつともメソメソした
ところがない。――これが借金申し込みの大切な要素です。人は他人のジメジメした心持ちに 対してお金を上げるほど寛大ではありません。 女の子から、「ちよつとイカスわね」と言はれれば、うれしいにきまつてゐるが、男は 軽率に自分の男性的魅力を信じるわけにはいきません。 女の子といふものは、妙に、男の非男性的魅力に惹かれがちなものだからです。 女は自分のことばかりにかまけて、男をほめたたへる、といふ最高の技巧を忘れ、あるひは 怠けてゐる。 大ていの女は、年をとり、魅力を失へば失ふほど、相手への思ひやりや賛美を忘れ、しやにむに 自分を売りこまうとして失敗するのです。もうカスになつた自分をね。 あらゆる男は己惚れ屋である。 三島由紀夫「三島由紀夫レター教室」より
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554 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/01/07(金) 10:23:04 ID:wihK74UB - 脅迫状は事務的で、冷たく、簡潔であればあるだけ凄味があります。
第一、感情で脅迫状を書くといふのはプロのやることではありません。卑劣に徹し、 下賤に徹し、冷血に徹し、人間からズリ落ちた人間のやる仕事ですから、こちらの血が さわいでゐては、脅迫状など書けません。 便せんをすかしてみて、そこに少しでも人間の血の色がすいて見えるやうでは、脅迫状は 落第なのです。 この世に生命を生み出す女つて、何てふしぎなものでせう。世の中でいちばん平凡なことが、 いちばん奇跡的なのだ。 女の人は、肉体的なことしかわからないのではありませんか? 西洋人はすべて社交馴れしてゐますから、社交は、建て前が大切だといふ第一原則を守ります。 招待を断わるには、「のがれがたい先約があつて」といふ理由だけで十分で、その内容を 説明する必要はありません。たとひ、ひと月前、ふた月前の招待であつても、さういふ理由で かまひません。 三島由紀夫「三島由紀夫レター教室」より
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555 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/01/07(金) 10:27:35 ID:wihK74UB - 男が「結婚してくれ」と言ふときには、彼のはうに、彼女を迎へ入れるに足る精神的物質的
社会的準備が十分整つてゐるのが理想的です。 人生は一つの惰性なのかもしれません。 恋愛にとつて、最強で最後の武器は「若さ」だと昔から決まつてゐます。 ともすると、恋愛といふものは「若さ」と「バカさ」をあはせもつた年齢の特技で、 「若さ」も「バカさ」も失つた時に、恋愛の資格を失ふのかもしれませんわ。 人間はいくつになつても感傷を心の底に秘めてゐるものですが、感傷といふのは Gパンみたいなもので、十代の子にしか似合はないから、年をとると、はく勇気がなくなる だけのことです。 本当に死ななくても、愛しあふ恋人同士は毎晩心中してゐるのだと思ひます。 僕は演劇は民衆の心に訴へかけ、民衆の魂に火をつけるのでなくては意味がないと思ひます。 三島由紀夫「三島由紀夫レター教室」より
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556 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/01/07(金) 14:09:06 ID:wihK74UB - あらゆる投書狂、身の上相談狂は自分の告白し、あるひは主張してゐることについて、
内心は、本当の解決など求めてゐはしませんし、また何かの解決を暗示されても、それを 心から承服したりはしません。 この身の上相談の女性もさうですが、世間の人はだれでも、彼女のことに関心を持つて くれるのが当たり前だ、といふ錯覚におちいつてゐます。 私たちには、何もそんな関心を持つ義務はないのだし、未知の人が死んでも生きても、 別に興味はないのですが、彼女は、自分に対する熱烈な興味は、他人も彼女に対して 同じやうに持つはずだと信じてゐる。 身の上相談の手紙は一見、内容がどれほど妥当でも、全部がこのまちがつた思ひ込みの上に 築かれたお城なのですから、もし彼女がこの基本的な思ひちがひに気がつけば、ほかの あらゆる人生問題は片づくかもしれないのに、永遠にそこに気がつかないといふところに、 大悲劇があるのです。 つまり、見知らぬ他人に身の上相談なんかするといふ行動それ自体に、彼女の人生を 悩み多くする根本原因がひそんでゐるといへませう。 三島由紀夫「三島由紀夫のレター教室」より
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557 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/01/07(金) 14:15:04 ID:wihK74UB - ヒステリーの女は絶対に、自分のヒステリーは自分のせゐぢやないと信じてゐるわ。
