- 安価・お題で短編小説を書こう!8
35 :この名無しがすごい![sage]:2020/04/06(月) 00:03:00.28 ID:KrT35l98 - >>2、一発目から供養枠で申し訳ないです
使用お題→『トライアル』『レビュー』『クリスタル』『マシマシ』『午前零時』 【コートの向こう側に】(1/4) 最後のカードは『バーサーク・ブレイズ・ライオン』だった。めくられると同時に立ち上る霊気。 「これでダメージマシマシだぜ!」 百獣の王。その姿を借りた召喚獣が、その場に出現する。一度だけ大きく咆哮(ほうこう)すると、それは瞬く間に形を失い、光を放つ粒子となって、対戦相手のアバターに吸い込まれる。 「今度こそ、俺が勝つ!」 カードの力を取り込んだアバター。そのたてがみを震わせ、闘志もあらわに拳を構えると、全身から炎が吹き上がった。 「さあ、どうする。残りのカードを使うよな! なあ!」 もちろんそのつもりだけど、もう少しだけ引っ張ってもいいだろう。 「使わないなら遠慮なく行くぜ! オラァ!」 その拳は、速くて、重い。だけど。 「オラ! オラ! うらあ! うぉああああ!! なぜ! 俺の! 届かない! パンチが!」 まだまだ、だね。私のアバターは攻撃をすべて回避する。一発でも食らえば、たちまちノックアウト。かすっただけでも炎に焼かれてしまうだろう。 「ああああ!!」 ラッシュに続けてキックも飛んでくる。不意打ちのつもりだろうけど、全部見えてるよ。落ち着いてよける。 相手の動きが止まる。こちらは相手から少し距離を取る。 「じゃあ、そろそろ、今度は私から行くよー!」 伏せられたカードは残り二枚。私はその両方を同時にめくる。 「ララ、レレ、出番だよっ!」 『あいよ、ポン!』 『よしきた、コン!』 「またそいつらかよ!」 コートの反対側から文句が飛んでくるけど。 「いいでしょー、これが強いんだから! 対策してないそっちが悪いのよー」 かわいくデフォルメされた、タヌキとキツネの召喚獣。『スウィフト・ファントム・ラクーンドッグ』と『ソニック・ブレード・フォックス』だ。二匹は一瞬で分解され、その光の粒は一つに混ざって、私のアバターへと流れ込む。 「さあー、覚悟しな!」 「くっそー! 俺は負けねえ!」 相手の攻撃が再開される。いよいよ勢いを増した炎と、それをまとって繰り出される神速のパンチは、しかし、今やちっとも怖くない。 拳が追い付いた、それは残像。私のアバターは駆け回る。火炎を吹き消す音速の剣(つるぎ)、カードで強化された短剣を相手のリーチぎりぎり範囲外からたたき込めば、面白いようにダメージが入る。 「これで……終わり!!」 カードのアクティブスキルを発動する。残像は分身となり、迷子の猛獣を閉じ込める。切っ先を一斉に振りかざすと、それを無慈悲に突き立てた。 『対戦終了、りこぢゃよの勝利です』 「あああー!! また負けた!」 『お疲れ様でした』 * 「ちくしょー、なんで勝てねえんだ……」 そのままコートに座り込んで、対戦相手、四十万(しじま)レオンが愚痴をこぼす。 「だからさー、パワータイプにこだわり過ぎなんだって。いくら強い攻撃だって、当たらなきゃ意味ないんだから」 「うるせー。俺が腕力を捨てたら、それは俺じゃねえよ」 腕力……つまりは筋肉馬鹿だ。そのこだわりも、嫌いじゃないけどね。 「じゃあ、もっとうまくなろ。それで次こそは、あたしを倒してね」 「おいレオン、莉子(りこ)、終わったんなら早く場所空けろー。次だ、次」 「おーう、悪い」 せっつかれて、のろのろと立ち上がるレオン。そこで私はふと、彼の向こう側、コートの外からの視線を感じる。 目が合った……と、思う。 レオンの肩が持ち上がってきて、視界が遮られる。 「お前さ、トライアルには出るよな?」 「……うん。多分ね。そのつもりだけど」 黒髪ショート。女。捕食者の目。見掛けない顔だけど……どこかで、見たような。 「俺、応援してるから。お前ならきっとプロになれるって」 「だといいけどね。ありがと」
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36 :この名無しがすごい![sage]:2020/04/06(月) 00:03:34.88 ID:KrT35l98 - 【コートの向こう側に】(2/4)
