- 安価・お題で短編小説を書こう!7
696 :この名無しがすごい![]:2020/02/10(月) 15:46:20.98 ID:rqXBgOq3 - >>688
使用するお題→『世界規模』『ブルーベリー』『枯れ葉』 ※>>661【女ガンマンはただ旅を続ける】を先に読んでおくことをオススメします 【大切な帽子】(1/3) さすらいの女ガンマン、シンディが今日も愛馬のサンセットと共に自由気ままに旅を続けていた。 旅の邪魔をする者は誰であろうと絶対に許さない、ただ撃ち倒して退けていくのみだ。 今日も周りにサボテンや岩石しかない広大な荒野の中をひたすら駆け抜けていく。 「ふぅ、もうさっきからサボテンとか岩ばっかり。アメリカって本当に広いのね」 しばらく走っているとサーッと水が流れるような音が微かに聞こえてきた。 「水の音がする…きっと川が近くにあるわ!」 彼女の予想通り、川が見えてきた。とても綺麗に澄んでおり、また近くには森があった。 「ちょうどいいわ、ここで休憩しましょ」 サンセットがヒヒーン!と嬉しそうに鳴く。 シンディは何時間も走って泥や土埃で汚れたサンセットの体を綺麗に洗った後、綺麗な川の水をコーヒーにして飲んで寛ぐ。 「ここは割と自然豊かで空気が美味しいわね。なんだか眠くなってきちゃった…」 シンディはカウボーイハットを脱ぎ、フワアアッと大きな欠伸をするとそのまま眠りに落ちてしまった。 ・・・・・・・・・・・・ 数時間が経過した。何かが頬にぺチャッと触れ、濡れるのを感じてシンディは目を覚ます。 どうやらサンセットが自分の顔をペロペロ舐めていたようだ。 「サンセット、どうしたの?」 すっかり日が暮れて夜になり、空には月が昇っていた。 「えっ、もう夜!?長いこと寝てしまってたのね…」 シンディの言葉にサンセットはコクリと頷く。夜になると気温は一気に下がり、冷たい風がピューピューと吹いている。 「さ、寒い!昼は結構ポカポカしてたのに、これじゃあ風邪引いちゃう!」 こうなったら急いででも町を見つけて、そこの宿で泊まった方が良いだろう。 するとシンディはあることに気付く。眠る前に脱いで、そばに置いていたカウボーイハットが無いのだ。 「サンセット、私の帽子知らない?」 サンセットは顔を横に振る。彼女も眠っていたので、帽子がどこに行ってしまったのか知らなかった。 風で飛ばされてしまったのだろうか。帽子が見つからず、シンディは焦りだす。 「ぼ、帽子が無い…どうしよう…」 シンディは取り乱してしまうものの、すぐに冷静さを取り戻し、サンセットに跨る。 「私ったらいけない。今はすぐに町を見つけなくちゃ」 シンディを乗せ、サンセットは近くの森の中を足早に駆け抜ける。 風が吹いて落ち葉が飛び、顔に当たってくるが気にせず走り続けた。 なんとか森を抜けると、明るい光が見えてきた。 そこには町があり、シンディはホッと胸を撫で下ろすとそこの宿で一夜を明かすのだった。
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697 :この名無しがすごい![]:2020/02/10(月) 15:47:44.11 ID:rqXBgOq3 - 【大切な帽子】(2/3)
翌朝、シンディは宿を出ると食料などの調達のために近くの店に向かう。 しかし帽子は見つかっていないままで、シンディはそのせいでやけに落ち着かなかった。 歩いているとジャムを売っている店を見つけ、ふと足を止める。 イチゴジャム、ブルーベリージャム、マーマレード等種類がたくさんあった。 「ジャムかぁ。懐かしいなぁ…」 シンディは幼い時のことを思い出す。彼女は小さな農家の一人娘として生まれ、父と二人で農業に励んでいた。 父の名はバイロンで、彼は男手ひとつでシンディを育ててくれた。 母のジェーンは自分を産んだ一週間後に亡くなってしまい、シンディは母の顔を全く覚えていない。 シンディは力持ちで優しい父が大好きで、父と共に毎日楽しく農業に明け暮れていた。 バイロンは元気に育ったイチゴやブルーベリー等をジャムにし、シンディは父手作りのジャムをトーストに塗って頬張るのが大好きだった。 「パパの作ったジャム、すっごく美味しい!」 「アッハッハ!豪快な食べっぷりだなシンディ、まるで肉食獣だな!」 「に、肉食獣だなんて、失礼しちゃうわね!」 そんなある日、シンディが冷たいレモネードを飲んで休憩しているとバイロンが話しかけてきた。 「なぁシンディ、お前には夢はあるか?」 「夢かぁ。そうね、この小さな農場をすっごく大きくして有名にさせるわ!そう、世界規模って言えるくらいにね!」 「とても大きい夢だな。でも何かしたい事が見つかったら絶対に悩んだりせずに、思う存分楽しむんだ。それが人生ってもんだ」 当時まだ10歳のシンディには父の言葉があまり理解できなかった。 その10年後、シンディが20歳を迎えた時のことだ。バイロンが道具の調達のためトラックに乗って町へと向かう中、落石事故に遭ったのだ。 知らせを聞いたシンディはすぐに現場に駆けつけるものの、バイロンは既に死亡していた。 