子供を重荷と感じて、自分たちの自由と快楽をいつまでも追はうとするのは、末期資本主義的 享楽主義に毒された哀れな奴隷的感情だと思ふんだ。 だれでも、自分とまつたく同じ種類の人間を愛することはできませんものね。 罪もない相手を悲境に陥れるといふのは、一見、悪魔的ふるまひとも思へますが、もともと 恋に善悪はない。 自分の感情にそむいては、何ごとも成功するものではありません。 テレビでいちばん美しいのは、やつぱり色彩漫画で、宇宙物なんかの色のすばらしさは、 ディズニー・ランドそつくりですが、ディズニーはなんで死んだのでせう。 こんなことを言つてるとキチガヒみたいだけど、テレビばつかり見てると、どうしても 世界中のことがみんな関係があるやうな気がしてきます。テレビの前で食べてる甘栗は、 中共から輸入されたものだらうし、君の妊娠だつて、思はぬことで、何か世界情勢と 関係があるかもしれません。 三島由紀夫「三島由紀夫のレター教室」より
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558 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/01/07(金) 14:17:52 ID:wihK74UB - 大体、頭のいい友だちを求める人たちは、よほど頭がわるい連中なんだわ。心を打ち明け合つて
安心なのは、それによつて相手が、はじめてバランスがとれたと感じるやうな友だちなのだわ。 といふのは、頭のよい友だちはふだんから頭で優越感を持つてゐるところへ、そんな告白を きかされて、感情でも優越感を持つてしまふでせうに、頭のわるい友だちなら、ふだんの 知的な劣等感を感情の優越感で補はれたと思つて、うれしがるでせう。うれしがつて本当に 心からの親切を尽くすでせう。さういふ友だちが大切なのだわ。 恋は愉しいものではなくて、病気だわ。いやな、暗い発作のたびたびある、陰気な慢性の 病気だわ。恋が生きがひだなんていふ人がゐるけれど、とんでもないまちがひで、悪だくみの はうが、ずつと生きがひを与へてくれます。恋が愉しいなんて言つてゐる人は、きつと ひどく鈍感な人なのでせう。 三島由紀夫「三島由紀夫のレター教室」より
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559 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/01/07(金) 14:20:53 ID:wihK74UB - 何かほしいときだけ甘つたれてくる猫たちの媚態は、あまりにも無邪気な打算がはつきり
してゐて、かはいらしい。 男は別に人格者の女を求めるわけではなく、人間のもろもろの悪徳が、小さな、かはいらしい ガラス張りの箱の中に、ちんまりと納まつてゐるのを見るのが、安心であり、うれしくもあり、 かはいらしくもある。そこが男の愛の特徴です。 他人の幸福なんて、絶対にだれにもわかりつこないのです。 私は手紙の第一要件だけを言つておきたい。 それは、あて名をまちがひなく書くことです。これをまちがへたら、ていねいな言葉を 千万言並べても、帳消しになつてしまひます。 姓名を書きまちがへられるほど、神経にさはることはありません。 三島由紀夫「三島由紀夫のレター教室」より
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560 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2011/01/07(金) 14:23:39 ID:wihK74UB - 手紙を書くときには、相手はまつたくこちらに関心がない、といふ前提で書きはじめ
なければいけません。これがいちばん大切なところです。 世の中を知る、といふことは、他人は決して他人に深い関心を持ちえない、もし持ち得ると すれば自分の利害にからんだ時だけだ、といふニガいニガい哲学を、腹の底からよく 知ることです。 手紙の受け取り人が、受け取つた手紙を重要視する理由は、 一、大金 二、名誉 三、性欲 四、感情 以外には、一つもないと考へてよろしい。このうち、第三までははつきりしてゐるが、 第四は内容がひろい。感情といふからには喜怒哀楽すべて入つてゐる。ユーモアも入つてゐる。 打算でない手紙で、人の心を搏つものは、すべて四に入ります。 世の中の人間は、みんな自分勝手の目的へ向かつて邁進してをり、他人に関心を持つのは よほど例外的だ、とわかつたときに、はじめてあなたの書く手紙にはいきいきとした力が そなはり、人の心をゆすぶる手紙が書けるやうになるのです。 三島由紀夫「三島由紀夫のレター教室」より
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