部活を終えて帰宅する。家の中は薄暗い。 「ただいまー。って言っても、誰もいなけど」 父も母も忙しく、遅くまで帰ってこない。兄は大学進学と同時に一人暮らしを始めたので、家では私一人の時間が多い。 「あっ、お母さんだ」 視界の隅っこで通知が点滅する。視線で操作して、メッセージを開く。 『今日も遅くなります。晩ご飯は適当に食べてください』 作り置きがあったはずだ。冷蔵庫を確認しようとして、次のメッセージがポップアップする。 『部活もいいですが、勉強も頑張ってください。お父さんはああ言ってますが、あなたも大学に行った方がいいと思います』 「……返信。『分かりました。なるべく早く帰ってきてね』」 * 兄の影響で始めたAR対戦ゲーム。『AURA CARD MONSTERZ(オーラカードモンスターズ)』。 実用的なARグラス(現実世界にCG映像をかぶせて表示する、眼鏡型の透明なディスプレイ)が登場して間もなく、専用アプリの一つとして発表された。 その完成度とゲーム性の高さから、ゲーム情報サイトのレビューでは軒並み最高評価を獲得。一大ブームを巻き起こし、ARグラスの普及を大きく後押しすることとなった。 ゲームの公開直後から遊び始めた兄は、対戦相手を必要としていた。それで私を引き入れた。 私は最初、動物のカードを集めるゲームだと思っていた。対戦は『おまけ』。勝っても負けても楽しかった。 やがて兄はこのゲームで遊ばなくなり。私はと言うと、才能があったのだろうか、近所に並ぶ者なし。そのままやめ時を逸してしまい、高校に上がっても、eスポーツ部で、競技として続けている。 * 午前零時。母は帰宅して、今は寝ているようだ。父は、今日は帰れないと連絡があった。 なんだか寝付けなくて、近所の公園まで散歩することにした。公園には対戦用のコートがある。このゲームの面倒なところ。ARグラスだけでは遊べないのだ。 公園の片隅、街灯に照らされたその場所。テニスコートよりも少しだけ狭い。 真ん中に『対戦ステーション』が埋め込まれている。半球状の小さな機械。筐体(きょうたい)の中には、無線の親機と、モーションキャプチャのセンサーが入っている。 「接続、アバターをロード」 『接続が確立されました。りこぢゃよのアバターをロードします』 コートの端に立って、対戦の準備をする。私と対戦ステーションとの間にアバターが立ち現れる。私よりも一回り、頭一つ分くらい小さな人形。デッサン人形を思わせる、曲面と無機質さ。色は淡い黄色。 「オンライン……じゃなくて、トレーニングモード」 『トレーニングモードを開始します』 アバターの見た目は、もっと飾り付けることも可能だ。ただ、カードのエフェクトが派手なので、こちらはシンプルな方がバランス良く見える。 軽くトレーニングメニューをこなす。私の動きに合わせて、アバターも、歩いたり、走ったり、ジャンプしたり。私とアバターの動きは一対一では対応しておらず、私の動きは小さく、アバターの動きは大きくなる。 このプレイヤー側の動き。無関係な人の目には、ちょこちょこと中途半端に映る。そんなこともあって、運動部の人や、場合によっては文化部の人からも、ちょっと下に見られたり。 「……あっ」 「こんばんは」 昼間、学校のコートで私を見ていた人だ。彼女のARグラスが、街灯の光を反射して、クリスタルのようにきらめく。 「この辺りは詳しくないの。引っ越してきたから。地図を見て、家から近いコートを探してきたの」 「……そうなんだ。髪、切ったの?」 「ええ。邪魔してごめんなさい。私のことは気にしないで、どうぞ続けて」 やっぱり。私はこの人を知っている。もちろん初対面だけど。 「あのー、もし良かったら、対戦してくれませんか? 駄目ならいいけど」 そんな言葉が口をついて出た。 「駄目じゃないわ。ただこんな時間だから、一戦だけね」 * 彼女のアバターは真っ白だった。始めたばかりで何も設定していない、初心者のような。 「お待たせ。準備できたわ」 だけどその身のこなしは、一般プレイヤーとは一線を画している。もちろん、私の不格好な動きとも。 「……じゃあ、対戦開始」 「対戦開始」 『対戦を開始します』
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37 :この名無しがすごい![sage]:2020/04/06(月) 00:04:24.56 ID:KrT35l98 - 【コートの向こう側に】(3/4)
彼女が最初に出してきたのは『スウィフト・フリーイング・ラビット』だった。同時に三連射。一発目、二発目は回避したけど、最後の一発は受けてしまう。 私のカードは『ディフューズ・ミラー・トータス』。最大で二秒に一度、受けた攻撃を無効化する。だからダメージはない。ここまでは想定通り。 今回の相手は、距離を取って小銃で狙撃してくるタイプだ。このゲームの銃は、現実の銃とは違って、射線が全員の画面に表示される。だから、ちゃんと見ていれば、よけること自体は難しくない。 私のアバターは、相手のアバターに突進する。銃撃の直後は、いわゆる技後硬直が発生するためだ。動けないところを狙う。 相手は当然対策をしている。それが最初のカードで、硬直時間を短縮する効果と、任意の方向への逃走スキルを持っている。 「どうかしら」 「えっ!」 二枚目のカード。