突然の父の死に彼女は動揺し、涙を流しながら、落ちていた父のカウボーイハットを拾い上げる。 そう、あのカウボーイハットは死んだ父の形見なのだ。帽子を被っていると、優しい父が近くにいるような安心感を感じるのだ。 「帽子を見つけなくちゃ!サンセットと形見の帽子だけは絶対に失いたくない!」 父のカウボーイハットは鮮やかな赤色で、黒い飾り紐が付けられているのが特徴だ。 割と目立つ色をしているから頑張って探せば、すぐに見つかるかもしれない。 食料の調達を済ませるや否や、サンセットに跨る。昨日走った森の中や、休憩した川辺に戻って探そうと決意した。 「行くよサンセット!」 すると一人の少女が駆け寄ってきた。 「わぁ!このお馬さん、すっごく強そう!」 「ちょ、ちょっと危ないわよ。って、あれ?」 シンディはあることに気がついた。その少女はカウボーイハットを被っており、その帽子は鮮やかな赤色で、しかも黒い飾り紐がついている。 「そ、その帽子!」
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698 :この名無しがすごい![]:2020/02/10(月) 15:48:43.76 ID:rqXBgOq3 - 【大切な帽子】(3/3)
シンディは急いでサンセットから降りて、その少女に話しかける。 「お、お嬢ちゃん、その帽子どこで見つけたの?」 「これー?昨日、近くの森を歩いてたらたまたま風で飛んできて拾ったの。どう、結構イカすでしょ?」 「それね、私の大切な帽子なの。お願いだけど返してくれないかしら?」 「返してほしいの?それじゃあね、勝負しよう!」 少女が持ちかけてきた勝負は、追いかけっこで20分以内に捕まえることができれば帽子を返すとのことだった。 もちろん失敗すれば、帽子は少女の物となる。シンディはその条件を受け入れた。 元はと言えば、自分が目を離した隙に無くしたから自己責任だ。 「子供を捕まえるくらい簡単なものよ!」 身体能力に自信のあるシンディがそう呟く。いざ勝負開始だ。 しかしシンディの想像以上に、少女の動きは非常に軽快で足が速く悪戦苦闘していた。 少女は町の住人達の間でも異常にすばしっこいことで知られていた。 勝負開始からもう既に15分が経過しており、残り5分。このままじゃ帽子は少女の物になってしまう。 「お姉さん、あと5分だよー!もう諦めたらー?」 少女の生意気な態度に思わずムッとする。するとシンディは足下にロープが落ちているのに気付く。 「そうだわ!もうこれを使うしかない!」 勝負終了まで残り1分、シンディはそのロープを投げ縄にして少女に向かってかけた。 一か八かの賭けだったが、投げ縄は見事に彼女を捕らえた。 投げ縄は幼い頃に少しやったくらいで自信が無かったが、なんとか少女の捕獲に成功しシンディはホッとする。 「捕まえた!さあ帽子を返してもらうわよ」 「な、投げ縄なんて卑怯よ!」 「使っちゃいけないって一言も言ってないでしょ?ただ「捕まえれば」いいって事なんだし」 少女は何も言えず、シンディに帽子を返す。大切な形見の帽子を取り戻せてシンディが大喜びする一方、 少女は捕まえられたことがあまりにも悔しかったのか、フグのようにプンプンと頬を膨らませれていた。 そんな彼女の姿を見て少し可哀想に思ったのか、シンディは袋の中から何かを取り出す。 「これあげるから、もう膨れっ面はやめて。見苦しいわよ」 シンディが少女に渡したのはペンダントだった。 「旅の途中でたまたま貰った物なの。特に必要ないからあげるわ」 「うわあ綺麗!お姉さんの帽子なんかよりもずっといいわ!」 「(こ、このガキ…)」 少し苦笑いするとこれ以上は何も言わず、シンディはすぐにサンセットに跨り、町を後にするのだった。 とにかく大切な帽子が戻ってきて彼女は凄く嬉しく、満面の笑みを浮かべるのだった。 さて、次は一体どんなハプニングがシンディを待ち受けているのだろうか。 それは誰にも分からない。
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699 :この名無しがすごい![]:2020/02/10(月) 16:02:38.66 ID:rqXBgOq3 - >>696に誤字があったので訂正
×風が吹いて落ち葉が飛び、 ○風が吹いて枯れ葉が飛び、
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701 :この名無しがすごい![]:2020/02/10(月) 20:26:13.77 ID:rqXBgOq3 - >>700
感想ありがとうございます! シンディはもはやレイチェルシリーズのもう一つの顔であり新しい主人公のような存在だな、と書いてて感じました たとえテレビで放送されてるただのドラマだったとしても、 その中の世界で繰り広げられる壮大な物語を想像しながら書くのもこれまた楽しいですね! こちらもどんどん続けていく予定ですのでどうぞお楽しみに! 今回も楽しんでいただけて本当に嬉しいです!
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