『トゥイステッド・トラップ・スネーク』! めくるのと同時に、発動エフェクトもキャンセルして、私のアバターを足止めする。 「くっ、このっ!」 私はとにかく短剣を振るう。形だけでも反撃しておかないと、相手は硬直明けに撃ってくる。私の必死の攻撃は、銃身でガードされる。相手はまだ固まってるはずなのに。 逃走スキルは使わずに、相手は悠々と後退する。足止めも解除されるが、突進するには距離がある。 「それじゃあ三枚目」 * 相手のカードは残り一枚。こっちは残り二枚だ。ここまでよく持ったと思う。 「学校で見たときも思ったけど、あなた、なかなかやるね。プロでも通用しそう」 向こうには落ち着いて話すだけの余裕がある。こっちは、ごめん、息が切れている。呼吸を整えてから、ゆっくりと返事をする。 「……やっぱり見てたんだ。って言うか、こんな状態で褒められても、うれしくないな」 ははっ、と、息を吐き出して笑うと、相手も薄く笑みを浮かべた。 「最後。これで勝負」 黒く揺れるエフェクトの中から、ゆっくりと立ち上がる影。『ソニック・リープ・ウルフ』は、彼女の代名詞とも言えるカードだ。 「じゃあ、こっちはこれ!」 『大丈夫かい、ポン!』 『楽しそうだな、コン!』 「いいね! それっ!」 オオカミの牙が迫る。同時に相手は射撃動作に移る。飛ばしたオオカミで相手を押さえて、遠くから一方的に狙撃するつもりだ。こっちはとにかく逃げ回る! 捕まったら終わりだ。蜂の巣だ。 一発。外れ。二発。外れ。三―――― 「やあああ!!」 本体に突っ込む! オオカミは残像の方に飛んでいる。分身スキルを発動して、ハンターを取り囲む。 「ふんっ!」 小銃が振るわれて、分身の一体が殴り倒される。返す刀でもう一体。オオカミが戻ってくる、その前に。 分身二体で、前後から斬り掛かる。正面はするりと、背後の方は銃床で受け止められる。駄目だ、次! 「はあああ!!」 残り四体で同時に斬り付ける。相手は銃身を振り回し―――― 「…………とどめを刺して」 彼女の体が、突然、がくんと傾いた。アバターの動きが止まる。私も、反射的に動きを止める。 一年前、突然の引退を余儀なくされた、当時のトッププロプレイヤー、黒沢千浪(くろさわちなみ)。その完璧なルックスも相まって、カリスマ的な人気を誇っていた。 引退の原因は、病気とも事故とも言われた。結局それは明かされることなく、彼女は表舞台から姿を消した。 「あなたの勝ちよ。とどめを刺して」 彼女は淡々と要求する。私は動けない。 「なんで――」 「とどめを刺せ!!」 私はびくりと震えた。体が動くようになる。そして短剣を。 『対戦終了、りこぢゃよの勝利です』 なんで。 『お疲れ様でした』 なんで――――
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38 :この名無しがすごい![sage]:2020/04/06(月) 00:04:59.76 ID:KrT35l98 - 【コートの向こう側に】(4/4)
「なんで、あなたが泣いてるの?」 気が付くと、目の前には彼女が立っていた。ハンカチが差し出される。 「涙を拭いて。今夜はありがと。楽しかったわ。じゃあね」 * 翌朝、遅刻しそうになりながらも、教室に滑り込む。結局あの後は一睡もできなかった。 すぐに先生が入ってくる。先生が何かを言う。それから、見知らぬ女子生徒が―――― 「ええっ!」 「川崎、うるさいぞ」 「……初めまして。黒沢千浪と言います。よろしくお願いします」 眼鏡を外して、二度見した。 中途半端な現実に、鮮やかな黒が加わった。
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39 :三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t [sage]:2020/04/06(月) 00:17:11.08 ID:KrT35l98 - いいとこ取りしつつバトルも書きたいなぁ → 説明説明説明長文
なぜなのか
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41 :三代目進行 ◆sjbsZxtbdD7t [sage]:2020/04/06(月) 19:16:57.99 ID:KrT35l98 - >>40
そうなのかも、、とりあえずなんか一生懸命書いたよ感は伝わったかもですねw >>21 なんか趣味性が発揮されてる感じw 『午前零時』の埠頭、『クリスタル』ガラスなど、国の『トライアル』、料金『マシマシ』、機体の『レビュー』 結果として独特と言うか、ある種の大人主人公で、世界観と雰囲気にも魅力がありますよね
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